免震装置
【課題】より簡単な構成によってヨーイング現象を的確に防止できる免震装置を提供し、延いてはコストの削減や、適用上の自由度の拡大にも資することを目的とする。
【解決手段】少なくとも上方から見た平面視において直線的な案内機能を有する下部案内レール16及び上部案内レール17と、それらの上下の案内レール16,17の間に互いに離間した状態に配設された2個以上の球体18等からなる転動体を備え、それらの離間した転動体を介して作用する、上下の案内レール16,17相互間の水平方向の相対的な回動に対する抑制作用により、上部構造物3のヨーイング現象を抑制する。
【解決手段】少なくとも上方から見た平面視において直線的な案内機能を有する下部案内レール16及び上部案内レール17と、それらの上下の案内レール16,17の間に互いに離間した状態に配設された2個以上の球体18等からなる転動体を備え、それらの離間した転動体を介して作用する、上下の案内レール16,17相互間の水平方向の相対的な回動に対する抑制作用により、上部構造物3のヨーイング現象を抑制する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被支持体側と支持体側との間に設置する免震装置に関する。より詳しくは、免震作用と共に被支持体側の上部構造物に派生するヨーイング現象を防止して、より安定した免震作用を得られるように改良した免震装置に関する。
【背景技術】
【0002】
案内レールに沿って直線軌道上を転動するように構成された球体やローラあるいは車輪などの転動体を用いた転がり系の免震装置は、従来から広く知られている。この案内レールに沿って直線軌道上を転動する転動体を用いた免震装置の場合には、その免震作用に方向性が存在するため、それらの案内レールと転動体との組合わせからなる免震ユニットを互いに直交する状態に配設することにより、あらゆる方向の外力に対して対応できるように構成することも、従来から広く知られている(特許文献1、特許文献2参照)。
【特許文献1】特公平6−74609号公報
【特許文献2】特開2005−48837号公報
【0003】
図13は免震建築物を例示した概略正面図であり、図14はその免震装置の配置状態を示した概略平面図である。図示のように、本例の免震建築物101の場合には、2階部分102が中心からずれているため、免震建築物101全体の重心Gの位置は、本例では4つの免震ユニット103a〜dにより形成される全体の免震装置によって支える免震建築物101に対する支持中心Cとは一致しない。したがって、例えば図14に示したように地震力等の外力Fが作用した場合には、免震建築物101側には支持体側の支持中心Cに対して偏心している重心Gに外力が作用することになることから、免震建築物101に対して前記支持中心Cを支点とした回転モーメントが作用することになる。その結果、上部構造物としての免震建築物101は、前記支持中心Cを通る垂直軸回りに回動し、いわゆるヨーイング現象が生起することになる。
【0004】
ところで、前記従来技術の場合には免震ユニットを互いに直交する状態に配設したことから、あらゆる方向の外力に対して対応できるものの、上述のヨーイング現象に対する防止対策に関しては十分ではなかった。そこで、平行に対向設置した案内レールに対してそれぞれ2個一組の車輪からなる転動体を配設するとともに、それらの各車輪にフランジを設けることにより、軌道拘束性を高めてヨーイング現象を防止しようというものも提案されている(特許文献3参照)。しかしながら、この従来技術の場合には、構造が複雑でコスト高の要因になるだけでなく、適用し得る形態が限られてしまうため、適用上の自由度が狭められてしまうという技術的難点があった。
【特許文献3】特許第3233915号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上のような従来の技術的状況に鑑みて開発したもので、より簡単な構成によってヨーイング現象を的確に防止できる免震装置を提供し、延いてはコストの削減や、適用上の自由度の拡大にも資することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、請求項1の発明では、少なくとも上方から見た平面視において直線的な案内機能を有する下部案内レール及び上部案内レールと、それらの上下の案内レールの間に互いに離間した状態に配設された2個以上の転動体を備え、それらの離間した転動体を介して作用する、上下の案内レール相互間の水平方向の相対的な回動に対する抑制作用により、上部構造物のヨーイング現象を抑制するという技術手段を採用した。因みに、請求項1の発明では、上方から見た平面視において直線的な案内機能を有する下部案内レール及び上部案内レールを対象としたものであり、下部案内レール及び上部案内レールが復帰機能のために上下方向の変位を含む場合も含まれる。要は、平面視において直線的な案内機能を有する下部案内レールと上部案内レールとの間に離間した状態で配設される2個以上の転動体に基づく両案内レールに対する楔的な軌道拘束力によって、上下の案内レール相互間の水平方向の相対的な回動を抑制し、上部構造物のヨーイング現象を抑制するものであればよい。なお、前記上下の各案内レールは、それぞれ直線上に配設した2本以上のレール部材を使用して構成することも可能である(請求項2)。また、前記上下の案内レールの間に互いに離間した2個以上の転動体を配設してなる免震ユニットを用いて、互いに直交する状態に配設するようにすれば、いかなる方向の外力に対しても対応できるとともに、上部構造物のヨーイング現象を抑制することも可能である(請求項3)。さらに、上下の免震ユニットの交差部が常に下方の免震ユニットを構成する互いに離間した2個の転動体の間に位置するように構成すれば、上部構造物側の荷重を常に2個の転動体の間で受止めることができるので、免震装置に対する転倒モーメントが回避され、案内レールの固定部材に対する引抜き力も低減できる(請求項4)。因みに、転動体としては球体が好適であり、球体が案内レールに形成した案内溝に係合しながら転動するように構成することも可能である(請求項5)。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、次の効果を得ることができる。
(1)直線的な案内機能を有する上下の案内レールの間に2個以上の転動体を互いに離間した状態に配設するというきわめて簡便な構成により、上部構造物のヨーイング現象を的確に抑制することができる。
(2)構成がきわめて簡便なことから、コストの削減が可能であるとともに、適用上の自由度の拡大に有効である。
(3)上下の免震ユニットの交差部が常に下方の免震ユニットを構成する離間した2個の転動体の間に位置するように構成すれば、上部構造物の荷重が常に離間した2個の転動体の間に作用し、装置の転倒が回避されるとともに、案内レールの固定部材に対する過大な引抜き力が解消され、より安定した免震性能を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明に係る免震装置は、支持体側である地盤等の下部構造物側と被支持体側である躯体等の上部構造物側との間に設置して各種の建造物用の免震装置として広く適用することが可能である。場合に応じ、躯体の中間に設置することも可能である。さらに、例えばコンピュータ室のように既存あるいは新設の建造物の一室の床部の下方に設置して、当該室内のハードウェア機器等を保護する場合や、既存あるいは新設の建造物の内部に設置する展示物支持用の上部構造物と床部との間に設置して、美術品等の当該展示物を保護する場合などにも広く適用することが可能である。前記転動体としては球体が好適であるが、テーパ部で案内レール側と当接するローラ状の転動体(特許文献2参照)や、車輪状の転動体などの他の形態の転動体の採用も可能である。また、案内レールに関しては、断面形状がV字状や円弧状などの溝部に沿って転動体を直線的に案内する形態のものや、レール部を跨いだ状態で両側の縁部に転動体を係合させながら直線的に転動するように案内する形態のものなどの採用が可能である。要は、少なくとも上面から見た平面視において直線的な案内機能を有する案内レールと、その案内レールによって直線的に案内される転動体の組合わせであれば、適宜の形態の採用が可能である。また、上下の各案内レールは、上下それぞれ1本の連続したレール部材から構成したものでもよいし、直線上に配設した2本以上のレール部材を使用して構成したものでもよい。
【実施例】
【0009】
以下、図面に基づいて本発明の実施例に関して説明する。図1及び図2は本発明の第1実施例を示したもので、図1はその設置状態を示した正面図、図2は免震装置の部分を示した平面図である。図中1は本実施例に係る免震装置1で、下部構造物2と上部構造物3との間に設置され、それらの下部構造物2と上部構造物3との間を絶縁して免震機能を奏することになる。図示のように、本実施例に係る免震装置1は、十字状の平板からなる中間部材4を挟んで、その十字状の下面及び上面に沿って、それぞれ2個ずつ直線上に配列させた免震ユニット5,6と、免震ユニット7,8とを直交した状態に配設することにより構成される。図3〜図5は免震ユニット5〜8の要部の構成を拡大して示したものであり、図3はその正面図、図4は側面図、図5はA−A断面図である。図示のように、免震ユニット5〜8は、それぞれ本実施例ではV字状の溝部を備えた下部レール部材9及び上部レール部材10と、それらの上下のレール部材9,10の間に配設され、V字状の溝部に沿って直線的に案内される転動体としての球体11との組合わせから構成される。しかして、本実施例の場合においては、中間部材4の下部に直線上に配設された前記免震ユニット5と免震ユニット6のそれぞれの構成要素である2本の下部レール部材9の組合わせによって、直線的な案内機能を有する下部案内レールが構成され、同様にそれらの免震ユニット5と免震ユニット6のそれぞれの構成要素である2本の上部レール部材10の組合わせによって、直線的な案内機能を有する上部案内レールが構成されることになる。また、免震ユニット5と免震ユニット6のそれぞれの構成要素である2個の球体11によって、互いに離間した2個の転動体が構成されることになる。同様に、中間部材4の上部に直線上に配設された前記免震ユニット7と免震ユニット8のそれぞれの構成要素である2本の下部レール部材9の組合わせによって、直交状態に配設された他方の下部案内レールが構成され、それらの免震ユニット7と免震ユニット8のそれぞれの構成要素である2本の上部レール部材10の組合わせによって、他方の上部案内レールが構成されるとともに、免震ユニット7と免震ユニット8のそれぞれの構成要素である2個の球体11によって、互いに離間した2個の転動体が構成されることになる。
【0010】
次に、前記第1実施例に係る免震装置1の免震動作に関して説明する。図6はその免震装置1の動作状態を示した動作説明図である。図示のように、上部構造物3に対して水平方向の外力Fが作用した場合には、前記免震ユニット5と免震ユニット6の球体11がそれぞれ上下のレール部材9,10のV字状の溝部に係合しながら直線的に転動し、上部構造物3が下部構造物2に対して水平方向に相対的に移動することになる。ところで、この相対的な移動に際して、前述のように、上部構造物3の重心Gとその上部構造物3を支持する各免震装置1によって構成される支持体側の支持中心Cとの間に位置ずれがある場合には、上部構造物3のヨーイング現象の原因となる回転モーメントが作用することになるが、本実施例の場合には、球体11同士が互いに離間した状態で上下のレール部材9,10のV字状の溝部に係合していることから、前記回転モーメントに対抗してヨーイング現象の発生を抑制することになる。すなわち、互いに離間した球体11による軌道拘束力に基づいて、直線上に配設された2本の下部レール部材9の組合わせからなる下部案内レールと、直線上に配設された2本の上部レール部材10の組合わせからなる上部案内レールとの位置関係が確実に保持され、それらの下部案内レールと上部案内レールとの間の水平方向の回動が的確に抑制されるので、きわめて簡便な構成に拘らず、上部構造物3のヨーイング現象を的確に解消することが可能である。因みに、以上の場合には、免震ユニット5〜8においてヨーイング現象に対する同様の抑制機能を奏する。さらに、図示のように、下方の免震ユニット5,6と上方の免震ユニット7,8との交差部が常に下方の免震ユニット5,6を構成する離間した2個の球体11の間に位置するので、上部構造物3の荷重が常にそれらの離間した転動体としての2個の球体11の間に作用し、免震装置1の転倒が回避されるとともに、案内レールを構成する下部レール部材9の固定部材に対する過大な引抜き力が解消され、より安定した免震性能を得ることができる。
【0011】
図7及び図8は本発明の第2実施例を示したもので、図7はその設置状態を示した正面図、図8は免震装置の部分を示した平面図である。本実施例に係る免震装置12は、前記免震ユニット5〜8と同様の免震ユニットを使用し、それらの免震ユニット5,6を構成するそれぞれの下部レール部材9の端部相互間と上部レール部材10の端部相互間を連結部材13,14により連結して下部案内レールと上部案内レールを構成するとともに、免震ユニット7,8に関しても同様に連結することにより下部案内レールと上部案内レールを構成したものであり、さらにそれらを図示のように直交状態に配設して十字状に結合することにより、前記第1実施例と同様の機能を奏するように構成したものである。なお、本実施例では、上下の案内レールを直交状態に配設する際に、中間部材は用いずに直接的に結合する場合を示した。因みに、場合に応じて下部レール部材9や上部レール部材10の長さを調整し得ることはいうまでもない。
【0012】
図9及び図10は本発明の第3実施例を示したもので、図9はその設置状態を示した正面図、図10は免震装置の部分を示した平面図である。本実施例に係る免震装置15は、1本の長尺のレール部材からなる下部案内レール16と上部案内レール17との組合わせを採用し、それらの下部案内レール16と上部案内レール17との間に互いに離間した状態に転動体としての球体18を2個以上配設することにより、下部免震ユニット19と上部免震ユニット20を構成し、図示のようにそれらの下部免震ユニット19と上部免震ユニット20とを直交状態に配設して十字状に結合することにより、前記第1実施例と同様の機能を奏するように構成したものである。すなわち、前記第1実施例及び第2実施例では、2個の球体11を支持案内するための案内レールを、直線上に配設された2組の免震ユニットのそれぞれの構成要素である2本の上下レール部材を組合わせて用いることにより構成した場合を示したが、本実施例は、長尺の上下レール部材からなる1組の免震ユニットを用い、1本のレール部材からなる案内レールによって2個の球体18を同時に支持案内し得るように構成した場合を示したものである。
【0013】
なお、図11は前記第3実施例の変形例の設置状態を示した正面図であり、前記下部案内レール16と上部案内レール17の中央部と両端部に係止部21〜23を設けて球体18の移動範囲を規制するように構成し、もって上下の免震ユニット19,20の交差部を常に下方の免震ユニット19を構成する離間した転動体としての2個の球体18の間に位置せしめて、前記免震装置15の転倒を回避し得るように構成したものである。因みに、この係止部に関しては、2個の球体18の間の中央部に設置した係止部21だけでも、それらの球体18の移動範囲を規制する上で有効である。また、本変形例は前記第2実施例にも有効に適用できる。
【0014】
図12は本発明を適用した実用上の実施例を示した斜視図であり、前記第2実施例の基本的な構成を適用したものである。図示のように、本実施例に係る免震装置24は、十字状のフレームからなる中間部材25を挟んで、その中間部材25の下部に2個の免震ユニット26,27を連結した状態に設置するとともに、上部に2個の免震ユニット28,29を連結した状態に設置することにより構成したものである。なお、図中30は転動体としての球体を示したものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1実施例の設置状態を示した正面図である。
【図2】同実施例を示した平面図である。
【図3】免震ユニットの要部の構成を拡大して正面図である。
【図4】同免震ユニットを示した側面図である。
【図5】同免震ユニットを示したA−A断面図である。
【図6】前記第1実施例に係る免震装置の動作状態を示した動作説明図である。
【図7】本発明の第2実施例の設置状態を示した正面図である。
【図8】同実施例の免震装置の部分を示した平面図である。
【図9】本発明の第3実施例の設置状態を示した正面図である。
【図10】同実施例の免震装置の部分を示した平面図である。
【図11】同実施例の変形例の設置状態を示した正面図である。
【図12】本発明を適用した実用上の実施例を示した斜視図である。
【図13】ヨーイング現象を説明するための免震建築物の正面図である。
【図14】ヨーイング現象を説明するための免震装置に関する配置図である。
【符号の説明】
【0016】
1…免震装置、2…下部構造物、3…上部構造物、4…中間部材、5〜8…免震ユニット、9…下部レール部材、10…上部レール部材、11…球体、12…免震装置、13,14…連結部材、15…免震装置、16…下部案内レール、17…上部案内レール、18…球体、19…下部免震ユニット、20…上部免震ユニット、21〜23…係止部、24…免震装置、25…中間部材、26〜29…免震ユニット、30…球体
【技術分野】
【0001】
本発明は、被支持体側と支持体側との間に設置する免震装置に関する。より詳しくは、免震作用と共に被支持体側の上部構造物に派生するヨーイング現象を防止して、より安定した免震作用を得られるように改良した免震装置に関する。
【背景技術】
【0002】
案内レールに沿って直線軌道上を転動するように構成された球体やローラあるいは車輪などの転動体を用いた転がり系の免震装置は、従来から広く知られている。この案内レールに沿って直線軌道上を転動する転動体を用いた免震装置の場合には、その免震作用に方向性が存在するため、それらの案内レールと転動体との組合わせからなる免震ユニットを互いに直交する状態に配設することにより、あらゆる方向の外力に対して対応できるように構成することも、従来から広く知られている(特許文献1、特許文献2参照)。
【特許文献1】特公平6−74609号公報
【特許文献2】特開2005−48837号公報
【0003】
図13は免震建築物を例示した概略正面図であり、図14はその免震装置の配置状態を示した概略平面図である。図示のように、本例の免震建築物101の場合には、2階部分102が中心からずれているため、免震建築物101全体の重心Gの位置は、本例では4つの免震ユニット103a〜dにより形成される全体の免震装置によって支える免震建築物101に対する支持中心Cとは一致しない。したがって、例えば図14に示したように地震力等の外力Fが作用した場合には、免震建築物101側には支持体側の支持中心Cに対して偏心している重心Gに外力が作用することになることから、免震建築物101に対して前記支持中心Cを支点とした回転モーメントが作用することになる。その結果、上部構造物としての免震建築物101は、前記支持中心Cを通る垂直軸回りに回動し、いわゆるヨーイング現象が生起することになる。
【0004】
ところで、前記従来技術の場合には免震ユニットを互いに直交する状態に配設したことから、あらゆる方向の外力に対して対応できるものの、上述のヨーイング現象に対する防止対策に関しては十分ではなかった。そこで、平行に対向設置した案内レールに対してそれぞれ2個一組の車輪からなる転動体を配設するとともに、それらの各車輪にフランジを設けることにより、軌道拘束性を高めてヨーイング現象を防止しようというものも提案されている(特許文献3参照)。しかしながら、この従来技術の場合には、構造が複雑でコスト高の要因になるだけでなく、適用し得る形態が限られてしまうため、適用上の自由度が狭められてしまうという技術的難点があった。
【特許文献3】特許第3233915号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上のような従来の技術的状況に鑑みて開発したもので、より簡単な構成によってヨーイング現象を的確に防止できる免震装置を提供し、延いてはコストの削減や、適用上の自由度の拡大にも資することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、請求項1の発明では、少なくとも上方から見た平面視において直線的な案内機能を有する下部案内レール及び上部案内レールと、それらの上下の案内レールの間に互いに離間した状態に配設された2個以上の転動体を備え、それらの離間した転動体を介して作用する、上下の案内レール相互間の水平方向の相対的な回動に対する抑制作用により、上部構造物のヨーイング現象を抑制するという技術手段を採用した。因みに、請求項1の発明では、上方から見た平面視において直線的な案内機能を有する下部案内レール及び上部案内レールを対象としたものであり、下部案内レール及び上部案内レールが復帰機能のために上下方向の変位を含む場合も含まれる。要は、平面視において直線的な案内機能を有する下部案内レールと上部案内レールとの間に離間した状態で配設される2個以上の転動体に基づく両案内レールに対する楔的な軌道拘束力によって、上下の案内レール相互間の水平方向の相対的な回動を抑制し、上部構造物のヨーイング現象を抑制するものであればよい。なお、前記上下の各案内レールは、それぞれ直線上に配設した2本以上のレール部材を使用して構成することも可能である(請求項2)。また、前記上下の案内レールの間に互いに離間した2個以上の転動体を配設してなる免震ユニットを用いて、互いに直交する状態に配設するようにすれば、いかなる方向の外力に対しても対応できるとともに、上部構造物のヨーイング現象を抑制することも可能である(請求項3)。さらに、上下の免震ユニットの交差部が常に下方の免震ユニットを構成する互いに離間した2個の転動体の間に位置するように構成すれば、上部構造物側の荷重を常に2個の転動体の間で受止めることができるので、免震装置に対する転倒モーメントが回避され、案内レールの固定部材に対する引抜き力も低減できる(請求項4)。因みに、転動体としては球体が好適であり、球体が案内レールに形成した案内溝に係合しながら転動するように構成することも可能である(請求項5)。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、次の効果を得ることができる。
(1)直線的な案内機能を有する上下の案内レールの間に2個以上の転動体を互いに離間した状態に配設するというきわめて簡便な構成により、上部構造物のヨーイング現象を的確に抑制することができる。
(2)構成がきわめて簡便なことから、コストの削減が可能であるとともに、適用上の自由度の拡大に有効である。
(3)上下の免震ユニットの交差部が常に下方の免震ユニットを構成する離間した2個の転動体の間に位置するように構成すれば、上部構造物の荷重が常に離間した2個の転動体の間に作用し、装置の転倒が回避されるとともに、案内レールの固定部材に対する過大な引抜き力が解消され、より安定した免震性能を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明に係る免震装置は、支持体側である地盤等の下部構造物側と被支持体側である躯体等の上部構造物側との間に設置して各種の建造物用の免震装置として広く適用することが可能である。場合に応じ、躯体の中間に設置することも可能である。さらに、例えばコンピュータ室のように既存あるいは新設の建造物の一室の床部の下方に設置して、当該室内のハードウェア機器等を保護する場合や、既存あるいは新設の建造物の内部に設置する展示物支持用の上部構造物と床部との間に設置して、美術品等の当該展示物を保護する場合などにも広く適用することが可能である。前記転動体としては球体が好適であるが、テーパ部で案内レール側と当接するローラ状の転動体(特許文献2参照)や、車輪状の転動体などの他の形態の転動体の採用も可能である。また、案内レールに関しては、断面形状がV字状や円弧状などの溝部に沿って転動体を直線的に案内する形態のものや、レール部を跨いだ状態で両側の縁部に転動体を係合させながら直線的に転動するように案内する形態のものなどの採用が可能である。要は、少なくとも上面から見た平面視において直線的な案内機能を有する案内レールと、その案内レールによって直線的に案内される転動体の組合わせであれば、適宜の形態の採用が可能である。また、上下の各案内レールは、上下それぞれ1本の連続したレール部材から構成したものでもよいし、直線上に配設した2本以上のレール部材を使用して構成したものでもよい。
【実施例】
【0009】
以下、図面に基づいて本発明の実施例に関して説明する。図1及び図2は本発明の第1実施例を示したもので、図1はその設置状態を示した正面図、図2は免震装置の部分を示した平面図である。図中1は本実施例に係る免震装置1で、下部構造物2と上部構造物3との間に設置され、それらの下部構造物2と上部構造物3との間を絶縁して免震機能を奏することになる。図示のように、本実施例に係る免震装置1は、十字状の平板からなる中間部材4を挟んで、その十字状の下面及び上面に沿って、それぞれ2個ずつ直線上に配列させた免震ユニット5,6と、免震ユニット7,8とを直交した状態に配設することにより構成される。図3〜図5は免震ユニット5〜8の要部の構成を拡大して示したものであり、図3はその正面図、図4は側面図、図5はA−A断面図である。図示のように、免震ユニット5〜8は、それぞれ本実施例ではV字状の溝部を備えた下部レール部材9及び上部レール部材10と、それらの上下のレール部材9,10の間に配設され、V字状の溝部に沿って直線的に案内される転動体としての球体11との組合わせから構成される。しかして、本実施例の場合においては、中間部材4の下部に直線上に配設された前記免震ユニット5と免震ユニット6のそれぞれの構成要素である2本の下部レール部材9の組合わせによって、直線的な案内機能を有する下部案内レールが構成され、同様にそれらの免震ユニット5と免震ユニット6のそれぞれの構成要素である2本の上部レール部材10の組合わせによって、直線的な案内機能を有する上部案内レールが構成されることになる。また、免震ユニット5と免震ユニット6のそれぞれの構成要素である2個の球体11によって、互いに離間した2個の転動体が構成されることになる。同様に、中間部材4の上部に直線上に配設された前記免震ユニット7と免震ユニット8のそれぞれの構成要素である2本の下部レール部材9の組合わせによって、直交状態に配設された他方の下部案内レールが構成され、それらの免震ユニット7と免震ユニット8のそれぞれの構成要素である2本の上部レール部材10の組合わせによって、他方の上部案内レールが構成されるとともに、免震ユニット7と免震ユニット8のそれぞれの構成要素である2個の球体11によって、互いに離間した2個の転動体が構成されることになる。
【0010】
次に、前記第1実施例に係る免震装置1の免震動作に関して説明する。図6はその免震装置1の動作状態を示した動作説明図である。図示のように、上部構造物3に対して水平方向の外力Fが作用した場合には、前記免震ユニット5と免震ユニット6の球体11がそれぞれ上下のレール部材9,10のV字状の溝部に係合しながら直線的に転動し、上部構造物3が下部構造物2に対して水平方向に相対的に移動することになる。ところで、この相対的な移動に際して、前述のように、上部構造物3の重心Gとその上部構造物3を支持する各免震装置1によって構成される支持体側の支持中心Cとの間に位置ずれがある場合には、上部構造物3のヨーイング現象の原因となる回転モーメントが作用することになるが、本実施例の場合には、球体11同士が互いに離間した状態で上下のレール部材9,10のV字状の溝部に係合していることから、前記回転モーメントに対抗してヨーイング現象の発生を抑制することになる。すなわち、互いに離間した球体11による軌道拘束力に基づいて、直線上に配設された2本の下部レール部材9の組合わせからなる下部案内レールと、直線上に配設された2本の上部レール部材10の組合わせからなる上部案内レールとの位置関係が確実に保持され、それらの下部案内レールと上部案内レールとの間の水平方向の回動が的確に抑制されるので、きわめて簡便な構成に拘らず、上部構造物3のヨーイング現象を的確に解消することが可能である。因みに、以上の場合には、免震ユニット5〜8においてヨーイング現象に対する同様の抑制機能を奏する。さらに、図示のように、下方の免震ユニット5,6と上方の免震ユニット7,8との交差部が常に下方の免震ユニット5,6を構成する離間した2個の球体11の間に位置するので、上部構造物3の荷重が常にそれらの離間した転動体としての2個の球体11の間に作用し、免震装置1の転倒が回避されるとともに、案内レールを構成する下部レール部材9の固定部材に対する過大な引抜き力が解消され、より安定した免震性能を得ることができる。
【0011】
図7及び図8は本発明の第2実施例を示したもので、図7はその設置状態を示した正面図、図8は免震装置の部分を示した平面図である。本実施例に係る免震装置12は、前記免震ユニット5〜8と同様の免震ユニットを使用し、それらの免震ユニット5,6を構成するそれぞれの下部レール部材9の端部相互間と上部レール部材10の端部相互間を連結部材13,14により連結して下部案内レールと上部案内レールを構成するとともに、免震ユニット7,8に関しても同様に連結することにより下部案内レールと上部案内レールを構成したものであり、さらにそれらを図示のように直交状態に配設して十字状に結合することにより、前記第1実施例と同様の機能を奏するように構成したものである。なお、本実施例では、上下の案内レールを直交状態に配設する際に、中間部材は用いずに直接的に結合する場合を示した。因みに、場合に応じて下部レール部材9や上部レール部材10の長さを調整し得ることはいうまでもない。
【0012】
図9及び図10は本発明の第3実施例を示したもので、図9はその設置状態を示した正面図、図10は免震装置の部分を示した平面図である。本実施例に係る免震装置15は、1本の長尺のレール部材からなる下部案内レール16と上部案内レール17との組合わせを採用し、それらの下部案内レール16と上部案内レール17との間に互いに離間した状態に転動体としての球体18を2個以上配設することにより、下部免震ユニット19と上部免震ユニット20を構成し、図示のようにそれらの下部免震ユニット19と上部免震ユニット20とを直交状態に配設して十字状に結合することにより、前記第1実施例と同様の機能を奏するように構成したものである。すなわち、前記第1実施例及び第2実施例では、2個の球体11を支持案内するための案内レールを、直線上に配設された2組の免震ユニットのそれぞれの構成要素である2本の上下レール部材を組合わせて用いることにより構成した場合を示したが、本実施例は、長尺の上下レール部材からなる1組の免震ユニットを用い、1本のレール部材からなる案内レールによって2個の球体18を同時に支持案内し得るように構成した場合を示したものである。
【0013】
なお、図11は前記第3実施例の変形例の設置状態を示した正面図であり、前記下部案内レール16と上部案内レール17の中央部と両端部に係止部21〜23を設けて球体18の移動範囲を規制するように構成し、もって上下の免震ユニット19,20の交差部を常に下方の免震ユニット19を構成する離間した転動体としての2個の球体18の間に位置せしめて、前記免震装置15の転倒を回避し得るように構成したものである。因みに、この係止部に関しては、2個の球体18の間の中央部に設置した係止部21だけでも、それらの球体18の移動範囲を規制する上で有効である。また、本変形例は前記第2実施例にも有効に適用できる。
【0014】
図12は本発明を適用した実用上の実施例を示した斜視図であり、前記第2実施例の基本的な構成を適用したものである。図示のように、本実施例に係る免震装置24は、十字状のフレームからなる中間部材25を挟んで、その中間部材25の下部に2個の免震ユニット26,27を連結した状態に設置するとともに、上部に2個の免震ユニット28,29を連結した状態に設置することにより構成したものである。なお、図中30は転動体としての球体を示したものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1実施例の設置状態を示した正面図である。
【図2】同実施例を示した平面図である。
【図3】免震ユニットの要部の構成を拡大して正面図である。
【図4】同免震ユニットを示した側面図である。
【図5】同免震ユニットを示したA−A断面図である。
【図6】前記第1実施例に係る免震装置の動作状態を示した動作説明図である。
【図7】本発明の第2実施例の設置状態を示した正面図である。
【図8】同実施例の免震装置の部分を示した平面図である。
【図9】本発明の第3実施例の設置状態を示した正面図である。
【図10】同実施例の免震装置の部分を示した平面図である。
【図11】同実施例の変形例の設置状態を示した正面図である。
【図12】本発明を適用した実用上の実施例を示した斜視図である。
【図13】ヨーイング現象を説明するための免震建築物の正面図である。
【図14】ヨーイング現象を説明するための免震装置に関する配置図である。
【符号の説明】
【0016】
1…免震装置、2…下部構造物、3…上部構造物、4…中間部材、5〜8…免震ユニット、9…下部レール部材、10…上部レール部材、11…球体、12…免震装置、13,14…連結部材、15…免震装置、16…下部案内レール、17…上部案内レール、18…球体、19…下部免震ユニット、20…上部免震ユニット、21〜23…係止部、24…免震装置、25…中間部材、26〜29…免震ユニット、30…球体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも平面視において直線的な案内機能を有する下部案内レール及び上部案内レールと、それらの上下の案内レールの間に互いに離間した状態に配設された2個以上の転動体を備え、それらの離間した転動体を介して作用する、上下の案内レール相互間の水平方向の相対的な回動に対する抑制作用により、上部構造物のヨーイング現象を抑制するように構成したことを特徴とする免震装置。
【請求項2】
前記上下の各案内レールを直線上に配設した2本以上のレール部材から構成したことを特徴とする請求項1に記載の免震装置。
【請求項3】
前記上下の案内レールの間に互いに離間した2個以上の転動体を配設してなる免震ユニットを互いに直交する状態に配設したことを特徴とする請求項1又は2に記載の免震装置。
【請求項4】
上下の免震ユニットの交差部が常に下方の免震ユニットを構成する互いに離間した2個の転動体の間に位置するように構成したことを特徴とする請求項3に記載の免震装置。
【請求項5】
前記転動体として球体を採用し、該球体が前記案内レールに形成した案内溝に係合しながら転動するように構成したことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の免震装置。
【請求項1】
少なくとも平面視において直線的な案内機能を有する下部案内レール及び上部案内レールと、それらの上下の案内レールの間に互いに離間した状態に配設された2個以上の転動体を備え、それらの離間した転動体を介して作用する、上下の案内レール相互間の水平方向の相対的な回動に対する抑制作用により、上部構造物のヨーイング現象を抑制するように構成したことを特徴とする免震装置。
【請求項2】
前記上下の各案内レールを直線上に配設した2本以上のレール部材から構成したことを特徴とする請求項1に記載の免震装置。
【請求項3】
前記上下の案内レールの間に互いに離間した2個以上の転動体を配設してなる免震ユニットを互いに直交する状態に配設したことを特徴とする請求項1又は2に記載の免震装置。
【請求項4】
上下の免震ユニットの交差部が常に下方の免震ユニットを構成する互いに離間した2個の転動体の間に位置するように構成したことを特徴とする請求項3に記載の免震装置。
【請求項5】
前記転動体として球体を採用し、該球体が前記案内レールに形成した案内溝に係合しながら転動するように構成したことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の免震装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2007−239762(P2007−239762A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−58783(P2006−58783)
【出願日】平成18年3月5日(2006.3.5)
【出願人】(000000446)岡部株式会社 (277)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年3月5日(2006.3.5)
【出願人】(000000446)岡部株式会社 (277)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】
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