免震装置
【課題】 周波数が比較的低い成分を多く含んだ地震にも対応することができる免震装置の提供。
【解決手段】(1)皿中央部から皿外周部に近づくにつれて位置が高くなる上面をもつ受皿13の上にボール12を配置しその上方に免震台11を配置した免震装置であって、受皿13の上面を、皿中央部の曲率が皿外周部の曲率より小さい、互いに異なる曲率をもつ複数の湾曲面を受皿半径方向につないだ面から構成した免震装置。
(2)皿中央部から皿外周部に近づくにつれて位置が高くなる上面をもつ受皿の上にボールを配置しその上方に免震台を配置した免震装置であって、受皿13の上面を、次数Nが2より大きいN次曲面から構成した免震装置。
(3)次数Nを、座標(L,N)にて、図6の複数の点を順次直線でつないだ閉領域内にある点のN値とした、(2)記載の免震装置。
【解決手段】(1)皿中央部から皿外周部に近づくにつれて位置が高くなる上面をもつ受皿13の上にボール12を配置しその上方に免震台11を配置した免震装置であって、受皿13の上面を、皿中央部の曲率が皿外周部の曲率より小さい、互いに異なる曲率をもつ複数の湾曲面を受皿半径方向につないだ面から構成した免震装置。
(2)皿中央部から皿外周部に近づくにつれて位置が高くなる上面をもつ受皿の上にボールを配置しその上方に免震台を配置した免震装置であって、受皿13の上面を、次数Nが2より大きいN次曲面から構成した免震装置。
(3)次数Nを、座標(L,N)にて、図6の複数の点を順次直線でつないだ閉領域内にある点のN値とした、(2)記載の免震装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震装置に関し、とくに重力式免震装置に関する。
【背景技術】
【0002】
歴史的遺品、美術工芸品、精密機械、等の耐震性が必要な貴重品を地震による破壊から保護するために、種々の免震装置が開発され、使用されている。その免震装置の大部分は重力式(たとえば、特開2002−161942号公報に開示のもの等)で、図8〜図18に示すように、ボール式片面皿(図8〜図11)か、ボール式両面皿(図12)か、線形ベアリング2段重ね式(図13)かの何れかかからなる。
たとえば、ボール式片面皿(図8〜図11)免震装置は、貴重品を載せる台(免震台)1をボール2の上に載せ、そのボール2を上面が球面3a(図8、図10)または円錐面3b(図9、図11)の受皿3で支持することによって、免震台1が受皿3に対して横方向に変位し受皿上面に沿って上方に変位した時に重力による復元力を発生させ、いわゆる「振り子」の原理で、地震の際に免震台1とその上に載せられた貴重品にかかる加速度を緩やかにする仕掛けになっている。
【0003】
従来の免震装置の免震作用を定量的に説明すると以下の通りである。
(イ)ボール式片面皿(図8〜図11)
(A)球面式(図8、図10)
図8は受皿3が球面式である場合を示す。
図10に示すように各寸法をとり、
R:球面半径
x:免震台1と地面の相対移動量
h:免震台1の上昇量
とすると、上昇量は、
h=R−{R2 −(x/2)2 }1/2
となる。
xが増えると、免震台1は上式に従って上昇する。この上昇分hが位置エネルギとなり、免震台1を元の位置(x=0の位置)に戻そうとする力を生む。
(B)円錐面式(図9、図11)
図9は受皿3が円錐面式である場合を示す。
図11に示すように各寸法をとり、
L:円錐底面半径
H:円錐高さ
x:免震台11と地面の相対移動量
h:免震台11の上昇量
とすると、上昇量は、
h=(H/(2L))・x
となる。
xが増えると、免震台1は上式に従って上昇する。この上昇分hが位置エネルギとなり、免震台1を元の位置(x=0の位置)に戻そうとする力を生む。
【0004】
(ロ)ボール式両面皿(図12)
免震皿3をボール2の上下両側に配置したタイプで、免震台1と地面の相対移動量xに対して、以下に示すように、片面皿の場合の2倍の上昇量hがある。
(A)両面皿球面式
h=2・〔R−{R2 −(x/2)2 }1/2 〕
(B)両面皿円錐面式
h=(H/L)・x
【0005】
(ハ)線形ベアリング2段重ね式(図13)
円弧状にカーブした線形のベアリング4、5を直交させて、上下に2段重ねしたタイプで、円弧の半径が充分大きい場合にはベアリング上のベアリング上の免震台1は円運動をするので、「振り子」を形成する。
したがって、固有振動数を振り子の式から求めることができる。
すなわち、
R:線形ベアリング曲率
g:重力加速度
f:共振周波数
とすると、共振周波数fは、
f={1/(2π)}・(g/R)1/2
ただし、幾何学的関係から、
R={H2 +(D/2)2 }/(2H)
【特許文献1】特開2002−161942号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の重力式免震装置に、以下の問題点がある。
(i)共振点が高い
現在市販されているこの種の免震装置は、日本で起きた「神戸地震」のような周波数が比較的高い成分を多く含んだ地震に対しては充分免震を発揮できるが、アメリカで起きた大地震の一つである「El centro 地震」のような周波数が比較的低い成分を多く含んだ地震に対しては免震が不十分であることが知られている。
免震装置の基本は、地震波よりも固有振動数を小さくして、高い周波数成分を吸収してしまうことにある。地震の振動は多くの周波数成分を含んでいるが、最も小さい周波数成分は0.1〜0.2Hzである。ただし、地震によって異なる。
したがって、地震の振動をすべて吸収しようとすると、免震装置は0.1Hz以下の固有振動数をもっていなければならないが、上記(イ)、(ロ)、(ハ)の市販の免震装置について現状を調べてみると、下記のような固有振動数になっている。 (イ)、(ロ)の皿形の場合:
L=105mm、H=3mmで、球面皿式の場合、シミュレーションによると、f≒0.130Hzである。
L=105mm、H=3mmで、円錐皿式の場合、シミュレーションによると、f≒0.165Hzである。
(ハ)の線形ベアリングの場合:
L=0.21m、H=0.003mで、故にR=7.3515mの場合、周波数計算式によると、f≒0.185Hzである。
上記のモデルに、コンピュータ上で地震波として神戸地震変位波形、El centro 地震の東西方向(EW)変位波形をそれぞれ与えて、振動解析を行った結果(変位−時間の波形、a:元の波形、b:免震台の動き、c:相対移動量)を示すと、図14、図15のようになる。
図14、図15から、「神戸地震」のような周波数が比較的高い成分を多く含んだ地震に対しては、元の地震波より免震台の動きが穏やかで小であり、免震装置は免震機能を果たすが、「El centro 地震」のような周波数が比較的低い成分を多く含んだ地震に対しては、元の地震波より免震台の動きが増幅され、免震装置は免震機能を果たせず、保護すべき貴重品の破損を招くおそれがある。ただし、加速度低減上は問題ない。速度と変位の低減が充分でないということである。
【0007】
(ii)サイズが大きい
免震装置の固有振動数は、重力式の場合、ボール受皿の径L(線形ベアリングではベアリング長さ)と、その反り量(両端の持ち上がり高さH)によって決まる(図16)。
現在実用化されているものは、L=105mm(2段リニアベアリング式ではD=210mm)、H=3mm程度の諸元をとっている例が多い。これは、上記の共振周波数を得るために必要な寸法である。したがって、免震装置の幅は、105×4=420mm以上の寸法となる。
さらに、免震台(上部)が動けるスペースを周辺に2L(上の例では210mm)の幅だけ空けておかねばならず、空きスペースを含めた全体としては、420+210×2=840mm以上という大きなサイズになってしまう。
Lを小さくすると共振点が上がってしまうので、このサイズは機能上縮小できない。
【0008】
(iii)ボール飛び出しの懸念がある
ゆっくりした大きな揺れの地震では、ボールの動きが大きく、ボールが受皿からはみ出して飛び出してしまう懸念がある。図17は、球面式免震装置のボール飛び出し懸念の解析図である。他の免震皿方式免震装置も同様の図となる。
図中のz/2が皿半径L以上になるとボールは皿をはみ出してしまう。故にz<2Lがボールの飛び出さない条件になる。L=0.105mの場合、その条件はz<0.21mである。
図18に、円錐面式の、El centro 地震波に対するzの変位値cを示し、図15に球面式の、El centro 地震波に対するzの変位値cを示す。図18から、最初の10秒間に、z>0.21mとなる状況が発生し、ボールが飛び出してしまう条件になっていることがわかる。
【0009】
本発明の目的は、周波数が比較的低い成分を多く含んだ地震にも対応することができる免震装置を提供することにある。
本発明のさらなる目的は、周波数が比較的低い成分を多く含んだ地震にも対応することができ、サイズを小型化でき、ボールの飛び出しを抑制できる免震装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成する本発明はつぎの通りである。
(1) 皿中央部から皿外周部に近づくにつれて位置が高くなる上面をもつ受皿の上にボールを配置しその上方に免震台を配置した免震装置であって、前記受皿の上面を、皿中央部の曲率が皿外周部の曲率より小さい、互いに異なる曲率をもつ複数の湾曲面を受皿半径方向につないだ面から構成した免震装置。
(2) 皿中央部から皿外周部に近づくにつれて位置が高くなる上面をもつ受皿の上にボールを配置しその上方に免震台を配置した免震装置であって、前記受皿の上面を、次数Nが2より大きいN次曲面から構成した免震装置。
(3) 次数をN、受皿半径をLとし、縦軸をN、横軸をLmmとしたグラフにおいて、前記次数Nが、座標(L,N)にて、(70,19)、(70,15)、(80,7)、(100,4)、(120,3)、(150,2.2)、(150,6.5)、(120,7)、(100,9)、(80,13)、(70,19)の複数の点を順次直線でつないだ閉領域内にある点のN値である、(2)記載の免震装置。
【発明の効果】
【0011】
上記(1)、(2)、(3)の何れかの免震装置を用いれば、免震装置の共振点は0.025〜0.085Hzと、従来の免震装置の1/2〜1/5の収まり、「神戸地震」のような周波数が比較的高い成分を多く含んだ地震に対しては充分免震を発揮できることは勿論、「El centro 地震」のような周波数が比較的低い成分を多く含んだ地震に対しても充分免震性能を発揮できる。
【0012】
また、サイズ(半径L)は、L=70mmとなり、従来の市販品の皿の半径L=105mmの約2/3以下となり、コンパクト化をはかることができる。より詳しくは、皿の中央部の曲率を従来の球面に比べて小さくして装置の共振点を0.025〜0.085Hzとし、ボール飛び出し防止上H=3mmを確保すると、従来装置の皿の半径は約200mmと非常に大きくなり、元の皿半径(L=105mm)の約2倍になる。これに対し、本発明では、上記(1)では2つ以上の曲率をもつ面をつなぎ外周部の曲率を大きくする(立ち上がりが大)ことにより、上記(2)ではN>2の次数の曲面を用いることにより(外周の立ち上がりが放物線より大)、装置の共振点を0.025〜0.085Hzに、かつボール飛び出しを防止を維持したまま、皿半径をL=70mm程度にすることができ、従来の市販品の皿の半径L=105mmの約2/3以下とすることができる。
上記(3)は次数Nをシミュレーションにより求めると、2より大となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の免震装置を、図1〜図7を参照して、説明する。本発明の免震装置は、重力式免震装置である。図1、図2は本発明の実施例1と実施例2に共通に適用可能であり、図3は本発明の実施例1を示し、図4〜図6は本発明の実施例2を示す。本発明の実施例1、2に共通な部分には両実施例1、2にわたって同じ符号を付してある。
【0014】
まず、本発明の実施例1、2に共通な部分の構成を図1、図2を参照して説明する。
図1、図2に示すように、本発明の免震装置10は、皿中央部13aから皿外周部13bに近づくにつれて位置が高くなる上面をもつ受皿13の上にボール12を配置しその上方に免震台11を配置した重力式免震装置である。受皿13と、1つの受皿13に対して1つ設けられるボール12は、1つの免震装置10につき、水平面方向に複数(図示例では4個)設けられ、免震台11は、1つの免震装置10につき、1つ設けられる。
免震台11とボール12との間に上皿14を設けてもよい。受皿13は建物床に対して固定のベース15に固定されて地面、建物床と同じ動きをする。保護対象の貴重品は免震台11の上に載せられる。地震時には、受皿13は地面、建物と同一の動きをし、免震台11と貴重品は一体的に動き受皿13に対して相対動する。
【0015】
受皿13の上面は、複数の弧(受皿中央部13aの弧は弧中心が受皿中心軸上にあり、受皿外周部13bの弧の弧中心は受皿中心軸上から受皿外周部13b側に変位した位置にある)をつないだ面からなるか(本発明の実施例1)、または次数Nが2より大きいN次曲面からなる(本発明の実施例2)。
各受皿13の上面が曲面(複数弧面をつないだもの、または次数Nが2より大きいN次曲面)となっている部分は、該曲面の深さをH、半径をLとすると、縦軸がH、横軸がLのグラフにおいて、単一の半径の弧で原点と点(H,L)を結んだ弧曲面からなる従来装置の受皿3上面よりも、受皿中央部13aでは、下側(横軸に近い側)にあり、中央部13aが従来装置に比べてフラットに近づけてある(ボールの原点復帰力が小さくなる側)。また、皿13の外半径Lは、Hを従来装置のHと合わせた場合、従来装置の皿3の外半径と等しいかそれより小である(径方向にコンパクトになる側)。Hは、同じ条件で比較するため本発明と従来装置で同じとする。
【0016】
つぎに、本発明の各実施例に特有な構成を説明する。
本発明の実施例1では、図3に示すように、受皿13の上面が、皿中央部13aの曲率が皿外周部13bの曲率より小さい、互いに異なる曲率をもつ複数の湾曲面(弧面)13c、13d(13cは13aの湾曲面、13dは13bの湾曲面)を受皿13半径方向につないだ面から構成されている。皿中央部13aの曲率の中心は受皿中心軸上にあり、皿中央部13aの曲率半径R’は、従来装置の単一の半径の弧で原点と点(H,L)を結んだ弧曲面の曲率半径Rより大である(R’>R)。皿外周部13bの曲率の中心は受皿中心軸上から外れており、皿外周部13bの曲率半径rは、皿中央部13aの曲率半径R’より小で、従来装置の単一の半径の弧で原点と点(H,L)を結んだ弧曲面の曲率半径Rより小である(r<R<R’)。受皿13の外半径Lは、Hを従来装置のHと合わせた場合、従来装置の受皿3の外半径と等しいかそれより小である。たとえば、従来装置のLを105mmとし、Hを3mmとした場合、本発明装置のLは従来装置のLの2/3以下(たとえば、70mm)で、Hは3mmである。
【0017】
本発明の実施例2では、図4〜図6に示すように、受皿13の上面が、次数Nが2より大きい(さらに具体的には、N>2.2)N次曲面からなる。図4に示すように、曲面高さyは、
y=(x/L)N ×H
となり、お椀形となる。
ただし、x:受皿中心からの距離
y:受皿中心からの高さ
L:受皿半径
H:受皿端高さ
N:曲面次数
前実施例である実施例1では、お椀形は2つ以上の円弧をつないだ形状であったが、その場合は、接続点で、曲率の変化が非連続的になるおそれがあるという問題があったが、実施例2では単一のN次曲面からなるので曲率の変化が徐々に起こるので、曲率の変化が非連続的になるおそれはない。
図5は、L=100mm、H=30mmとした場合における、本発明のN>2のN次曲面と、従来(円錐面と球面)との比較を示したものである。N>2のN次曲面は従来(円錐面と球面)より下側にあり、皿中央付近でのボールの原点復帰力は本発明の方が従来装置に比べて小さくなり、重力式免震装置は低周波数化される。
【0018】
次数Nをシミュレーションにて検討したところ、El centro 地震に対応可能なN次曲面は、受皿半径Lの大きさによって異なり、受皿径Lが小さいほど曲面の次数は大となる。次数Nは受皿端高さH(2〜7mm)によっても変わるが、その影響は小さい。具体的には、受皿径Lに対応して、図6の範囲、すなわち、縦軸をN、横軸をLとしたグラフにおいて、座標(70,19)、(70,15)、(80,7)、(100,4)、(120,3)、(150,2.2)、(150,6.5)、(120,7)、(100,9)、(80,13)、(70,19)をもつ複数の点を順次直線でつないだ閉折れ線で囲まれた領域内から、Nを選ぶと、El centro 地震に耐えうる性能の良い免震装置を得ることができる。図6から、具体的には、次数Nは、19以下で、2.2以上としている。
【0019】
復帰力が重力による皿中心向きの力F=M×g×sinζ×cosζの1質点系モデルを用いて動的応答計算が行われる。
加速度αは、
α=d2x/ dt2=g×(sinζ×cosζ+sin(dz/dt)×2μ) である。加速度は質量Mと無関係である。これは、重力式では、加速度は台とその上に載せる貴重品の質量に無関係であり、質量に関係なく貴重品にかかる横方向加速度をとることができることを意味する。しかし、変位はまわりの固定物と衝突しない範囲に収まらなければならず、またボールが皿から飛び出さない範囲に収まらなければならないので、動的応答解析によって確認されなければならない。
地震波f(t)は時間の関数である。初期値はf(0)=α(0)=v(0)=x(0)である。tの刻みをΔtとして、逐次積分していって速度v(t)、変位x(t)を求めた。
【0020】
実際の例として、L=70mm、H=7mm、N=16.5について、El centro 地震への応答(変位応答(台の動き)x、および台と元の地震波との相対移動量z)を求めてみると、図7に示すようになった。変位応答xは元の地震波の変位とほぼ同じで増幅はほとんど認められず、zの動きから見て免震装置周囲に皿直径と同程度の空間を設けておけばよいことがわかる。
また、重力式免震装置の固有振動数も求めた。固有振動数は、シミュレーション式で、地震入力無し、初期変位を与えた後の自由振動波形から、観察によって求めることができる。本発明の免震装置では、実施例1でR’、rを適切に選定することにより、また実施例2でNを図6の閉領域内に適切に選定することにより、免震装置の共振点を0.025〜0.085Hzに設定することができる。これに対し、従来装置の共振点は、0.130Hz〜0.185Hzである。このことから、本発明では共振点の低周波数化がはかられ、低周波数成分を多く含む地震波に対しても有効に免震性能を果たすことができることを意味している。
また、L=70mmは、従来装置のL=105mmに比べて大幅な縮小化がはかられている。
図7では、相対移動量zも、z<2L=0.14mmの条件(ボール飛び出し防止条件)内に収まっており、ボールが受皿をはみ出すことはない。
【0021】
つぎに、本発明の作用・効果を説明する。
本発明の免震装置10を用いれば、免震装置の共振点は0.025〜0.085Hzと、従来の免震装置(従来装置の共振点は、0.130Hz〜0.185Hz)の1/2〜1/5の収まり、「神戸地震」のような周波数が比較的高い成分を多く含んだ地震に対しては充分免震を発揮できることは勿論、「El centro 地震」のような周波数が比較的低い成分を多く含んだ地震に対しても充分免震性能を発揮できる。
【0022】
これは、本発明の装置が皿の中央部で曲率が小さいため、ボールが原点から変位しても皿面によるボールの持ち上がり量が小さく、重力によるボールの原点復帰力が小さいためである。El centro 地震波は0.2Hz程度の比較的低い周波数成分を多量に含んでいるため、共振点が0.130Hz〜0.185Hzにあった従来装置では共振点を地震波の主要共振点成分から十分な量外せず、疑似共振を起こしてしまって充分な免震性能を発揮できなかったが、本発明では、装置の共振点を0.025〜0.085Hzと低周波数側にもってくることができるため、比較的低い周波数成分を多量に含んでいる地震波、たとえばEl centro 地震の地震波に対しても、主要周波数成分である0.2Hzから1/2以上外すことができ(1/2以上外すことが理想、El centro 地震の地震波に対しては0.1Hz以下にすることが理想)、充分免震性能を発揮できる。
【0023】
また、サイズ(半径L)は、L=70mmとなり、従来の市販品の皿の半径L=105mmの約2/3以下となり、コンパクト化をはかることができる。
たとえば、皿の中央部の曲率を従来の球面に比べて小さくして装置の共振点を0.025〜0.085Hzとし、ボール飛び出し防止上H=3mmを確保すると、従来装置の皿の半径は約200mmと非常に大きくなり、元の皿半径(L=105mm)の約2倍になる。これに対し、本発明では、上記(1)では2つ以上の曲率をもつ面をつなぎ外周部の曲率を大きくする(立ち上がりが大)ことにより、上記(2)ではN>2の次数の曲面を用いることにより(外周の立ち上がりが放物線より大)、装置の共振点を0.025〜0.085Hzに、かつボール飛び出しを防止を維持したまま、皿半径をL=70mm程度にすることができ、従来の市販品の皿の半径L=105mmの約2/3以下とすることができる。
次数Nをシミュレーションにより求めると、2より大で、Nは2.2〜19の範囲にある。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の免震装置の平面図である。
【図2】本発明の免震装置の断面図(図1のA−A断面図)である。
【図3】本発明の実施例1の受皿の上面の断面形状図、および従来の球面式受皿と円錐面式受皿の上面の断面形状図である。
【図4】本発明の実施例2の受皿の上面の断面形状を示すグラフである。
【図5】本発明の実施例2の受皿の上面のN次(たとえば、3次、5次、7次)曲面と従来の球面、円錐面の比較を示すグラフである。
【図6】本発明の実施例2の受皿の上面のN次曲面の次数の選定範囲(閉領域内の部分からNを選定)を示すグラフである。
【図7】本発明の実施例2(実施例1もほとんど同じ)の免震台(とそれに固定の貴重品)の、El centro 地震EW(東西方向)波形を入力した場合の、変位応答図(縦軸は変位m、横軸は時間secを示す)である。
【図8】従来の受皿の、上面が球面である場合の、断面形状図である。
【図9】従来の受皿の、上面が円錐面である場合の、断面形状図である。
【図10】従来の球面受皿免震台の持ち上げ量の演算用形状寸法図である。
【図11】従来の円錐面受皿免震台の持ち上げ量の演算用形状寸法図である。
【図12】従来の両面受皿免震装置の断面図である。
【図13】従来の線形ベアリング2段重ね式免震装置の演算用形状寸法断面図である。
【図14】従来の球面式受皿をもつ免震装置の、神戸地震波形を入力した場合の、免震台の応答図(縦軸は変位m、横軸は時間secを示す)である。
【図15】従来の球面式受皿をもつ免震装置の、El centro 地震EW(東西)方向波形を入力した場合の、免震台の応答図(縦軸は変位m、横軸は時間secを示す)である。
【図16】従来の球面式受皿をもつ免震装置の断面図でサイズが大となることを示す図である。
【図17】従来の球面式受皿をもつ免震装置の断面図でボール飛び出しの懸念があることを示す図である。
【図18】従来の球面式受皿をもつ免震装置の、El centro 地震EW(東西)方向波形を入力した場合の、免震台の応答図(縦軸は変位m、横軸は時間secを示す)で、z>0.21となる状況が発生しボールが飛び出すおそれがあることを示す図である。
【符号の説明】
【0025】
10 免震装置
11 免震台
12 ボール
13 受皿
13a 中央部
13b 外周部
14 上皿
15 ベース
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震装置に関し、とくに重力式免震装置に関する。
【背景技術】
【0002】
歴史的遺品、美術工芸品、精密機械、等の耐震性が必要な貴重品を地震による破壊から保護するために、種々の免震装置が開発され、使用されている。その免震装置の大部分は重力式(たとえば、特開2002−161942号公報に開示のもの等)で、図8〜図18に示すように、ボール式片面皿(図8〜図11)か、ボール式両面皿(図12)か、線形ベアリング2段重ね式(図13)かの何れかかからなる。
たとえば、ボール式片面皿(図8〜図11)免震装置は、貴重品を載せる台(免震台)1をボール2の上に載せ、そのボール2を上面が球面3a(図8、図10)または円錐面3b(図9、図11)の受皿3で支持することによって、免震台1が受皿3に対して横方向に変位し受皿上面に沿って上方に変位した時に重力による復元力を発生させ、いわゆる「振り子」の原理で、地震の際に免震台1とその上に載せられた貴重品にかかる加速度を緩やかにする仕掛けになっている。
【0003】
従来の免震装置の免震作用を定量的に説明すると以下の通りである。
(イ)ボール式片面皿(図8〜図11)
(A)球面式(図8、図10)
図8は受皿3が球面式である場合を示す。
図10に示すように各寸法をとり、
R:球面半径
x:免震台1と地面の相対移動量
h:免震台1の上昇量
とすると、上昇量は、
h=R−{R2 −(x/2)2 }1/2
となる。
xが増えると、免震台1は上式に従って上昇する。この上昇分hが位置エネルギとなり、免震台1を元の位置(x=0の位置)に戻そうとする力を生む。
(B)円錐面式(図9、図11)
図9は受皿3が円錐面式である場合を示す。
図11に示すように各寸法をとり、
L:円錐底面半径
H:円錐高さ
x:免震台11と地面の相対移動量
h:免震台11の上昇量
とすると、上昇量は、
h=(H/(2L))・x
となる。
xが増えると、免震台1は上式に従って上昇する。この上昇分hが位置エネルギとなり、免震台1を元の位置(x=0の位置)に戻そうとする力を生む。
【0004】
(ロ)ボール式両面皿(図12)
免震皿3をボール2の上下両側に配置したタイプで、免震台1と地面の相対移動量xに対して、以下に示すように、片面皿の場合の2倍の上昇量hがある。
(A)両面皿球面式
h=2・〔R−{R2 −(x/2)2 }1/2 〕
(B)両面皿円錐面式
h=(H/L)・x
【0005】
(ハ)線形ベアリング2段重ね式(図13)
円弧状にカーブした線形のベアリング4、5を直交させて、上下に2段重ねしたタイプで、円弧の半径が充分大きい場合にはベアリング上のベアリング上の免震台1は円運動をするので、「振り子」を形成する。
したがって、固有振動数を振り子の式から求めることができる。
すなわち、
R:線形ベアリング曲率
g:重力加速度
f:共振周波数
とすると、共振周波数fは、
f={1/(2π)}・(g/R)1/2
ただし、幾何学的関係から、
R={H2 +(D/2)2 }/(2H)
【特許文献1】特開2002−161942号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の重力式免震装置に、以下の問題点がある。
(i)共振点が高い
現在市販されているこの種の免震装置は、日本で起きた「神戸地震」のような周波数が比較的高い成分を多く含んだ地震に対しては充分免震を発揮できるが、アメリカで起きた大地震の一つである「El centro 地震」のような周波数が比較的低い成分を多く含んだ地震に対しては免震が不十分であることが知られている。
免震装置の基本は、地震波よりも固有振動数を小さくして、高い周波数成分を吸収してしまうことにある。地震の振動は多くの周波数成分を含んでいるが、最も小さい周波数成分は0.1〜0.2Hzである。ただし、地震によって異なる。
したがって、地震の振動をすべて吸収しようとすると、免震装置は0.1Hz以下の固有振動数をもっていなければならないが、上記(イ)、(ロ)、(ハ)の市販の免震装置について現状を調べてみると、下記のような固有振動数になっている。 (イ)、(ロ)の皿形の場合:
L=105mm、H=3mmで、球面皿式の場合、シミュレーションによると、f≒0.130Hzである。
L=105mm、H=3mmで、円錐皿式の場合、シミュレーションによると、f≒0.165Hzである。
(ハ)の線形ベアリングの場合:
L=0.21m、H=0.003mで、故にR=7.3515mの場合、周波数計算式によると、f≒0.185Hzである。
上記のモデルに、コンピュータ上で地震波として神戸地震変位波形、El centro 地震の東西方向(EW)変位波形をそれぞれ与えて、振動解析を行った結果(変位−時間の波形、a:元の波形、b:免震台の動き、c:相対移動量)を示すと、図14、図15のようになる。
図14、図15から、「神戸地震」のような周波数が比較的高い成分を多く含んだ地震に対しては、元の地震波より免震台の動きが穏やかで小であり、免震装置は免震機能を果たすが、「El centro 地震」のような周波数が比較的低い成分を多く含んだ地震に対しては、元の地震波より免震台の動きが増幅され、免震装置は免震機能を果たせず、保護すべき貴重品の破損を招くおそれがある。ただし、加速度低減上は問題ない。速度と変位の低減が充分でないということである。
【0007】
(ii)サイズが大きい
免震装置の固有振動数は、重力式の場合、ボール受皿の径L(線形ベアリングではベアリング長さ)と、その反り量(両端の持ち上がり高さH)によって決まる(図16)。
現在実用化されているものは、L=105mm(2段リニアベアリング式ではD=210mm)、H=3mm程度の諸元をとっている例が多い。これは、上記の共振周波数を得るために必要な寸法である。したがって、免震装置の幅は、105×4=420mm以上の寸法となる。
さらに、免震台(上部)が動けるスペースを周辺に2L(上の例では210mm)の幅だけ空けておかねばならず、空きスペースを含めた全体としては、420+210×2=840mm以上という大きなサイズになってしまう。
Lを小さくすると共振点が上がってしまうので、このサイズは機能上縮小できない。
【0008】
(iii)ボール飛び出しの懸念がある
ゆっくりした大きな揺れの地震では、ボールの動きが大きく、ボールが受皿からはみ出して飛び出してしまう懸念がある。図17は、球面式免震装置のボール飛び出し懸念の解析図である。他の免震皿方式免震装置も同様の図となる。
図中のz/2が皿半径L以上になるとボールは皿をはみ出してしまう。故にz<2Lがボールの飛び出さない条件になる。L=0.105mの場合、その条件はz<0.21mである。
図18に、円錐面式の、El centro 地震波に対するzの変位値cを示し、図15に球面式の、El centro 地震波に対するzの変位値cを示す。図18から、最初の10秒間に、z>0.21mとなる状況が発生し、ボールが飛び出してしまう条件になっていることがわかる。
【0009】
本発明の目的は、周波数が比較的低い成分を多く含んだ地震にも対応することができる免震装置を提供することにある。
本発明のさらなる目的は、周波数が比較的低い成分を多く含んだ地震にも対応することができ、サイズを小型化でき、ボールの飛び出しを抑制できる免震装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成する本発明はつぎの通りである。
(1) 皿中央部から皿外周部に近づくにつれて位置が高くなる上面をもつ受皿の上にボールを配置しその上方に免震台を配置した免震装置であって、前記受皿の上面を、皿中央部の曲率が皿外周部の曲率より小さい、互いに異なる曲率をもつ複数の湾曲面を受皿半径方向につないだ面から構成した免震装置。
(2) 皿中央部から皿外周部に近づくにつれて位置が高くなる上面をもつ受皿の上にボールを配置しその上方に免震台を配置した免震装置であって、前記受皿の上面を、次数Nが2より大きいN次曲面から構成した免震装置。
(3) 次数をN、受皿半径をLとし、縦軸をN、横軸をLmmとしたグラフにおいて、前記次数Nが、座標(L,N)にて、(70,19)、(70,15)、(80,7)、(100,4)、(120,3)、(150,2.2)、(150,6.5)、(120,7)、(100,9)、(80,13)、(70,19)の複数の点を順次直線でつないだ閉領域内にある点のN値である、(2)記載の免震装置。
【発明の効果】
【0011】
上記(1)、(2)、(3)の何れかの免震装置を用いれば、免震装置の共振点は0.025〜0.085Hzと、従来の免震装置の1/2〜1/5の収まり、「神戸地震」のような周波数が比較的高い成分を多く含んだ地震に対しては充分免震を発揮できることは勿論、「El centro 地震」のような周波数が比較的低い成分を多く含んだ地震に対しても充分免震性能を発揮できる。
【0012】
また、サイズ(半径L)は、L=70mmとなり、従来の市販品の皿の半径L=105mmの約2/3以下となり、コンパクト化をはかることができる。より詳しくは、皿の中央部の曲率を従来の球面に比べて小さくして装置の共振点を0.025〜0.085Hzとし、ボール飛び出し防止上H=3mmを確保すると、従来装置の皿の半径は約200mmと非常に大きくなり、元の皿半径(L=105mm)の約2倍になる。これに対し、本発明では、上記(1)では2つ以上の曲率をもつ面をつなぎ外周部の曲率を大きくする(立ち上がりが大)ことにより、上記(2)ではN>2の次数の曲面を用いることにより(外周の立ち上がりが放物線より大)、装置の共振点を0.025〜0.085Hzに、かつボール飛び出しを防止を維持したまま、皿半径をL=70mm程度にすることができ、従来の市販品の皿の半径L=105mmの約2/3以下とすることができる。
上記(3)は次数Nをシミュレーションにより求めると、2より大となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の免震装置を、図1〜図7を参照して、説明する。本発明の免震装置は、重力式免震装置である。図1、図2は本発明の実施例1と実施例2に共通に適用可能であり、図3は本発明の実施例1を示し、図4〜図6は本発明の実施例2を示す。本発明の実施例1、2に共通な部分には両実施例1、2にわたって同じ符号を付してある。
【0014】
まず、本発明の実施例1、2に共通な部分の構成を図1、図2を参照して説明する。
図1、図2に示すように、本発明の免震装置10は、皿中央部13aから皿外周部13bに近づくにつれて位置が高くなる上面をもつ受皿13の上にボール12を配置しその上方に免震台11を配置した重力式免震装置である。受皿13と、1つの受皿13に対して1つ設けられるボール12は、1つの免震装置10につき、水平面方向に複数(図示例では4個)設けられ、免震台11は、1つの免震装置10につき、1つ設けられる。
免震台11とボール12との間に上皿14を設けてもよい。受皿13は建物床に対して固定のベース15に固定されて地面、建物床と同じ動きをする。保護対象の貴重品は免震台11の上に載せられる。地震時には、受皿13は地面、建物と同一の動きをし、免震台11と貴重品は一体的に動き受皿13に対して相対動する。
【0015】
受皿13の上面は、複数の弧(受皿中央部13aの弧は弧中心が受皿中心軸上にあり、受皿外周部13bの弧の弧中心は受皿中心軸上から受皿外周部13b側に変位した位置にある)をつないだ面からなるか(本発明の実施例1)、または次数Nが2より大きいN次曲面からなる(本発明の実施例2)。
各受皿13の上面が曲面(複数弧面をつないだもの、または次数Nが2より大きいN次曲面)となっている部分は、該曲面の深さをH、半径をLとすると、縦軸がH、横軸がLのグラフにおいて、単一の半径の弧で原点と点(H,L)を結んだ弧曲面からなる従来装置の受皿3上面よりも、受皿中央部13aでは、下側(横軸に近い側)にあり、中央部13aが従来装置に比べてフラットに近づけてある(ボールの原点復帰力が小さくなる側)。また、皿13の外半径Lは、Hを従来装置のHと合わせた場合、従来装置の皿3の外半径と等しいかそれより小である(径方向にコンパクトになる側)。Hは、同じ条件で比較するため本発明と従来装置で同じとする。
【0016】
つぎに、本発明の各実施例に特有な構成を説明する。
本発明の実施例1では、図3に示すように、受皿13の上面が、皿中央部13aの曲率が皿外周部13bの曲率より小さい、互いに異なる曲率をもつ複数の湾曲面(弧面)13c、13d(13cは13aの湾曲面、13dは13bの湾曲面)を受皿13半径方向につないだ面から構成されている。皿中央部13aの曲率の中心は受皿中心軸上にあり、皿中央部13aの曲率半径R’は、従来装置の単一の半径の弧で原点と点(H,L)を結んだ弧曲面の曲率半径Rより大である(R’>R)。皿外周部13bの曲率の中心は受皿中心軸上から外れており、皿外周部13bの曲率半径rは、皿中央部13aの曲率半径R’より小で、従来装置の単一の半径の弧で原点と点(H,L)を結んだ弧曲面の曲率半径Rより小である(r<R<R’)。受皿13の外半径Lは、Hを従来装置のHと合わせた場合、従来装置の受皿3の外半径と等しいかそれより小である。たとえば、従来装置のLを105mmとし、Hを3mmとした場合、本発明装置のLは従来装置のLの2/3以下(たとえば、70mm)で、Hは3mmである。
【0017】
本発明の実施例2では、図4〜図6に示すように、受皿13の上面が、次数Nが2より大きい(さらに具体的には、N>2.2)N次曲面からなる。図4に示すように、曲面高さyは、
y=(x/L)N ×H
となり、お椀形となる。
ただし、x:受皿中心からの距離
y:受皿中心からの高さ
L:受皿半径
H:受皿端高さ
N:曲面次数
前実施例である実施例1では、お椀形は2つ以上の円弧をつないだ形状であったが、その場合は、接続点で、曲率の変化が非連続的になるおそれがあるという問題があったが、実施例2では単一のN次曲面からなるので曲率の変化が徐々に起こるので、曲率の変化が非連続的になるおそれはない。
図5は、L=100mm、H=30mmとした場合における、本発明のN>2のN次曲面と、従来(円錐面と球面)との比較を示したものである。N>2のN次曲面は従来(円錐面と球面)より下側にあり、皿中央付近でのボールの原点復帰力は本発明の方が従来装置に比べて小さくなり、重力式免震装置は低周波数化される。
【0018】
次数Nをシミュレーションにて検討したところ、El centro 地震に対応可能なN次曲面は、受皿半径Lの大きさによって異なり、受皿径Lが小さいほど曲面の次数は大となる。次数Nは受皿端高さH(2〜7mm)によっても変わるが、その影響は小さい。具体的には、受皿径Lに対応して、図6の範囲、すなわち、縦軸をN、横軸をLとしたグラフにおいて、座標(70,19)、(70,15)、(80,7)、(100,4)、(120,3)、(150,2.2)、(150,6.5)、(120,7)、(100,9)、(80,13)、(70,19)をもつ複数の点を順次直線でつないだ閉折れ線で囲まれた領域内から、Nを選ぶと、El centro 地震に耐えうる性能の良い免震装置を得ることができる。図6から、具体的には、次数Nは、19以下で、2.2以上としている。
【0019】
復帰力が重力による皿中心向きの力F=M×g×sinζ×cosζの1質点系モデルを用いて動的応答計算が行われる。
加速度αは、
α=d2x/ dt2=g×(sinζ×cosζ+sin(dz/dt)×2μ) である。加速度は質量Mと無関係である。これは、重力式では、加速度は台とその上に載せる貴重品の質量に無関係であり、質量に関係なく貴重品にかかる横方向加速度をとることができることを意味する。しかし、変位はまわりの固定物と衝突しない範囲に収まらなければならず、またボールが皿から飛び出さない範囲に収まらなければならないので、動的応答解析によって確認されなければならない。
地震波f(t)は時間の関数である。初期値はf(0)=α(0)=v(0)=x(0)である。tの刻みをΔtとして、逐次積分していって速度v(t)、変位x(t)を求めた。
【0020】
実際の例として、L=70mm、H=7mm、N=16.5について、El centro 地震への応答(変位応答(台の動き)x、および台と元の地震波との相対移動量z)を求めてみると、図7に示すようになった。変位応答xは元の地震波の変位とほぼ同じで増幅はほとんど認められず、zの動きから見て免震装置周囲に皿直径と同程度の空間を設けておけばよいことがわかる。
また、重力式免震装置の固有振動数も求めた。固有振動数は、シミュレーション式で、地震入力無し、初期変位を与えた後の自由振動波形から、観察によって求めることができる。本発明の免震装置では、実施例1でR’、rを適切に選定することにより、また実施例2でNを図6の閉領域内に適切に選定することにより、免震装置の共振点を0.025〜0.085Hzに設定することができる。これに対し、従来装置の共振点は、0.130Hz〜0.185Hzである。このことから、本発明では共振点の低周波数化がはかられ、低周波数成分を多く含む地震波に対しても有効に免震性能を果たすことができることを意味している。
また、L=70mmは、従来装置のL=105mmに比べて大幅な縮小化がはかられている。
図7では、相対移動量zも、z<2L=0.14mmの条件(ボール飛び出し防止条件)内に収まっており、ボールが受皿をはみ出すことはない。
【0021】
つぎに、本発明の作用・効果を説明する。
本発明の免震装置10を用いれば、免震装置の共振点は0.025〜0.085Hzと、従来の免震装置(従来装置の共振点は、0.130Hz〜0.185Hz)の1/2〜1/5の収まり、「神戸地震」のような周波数が比較的高い成分を多く含んだ地震に対しては充分免震を発揮できることは勿論、「El centro 地震」のような周波数が比較的低い成分を多く含んだ地震に対しても充分免震性能を発揮できる。
【0022】
これは、本発明の装置が皿の中央部で曲率が小さいため、ボールが原点から変位しても皿面によるボールの持ち上がり量が小さく、重力によるボールの原点復帰力が小さいためである。El centro 地震波は0.2Hz程度の比較的低い周波数成分を多量に含んでいるため、共振点が0.130Hz〜0.185Hzにあった従来装置では共振点を地震波の主要共振点成分から十分な量外せず、疑似共振を起こしてしまって充分な免震性能を発揮できなかったが、本発明では、装置の共振点を0.025〜0.085Hzと低周波数側にもってくることができるため、比較的低い周波数成分を多量に含んでいる地震波、たとえばEl centro 地震の地震波に対しても、主要周波数成分である0.2Hzから1/2以上外すことができ(1/2以上外すことが理想、El centro 地震の地震波に対しては0.1Hz以下にすることが理想)、充分免震性能を発揮できる。
【0023】
また、サイズ(半径L)は、L=70mmとなり、従来の市販品の皿の半径L=105mmの約2/3以下となり、コンパクト化をはかることができる。
たとえば、皿の中央部の曲率を従来の球面に比べて小さくして装置の共振点を0.025〜0.085Hzとし、ボール飛び出し防止上H=3mmを確保すると、従来装置の皿の半径は約200mmと非常に大きくなり、元の皿半径(L=105mm)の約2倍になる。これに対し、本発明では、上記(1)では2つ以上の曲率をもつ面をつなぎ外周部の曲率を大きくする(立ち上がりが大)ことにより、上記(2)ではN>2の次数の曲面を用いることにより(外周の立ち上がりが放物線より大)、装置の共振点を0.025〜0.085Hzに、かつボール飛び出しを防止を維持したまま、皿半径をL=70mm程度にすることができ、従来の市販品の皿の半径L=105mmの約2/3以下とすることができる。
次数Nをシミュレーションにより求めると、2より大で、Nは2.2〜19の範囲にある。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の免震装置の平面図である。
【図2】本発明の免震装置の断面図(図1のA−A断面図)である。
【図3】本発明の実施例1の受皿の上面の断面形状図、および従来の球面式受皿と円錐面式受皿の上面の断面形状図である。
【図4】本発明の実施例2の受皿の上面の断面形状を示すグラフである。
【図5】本発明の実施例2の受皿の上面のN次(たとえば、3次、5次、7次)曲面と従来の球面、円錐面の比較を示すグラフである。
【図6】本発明の実施例2の受皿の上面のN次曲面の次数の選定範囲(閉領域内の部分からNを選定)を示すグラフである。
【図7】本発明の実施例2(実施例1もほとんど同じ)の免震台(とそれに固定の貴重品)の、El centro 地震EW(東西方向)波形を入力した場合の、変位応答図(縦軸は変位m、横軸は時間secを示す)である。
【図8】従来の受皿の、上面が球面である場合の、断面形状図である。
【図9】従来の受皿の、上面が円錐面である場合の、断面形状図である。
【図10】従来の球面受皿免震台の持ち上げ量の演算用形状寸法図である。
【図11】従来の円錐面受皿免震台の持ち上げ量の演算用形状寸法図である。
【図12】従来の両面受皿免震装置の断面図である。
【図13】従来の線形ベアリング2段重ね式免震装置の演算用形状寸法断面図である。
【図14】従来の球面式受皿をもつ免震装置の、神戸地震波形を入力した場合の、免震台の応答図(縦軸は変位m、横軸は時間secを示す)である。
【図15】従来の球面式受皿をもつ免震装置の、El centro 地震EW(東西)方向波形を入力した場合の、免震台の応答図(縦軸は変位m、横軸は時間secを示す)である。
【図16】従来の球面式受皿をもつ免震装置の断面図でサイズが大となることを示す図である。
【図17】従来の球面式受皿をもつ免震装置の断面図でボール飛び出しの懸念があることを示す図である。
【図18】従来の球面式受皿をもつ免震装置の、El centro 地震EW(東西)方向波形を入力した場合の、免震台の応答図(縦軸は変位m、横軸は時間secを示す)で、z>0.21となる状況が発生しボールが飛び出すおそれがあることを示す図である。
【符号の説明】
【0025】
10 免震装置
11 免震台
12 ボール
13 受皿
13a 中央部
13b 外周部
14 上皿
15 ベース
【特許請求の範囲】
【請求項1】
皿中央部から皿外周部に近づくにつれて位置が高くなる上面をもつ受皿の上にボールを配置しその上方に免震台を配置した免震装置であって、前記受皿の上面を、皿中央部の曲率が皿外周部の曲率より小さい、互いに異なる曲率をもつ複数の湾曲面を受皿半径方向につないだ面から構成した免震装置。
【請求項2】
皿中央部から皿外周部に近づくにつれて位置が高くなる上面をもつ受皿の上にボールを配置しその上方に免震台を配置した免震装置であって、前記受皿の上面を、次数Nが2より大きいN次曲面から構成した免震装置。
【請求項3】
次数をN、受皿半径をLとし、縦軸をN、横軸をLmmとしたグラフにおいて、前記次数Nが、座標(L,N)にて、(70,19)、(70,15)、(80,7)、(100,4)、(120,3)、(150,2.2)、(150,6.5)、(120,7)、(100,9)、(80,13)、(70,19)の複数の点を順次直線でつないだ閉領域内にある点のN値である、請求項2記載の免震装置。
【請求項1】
皿中央部から皿外周部に近づくにつれて位置が高くなる上面をもつ受皿の上にボールを配置しその上方に免震台を配置した免震装置であって、前記受皿の上面を、皿中央部の曲率が皿外周部の曲率より小さい、互いに異なる曲率をもつ複数の湾曲面を受皿半径方向につないだ面から構成した免震装置。
【請求項2】
皿中央部から皿外周部に近づくにつれて位置が高くなる上面をもつ受皿の上にボールを配置しその上方に免震台を配置した免震装置であって、前記受皿の上面を、次数Nが2より大きいN次曲面から構成した免震装置。
【請求項3】
次数をN、受皿半径をLとし、縦軸をN、横軸をLmmとしたグラフにおいて、前記次数Nが、座標(L,N)にて、(70,19)、(70,15)、(80,7)、(100,4)、(120,3)、(150,2.2)、(150,6.5)、(120,7)、(100,9)、(80,13)、(70,19)の複数の点を順次直線でつないだ閉領域内にある点のN値である、請求項2記載の免震装置。
【図1】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図3】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図3】
【公開番号】特開2006−322495(P2006−322495A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−145024(P2005−145024)
【出願日】平成17年5月18日(2005.5.18)
【出願人】(000110251)トピー工業株式会社 (255)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年5月18日(2005.5.18)
【出願人】(000110251)トピー工業株式会社 (255)
【Fターム(参考)】
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