説明

全固体電池の製造方法

【課題】低コストで性能の優れた全固体電池を高い生産性で製造する。
【解決手段】負極集電体たる銅箔表面に対し、ナイフコート法(またはノズルスキャン法)により比表面積の大きな負極活物質を含む塗布液を塗布し略平坦な負極活物質層を形成し(ステップS102)、より比表面積の小さな負極活物質を含む塗布液をライン状に塗布して凹凸パターンを有する負極活物質層を形成する(ステップS103)。そして、高分子電解質材料を含む塗布液を塗布し凹凸パターンに追従した固体電解質層を形成する(ステップS104)。次いで、ナイフコート法により塗布液を塗布することで、下面が凹凸に追従し上面が略平坦な正極活物質層を形成する(ステップS105)。塗布液が硬化する前に正極集電体たるアルミニウム箔を積層することで(ステップS106)、薄型で高性能の全固体電池を製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、全固体電池の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばリチウムイオン電池のような化学電池を製造する方法としては、従来より、正極活物質および負極活物質をそれぞれ付着させた集電体としての金属箔をセパレータを介して重ね合わせ、セパレータに電解液を含浸させる技術が知られている。しかしながら、電解液として揮発性の高い有機溶剤を含んだ電池は取り扱いに注意が必要であり、またさらなる小型化・大出力化が求められることから、近年では電解液に代えて固体電解質を用い、微細加工により全固体電池を製造するための技術が提案されてきている。
【0003】
例えば特許文献1には、集電体となる金属箔上に、表面に凹凸を有する活物質層をインクジェット法により形成し、該凹凸を埋めるように固体電解質層、もう一方の活物質層を順次インクジェット法によって立体的に積層する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−116248号公報(例えば、段落0029)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した特許文献1に記載の技術では、1回の印刷工程で形成される正負の活物質層および固体電解質層などの異なる機能層が混在する層を、重ね塗りによって多層に積層することによって上記の立体的な構造を得ている。しかしながら、この技術には以下のような問題がある。
【0006】
第1に、インクジェット法では吐出されるインクが微量であるが故に上記のように複雑な構造を制御性よく形成することができる反面、所望の立体構造を得るためには多数回の重ね塗りを要するため製造に長時間を要し生産性が低い。第2に、各機能層間の分離が難しい。すなわち、互いに異なる材料を含むインクが接触することで混じり合ってしまい、各機能層の境界が不明確になって電池としての性能を低下させてしまう可能性がある。特許文献1に記載の技術では1回の印刷工程ごとに乾燥を行っているが、このようにするとさらに生産性は低下し、また印刷工程ごとに形成される各層間での混じり合いは防止されるとしても、1回の印刷工程で隣接して形成される複数機能層間での混じり合いを防止することはできない。
【0007】
この発明は上記課題に鑑みなされたものであり、低コストで性能の優れた全固体電池を高い生産性で製造することのできる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明にかかる全固体電池の製造方法は、上記目的を達成するため、基材の表面に第1の活物質を含む塗布液を塗布して、連続した第1活物質層を形成する第1活物質層形成工程と、前記第1活物質層に、前記第1の活物質と同極の第2の活物質を含む塗布液を互いに離隔した複数のライン状に塗布して第2活物質層を形成する第2活物質層形成工程と、前記基材の表面に前記第1活物質層および前記第2活物質層が積層されてなる積層体の表面に高分子電解質を含む塗布液を塗布して、該積層体表面の凹凸に略追従した凹凸を有する電解質層を形成する電解質層形成工程と、前記電解質層の表面に前記第1の活物質とは反対極の第3の活物質を含む塗布液を塗布して第3活物質層を形成する第3活物質層形成工程とを備えることを特徴としている。
【0009】
このように構成された発明では、基材表面に第1の活物質による連続した第1活物質層を塗布により形成し、さらに第1の活物質と同極の第2の活物質によるライン状の第2活物質層を塗布により形成し、次いで第2活物質層の凹凸に追従する電解質層を塗布により形成し、さらに第3活物質層を塗布により形成する。このように、第1活物質層、第2活物質層、電解質層および第3活物質層の各機能層が各工程ごとに順番に完成されてゆくので重ね塗りを要せず、各工程が単純であるとともに、全工程の所要時間が短い。したがって生産性に優れている。
【0010】
そして、こうして形成される全固体電池では、連続的に形成された第1活物質層と、これに積層されたライン状の第2活物質層とが一体として一方極の活物質層として機能するので、当該極の活物質層として大きな表面積を確保することができる。そして、こうして表面積を大とされた活物質層と、反対極の第3活物質層とが、第2活物質層の凹凸に追従する固体電解質層を介して広い面積で対向する構造となるので、有機溶剤を含む電解質液が不要であり、しかも小型で高出力を得ることができる。このように、この発明によれば、性能の優れた全固体電池を低コストで、かつ高い生産性で製造することが可能となる。
【0011】
この発明において、第2の活物質は、比表面積が第1の活物質の比表面積よりも小さいものであってもよい。活物質層の実効的な表面積を大きくし電池としての性能を高めるためには、活物質として比表面積の大きな粒子のものを使うことが望ましい。その一方、比表面積の大きい物質は流動性が低いため、このような物質を含む塗布液は微細なパターンに塗布することが難しい。例えば微細なノズルから塗布液を吐出して塗布する場合、比表面積の大きな粒子がノズルに目詰まりを起こさせ生産性を低下させてしまう。この問題に対し、比較的比表面積の大きな第1の活物質については連続的に層形成する一方、より比表面積の小さい第2の活物質で凹凸のあるライン状に層形成することにより、良好な生産性を得ながらも、表面積の大きい活物質層を形成して電池性能を高めることができる。
【0012】
ここで、第2の活物質は、第1の活物質と同一または略同一の組成を有するものであってもよい。こうすることで、第1活物質層と第2活物質層との界面が実質的になくなり両者が一体として一方極の活物質層として機能するようになる。例えば第2の活物質として、第1の活物質と同一組成で比表面積がより小さいものを用いることができる。このようにすると、第1活物質層では第1の活物質自体の比表面積の大きさによって、またラインアンドスペース構造に形成された第2活物質層ではその凹凸パターンによって、活物質層としての面積を増大させることができる。
【0013】
この発明では、第2活物質層形成工程において、基材の表面に対して相対移動するノズルの吐出口から第2の活物質を含む塗布液を吐出させるようにしてもよい。このような構成では、吐出口のサイズを適宜に設定することで任意の寸法の微細パターンを有する第2活物質層を形成することができる。このような、いわゆるノズルディスペンス方式の塗布方法によれば、インクジェット方式に比べて遥かに多量の塗布液を短時間で塗布することが可能であり、基材の広い面積に対して、しかも立体的な第2活物質層を短時間で形成することができる。
【0014】
この場合において、第1活物質層形成工程では、第2の活物質を含む塗布液を吐出するノズルの吐出口より開口面積の大きい吐出口を有し基材の表面に対して相対移動するノズルの吐出口から第1の活物質を含む塗布液を吐出させるようにしてもよい。塗布により第1活物質層を形成する方法としては種々の公知の塗布方法を適用することができるが、塗布液を吐出するノズルを基材に対して相対移動させることによっても連続的な塗布層を形成することが可能である。この場合、開口面積の大きな吐出口を有するノズルを用いることによって、比表面積の大きな活物質を含む塗布液であっても目詰まりを起こすことなく塗布することができる。
【0015】
一方、第3活物質層形成工程では、ナイフコート法、ドクターブレード法、バーコート法またはスリットコート法により第3活物質を含む塗布液を塗布するようにしてもよい。第3活物質層は、電解質層に接する側の面はその凹凸に追従する凹凸形状となることが必要である一方、これとは反対側の面が同じように凹凸形状である必要はなく、むしろ平坦であることが望ましい。というのは、第3活物質層に重ねてさらに集電体層を形成する必要があるからである。したがって、電解質層に接する面については凹凸形状に対応して塗布液が細部まで行き渡る一方、これと反対側の面を平坦に仕上げることができる塗布方法として、上記した方法が好ましい。
【0016】
また、第3活物質層形成工程で塗布された塗布液が未硬化の状態のときに、該塗布液の層に第3の活物質に対応する集電体となる導電膜を重ね合わせる集電体積層工程をさらに備えてもよい。こうすることで第3活物質層と集電体とが密着して、集電体が効率よく集電を行うことが可能となる。
【0017】
また、この発明においては、電解質層の厚さを第2活物質層の凹凸の高低差よりも薄くすることが好ましい。高性能の電池を得るためには、第1および第2活物質層と第3活物質層とが広い面積で、しかもできるだけ近接して配置されることが望ましい。ここで、電解質層を厚く形成してしまうと、表面積を増大させるために凹凸の第2活物質層を設けた意義が滅却され、また、第3活物質層との間隔も大きくなってしまう。そこで、電解質層の厚さについては少なくとも第2活物質層の凹凸高低差よりも薄いことが望ましい。
【発明の効果】
【0018】
この発明にかかる全固体製造方法によれば、連続する第1活物質層にライン状の第2活物質層を形成することで一方極の活物質層の表面積を大きくし、さらに電解質層、第3活物質層を順に塗布することで全固体電池を製造するので、性能の優れた全固体電池を低コストで、しかも高い生産性で製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】リチウムイオン電池モジュールの概略構造を示す図である。
【図2】この実施形態におけるモジュール製造方法を示すフローチャートである。
【図3】ナイフコート法による第1活物質塗布液塗布の様子を模式的に示す図である。
【図4】ノズルスキャン法による第1活物質塗布液塗布の様子を模式的に示す図である。
【図5】ノズルスキャン法による第2負極活物質塗布の様子を模式的に示す図である。
【図6】スピンコート法による材料塗布の様子を模式的に示す図である。
【図7】ナイフコート法による正極活物質塗布の様子を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1はリチウムイオン電池モジュールの概略構造を示す図である。より詳しくは、図1(a)はこの発明にかかる製造方法により製造される全固体電池の一例としてのリチウムイオン電池モジュール1を模式的に示す斜視図である。また、図1(b)はこの電池モジュール1の断面構造を示す図である。このリチウムイオン電池モジュール1は、負極集電体11の上に、略平坦で連続した第1の負極活物質層12a、互いに離隔した複数のライン状パターンで形成された第2の負極活物質層12b、固体電解質層13、正極活物質層14および正極集電体15を順番に積層した構造を有している。この明細書では、X、YおよびZ座標方向をそれぞれ図1に示すように定義する。
【0021】
詳しくは後述するが、第2の負極活物質層12bはY方向に沿って延びるライン状のパターンがX方向に一定間隔を空けて多数並んだ、ラインアンドスペース構造となっている。一方、固体電解質層13は固体電解質によって形成された略一定の厚さを有する連続した薄膜であり、上記のように負極集電体11の上に負極活物質層12a,12bが形成されてなる積層体表面の凹凸に追従するように、該積層体上面のほぼ全体を一様に覆っている。
【0022】
また、正極活物質層14は、その下面側は固体電解質層13上面の凹凸に沿った凹凸構造を有するが、その上面は略平坦となっている。そして、このように略平坦に形成された正極活物質層14の上面に正極集電体15が積層されて、リチウムイオン電池モジュール1が形成される。このリチウムイオン電池モジュール1に適宜タブ電極が設けられたり、複数のモジュールが積層されてリチウムイオン電池が構成される。
【0023】
ここで、各層を構成する材料としては、リチウムイオン電池の構成材料として公知のものを用いることが可能であり、正極集電体15、負極集電体11としては、例えばアルミニウム箔、銅箔をそれぞれ用いることができる。また、正極活物質としては、例えばLiCoO2(コバルト酸リチウム)、LiMnO2(リチウムマンガン酸化物)およびそれらの混合物を用いることができる。また、負極活物質としては、例えばLi4Ti512(チタン酸リチウム)とグラファイトとを混合したものを用いることができる。また、固体電解質層13としては、例えばホウ酸エステルポリマー電解質を用いることができる。なお、各機能層の材質についてはこれらに限定されるものではない。
【0024】
このような構造を有するリチウムイオン電池モジュール1は、薄型で折り曲げ容易である。また、負極活物質層12a,12bを図示したような凹凸を有する立体的構造として、その体積に対する表面積を大きくしているので、薄い固体電解質層13を介した正極活物質層14との対向表面積を大きく取ることができ、高効率・高出力が得られる。このように、上記構造を有するリチウムイオン電池は小型で高性能を得ることができるものである。
【0025】
次に、上記したリチウムイオン電池モジュール1を製造する方法について説明する。従来、この種のモジュールは各機能層に対応する薄膜材料を積層することによって形成されてきたが、この製造方法ではモジュールの高密度化に限界がある。また、前記した特許文献1に記載の製造方法では、工程が多く製造に時間がかかり、また各機能層間の分離が難しい。これに対し、以下に説明する製造方法では、少ない工程で、また既存の処理装置を用いて、上記のような構造のリチウムイオン電池モジュール1を製造することが可能である。
【0026】
図2はこの実施形態におけるモジュール製造方法を示すフローチャートである。この製造方法では、まず負極集電体11となる金属箔、例えば銅箔を準備する(ステップS101)。薄い銅箔は搬送や取り扱いが難しいので、例えば片面をガラス板等のキャリアに貼り付ける等により搬送性を高めておくことが好ましい。
【0027】
続いて、銅箔の一方面に、第1の負極活物質を含む第1活物質塗布液を適宜の塗布方法、例えばナイフコート法により塗布する(ステップS102)。「第1の負極活物質」は、先に例示した組成を有する粒子状の負極活物質であって、粒子の比表面積が比較的大きいものである。例えば、上記したチタン酸リチウムで比表面積が10〜20m2/g以上のものが好適である。またその粒子径としては、1〜7μm程度が好ましいが、これより大きいもの、例えば10〜20μmまたはそれ以上のものでもよい。塗布液としては、この第1の負極活物質の他に、例えば、導電助剤としてのアセチレンブラック、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)および溶剤としてのN−メチルピロリドン(NMP)などを混合したものを用いることができる。
【0028】
図3はナイフコート法による第1活物質塗布液塗布の様子を模式的に示す図である。ナイフコート法によって塗布液を塗布するための塗布装置(ナイフコータ)は、X方向に移動自在に構成されて第1活物質塗布液を吐出する吐出ノズル21と、吐出ノズル21から吐出された塗布液を負極集電体11の表面に沿って均すナイフ状のブレード22と、該ブレード22を支持する支持ブロック23をY方向に水平移動させる移動機構24とを備えている。X方向に移動する吐出ノズル21が第1活物質塗布液を負極集電体11上に吐出すると、下端部が負極集電体11表面と所定のギャップを隔てて支持されたブレード22が支持ブロック23と共に移動機構24の作動によりY方向に水平移動することで、塗布液が負極集電体11上で平らに均されて、負極集電体11の上面に薄く均一な第1の負極活物質層12aが形成されてなる積層体が形成される。ナイフコータとしては、例えば特開平07−289973号公報に記載のものを用いることができる。
【0029】
なお、第1の負極活物質層12aを形成する方法については上記したナイフコート法に限定されるものではなく、例えばドクターブレード法によってもよい。これ以外にも例えば、カーテンコータ、ファウンテンコータ(ダイコータ)、バーコータ、スピンコータなど、薄く平滑な膜を形成するのに適した種々の公知の塗布装置を適用することが可能である。また、以下に示すように、ノズルディスペンス法、特に塗布液を吐出するノズルと塗布対象物とを相対移動させるノズルスキャン法を用いた塗布によってもよい。
【0030】
図4はノズルスキャン法による第1活物質塗布液塗布の様子を模式的に示す図である。ノズルスキャン法による塗布では、第1活物質塗布液を連続的に吐出する吐出ノズル27を負極集電体11上でY方向に往復走査移動させながら、1走査ごとにX方向に少しずつ位置を変えてゆく。このとき、X方向への吐出ノズル27の送りピッチは、該吐出ノズル27から吐出される塗布液28の幅とほぼ等しくなるようにする。吐出ノズル27の吐出口径としては、例えば0.2〜1mm程度とすることができる。こうすることによっても、負極集電体11のほぼ全面に第1活物質層12aを形成することが可能となる。
【0031】
なお、このようなノズルスキャン法による塗布では、塗布液の粘度や走査速度によっては、塗布により得られた第1活物質層12aの上面にノズルの送りピッチに対応する周期的な凹凸が現れる場合がある。このことは本実施形態においては何らデメリットとはならず、むしろ次のような利点がある。
【0032】
すなわち、前記したように、この実施形態の製造方法により製造されるリチウムイオン電池モジュール1は、第1の負極活物質層12aと後で塗布により形成される第2の負極活物質層12bとが一体として負極活物質層として機能し、その表面形状を複雑にして表面積を大きくすることで電池としての性能を高めている。上記のように第1の負極活物質層12aの上面が凹凸構造となれば表面形状がさらに複雑となって、負極活物質層の表面積をより大きくして性能を向上させることができる。
【0033】
このように適宜の方法で塗布された塗布液を乾燥または焼成により硬化させることで、負極集電体たる銅箔11の上面に第1の負極活物質層12aが形成されてなる積層体100が構成される。また、塗布液に光硬化性樹脂を添加し塗布後に光照射して硬化させるようにしてもよい。こうして形成される第1の負極活物質層12aの厚さとしては、50〜100μm程度が適当である。
【0034】
比表面積の大きい活物質を塗布して活物質層12aを形成することで、活物質層12aの実効的な表面積を大きく取ることができ、電池としての性能を高めることができる。しかしながら、比表面積の大きい粒子を含む塗布液では粒子の流動性が低いためノズル21または27の目詰まりを発生させやすい。これを防止するには活物質の比表面積および粒子径を考慮してノズルの吐出口径を設定することが望ましく、例えば負極活物質の粒子径の少なくとも10倍程度とするのが好ましい。また、吐出された液が銅箔11上に均一に広がるようにするため、塗布液の粘度を低く(例えば5〜10Pa・s)しておくことが望ましい。
【0035】
図2のフローチャートに戻って、この実施形態におけるモジュール製造方法の説明を続ける。続いて、こうして形成された活物質層12aの上面に、第2の負極活物質を含む第2活物質塗布液をノズルスキャン法により塗布する(ステップS103)。「第2の負極活物質」は、組成としては上記した第1の負極活物質と同等のものであるが、粒子の比表面積がより小さいものである。例えば、比表面積が1〜5m2/g程度のチタン酸リチウムを用いることができる。また、微小なノズルからの連続吐出に適した粒子径としては、1〜7μmのものが好ましい。活物質以外の成分については第1活物質塗布液と同じでよいが、より高粘度(例えば50〜100Pa・s)の塗布液としてもよい。なお、同一濃度では比表面積が小さい粒子ほど低粘度となりやすい傾向があるので、溶剤成分を減らす等により粘度を適宜調整することができる。
【0036】
図5はノズルスキャン法による第2負極活物質塗布の様子を模式的に示す図である。より詳しくは、図5(a)はノズルスキャン法による塗布の様子をX方向から見た図、図5(b)および図5(c)は同じ様子をそれぞれY方向、斜め上方から見た図である。この工程で使用されるノズル31は、第1活物質塗布液が吐出されるノズル21(図3)または27(図4)よりも開口面積が小さい吐出口311をX方向に多数配列した構造を有している。吐出口311の寸法は、第2の負極活物質の粒子径の10倍程度、すなわち10〜70μm程度であることが望ましい。第2活物質塗布液32を吐出するノズル31を積層体100に対して矢印方向Dn2に相対移動させることにより、第2活物質塗布液が、銅箔11上に形成された負極活物質層12aの上に、X方向に互いに離隔しY方向に沿って延びるライン状に塗布される。第2活物質塗布液を乾燥、焼成または光照射により硬化させることで、略平坦な第1の負極活物質層12aの上にライン状の第2の負極活物質層12bが形成された積層体101が形成される。
【0037】
第2活物質塗布液に含まれる第2の負極活物質は粒子の比表面積が小さいため流動性が高く、開口面積の小さな吐出口311を詰まらせることがない。また、高粘度の塗布液を用いることで、吐出後の塗布液の広がりが小さくなり、断面における幅に対する高さの比、すなわちアスペクト比が高い凹凸パターンを形成することができる。第2負極活物質層12bの代表的な寸法としては、例えば、各ラインの幅、高さおよびライン間のスペースをいずれも20〜100μm程度とすることができる。
【0038】
この時点では、略平坦な銅箔11の表面に対して略平坦な第1の負極活物質層12aおよび凹凸パターンを有する第2の負極活物質層12bを盛り上げた状態となっており、略同一組成で構成された第1および第2負極活物質層12a,12bは一体として負極活物質層として機能する。この場合において、単に上面が平坦な活物質層に比べて、活物質の使用量に対する表面積を大幅に増大させることができるので、後に形成される正極活物質との対向面積を大きくして高出力を得ることができる。また、平坦な第1の負極活物質層12aでは比表面積の大きな粒子を塗布することで表面積を拡大する一方、第2の負極活物質層12bでは比表面積の小さな粒子を用いることでノズルの目詰まりを防止しつつ凹凸パターンを形成して表面積を大きくするこができる。
【0039】
再び図2に戻って、フローチャートの説明を続ける。こうして形成された積層体101の上面に対し、例えばスピンコート法により電解質塗布液を塗布する(ステップS104)。電解質塗布液としては、前記した高分子電解質材料、例えばポリエチレンオキシド、ポリスチレンなどの樹脂、支持塩としての例えばLiPF6(六フッ化リン酸リチウム)および溶剤としての例えばジエチレンカーボネートなどを混合したものを用いることができる。
【0040】
図6はスピンコート法による材料塗布の様子を模式的に示す図である。銅箔11に第1および第2の負極活物質層12aおよび12bを積層してなる積層体101は、鉛直方向(Z方向)の回転軸周りを所定の回転方向Drに回転自在の回転ステージ42に略水平に載置される。そして、回転ステージ42が所定の回転速度で回転し、回転ステージ42の回転軸上の上部位置に設けられたノズル41から高分子電解質材料を含む塗布液43が積層体101に向かって吐出される。積層体101に滴下された塗布液は遠心力によって周囲に広がり、余分な液は積層体101の端部から振り切られる。こうすることで、積層体101の上面は薄く均一な塗布液によって覆われ、これを硬化させることで、固体電解質層13が形成される。スピンコート法では、塗布液の粘度および回転ステージ42の回転速度によって膜厚を制御することができ、また本件積層体101のような表面に凹凸構造を有する被処理物に対してもその凹凸に沿った厚さの均一な薄膜を形成することについても十分な実績がある。
【0041】
固体電解質層13の厚さについては任意であるが、正負の活物質層間が確実に分離され、また内部抵抗が許容値以下となるような厚さであることが必要である。例えば20〜50μmとすることができる。なお、表面積を増大させるために設けた負極活物質層12bの凹凸の意義を滅却しない、という観点からは、固体電解質層13の厚さ(図1(b)の符号t13)が負極活物質層12bの凹凸の高低差(図1(b)の符号t12)よりも薄いことが望ましい。
【0042】
図2のフローチャートの説明を続ける。こうして形成された、銅箔11、負極活物質層12a,12b、固体電解質層13を積層してなる積層体に対して、適宜の方法、例えば第1活物質層12aの形成にも用いたナイフコート法により正極活物質を含む塗布液が塗布されて、正極活物質層14が形成される(ステップS105)。塗布液としては、例えば、正極活物質に、前記した導電助剤、結着剤および溶剤等を混合したものを用いることができる。
【0043】
図7はナイフコート法による正極活物質塗布の様子を模式的に示す図である。正極活物質を含む塗布液が図示しないノズルから積層体表面に吐出されると、ブレード52がその下端を塗布液に接触させながら積層体上面を矢印方向Dn3に移動する。これにより、塗布液54の上面が平らに均される。
【0044】
このようにして正極活物質を含む塗布液54をブレード52により均しながら積層体102に塗布することで、下面が固体電解質層13の凹凸に沿った凹凸を有する一方、上面が略平坦な正極活物質層14が、負極集電体11、第1および第2負極活物質層12a,12b、固体電解層13を積層してなる積層体102上に形成される。正極活物質層14の厚さとしては、第2負極活物質層12bと同程度の20〜100μmが適当である。
【0045】
図2に戻って、こうして形成された正極活物質層14の上面に、正極集電体15となる金属箔、例えばアルミニウム箔を積層する(ステップS106)。このとき、先のステップS105で形成された正極活物質層14が硬化しないうちに、その上面に正極集電体15を重ねることが望ましい。こうすることで、正極活物質層14と正極集電体15とを互いに密着させて接合することができる。また正極活物質層14の上面は平らに均されているので、正極集電体15を隙間なく積層することが容易となっている。以上のようにして、図1(a)に示したリチウムイオン電池モジュール1を製造することができる。
【0046】
以上のように、この実施形態では、負極集電体11の上面全体に第1活物質塗布液を塗布して略平坦な負極活物質層12aを形成した後、ライン状の負極活物質層12bをノズルディスペンス法により形成する。そして、その上に電解質塗布液を塗布して固体電解質層13を形成し、その上に正極活物質塗布液を塗布して正極活物質層14を形成する。このように各機能層の材料となる塗布液を順番に重ねているので工程数が少なく、短時間で生産性よくリチウムイオン電池モジュール1を製造することができる。
【0047】
第1および第2活物質層12a,12bは略同一組成を有しているため、これらは一体として表面積の大きな負極活物質層として機能する。ここで、平坦な第1の負極活物質層12aでは比表面積の大きな粒子が用いられることにより、表面積の拡大が図られる一方、第2の負極活物質層12bでは、多数のラインを配することによる微細な凹凸パターンによって表面積の拡大が図られている。比表面積の大きい粒子を含む第1活物質塗布液については開口面積の大きい吐出口を有するノズル21または27、比表面積の小さい粒子を含む第2活物質塗布液については開口面積の小さい吐出口311を有するノズル31からそれぞれ吐出させることで、いずれもノズルの目詰まりを生じさせることなく、高い生産性で表面積の大きな負極活物質層を形成することが可能である。
【0048】
ここで、凹凸パターンを形成する必要のある負極活物質層12bの形成にはノズルディスペンス法による塗布を適用しているので、種々のパターンを短時間で形成することができる。また、微細パターンの作成にもノズルディスペンス法を好適に適用することが可能である。この製造方法では、微細パターンを作成する必要があるのは第2活物質塗布液の塗布工程のみであり、以後の塗布工程では一様に塗布を行うことができれば足り微細パターンの作成を要しない。
【0049】
固体電解質層13については負極活物質層12a,12b上面の凹凸に追従した薄く均一な膜であることが望ましい。そこで、その形成については、スピンコート法を適用している。スピンコート法によれば、処理対象物である積層体101を回転させながら塗布液43を滴下することで、薄く均一な膜を短時間で形成することが可能である。
【0050】
さらに、正極活物質層14については、下面は凹凸に追従し、上面は平坦であることが望ましい。そこで、塗布液54をブレード52によって均すナイフコート法を適用することで目的は達成される。また、こうして塗布された塗布液54が硬化する前に、正極集電体15となるアルミニウム箔を重ねることにより、塗布液54が硬化してなる正極活物質層14と正極集電体15とを隙間なく密着させることができる。
【0051】
そして、こうして形成されたリチウムイオン電池は薄く折り曲げが容易であり、また正極活物質と負極活物質とが薄い固体電解質層を介して広い面積で対向しているため、高出力を得ることが可能である。
【0052】
以上説明したように、この実施形態では、負極集電体11たる銅箔が本発明の「基材」に相当している。また、負極活物質のうち比表面積の大きい第1の負極活物質が本発明の「第1の活物質」に相当し、第1の負極活物質層12aが本発明の「第1活物質層」に相当している。したがって、図2のステップS102が本発明の「第1活物質層形成工程」に相当する。
【0053】
また、この実施形態では、比表面積の小さい第2の負極活物質が本発明の「第2の活物質」に相当し、第2の負極活物質層12bが本発明の「第2活物質層」に相当している。したがって、図2のステップS103が本発明の「第2活物質層形成工程」に相当する。
【0054】
また、固体電解質層13が本発明の「電解質層」に相当し、図2のステップS104が本発明の「電解質層形成工程」に相当している。また、正極活物質および正極活物質層14が本発明の「第3の活物質」および「第3活物質層」に相当しており、図2のステップS105が本発明の「第3活物質層形成工程」に相当している。さらに、正極集電体15たるアルミニウム箔が、本発明の「導電膜」に相当しており、図2のステップS106が本発明の「集電体積層工程」に相当している。
【0055】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記実施形態では第1の活物質として比表面積の大きい粒子を、第2の活物質としてより比表面積の小さい粒子を用いているが、これに限定されるものではなく、例えばこれらの活物質が同一であってもよい。
【0056】
また、例えば、各工程において適用する塗布方法は上記に限定されるものではなく、当該工程の目的に適うものであれば他の塗布方法を適用してもよい。例えば、上記した実施形態では、固体電解質層13を形成するのにスピンコート法を適用しているが、塗布対象面の凹凸に追従した薄膜を形成することのできる方法であれば他の方法、例えばスプレーコート法によって高分子電解質を含む塗布液を塗布するようにしてもよい。
【0057】
また例えば、上記実施形態では、第1の負極活物質層12aを形成するのにナイフコート法あるいはノズルディスペンス法を用いているが、これに限定されない。すなわち、第1の負極活物質層12aは銅箔11の全面に均一に形成されればよいので、スピンコート法など他の公知の方法を用いて塗布してもよい。
【0058】
また、第1の負極活物質層12aは基材(銅箔11)のほぼ全面を連続的に覆う、つまり基材表面が露出しないように形成されることが望ましいが、平坦であることは必須の要件ではない。したがって、第1の負極活物質層12a自体をより積極的に凹凸パターンを有する表面形状に形成してもよい。こうすることによって、第1および第2の負極活物質層が一体化されてなる負極活物質層の表面積をさらに増大させることが可能である。ここで第1の負極活物質層12aをライン状の凹凸パターンとする場合には、その延設方向や配列ピッチを第2の負極活物質層12bとは異なるものとすると、全体としての負極活物質層の表面形状がさらに複雑なものとなり、その表面積を大きくすることができる。
【0059】
また例えば、上記実施形態では、正極活物質層14を形成するのにナイフコート法を適用しているが、塗布対象面と接する下面がその凹凸に追従し、かつ上面を略平坦に仕上げることが可能な塗布方法であれば他の方法であってもよい。このような目的を達成するには塗布液の粘度があまり高くないことが望ましいが、言い換えれば、塗布液の粘度が適切に選ばれていれば他の塗布方法でも下面を凹凸にかつ上面を略平坦に仕上げることは可能であり、第1負極活物質層12aの形成に好適な塗布方法として挙げた各塗布方法で塗布するようにしてもよい。
【0060】
また、上記実施形態では負極集電体上に負極活物質層、固体電解質層、正極活物質層および正極集電体を順次積層しているが、これとは反対に、正極集電体上に正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層および負極集電体をこの順番に積層するようにしてもよい。また、上記実施形態では負極活物質層を比表面積の異なる粒子による2層構造としているが、正極活物質層をこのような2層構造としてもよい。
【0061】
また、上記実施形態で例示した集電体、活物質、電解質等の材料はその一例を示したものであってこれに限定されず、リチウムイオン電池の構成材料として用いられる他の材料を使用してリチウムイオン電池を製造する場合においても、本発明の製造方法を好適に適用することが可能である。また、リチウムイオン電池に限らず、他の材料を用いた化学電池(全固体電池)全般の製造に本発明を適用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0062】
この発明は、全固体電池の製造技術に好適に適用することができ、特に低コストで小型、高出力の電池を優れた生産性で製造するのに適している。
【符号の説明】
【0063】
11 負極集電体(基材)
12a 第1の負極活物質層(第1活物質層)
12b 第2の負極活物質層(第2活物質層)
13 固体電解質層(電解質層)
14 正極活物質層(第3活物質層)
15 正極集電体(導電膜)
S102 第1活物質層形成工程
S103 第2活物質層形成工程
S104 電解質層形成工程
S105 第3活物質層形成工程
S106 集電体積層工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に第1の活物質を含む塗布液を塗布して、連続した第1活物質層を形成する第1活物質層形成工程と、
前記第1活物質層に、前記第1の活物質と同極の第2の活物質を含む塗布液を互いに離隔した複数のライン状に塗布して第2活物質層を形成する第2活物質層形成工程と、
前記基材の表面に前記第1活物質層および前記第2活物質層が積層されてなる積層体の表面に高分子電解質を含む塗布液を塗布して、該積層体表面の凹凸に略追従した凹凸を有する電解質層を形成する電解質層形成工程と、
前記電解質層の表面に前記第1の活物質とは反対極の第3の活物質を含む塗布液を塗布して第3活物質層を形成する第3活物質層形成工程と
を備えることを特徴とする全固体電池の製造方法。
【請求項2】
前記第2の活物質は、比表面積が前記第1の活物質の比表面積よりも小さい請求項1に記載の全固体電池の製造方法。
【請求項3】
前記第2の活物質は、前記第1の活物質と同一または略同一の組成を有する請求項1または2に記載の全固体電池の製造方法。
【請求項4】
前記第2活物質層形成工程では、前記基材の表面に対して相対移動するノズルの吐出口から前記第2の活物質を含む塗布液を吐出させる請求項1ないし3のいずれかに記載の全固体電池の製造方法。
【請求項5】
前記第1活物質層形成工程では、前記ノズルの吐出口より開口面積の大きい吐出口を有し前記基材の表面に対して相対移動するノズルの吐出口から前記第1の活物質を含む塗布液を吐出させる請求項4に記載の全固体電池の製造方法。
【請求項6】
前記第3活物質層形成工程で塗布された塗布液が未硬化の状態のときに、該塗布液の層に前記第3の活物質に対応する集電体となる導電膜を重ね合わせる集電体積層工程をさらに備える請求項1ないし5のいずれかに記載の全固体電池の製造方法。
【請求項7】
前記電解質層の厚さを、前記第2活物質層の凹凸の高低差よりも薄くする請求項1ないし6のいずれかに記載の全固体電池の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−198596(P2011−198596A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−63739(P2010−63739)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【Fターム(参考)】