説明

入浴剤組成物

【課題】安定性に優れるとともに、清涼感の持続性が高く、目鼻への刺激の少ないl−メントール配合の粉末入浴剤組成物の提供。
【解決手段】高度分岐環状デキストリン及びl−メントールを含有する入浴剤用粉末状清涼剤;ならびに前記粉末状清涼剤を含有する粉末入浴剤組成物。当該入浴剤組成物は、保存安定性に優れ、l−メントールが浴湯に分散し、揮発が抑制されるため、清涼感が持続するとともに目鼻への刺激が低減されるため、その清涼感を十分に発揮することができるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は入浴剤組成物に関し、更に詳細には、高度分岐環状デキストリンとl−メントールを含有する粉末状清涼剤を配合することにより優れた保存安定性とマイルドな清涼感の持続が得られる粉末入浴剤組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、入浴剤では、入浴時の清涼感を得るためl−メントールが用いられている。しかし、l−メントールを配合すると、l−メントールの昇華により粉末入浴剤の安定性が悪くなることが知られている。また、l−メントールを配合した入浴剤は入浴時の清涼感が得られる反面、浴湯温度が約40℃であるためl−メントールが浴湯から揮発することから、目鼻への刺激があるとともに清涼感の持続性がないという問題があった。これらの課題を解決する手段として、常温で液状の多価アルコールなどの溶剤を用いて解決する方法が開示されている(特許文献1)。しかしながら、この方法ではl−メントールを入浴剤組成物全量に対して0.3重量%以上配合しようとした場合に液体成分の添加により流動性が悪くなったり、安定性確保が十分でないなど満足な入浴剤は得られない。
【0003】
一方、高度分岐環状デキストリンは外用剤などで生理活性成分の安全性の向上に利用できることが知られている(特許文献2及び3)。しかしながら、これらの技術は、皮膚に直接塗布する外用剤での生理活性成分の刺激を低減することを目的としており、入浴剤で使用する約40℃のお湯に溶解した状態でのl−メントールの揮発性による刺激低減効果には触れていない。また油脂等の水への溶解性及び安定性向上に利用できることも公開されているが(特許文献4)、その効果は温度による酸化防止や水への分散性向上を目的としており、l−メントールの昇華を抑える安定性向上や約40℃のお湯における昇華性の高いl−メントールの分散性向上には何ら言及していない。
【0004】
【特許文献1】特開平11−335264号公報
【特許文献2】特開2003−238377号公報
【特許文献3】特開2003−238447号公報
【特許文献4】特開2003−49189号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、安定性に優れるとともに、清涼感の持続性が高く、目鼻への刺激の少ないl−メントール配合の粉末入浴剤組成物を提供することを課題とする。
【0006】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、高度分岐環状デキストリン及びl−メントールを含有した粉末状清涼剤を配合することにより、優れた安定性と清涼感の持続性を有し、かつ目鼻への刺激が少ない入浴剤が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)高度分岐環状デキストリン及びl−メントールを含有する入浴剤用粉末状清涼剤。
(2)高度分岐環状デキストリンとl−メントールとの配合重量比が1:0.1〜1.5である前記(1)に記載の入浴剤用粉末状清涼剤。
(3)高度分岐環状デキストリンの含有量が25重量%以上である前記(1)又は(2)に記載の入浴剤用粉末状清涼剤。
(4)高度分岐環状デキストリン、l−メントール及び水を含有する混合物を噴霧乾燥して得られる前記(1)〜(3)のいずれかに記載の入浴剤用粉末状清涼剤。
(5)高度分岐環状デキストリンが、α−1,4−グルコシド結合とα−1,6−グルコシド結合とで形成される環状構造部分である内分岐環状構造部分と、該内分岐環状構造部分に結合した非環状構造部分である外分岐構造部分とを有する平均重合度10,000以下のグルカンである前記(1)〜(4)のいずれかに記載の入浴剤用粉末状清涼剤。
(6)前記(1)〜(5)のいずれかに記載の入浴剤用粉末状清涼剤を含有する粉末入浴剤組成物。
(7)前記入浴剤用粉末状清涼剤の含有量が0.01〜20重量%である前記(6)に記載の粉末入浴剤組成物。
(8)粉末入浴剤組成物中のl−メントールの含有量が0.1〜6重量%である前記(6)又は(7)に記載の粉末入浴剤組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、安定性に優れるとともに、清涼感の持続性が高く、目鼻への刺激の少ないl−メントール配合の粉末入浴剤組成物を提供することができる。
【0009】
本発明の入浴剤組成物は、保存安定性に優れ、l−メントールが浴湯に分散し、揮発が抑制されるため、清涼感が持続するとともに目鼻への刺激が低減されるため、その清涼感を十分に発揮することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の入浴剤用粉末状清涼剤は、高度分岐環状デキストリン及びl−メントールを含有する。
【0011】
本発明に用いる高度分岐環状デキストリンは、従来入浴剤に用いられているデキストリンやシクロデキストリンとは異なり、内分岐環状構造部分と外分岐構造部分とを有する、平均重合度が50以上であるグルカンをいう。「グルカン」とは、D−グルコースから構成される多糖をいう。ここで、グルカンという用語には、グルカンの誘導体が含まれる。内分岐環状構造部分とは、本明細書においては、α−1,4−グルコシド結合とα−1,6−グルコシド結合とで形成される環状構造部分をいう。外分岐構造部分とは、本明細書においては、前記内分岐環状構造部分に結合した非環状構造部分をいう。高度分岐環状デキストリン及びその製造方法は、特許第3107358号公報に詳細に記載されている。
【0012】
本発明に用いる高度分岐環状デキストリンは、分子全体として少なくとも1つの分岐を有すればよい。
【0013】
本発明に用いる高度分岐環状デキストリンは、平均重合度が50以上であれば、任意の平均重合度のものを用いることができるが、平均重合度は、好ましくは約50〜約10,000、より好ましくは約50〜約7,000、最も好ましくは約50〜約5,000である。
【0014】
高度分岐環状デキストリンに存在する、内分岐環状構造部分における平均重合度は、好ましくは約10〜約500、更に好ましくは約10〜約100である。
【0015】
高度分岐環状デキストリンに存在する、外分岐構造部分における平均重合度は、好ましくは約40以上であり、より好ましくは約100以上、更に好ましくは約300以上、最も好ましくは約500以上である。
【0016】
前記内分岐環状構造部分のα−1,6−グルコシド結合は少なくとも1個あればよく、通常1〜約200個、好ましくは1〜約50個である。
【0017】
高度分岐環状デキストリンは、1種類の重合度のものを単独で用いてもよいし、種々の重合度のものの混合物として用いてもよい。高度分岐環状デキストリンの重合度は、好ましくは、最大の重合度のものと最小の重合度のものとの重合度の比が約100以下、より好ましくは約50以下、最も好ましくは約10以下である。
【0018】
高度分岐環状デキストリンの製造方法の概略を以下に記載する。高度分岐環状デキストリンの製造方法においては、原料という用語には誘導体化された原料が含まれる。高度分岐環状デキストリンは、α−1,4−グルコシド結合及び少なくとも1個のα−1,6−グルコシド結合を有する糖類と、この糖類に作用して環状構造を形成し得る酵素とを反応させることによって製造され得る。
【0019】
高度分岐環状デキストリンの製造に使用できる酵素としては、α−1,4−グルコシド結合及び少なくとも1個のα−1,6−グルコシド結合を有する糖類に作用して、平均重合度が50以上であって、環状構造を有するグルカンを形成し得る酵素であれば、いずれをも使用できる。使用できる酵素としては、枝作り酵素(1,4−α−グルカン分岐酵素、枝付け酵素、ブランチングエンザイム、Q酵素とも呼ばれる)、D酵素(4−α−グルカノトランスフェラーゼ、不均化酵素、アミロマルターゼとも呼ばれる)、CGTase(シクロデキストリングルカノトランスフェラーゼとも呼ばれる)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0020】
枝作り酵素(EC 2.4.1.18)は、澱粉系の糖類のα−1,4−グルカン鎖の一部を6位に転移して分枝を作る酵素である。
【0021】
D酵素(EC 2.4.1.25)は、ディスプロポーショネーティングエンザイムとも呼ばれ、マルトオリゴ糖の糖転移反応(不均一化反応)を触媒する酵素である。D酵素は、供与体分子の非還元末端からグルコシル基、又はマルトシルもしくはマルトオリゴシルユニットを受容体分子の非還元末端に転移する酵素である。従って、酵素反応は、最初に与えられたマルトオリゴ糖の重合度の不均一化をもたらす。
【0022】
枝作り酵素は、種々の植物、動物、細菌などの微生物に存在しており、その起源は問わない。反応最適温度が高い点から、好熱性細菌由来の枝作り酵素遺伝子をクローン化した大腸菌から精製された枝作り酵素が、あるいは、大量の酵素が得易い点から、馬鈴薯由来の枝作り酵素が好ましい。
【0023】
D酵素としては、種々の植物、あるいは微生物に由来するものを使用でき、市販の酵素も使用できる。D酵素は最初、馬鈴薯から発見されたが、馬鈴薯以外にも、種々の植物及び大腸菌などの微生物に存在することが知られている。この酵素は、植物に由来する場合にはD酵素、微生物に由来する場合にはアミロマルターゼと呼ばれている。従って、D酵素はその起源は問わず、植物由来の酵素をコードする遺伝子を大腸菌などの宿主を用いて発現させたものであっても使用できる。
【0024】
CGTase(EC 2.4.1.19)としては、周知の微生物由来のCGTase、あるいは市販のCGTaseが挙げられる。微生物由来のCGTaseとしては、好適には、市販のBacillus stearothermophilus由来のCGTase(株式会社林原生物化学研究所、岡山)、Bacillus macerans由来のCGTase(商品名:コンチザイム、天野製薬株式会社、名古屋)、あるいはAlkalophilic Bacillus sp.A2−5a由来のCGTaseが挙げられる。より好適には、Alkalophilic Bacillus sp.A2−5a由来のCGTaseが挙げられる。Alkalophilic Bacillus sp.A2−5aは、特開平7−107972号公報に開示されているアルカリ域で高い活性を有するCGTaseを産生する株であり、工業技術院生命工学工業技術研究所に受託番号(FERM P−13864)として寄託されている。
【0025】
前記枝作り酵素、D酵素、あるいはCGTaseは、澱粉分子内のα−1,4−又はα−1,6グルコシド結合を加水分解するエンド型のアミラーゼ類の酵素活性が検出されない又は非常に弱ければ、精製段階の粗酵素であっても、高度分岐環状デキストリンの製造に使用できる。
【0026】
高度分岐環状デキストリンの製造に用いる酵素は、精製酵素、粗酵素を問わず、固定化されたものでもよい。反応の形式は、バッチ式でも連続式でもよい。固定化の方法としては、担体結合法(例えば、共有結合法、イオン結合法、あるいは物理的吸着法)、架橋法あるいは包括法(格子型あるいはマイクロカプセル型)など、当業者に周知の方法が使用され得る。
【0027】
高度分岐環状デキストリンの製造に使用する原料としては、α−1,4−グルコシド結合及び少なくとも1個のα−1,6−グルコシド結合を有する糖類が挙げられる。このような糖類としては、澱粉、澱粉の部分分解物、アミロペクチン、グリコーゲン、ワキシー澱粉、ハイアミロース澱粉、可溶性澱粉、デキストリン、澱粉加水分解物、ホスホリラーゼによる酵素合成アミロペクチンなどが挙げられる。
【0028】
澱粉としては、通常市販されている澱粉であれば如何なる澱粉でもよく、例えば、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、くず澱粉、タピオカ澱粉などの地下澱粉、コーンスターチ、小麦澱粉、米澱粉などの地上澱粉が挙げられる。
【0029】
澱粉の部分分解物としては、前記澱粉を酵素や酸などで部分的に加水分解したもの、澱粉の枝切り物が挙げられる。
【0030】
アミロペクチンとしては、特にアミロペクチン100%からなるワキシーコーンスターチが、製造されるグルカンの分子量分布がより均一となるため、好適に用いうる。例えば、平均重合度が約600程度以上のアミロペクチンが原料として用いうる。
【0031】
また、枝作り酵素を用いる場合には、α−1,4−結合のみを有するグルカンも原料として用いうる。α−1,4−グルコシド結合のみを有する糖類としては、アミロース、澱粉の部分分解物、澱粉枝切り物、ホスホリラーゼによる酵素合成アミロース、マルトオリゴ糖などが挙げられる。平均重合度が約400以上のアミロースが好適に用いうる。
【0032】
また、原料としては、前記澱粉あるいは澱粉の部分分解物などの誘導体も用いうる。例えば、前記澱粉のアルコール性の水酸基の少なくとも1つが、グリコシル化、ヒドロキシアルキル化、アルキル化、アセチル化、カルボキシメチル化、硫酸化、あるいはリン酸化された誘導体なども用いうる。更に、これらの2種以上の混合物も原料として用いうる。
【0033】
高度分岐環状デキストリンの製造方法における、前記原料と前記酵素とを反応させる工程は、高度分岐環状デキストリンが生成するpH、温度などの反応条件であれば、特に制限はない。前記原料の濃度(基質濃度)も、反応条件などを考慮して決定され得る。
【0034】
酵素が枝作り酵素である場合には、反応のpHは、通常約3から約11である。反応速度、効率及び酵素の安定性などの点から、好ましくは約4から約10、更に好ましくは約7から約9である。温度は、約10℃から約110℃、反応速度、効率及び酵素の安定性などの点から、好ましくは約20℃から約90℃である。基質濃度は、通常約0.05%から約60%程度、反応速度、効率及び基質溶液の取り扱い易さなどの点から、好ましくは約0.1%から約30%程度である。使用する酵素量は、基質1g当たり、通常約50〜10,000単位である。
【0035】
酵素がD酵素である場合には、反応のpHは、通常、約3から約10、反応速度、反応効率及び酵素の安定性などの点から、好ましくは約4から約9、更に好ましくは約6から約8である。温度は、約10℃から約90℃、反応速度、反応効率及び酵素の安定性などの点から、好ましくは約20℃から約60℃、更に好ましくは約30℃から約40℃の範囲である。耐熱性の微生物などから得られる酵素を用いる場合は、約50℃から約110℃の高温で使用できる。原料の濃度(基質濃度)も、反応条件などを考慮して決定できる。通常、約0.1%から約50%程度、反応速度、効率、基質溶液の取リ扱い易さなどの点から、好ましくは約0.1%から約30%、溶解度などを考慮すると、更に好ましくは約0.1%から約20%である。使用する酵素の量は、反応時間、基質の濃度との関係で決定され、通常は、約1時間から約48時間で反応が終了するように酵素量を選ぶのが好ましい。基質1g当たり、通常約500〜約100,000単位、好ましくは約700〜約25,000単位、より好ましくは約2,000〜約20,000単位である。
【0036】
酵素がCGTaseである場合、反応時のpHは、通常約4から約11である。反応速度、効率、酵素の安定性などの点から、好ましくは約4.5から約10、更に好ましくは約5から約8である。反応温度は、約20℃から約110℃、反応速度、効率、酵素の安定性などの点から、好ましくは約40℃から約90℃である。基質濃度は、通常約0.1%から約50%程度、反応速度、効率、基質溶液の取り扱い易さなどの点から、好ましくは約0.1%から約30%程度である。使用する酵素量は、基質1g当たり、通常約1から約10、000単位、好ましくは約1から約1、000単位、より好ましくは約1から約500単位である。
【0037】
前記反応で得られた種々の環状構造を有する高度分岐環状デキストリンは、当業者に周知の分離方法、例えば、クロマト分離(例えば、ゲル濾過クロマトグラフィー、HPLC)膜分離などで分離され、溶媒(例えば、メタノール、エタノール)を用いる沈澱などの方法を、単独で、あるいは組み合わせて用いて精製され得る。
【0038】
前記の方法では、原料の澱粉からの高度分岐環状デキストリンの収率は非常に高く、特に、枝作り酵素を用いた場合にはほぼ100%の収率で得られ得る。D酵素、あるいはCGTaseを用いる場合には、環状構造のみを有するグルカンも生産されるが、これらは、例えば、セファデックスを用いるゲル濾過により、容易に、目的の分岐構造を有する環状グルカンから分離され得る。また、分離された高度分岐環状デキストリンは、HPLCなどのゲル濾過で分子量に応じて分離され得る。
【0039】
反応生成物の平均重合度は、ゲル濾過によって、平均重合度既知のアミロースの溶出位置から示差屈折計を用いて測定できる。更に、示差屈折計と低角度レーザー光散乱光度計を併用して、次の原理により平均重合度を決定できる。示差屈折計の出力はグルカンの濃度に比例し、低角度レーザー光散乱計の出力はグルカンの平均重合度と濃度の積に比例する。従って、両検出器の出力の比を測定することにより、グルカンの平均重合度を決定できる。
【0040】
高度分岐環状デキストリンの平均重合度は容易に適宜調整され得る。例えば、得られたグルカンにエキソ型のアミラーゼ、例えばグルコアミラーゼを作用させて、外分岐構造部分の糖鎖を切断すれば、平均重合度がより低いグルカンが容易に得られる。
【0041】
本発明に用いる高度分岐環状デキストリンとしては、江崎グリコ(株)製のクラスターデキストリン(商標)が市販されており、当該市販品を好適な高度分岐環状デキストリンとして用いることができる。
【0042】
本発明の入浴剤用粉末状清涼剤における高度分岐環状デキストリンとl−メントールとの配合重量比は1:0.1〜1.5であることが好ましい。l−メントールの配合比が1.5より大きいとl−メントールの十分な安定性が得られない場合があり、0.1より小さいと入浴時に満足な清涼感が得られない場合がある。
【0043】
本発明の入浴剤用粉末状清涼剤における高度分岐環状デキストリンの含有量は、少なすぎるとl−メントールの安定性が十分でなくなることから、25重量%以上であることが好ましく、25〜50重量%であることが更に好ましい。
【0044】
本発明の入浴剤用粉末状清涼剤におけるl−メントールの含有量は、少なすぎると清涼剤の機能が十分でなくなり、多すぎるとl−メントールの安定性が十分でなくなることから、2.5〜60重量%であることが好ましく、25〜50重量%であることが更に好ましい。
【0045】
本発明の入浴剤用粉末状清涼剤には、高度分岐環状デキストリン及びl−メントール以外に、必要に応じて、乳化剤、賦形剤、酸化防止剤、香料、着色料、ミネラル、ビタミン、pH調整剤等の他の成分を配合してもよいが、多く配合すると相対的にl−メントールの配合量が少なくなり、清涼剤の製造効率が悪くなることから、これらの他の成分の本発明の入浴剤用粉末状清涼剤中の含有量は、好ましくは60重量%以下、更に好ましくは0.5〜45重量%である。
【0046】
(乳化剤)
乳化剤は一般に外用剤に使用されうる乳化剤であればいずれの乳化剤を用いてもよい。乳化剤の例としてはグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルなどの非イオン界面活性剤;大豆レシチン、卵黄レシチンなどのレシチン;カゼイン及びその塩(例えば、カゼインナトリウム)などのタンパク質である。本発明の粉末状清涼剤は、これらの乳化剤を一種又は複数種含み得る。
【0047】
本発明の粉末状清涼剤に含まれる乳化剤の配合量は、l−メントール100重量部に対して、通常約0.001〜約50重量部であり、好ましくは約0.01〜約10重量部であり、より好ましくは約0.1〜約5重量部である。乳化剤の配合量が多すぎると、相対的にl−メントールの濃度が低くなるので、粉末状清涼剤として好ましい品質が得られにくくなり、また乳化剤の種類によっては乳化機能が低下する場合がある。配合量が少なすぎると粉末状清涼剤における乳化が不均質になりやすい場合がある。
【0048】
(賦形剤)
賦形剤は、高度分岐環状デキストリンの添加の効果を実質的に損なわず、l−メントールに悪影響を及ぼさない任意の物質である。賦形剤の例としては、カゼイン及びその塩(例えば、カゼインナトリウム)、ゼラチン、ホエイタンパク質、卵白などのタンパク質;ショ糖、乳糖、ブドウ糖などの少糖類;ソルビトール、マンニトールなどの糖アルコール;澱粉又はその分解物などが挙げられる。賦形剤は、好ましくは、カゼインナトリウム、ゼラチン、ホエイタンパク質、卵白、ショ糖、乳糖、澱粉又はその分解物(例えば、デキストリン)である。本発明の粉末状清涼剤は、これらの賦形剤を一種又は複数種含み得る。
【0049】
本発明の粉末状清涼剤に含まれる賦形剤の配合量は、l−メントール100重量部に対して、通常約5〜約500重量部であり、好ましくは約10〜約300重量部であり、より好ましくは約20〜約150重量部である。賦形剤の配合量が多すぎると、相対的にl−メントールの濃度が低くなるので、粉末状清涼剤として好ましい品質が得られにくくなる場合がある。
【0050】
本発明の粉末状清涼剤の製造方法は、特に制限はなく、例えば、l−メントール、高度分岐環状デキストリン及び水を混合して、次いでこの混合物を乾燥することにより製造することができる。
【0051】
この方法では、具体的にはまず、l−メントール、高度分岐環状デキストリン及び水、必要に応じて乳化剤及び賦形剤などの他の成分を、パステライザー、ケーキミキサー、ホリゾンタルミキサーなどによって混合して液体組成物を得る。混合方法としては、得られる液体組成物が均一に混合されていれば混合時間及び混合方法は特に問わない。例えば、水は、油性の原料と水性の原料とを混合した後に加えて混合してもよい。
【0052】
次に液体組成物をホモジナイザーなどを用いて乳化する。乳化型は水中油型の乳化である。乳化状態が得られる限り、粒子径は大きくとも小さくともよい。分散粒子径が20ミクロン以下であることが好ましく、10ミクロン以下であることがより好ましい。乳化において使用する機種は、乳化を行い得る機種であれば特に問わない。例えば、ホモジナイザー、ホモミキサー、マイコロイダーなどを用いることができる。
【0053】
次に乳化した液体組成物を乾燥して、粉末状清涼剤を得る。乾燥方法は、乳化した状態が乾燥終了直前まで維持されるような乾燥方法であることが好ましい。また、液体組成物を大量に処理し得る乾燥方法であることも工業的生産の観点から好ましい。このような乾燥方法の例として、噴霧乾燥(スプレードライともいう)、フリーズドライなどが挙げられる。好ましくは、乾燥は噴霧乾燥によって行われる。
【0054】
このようにして得られた粉末状清涼剤中のl−メントールは、通常、高度分岐環状デキストリンによって表面処理される。「表面処理」とは、l−メントールと高度分岐環状デキストリンとの間で、単独で乾燥したl−メントールと比較して、水への分散性向上、昇華の抑制により清涼感の持続性が高く、目鼻への刺激の少なくなる効果が得られる程度の相互作用が得られる程度に、l−メントールの表面に対して高度分岐環状デキストリンが何らかの作用を施していることをいう。l−メントールの表面は、おそらく、高度分岐環状デキストリンにより覆われていると推定されるが、高度分岐環状デキストリンの添加効果が得られる限り、現実に高度分岐環状デキストリンがl−メントールに付着したか否かは問題ではない。
【0055】
本発明の粉末入浴剤組成物は、前記の入浴剤用粉末状清涼剤を含有するものである。
本発明の粉末入浴剤組成物における粉末状清涼剤の含有量は、好ましくは0.01〜20重量%であり、更に好ましくは2〜4重量%である。粉末状清涼剤の含有量が0.01重量%未満であると十分な清涼感が得られない場合があり、20重量%よりも多いと粉末入浴剤の製造時に粉末の物性が悪くなる場合がある。
【0056】
本発明の粉末入浴剤組成物におけるl−メントールの含有量は、好ましくは0.003〜10重量%であり、より好ましくは0.1〜6重量%、更に好ましくは0.3〜6重量%である。
【0057】
本発明の入浴剤組成物には、前記成分の他、必要に応じ任意成分を配合することができる。このような任意成分としては、炭酸塩、有機酸、無機顔料、保湿剤、防腐剤、香料、無機塩類、油性成分、滑沢剤、水溶性高分子、着色剤等が例示できる。
【0058】
炭酸塩としては、例えば炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、セスキ炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム等が挙げられ、有機酸としては、例えばコハク酸、フマル酸、リンゴ酸、アジピン酸、酒石酸、クエン酸、マロン酸、マレイン酸等が挙げられる。これらの炭酸塩及び有機酸はそれぞれ1種以上を用いることができる。
【0059】
無機顔料としては、例えば酸化チタン、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛(亜鉛華)、タルク、ケイ酸カルシウム、無水ケイ酸、カオリン、ベントナイト、雲母チタン等が挙げられる。
【0060】
保湿剤としては、例えば、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、デキストリン、グルコース、マルトース、ラクトース、サッカロース、キシロース、フルクトース、マンニトール、ラクチトール等の糖類;エチレングリコール、プロピレングリコール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、グリセリン、1,3−ブチレングリコール等の多価アルコール類;ピロリドンカルボン酸ナトリウム、グルタミン酸ナトリウム等のアミノ酸類;尿素;植物由来エキス;生薬等が挙げられる。
【0061】
防腐剤としては、例えばパラオキシ安息香酸エステル(例えば、メチルパラベン)、安息香酸、安息香酸塩、フェノキシエタノールが挙げられる。
【0062】
香料としては、例えばラベンダー油、ジャスミン油、レモン油等の天然香料、ゲラニオール、シトロネロール、フェネチルアルコール等の合成香料が挙げられる。
【0063】
無機塩類としては、例えば硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、チオ硫酸ナトリウム、酸化マグネシウム、硫酸アルミニウム、ミョウバン、メタケイ酸塩等が挙げられる。
【0064】
油性成分としては、例えば、大豆油、ヌカ油、ホホバ油、アボガド油、アーモンド油、オリーブ油、カカオ脂、ゴマ油、パーシック油、ヒマシ油、ヤシ油、ミンク油、牛脂、豚脂等の天然油脂、これらの天然油脂を水素添加して得られる硬化油及びミリスチン酸グリセリド、2−エチルヘキサン酸グリセリド等の合成グリセリド、ジグリセリド等の油脂類;カルナウバロウ、鯨ロウ、ミツロウ、ラノリン等のロウ類;流動パラフィン、ワセリン、パラフィン、マイクロクリスタリンワックス、セレシン、スクワラン、プリスタン等の炭化水素類;ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ラノリン酸、イソステアリン酸等の高級脂肪酸類;ラウリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、コレステロール、2−ヘキシルデカノール等の高級アルコール類;オクタン酸セチル、乳酸ミリスチル、乳酸セチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、アジピン酸イソプロピル、ステアリン酸ブチル、オレイン酸デシル、イソステアリン酸コレステロール等のエステル類;精油類;シリコーン油類が挙げられる。
【0065】
滑沢剤としては、例えばカオリン、ポリエチレングリコール、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、シリコーン油、油性成分、澱粉等が挙げられる。
【0066】
水溶性高分子としては、例えば、にかわ、ゼラチン、コラーゲン蛋白、カゼイン、アルギン酸ナトリウム、カラギーナン、ファーセレラン、タマリンドガム、ペクチン、アラビアガム、グアーガム、キサンタンガム、トラガントガム、ローカストビーンガム、デキストラン、寒天、澱粉等の天然水溶性高分子;カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、アルギン酸プロピレングリコールエステル、酸化澱粉、エステル化澱粉、エーテル化澱粉、カチオン澱粉等の半合成水溶性高分子;ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチレンイミン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン等の合成水溶性高分子などが挙げられ、これらを単独で、又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0067】
本発明の入浴剤組成物は、前記必須成分及び必要に応じ任意成分を常法にしたがって混合することにより製造することができ、例えば、粉末状清涼剤とその他の粉体原料を混合して均一にし、次に油性成分を添加し、全体に油性成分で濡れる程度まで混合する方法が例示できる。
【0068】
本発明の入浴剤組成物は、香料等の一部の成分を除き、粉末として使用することができるので、容易に混合することができ、入浴剤自体の安定性がよいことから容器に特別な工夫をする必要がないため、製造コストを抑えることができ、様々な形態の容器で商品化ができる。
【実施例】
【0069】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳述するが、本発明はこれらにより何ら制限されるものではない。
【0070】
以下において、高度分岐環状デキストリンとしては、江崎グリコ(株)製のクラスターデキストリン(商標)(内分岐環状構造部分と、該内分岐環状構造部分に結合した非環状構造部分である外分岐構造部分とを有する平均重合度2500のグルカン)を用いた。
【0071】
[製造例1]粉末状清涼剤の製造
下記処方の粉末状清涼剤を下記の製造方法によって調製した。
(処方)
(%)
高度分岐環状デキストリン 30
デキストリン 30
カゼインナトリウム 10
l−メントール 30
【0072】
(製造方法)
l−メントール以外の各成分を秤量し、最終固形分濃度が40%となるように水に投入し、60℃に昇温して完全に溶解した後、l−メントールを投入し、ホモジナイザー(回転数3000rpm)で均一に乳化した。乳化溶液をスプレードライヤー(乾燥熱風温度150℃)で噴霧乾燥し、粉末状清涼剤を得た。
【0073】
[実施例1〜4及び比較例1〜4]入浴剤組成物の製造
表1に示す処方及び下記製造方法により入浴剤組成物を調製した。
【0074】
【表1】

【0075】
(製造方法)
実施例1〜4においては、粉末原料を万能混合攪拌機(5DM−r;ダルトン製)により均一になるまで混合(一次混合)する。その後、液体原料である香料を添加し、更に均一になるまで混合(二次混合)した。比較例1〜4においては粉末原料を均一になるまで混合(一次混合)した後、l−メントールを香料及びエタノールに溶解した溶液を添加し、更に均一になるまで混合(二次混合)した。(調合条件:仕込み量2kg 公転62rpm、自転141rpm、一次混合時間3分、二次混合5分)比較例5においては、粉末原料を均一になるまで混合(一次混合)した後、l−メントールを香料及びエタノールに溶解した溶液を添加し、更に均一になるまで混合(二次混合)した。(調合条件:仕込み量2kg 公転62rpm、自転141rpm、一次混合時間3分、二次混合5分)
【0076】
[試験例1]保存安定性試験
実施例1〜4及び比較例1〜5の粉末入浴剤組成物を容量100mLのガラス瓶に50gずつ入れたものをそれぞれ2本作成し、密栓して室温及び40℃で60日間保存した。60日保存後のガラス容器内のl−メントールの付着状況及び粉末入浴剤の粉末状態を評価した。結果を表2に示す。
【0077】
【表2】

l−メントールの付着:○付着は認められない、×付着及び結晶が認められる
粉末の状態:○さらさらで流動性が良好、△ぼたつきがある、×固まって流動性がない
【0078】
実施例1〜4では室温、40℃の60日間保存後においてもl−メントールの容器への付着や結晶は認められず、粉末入浴剤の粉末状態もさらさらで流動性を保っていた。比較例1〜3及び5においては40℃で60日間保存後では全てにl−メントールの付着及び結晶が認められ、比較例1〜2及び5では粉末の状態が固まる傾向が認められた。比較例4においてはl−メントールの付着及び粉末の状態は良好な結果となったが、これはl−メントールの含有量が少ないために粉末全体への影響が少ないことによるものであると考えられた。
【0079】
[試験例2]使用評価試験
実施例1〜4及び比較例1〜5の製剤について、実際の入浴を想定した使用評価を実施した。使用評価は1坪タイプのユニットバスで、浴湯湯量は200L、湯温は40℃、ユニットバスの換気扇は試験中稼動の条件で実施した。入浴剤組成物の投入量は表3に示す量を投入した。入浴剤組成物投入後、完全に溶解してから入浴し、10分間入浴したときの肌での清涼感及び目鼻への刺激、更に投入から2時間後に再度10分間入浴したときの肌での清涼感を評価した。評価基準は以下の評価基準に基づいた。評価結果は専門パネラー5名の平均値とした。評価結果を表3に示す。
【0080】
(肌での清涼感の評価基準)
2:肌で清涼感を感じる
1:肌でやや弱い清涼感を感じる
0:肌で清涼感を感じない
(目鼻への刺激の評価基準)
2:目鼻への刺激を感じない
1:目鼻への弱い刺激を感じる
0:目鼻への刺激を強く感じる
【0081】
【表3】

【0082】
表3の結果より、実施例においてはl−メントールの使用時の目鼻への刺激は抑えられ、肌での清涼感の持続性が向上することが確認された。比較例においてはl−メントールの量が多くなると最初の清涼感は感じられるものの目鼻への刺激がある。更に投入から2時間後の入浴では清涼感の持続性が落ちてしまう。本発明品の入浴剤は使用時の清涼感の持続性が向上し、更に目鼻への刺激が低減されることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の入浴剤組成物は、高度分岐環状デキストリン及びl−メントールを含有する粉末状清涼剤を通常の粉末入浴剤に配合したものであるため、これまでの粉末入浴剤の商品形態を利用して容易に安定性に優れ、かつ清涼感が持続し目肌への刺激の少ない入浴剤として利用できるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高度分岐環状デキストリン及びl−メントールを含有する入浴剤用粉末状清涼剤。
【請求項2】
高度分岐環状デキストリンとl−メントールとの配合重量比が1:0.1〜1.5である請求項1記載の入浴剤用粉末状清涼剤。
【請求項3】
高度分岐環状デキストリンの含有量が25重量%以上である請求項1又は2記載の入浴剤用粉末状清涼剤。
【請求項4】
高度分岐環状デキストリン、l−メントール及び水を含有する混合物を噴霧乾燥して得られる請求項1〜3のいずれか1項に記載の入浴剤用粉末状清涼剤。
【請求項5】
高度分岐環状デキストリンが、α−1,4−グルコシド結合とα−1,6−グルコシド結合とで形成される環状構造部分である内分岐環状構造部分と、該内分岐環状構造部分に結合した非環状構造部分である外分岐構造部分とを有する平均重合度10,000以下のグルカンである請求項1〜4のいずれか1項に記載の入浴剤用粉末状清涼剤。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の入浴剤用粉末状清涼剤を含有する粉末入浴剤組成物。
【請求項7】
前記入浴剤用粉末状清涼剤の含有量が0.01〜20重量%である請求項6記載の粉末入浴剤組成物。
【請求項8】
粉末入浴剤組成物中のl−メントールの含有量が0.1〜6重量%である請求項6又は7記載の粉末入浴剤組成物。

【公開番号】特開2009−203177(P2009−203177A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−45787(P2008−45787)
【出願日】平成20年2月27日(2008.2.27)
【出願人】(308040638)ツムラライフサイエンス株式会社 (12)
【Fターム(参考)】