説明

全固体リチウム二次電池用正極及び負極、並びに全固体リチウム二次電池

【課題】電気化学容量が高く、かつ充放電に優れた電極及びこれを用いたリチウム二次電池を提供する。
【解決手段】(A)正極活物質、(B)硫化物系固体電解質、及び(C)結着材を含む全固体リチウム二次電池用正極で、(A)正極活物質がLiCoO2、LiNixCoyO2及びLiNixCoyAlzO2の少なくとも1種であり、(B)硫化物系固体電解質が、Li2S:P25のモル比65:35〜75:25のLi2SとP25との混合原料から製造された硫化物系ガラスであり、該固体電解質の平均粒径が0.1〜50μmであり、(C)結着材が熱可塑性エラストマー又はエチレンオキシド骨格を有する樹脂であり、質量比A:Bが3:7〜9:1であり、(A+B):Cの質量比は99.9:0.1〜99.5:0.5(Cが熱可塑性エラストマーの場合)、99:1〜95:5(Cがエチレンオキシド骨格を有する樹脂の場合)である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体リチウム二次電池用正極及び負極、並びに全固体リチウム二次電池に関し、詳しくは、正極活物質、硫化物系固体電解質、及び結着材を含む全固体リチウム二次電池用正極、負極活物質、硫化物系固体電解質、及び結着材を含む全固体リチウム二次電池用負極、並びにこれらの正極、負極、及び電解質層を備えてなる全固体リチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の小型化に伴い、その主電源やバックアップ電源として高エネルギー密度を有する電池が要望されている。中でもリチウムイオン二次電池は、従来の水溶液系の電池に比べ、高電圧であり、かつ高エネルギー密度を有しているために注目を集めている。
従来から、リチウムイオン二次電池における電解質としては、一般に非水系の電解液をセパレータに含浸させた電解質が使用されていたが、近年このような液体中心の電解質に替わり、ポリマー電解質を用いたリチウムイオン二次電池が注目されるようになってきた。このポリマー電池は、ポリマー中に液体の電解液を含浸させたゲル状の電解質を使用しており、漏液しにくいため、電池の安全性向上・電池形状の自由度があること等の利点がある。
【0003】
しかしながら、ポリマー電解質は電解液を用いる場合に比べてイオン伝導度が低いため、ポリマー電解質の厚さを薄くすることが必要である。すなわち、ポリマー電解質の厚さを薄くすることで、リチウムイオンの移動距離を短くし、高出力の電池を得るとともに、単位体積あたりの電極面積を広く確保することで、高容量の電池を得ようとするものである。
ところが、ポリマー電解質の厚さを過度に薄くすると、その機械的強度が低下し、電池作製時にポリマー電解質が破壊され、正極と負極とが短絡し易いという問題があった。
【0004】
上記のような問題を解決するために、例えば、特許文献1に示されるように、電解質中にアルミナ等の無機酸化物を添加して機械的強度を向上させることが提案された。
しかしながら、アルミナ等の無機酸化物を電解質中に添加させると、固体電解質におけるリチウムイオンの導電性が大きく低下する。またこの固体電解質を備えたリチウム二次電池において充放電を繰り返して行なうと、電解質と上記の無機酸化物とが反応して、リチウム二次電池における充放電サイクル特性が大きく低下してしまうなどの問題があった。
これに対し、高イオン伝導度を保持するために、特許文献2では固体電解質部分を、Li2O、Al2O3、Ga2O3、TiO2、GeO2、SiO2、P2O5などの酸化物を主成分とする物質に変えて、リチウムイオン固体電池を作成しているが、この方法によっても固体電解質部分のイオン伝導度がいまだ不十分であった。
また、特許文献3では、固体電解質粉末をシート化する方法が提案されており、従来の問題に対して大きな改善がなされているが、さらにより高性能の薄膜電解質シートが求められていた。
【0005】
【特許文献1】特開平6−140052号公報
【特許文献2】特開2006−86102号公報
【特許文献3】国際公開2005/119706パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、リチウム二次電池に用いるリチウムイオン導電性の固体電解質を含有した電極であって、電気化学容量が高く、かつ充放電性能に優れた電極及びこれを用いたリチウム二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、特定の正極活物質、硫化物系固体電解質、及び結着材を含む全固体リチウム二次電池用正極、特定の負極活物質、硫化物系固体電解質、及び結着材を含む全固体リチウム二次電池用負極、及び電解質層を備えた全固体リチウム二次電池が、上記課題を解決し得ることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成されたものである。
【0008】
すなわち、本発明は、
[1](A)正極活物質、(B)硫化物系固体電解質、及び(C)結着材を含む全固体リチウム二次電池用正極であって、(A)正極活物質がLiCoO2、LiMn2O4、LiNixCoyO2及びLiNixCoyAlzO2から選ばれる少なくとも1種であり、(B)硫化物系固体電解質は、Li、P及びSを含む硫化物系ガラス、又は、Li、P及びSを含む硫化物系ガラスセラミックスであり、かつ該固体電解質の平均粒径が0.1〜50μmであり、(C)結着材が熱可塑性エラストマー又はエチレンオキシド骨格を有する樹脂であり、(A)正極活物質と(B)硫化物系固体電解質の質量比A:Bが3:7〜9:1であり、(C)成分として熱可塑性エラストマーを用いる場合には、(A)正極活物質と(B)硫化物系固体電解質との合計質量A+Bと(C)結着材の質量Cの比(A+B):Cが99.9:0.1〜99.5:0.5であり、(C)成分としてエチレンオキシド骨格を有する樹脂を用いる場合には、(A+B):Cが99:1〜95:5であることを特徴とする全固体リチウム二次電池用正極、
[2](A’)負極活物質、(B)硫化物系固体電解質、及び(C)結着材を含む全固体リチウム二次電池用負極であって、(A’)負極活物質が鱗片状黒鉛、針状黒鉛及び球状黒鉛から選ばれる少なくとも1種であり、(B)硫化物系固体電解質は、Li、P及びSを含む硫化物系ガラス、又は、Li、P及びSを含む硫化物系ガラスセラミックスであり、かつ該固体電解質の平均粒径が0.1〜50μmであり、(C)結着材が熱可塑性エラストマー又はエチレンオキシド骨格を有する樹脂であり、(A’)負極活物質と(B)硫化物系固体電解質の質量比A’:Bが3:7〜9:1であり、(C)成分として熱可塑性エラストマーを用いる場合には、(A’)負極活物質と(B)硫化物系固体電解質との合計質量A’+Bと(C)結着材の質量Cの比(A’+B):Cが99.9:0.1〜99:1であり、(C)成分としてエチレンオキシド骨格を有する樹脂を用いる場合には、(A’+B):Cが99:1〜90:10であることを特徴とする全固体リチウム二次電池用負極、及び
[3]上記[1]に記載の全固体リチウム二次電池用正極、電解質層、及び上記[2]に記載の全固体リチウム二次電池用負極を備える全固体リチウム二次電池であって、該電解質層が(B’)硫化物系固体電解質及び(C’)結着材を含み、(B’)硫化物系固体電解質は、Li、P及びSを含む硫化物系ガラス、又は、Li、P及びSを含む硫化物系ガラスセラミックスであり、かつ該固体電解質の平均粒径が0.1〜50μmであり、(C’)結着材が熱可塑性エラストマー又はエチレンオキシド骨格を有する樹脂であり、(C’)成分として熱可塑性エラストマーを用いる場合には、(B’)硫化物系固体電解質B’と(C’)結着材の質量C’の比B’:C’が99.9:0.1〜99:1であり、(C’)成分としてエチレンオキシド骨格を有する樹脂を用いる場合には、B’:C’が99:1〜90:10であることを特徴とする全固体リチウム二次電池、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、固体電解質粒子と正極活物質粉末又は負極活物質粉末とを均一に分散して混合することができ、これによって電気化学容量を高め、かつ充放電性能を向上させることができる。またシート化、薄膜化により高出力化、軽少化、薄膜化が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、発明を実施するための最良の形態について説明する。
なお、本発明の技術的範囲は、「発明を実施するための最良の形態」、下記する「製造例」、「実施例」により制限されるものではない。
本発明の全固体リチウム二次電池用正極(以下、単に「正極」という場合がある。)は、(A)正極活物質、(B)硫化物系固体電解質、及び(C)結着材を含む、いわゆる正極合材である。
また、本発明の全固体リチウム二次電池用負極(以下、単に「負極」という場合がある。)は、(A’)負極活物質、(B)硫化物系固体電解質、及び(C)結着材を含む、いわゆる負極合材である。
さらに、本発明の全固体リチウム二次電池は、(A)正極活物質、(B)硫化物系固体電解質、及び(C)結着材を含む全固体リチウム二次電池用正極;(A’)負極活物質、(B)硫化物系固体電解質、及び(C)結着材を含む全固体リチウム二次電池用負極;及び(B’)硫化物系固体電解質及び(C’)結着材を含む電解質層を含有するものである。
【0011】
以下、各構成要素について詳細に説明する。
(A)正極活物質
正極活物質はリチウムイオンを吸蔵・放出できる物質であり、本発明においては、LiCoO2、LiMn2O4、LiNixCoyO2、及びLiNixCoyAlzO2が用いられる。これらの物質は充放電容量が極めて高く、好適である。これらの物質は一種を単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
ここで、LiNixCoyO2において(x+y)=1を満たし、またLiNixCoyAlzO2において(x+y+z)=1を満たす。具体的には、LiNi0.8Co0.2O2 、LiNi0.8Co0.15Al0.05O2などが例示される。
【0012】
(A’)負極活物質
負極活物質はリチウムイオンを吸蔵・放出できる炭素物質であり、本発明においては、鱗片状黒鉛、針状黒鉛、球状黒鉛が用いられる。これらの物質は充放電容量が極めて高く、好適である。
【0013】
(B)、(B’)硫化物系固体電解質
硫化物系固体電解質は、Li、P及びSを含む硫化物系ガラス、又は、Li、P及びSを含む硫化物系ガラスセラミックスである。
Li、P及びSを含む硫化物系ガラスは、Li2S:P25のモル比65:35〜75:25のLi2SとP25との混合原料から製造された硫化物系ガラスであることが好ましい。
また、Li、P及びSを含む硫化物系ガラスセラミックスは、Li2S:P25のモル比65:35〜75:25のLi2SとP25との混合材料から製造された硫化物系ガラスを150〜360℃で焼成処理して得られる硫化物系ガラスセラミックスであることが好ましい。
固体電解質が、Li2S:P25=65:35〜75:25(モル比)のLi2SとP25との混合原料で製造されると、リチウムイオン伝導度を高い状態で維持することができる。以上の観点から、Li2S:P25=68:32〜74:26の範囲であることがさらに好ましい。
リチウムイオン伝導度として、具体的には、イオン伝導度は1×10-4S/cm以上であることが好ましく、1×10-3S/cm以上であることがさらに好ましい。
【0014】
本発明の硫化物系固体電解質は、Li、P及びSのみからなる硫化物系ガラス、Li、P及びSのみからなる硫化物系ガラスセラミックスだけではなく、後に説明するように、Li、P及びS以外のものを含んでいても良い。
【0015】
また、固体電解質の平均粒径は0.1〜50μmの範囲であることを必須とする。平均粒径が0.1μm未満であると取り扱いが容易ではなく、一方、50μmを越えると、シート状にする際に分散性が悪く、シート状とすることが困難となる。以上の観点から、固体電解質の平均粒径は0.1〜20μmの範囲であることがさらに好ましい。
【0016】
Li2Sとしては、例えば、非プロトン性有機溶媒中で水酸化リチウムと硫化水素とを反応させて得たLi2Sを、有機溶媒を用い、100℃以上の温度で洗浄して精製したものを使用することができる。
具体的には、特開平7−330312号公報に開示された製造方法で、Li2Sを製造することが好ましく、このLi2Sを国際公開第WO2005/040039号の記載の方法で精製したものが好ましい。具体的には、Li2Sを有機溶媒にて100℃以上の温度で洗浄する。
【0017】
このLi2Sの製造方法は、簡易な手段によって高純度の硫化リチウムを得ることができるため、硫化物系結晶化ガラスの原料コストを削減できる。また、上記の精製方法は、簡便な処理により、Li2Sに含まれる不純物である硫黄酸化物やN−メチルアミノ酪酸リチウム(以下、LMABという)等を除去できるため、経済的に有利であるとともに、得られた高純度の硫化リチウムを用いたリチウム二次電池用固体電解質は、純度に起因する性能低下が抑えられ、その結果、優れたリチウム二次電池(固体電池)を得ることができる。
尚、Li2Sに含まれる硫黄酸化物の総量は、0.15質量%以下であることが好ましく、LMABは、0.1質量%以下であることが好ましい。
また、P25は、工業的に製造され、販売されているものであれば、特に限定なく使用することができる。
【0018】
本発明で使用する硫化物系固体電解質では、イオン伝導性を低下させない程度において、上記P25、Li2Sの他に出発原料として、Al23、B23及びSiS2からなる群より選ばれる少なくとも1種の硫化物を含ませることができる。かかる硫化物を加えると、硫化物系固体電解質中のガラス成分を安定化させることができる。
同様に、Li2S及びP25に加え、Li3PO4、Li4SiO4、Li4GeO4、Li3BO3及びLi3AlO3からなる群より選ばれる少なくとも1種のオルトオキソ酸リチウムを含ませることができる。かかるオルトオキソ酸リチウムを含ませると、硫化物系固体電解質中のガラス成分を安定化させることができる。
【0019】
硫化物系固体電解質は、Li2S及びP25などの原料を混合して、ガラス状とし、硫化物系ガラスを得ることにより製造される。例えば、メカニカルミリング処理(以下、MM処理と示すことがある。)又は溶融急冷法がある。
MM処理を用いて硫化物系ガラスを形成すると、ガラス生成域を拡大することができるため好ましい。また、溶融急冷法で行なう加熱処理が不要となり、室温で行えるので、製造工程の簡略化も可能となる。
【0020】
溶融急冷法やMM処理により硫化物系ガラスを形成する際、窒素等の不活性ガスの雰囲気を用いるのが好ましい。水蒸気や酸素等は、出発物質と反応し易いからである。
MM処理では、ボールミルを使用するのが好ましい。大きな機械的エネルギーが得られるからである。ボールミルとしては、遊星型ボールミル機を使用するのが好ましい。遊星型ボールミルでは、ポットが自転回転しながら、台盤が公転回転するので、非常に高い衝撃エネルギーを効率良く発生させることができる。
【0021】
MM処理の条件は、使用する機器等により適宜調整すればよいが、回転速度が速いほど、硫化物系ガラスの生成速度は速くなり、回転時間が長いほど硫化物系ガラスヘの原料の転化率は高くなる。例えば、一般的な遊星型ボールミル機を使用した場合は、回転速度を数十〜数百回転/分とし、0.5時間〜100時間処理すればよい。
【0022】
本発明の硫化物系固体電解質は、上記のようにして得られた硫化物系ガラスを焼成処理し硫化物系ガラスセラミックスとすることが好ましい。このときの焼成温度は150℃〜360℃が好ましい。150℃以上であると、十分な焼成効果が得られ、一方、360℃以下であると、優れたイオン伝導性を有する固体電解質が得られる。以上の観点から、焼成温度は200℃〜350℃の範囲が特に好ましい。
焼成時間は、イオン伝導度が十分向上する条件であれば特に限定はなく、瞬時であっても長時間であっても構わない。
【0023】
(C)、(C’)結着材
本発明における結着材は、熱可塑性エラストマー又はエチレンオキシド骨格を有する樹脂を含む。これらの樹脂を含有しない場合には、シート化することが困難であったり、界面抵抗の増加により充放電容量が低くなったりする。
熱可塑性エラストマーとしては、例えば、オレフィン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、結晶性ポリブタジエン系熱可塑性エラストマー、塩素化ポリエチレン等が挙げられる。これらのうち、スチレン系熱可塑性エラストマーが好ましく、特にエポキシ基が付与されたスチレン系熱可塑性エラストマーがより好ましい。
【0024】
エチレンオキシド骨格を有する樹脂としては、ポリエチレンオキシドとその他のポリマーとの共重合体、架橋構造体、混合物などが挙げられる。ここで、その他のポリマーとしては、ポリプロピレンオキシド、ポリブチレンオキシド、ポリオレフィン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレンなどのフッ素樹脂、ポリアミド類などが挙げられる。
これらのうち、ポリプロピレンオキシド、及びポリブチレンオキシドが溶解性の観点から好ましい。
【0025】
正極における(A)正極活物質と(B)硫化物系固体電解質の質量比は、A:B=3:7〜9:1である。該質量比がこの範囲内であると、充放電容量及び内部抵抗の点で有利である。以上の観点から、A:B=5:5〜9:1の範囲がより好ましい。
また、(C)成分として熱可塑性エラストマーを用いる場合には、(A)正極活物質と(B)硫化物系固体電解質との合計質量A+Bと(C)結着材の質量Cの比は、(A+B):C=99.9:0.1〜99.5:0.5である。該質量比がこの範囲内であると充放電容量及びシート柔軟性の点で有利である。以上の観点から、(A+B):C=99.8:0.2〜99.6:0.4の範囲がより好ましい。
一方、(C)成分としてポリエチレンオキシド骨格を有する樹脂を用いる場合には、(A+B):Cが99:1〜95:5である。該質量比がこの範囲内であると充放電容量及びシート柔軟性の点で有利である。以上の観点から、(A+B):C=98:2〜96:4の範囲がより好ましい。
【0026】
また、正極を構成する正極材中には、導電助剤として、電子が正極活物質内で円滑に移動するようにするための電気的に導電性を有する物質を適宜添加してもよい。電気的に導電性を有する物質としては特に限定はないが、アセチレンブラック、カーボンブラック、カーボンナノチューブのような導電性炭素材料又はポリアニリン、ポリアセチレン、ポリピロールのような導電性高分子を1種単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0027】
負極における(A’)負極活物質と(B)硫化物系固体電解質の質量比は、A’:B=3:7〜9:1である。該質量比がこの範囲内であると充放電容量及び内部抵抗の点で有利である。以上の観点から、A’:B=5:5〜8:2の範囲がより好ましい。
また、(C)成分として熱可塑性エラストマーを用いる場合には、(A’)負極活物質と(B)硫化物系固体電解質との合計質量A’+Bと(C)結着材の質量Cの比は、(A’+B):C=99.9:0.1〜99:1である。該質量比がこの範囲内であると充放電容量及びシート柔軟性の点で有利である。以上の観点から、(A’+B):C=99.8:0.2〜99.5:0.5の範囲がより好ましい。
一方、(C)成分としてポリエチレンオキシド骨格を有する樹脂を用いる場合には、(A’+B):C=99:1〜90:10である。該質量比がこの範囲内であると充放電容量及びシート柔軟性の点で有利である。以上の観点から、(A’+B):C=98:2〜95:5の範囲がより好ましい。
【0028】
また、本発明において、Liイオンの伝導度を向上させるために、上記正極材中及び/又は負極を構成する負極材中、及び/又は電解質中に、リチウム塩を添加することができる。具体的には、例えば、キシダ化学(株)の電解質塩が挙げられ、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiTFSI(LiN(SO3CF3)2)、LiBETI(LiN(SO2C2F5)2)、LiTFS(LiCF3SO3)などのリチウム塩が好適に用いられる。
【0029】
本発明の全固体リチウム二次電池は、(A)正極活物質、(B)硫化物系固体電解質、及び(C)結着材を含む正極と、(A’)負極活物質、(B)硫化物系固体電解質、及び(C)結着材を含む負極と、及び(B’)硫化物系固体電解質及び(C’)結着材を含む電解質層と、を有し、正極と負極とで電解質層を挟む構成をとる。
以下、図1を用いて、詳細に説明する。
【0030】
本発明の全固体リチウム二次電池1は、図1に示すように、正極3及び負極5で電解質層4を挟む構成を有し、図1に示す例では、正極3及び負極5には集電体2が接している。
電解質層4は、(B’)硫化物系固体電解質及び(C’)結着材を含む。(B’)硫化物系固体電解質はLi2S及びP25を含む原料から製造される。具体的には、上記(B)硫化物系固体電解質として記載したものと同様である。
また、(C’)結着材は熱可塑性エラストマー又はポリエチレンオキシド骨格を有する樹脂であり、熱可塑性エラストマー及びポリエチレンオキシド骨格を有する樹脂としては、上記(C)結着材として記載したものと同様である。
電解質層4の層厚としては、1〜500μmの範囲が好ましい。1μm以上であれば電解質層で短絡が起こることがなく、500μm以下であると、十分なイオン伝導性が確保される。以上の観点から電解質層4の厚さは、10〜100μmの範囲であることがさらに好ましい。
【0031】
(B’)硫化物系固体電解質の原料は、Li2S及びP25を含み、Li2S:P25=65:35〜75:25(モル比)が好ましい。Li2SとP25のモル比がこの範囲内で合成されると、リチウムイオン伝導度を高い状態で維持することができる。以上の観点から、Li2S:P25=67:33〜72:28の範囲であることがさらに好ましい。
また、固体電解質の平均粒径は0.1〜50μmの範囲である。平均粒径が0.1μm未満であると取り扱いが容易ではなく、一方、50μmを越えると、シート状にすることが困難となる。以上の観点から、固体電解質の平均粒径は0.1〜20μmの範囲であることがさらに好ましい。
【0032】
また、(C’)成分として熱可塑性エラストマーを用いる場合には、(B’)硫化物系固体電解質と(C’)結着材の質量比B’:C’が99.9:0.1〜99:1である。固体電解質がこの範囲内の含有量で存在すると、十分なイオン伝導性が得られる。一方、結着材がこの範囲内の含有量で存在すると、後述する固体電解質シートの十分な柔軟性が得られ、硬くて脆いものとならない。以上の観点から、B’:C’=99.8:0.2〜99.5:0.5の範囲がより好ましい。
一方、(C’)成分としてポリエチレンオキシド骨格を有する樹脂を用いる場合には、B’:C’が99:1〜90:10である。固体電解質及び結着材がこの範囲内であると、上記と同様に、十分なイオン伝導性と固体電解質シートの十分な柔軟性が得られる。以上の観点から、B’:C’=98:2〜95:5の範囲がより好ましい。
【0033】
本発明の全固体リチウム二次電池1の製造方法に関しては、図1に示すような構成をとり得る方法であれば、特に限定されないが、正極、負極及び電解質層について、それぞれ正極合材シート、負極合材シート及び固体電解質シートを作製しておき、これを重ね合わせてプレスする方法がある。
また、集電体上に正極層を形成しておき、その上に電解質層を形成し、さらにその上に集電体に形成させた負極層を、電解質層と負極層が接するように重ね合わせてもよい。
【0034】
正極合材シート及び負極合材シートの製造方法としては、例えば、上記した正極材及び負極材を集電体の少なくとも一部に膜状に形成することで作製できる。製膜方法としては、ブラスト法、エアロゾルデポジション法、コールドスプレー法、スパッタリング法、気相成長法又は溶射法等が挙げられる。また、集電体に上記極材を溶液化し、塗布する方法、あるいは上記極材を集電体上に圧縮して積層させる方法により、極材層を形成することもできる。
このような方法により製膜することで、極材層の空隙率をより小さくすることができ、イオン伝導度を向上させることができる。
【0035】
上記方法のうち、簡便な装置であり、かつ室温条件下、すなわち電解質の結晶状態を変化させない温度範囲で製膜できることから、ブラスト法やエアロゾルデポジション法が好ましい。
なお、本発明では集電体として、銅、マグネシウム、ステンレス鋼、チタン、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛、アルミニウム、ゲルマニウム、インジウム、リチウム、又は、これらの合金等からなる板状体や箔状体等が使用できる。
また、本発明の正極、負極、及び後述する電解質層を製造する過程で、各組成物をスラリー化する場合の溶媒としては、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレン、THF(テトラヒドロフラン)、ジクロロメタンなどが挙げられる。一方、硫化物系電解質は水分含有量が低いことが好ましく、具体的には、30質量ppm以下であることが好ましく、10質量ppm以下であることがさらに好ましく、1質量ppm以下であることが特に好ましい。
【0036】
固体電解質シートの作製方法としては、例えば、極材層(正極又は負極)の上に固体電解質層を積層することにより製造することができ、上述した(B’)硫化物系固体電解質及び(C’)結着材の混合物を加圧成形する方法や、溶媒に分散させスラリー状塗工液としたものを塗布し、次いで溶媒を蒸発させて電解質層を形成してもよい。
製膜方法としては、特に制限はなく、スピンコート、ドクターブレード、ディップ法、ロールコート、スプレー法、刷毛塗り法、キスコート法、バーコート法、静電付着法等あらゆる方法を利用できるが、好適な方法としては、ロールコート法、ドクターブレード法、バーコート法等であり、塗工装置は、市販されている各種塗工装置を使用することができる。
尚、混合時における固体電解質の平均粒径は、シート内における分散を考慮すると、上述のように、0.1〜50μmとすることが好ましい。
【0037】
なお、イオン伝導性の固体電解質は水分に敏感で加水分解されやすいため、全ての電池製造工程はドライルームなど空気中に水分が少ない環境で行うことを要する。空気中の露点は−30℃以下が好ましい。露点−30℃を越える環境では固体電解質が加水分解し、イオン伝導度などの性能低下、有毒な硫化水素ガス発生の原因となる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。
【0039】
製造例1(硫化物系固体電解質の製造)
(1)硫化リチウムの製造
硫化リチウムは、特開平7−330312号公報の第1の態様(2工程法)の方法にしたがって製造した。具体的には、攪拌翼のついた10リットルオートクレーブに、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)3326.4g(33.6モル)及び水酸化リチウム287.4g(12モル)を仕込み、300rpmで130℃に昇温した。昇温後、液中に硫化水素を3リットル/分の供給速度で2時間吹き込んだ。続いて、この反応液を窒素気流下(200cm3/分)昇温し、反応した硫化水素の一部を脱硫化水素化した。昇温するにつれ、上記硫化水素と水酸化リチウムの反応により副生した水が蒸発を始めたが、この水はコンデンサにより凝縮し系外に抜き出した。水を系外に留去すると共に、反応液の温度は上昇するが、180℃に達した時点で昇温を停止し、一定温度に保持した。脱硫化水素反応が終了後(約80分間)、反応を終了し、硫化リチウムを得た。
【0040】
(2)硫化リチウムの精製
上記(1)で得られた500mLのスラリー反応溶液(NMP−硫化リチウムスラリー)中のNMPをデカンテーションした後、脱水したNMP100mLを加え、105℃で約1時間攪拌した。この温度のままNMPをデカンテーションした。さらに、NMP100mLを加え、105℃で約1時間攪拌し、この温度のままNMPをデカンテーションし、同様の操作を合計4回繰り返した。デカンテーション終了後、230℃で減圧下3時間乾燥した。
【0041】
得られた硫化リチウム中の不純物含有量をイオンクロマトグラフ法により定量した。その結果、亜硫酸リチウム(Li2SO3)は0.0008質量%未満、硫酸リチウム(Li2SO4)は0.001質量%未満、チオ硫酸リチウム(Li223)は0.001質量%未満、N−メチルアミノ酪酸リチウム(LMAB)は、0.04質量%であった。
【0042】
(3)硫化物系固体電解質の製造
上記製造例にて精製したLi2SとP25(アルドリッチ製)を出発原料に用いた。Li2S68モル部、P2532モル部を添加してなる混合物を約1gと、粒径10mmΦのアルミナ製ボール10個とを45mLのアルミナ製容器に入れ、遊星型ボールミル(フリッチュ社製:型番P−7)にて、窒素雰囲気下、室温(25℃)にて、回転速度を370rpmとし、20時間メカニカルミリング処理することで、白黄色の粉末である硫化物ガラスを得た。同粉末を窒素気流下300℃、2時間加熱処理することで、平均粒子径10μmの硫化物系固体電解質を得た。
【0043】
実施例1
(1)正極合材シートの作成
遊星ボールミルのポットに、上記製造例1にて製造した硫化物系固体電解質2.797g、正極活物質LiCoO2(日本化学工業(株)製)11.189g、トルエン(和光純薬(株)製、水分微量グレード)6.0mL、結着剤としてSBR樹脂(ダイセル化学工業(株)「AT501」)0.014gを投入し、370rpmで0.5時間ミリングを行い均一なスラリーとした。これを集電板であるアルミ板上にドクターブレードを用いて塗布した。風乾、加熱減圧乾燥を行い、トルエンを除去し、固体電解質を含有する正極合材シートを作成した。作成したシートは厚み150μmであり、電極作成、電池組み立てに耐えうる十分な強度を有していた。
【0044】
(2)固体電解質シートの作成
極材シートと同様の方法で、上記製造例1にて製造した硫化物系固体電解質、結着剤(SBR樹脂(ダイセル化学工業(株)「AT501」))及びトルエン(和光純薬(株)製、無水グレード)を、49.95:0.05:50の質量比で仕込み、固体電解質シートを作成した。
【0045】
(3)負極合材シートの作成
遊星ボールミルのポットに、上記製造例1にて製造した硫化物系固体電解質2.797g、負極活物質グラファイトSFG-75(Timcal社製)4.196g、(和光純薬(株)製、無水グレード)13.0mL、結着剤(SBR樹脂(ダイセル化学工業(株)「AT501」))0.007gを投入し、370rpmで2.0時間ミリングを行い均一なスラリーとした。これを集電板であるチタン板上にドクターブレードを用いて塗布した。風乾、加熱減圧乾燥を行い、トルエンを除去し、固体電解質を含有する負極合材シートを作成した。作成したシートは厚み200μmであり、電極作成、電池組み立てに耐えうる十分な強度を有していた。
【0046】
(4)(1)〜(3)の各シートを順に重ね合わせ、ロールプレス機(線圧:2500kg/cm、ロール速度1.0m/min)によりプレスし、3層重ね合わせの電池部材を作成した。このシートを必要な大きさに打ち抜き、HSセル中に仕込み、充放電実験を行った。初期の充電量は100mAh/g、放電量は74mAh/gであった。
なお、正極及び負極については、R120mmの折り曲げ強さにより、電極の柔軟性についても評価した。評価基準は以下のとおりである。
○:R120mm折り曲げで、破損なし
△:R120mm折り曲げで、端がかける程度で電池作成に耐えうる
×:R120mm折り曲げで、ほぼ全壊し、電池作成に耐えない
【0047】
実施例2〜10及び比較例1〜3
正極、負極、及び固体電解質の結着材の含有量を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、電池部材を作成した。実施例1と同様にして評価した結果を表1に示す。
【0048】
実施例11〜20及び比較例4〜6
正極、負極、及び固体電解質に用いる結着材として、ポリエチレンオキシド(PEO)とポリプロピレンオキシド(PPO)の共重合樹脂を用い、その含有量を表2に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、電池部材を作成した。実施例1と同様にして評価した結果を表2に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の固体電解質シートは、携帯電話、パソコン、自動車用の二次電池用固体電解質として使用することができる。特に、高容量、高出力を要求される自動車用二次電源用の固体電解質として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の全固体リチウム二次電池の構造を示す模式図である。
【符号の説明】
【0053】
1:全固体リチウム二次電池
2:集電体
3:正極
4:電解質層
5:負極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)正極活物質、(B)硫化物系固体電解質、及び(C)結着材を含む全固体リチウム二次電池用正極であって、(A)正極活物質がLiCoO2、LiMn2O4、LiNixCoyO2及びLiNixCoyAlzO2から選ばれる少なくとも1種であり、(B)硫化物系固体電解質は、Li、P及びSを含む硫化物系ガラス、又は、Li、P及びSを含む硫化物系ガラスセラミックスであり、かつ該固体電解質の平均粒径が0.1〜50μmであり、(C)結着材が熱可塑性エラストマー又はエチレンオキシド骨格を有する樹脂であり、(A)正極活物質と(B)硫化物系固体電解質の質量比A:Bが3:7〜9:1であり、(C)成分として熱可塑性エラストマーを用いる場合には、(A)正極活物質と(B)硫化物系固体電解質との合計質量A+Bと(C)結着材の質量Cの比(A+B):Cが99.9:0.1〜99.5:0.5であり、(C)成分としてエチレンオキシド骨格を有する樹脂を用いる場合には、(A+B):Cが99:1〜95:5であることを特徴とする全固体リチウム二次電池用正極。
【請求項2】
(A’)負極活物質、(B)硫化物系固体電解質、及び(C)結着材を含む全固体リチウム二次電池用負極であって、(A’)負極活物質が鱗片状黒鉛、針状黒鉛及び球状黒鉛から選ばれる少なくとも1種であり、(B)硫化物系固体電解質は、Li、P及びSを含む硫化物系ガラス、又は、Li、P及びSを含む硫化物系ガラスセラミックスであり、かつ該固体電解質の平均粒径が0.1〜50μmであり、(C)結着材が熱可塑性エラストマー又はエチレンオキシド骨格を有する樹脂であり、(A’)負極活物質と(B)硫化物系固体電解質の質量比A’:Bが3:7〜9:1であり、(C)成分として熱可塑性エラストマーを用いる場合には、(A’)負極活物質と(B)硫化物系固体電解質との合計質量A’+Bと(C)結着材の質量Cの比(A’+B):Cが99.9:0.1〜99:1であり、(C)成分としてエチレンオキシド骨格を有する樹脂を用いる場合には、(A’+B):Cが99:1〜90:10であることを特徴とする全固体リチウム二次電池用負極。
【請求項3】
請求項1に記載の全固体リチウム二次電池用正極、電解質層、及び請求項2に記載の全固体リチウム二次電池用負極を備える全固体リチウム二次電池であって、該電解質層が(B’)硫化物系固体電解質及び(C’)結着材を含み、(B’)硫化物系固体電解質は、Li、P及びSを含む硫化物系ガラス、又は、Li、P及びSを含む硫化物系ガラスセラミックスであり、かつ該固体電解質の平均粒径が0.1〜50μmであり、(C’)結着材が熱可塑性エラストマー又はエチレンオキシド骨格を有する樹脂であり、(C’)成分として熱可塑性エラストマーを用いる場合には、(B’)硫化物系固体電解質B’と(C’)結着材の質量C’の比B’:C’が99.9:0.1〜99:1であり、(C’)成分としてエチレンオキシド骨格を有する樹脂を用いる場合には、B’:C’が99:1〜90:10であることを特徴とする全固体リチウム二次電池。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2009−176484(P2009−176484A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−11872(P2008−11872)
【出願日】平成20年1月22日(2008.1.22)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】