説明

全有機体炭素・全窒素測定方法およびその装置

【課題】海水や塩類を含む試料に対しても燃焼管の耐久性の高い全有機体炭素・全窒素測定方法及びその測定装置を提供する。
【解決手段】海水や塩類を含む試料に対して適量の硫酸を添加した後、燃焼管8で加熱酸化して気化する。これにより発生したCO及びNOを非分散型赤外線式分析計などのガス検出器9および化学発光分析計などのガス検出器10で測定し、このCO及びNO量をデータ処理部11で全有機体炭素濃度および全窒素濃度に変換し、表示器11a及びプリンタ11bに出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中の全有機体炭素および全窒素を定量分析する全有機体炭素・全窒素測定方法およびその測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からNaCl成分を含む水溶液試料14中の全有機体炭素を測定する場合は、図4に示すようにマルチポートバルブ21を介してシリンジポンプ22内に所定量の水溶液試料14と塩酸15を採り込み、水溶液試料14中の無機体炭素を除去する目的で試料を酸性化し、高純度空気16を送入して爆気処理を行っている。この酸性化の酸試薬には、燃焼管23で気化された後蓄積しない塩酸15が一般的に使用されており、無機体炭素除去後の水溶液試料14を約600〜900℃の間で加熱された燃焼管23へ注入して加熱酸化した後、生成されたCO(二酸化炭素)ガスを非分散型赤外線式分析計などのガス検出器9で検出・定量を行っている。
また、試料中の全窒素を測定する場合は、試料の酸性化は特に必要がないため、そのまま試料を燃焼管23へ注入し加熱酸化した後、生成されたNO(一酸化窒素)ガスを化学発光式分析計などのガス検出器10で検出・定量を行っている。
【0003】
【特許文献1】特開平11−51869号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
海水や塩類を多く含んだ試料を燃焼管へ繰り返し注入し続けた場合、主として試料中の塩化ナトリウムの作用により燃焼管に用いられている石英ガラス筒部の内部から白色化と脆弱化が進行し、燃焼管の強度が低下するという問題があった。この現象は一般に「失透」と呼ばれ燃焼管の強度低下とともに亀裂が入ったり、温度を下げた際の熱変化によるストレスによって石英ガラス筒部の破損が生じ、燃焼管の寿命を短くする。
本発明はこのような実状に鑑みてなされたものであって、海水や塩類を多く含んだ試料に対しても長期間燃焼管を劣化させずに使用することができる全有機体炭素・全窒素測定方法およびその測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するため、本発明の全有機体炭素・全窒素測定方法は、NaCl成分を含む水溶液試料を燃焼管中で加熱酸化して気化し、試料中の全有機体炭素をCOに、全窒素をNOに変換した後、気化ガス中のCO量を検出して試料中の全有機体炭素濃度を測定し、NO量を検出して試料中の全窒素濃度を測定する全有機体炭素・全窒素測定方法において、前記試料中のNaCl濃度に応じた硫酸を添加混合して全有機体炭素・全窒素の測定が行われる。
また本発明の全有機体炭素・全窒素測定装置は、NaCl成分を含む水溶液試料を加熱酸化して気化するとともに、試料中の全有機炭素をCOに、全窒素をNOに変換する燃焼管と、試料の一定量を採取して前記燃焼管に注入する試料サンプリング部と、前記燃焼管にキャリアガスを供給するキャリアガス供給部と、前記燃焼管からキャリアガスとともに送られてきた気化ガス中のCOを検出するガス検出部およびNOを検出するガス検出器と、CO検出値を全有機体炭素濃度に、NO検出値を全窒素濃度に変換する演算処理部を備えた全有機体炭素・全窒素測定装置において、硫酸を貯留する硫酸貯留容器と前記試料中のNaCl濃度に応じた硫酸を試料にサンプリングして添加混合する、例えばシリンジポンプ内の試料に硫酸を添加しスパージガスを注入して混合する添加混合手段が備えられている。
【発明の効果】
【0006】
本発明の酸化燃焼方式による全有機体炭素・全窒素測定方法およびその測定装置は、海水や塩類を含む試料の場合、その試料中の塩化ナトリウム濃度に応じた硫酸を添加後、石英ガラス製燃焼管へ試料を注入することにより、燃焼管の石英ガラス筒体部の失透現象の進行を緩和するとともに燃焼管の強度が保持され燃焼管の寿命を延ばす効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施例による全有機体炭素・全窒素測定装置の形態について述べる。図1は全有機体炭素・全窒素測定装置の概略構成を示す図である。1はNaCl成分を含む水溶液試料を貯留しておく試料貯留容器、2は試料中の全無機体炭素の除去と試料中の塩化ナトリウムによる石英ガラス製燃焼管8の劣化を抑制するために用いる硫酸を貯留しておく硫酸貯留容器、3は試料を必要に応じて希釈するための希釈水を貯留しておく希釈水貯留容器、4は測定装置の全有機体炭素及び全窒素測定濃度の定格値を校正するための標準液を貯留しておく標準液貯留容器である。
【0008】
前記各貯留容器1、2、3、4及び燃焼管8はそれぞれマルチポートバルブ6の分配ポート6a、6b、6e、6d及び6cに接続され、共通ポート6fはシリンジポンプ5に接続されている。この共通ポート6fは、接続アーム6gを結合しており、ステッピングモータ(図示省略)の回転駆動により任意の分配ポートと連通させることができる。前記共通ポート6fと各分配ポートとの接続切替えを行うステッピングモータ及びシリンジポンプ5のプランジャ5aを進退させるモータMの制御は、操作部12aより入力される試料および硫酸のサンプリング量などの測定条件と予め書き込まれた制御プログラムに従って制御部12より出力される点線で示す制御出力に基づいて行われる。
【0009】
前記燃焼管8は、注入された試料または硫酸が添加された試料にキャリアガス7を加え720℃程度に加熱して酸化反応させるもので、この酸化反応により試料中の全有機体炭素はCOに、全窒素はNOに変換される。このCO及びNOは燃焼管8に直列に結合された非分散型赤外線式分析計などのCOガスを検出するガス検出器9および化学発光式分析計などのNOガスを検出するガス検出器10により検出され、その検出信号はデータ処理部11により演算処理されCO量は全有機体炭素濃度に、NO量は全窒素濃度に変換され表示器11a及びプリンタ11bに出力される。
【0010】
本発明においては、約3%(w/v)の塩化ナトリウム濃度の海水などの塩化ナトリウムを含んだ試料を分析する場合は、前記硫酸貯留容器2内の硫酸を試料に添加して前記燃焼管8において加熱酸化させる。この場合、塩化ナトリウムと硫酸は、下記反応式(1)に基づいて反応し、硫酸ナトリウム(NaSO)と塩酸に変換される。
NaCl+(1/2)HSO=(1/2)NaSO+HCl (1)
上記反応に対応して発生する硫酸ナトリウムや硫酸水素ナトリウムは塩化ナトリウムに比し、燃焼管8に使用されている石英ガラスSiOとの反応性が低く、燃焼管8の石英ガラスの劣化が抑制される。
【0011】
試料に硫酸を添加する場合の硫酸最適添加量は、上式(1)の関係、すなわちNaClをNaSOに交換できる同当量、すなわちNaCl1モルに対して硫酸0.5モル以上を添加するのがよいが、実験的にはその30%、すなわち0.15モル以上の硫酸を添加しても十分な効果が得られている。
【0012】
次に本発明により海水などの塩化ナトリウムを含んだ試料の全有機体炭素及び全窒素濃度を自動で連続的に測定する場合の測定方法を前図1および図2のフローチャート図に従って説明する。操作部12aから予め測定条件を入力しスタートさせると、制御部12に記憶させた制御プログラムに従い制御部12からマルチポートバルブ6及びモータMに順次制御信号が送られ、以下に示すステップ順に処理が進行する。
【0013】
まずマルチポートバルブ6の共通ポート6fの接続アーム6gを回転し、分配ポート6aに連結した後(S1)、試料貯留容器1から所定量の試料をシリンジポンプ5内に吸入する(S2)。次に共通ポート6fを分配ポート6bに接続した後(S3)、硫酸貯留容器2から所定量の硫酸をシリンジポンプ5内に吸入添加する(S4)。次にこのシリンジポンプ5内にスパージガス13を導入して通気処理を行い、試料と硫酸を混合し無機体炭素(IC)をCOガスに変換し除去した後(S5)、共通ポート6fを分配ポート6cに連結して(S6)、試料硫酸混合液を燃焼管8に注入し加熱して酸化反応させ全有機体炭素をCOに、全窒素をNOに変換する(S7)。このCOを非分散型赤外線式分析計などのガス検出器9で検出し(S8)、NOを化学発光分析計などのガス検出器10で検出し(S9)、各検出値をデータ処理部11で演算処理し全有機体炭素濃度および全窒素濃度に変換し、表示器11a及びプリンタ11bに出力する(S10)。
【0014】
図3は一例として濃硫酸を4倍に希釈した硫酸溶液65μlを海水試料3mlに添加して700回加熱酸化を行った場合の燃焼管8(a)と硫酸添加をしなかった場合の燃焼管8(b)を示したものである。図に見られるように硫酸を添加した場合には添加しない場合にくらべ燃焼管8の劣化が顕著に抑制されている。
【0015】
なお、希釈水貯留容器3および標準液貯留容器4は、各種分析計に利用されているので使用方法は省略する。本発明の全有機体炭素・全窒素測定装置の構成は、実施例に限定されるものではなく、例えばマルチポートバルブ6の代わりに、各貯留容器及び燃焼管8とシリンジポンプ5間に電磁バルブを設けて制御部12でこの電磁バルブをオンオフ制御するようにしてもよく、また測定方法をワンステップずつ非連続的に行えるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明は試料水中の全有機体炭素濃度および全窒素濃度を定量分析するための全有機体炭素・全窒素測定方法およびその測定装置に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例による全有機体炭素・全窒素測定装置の概略構成図である。
【図2】実施例の全有機体炭素・全窒素測定方法を説明するフローチャート図である。
【図3】硫酸の有無による石英ガラス製燃焼管の劣化比較写真である。
【図4】従来の全有機体炭素・全窒素測定装置の構成例を示す図である。
【符号の説明】
【0018】
1 試料貯留容器
2 硫酸貯留容器
3 希釈水貯留容器
4 標準液貯留容器
5 シリンジポンプ
5a プランジャ
6 マルチポートバルブ
6a 分配ポート
6b 分配ポート
6c 分配ポート
6d 分配ポート
6e 分配ポート
6f 共通ポート
7 キャリアガス
8 燃焼管
9 ガス検出器
10 ガス検出器
11 データ処理部
11a 表示器
11b プリンタ
12 制御部
12a 操作部
13 スパージガス
14 水溶液試料
15 塩酸
16高純度空気
21 マルチポートバルブ
22 シリンジポンプ
23 燃焼管
M モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
NaCl成分を含む水溶液試料を燃焼管中で加熱酸化して気化し、試料中の全有機体炭素をCOに、全窒素をNOに変換した後、気化ガス中のCO量を検出して試料中の全有機体炭素濃度を測定し、NO量を検出して試料中の全窒素濃度を測定する全有機体炭素・全窒素測定方法において、前記試料中のNaCl濃度に応じた硫酸を試料に添加混合することを特徴とする全有機体炭素・全窒素測定方法。
【請求項2】
NaCl成分を含む水溶液試料を加熱酸化して気化するとともに、試料中の全有機炭素をCOに、全窒素をNOに変換する燃焼管と、試料の一定量を採取して前記燃焼管に注入する試料サンプリング部と、前記燃焼管にキャリアガスを供給するキャリアガス供給部と、前記燃焼管からキャリアガスとともに送られてきた試料気化ガス中のCOを検出するガス検出部およびNOを検出するガス検出器と、CO検出値を全有機体炭素濃度に、NO検出値を全窒素濃度に変換する演算処理部を備えた全有機体炭素・全窒素測定装置において、硫酸を貯留する硫酸貯留容器と前記試料中のNaCl濃度に応じた硫酸を試料にサンプリングして添加混合する手段を備えていることを特徴とする全有機体炭素・全窒素測定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図4】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2007−163309(P2007−163309A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−360446(P2005−360446)
【出願日】平成17年12月14日(2005.12.14)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】