入力信号と基準周波数との周波数差を得る方法並びにこの方法を実行する弁別装置、GPS受信機及びコンピュータプログラム
【課題】動作範囲内で線形応答を示す、周波数弁別器を提供する。
【解決手段】実際の数の標本点の二倍である一群の点上での離散フーリエ変換に対する様な回転因子に通常の回転因子が置き換えられている離散フーリエ変換の変形に基づく周波数弁別器。その様に変更された離散フーリエ変換は、計算負担を殆ど追加することなく半ビン周波数弁別を可能にする。ゼロ周波数に関して半ビンだけ偏移された二つの離散フーリエ変換は、弁別の線形応答と雑音に対する良好な耐性とを与える。この弁別器は、GPS受信機中で信号を追尾するためのFLL中で特に有用である。
【解決手段】実際の数の標本点の二倍である一群の点上での離散フーリエ変換に対する様な回転因子に通常の回転因子が置き換えられている離散フーリエ変換の変形に基づく周波数弁別器。その様に変更された離散フーリエ変換は、計算負担を殆ど追加することなく半ビン周波数弁別を可能にする。ゼロ周波数に関して半ビンだけ偏移された二つの離散フーリエ変換は、弁別の線形応答と雑音に対する良好な耐性とを与える。この弁別器は、GPS受信機中で信号を追尾するためのFLL中で特に有用である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号の周波数を推定する方法とその対応装置とに関するものである。それのみではないが、詳細には、本発明は、例えば一つ以上のGPS(全地球測位システム)衛星から発せられる信号または別の無線局所化システムに伴われる信号の様な、局所化信号の捕捉及び追尾への前述の方法及び装置の応用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
周波数推定、特に正弦波信号の周波数推定、は多くの応用で使用される操作である。
【0003】
機能的に言うと、周波数弁別器という用語は、本明細書中では、標本化信号を含むベクトルに適用されてその信号自体の基本周波数を推定することができるアルゴリズムまたは数学的演算を示すために使われている。同様に、周波数弁別器という用語は、本発明の文脈中では、例えば一連の時間標本によって表されている信号の周波数を判定するためのソフトウェアの一部を示してもよい。周波数弁別器という用語は、下記においては、装置に言及されると、アナログ信号またはデジタル信号の入力に存在している基本周波数を推定する様に構成されているかまたはプログラムされている電子回路の要素をも示している。
【0004】
周波数弁別器の利用に関する例は、図1中に概略的に表されているFLL(周波数ロックループ)である。この例では、到来信号42が局部発振器44の信号と混合器45中で結合される。その結果の差周波数は周波数弁別器47に加えられる。この周波数弁別器の結果は、原則として入力の基本周波数に比例しており、局部発振器が受信信号と同じ周波数で同調される様に濾波器49を含む帰還ループ中の局部発振器を駆動するために使用される。
【0005】
周波数弁別器の重要な応用は、GPS受信機の搬送波追尾ループ中にある。GPS受信機の動作には、通常は、宇宙機から受信される信号が探索される捕捉モードと、捕捉された信号が搬送周波数または搬送位相と符号位相との両方において追跡される追尾モードとがある。
【0006】
GPSシステム中で宇宙機から受信される信号の周波数は、原理的に、一群の器械誤差例えば局部発振器の周波数バイアス及び周波数ドリフトによって、並びに宇宙機と受信機との間の相対的な速度に関連しており宇宙機の追尾を維持して位置の判定に到達するためには適切に測定されなければならない物理的なドップラー偏移によって、影響を受ける。このことは、PLL帰還ループ及びFLL帰還ループによって、GPS受信機中で一般に認識されている。
【0007】
通常、FLLループは、その優れた雑音耐性のために捕捉位相の間使用される。信号強度が十分であれば、PLLはより良い追尾性能を提供する。FLL帰還モードは、弱い信号を追尾するために、また、受信機の動きによる動的なピークの間、PLLの代用としてしばしば提供される。
【0008】
多くの応用では、周波数の数学的定義を位相の時間導関数f=ψ′として適用することによって周波数推定が行われている。そして、位相の増加比率が周波数の推定量と見なされる。
【数1】
【0009】
しかし、位相信号を明確には検出することができない、雑音がある閾値を超える場合には、このアプローチは実際には利用することができない。
【0010】
別の考えられる方法は、入力信号の一つ以上のDFT(離散フーリエ変換)の抽出を含んでいる。しかし、その様な方法に基づく周波数弁別器は、後にもっと詳細に説明される様に、非線形性つまり不安定性によって、特にゼロ周波数の近傍において、悪影響を受ける。
【0011】
従って、この種の公知の方法及び装置における短所のない周波数弁別器を提供することが、本発明の目的である。
【0012】
動作範囲内で線形応答を示す周波数弁別器を提供することが、本発明の更なる目的である。
【0013】
雑音耐性の優れた周波数弁別器を提供することが、本発明の別の目的である。
【発明の概要】
【0014】
上記の目的は、添付の独立の方法請求項の特徴を有する周波数弁別方法によって、並びにその対応する装置及びソフトウェアによって、達成される。更なる任意の特徴が、従属請求項の目的である。
【0015】
本発明は、明細書中に提示されており且つ図面によって図解されている例によって一層十分に理解される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】周波数弁別器を含んでいる公知の周波数ロックループを図式的に示している。
【図2】三つの隣接周波数ビンに向けられている三つの離散フーリエ変換演算の伝達関数の絶対値を表している。
【図3】理想的な無雑音状態における、図2の離散フーリエ変換のうちの二つに基づく周波数弁別器の応答を示している。
【図4】図3の弁別器の利得を示している。
【図5】正規分布雑音の存在下における、図3の弁別器の動きを示している。
【図6】理想的な無雑音状態における、図2の三つの離散フーリエ変換に基づく周波数弁別器の応答を示している。
【図7】正規分布雑音の存在下における、図6の周波数弁別器の動きを示している。
【図8】半周波数ビンだけ偏移された三つの離散フーリエ変換演算の絶対値を示している。
【図9】図8の両端の二つの離散フーリエ変換に基づく周波数弁別器の応答を示している。
【図10】図8の弁別器の利得を示している。
【図11】正規分布雑音の存在下における、図8の周波数弁別器の動きを示している。
【図12】本発明の見地に従うGPS受信機の受信及び追尾モジュールを図式的に示している。
【図13】図12の受信機に含まれている周波数弁別器モジュールを図式的に表している。
【詳細な説明】
【0017】
デジタル信号に対する周波数弁別器を実現するために離散フーリエ変換(DFT)を使用することが知られている。概念的には、この種の弁別器は、異なる周波数に向けられている少なくとも二つの別個の離散フーリエ変換演算の出力を比較するという原理に基づいている。
【0018】
離散フーリエ変換は、フーリエ変換の一つの単一要素に等価な入力信号の単一スペクトル成分の離散的な推定である。
【0019】
もっと正確には、{xi}が複素信号のN個の標本に対応している複素数値の離散系列であれば、{xi}のチャネル−k離散フーリエ変換は、
【数2】
【0020】
か、または、簡潔な形式である
【数3】
【0021】
によって定義され、ここで、
【数4】
【0022】
である。
【0023】
従って、離散フーリエ変換は、「回転因子」としても示されている重みWが、kの増分毎に取り出されている、複素数体中における1のN個の次数Nの別個の根である、標本xiの一次結合と考えることができる。
【0024】
今度は図2を参照すると、夫々k=−1、k=0、k=1に対応する三つの連続する周波数ビンに向けられている三つの別個の離散フーリエ変換演算子50a、50b、50cの周波数応答を認識することができる.解析的には、標本が等間隔であり且つ標本化周期をTで示せば、各々の離散フーリエ変換の振幅応答曲線は、
【数5】
【0025】
で与えられる。
【0026】
その結果、各々の離散フーリエ変換の応答には、f=k/NTにおける中央ピーク502と二次極大504とがある。離散フーリエ変換演算子の応答は、中央ピーク周波数から離れている、離散フーリエ変換ビン幅1/NTの何れの周波数逓倍に対しても、厳密にゼロである。
【0027】
絶対値の抽出は、複素離散フーリエ変換出力の実数非負振幅値を抽出するために使用されている。
【0028】
離散フーリエ変換周波数推定量を組み立てる考えられる方法は
【数6】
【0029】
という量の評価を伴い、ここで、DFTD及びDFTUは演算子|DFT(x,−1)|及び演算子|DFT(x,+1)|、つまり、図2の曲線50a、50cに対応する離散フーリエ変換を表している。
【0030】
数式6の弁別器では、k=+1及びk=−1を有する二つの離散フーリエ変換の振幅差によって周波数が推定されている。この差は、二つの離散フーリエ変換振幅の和を使用してその後に正規化されている。
【0031】
図3、4は、数式6の弁別器の理論的応答及び相対利得を示している。この弁別器の利点は、f=−1/(NT)からf=1/(NT)までの周波数範囲において、応答が厳密に線形である、つまり、利得が一定であるということである。
【0032】
しかし、このアプローチの強い制限は、f=0に近い周波数範囲では両方の離散フーリエ変換がゼロに向かっていて差雑音を優勢にするということである。この問題は、応答Rxの形状のために正規化因子もゼロに向かうという事実によって増幅される。従って、f=0の近傍ではその結果が数学的に未定である。図5は、図3と同じであるがシミュレートされた不規則雑音が入力信号中に付加されている応答を示している。この弁別器がf=0に近い周波数に対して本質的に不規則な結果を与えることは明らかである。
【0033】
従って、数式6の弁別器は、その周波数範囲の中央に不安定点を有しており、従って殆どの実用的な応用において役に立たない。この問題を除去する方法は、
【数7】
【0034】
の様に、k=0に対応する離散フーリエ変換50cを正規化因子中に付加することである。
【0035】
数式7の弁別器の応答が図6に示されており、シミュレートされた雑音が付加された応答が図7に示されている。今度は雑音耐性が満足できるが、f=0に非常に近い周波数に対して弁別器に本質的に利得がない。幾つかの応用ではこの事実が不利である可能性があり、詳細には、この事実が図1のFLLループ中にヒステリシスを生じさせる。
【0036】
本発明によると、異なる周波数における二つの半ビン離散フーリエ変換(HDFT)の評価を周波数弁別器が含んでおり、半ビン離散フーリエ変換はインデックスkが半整数値を採る上記の数式3によって定義されている。
【0037】
詳細には、
【数8】
【0038】
しかし、回転因子Wを定義している数式の考察から、
【数9】
【0039】
ということが明らかである。
【0040】
この様にして通常の離散フーリエ変換と同じやり方で半ビン離散フーリエ変換が計算されるが、フーリエ変換の次数があたかもNの代わりに2Nであったかの様に回転因子Wが見なされている。
【0041】
(絶対値での)半ビン離散フーリエ変換の周波数応答は今まで通り数式5によって与えられる。
【0042】
もっと正確には、
【数10】
【0043】
と定義される。
【0044】
その時、周波数弁別器の定式化は、
【数11】
【0045】
になる。
【0046】
しかし、ピーク周波数は離散フーリエ変換ビン幅1/NTの半整数値に合わされている。
【0047】
周波数抽出演算子HD及びHUは、1の次数2Nの2N個の別個の根に由来する1のN個の複素根である重みつまり回転因子付きの標本xiの一次結合を伴っている。
【0048】
図8は、例えばk=−1/2に対応する応答半ビン離散フーリエ変換55aとk=1/2に対応する応答半ビン離散フーリエ変換55cとを示している。k=0に対応する曲線55bは、図2の曲線50bに等しい。
【0049】
図2の離散フーリエ変換曲線とは著しく違って、曲線55a、55cがf=0に対して同時にゼロにならないことが理解されるであろう。このことは、図9、10に示されている応答及び利得を有する半ビン周波数弁別器の構成を可能にしている。
【0050】
好都合なことに、本発明の半ビン弁別器は、fD=−1/2NTからfU=1/2NTまでの総ての動作範囲に亙って線形応答を示し、f=0に対して数式11の分母がゼロに向かっていないので、その動作範囲の全体で安定している。図11は、正規分布雑音の存在状態における、本発明の半ビン弁別器の動きを示している。
【0051】
『半ビン離散フーリエ変換』の数学的定式化も、高速フーリエ変換アルゴリズムの特定の特性から推論することができる。複素高速フーリエ変換は、信号のN個の標本のベクトルを取り出して、0≦i<Nに対してi/NTにおけるN個のスペクトル線を計算する。時々、計算されるスペクトルの分解能を人為的に高めるために、入力標本ベクトルの終わりにN個のゼロを付加して、2N個の点の高速フーリエ変換が計算される。この演算は、0≦i<Nに対して(2i+1)/2NTに配置されており二つのN高速フーリエ変換周波数ビンの丁度中央に配置されているN個の新しいスペクトル線を発生させる。高速フーリエ変換アルゴリズムがN個の離散フーリエ変換の積み上げの最適化及び再編成に過ぎないことを考慮すると、2N点高速フーリエ変換のスペクトル線1及びスペクトル線2N−1(負周波数)を2N点高速フーリエ変換に等価な離散フーリエ変換と置き換えることによって、半ビン離散フーリエ変換の定式化を推論することができる。k=1とk=2N−1との間の2N点離散フーリエ変換は、
【数12】
【0052】
になるが、入力ベクトルの最後のN点がゼロであることを考慮すると、
【数13】
【0053】
になる。
【0054】
この最後の定式化は、以前に推論した半ビン離散フーリエ変換の定式化と全く同じである。
【0055】
従って、本発明の周波数弁別器は、到来信号の少なくとも二つの離散スペクトル成分、好ましくは、ゼロ周波数の上下に対称的に配置されている二つの周波数fD及びfUに対応する二つのスペクトル成分、を計算する段階を含んでいる。
【0056】
各々のスペクトル成分は、所望のスペクトル成分fD及びfUに対してその応答の最大値を有する演算子HDまたはHUによって抽出される。異なる周波数に対してはその応答が当然に減少するが、fDとfUとの間の何れの中間周波数に対してもその応答はゼロにはならない。特に、HD及びHUの応答は中間点f=0でゼロにならない。
【0057】
この特徴のために、本発明の弁別器は、HD及びHUの絶対値出力の差を計算する段階によって得られてHD及びHUの絶対値出力の和によって除算される周波数誤差信号を抽出することができる。
【0058】
HD及びHUの絶対値出力の和も差もfDとfUとの間の範囲の何れの点においてもゼロになることがないので、雑音の不可避的な影響を考慮しても、その様に得られた弁別器は良好に動作し、その絶対値はfDとfUとの間で線形である。
【0059】
上述の半ビン離散フーリエ変換演算子を使用することによって、HD及びHUの周波数fD及びfUはfD=−1/2NT及びfU=1/2NTであり、つまりこれらの周波数はT標本化速度で標本化されるN個の到来デジタルデータ{xi}の系列の自然ビニングに関する半整数値に合わされている。
【0060】
好ましい実施形態では、演算子HD及びHUは上述の数式10に提示されている形式を有している。しかし、演算子HD及びHUも、状況が要求する場合には、到来信号の周波数成分を抽出するための異なる数学的演算子から、本発明に従って、得られてよい。
【0061】
本発明は、今度は図12に関連して説明されている無線位置決めシステム用の受信機、特にGPS受信機をも含んでいる。
【0062】
この受信機には、無線局所化システムにおける情報源の特定の無線信号に適合されている受信アンテナ20がある。GPSシステムでは、この情報源は無線局所化信号を1575.42MHzで発している周回GPS宇宙機である。アンテナによって受信された信号は、搬送波除去段49へ送り込まれる前に、低雑音増幅器30によって増幅され、変換器35中で中間周波数信号(IF信号)へ周波数逓降変換される。例えばAD変換を含む、RF信号を処理するその他の方法が、従来から公知であり、本発明中に含まれている。
【0063】
次に、中間周波数信号は、中でも、各宇宙機から受信した信号を復元してこれらの信号を各宇宙機に特有の擬似ランダム測距符号の局部発生複写と時間的に整列させることが機能である相関処理装置へ送り込まれ、例えば、GPS受信機の場合には、粗捕捉GPS測距信号を復号して追尾するという任務がこの相関処理装置にある。その様な整列を実行するために相関処理装置には追尾モジュール38の配列があり、追尾モジュールの各々は例えば特定の宇宙機の捕捉及び追尾に専念する。
【0064】
追尾モジュール38の種々の機能が図12と関連して下記に説明されている。しかし、この説明が例としてのみ与えられていて本発明の限定として解釈されるべきではないことが理解されるべきである。詳細には、説明されている種々の要素及びモジュールは、機能的な表現で理解されなければならず、物理的な回路要素に必ずしも対応していない。詳細には、一つ以上のデジタル処理装置によって実行されるソフトウェアモジュールによって幾つかの機能が実行されてよい。
【0065】
また、明快さのために、種々の追尾モジュール38が完全に独立していて並列であるとたとえ本明細書中で記載されていても、状況が要求する場合には、幾つかの特徴または資源を追尾モジュール間で共有可能であることが理解されなければならない。
【0066】
各追尾モジュールには、局部発振器信号を発生させるための局部数値制御発振器40とこの局部発振器信号の直角位相複製を生じさせる90°移相器41とを従来通り含んでいる搬送波除去段49がある。考えられる変形では、外部前置回路中で90°移相が行われてもよい。到来無線信号は、夫々乗算器44、42中で同相局部発振器信号及び直角位相局部発振器信号と乗算されて、ベースバンド同相信号及びベースバンド直角位相信号を生じる。追尾モードでは、数値制御発振器40の周波数または位相は追尾している宇宙機の搬送周波数または搬送位相にロックされる。
【0067】
各追尾モジュール38には、特定のGPS宇宙機に対応する粗捕捉符号の局部複製を発生させるための局部Gold擬似ランダム符号発生器50もある。Gold擬似ランダム符号は、例えば多段シフトレジスタによって内部的に発生させるか、または、同じことであるが、予め読み込まれている表から抽出するか、またはその他の任意の技術によって発生させることができる。
【0068】
Gold符号発生器50には、1.023MHzのチップ生成速度で粗捕捉符号を生じる様に周波数が設定されている独立の数値制御粗捕捉クロックがある。到来中間周波数信号は、局部搬送波の同相分(I)及び直角分(Q)で、並びに局部粗捕捉符号で、乗算される。追尾中は、局部粗捕捉符号は宇宙機から受信された粗捕捉符号に時間ロックされる必要がある。宇宙機信号についてのドップラー偏移と局部発振器の周波数ドリフト及び周波数バイアスとを補償するために、局部搬送波の周波数及び位相は受信された信号の搬送波の周波数及び位相にロックされる必要がある。
【0069】
同相信号用の相関データ及び直角位相信号用の相関データは、複素信号の実数部及び虚数部と考えることができる。理想的な周波数ロック状態では、数値制御発振器40の周波数と搬送波の周波数とが等しく、弁別器70の入力中に存在している信号は基本周波数がゼロの純粋なベースバンド信号である。追尾中は、受信信号の周波数にロックするために、帰還ループ中で搬送波除去段の数値制御発振器40を駆動するために使用される周波数誤差信号65を弁別器モジュール70が生じさせる。
【0070】
周波数制御装置には、可変周波数源44と、入力周波数42を可変周波数源44の出力と結合するための混合器45と、可変周波数源44を駆動してこれを入力周波数42にロックするために、混合器の出力信号を比較して周波数誤差信号を発生させる弁別器とが含まれている。
【0071】
本発明によると、今度は図13に関連して説明されている弁別器モジュール70には、上述の半ビン離散フーリエ変換に基づく周波数弁別器が含まれている。もっと詳細には、本発明の弁別器モジュール70は、到来信号の少なくとも二つの離散スペクトル成分、好ましくは、二つの周波数fD及びfUに対応しておりゼロ周波数の上下に対称的に配置されている二つのスペクトル成分、を抽出する。
【0072】
各々のスペクトル成分は、夫々所望のスペクトル成分fD、fUに対して最大応答を有する周波数抽出手段702または704によって抽出される。異なる周波数に対してはその応答が当然に減少するが、fDとfUとの間の何れの中間周波数に対してもその応答はゼロにはならない。特に、周波数抽出手段702、704の応答は中間点f=0でゼロにならない。
【0073】
この特徴のために、周波数抽出手段702、704の絶対値出力の差を計算する様に、且つ好ましくは、周波数抽出手段702、704の絶対値出力の和でその差を除算することによってその差を正規化する様に、構成されている比較手段706によって得られる周波数誤差信号を、本発明の弁別器が抽出することができる。
【0074】
簡単さのためにこの例が周波数抽出手段702、704を別個の実体として示していても、二つの必要なスペクトル成分fD、fUを順に抽出する単一の周波数抽出手段が本発明に含まれていてもよいことが理解されるべきである。実際的な実施形態では、マイクロプロセッサによって実行されると値HD及びHUを計算するためのコードを含んでいるソフトウェアモジュールから周波数抽出手段がしばしば成っている。
【0075】
上述の半ビン離散フーリエ変換演算子を使用することによって、周波数fD及びfUはfD=−1/2NT及びfU=1/2NTであり、つまりこれらの周波数はT標本化速度で標本化されるN個の到来デジタルデータ{xi}の系列の自然ビニングに関する半整数値に合わされている。
【0076】
好ましい実施形態では、周波数抽出手段702、704は、上述の数式10に提示されている形式を有している演算子HD及びHUを実行する。しかし、演算子HD及びHUも、状況が要求する場合には、到来信号の周波数成分を抽出するための異なる数学的演算子から、本発明に従って、得られてよい。
【0077】
本発明の周波数弁別器は、実際の数の標本点の二倍である一群の点上での離散フーリエ変換に対する様な回転因子に通常の回転因子が置き換えられている離散フーリエ変換の変形に基づいている。その様に変更された離散フーリエ変換は、計算負担を殆ど追加することなく半ビン周波数弁別を可能にする。ゼロ周波数に関して半ビンだけ偏移された二つの離散フーリエ変換は、弁別の線形応答と雑音に対する良好な耐性とを与える。本発明の弁別器は、GPS受信機中で信号を追尾するためのFLL中で特に有用である。
【0078】
状況により、弁別器モジュール70は、専用電子デジタル回路として、または、本発明の方法の段階を実行する様にプログラムされているマイクロ制御装置として、実現されてよい。本発明には、コンピュータ装置のプログラムメモリ中へロードすることができ、実行時には上述の段階を実行するための、ソフトウェアコードも含まれている。
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号の周波数を推定する方法とその対応装置とに関するものである。それのみではないが、詳細には、本発明は、例えば一つ以上のGPS(全地球測位システム)衛星から発せられる信号または別の無線局所化システムに伴われる信号の様な、局所化信号の捕捉及び追尾への前述の方法及び装置の応用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
周波数推定、特に正弦波信号の周波数推定、は多くの応用で使用される操作である。
【0003】
機能的に言うと、周波数弁別器という用語は、本明細書中では、標本化信号を含むベクトルに適用されてその信号自体の基本周波数を推定することができるアルゴリズムまたは数学的演算を示すために使われている。同様に、周波数弁別器という用語は、本発明の文脈中では、例えば一連の時間標本によって表されている信号の周波数を判定するためのソフトウェアの一部を示してもよい。周波数弁別器という用語は、下記においては、装置に言及されると、アナログ信号またはデジタル信号の入力に存在している基本周波数を推定する様に構成されているかまたはプログラムされている電子回路の要素をも示している。
【0004】
周波数弁別器の利用に関する例は、図1中に概略的に表されているFLL(周波数ロックループ)である。この例では、到来信号42が局部発振器44の信号と混合器45中で結合される。その結果の差周波数は周波数弁別器47に加えられる。この周波数弁別器の結果は、原則として入力の基本周波数に比例しており、局部発振器が受信信号と同じ周波数で同調される様に濾波器49を含む帰還ループ中の局部発振器を駆動するために使用される。
【0005】
周波数弁別器の重要な応用は、GPS受信機の搬送波追尾ループ中にある。GPS受信機の動作には、通常は、宇宙機から受信される信号が探索される捕捉モードと、捕捉された信号が搬送周波数または搬送位相と符号位相との両方において追跡される追尾モードとがある。
【0006】
GPSシステム中で宇宙機から受信される信号の周波数は、原理的に、一群の器械誤差例えば局部発振器の周波数バイアス及び周波数ドリフトによって、並びに宇宙機と受信機との間の相対的な速度に関連しており宇宙機の追尾を維持して位置の判定に到達するためには適切に測定されなければならない物理的なドップラー偏移によって、影響を受ける。このことは、PLL帰還ループ及びFLL帰還ループによって、GPS受信機中で一般に認識されている。
【0007】
通常、FLLループは、その優れた雑音耐性のために捕捉位相の間使用される。信号強度が十分であれば、PLLはより良い追尾性能を提供する。FLL帰還モードは、弱い信号を追尾するために、また、受信機の動きによる動的なピークの間、PLLの代用としてしばしば提供される。
【0008】
多くの応用では、周波数の数学的定義を位相の時間導関数f=ψ′として適用することによって周波数推定が行われている。そして、位相の増加比率が周波数の推定量と見なされる。
【数1】
【0009】
しかし、位相信号を明確には検出することができない、雑音がある閾値を超える場合には、このアプローチは実際には利用することができない。
【0010】
別の考えられる方法は、入力信号の一つ以上のDFT(離散フーリエ変換)の抽出を含んでいる。しかし、その様な方法に基づく周波数弁別器は、後にもっと詳細に説明される様に、非線形性つまり不安定性によって、特にゼロ周波数の近傍において、悪影響を受ける。
【0011】
従って、この種の公知の方法及び装置における短所のない周波数弁別器を提供することが、本発明の目的である。
【0012】
動作範囲内で線形応答を示す周波数弁別器を提供することが、本発明の更なる目的である。
【0013】
雑音耐性の優れた周波数弁別器を提供することが、本発明の別の目的である。
【発明の概要】
【0014】
上記の目的は、添付の独立の方法請求項の特徴を有する周波数弁別方法によって、並びにその対応する装置及びソフトウェアによって、達成される。更なる任意の特徴が、従属請求項の目的である。
【0015】
本発明は、明細書中に提示されており且つ図面によって図解されている例によって一層十分に理解される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】周波数弁別器を含んでいる公知の周波数ロックループを図式的に示している。
【図2】三つの隣接周波数ビンに向けられている三つの離散フーリエ変換演算の伝達関数の絶対値を表している。
【図3】理想的な無雑音状態における、図2の離散フーリエ変換のうちの二つに基づく周波数弁別器の応答を示している。
【図4】図3の弁別器の利得を示している。
【図5】正規分布雑音の存在下における、図3の弁別器の動きを示している。
【図6】理想的な無雑音状態における、図2の三つの離散フーリエ変換に基づく周波数弁別器の応答を示している。
【図7】正規分布雑音の存在下における、図6の周波数弁別器の動きを示している。
【図8】半周波数ビンだけ偏移された三つの離散フーリエ変換演算の絶対値を示している。
【図9】図8の両端の二つの離散フーリエ変換に基づく周波数弁別器の応答を示している。
【図10】図8の弁別器の利得を示している。
【図11】正規分布雑音の存在下における、図8の周波数弁別器の動きを示している。
【図12】本発明の見地に従うGPS受信機の受信及び追尾モジュールを図式的に示している。
【図13】図12の受信機に含まれている周波数弁別器モジュールを図式的に表している。
【詳細な説明】
【0017】
デジタル信号に対する周波数弁別器を実現するために離散フーリエ変換(DFT)を使用することが知られている。概念的には、この種の弁別器は、異なる周波数に向けられている少なくとも二つの別個の離散フーリエ変換演算の出力を比較するという原理に基づいている。
【0018】
離散フーリエ変換は、フーリエ変換の一つの単一要素に等価な入力信号の単一スペクトル成分の離散的な推定である。
【0019】
もっと正確には、{xi}が複素信号のN個の標本に対応している複素数値の離散系列であれば、{xi}のチャネル−k離散フーリエ変換は、
【数2】
【0020】
か、または、簡潔な形式である
【数3】
【0021】
によって定義され、ここで、
【数4】
【0022】
である。
【0023】
従って、離散フーリエ変換は、「回転因子」としても示されている重みWが、kの増分毎に取り出されている、複素数体中における1のN個の次数Nの別個の根である、標本xiの一次結合と考えることができる。
【0024】
今度は図2を参照すると、夫々k=−1、k=0、k=1に対応する三つの連続する周波数ビンに向けられている三つの別個の離散フーリエ変換演算子50a、50b、50cの周波数応答を認識することができる.解析的には、標本が等間隔であり且つ標本化周期をTで示せば、各々の離散フーリエ変換の振幅応答曲線は、
【数5】
【0025】
で与えられる。
【0026】
その結果、各々の離散フーリエ変換の応答には、f=k/NTにおける中央ピーク502と二次極大504とがある。離散フーリエ変換演算子の応答は、中央ピーク周波数から離れている、離散フーリエ変換ビン幅1/NTの何れの周波数逓倍に対しても、厳密にゼロである。
【0027】
絶対値の抽出は、複素離散フーリエ変換出力の実数非負振幅値を抽出するために使用されている。
【0028】
離散フーリエ変換周波数推定量を組み立てる考えられる方法は
【数6】
【0029】
という量の評価を伴い、ここで、DFTD及びDFTUは演算子|DFT(x,−1)|及び演算子|DFT(x,+1)|、つまり、図2の曲線50a、50cに対応する離散フーリエ変換を表している。
【0030】
数式6の弁別器では、k=+1及びk=−1を有する二つの離散フーリエ変換の振幅差によって周波数が推定されている。この差は、二つの離散フーリエ変換振幅の和を使用してその後に正規化されている。
【0031】
図3、4は、数式6の弁別器の理論的応答及び相対利得を示している。この弁別器の利点は、f=−1/(NT)からf=1/(NT)までの周波数範囲において、応答が厳密に線形である、つまり、利得が一定であるということである。
【0032】
しかし、このアプローチの強い制限は、f=0に近い周波数範囲では両方の離散フーリエ変換がゼロに向かっていて差雑音を優勢にするということである。この問題は、応答Rxの形状のために正規化因子もゼロに向かうという事実によって増幅される。従って、f=0の近傍ではその結果が数学的に未定である。図5は、図3と同じであるがシミュレートされた不規則雑音が入力信号中に付加されている応答を示している。この弁別器がf=0に近い周波数に対して本質的に不規則な結果を与えることは明らかである。
【0033】
従って、数式6の弁別器は、その周波数範囲の中央に不安定点を有しており、従って殆どの実用的な応用において役に立たない。この問題を除去する方法は、
【数7】
【0034】
の様に、k=0に対応する離散フーリエ変換50cを正規化因子中に付加することである。
【0035】
数式7の弁別器の応答が図6に示されており、シミュレートされた雑音が付加された応答が図7に示されている。今度は雑音耐性が満足できるが、f=0に非常に近い周波数に対して弁別器に本質的に利得がない。幾つかの応用ではこの事実が不利である可能性があり、詳細には、この事実が図1のFLLループ中にヒステリシスを生じさせる。
【0036】
本発明によると、異なる周波数における二つの半ビン離散フーリエ変換(HDFT)の評価を周波数弁別器が含んでおり、半ビン離散フーリエ変換はインデックスkが半整数値を採る上記の数式3によって定義されている。
【0037】
詳細には、
【数8】
【0038】
しかし、回転因子Wを定義している数式の考察から、
【数9】
【0039】
ということが明らかである。
【0040】
この様にして通常の離散フーリエ変換と同じやり方で半ビン離散フーリエ変換が計算されるが、フーリエ変換の次数があたかもNの代わりに2Nであったかの様に回転因子Wが見なされている。
【0041】
(絶対値での)半ビン離散フーリエ変換の周波数応答は今まで通り数式5によって与えられる。
【0042】
もっと正確には、
【数10】
【0043】
と定義される。
【0044】
その時、周波数弁別器の定式化は、
【数11】
【0045】
になる。
【0046】
しかし、ピーク周波数は離散フーリエ変換ビン幅1/NTの半整数値に合わされている。
【0047】
周波数抽出演算子HD及びHUは、1の次数2Nの2N個の別個の根に由来する1のN個の複素根である重みつまり回転因子付きの標本xiの一次結合を伴っている。
【0048】
図8は、例えばk=−1/2に対応する応答半ビン離散フーリエ変換55aとk=1/2に対応する応答半ビン離散フーリエ変換55cとを示している。k=0に対応する曲線55bは、図2の曲線50bに等しい。
【0049】
図2の離散フーリエ変換曲線とは著しく違って、曲線55a、55cがf=0に対して同時にゼロにならないことが理解されるであろう。このことは、図9、10に示されている応答及び利得を有する半ビン周波数弁別器の構成を可能にしている。
【0050】
好都合なことに、本発明の半ビン弁別器は、fD=−1/2NTからfU=1/2NTまでの総ての動作範囲に亙って線形応答を示し、f=0に対して数式11の分母がゼロに向かっていないので、その動作範囲の全体で安定している。図11は、正規分布雑音の存在状態における、本発明の半ビン弁別器の動きを示している。
【0051】
『半ビン離散フーリエ変換』の数学的定式化も、高速フーリエ変換アルゴリズムの特定の特性から推論することができる。複素高速フーリエ変換は、信号のN個の標本のベクトルを取り出して、0≦i<Nに対してi/NTにおけるN個のスペクトル線を計算する。時々、計算されるスペクトルの分解能を人為的に高めるために、入力標本ベクトルの終わりにN個のゼロを付加して、2N個の点の高速フーリエ変換が計算される。この演算は、0≦i<Nに対して(2i+1)/2NTに配置されており二つのN高速フーリエ変換周波数ビンの丁度中央に配置されているN個の新しいスペクトル線を発生させる。高速フーリエ変換アルゴリズムがN個の離散フーリエ変換の積み上げの最適化及び再編成に過ぎないことを考慮すると、2N点高速フーリエ変換のスペクトル線1及びスペクトル線2N−1(負周波数)を2N点高速フーリエ変換に等価な離散フーリエ変換と置き換えることによって、半ビン離散フーリエ変換の定式化を推論することができる。k=1とk=2N−1との間の2N点離散フーリエ変換は、
【数12】
【0052】
になるが、入力ベクトルの最後のN点がゼロであることを考慮すると、
【数13】
【0053】
になる。
【0054】
この最後の定式化は、以前に推論した半ビン離散フーリエ変換の定式化と全く同じである。
【0055】
従って、本発明の周波数弁別器は、到来信号の少なくとも二つの離散スペクトル成分、好ましくは、ゼロ周波数の上下に対称的に配置されている二つの周波数fD及びfUに対応する二つのスペクトル成分、を計算する段階を含んでいる。
【0056】
各々のスペクトル成分は、所望のスペクトル成分fD及びfUに対してその応答の最大値を有する演算子HDまたはHUによって抽出される。異なる周波数に対してはその応答が当然に減少するが、fDとfUとの間の何れの中間周波数に対してもその応答はゼロにはならない。特に、HD及びHUの応答は中間点f=0でゼロにならない。
【0057】
この特徴のために、本発明の弁別器は、HD及びHUの絶対値出力の差を計算する段階によって得られてHD及びHUの絶対値出力の和によって除算される周波数誤差信号を抽出することができる。
【0058】
HD及びHUの絶対値出力の和も差もfDとfUとの間の範囲の何れの点においてもゼロになることがないので、雑音の不可避的な影響を考慮しても、その様に得られた弁別器は良好に動作し、その絶対値はfDとfUとの間で線形である。
【0059】
上述の半ビン離散フーリエ変換演算子を使用することによって、HD及びHUの周波数fD及びfUはfD=−1/2NT及びfU=1/2NTであり、つまりこれらの周波数はT標本化速度で標本化されるN個の到来デジタルデータ{xi}の系列の自然ビニングに関する半整数値に合わされている。
【0060】
好ましい実施形態では、演算子HD及びHUは上述の数式10に提示されている形式を有している。しかし、演算子HD及びHUも、状況が要求する場合には、到来信号の周波数成分を抽出するための異なる数学的演算子から、本発明に従って、得られてよい。
【0061】
本発明は、今度は図12に関連して説明されている無線位置決めシステム用の受信機、特にGPS受信機をも含んでいる。
【0062】
この受信機には、無線局所化システムにおける情報源の特定の無線信号に適合されている受信アンテナ20がある。GPSシステムでは、この情報源は無線局所化信号を1575.42MHzで発している周回GPS宇宙機である。アンテナによって受信された信号は、搬送波除去段49へ送り込まれる前に、低雑音増幅器30によって増幅され、変換器35中で中間周波数信号(IF信号)へ周波数逓降変換される。例えばAD変換を含む、RF信号を処理するその他の方法が、従来から公知であり、本発明中に含まれている。
【0063】
次に、中間周波数信号は、中でも、各宇宙機から受信した信号を復元してこれらの信号を各宇宙機に特有の擬似ランダム測距符号の局部発生複写と時間的に整列させることが機能である相関処理装置へ送り込まれ、例えば、GPS受信機の場合には、粗捕捉GPS測距信号を復号して追尾するという任務がこの相関処理装置にある。その様な整列を実行するために相関処理装置には追尾モジュール38の配列があり、追尾モジュールの各々は例えば特定の宇宙機の捕捉及び追尾に専念する。
【0064】
追尾モジュール38の種々の機能が図12と関連して下記に説明されている。しかし、この説明が例としてのみ与えられていて本発明の限定として解釈されるべきではないことが理解されるべきである。詳細には、説明されている種々の要素及びモジュールは、機能的な表現で理解されなければならず、物理的な回路要素に必ずしも対応していない。詳細には、一つ以上のデジタル処理装置によって実行されるソフトウェアモジュールによって幾つかの機能が実行されてよい。
【0065】
また、明快さのために、種々の追尾モジュール38が完全に独立していて並列であるとたとえ本明細書中で記載されていても、状況が要求する場合には、幾つかの特徴または資源を追尾モジュール間で共有可能であることが理解されなければならない。
【0066】
各追尾モジュールには、局部発振器信号を発生させるための局部数値制御発振器40とこの局部発振器信号の直角位相複製を生じさせる90°移相器41とを従来通り含んでいる搬送波除去段49がある。考えられる変形では、外部前置回路中で90°移相が行われてもよい。到来無線信号は、夫々乗算器44、42中で同相局部発振器信号及び直角位相局部発振器信号と乗算されて、ベースバンド同相信号及びベースバンド直角位相信号を生じる。追尾モードでは、数値制御発振器40の周波数または位相は追尾している宇宙機の搬送周波数または搬送位相にロックされる。
【0067】
各追尾モジュール38には、特定のGPS宇宙機に対応する粗捕捉符号の局部複製を発生させるための局部Gold擬似ランダム符号発生器50もある。Gold擬似ランダム符号は、例えば多段シフトレジスタによって内部的に発生させるか、または、同じことであるが、予め読み込まれている表から抽出するか、またはその他の任意の技術によって発生させることができる。
【0068】
Gold符号発生器50には、1.023MHzのチップ生成速度で粗捕捉符号を生じる様に周波数が設定されている独立の数値制御粗捕捉クロックがある。到来中間周波数信号は、局部搬送波の同相分(I)及び直角分(Q)で、並びに局部粗捕捉符号で、乗算される。追尾中は、局部粗捕捉符号は宇宙機から受信された粗捕捉符号に時間ロックされる必要がある。宇宙機信号についてのドップラー偏移と局部発振器の周波数ドリフト及び周波数バイアスとを補償するために、局部搬送波の周波数及び位相は受信された信号の搬送波の周波数及び位相にロックされる必要がある。
【0069】
同相信号用の相関データ及び直角位相信号用の相関データは、複素信号の実数部及び虚数部と考えることができる。理想的な周波数ロック状態では、数値制御発振器40の周波数と搬送波の周波数とが等しく、弁別器70の入力中に存在している信号は基本周波数がゼロの純粋なベースバンド信号である。追尾中は、受信信号の周波数にロックするために、帰還ループ中で搬送波除去段の数値制御発振器40を駆動するために使用される周波数誤差信号65を弁別器モジュール70が生じさせる。
【0070】
周波数制御装置には、可変周波数源44と、入力周波数42を可変周波数源44の出力と結合するための混合器45と、可変周波数源44を駆動してこれを入力周波数42にロックするために、混合器の出力信号を比較して周波数誤差信号を発生させる弁別器とが含まれている。
【0071】
本発明によると、今度は図13に関連して説明されている弁別器モジュール70には、上述の半ビン離散フーリエ変換に基づく周波数弁別器が含まれている。もっと詳細には、本発明の弁別器モジュール70は、到来信号の少なくとも二つの離散スペクトル成分、好ましくは、二つの周波数fD及びfUに対応しておりゼロ周波数の上下に対称的に配置されている二つのスペクトル成分、を抽出する。
【0072】
各々のスペクトル成分は、夫々所望のスペクトル成分fD、fUに対して最大応答を有する周波数抽出手段702または704によって抽出される。異なる周波数に対してはその応答が当然に減少するが、fDとfUとの間の何れの中間周波数に対してもその応答はゼロにはならない。特に、周波数抽出手段702、704の応答は中間点f=0でゼロにならない。
【0073】
この特徴のために、周波数抽出手段702、704の絶対値出力の差を計算する様に、且つ好ましくは、周波数抽出手段702、704の絶対値出力の和でその差を除算することによってその差を正規化する様に、構成されている比較手段706によって得られる周波数誤差信号を、本発明の弁別器が抽出することができる。
【0074】
簡単さのためにこの例が周波数抽出手段702、704を別個の実体として示していても、二つの必要なスペクトル成分fD、fUを順に抽出する単一の周波数抽出手段が本発明に含まれていてもよいことが理解されるべきである。実際的な実施形態では、マイクロプロセッサによって実行されると値HD及びHUを計算するためのコードを含んでいるソフトウェアモジュールから周波数抽出手段がしばしば成っている。
【0075】
上述の半ビン離散フーリエ変換演算子を使用することによって、周波数fD及びfUはfD=−1/2NT及びfU=1/2NTであり、つまりこれらの周波数はT標本化速度で標本化されるN個の到来デジタルデータ{xi}の系列の自然ビニングに関する半整数値に合わされている。
【0076】
好ましい実施形態では、周波数抽出手段702、704は、上述の数式10に提示されている形式を有している演算子HD及びHUを実行する。しかし、演算子HD及びHUも、状況が要求する場合には、到来信号の周波数成分を抽出するための異なる数学的演算子から、本発明に従って、得られてよい。
【0077】
本発明の周波数弁別器は、実際の数の標本点の二倍である一群の点上での離散フーリエ変換に対する様な回転因子に通常の回転因子が置き換えられている離散フーリエ変換の変形に基づいている。その様に変更された離散フーリエ変換は、計算負担を殆ど追加することなく半ビン周波数弁別を可能にする。ゼロ周波数に関して半ビンだけ偏移された二つの離散フーリエ変換は、弁別の線形応答と雑音に対する良好な耐性とを与える。本発明の弁別器は、GPS受信機中で信号を追尾するためのFLL中で特に有用である。
【0078】
状況により、弁別器モジュール70は、専用電子デジタル回路として、または、本発明の方法の段階を実行する様にプログラムされているマイクロ制御装置として、実現されてよい。本発明には、コンピュータ装置のプログラムメモリ中へロードすることができ、実行時には上述の段階を実行するための、ソフトウェアコードも含まれている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号(x)と基準周波数との周波数差を得る方法であって、
上側周波数(fU)及び下側周波数(fD)が前記基準周波数の上下に配置されており、前記下側周波数(fD)における前記入力信号の離散スペクトル成分を抽出するための第一の演算子(HD)と前記上側周波数(fU)における前記入力信号の離散スペクトル成分を抽出するための第二の演算子(HU)との各々が対応スペクトル成分に対してその応答の最大値を有している、これら第一及び第二の演算子(HD,HU)を適用する段階と、
前記入力信号の基本周波数と前記基準周波数との間隔に依存する誤差値(65)を得るために前記二つのスペクトル成分の周波数の差を計算する段階と
を具備する方法。
【請求項2】
前記上側周波数(fU)と前記下側周波数(fD)との間に含まれる何れの中間周波に対しても、前記第一及び第二の演算子(HD,HU)の応答がゼロにならないこと
を更に特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記上側周波数(fD)及び前記下側周波数(fU)が前記基準周波数を中心にして対称的に配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記入力信号の基本周波数と前記基準周波数との間隔に前記誤差値(65)が線形に依存することを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記基準周波数がゼロ周波数であることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記二つの演算子(HD,HU)が出力の絶対値を計算する段階を含んでいることを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記第一及び第二の演算子からの二つのスペクトル成分の和で前記誤差値(65)を除算する段階を含んでいる請求項1〜6の何れか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記入力信号(x)が一群のN個の連続標本(xi)を含んでおり、次数2Nの1の2N個の別個の複素根から取り出された重み(W)因子付きの、前記標本(xi)の一次結合を前記第一及び第二の演算子(HD,HU)が含んでいることを特徴とする請求項1〜7の何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記第一及び第二の演算子(HD,HU)が、
【数1】
によって与えられる請求項1〜8の何れか一項に記載の方法。
【請求項10】
入力信号を受信するための入力装置と、前記入力信号の基本周波数と基準周波数との差に依存する出力信号(65)を発生させるための周波数弁別手段(70)とを具備しており、請求項1〜9の何れか一項の方法を実行する様に前記弁別手段が構成されている、弁別装置。
【請求項11】
請求項10に記載の弁別装置を含むGPS受信機。
【請求項12】
請求項1〜9の何れか一項の方法を実行するためのコンピュータプログラム。
【請求項1】
入力信号(x)と基準周波数との周波数差を得る方法であって、
上側周波数(fU)及び下側周波数(fD)が前記基準周波数の上下に配置されており、前記下側周波数(fD)における前記入力信号の離散スペクトル成分を抽出するための第一の演算子(HD)と前記上側周波数(fU)における前記入力信号の離散スペクトル成分を抽出するための第二の演算子(HU)との各々が対応スペクトル成分に対してその応答の最大値を有している、これら第一及び第二の演算子(HD,HU)を適用する段階と、
前記入力信号の基本周波数と前記基準周波数との間隔に依存する誤差値(65)を得るために前記二つのスペクトル成分の周波数の差を計算する段階と
を具備する方法。
【請求項2】
前記上側周波数(fU)と前記下側周波数(fD)との間に含まれる何れの中間周波に対しても、前記第一及び第二の演算子(HD,HU)の応答がゼロにならないこと
を更に特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記上側周波数(fD)及び前記下側周波数(fU)が前記基準周波数を中心にして対称的に配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記入力信号の基本周波数と前記基準周波数との間隔に前記誤差値(65)が線形に依存することを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記基準周波数がゼロ周波数であることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記二つの演算子(HD,HU)が出力の絶対値を計算する段階を含んでいることを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記第一及び第二の演算子からの二つのスペクトル成分の和で前記誤差値(65)を除算する段階を含んでいる請求項1〜6の何れか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記入力信号(x)が一群のN個の連続標本(xi)を含んでおり、次数2Nの1の2N個の別個の複素根から取り出された重み(W)因子付きの、前記標本(xi)の一次結合を前記第一及び第二の演算子(HD,HU)が含んでいることを特徴とする請求項1〜7の何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記第一及び第二の演算子(HD,HU)が、
【数1】
によって与えられる請求項1〜8の何れか一項に記載の方法。
【請求項10】
入力信号を受信するための入力装置と、前記入力信号の基本周波数と基準周波数との差に依存する出力信号(65)を発生させるための周波数弁別手段(70)とを具備しており、請求項1〜9の何れか一項の方法を実行する様に前記弁別手段が構成されている、弁別装置。
【請求項11】
請求項10に記載の弁別装置を含むGPS受信機。
【請求項12】
請求項1〜9の何れか一項の方法を実行するためのコンピュータプログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−168187(P2012−168187A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−87634(P2012−87634)
【出願日】平成24年4月6日(2012.4.6)
【分割の表示】特願2006−40423(P2006−40423)の分割
【原出願日】平成18年2月17日(2006.2.17)
【出願人】(595020643)クゥアルコム・インコーポレイテッド (7,166)
【氏名又は名称原語表記】QUALCOMM INCORPORATED
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−87634(P2012−87634)
【出願日】平成24年4月6日(2012.4.6)
【分割の表示】特願2006−40423(P2006−40423)の分割
【原出願日】平成18年2月17日(2006.2.17)
【出願人】(595020643)クゥアルコム・インコーポレイテッド (7,166)
【氏名又は名称原語表記】QUALCOMM INCORPORATED
【Fターム(参考)】
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