説明

全反射吸収スペクトル測定用プローブ

【課題】堅牢性が高く、安定したスペクトルを測定できる全反射吸収スペクトル測定用プローブの提供。
【解決手段】赤外光及び反射光を導くための赤外光ファイバーを備えた全反射吸収スペクトル測定用のプローブであって、赤外光ファイバーの一部が湾曲して凸状の測定ヘッド部を形成し、前記測定ヘッド部の曲率が負の面に支持体を備えてなることを特徴とする全反射吸収スペクトル測定用プローブ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚表面等の弾力表面における有機物質を定量するための全反射吸収スペクトル測定用のプローブに関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚表面における薬剤・化粧料・分泌物等の付着量を的確に把握することは、医薬品・化粧品・洗浄剤等の開発を行う上で非常に重要である。1990年頃には、皮膚表面付着物を直接的に測定する手法として、高屈折率物質でできたクリスタル(IRE)を皮膚表面上の試料に接触させた状態で、IR−ATR法により赤外吸収スペクトルを測定することが行われていた。
【0003】
近年、中赤外光ファイバー(カルコゲナイトファイバー)や塩化銀製の中赤外光ファイバー(PIRファイバー)が開発され、これらがIR−ATR測定に用いられるようになった。特に、PIRファイバーはカルコゲナイトファイバーよりも曲げ易く、折れにくく、かつ材質自体に毒性がないという特長を有することから、PIRファイバー自体をIREとして使うIR−ATR測定が可能となり(特許文献1)、その簡便さと測定の自由度の高さから、現在急速に普及しつつある。
【0004】
PIRファイバー自体をIREとして使う当該IR−ATR測定法は、顔、頸、前腕等、任意の皮膚表面における薬剤・化粧料等の試料付着量を測定する場合に有用であるが、赤外光ファイバーの一部を湾曲させ、凸面に変形して測定ヘッドとすることから、試料と接触する測定ヘッドの先端は、測定時に折れやすく、堅牢性が低いという問題があった。
【特許文献1】特開平7−12715号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、堅牢性が高く、安定したスペクトルを測定できる全反射吸収スペクトル測定用プローブを提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、当該赤外光ファイバーの一部を湾曲させて凸面に変形し、測定ヘッドとするIR−ATR測定用のプローブについて、測定ヘッドの凸面の曲率が負の部位に支持体を設置した場合に、スペクトルに影響を及ぼすことなく、堅牢性を向上できることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、赤外光及び反射光を導くための赤外光ファイバーを備えた全反射吸収スペクトル測定用のプローブであって、赤外光ファイバーの一部が湾曲して凸状の測定ヘッド部を形成し、前記測定ヘッド部の曲率が負の面に支持体を備えてなることを特徴とする全反射吸収スペクトル測定用プローブに係るものである。
【0008】
また、本発明は、上記プローブを有する全反射吸収スペクトル測定装置に係るものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明のプローブは堅牢性が高いことから、測定ヘッドを皮膚表面等の弾力表面に十分接触させた状態でスペクトルを測定でき、当該表面における薬剤・化粧料・分泌物等の付着量を、安全に且つより正確に測定できる。また、堅牢性が高いことから、経済性にも優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明のプローブについて、図面を参照して説明する。
図1に本発明のプローブの全体構成図を示す。
1は赤外光a及び試料の吸収によって減光された全反射光bを導くための赤外光ファイバーである。赤外光ファイバーとしては、KRS−5で形成されたものや、AgClとAgBrの混晶で形成されたもの、AgCl単独のもの、あるいはAgBr単独のもの等を利用することができる。
【0011】
赤外光ファイバーの一部は、湾曲して赤外光ファイバー自体にATRプリズムの機能が付与されるように凸状の測定ヘッド部2を形成する。
当該測定ヘッド部2における赤外光ファイバーはコア層が露出されており、試料に密着させることにより、この部分に導かれた赤外光が試料との界面で全反射し、試料の吸収によって減光された全反射光が再び赤外光ファイバーに導かれて、試料の赤外吸収スペクトルが測定される。
測定ヘッド部2の形状は、ATRプリズムの機能が発揮され、皮膚表面等の弾力表面上の試料に十分接触できるものであればよく、図2に示すようにループ状のもの(図2a)の他、四角いもの(図2b)、尖ったもの(図2c)又はコイル状に巻かれたもの(図2d)等を用いることができる。
【0012】
赤外光ファイバー1は、測定ヘッド部2においてのみファイバーが露出していれば良く、通常それ以外の部分はグラッド層で被覆され、また保持部材3により収納・保持されているのが好ましい。
ここで、保持部材は、絶縁性の塩化ビニール、フッ素樹脂、合成ゴム等で成形されたチューブ、筒状シースのようなものが挙げられる。
【0013】
4は測定ヘッドを支持する支持体である。支持体4は、測定ヘッド部先端の凸面の曲率が負の面、すなわち赤外光ファイバーが凸状をなす測定ヘッド部2において、試料接触面とは反対側に設置される。実施例1に示すように、赤外光ファイバーの曲率が負の面に支持体を設置した場合には、スペクトルには全く影響がない。
【0014】
図3に測定ヘッド部2の拡大斜視図を示す。支持体4は、保持部材3と赤外光ファイバー1の内側との間に固定される。支持体は赤外ファイバー1を固定するため1の曲率に応じた形状をもつ。
【0015】
支持体の素材は、赤外光ファイバー及び皮膚等の測定面を傷害するものでなければ良いが、例えば、発泡剤、軟質ゴム、ウレタン等の弾力性素材が好ましい。
【0016】
測定ヘッド部は、赤外光ファイバー1と一体となっていても良いが、図4に示すように取り外し可能なものにするのが、経済的に好ましい。図4中、保持部材3-Aの下側は測定ヘッド部2であり赤外光ファイバー1が露出している。3-Aの1の上端は平滑面になっている。3-Aの中央部は凸状になっており、保持部材3-Bの中央部の凹状部分と結合することができる。3-Bの1の下端もまた平滑面になっている。3Aと3Bを結合して両者の1の平滑面を接近させることで、3-Aの1に赤外光を透過することができる。
【0017】
図5に本発明のプローブを備えた全反射赤外吸収スペクトル測定装置の概略図を示す。
5は赤外光を発生照射するための赤外光照射部であり、6は干渉計部であり、1は赤外光ファイバーであり、7は試料及び皮膚から反射した赤外光を検出するための検出部である。8は演算部であり、吸光度の変動を補正する等の演算手段が備えられている。
赤外光照射部5から赤外光ファイバー1を通して測定ヘッド部2に赤外光が導かれ、赤外光ファイバープローブと試料との界面で全反射した赤外光が再び赤外光ファイバーにより検出部7に導かれ、演算部8において、赤外吸収スペクトルが算出され、必要に応じて当該スペクトルに基づき試料の種類及び量が解析される。
【0018】
赤外光照射部5としては、一般の赤外分光器の赤外光照射部と同様な構造が挙げられる。即ち、赤外光源と干渉計を組み合わせたものや、赤外光源と分光器を組み合わせたものが挙げられる。
上記の構成からなる本発明の全反射赤外吸収スペクトル測定装置は、図5に示すように、赤外光照射部と検出器が一体化したものであることが好ましい。また、ポータブル型装置として使用する場合は、耐振動性に優れていることや、バッテリーで駆動することが好ましい。
【0019】
本発明装置によって測定される試料としては、皮膚や弾力表面に存在する、赤外吸収スペクトルが測定可能な有機物質が挙げられ、例えば、皮膚に塗布若しくは付着又は皮膚から分泌されることにより皮膚上に存在する物質、例えば薬剤、化粧料、洗浄剤、皮脂、汗、汚れ等が挙げられる。
【実施例】
【0020】
実施例1
赤外光ファイバーに市販テープを貼り付けて、赤外光ファイバーの曲率を正から負に変化させて測定を行った。曲率が正の時は市販テープのスペクトルが観測され、負の時はスペクトルが観測されなかった。このことから曲率が負の部位へ支持体を設置した場合にはスペクトルに未影響であることが示された。
【0021】
実施例2
支持体のない時は20回の測定に1度の割合でファイバーが折れて破損した。支持体のあるときは200回の測定で1度も折れなくなり、支持体を設置することによる堅牢性の向上が認められた。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の全反射吸収スペクトル測定用プローブの構成図である。
【図2】測定ヘッド部の凸面形状を示す図である。
【図3】測定ヘッド部の拡大斜視図である。
【図4】測定ヘッド部が取り外し可能なプローブの分解図である。
【図5】本発明の全反射赤外吸収スペクトル測定装置の概略図である。
【符号の説明】
【0023】
1 赤外光ファイバー
2 測定ヘッド部
3 保持部材
4 支持部
5 赤外光照射部
6 干渉計部
7 検出部
8 演算部
a 赤外光
b 試料の吸収によって減光された全反射光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外光及び反射光を導くための赤外光ファイバーを備えた全反射吸収スペクトル測定用のプローブであって、赤外光ファイバーの一部が湾曲して凸状の測定ヘッド部を形成し、前記測定ヘッド部の曲率が負の面に支持体を備えてなることを特徴とする全反射吸収スペクトル測定用プローブ。
【請求項2】
支持体が、赤外光ファイバーを収納保持するための保持部材に固定されてなる請求項1記載の装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載のプローブを有する全反射吸収スペクトル測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−241593(P2008−241593A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−85126(P2007−85126)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】