説明

全固体二次電池用負極と全固体二次電池

【課題】充放電効率を高めることが可能な全固体二次電池用負極とその負極を備えた全固体二次電池を提供する。
【解決手段】全固体二次電池用負極は、炭素材料と、構成元素としてリチウムと硫黄とを含有するイオン伝導性化合物とを含む全固体二次電池用負極であって、当該負極を300℃に加熱したときの重量減少率が0.5%以下である。全固体二次電池10は、正極層11と負極層12と固体電解質層13とを備え、負極層12が上述した特徴を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には全固体二次電池用負極と全固体二次電池に関し、特定的には、炭素材料と、構成元素としてリチウムと硫黄とを含有するイオン伝導性化合物とを含む全固体二次電池用負極と、その負極を備えた全固体二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ノートパソコンなどの携帯用電子機器の開発に伴い、これらの電子機器のコードレス電源として二次電池の需要が大きくなっている。その中でも、エネルギー密度が高く、充放電可能なリチウムイオン二次電池の開発が盛んに行われている。
【0003】
また、携帯用電子機器の機能が多くなるに伴って、その消費電力が著しく増加している。この消費電力の増大に対応するために大容量のリチウムイオン二次電池が必要になってきている。
【0004】
リチウムイオン二次電池では、正極活物質としてコバルト酸リチウムなどの金属酸化物、負極活物質として黒鉛などの炭素材料、電解質として、六フッ化リン酸リチウムを有機溶媒に溶解させたもの、すなわち、有機溶媒系電解液が一般に使用されている。このような構成の電池において、活物質量を増加させることにより内部エネルギーを増加させ、さらにエネルギー密度を高くし、出力電流を向上させる試みがなされている。また、電池を大型化すること、電池を車両に搭載することも期待されている。
【0005】
しかし、上記の構成のリチウムイオン二次電池では、電解質に用いられる有機溶媒は可燃性物質であるため、電池が発火する等の危険性がある。このため、電池の安全性をさらに高めることが求められている。
【0006】
そこで、リチウムイオン二次電池の安全性を高めるための一つの対策は、電解質として、有機溶媒系電解液に代えて、固体電解質を用いることである。固体電解質としては、高分子、ゲルなどの有機材料、ガラス、セラミックスなどの無機材料を適用することが検討されている。その中でも、不燃性のガラスまたはセラミックスを主成分とする無機材料を固体電解質として用いる全固体二次電池が提案され、注目されている。
【0007】
たとえば、特開2003‐68361号公報(以下、特許文献1という)には、不燃性の固体電解質を備えた全固体リチウム二次電池の構成が記載されている。この全固体リチウム二次電池では、固体電解質が基本的な組成として硫化物を有し、硫化リチウムと硫化リンよりなる物質、あるいは硫化リチウムと硫化リンを主体とし、遷移金属元素を含まず、かつケイ素とゲルマニウムを含有しない物質であり、負極活物質が炭素材料あるいは炭素材料の層間にリチウムイオンが挿入された物質であり、正極活物質としてコバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウムなどが用いられている。また、特許文献1には、黒鉛を負極活物質として用いた場合、電池特性は固体電解質の種類により大きく異なり、優れた性能の全固体リチウム二次電池を作製するにはリチウムイオン伝導性固体電解質の選択が重要であることが記載されている。この検討に基づいて、ケイ素とゲルマニウムを含有しない硫化物を固体電解質として使用すると、全固体リチウム二次電池のエネルギー密度を高めることが可能になることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003‐68361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、発明者が、全固体二次電池の実装方法を種々検討した結果、パッケージ化された電池として、特許文献1に記載された構成の全固体二次電池を基板上に実装すると、リフロー時に電池が加熱されることにより、電池の充電容量に対して放電容量が低くなることがわかった。すなわち、加熱により充放電効率が低くなることがわかった。本発明は、上記の知見に基づいてなされたものである。
【0010】
そこで、本発明の目的は、充放電効率を高めることが可能な全固体二次電池用負極とその負極を備えた全固体二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に従った全固体二次電池用負極は、炭素材料と、構成元素としてリチウムと硫黄とを含有するイオン伝導性化合物とを含む全固体二次電池用負極であって、当該負極を300℃に加熱したときの重量減少率が0.5%以下である。
【0012】
本発明の全固体二次電池用負極において、イオン伝導性化合物が、構成元素としてリンをさらに含有することが好ましい。
【0013】
本発明に従った全固体二次電池は、正極と負極と固体電解質とを備えた全固体二次電池であって、負極が、上述の特徴を備えた全固体二次電池用負極である。
【0014】
本発明の全固体二次電池において、固体電解質が、構成元素としてリチウムと硫黄とを含むことが好ましい。
【0015】
また、本発明の全固体二次電池において、正極が、構成元素としてリチウムと鉄と硫黄とを含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の全固体二次電池用負極を用いることにより、充放電効率が高い全固体二次電池を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態として全固体二次電池の電池要素の断面構造を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の一つの実施形態として全固体二次電池の電池要素を模式的に示す斜視図である。
【図3】本発明のもう一つの実施形態として全固体二次電池の電池要素を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
図1に示すように、本発明の全固体二次電池10は、正極層11と固体電解質層13と負極層12とを備える。図2に示すように本発明の一つの実施形態として全固体二次電池10は直方体形状に形成され、矩形の平面を有する複数の平板状層からなる積層体で構成される。また、図3に示すように本発明のもう一つの実施形態として全固体二次電池10は円柱形状に形成され、複数の円板状層からなる積層体で構成される。なお、正極層11と負極層12のそれぞれは、固体電解質と電極活物質とを含み、固体電解質層13は固体電解質を含む。
【0020】
正極層11は、たとえば、正極活物質としてのLi2FeS2、Li2.33Fe0.672等と、固体電解質としてイオン伝導性化合物であるLi7311とを含む。負極層12は、たとえば、負極活物質としての炭素材料と、固体電解質としてイオン伝導性化合物であるLi7311とを含む。本発明の全固体二次電池10では、負極層12を300℃に加熱したときの重量減少率が0.5%以下である。ここで、重量減少率は0%よりも大きい値である。正極層11と負極層12との間に挟まれた固体電解質層13は、たとえば、固体電解質としてイオン伝導性化合物であるLi7311を含む。正極層11と負極層12と固体電解質層13は、それぞれ、原材料粉末を圧縮成形することにより作製されたものである。なお、固体電解質は、構成元素としてリチウムと硫黄とを少なくとも含有すればよく、このような化合物として、たとえば、Li2S‐B23等の化合物をあげることができる。また、固体電解質は、構成元素としてリチウムと硫黄に加えて、好ましくはリンをさらに含有すればよく、このような化合物として、たとえば、Li7311、Li3PS4やこれらのアニオンの一部が酸素置換されたもの等をあげることができる。固体電解質を構成する元素の組成比率は上述した比率に限定されるものではない。また、正極活物質は、構成元素としてリチウムと鉄と硫黄とを含有すればよく、このような化合物として、たとえば、Li2FeS2、Li2.33Fe0.672等の化合物をあげることができる。さらに、その他の正極活物質として硫化リチウムチタン、硫化リチウムバナジウム等の化合物をあげることができる。正極活物質を構成する元素の組成比率は上述した比率に限定されるものではない。
【0021】
以上のように構成された全固体二次電池10において、負極層12を300℃に加熱したときの重量減少率が0.5%以下であるので、電池の充放電効率を高めることができる。
【0022】
なお、本発明の全固体二次電池10は、図1〜図3に示される電池要素を、たとえば、セラミックス製の容器に装入された形態で用いられてもよく、図1〜図3に示される形態のままで自立した形態で用いられてもよい。
【0023】
次に、本発明の実施例を具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は一例であり、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0024】
以下、負極が炭素材料とイオン伝導性化合物とを含む全固体二次電池を作製した実施例1〜4と比較例1〜2について説明する。
【0025】
(負極合材の作製)
負極活物質としての炭素材料と、固体電解質としてのイオン伝導性化合物とを1:1の重量比でボールミルを用いて混合することによって負極合材粉末を作製した。なお、実施例1、比較例1、2では炭素材料として球状黒鉛(大阪ガスケミカル社製)を用い、実施例2〜4では鱗片状黒鉛(TIMCAL社製)を用いた。
【0026】
(正極合材の作製)
正極活物質と、固体電解質としてのイオン伝導性化合物を1:1の重量比で混合することにより、正極合材粉末を作製した。なお、実施例1〜3、比較例1、2では正極活物質としてLi2FeS2を用い、実施例4ではLi2.33Fe0.672を用いた。
【0027】
イオン伝導性化合物としては、Li7311を用いた。
【0028】
(電池の作製)
上記で作製した正極合材粉末と負極合材粉末のそれぞれを内径が7.5mmの金型に入れて、プレスすることによって、正極ペレットと負極ペレットを作製した。一方、上記のイオン導電性化合物を内径が10mmの金型に入れて、以下の表1に示す圧力でプレスすることによって固体電解質層を作製した。得られた固体電解質層の両側に、上記の正極ペレットと負極ペレットを配置して、プレスすることにより、電池要素を作製した。作製した電池要素をセラミックパッケージに封入し、密閉して全固体二次電池を作製した。
【0029】
(充放電試験)
得られた全固体二次電池を用いて、ピーク温度を260℃として240℃以上が20秒間となるように加熱した後、冷却した。その後、充放電試験を行った。0.12mA/cm2の定電流密度で3Vの電圧まで充電した。この充電容量[μAh]を測定した。その後、0.12mA/cm2の定電流密度で0Vの電圧まで放電した。この放電容量[μAh]を測定した。充放電効率は、(放電容量)/(充電容量)×100[%]で算出した。なお、充放電試験は、アルゴンガス雰囲気のグローブボックス内で行った。以上の測定結果を表1に示す。
【0030】
(負極の評価)
充放電試験後の全固体二次電池を、アルゴンガス雰囲気のグローブボックス内で解体した。取り出された負極について、直ちに窒素ガスフロー下でセイコーインスツル株式会社製の示差熱熱重量同時測定装置(TG‐DTA7200)を用いて、300℃の温度での重量減少率[重量%]を測定した。なお、昇温速度は10℃/minとした。その測定結果を表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
表1から、比較例1、2の負極では重量減少率が0.5重量%よりも大きいのに対し、実施例1〜4の負極では重量減少率が0.5重量%以下と小さいことがわかる。300℃の温度での負極の重量減少率が0.5%以下である実施例1〜4の全固体二次電池では、放電容量が580μAh以上と大きく、また、充放電効率も75%以上と高いことがわかる。
【0033】
今回開示された実施の形態と実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。本発明の範囲は以上の実施の形態と実施例ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての修正と変形を含むものであることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の全固体二次電池用負極を用いることにより、充放電効率が高い全固体二次電池を得ることができる。
【符号の説明】
【0035】
10:全固体二次電池、11:正極層、12:負極層、13:固体電解質層。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素材料と、構成元素としてリチウムと硫黄とを含有するイオン伝導性化合物とを含む全固体二次電池用負極であって、
当該負極を300℃に加熱したときの重量減少率が0.5%以下である、全固体二次電池用負極。
【請求項2】
前記イオン伝導性化合物が、構成元素としてリンをさらに含有する、請求項1に記載の全固体二次電池用負極。
【請求項3】
正極と負極と固体電解質とを備えた全固体二次電池であって、
前記負極が、請求項1または請求項2に記載の全固体二次電池用負極である、全固体二次電池。
【請求項4】
前記固体電解質が、構成元素としてリチウムと硫黄とを含む、請求項3に記載の全固体二次電池。
【請求項5】
前記正極が、構成元素としてリチウムと鉄と硫黄とを含む、請求項3または請求項4に記載の全固体二次電池。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2013−16442(P2013−16442A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−150336(P2011−150336)
【出願日】平成23年7月6日(2011.7.6)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】