説明

入浴介護補助装置

【課題】介護者の労力を低減し、入浴者及び介護者の双方の安全性が高められ、小型に構成され、設置・搬送が容易な入浴介護補助装置を提供する。
【解決手段】座席と一体又は取付自在な昇降台60、昇降台の昇降を案内する昇降ガイドレール48、ウォームギア14、ウォームホイール15、ウォームホイールの回転に伴って揺動自在であるアーム2、昇降台とアーム2の間に接続され座席による吊下荷重をアームに伝達する滑車機構54、及びアームに接続されて吊下荷重に対抗する力をアームに印加しウォームギアの回転操作力を軽減するばね20を有し、滑車機構54は、ワイヤ63、ワイヤの端をアームの先端付近と昇降台に固定する固定端55、66、第1の定滑車56、アーム2に支持される動滑車57、及び第2、第3の定滑車58,59を備え、昇降台ないし座席は、アームの昇降方向ストロークに対して三倍以上の昇降ストロークで昇降する構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入浴介護補助装置に関し、中でも、手動操作される入浴介護補助装置に関し、特に、操作補助力としてばねを用いた入浴介護補助装置に関する。
【背景技術】
【0002】
入浴介護補助装置として、電気モータ又は油圧シリンダを駆動源とするものがある。しかしながら、入浴介護補助装置は、浴場に設置されるため、電気モータや油圧シリングは故障の原因となり易い。
【0003】
そこで、本出願人は、特許文献1〜6において、ばね力を操作補助力として利用することにより、必要な操作力を軽減し、入浴者又は介護者が簡単に操作可能な入浴介護補助装置を提案している。
【0004】
特許文献1又は4には、ワイヤの一端を水平方向移動台に固定し、同他端を座席が取付自在な昇降台に取り付け、ワイヤの中間をアーム上に支持された動滑車に懸回することにより、座席は、アームの昇降方向ストロークに対して、二倍の昇降方向ストロークで昇降する、入浴介護補助装置が提案されている。
【0005】
特許文献2は、昇降レールに案内される上下昇降台を備え、ワイヤの一端をアームに接続される上昇降台に取り付け、同他端を座席が取付自在な下接続台に取り付け、同中間部を上昇降台に支持された動滑車に懸回することにより、座席は、アームの昇降方向ストロークに対して、二倍の昇降方向ストロークで昇降する、入浴介護補助装置が提案されている。
【0006】
特許文献3、5又は6には、座席がアームに垂下され、座席は、アームの昇降方向ストロークに対して、同様の昇降方向ストロークで昇降する、入浴介護補助装置が提案されている。
【0007】
【特許文献1】特開2007−130224号公報
【特許文献2】特開2005−118105号公報
【特許文献3】特開2004−73633号公報
【特許文献4】特開2002−301129号公報
【特許文献5】特開2001−17507号公報
【特許文献6】特開2001−161780号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1〜6に開示された入浴介護補助装置によれば、アームの昇降方向ストロークに比べて、座席の昇降ストロークは基本的に最大でも2倍である。これに対して、さらに小さいアームの昇降方向ストロークで、すなわち、少ない操作量で大きな座席の昇降ストロークを得たいという要求がある。
【0009】
また、上記特許文献2の入浴介護補助装置においては、昇降レールに案内される昇降台が、上昇降台と下昇降台に分離して構成されている。また、下昇降台の必要ストロークがガイドされる必要長さの昇降レールで構成されている。そのため、装置が大きくなるという問題がある。
【0010】
本発明の目的は、少ない操作量で大きな座席の昇降ストロークを得ることができると共に、小型化が容易な入浴介護補助装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、第1の視点において、入浴者が着座する座席(30)を昇降自在な入浴介護補助装置を提供する。この入浴介護補助装置は、前記座席と一体又は該座席が取付自在な昇降台(60)と、前記昇降台の昇降を案内する昇降ガイドレール(48)と、回転操作自在なウォームギア(14)と、前記ウォームギアと噛合して回転自在なウォームホイール(15)と、前記ウォームホイールに取り付けられ該ウォームホイールの回転に伴って揺動自在であるアーム(2)と、前記昇降台と前記アームの間に接続され該昇降台を該アームに懸架させて少なくとも該座席による吊下荷重を該アームに伝達する滑車機構(54)と、前記アームに直接又は間接的に接続されて前記吊下荷重に対抗する力を該アームに直接又は間接的に印加し、前記ウォームギアの回転操作力を軽減するばね(20)と、を有する。前記滑車機構は、ワイヤ(63)と、前記ワイヤの一端を前記アームに固定する一方の固定端(55)と、前記ワイヤの他端を前記昇降台に固定する他方の固定端(66)と、第1の定滑車(56)と、前記アームに支持される動滑車(57)と、を少なくとも備える。前記ワイヤは、前記一方の固定端から他方の固定端に向かって、前記第1の定滑車及び前記動滑車に懸回される。前記昇降台ないし座席は、前記アームの昇降方向ストロークに対して実質的に三倍又は三倍超の昇降ストロークで昇降する。
【0012】
なお、本発明において、「ワイヤ」とは、ワイヤ、チェーン又はベルト等の物体の吊下又は懸架および動力の伝達に用いる条類の総称であって、「ワイヤ」には、チェーン又はベルトを含めるものとする。またなお、上記手段に付与した図面参照符号は、発明の理解を容易にするためのものであって、本発明を後述の実施例又は図面の内容に限定しようとするものではない。
【発明の効果】
【0013】
入浴者又は介護者がウォームギアを回転操作すると、ウォームホイールが回転し、アームが上下に揺動し、アームに滑車機構を介して懸架されている座席および昇降台が昇降する。このとき、アームには、少なくとも座席の重量による吊下荷重と、この吊下荷重に対抗するばね力とが印加される。このばね力は、吊下荷重を打ち消すようアームに作用するため、吊下荷重に比して軽減された回転操作力で、ウォームギアないしウォームホイールを回転操作することができる。本発明の入浴介護補助装置は、このように、補助動力源としてばねを用いているため、人手による操作が容易となるばかりではなく、装置が堅固かつ簡素であり、又浴場のように高湿度である過酷な環境に設置されていても故障の発生が抑制される。
【0014】
滑車機構において、ワイヤは、少なくとも、一方の固定端と第1の定滑車との間、第1の定滑車と動滑車との間、及び動滑車と座席ないし昇降台との間、からなる少なくとも三つの区間を有している。よって、座席ないし昇降台は、実質的に、アームの昇降方向ストロークに対して、少なくとも約三倍、或いは、動滑車を追加することにより、三倍超の昇降ストロークで昇降する。なお、動滑車に対する、ワイヤの第1の固定端(アーム側)の位置に応じて、得ることができる増ストローク量は多少変動するが、本発明によれば、少なくとも2.5倍以上、すなわち、約三倍増の昇降ストロークが容易に得られる。かくして、本発明の入浴介護補助装置は、少ない操作量、すなわち、小さなアームストロークで、大きな座席ないし昇降台の昇降ストロークを得ることができるため、操作労力を削減すると共に装置をコンパクトに構成することができる。
【0015】
本発明によれば、実質的に三倍増の昇降ストロークを得るための滑車機構の構成がコンパクトであり、又小さなアームストロークで大きな座席ないし昇降台の昇降ストロークを得ることができるため、装置の小型化が達成でき、さらに、アーム及びワイヤ等の駆動要素を全てケースに内蔵して、安全性や外観の向上を図ることができる。
【0016】
以上の特性を備えた本発明による入浴介護補助装置は、福祉機器(介護機器)として、搬送面、据付面、安全面及び機能面の各面において非常に優れた装置である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の好ましい実施の形態において、前記滑車機構は、前記ワイヤの経路に沿って、前記動滑車と前記他方の固定端との間に、前記ワイヤが懸回される前記第2及び第3の定滑車(58,59)を備え、前記第1及び第2の定滑車(56,58)は、前記昇降台の昇降方向に沿って、前記第3の定滑車(59)の下方にそれぞれ配置される。
【0018】
本発明の好ましい実施の形態において、前記滑車機構は、前記アームに固定された一方のワイヤ固定端と、前記滑車機構を内蔵するケース内下部に設けられた第1の定滑車と、前記アーム先端に設けられた動滑車と、前記ケース下部に設けられた方向変換用の第2の定滑車と、前記ケース上部に設けられ前記ワイヤを前記昇降台に導く方向変換用の第3の定滑車と、前記各滑車に縣回されたワイヤ(ワイヤ、チェーン又はベルト)と、前記昇降台に固定された他方のワイヤ固定端と、を有し、前記座席が接続自在な前記昇降台は、前記アームの揺動に伴い前記昇降レール内を約3倍に増大されたストロークで昇降自在である。この形態によれば、装置全体を小型化でき、使用上の安全性及び耐久性が高い入浴介護補助装置が低コストで提供される。
【0019】
本発明の好ましい実施の形態においては、さらに、アームに動滑車を追加して設けることにより、例えば、ワイヤの一方の固定端を複数個の各滑車に変え、ワイヤ固定端を別途設けることにより、昇降台の昇降ストロークを三倍超に拡大する。
【0020】
本発明の好ましい実施の形態においては、ワイヤが縣回される滑車として、例えば、溝付き滑車、コロのような摺動部材を用いることができ、或いはチェーンの場合には歯車を用いることができ、その他、ワイヤ等の円滑な繰り出し入れを可能とする種々の部材を用いることができる。
【0021】
本発明の好ましい実施の形態に係る装置は、前記昇降ガイドレールは、固定レール(49)及び該固定レールから出没自在な延長レール(50)を含む。この装置は、滑車機構による、昇降台ストロークの拡大に対応して、延伸された昇降ガイドレールを有するため、昇降台の全ストロークに亘って、昇降台の昇降を案内し、昇降台のゆれ、すなわち、入浴者の揺れを防止する。また、このようなダブルレール構造によれば、必要時に昇降ガイドレールの長さを延長できるため、昇降ガイドレールを小型化できる。さらに、好ましくは、前記延長レールは、該昇降台の昇降に伴って前記固定レールと摺動自在な上部ローラと、浴槽の内壁と摺動自在な下部ローラと、を備えることによって、昇降台が浴槽上にあるときから浴槽内にあるときに亘って、昇降台のゆれはさらに防止される。
【0022】
本発明の好ましい実施の形態において、前記昇降レールは、固定レールである外レールと、延長レールである内レールと、に分割構成されたダブルレール構造とされる。好ましくは、内レールの上部に、外レールの内側と摺動する内レール上部ローラを配置し、内レールの下部には浴槽内の傾斜に沿って摺動自在な内レール下部ローラを配置する。この装置は、種々の浴槽に対応し、設置上の制約が少なく、装置全体が小型化され、配送性、据付性が向上されている。
【0023】
本発明の好ましい実施の形態においては、昇降台の昇降を円滑にするため、昇降台に昇降ローラを取り付ける。
【0024】
本発明の好ましい実施の形態に係る入浴介護補助装置は、少なくとも、前記アーム、前記滑車機構及び前記ばねを収容するケース(1)を有する。この装置においては、動力を伝達するワイヤがケースに内蔵され、又揺動するアームも内蔵されるから、装置の安全性、外観品質は大幅に向上し、福祉機器としての安全性、信頼性及び耐久性が改善される。すなわち、この装置は、入浴者及び介護者の安全性に対して十分な配慮が払われているものである。
【0025】
本発明の好ましい実施の形態において、前記アームは、前記ウォームホイールに直接接続される。
【0026】
本発明の好ましい実施の形態において、滑車機構及びアームがケースに内蔵され、アームが動作中も外部に露出しない。これによって、装置の安全性、外観品質は大幅に向上し、福祉機器としての安全性、信頼性及び耐久性が改善される。
【0027】
本発明の入浴介護補助装置には、本出願人が上記特許文献1〜6に開示した車椅子ないし座席、車椅子と座席間の脱着機構、座席と昇降台との脱着機構等を適用することができる。
【0028】
本発明の好ましい実施の形態においては、入浴介護補助装置は、水平方向に移動または水平に回転移動自在に設置される。これによって、着座した入浴者を洗い場と浴槽の間を水平方向に移動させることが容易となる。例えば、アームを水平方向に移動させる場合には、浴室に横行レールを架設し、一方、装置を回転移動させる場合には、浴室にポールを架設し、このポールに装置を旋回可能に取り付ける。
【0029】
本発明による入浴介護補助装置は、アームの吊下荷重を相殺するような力を発生するばねの作用と、前記ウォームギア及びウォームホイールが発揮する倍力作用により、小さな操作力で動作させることができる。したがって、本発明による入浴介護補助装置は、前記ウォームギアを手動操作することによって、容易に作動させることができるが、場合によっては、前記ウォームギアを手動以外の操作方法により駆動することができる。
【0030】
前記ウォームギア及びウォームホイールを有する本発明による入浴介護補助装置の動作の一例を説明する。この装置においては、アームの一端に座席及び入浴者の体重等による吊下荷重がワイヤを介して印加され、該アームの他端に前記吊下荷重に対抗するばね力が作用する。前記アームに作用する前記吊下荷重と前記ばね力の差は、前記ウォームギア及びウォームホイールによって補償されることにより、前記アームの揺動停止状態が維持される。入浴者を昇降させるときは、前記ウォームアンドホイール機構を介護者等が手動操作等することにより、アームが揺動され入浴者が昇降される。このとき、介護者が手動操作を停止すれば、前記ウォームアンドホイール機構が発揮するセルフロック機構によってアームの揺動は自動的に制止される。
【0031】
この装置によれば、前記アームに作用する力の軸を回動する力は、揚力アームの角位置、ばねのアームの角位置、ばねの伸縮力によって色々に変化するが何れにしても相殺方向で差は小さくなり、手動でも比較的小さな力で容易に前記ウォームギアを操作することができる。
【0032】
さらに、手動操作の利点を以下に例示する:
(1)微小な操作が可能である;
(2)前記ウォームギアの操作を止めれば直ちに座席の昇降が止まる、すなわち、オーバーランがない;
(3)操作者は誤操作を直ちに判断できる;
(4)操作が低速であり、操作がやさしくできる。
【0033】
本発明による入浴介護補助装置は、構造が簡単で部品点数を少なくすることができ、故障しにくく、保守点検が容易であり、故障箇所が少なく、小さな操作力で操作することができる。また、この入浴介護補助装置によれば、入浴者の体重を支える機構の構造を単純化することが可能であり、入浴者が湯中に漬かることによる浮力が発生して、入浴者の体重等の負荷と、入浴者の体重を支える機構が発生する力との間に不均衡が生じた場合であっても、入浴者が上下動することが防止される。
【実施例1】
【0034】
以下、図面を参照して本発明の一実施例を説明する。図1は、本発明の一実施例に係る入浴介護補助装置の内部構造図である。図2は、図1に示した入浴介護補助装置の滑車機構等の三面図である。図3は、図1の右側面図である。
【0035】
図1〜図3を参照すると、この装置は、入浴者が着座する座席30(後述する図6参照)を昇降自在な入浴介護補助装置であって、座席30と一体又は座席30が取付自在な昇降台60と、昇降台60の昇降を案内する昇降ガイドレール48と、回転操作自在なウォームギア14と、ウォームギア14と噛合して回転自在なウォームホイール15と、ウォームホイール15に取り付けられウォームホイール15の回転に伴って揺動自在であるアーム2と、昇降台60とアーム2の間に接続され昇降台60をアーム2に懸架させて少なくとも座席30による吊下荷重をアーム2に伝達する滑車機構54と、アーム2に直接又は間接的に接続されて前記吊下荷重に対抗する力をアーム2に直接又は間接的に印加し、ウォームギア14の回転操作力を軽減するばね20と、を有している。
【0036】
ケース(本体)1の一側に、ばね20、ウォームケース1aに内蔵されたウォームギア14及びウォームホイール15、並びにアーム2が収容され、ケース1の他側に、昇降ガイドレール48、滑車機構54が収容されている。少なくとも、滑車機構54、アーム2及びばね20は、ケース1に常時内蔵され、アーム2は動作中も外部に露出しない。
【0037】
[滑車機構]
特に、図1及び図2を参照すると、滑車機構54は、ワイヤ63と、ワイヤ63の一端をアーム2の先端付近に固定する一方の固定端55と、ワイヤ63の他端を昇降台60に固定する他方の固定端66と、第1の定滑車56と、アーム2先端に支持される動滑車57と、第2及び第3の定滑車58,59と、を備えている。さらに、第1の定滑車56の横には、ワイヤ63を案内し、ワイヤ63の位置を調節する固定の補助滑車69が配置されている。
【0038】
第1及び第2の定滑車56,58は、ケース1の下部に配置され、第3の定滑車59は、ケース1の上部に配置されている。すなわち、第1及び第2の定滑車56,58は、昇降台60の昇降方向に沿って、前記第3の定滑車59の下方にそれぞれ配置されている。
【0039】
ワイヤ63は、一方の固定端55から他方の固定端66との間で、第1の定滑車56、動滑車57、第2の定滑車58、第3の定滑車59の順に懸回されている。ワイヤ63は、第1の固定端55と第1の定滑車56との間、第1の定滑車56と動滑車57との間、及び動滑車57と昇降台60との間、からなる少なくとも三つの区間を有している。よって、座席30ないし昇降台60は、原理的に、アーム2の昇降方向ストロークに対して、少なくとも約三倍の昇降ストロークで昇降する。
【0040】
なお、ワイヤ63はツインワイヤであり、一方の固定端55は表裏一対に設けられ、第1の定滑車56は左右一対に配置され、動滑車57は表裏一対のワイヤ溝を備え、第2の定滑車58は左右一対のワイヤ溝を備え、他方の固定端66は左右一対に設けられている。これによって、昇降台60に印加される張力の左右バランスが取れ、昇降台60の昇降が安定する。また、万一、一方のワイヤが切断したとしても、使用上、特に支障はなく、ワイヤかけ替えの差へビスのための時間が確保されるため、安全、安心である。
【0041】
また、アーム2の揺動面に対して、第1の定滑車56及び動滑車57の回転面は平行であり、第2及び第3の定滑車58,59の回転面は直交する。このように滑車の回転面を配置することによって、滑車機構54が小型化できる。
【0042】
[昇降ガイドレール]
図4は、図1に示した入浴介護補助装置の昇降台及び昇降レールを示す右側面動作図である。図1〜図4を参照すると、昇降ガイドレール48は、固定レール49と、昇降台60に付設され昇降台60の昇降に伴って固定レール49から出没自在な延長レール50と、に分割されたダブルレール構造である。延長レール50は、昇降台60の昇降に伴って固定レール49の内側と摺動自在な上部ローラ52と、昇降台60の昇降に伴って浴槽の内壁と摺動自在な下部ローラ53と、を備えている。ケース1下部には、固定レール49を貫通して延長レール50を介して昇降台60を案内するガイドローラ51が配置されている。
【0043】
さらに、浴槽内壁と摺動する下部ローラ53によって、入浴時、昇降台60に接続された座席30には、浴槽内壁の傾斜に応じた適度な傾斜が付与される。
【0044】
[アーム]
図1及び図2を参照すると、アーム2は、ウォームホイール15の回転軸に固定されている。アーム2の一側先端には動滑車57が回転自在に軸支され、同先端付近には一方の固定端55が配置されて、前記吊下荷重が印加される。アーム2の他側先端には後述するリンク機構を介して、前記吊下荷重と反対方向にアーム2を揺動させるように作用するばね20のばね力が印加される。
【0045】
[ばね及びリンク機構]
図1及び図2を参照すると、アーム2の下方には、レバー16等を備えたリンク機構を介して、ばね20が配置されている。ばね20は、ウォームケース1aの下面に設定された上部ばね受け19と、下部ばね受け18の間に介装されて、上下に伸縮自在である。下部ばね受け18は、コイル状のばね20内を貫通するばね軸17の下部に、ねじ21を介してばね力を調整可能に取り付けられている。ばね軸17の上部には、ピン17aを介して、レバー16の下端が揺動自在に接続されている。レバー16の上端は、ピン16aを介して、アーム2の他側端部に揺動自在に接続されている。ピン17aにはコロ17bが取り付けられ、コロ17bが、ばね軸ガイド17cによって、上下方向にガイドされることにより、ばね軸17の傾動及びばね20の捩れが防止される。
【0046】
[操作機構]
図5は、図1に示した入浴介護補助装置の操作機構の拡大図である。図1及び図5を参照すると、ウォームギア14は、ウォームホイール15の上部に配置され、ウォームギア14の回転軸は、水平方向、特に、図1中左右方向に延在している。ウォームギア14には、減速ギア対11a,11bを介して、入浴者又は介護者が回転操作するハンドル10が接続され、ハンドル10が回されることにより、ウォームギア14及びウォームホイール15が回転し、さらに、アーム2が上下に揺動し、昇降台60が昇降する。
【0047】
[横行ガイド機構]
図1及び図3を参照すると、ケース1の裏側には、上下横行ガイドローラ67a,68aが取り付けられている。浴室には、上下横行ガイドローラ67a,68aがそれぞれ摺動する上下ガイドレール67,68が架設される。このような横行ガイド機構によって、ケース1ないし装置の横行が容易となり、入浴者を洗い場と浴槽上との間を小さな力で移動させることができる。
【0048】
[昇降台、座席、車椅子]
車椅子41と、本発明の一実施例に係る入浴介護補助装置との間の、入浴者の受け渡しについて説明する。図6は、図1に示した入浴介護補助装置の動作図であって、車椅子から装置への座席の受け渡しを示している。図7は、図6に続く動作図であって、座席を装置に取り付けた様子を示している。
【0049】
図4、図6及び図7を参照すると、座席30のハンガー31には、座席30を車椅子41から本入浴介護補助装置側に受け渡す際に、ハンガーキャッチ9の係合部9a,9bと係合する被係合部31a,31bが形成されている。座席30は、座席30が車椅子41に取付けられる際に、車椅子41のパイプ部44と係合するパイプ部31cを備えている。車椅子41は、フットレスト31dを備えている。車椅子41は、パイプ部31cを解除可能にロックする座席ロック機構42と、車輪ロック機構43とを備えている。
【0050】
以上説明した入浴介護補助装置の動作を説明する。図8は、図7に続く動作図であって、座席を浴槽内に降下させた様子を示している。
【0051】
図6を参照すると、介護者が本発明の一実施例に係る入浴介護補助装置を用いて入浴者を入浴させるとき、介護者は、座席30に入浴者を乗せ、浴室に架設された入浴介護補助装置の前まで運び、介護者は、車輪ロック機構43を操作して、車椅子41を定置させる。次に、介護者は、座席ロック機構42を解除して、座席30を昇降台60のハンガーキャッチ9に係合する。
【0052】
介護者は、操作ハンドル10を所定方向に操作して、アーム2を上方に揺動させ、入浴者を座席30と共に、滑車機構54の作用により、アーム2の昇降方向ストロークに対して約三倍のストロークで上昇させる。このとき、ばね20のばね力によって、アーム2には、入浴者や座席30等を支持する補助力が作用しているため、介護者は小さな操作力で操作ハンドル10を操作することができる。
【0053】
次に、介護者は、入浴介護装置のケース1を水平方向に移動させることにより、入浴者を洗い場上から浴槽上に移動させる。続いて、介護者は、操作ハンドル10を反対方向に操作して、アーム2を下降する方向に揺動させることにより、入浴者を座席30と共に、滑車機構54の作用により、アーム2の昇降方向ストロークに対して約三倍のストロークで下降させて、入浴者を浴槽内の湯中に浸漬する。
【0054】
入浴中、入浴者及び座席30には浮力が働き、この浮力はアーム2を上昇させる力として作用する。しかし、ウォームギア14及びウォームギア15が発揮するセルフロック機構によって、アーム2の揺動が防止されているため、アーム2に吊り下がっている入浴者は安定した状態で十分に湯に漬かることができる。
【0055】
特に、図4及び図8を参照すると、昇降台60ないし座席30の昇降時、昇降台60と共に昇降する延長ローラ50に取り付けられた上部ローラ52が固定レール49と摺動ないし転動すること、及びケース1に取り付けられたガイドローラ51が昇降台60と摺動ないし転動することにより、入浴者は安定した状態で昇降される。一方、入浴時には、延長レール50に取り付けられた下部ローラ53が浴槽内壁と摺動することによって、昇降台60に接続された座席30には、浴槽内壁の傾斜に応じた適度な傾斜が付与されるため、入浴者は楽な姿勢で入浴することができる。
【0056】
図9(A)は、本発明の一実施例に係る入浴介護装置において、湯中又は湯外(湯なし)において入浴者の体重によって発生するモーメントとアームの角度の関係を示すグラフであり、図9(B)は、同装置が発生するばね力及びこのばね力によるばねモーメントとアーム2角度の関係を説明するためのグラフである。
【0057】
図9(A)を参照すると、入浴者が湯に漬かることにより、アーム2(図1参照)に対するモーメントは変化する。この入浴介護補助装置によれば、このモーメント変化がセルフロック機構によって吸収される。また、図9(B)を参照すると、この入浴介護補助装置によれば、ばね20(図1参照)の発生するばね力がアーム2の揺動角度に対してリニアーに変化するのに対して、ばね20が発生するモーメントはアーム2の揺動角度に対して所定の曲線にしたがって変化する。すなわち、図9(A)に示した入浴者の重量によって発生するモーメントの変化と同様に、図9(B)に示すように、ばね20が発生するモーメントが変化することにより、介護者は常に適切な小さな操作力で操作ハンドル10を回転させることができる。
【0058】
以上説明した本発明の一実施例に係る入浴介護補助装置の効果を例示する:
(1)この入浴介護補助装置は、動力を伝達する可動部分(例えば、ワイヤー等)がケースに内蔵されているため、入浴者及び介護者の安全性に対して十分な配慮が払われている。
(2)この入浴介護補助装置は、アームの昇降方向ストロークに対して座席を約三倍のストロークで昇降させることができるため、洗い場の床面と浴槽内の湯面の相対位置によって変動する座席の所要ストローク長さに広範囲に適合できる;
(3)ケース(本体)側に、座席に座る入浴者の重さと近似的に釣り合う方向に働き、小さな力でアームを揺動させることができる種々の機構を設けることができる。これによって、介護者に要求される操作力が小さくなり、入浴介護に要する労力が低減される。
(4)ケース(本体)内に前記約三倍のストロークを実現するための機構を短いアームで実現でき、さらに、ウォームホイールにアームを直結して配置することにより、ケースの小型化が図れる。したがって、小形のケース内に配置される、座席及び入浴者の荷重が印加されるアームを揺動するための力を発生するための動力源として、本出願人が上述の特許文献1〜6に提案した機構等を用いることができる;
(5)座席が昇降レールの固定レール(外レール)によって案内されながら(昇降台と一体の延長レールが固定レールによって案内されながら昇降する)上下にスライドし、延長レール(内レール)の下ローラが浴槽に沿って下方に移動するため、入浴者が安定した状態で上下に昇降される;
(6)昇降レールが固定レール(外レール)と延長レール(内レール)にほぼ2分割されており昇降台は浴槽傾斜に沿って昇降するので設置性の制約が少ない構造である上、ケース(本体)形状が小型化でき、装置の搬送・据付が容易である。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明による入浴介護補助装置は、特別の動力源を必要としないよう構成できるため、既設の浴室、例えば、一般家庭の浴室に好適に適用される。また、本発明の入浴介護補助装置は、介護施設にも好適に適用される。装置として好適に採用される。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の一実施例に係る入浴介護補助装置の内部構造図である。
【図2】図1に示した入浴介護補助装置の滑車機構等の三面図である。
【図3】図1の右側面図である。
【図4】図1に示した入浴介護補助装置の昇降台及び昇降レールを示す右側面動作図である。
【図5】図1に示した入浴介護補助装置の操作機構の拡大図である。
【図6】図1に示した入浴介護補助装置の動作図であって、車椅子から装置への座席の受け渡しを示している。
【図7】図6に続く動作図であって、座席を装置に取り付けた様子を示している。
【図8】図7に続く動作図であって、座席を浴槽内に降下させた様子を示している。
【図9】(A)は、図1に示した入浴介護補助装置において、湯中又は湯外において入浴者の体重によって発生するモーメントとアーム角度の関係を示すグラフ、(B)は、同装置が発生するばね力及びばねモーメントとアーム角度の関係を説明するためのグラフである。
【符号の説明】
【0061】
1 ケース
1a ウォームケース
1b ポール
1c,1d パイプ
1e ローラガイド
2 アーム
9 ハンガーキャッチ
9a,9b 係合部
10 操作ハンドル
11 ギヤボックス
12 ユニバーサルジョイント
14 ウォームギア
15 ウォームホイール
(14,15) ウォームアンドホイール機構
16 レバー
16a ピン
17 ばね軸
17a ピン
17b コロ(ローラ)
17c ばね軸ガイド
18 下部ばね受け
19 上部ばね受け
20 ばね
21 ねじ
30 座席
31 ハンガー(着座バー)
31a,31b 被係合部
31c パイプ部
31d フットレスト
41 車椅子(キャリー、移動車)
42 座席ロック機構
43 車輪ロック機構
44 パイプ部
45 ばね機構
46 横行レール
47 テンションロッド
48 昇降レール
49 固定レール
50 延長レール
51 ガイドローラ
52 上部ローラ
53 下部ローラ
54 滑車機構
55 一方の固定端
56 第1の定滑車
57 動滑車
58 第2の定滑車
59 第3の定滑車
60 昇降台
63 ワイヤ
66 他方の固定端
67,68 上下ガイドレール
67a,68a 上下横行ガイドローラ
69 固定の補助滑車

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入浴者が着座する座席を昇降自在な入浴介護補助装置であって、
前記座席と一体又は該座席が取付自在な昇降台と、
前記昇降台の昇降を案内する昇降ガイドレールと、
回転操作自在なウォームギアと、
前記ウォームギアと噛合して回転自在なウォームホイールと、
前記ウォームホイールに取り付けられ該ウォームホイールの回転に伴って揺動自在であるアームと、
前記昇降台と前記アームの間に接続され該昇降台を該アームに懸架させて少なくとも該座席による吊下荷重を該アームに伝達する滑車機構と、
前記アームに直接又は間接的に接続されて前記吊下荷重に対抗する力を該アームに直接又は間接的に印加し、前記ウォームギアの回転操作力を軽減するばねと、
を有し、
前記滑車機構は、ワイヤと、前記ワイヤの一端を前記アームに固定する一方の固定端と、前記ワイヤの他端を前記昇降台に固定する他方の固定端と、第1の定滑車と、前記アームに支持される動滑車と、を少なくとも備え、前記ワイヤは、前記一方の固定端から他方の固定端に向かって、前記第1の定滑車及び前記動滑車に懸回され、
前記昇降台ないし座席は、前記アームの昇降方向ストロークに対して実質的に三倍又は三倍超の昇降ストロークで昇降する、ことを特徴とする入浴介護補助装置。
【請求項2】
前記滑車機構は、前記ワイヤの経路に沿って、前記動滑車と前記他方の固定端の間に、前記ワイヤが懸回される前記第2及び第3の定滑車を備え、
前記第1及び第2の定滑車は、前記昇降台の昇降方向に沿って、前記第3の定滑車の下方にそれぞれ配置される、ことを特徴とする請求項1記載の入浴介護補助装置。
【請求項3】
少なくとも、前記アーム、前記滑車機構及び前記ばねを収容するケースを有することを特徴とする請求項1記載の入浴介護補助装置。
【請求項4】
前記昇降ガイドレールは、固定レールと、前記昇降台に付設され該昇降台の昇降に伴って該固定レールから出没自在な延長レールを含み、
前記延長レールは、該昇降台の昇降に伴って前記固定レールと摺動自在な上部ローラと、浴槽の内壁と摺動自在な下部ローラと、を備える、
ことを特徴とする請求項1記載の入浴介護補助装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−201554(P2009−201554A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−44150(P2008−44150)
【出願日】平成20年2月26日(2008.2.26)
【出願人】(000195627)精工技研株式会社 (9)
【Fターム(参考)】