説明

全芳香族ポリアミド繊維およびその製造方法

優れた機械的物性(靭性因子)を有し、製糸工程における良好な工程安定性をもって製造可能な全芳香族ポリアミド繊維は、全芳香族ポリアミドと、その100質量部に対して、0.05〜20質量部の層状粘土鉱物粒子、例えばヘクトライト、サポナイト、スチブンサイト、バイデライト、モンモリロナイト、又は膨潤性雲母などの粒子を含有するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、層状粘土鉱物を含有する全芳香族ポリアミド繊維およびその製造方法に関するものである。さらに詳しく述べるならば本発明は、層状粘土鉱物を含有し、改善された機械的特性、特に靭性を有する全芳香族ポリアミド繊維およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
近年、ポリマーに高い付加価値を付与すること、及びその性能を高めることについて、高い関心が寄せられている。ポリマーに高い付加価値を付与し、高性能を付与するために、フィラー(充填剤)をポリマーに含有させて得られる複合材料の開発が盛んである。これまで、ポリマーの機械的特性及び耐熱性を向上させる目的で、繊維状、針状のフィラーが、強化用充填剤として用いられ、それによってポリマー材料の引張強度、弾性率、曲げ強度、熱寸法安定性、クリープ特性の向上、反りの改善、耐摩耗性、表面硬度、耐熱性、耐衝撃性などの諸物性が向上することが知られている。
しかし、複合材料の強度は、複合材料のマトリックスとなるポリマー、および充填剤として用いられたフィラー自身の強度のほかに、フィラーとポリマーとの界面接着性に大きく影響されることが知られており、フィラーに対するポリマーの濡れ性の良不良も、製造の難易度のみならず製品の強度に影響する。このような理由により、材料として高強度、高弾性を示すフィラーまたはポリマーを用いても、必ずしも強度に優れた複合材料が得られるとはかぎらないのである。
さらに、フィラーを含有する複合材料は、伸度が低いという欠点を有することが、一般的に知られている。
一方、全芳香族ポリアミド繊維(以下、アラミド繊維と称することがある)の製糸工程では、工程安定性および品質(単糸切れ防止性)の一層の向上が切望されている。一般に、工業的アラミド繊維の評価のパラメーターとして靭性因子(TF)が知られている。靭性因子(TF)はグラム/デニールの単位で測定された引張り強さ(T’)と、伸び率(E%)の平方根と、の積(TF=T’×E1/2)で表される。この靭性因子の高い繊維の場合、延伸工程における繊維の延伸ロールに対する巻付きが減少し、その結果、得られる糸中の単糸切れが少なくなって延伸工程の安定性が向上し、得られる繊維糸条の品質が向上することが知られている。
繊維の機械的強度を向上させる方法としては、例えば延伸により繊維の配向度を向上させることが知られているが、このような方法を用いた場合、引張り強さの向上とともに、伸び率が低下し、このため靭性因子が高いフィラメントを製造することが困難であることが知られている。
従来、ポリアミド繊維の機械的物性及び寸法安定性を改善するために、フィラーとして層状粘土鉱物を含有させることが提案されている(特開平3−81364号公報、特開平4−209822号公報、特開平8−3818号公報参照)。しかし、これらはいずれも熱可塑性ポリアミドを対象とするものであって、これらの特許文献には、非熱可塑性ポリアミドである全芳香族ポリアミド繊維について、層状粘土鉱物を利用することは開示されていない。
また、全芳香族ポリアミドの機械的特性及び耐熱性を向上させる目的で、フィラーとして層状粘土鉱物を用いる方法が検討されている。例えば、特開平11−236501号公報にはジアミンモノマーを含む水溶液と、アシル化されたジカルボン酸モノマーの、水に可溶な有機溶媒溶液とを混合させて、前記モノマーの重縮合を行う際に、水溶液中または有機溶媒溶液中に粘土鉱物を共存させることにより高耐熱材料として有用な全芳香族ポリアミド複合材料を得る方法が開示されており、特開平11−255893号公報には、層状粘土鉱物の、それを完全に溶解できる溶媒中溶液中で、全芳香族ポリアミドを溶液重合することにより、効率良く複合体を得る方法が開示されており、特開平11−256034号公報には、全芳香族ポリアミド、層状粘土鉱物および有機溶媒からなる溶液から、前記有機溶媒を除去することにより、全芳香族ポリアミド中に層状粘土鉱物を高度に微分散させ、機械的物性の向上した全芳香族ポリアミド複合体を得る方法が提案されている。
しかしながら、先行技術文献中に、層状粘土鉱物をフィラーとして含有させることによって、全芳香族ポリアミド繊維の機械的物性が向上すること、及び層状粘土鉱物をフィラーとして含み、それによって、高い靭性因子を有する全芳香族ポリアミド繊維は未だ知られていない。
【発明の開示】
本発明の目的は、高い機械的物性、特に高い靭性因子を有し、製糸工程において、良好な工程安定性をもって製糸可能な全芳香族ポリアミド繊維、およびそれを工業的に製造する方法を提供することにある。
本発明者らの研究によって、全芳香族ポリアミドと層状粘土鉱物を含有する紡糸溶液を、湿式紡糸し、かつ延伸して得られる、延伸配向された全芳香族ポリアミド繊維は、優れた機械的特性特に靭性因子を有することが見出された。さらに驚くべきことには、前記層状粘土鉱物の個々の層を繊維中に全く均一に分散させるのではなく、それを繊維を構成する芳香族ポリアミドポリマーマトリックス中に、層状粘土鉱物分布密度が比較的大きな複数の領域を散在分布させることによって、層状粘土鉱物粒子による、繊維の機械的特性、特に、靭性因子の向上効果をさらに増大させ得ることが本発明者らによって見出された。
本発明の延伸配向された全芳香族ポリアミド繊維は、全芳香族ポリアミドポリマーからなるマトリックスと、その100質量部に対して0.05〜20質量部の割合で、前記マトリックス中に分散分布している層状粘土鉱物粒子とを含有する樹脂組成物を含むことを特徴とするものである。
本発明の全芳香族ポリアミド繊維において、前記全芳香族ポリアミドマトリックス中に、前記層状粘土鉱物粒子の分布密度が比較的高い複数の領域が散在分布していることが好ましい。
本発明の全芳香族ポリアミド繊維において、前記全芳香族ポリアミド繊維を、その繊維軸に沿って切断し、この縦断面を、電子顕微鏡により倍率10万倍で観察し、25μmの観察断面積S2当り、前記層状粘土鉱物粒子の影響によって、繊維断面の状態に変化が認められる複数個の領域の合計面積S1を測定したとき、下記式(1)によって規定される、前記層状粘土鉱物粒子の、前記繊維内における分散度Y:
Y(%)=(S1/S2)×100 (1)
が、0.1〜40の範囲内にあることが好ましい。
本発明の全芳香族ポリアミド繊維において、前記層状粘土鉱物が、ヘクトライト、サポナイト、スチブンサイト、バイデライト、モンモリロナイト、及び膨潤性雲母から選ばれた少なくとも1種を含むことが好ましい。
本発明の全芳香族ポリアミド繊維において、前記層状粘土鉱物粒子が、インターカレート剤による処理を施されたものであることが好ましい。
本発明の全芳香族ポリアミド繊維において、前記層状粘土鉱物粒子の平均層厚さが10〜500nmであることが好ましい。
本発明の全芳香族ポリアミド繊維において、前記層状粘土鉱物粒子の、下記式(2)によって規定される配向度A:
A(%)=〔(180−w)/180〕×100 (2)
(但し、式(2)中、前記層状粘土鉱物粒子のX線解析において、前記層状粘土鉱物粒子の(001)面の反射ピークのデバイ環に沿って測定された強度分布の半値幅を表す)
が50%以上であることが好ましい。
本発明の全芳香族ポリアミド繊維において、前記全芳香族ポリアミド繊維の引張り強さ(T)の、前記層状粘土鉱物粒子を含有していないことを除き、その他は前記全芳香族ポリアミド繊維と全く同一の比較全芳香族ポリアミド繊維の引張り強度(To)に対する比(T/To)が、1.1以上であることが好ましい。
本発明の全芳香族ポリアミド繊維において、前記全芳香族ポリアミド繊維の伸び率(E)の、前記層状粘土鉱物粒子を含有していないことを除き、その他は前記全芳香族ポリアミド繊維と全く同一の比較全芳香族ポリアミド繊維の伸び率(Eo)に対する比E/Eoが、1.1以上であることが好ましい。
本発明の全芳香族ポリアミド繊維において、前記全芳香族ポリアミドの下記式(3)により規定される靭性因子(TF):
TF=T’×E’1/2 (3)
(上記式(3)において、T’は前記全芳香族ポリアミド繊維のg/1.1dtex単位における引張り強さの数値を表し、E’は前記全芳香族ポリアミド繊維の%単位における伸び率の数値を表す)
が30以上であることが好ましい。
本発明の全芳香族ポリアミド繊維において、前記全芳香族ポリアミド繊維の靭性因子(TF)の、前記層状粘土鉱物粒子を含有していないことを除き、その他は前記全芳香族ポリアミド繊維とすべて同一の比較全芳香族ポリアミド繊維の靭性因子(TFo)に対する比TF/TFoが、1.1以上であることが好ましい。
本発明の全芳香族ポリアミド繊維において、前記層状粘土鉱物粒子が、その層間に有機オニウムイオンを有することが好ましい。
本発明の全芳香族ポリアミド繊維において、全芳香族ポリアミドが、メタ系全芳香族ポリアミドから選ばれることが好ましい。
本発明の延伸配向された全芳香族ポリアミド繊維の製造方法は、溶媒と、全芳香族ポリアミドと、前記全芳香族ポリアミド100質量部に対して0.05〜20質量部の層状粘土鉱物粒子とを含む紡糸原液を、紡糸口金を通して水性凝固浴中に繊維状に押し出して紡出し、前記押し出された繊維状原液流を凝固し、形成された未延伸繊維を湿式雰囲気中で延伸し、得られた延伸繊維を乾燥熱処理することを特徴とする、
本発明の全芳香族ポリアミド繊維の製造方法において、前記紡糸原液が、前記溶媒の一部分は、前記全芳香族ポリアミドの一部分と、及び前記全芳香族ポリアミド部分100質量部に対して、30〜300質量部の層状粘土鉱物粒子とからなる溶液Aと、前記溶媒の残部及び全芳香族ポリアミドの残部とからなる溶液Bとを混合して調製され、かつ、下記要件(1)及び(2):
(1)溶液Aの、剪断速度0.1秒−1における粘度が、剪断速度10秒−1における粘度の15〜80倍であること、及び
(2)剪断速度0.1秒−1において、溶液Aの粘度が、溶液Bの粘度の4〜20倍であること
を満足する、ことが好ましい。
本発明の全芳香族ポリアミド繊維の製造方法において、前記紡糸原液中の全芳香族ポリアミドの濃度が、0.1〜30質量%であることが好ましい。
本発明の全芳香族ポリアミド繊維の製造方法において、前記湿式雰囲気中における前記未延伸繊維に対する延伸倍率が、その最大延伸倍率の0.3〜0.6倍の範囲内にあることが好ましい。
本発明の全芳香族ポリアミド繊維の製造方法において、前記溶媒が、アミド系極性溶媒から選ばれることが好ましい。
本発明の全芳香族ポリアミド繊維の製造方法において、前記全芳香族ポリアミドがメタ系全芳香族ポリアミドから選ばれることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の全芳香族ポリアミド繊維の一例の断面の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明に用いられる全芳香族ポリアミドは、その繰り返し単位の主骨格を構成する芳香環が、互にアミド結合により結合されてなるものであり、特にメタ系全芳香族ポリアミドから選ばれることが好ましい。このような全芳香族ポリアミドは、通常、芳香族ジカルボン酸ジハライドと、芳香族ジアミンとを、それらの溶液中において低温溶液重合、または界面重合することにより製造される。
本発明において使用されるジアミン成分は、例えばパラフェニレンジアミン、2−クロルパラフェニレンジアミン、2,5−ジクロルパラフェニレンジアミン、2,6−ジクロルパラフェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフォン、3,3’−ジアミノジフェニルスルフォン等の1種以上を含むものであることが好ましいが、これらに限定されるものではない。これらのジアミン化合物のなかで、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミンおよび3,4’−ジアミノジフェニルエーテルを用いることが好ましい。
また、本発明において使用される芳香族ジカルボン酸ジハライド成分は、例えばイソフタル酸ジクロライド、テレフタル酸ジクロライド、2−クロルテレフタル酸ジクロライド、2,5−ジクロルテレフタル酸ジクロライド、2,6−ジクロルテレフタル酸ジクロライド、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジクロライドなどの1種以上を含むものであることが好ましいが、これらに限定されるものではない。これら芳香族ジカルボン酸ジハライドのなかで、テレフタル酸ジクロライド及び/又はイソフタル酸ジクロライドを用いることが好ましい。
前記の全芳香族ポリアミドのなかで、ポリメタフェニレンイソフタルアミド、コポリパラフェニレン・3,4’−ジオキシジフェニレンテレフタルアミドを用いることが好ましく、特にポリメタフェニレンイソフタルアミドを用いることが好ましい。
全芳香族ポリアミドを重合して紡糸原液を調製する際に用いられる溶媒は、例えばN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン及びN−メチルカプロラクタム等の有機極性アミド系溶媒、テトラヒドロフラン及びジオキサン等の水溶性エーテル化合物、メタノール、エタノール及びエチレングリコール等の水溶性アルコール化合物、アセトン及びメチルエチルケトン等の水溶性ケトン化合物並びにアセトニトリル、及びプロピオニトリル等の水溶性ニトリル化合物等の少なくとも1種からなることが用いられるが、しかしこれらに限定されるものではない。前記溶媒は前記化合物の2種以上の混合液であってもよい。本発明方法に用いられる前記溶媒は、脱水されているものであることが好ましい。
この場合、溶解性をあげるために重合前、重合途中、または重合終了の時に、従来公知の無機塩の適当量を、重合混合液に添加しても差し支えない。このような無機塩としては例えば、塩化リチウム、塩化カルシウム等が挙げられる。
また、前記ジアミン成分と前記酸ハライド成分とから全芳香族ポリアミドを製造する際、これらのジアミン成分の酸ハライド成分に対するモル比が、0.90〜1.10にコントロールされることが好ましく、より好ましくは0.95〜1.05である。
本発明に用いられる全芳香族ポリアミドの分子末端は封止されていてもよい。この封止のために末端封止剤を用いる場合、この末端封止剤としては、例えばフタル酸クロライドおよびその置換体、アミン成分としてアニリンおよびその置換体が挙げられる。
一般に酸ハライドとジアミンの反対においては、生成するハロゲン化水素のような酸を捕捉するために、脂肪族アミン、芳香族アミン、及び第4級アンモニウム塩を併用することができる。
前記重合反応の終了後、必要に応じて塩基性の無機化合物、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、又は酸化カルシウム等を反応混合物中に添加してこれを中和反応する。
本発明の全芳香族ポリアミドの製造反応条件には特別な制限はない。酸ハライドとジアミンとの反応は一般に急速に進行し、反応温度は通常−25〜100℃であり好ましくは−10〜80℃である。
このようにして得られる全芳香族ポリアミドポリマーを、アルコール又は水などの非溶媒に投入して沈殿せしめ、パルプ状のフレークとして取り出すことができる。このポリマーフレークを再度溶媒に溶解してその溶液を湿式紡糸に供することもできるが、重合反応によって得た溶液を、そのまま紡糸用溶液として用いることもできる。再度溶解させる際に用いる溶媒としては、該全芳香族ポリアミドを溶解するものであれば特に限定はされないが、上記全芳香族ポリアミドの重合に使用される溶媒を用いることが好ましい。
次に、本発明で使用される層状粘土鉱物は、陽イオン交換能を有し、さらに層間に水を取り込んで膨潤する性質を示すものであり、好ましくはスメクタイト型粘土鉱物及び膨潤性雲母が用いられる。層状粘土鉱物を具体的に例示すれば、スメクタイト型粘土鉱物としてヘクトライト、サポナイト、スチブンサイト、バイデライト、モンモリロナイト(これらは天然のものであっても化学的に合成したものであってもよい)、およびこれらの置換体、誘導体、あるいは混合物を挙げることができる。また、膨潤性雲母としては、化学的に合成し、層間にLi、Naイオンを有する合成膨潤性雲母またはこれらの置換体、誘導体あるいは混合物を挙げることができる。
本発明では、上記層状粘土鉱物粒子を、有機オニウムイオンを含む表面処理剤(インターカレーティング剤)で処理したものを用いるのが好ましい。該有機オニウムイオンで処理することにより、得られる層状粘土鉱物粒子の全芳香族ポリアミド、マトリックス中における分散性が向上し、フィラメント形成性および得られる繊維の靭性因子を向上させることができる。
前記表面処理に使用される有機オニウムイオンは、下記式(1)

(R、R、RおよびRは、それぞれ独立に、炭素数1〜30のアルキル基または−(CHCHO)Hであらわされるヒドロキシポリオキシエチレン基である。)
で表される化学構造を有する第4級アンモニウムイオンから選ばれることが好ましい。ここでR、R、R及びRにより表される、炭素数1〜30のアルキル基の中でも、炭素数1〜18のアルキル基が好ましい。
好ましく使用される第4級アンモニウム化合物としては、例えばドデシルトリメチルアンモニウムクロライド、テトラデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロライド、オレイルトリメチルアンモニウムクロライド、ジドデシルジメチルアンモニウムクロライド、ジテトラデシルジメチルアンモニウムクロライド、ジヘキサデシルジメチルアンモニウムクロライド、ジオクタデシルジメチルアンモニウムクロライド、ジオレイルジメチルアンモニウムクロライド、ドデシルジエチルベンジルアンモニウムクロライド、テトラデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、オレイルジメチルベンジルクロライド、トリオクチルメチルアンモニウムクロライド、ヒドロキシポリオキシプロピレンメチルジエチルアンモニウムクロライド、ヒドロキシポリオキシエチレンドデシルジメチルアンモニウムクロライド、ヒドロキシポリオキシエチレンテトラデシルジメチルアンモニウムクロライド、ヒドロキシポリオキシエチレンヘキサデシルジメチルアンモニウムクロライド、ヒドロキシポリオキシエチレンオクタデシルジメチルアンモニウムクロライド、ヒドロキシポリオキシエチレンオレイルジメチルアンモニウムクロライド、ジヒドロキシポリオキシエチレンドデシルメチルアンモニウムクロライド、ビス(ヒドロキシポリオキシエチレン)テトラデシルメチルアンモニウムクロライド、ビス(ヒドロキシポリオキシエチレン)ヘキサデシルメチルアンモニウムクロライド、ビス(ヒドロキシポリオキシエチレン)オクタデシルメチルアンモニウムクロライド、およびビス(ヒドロキシポリオキシエチレン)オレイルメチルアンモニウムクロライド等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
層状粘土鉱物粒子の有機オニウムイオンによる処理方法としては、通常、層状粘土鉱物粒子1重量部と、有機オニウムイオン1〜10重量部とを水中で混合した後、この混合物を乾燥する方法が挙げられる。水の使用量は、層状粘土鉱物の1〜100倍であることが好ましい。また、混合するときの温度は、30〜70℃であることが好ましく、混合時間は0.5〜2時間であることが好ましい。乾燥条件としては、70〜100℃で3日間常圧乾燥し、2日間真空乾燥することが好ましい。
本発明の全芳香族ポリアミド繊維における層状粘土鉱物粒子の平均層厚さは、500nm以下であることが好ましい、特に200nm以下であることがより好ましい。なお、ここでいう層状粘土鉱物の平均層厚さとは、繊維の縦断面の電子顕微鏡測定(倍率10万倍)において断面積25μm中に観察される全ての層状粘土鉱物粒子について測定された層厚さの平均値である。層状粘土鉱物の平均層厚さが500nmよりも大きくなると、得られる樹脂組成物の製糸時の成形安定性を確保することが困難となることがある。一方、層状粘土鉱物粒子を分子レベルまで分散させようとすると、層状粘土鉱物粒子の増粘効果及び分散性を確保するために、紡糸原液の溶液濃度を低下させる必要があり、紡糸工程の生産効率が低下するだけでなく、得られる繊維の靭性に対する向上効果が小さくなる傾向がある。このため、層状粘土鉱物粒子の平均層厚さは、10nm以上であることが好ましく、特に12nm以上であることがより好ましい。また、本発明に用いられる層状粘土鉱物粒子のたて・よこ寸法は、(50〜1000nm)×(50〜1000nm)であることが好ましく、より好ましくは(100〜500nm)×(100〜500nm)である。
さらに、前記全芳香族ポリアミド繊維を、その繊維軸に沿って切断し、この縦断面を、電子顕微鏡により倍率10万倍で観察し、25μmの観察断面積S2当り、前記層状粘土鉱物粒子の影響によって、繊維断面の状態に変化が認められる複数個の領域の合計面積S1を測定したとき、下記式(1)によって規定される、前記層状粘土鉱物粒子の、前記繊維内における分散度Y:
Y(%)=(S1/S2)×100 (1)
が、0.1〜40の範囲内にあることが好ましく、0.5〜30であることがより好ましい。分散度Yが0.1未満であると、靭性因子の向上が小さいことがあり、また分散度Yが40を超えると、全芳香族ポリアミド、層状粘土鉱物粒子及び溶媒から調製される紡糸原液の透明性が低くなり、かつ成形性も低くなることがある。
前記顕微鏡観察において、繊維断面中に認められる繊維状態の変化は、当該断面領域中に分布している層状粘土鉱物粒子が、他の領域に比較して、高い分布密度をもって分布していることに起因するものである。本発明においては、このように、繊維の全芳香族ポリアミドポリマーマトリックス中に、層状粘土鉱物粒子の比較的分布密度の高い領域を散在分布させることにより、得られる繊維の靭性因子を、高め得ることが、初めて見出されたのである。層状粘土鉱物粒子の比較的分布密度の高い領域を、適度に散在分布させるためには、前記層状粘土鉱物の分散度Yを、0.1〜40の範囲内にコントロールすることによって達成することができる。
図1は、本発明の全芳香族ポリアミド延伸繊維の一例の断面を示すものである。図1において、繊維断面中に層状粘土鉱物の分布密度の高い複数の領域が、短繊維状に散在分布していることが認められる。前記短繊維状領域は繊維軸方向に沿って伸びている。
上述のように、繊維中に、層状粘土鉱物粒子の比較的高い分布密度を有する領域を散在分布させることにより、得られる繊維の靭性因子が向上する理由は、未だ十分には明らかではないが、このような高い分布密度で層状粘土鉱物粒子を含む領域は、それが延伸されたとき、層状粘土鉱物粒子と、全芳香族ポリアミドポリマー分子とによるネットワーク構造が形成され、さらに、このネットワーク構造が、延伸により繊維軸方向に沿って配向されるためと推測される。このような層状粘土鉱物粒子とポリマーとの配向したネットワーク構造の形成は、層状粘土鉱物粒子の含有量が、比較的少量であっても、靭性因子の向上に大きく寄与するものと思われる。
本発明においては、物性や製糸時の工程安定性を損なわない範囲で、全芳香族ポリアミドポリマー中に、層状粘土鉱物以外のフィラメントを併用することができる。用いられるフィラーとしては、繊維状もしくは、板状、鱗片状、粒状、不定形状、破砕品など非繊維状の充填剤が挙げられるが、特に非繊維状のものが好ましい。それを具体的に例示すれば、チタン酸カリウムウィスカー、チタン酸バリウムウィスカー、硼酸アルミニウムウィスカー、窒化ケイ素ウィスカー、マイカ、タルク、カオリン、シリカ、炭酸カルシウム、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラスマイクロバルーン、クレー、二硫化モリブデン、ワラステナイト、酸化チタン、酸化亜鉛、ポリリン酸カルシウム、グラファイト、金属粉、金属フレーク、金属リボン、金属酸化物、カーボン粉末、黒鉛、カーボンフレーク、鱗片状カーボンなどが挙げられる。さらには、全芳香族ポリアミド繊維の単糸繊度が大きい場合には、ガラス繊維、PAN系やピッチ系の炭素繊維、ステンレス繊維、アルミニウム繊維や黄銅繊維などの金属繊維、全芳香族ポリアミド繊維などの有機繊維、石膏繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、ジルコニア繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、酸化チタン繊維、炭化ケイ素繊維、ロックウール、金属リボンなども用いることができる。これらのフィラーは2種以上を併用してよい。
なお、上記のフィラーはその表面を公知のカップリング剤(例えば、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤など)、その他の表面処理剤で処理して用いることもできる。
本発明の全芳香族ポリアミド繊維においては、全芳香族ポリアミド100重量部に対し、層状粘土鉱物が0.05〜20重量部、好ましくは0.1〜10重量部、さらに好ましくは0.5〜5重量部の範囲で含まれている必要がある。層状粘土鉱物の含有量が該全芳香族ポリアミド100重量部に対して0.05重量部未満である場合には靭性因子の向上が見られず、一方20重量部を超える場合には層状粘土鉱物、全芳香族ポリアミドおよび溶媒からなる紡糸溶液の透明性が低くなり、成形性が乏しくなるので好ましくない。
また、繊維中の層状粘土鉱物は、その配向度Aが50%以上、好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上である場合、機械的物性(靭性因子)および熱寸法安定性などの諸物性が向上するので好ましい。なお、層状粘土鉱物粒子の配向度Aは、X線解析で測定した層状粘土鉱物粒子の001面反射ピークのデバイ環に沿って測定された強度分布から、下記式で求められるものである。
A=(180−w)/180×100
但し、式中wは、反射ピークのデバイ環に沿って測定された強度分布の半値幅(度)を表す。
本発明の全芳香族ポリアミド繊維は、層状粘土鉱物を含有していないことを除き、その他は、前記全芳香族ポリアミド繊維と全く同一の比較全芳香族ポリアミド繊維に比較して、引張り強さ(T)が10%以上向上していることが好ましく、また、伸び率(E)は10%以上向上していることが好ましい。さらには、靭性因子(TF)は10%以上、特に20%以上向上し、30以上の靭性因子を有していることが好ましい。なお、ここでいう靭性因子(TF)とは、グラム/デニールの単位で測定された引張り強さ(T’)と%単位で表される伸び率(E)の平方根と、の積、すなわちT’×(E)1/2で定義されるものである。
このように靭性因子が30以上に向上すると、繊維の強度を向上させるために延伸倍率をあげても繊維中の単糸切れが少なくなり(品質向上)、また延伸時の延伸ローラー等への単糸の巻付きが減少する(工程安定性の向上)。特に靭性因子の向上が10%以上となると、延伸工程の安定化効果が大きくなるので好ましい。
さらに、本発明の全芳香族ポリアミド繊維は、本発明の効果を損なわない範囲内で他の成分、例えば酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候剤、染料、帯電防止剤、難燃剤、導電剤、その他の添加剤を含有していてもよい。
本発明の全芳香族ポリアミド繊維は、例えば下記の方法により製造することができる。すなわち、(1)全芳香族ポリアミド、層状粘土鉱物および溶媒からなる紡糸原液(ドープ)を調整する工程、(2)前記紡糸原液を水性凝固浴中に紡出して凝固させる工程、(3)前記凝固糸を湿式雰囲気中で延伸する工程、及び(4)前記延伸糸を乾燥熱処理する工程により製造することができる。
紡糸原液中の全芳香族ポリアミドに対する層状粘土鉱物の配合割合は、前者100重量部に対して後者が0.05〜20質量部、好ましくは0.1〜10重量部、特に好ましくは0.5〜5質量部の範囲にコントロールされる。また、紡糸原液中のポリマー濃度は、0.1〜30質量%であることが好ましく、より好ましくは1〜25質量%であり、さらに好ましくは15〜25質量%である。さらに、紡糸原液のヘイズを10以下に調製することが好ましく、より好ましくは5以下である。
なお、紡糸原液を調製する方法には制限はなく、例えば(A)全芳香族ポリアミドの溶液に層状粘土鉱物を加える方法、(B)全芳香族ポリアミドの溶液と層状粘土鉱物の分散液とを混合する方法、及び(C)層状粘土鉱物の溶液に全芳香族ポリアミドを添加し分散する方法などがある。
本発明に用いられる紡糸原液を、全芳香族ポリアミドポリマー、層状粘土鉱物粒子及び溶媒から調製に際し、前記溶媒の一部分に、前記全芳香族ポリアミドポリマーの一部分、この全芳香族ポリアミドポリマー部分100質量部に対し、30〜300質量部の層状粘土鉱物粒子とからなる溶液(A)を調製し、別に、前記溶媒の残部と、前記全芳香族ポリアミドポリマーの残部とから溶液Bを調製し、前記溶液Aと前記溶液Bとを混合し、このとき、前記溶液A及び前記溶液Bが下記要件:
(1)溶液Aの、剪断速度0.1秒−1における粘度が、剪断速度10秒−1における粘度の15〜80倍であること、及び
(2)剪断速度0.1秒−1において、溶液Aの粘度が、溶液Bの粘度の4〜20倍であること
を満足するように、調製することが好ましい。
このようにすることにより、紡糸原液中に、層状粘土鉱物粒子の分布密度が比較的高い領域を均等に分散分布させることができ、紡糸工程が安定すると共に得られる繊維中の層状粘土鉱物粒子の分散度Yを所望値にコントロールして、得られる繊維の靭性因子向上効果を大きくすることができる。
ここで溶液A中の全芳香族ポリアミドに対する層状粘土鉱物の割合が30重量部未満になると溶液Bとの粘度差が小さくなり、得られる紡糸原液中に層状粘土鉱物が均一に分散されやすく靭性因子の向上効果が小さくなることがある。一方、それが300重量部を超えると層状粘土鉱物の分布密度が著しく不均一になりこのため紡糸工程の安定性が低下することがある。
また、剪断速度0.1秒−1における溶液Aの粘度が溶液Bの粘度の4倍未満になると、層状粘土鉱物が均一に分散しやすく、このため、層状粘土鉱物粒子の比較的大きな分布密度を有する領域の形成が少なくなり、靭性因子の向上効果が小さくなることがあり、一方それが20倍を超えると、紡糸工程において紡糸原液中の層状粘土鉱物粒子の比較的分布密度の高い領域の形成が過多になり、このため、パック圧上昇などを生じて、工程安定性が低下することがある。さらに、溶液Aの剪断速度0.1秒−1における粘度が、剪断速度10秒−1における粘度の15倍未満の場合には、層状粘土鉱物が繊維中に均一分散しやすく、このため、層状粘土鉱物粒子の比較的大きな分布密度を有する領域の形成が少なくなり、靭性因子の向上効果が小さくなり、一方それが20倍を超えると、紡糸工程において紡糸原液中の層状粘土鉱物粒子の比較的分布密度の高い領域の形成が過多になり、このため、工程安定性が低下することがある。
紡糸原液を調整するために使用する溶媒は、全芳香族ポリアミドを溶解するものであれば任意であるが、アミド系極性溶媒を主成分とするものを用いることが好ましい。その具体例としては、例えばN−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N−エチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホルアミド、N−メチルブチロラクタム等の非プロトン性アミド系有機溶媒があげられる。紡糸原液の温度は、全芳香族ポリアミドの溶解性に応じて適宜設定すればよいが、ポリメタフェニレンイソフタルアミドの場合には50〜90℃の範囲に設定することが紡糸性の点から好ましい。
本発明方法において、紡糸原液は、通常10〜30000個の吐出孔を有する紡糸口金から、フィラメント状に、例えば直接水性凝固浴中に紡出して凝固させて未延伸繊維を形成する。ここで使用する水性凝固浴の組成には特に制限はなく、用いられる全芳香族ポリアミドおよび溶媒の種類に応じて適宜選定すればよいが、従来公知の無機塩および/または溶媒を含有する水性凝固浴液を使用することができる。具体的には、全芳香族ポリアミドがポリメタフェニレンイソフタルアミドであり、かつ溶媒がN−メチル−2−ピロリドン(NMP)の場合、塩化カルシウム濃度が34〜42重量%、NMP濃度が3〜10重量%の水溶液が好ましいものとして例示される。この場合、水性凝固浴液の温度は80〜95℃の範囲が適当であり、凝固浴中への繊維の浸漬時間は1〜11秒の範囲が適当である。
凝固浴から引出された未延伸繊維には溶媒が相当量残留しているため、該未延伸繊維を水洗して残留溶媒を抽出除去することが好ましい。例えば、凝固浴から引出された未延伸繊維を水浴中に通す方法や、この未延伸繊維に水をスプレーする方法等が採用される。ここで、洗浄後の繊維中の溶媒含有率を30重量%以下にコントロールすることが好ましく、この範囲を越える場合には、次の延伸工程で繊維中に水が浸入しやすくなり、ボイドが生成して繊維強度が低下しやすくなる。
水洗された未延伸繊維は、湿式雰囲気中、好ましくは温水浴中にて、延伸され、それと同時に残留する溶媒、および必要に応じて併用されている塩化カルシウム等の無機塩が洗浄除去される。前記延伸における延伸温度は、未延伸繊維中に残留している溶媒の量に応じて、適宜に設定する。例えば、溶媒残留量が、ポリマー質量に対して、50%以上の場合には、延伸温度を0〜50℃にコントロールすることが好ましく、また、溶媒残留量が、ポリマー質量に対して50%未満の場合には、延伸温度を50〜100℃にコントロールすることが好ましい。また延伸倍率は、好ましくは1.05倍以上、より好ましくは1.10倍以上、さらに好ましくは未延伸繊維の最大延伸倍率(同一の延伸条件で延伸した際に断糸が発生し始める延伸倍率)の0.3〜0.6倍の範囲にコントロールされる。
得られた延伸繊維は、通常100℃以上の温度で乾燥され、次いで必要に応じてさらに熱延伸された後、加熱ローラ、熱板等により熱処理される。
このようにして得られた全芳香族ポリアミド繊維は、必要に応じてトウとして収缶され、或は巻き取られ、或は直接後工程に送られ、また必要により捲縮を付与された後に、カットされ、短繊維として、その後の所望の工程に提供される。
【実施例】
以下、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明する。なお、実施例中における各特性値は下記の方法で測定した。
〈固有粘度IV〉
供試ポリマーを、NMP中に0.5g/100mlの濃度で溶解し、この溶液の粘度をオストワルド粘度計を用い、30℃で測定し、この測定値から固有粘度を算出した。
〈粘度〉
紡糸原液の粘度を、レオメトリックサイエンティフィック社製粘度計(商標:レオマット115)を用いて、70℃で測定した。
〈繊度〉
JIS−L−1015に準じ、測定した。
〈引張り強さ、伸び率〉
JIS−L−1015に準じ、試料長20mm、初荷重0.05g/dtex、伸張速度20mm/分で測定した。
〈層状粘土鉱物の配向度A〉
X線発生装置(理学電機社製RU−200B)を用い、ターゲットCuKα線、電圧45kV、電流70mAの条件にて測定した。入射X線は、オスミック社製多層膜ミラーにより集光および単色化し、繊維試料を垂直透過法で測定した。回折X線の検出は大きさ200mm×250mmのイメージングプレート(富士写真フィルム製)を用い、カメラ長250mmの条件で測定した。粘土層面の配向度Aは、001面反射ピークのデバイ環に沿って測定された強度分布から、下記式で求めた。
A=(180−w)/180×100
但し、式中wは、反射ピークのデバイ環に沿って測定された強度分布の半値幅(度)である。
〈紡糸原液のヘイズ〉
日本電色工業(株)製 濁度計NDH2000を用い光路長1cmのセル中に充填された紡糸原液のヘイズを測定した。
〈層状粘土鉱物粒子の平均層厚さ〉
日立製作所製電子顕微鏡H−800を用いて測定した繊維縦断面の透過型電子顕微鏡写真(TEM写真、倍率10万倍)の断面積25μm中に観察される全ての層状粘土鉱物粒子の層厚さを計測し、その平均値を算出した。
〈層状粘土鉱物の分散度(Y)〉
前記全芳香族ポリアミド繊維を、その繊維軸に沿って切断し、この縦断面を、日立製作所製透過型電子顕微鏡(モデル:H−800)により倍率10万倍で観察し、25μmの観察断面積S2当り、前記層状粘土鉱物粒子の影響によって、繊維断面の状態に変化が認められる複数個の領域の合計面積S1を測定したとき、下記式(1)によって規定される、前記層状粘土鉱物粒子の、前記繊維内における分散度Yを、下記式により算出した。
Y(%)=(S1/S2)×100
なお、上記を三回測定しその平均値を求めた。
〈溶液の剪断粘度〉
紡糸原液調整時の溶液の剪断粘度は、レオメトリックサイエンティフィック社のレオマット115を用い、温度70℃で測定した。
〈繊維中の含有溶媒量N〉
延伸前の繊維を遠心分離機(回転数5000rpm)に10分かけ、次いでこの繊維をメタノール中で4時間煮沸し、繊維中の溶媒および水を抽出する。抽出後のメタノール溶液重量M2および繊維の乾燥重量M1を測定し、抽出液中の溶媒重量濃度C(%)をガスクロマトグラフにより求め、含有溶媒量Nを下記式より算出した。
N=(C/100×M2)/M1×100
〈単繊維切れ数〉
得られた延伸繊維を複数本引き揃えて繊維束となし、該繊維束の片端を固定し、固定部から他端の長さが20cmになるよう切断する。この時の繊維束のフィラメント総数をHとする。次にこの繊維束を水で満たしたバス(縦幅0.5m)中にて縦方向に10往復させた後に該繊維束を引き上げ、バスに残った単糸をカウントする。この操作を5回繰り返しその合計をMとする。15000m中の単繊維切れ数(X)を、下記式より算出し、これを3回より繰り返し平均値を求めた。
X=M×15000/(H×T×0.2)
[実施例1]
固有粘度1.35dl/gのポリメタフェニレンイソフタルアミド215gをNMP785gに溶解し、均一透明ドープになるまで攪拌した。別に、層状粘土鉱物として、ポリオキシプロピレンメチルジエチルアンモニウムクロライドで処理されたスメクタイト型粘土鉱物(商標:ルーセンタイトSPN、コープケミカル製)を、1重量%の濃度になるようにNMPに混合して分散させた。得られた層状粘土鉱物分散液を、表1記載の組成になるように、上記全芳香族ポリアミド溶液に添加し、攪拌して紡糸原液(ドープ)を調製した。得られたドープのヘイズは、2.41であった。得られたドープを脱泡した後、これをキャップ径0.07mm、孔数100ホールの口金からフィラメント状に、押出し、85℃の43%塩化カルシウム水溶液(1質量%のNMP含有)からなる凝固浴に導入して、紡糸速度7m/分で凝固させ、水洗後、得られた未延伸繊維を沸水中で2.4倍に延伸し、さらに120℃で乾燥後、350℃において1.75倍の延伸熱セットを施した。層状粘土鉱物を含有する全芳香族ポリアミド繊維を得た。単繊維の縦断面をTEM測定したところ、層状粘土鉱物粒子の平均の層厚さは90nmであった。またX線回折結果から得られた層状粘土鉱物粒子の配向度Aは91%であった。得られた繊維の引張り強さ、伸び率、及び靭性因子(TF)を表1に示す。
[実施例2]
実施例1と同様にして、表1記載の組成を有する全芳香族ポリアミド繊維を製造した。但し、層状粘土鉱物として、トリオクチルメチルアンモニウムクロライドで処理されたスメクタイト型層状粘土鉱物(商標:ルーセンタイトSTN、コープケミカル製)を使用した。この時の紡糸原液のヘイズは1.92であった。また、層状粘土鉱物粒子の平均の層厚さは86nmであり、配向度Aは91%であった。得られた繊維の引張り強さ、伸び率、及び靭性因子(TF)を表1に示す。
比較例1
実施例1と同様にして、全芳香族ポリアミド繊維を製造した。但し、層状粘土鉱物を含ませなかった。得られた繊維の引張り強さ、伸び率、及び靭性因子(TF)を表1に示す。

[実施例3]
固有粘度1.9dl/gのポリメタフェニレンイソフタルアミド0.16質量部を、NMP1.46質量部に溶解し、均一透明ドープになるまで攪拌した。このドープに、層状粘土鉱物として、ポリオキシプロピレンメチルジエチルアンモニウムクロライドで処理されたスメクタイト型層状粘土鉱物(商標:ルーセンタイトSPN、コープケミカル製)0.18質量部を添加し、攪拌してポリマー溶液Aを調製した。別に、ポリメタフェニレンイソフタルアミド17.44質量部をNMP63.68重量部に溶解し、透明なポリマー溶液Bを調製した。
前記ポリマー溶液Aとポリマー溶液Bとを混合攪拌後、この混合液にさらにNMP17.08質量部を加えて、それによってポリメタフェニレンイソフタルアミド17.60質量部、ルーセンタイトSPN(商標)0.18質量部、及びNMP82.22質量部からなる紡糸原液を調製した。
この紡糸原液を85℃に加温し、孔径0.07mm、孔数1500の紡糸口金からフィラメント状に押し出し、85℃の凝固浴中に導入して未延伸繊維を作製した。前記凝固浴の組成は、塩化カルシウム:40質量%、NMP:5質量%、水:55質量%であり、浸漬長(有効凝固浴長)は100cmであり、未延伸繊維を速度7.0m/分で通過させた後、いったん空気中に引き出した。この凝固した未延伸フィラメントを第1〜第3水性洗浄浴中において順次に水洗した。この水洗における総浸漬時間は50秒であった。なお、第1〜第3水性洗浄浴には、温度30℃の水を用いた。次に、この洗浄未延伸フィラメントを95℃の温水中にて2.4倍に延伸し、引続き95℃の温水中に48秒浸漬して洗浄後、表面温度130℃のローラーに巻き回して乾熱処理した後、表面温度330℃の熱板に接触させながら1.75倍に延伸して、ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を製造した。その繊度は2.26dtexであり、引張り強さは5.16cN/dtexであり、伸び率は43.2%であった。
上記温水延伸工程における最大延伸倍率は4.7(延伸倍率/最大延伸倍率=0.51)であり、延伸前の溶媒含有量は全芳香族ポリアミド100重量部に対して5.0質量部であった。
また、上記紡糸延伸工程における単繊維切れ数は、長さ15000mあたり6本であり、層状粘土鉱物の分散度Yは3%であった。テスト結果を表2に示す。
[実施例4]
実施例3と同一のポリメタフェニレンイソフタルアミド粉末0.32質量部を、−10℃に冷却されたNMP6.46質量部中に溶解して透明なポリマー溶液を調製した。これに層状粘土鉱物として、スメクタイト型粘土鉱物(商標:ルーセンタイトSPN、コープケミカル製)0.72質量部を添加し、攪拌してポリマー溶液Aを調製した。別に、ポリメタフェニレンイソフタルアミド粉末13.28質量部を、−10℃に冷却されたNMP48.49重量部中に溶解し、透明なポリマー溶液Bを調製した。
前記ポリマー溶液Aとポリマー溶液Bとを混合し攪拌後、この混合液にさらにNMP30.73質量部を加え、それによってポリメタフェニレンイソフタルアミド17.60質量部と、ルーセンタイトSPN(商標)6.80質量部と、NMP75.6質量部からなる紡糸原液が得られた。
前記紡糸原液を、実施例3と同様の条件・操作による紡糸及び延伸に供し、単繊維繊度2.18dtex、引張り強さ6.03cN/dtex、伸び率45.3%のポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を製造した。
前記紡糸延伸工程における単繊維切れ数は、長さ15000mあたり10本であり、層状粘土鉱物の分散度Yは25%であった。テスト結果を表2に示す。

[実施例5]
実施例3と同様の条件・操作により紡糸及び延伸を行った。但し、実施例3と同一の紡糸原液を用いたが、温水延伸倍率は2.8倍であり、330℃熱板延伸倍率は1.50倍であった。単繊維繊度2.22dtex、引張り強さ5.49cN/dtex、伸び率40.7%のポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維が得られた。
前記温水延伸工程における最大延伸倍率は4.7(延伸倍率/最大延伸倍率=0.60)であり、繊維の延伸前の溶媒含有量は、全芳香族ポリアミド100質量部に対して5.0質量部であった。
またこの繊維の単繊維切れ数は15000mあたり8本であった。テスト結果を表3に示す。
[実施例6]
実施例3と同様の条件・操作により紡糸、延伸を行った。但し、実施例3の紡糸原液を用いたが、温水延伸前の水洗時間を34秒とした。単繊維繊度2.21dtex、引張り強さ6.12cN/dtex、伸び率48.3%、の繊維が得られた。
前記温水延伸工程での最大延伸倍率は4.9(延伸倍率/最大延伸倍率=0.49)であり、延伸前の繊維の含有溶媒量は全芳香族ポリアミド100質量部に対して14.0質量部であった。
また前記紡糸・延伸工程における繊維の単繊維切れ数は15000mあたり2本であった。テスト結果を表3に示す。

産業上の利用の可能性
本発明の全芳香族ポリアミド繊維は、従来の層状粘土鉱物を含有していないものと比較して、機械的強度、伸度および靭性因子が向上しているので、これらの特性を生かした各種用途に好適に使用することができる。また、本発明の製造方法によれば、紡糸延伸時の単繊維切れの発生が少なく、安定した品質の繊維を、工業的に安定して製造することができる。
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
全芳香族ポリアミドポリマーからなるマトリックスと、その100質量部に対して0.05〜20質量部の割合で、前記マトリックス中に分散分布している層状粘土鉱物粒子とを含有する樹脂組成物を含むことを特徴とする、延伸配向された全芳香族ポリアミド繊維。
【請求項2】
前記全芳香族ポリアミドマトリックス中に、前記層状粘土鉱物粒子の分布密度が比較的高い複数の領域が散在分布している、請求の範囲第1項に記載の全芳香族ポリアミド繊維。
【請求項3】
前記全芳香族ポリアミド繊維を、その繊維軸に沿って切断し、この縦断面を、電子顕微鏡により倍率10万倍で観察し、25μmの観察断面積S2当り、前記層状粘土鉱物粒子の影響によって、繊維断面の状態に変化が認められる複数個の領域の合計面積S1を測定したとき、下記式(1)によって規定される、前記層状粘土鉱物粒子の、前記繊維内における分散度Y:
Y(%)=(S1/S2)×100 (1)
が、0.1〜40の範囲内にある、請求の範囲第1又は2項のいずれか1項に記載の全芳香族ポリアミド繊維。
【請求項4】
前記層状粘土鉱物が、ヘクトライト、サポナイト、スチブンサイト、バイデライト、モンモリロナイト、及び膨潤性雲母から選ばれた少なくとも1種を含む、請求の範囲第1〜3項のいずれか1項に記載の全芳香族ポリアミド繊維。
【請求項5】
前記層状粘土鉱物粒子が、インターカレート剤による処理を施されたものである、請求の範囲第1〜3項のいずれか1項に記載の全芳香族ポリアミド繊維。
【請求項6】
前記層状粘土鉱物粒子の平均層厚さが10〜500nmである、請求の範囲第1〜3項のいずれか1項に記載の全芳香族ポリアミド繊維。
【請求項7】
前記層状粘土鉱物粒子の、下記式(2)によって規定される配向度A:
A(%)=〔(180−w)/180〕×100 (2)
(但し、式(2)中、前記層状粘土鉱物粒子のX線解析において、前記層状粘土鉱物粒子の(001)面の反射ピークのデバイ環に沿って測定された強度分布の半値幅を表す)
が50%以上である、請求の範囲第1〜3項のいずれか1項に記載の全芳香族ポリアミド繊維。
【請求項8】
前記全芳香族ポリアミド繊維の引張り強さ(T)の、前記層状粘土鉱物粒子を含有していないことを除き、その他は前記全芳香族ポリアミド繊維と全く同一の比較全芳香族ポリアミド繊維の引張り強度(To)に対する比(T/To)が1.1以上である、請求の範囲第1〜3項のいずれか1項に記載の全芳香族ポリアミド繊維。
【請求項9】
前記全芳香族ポリアミド繊維の伸び率(E)の、前記層状粘土鉱物粒子を含有していないことを除き、その他は前記全芳香族ポリアミド繊維と全く同一の比較全芳香族ポリアミド繊維の引張り伸び率(Eo)に対する比(E/Eo)が、1.1以上である、請求の範囲第1〜3項のいずれか1項に記載の全芳香族ポリアミド繊維。
【請求項10】
前記全芳香族ポリアミドの下記式(3)により規定される靭性因子(TF):
TF=T’×E’1/2 (3)
(上記式(3)において、T’は前記全芳香族ポリアミド繊維のg/1.1dtex単位における引張り強さの数値を表し、E’は前記全芳香族ポリアミド繊維の%単位における伸び率の数値を表す)
が30以上である、請求の範囲第1〜3項のいずれか1項に記載の全芳香族ポリアミド繊維。
【請求項11】
前記全芳香族ポリアミド繊維の靭性因子(TF)の、前記層状粘土鉱物粒子を含有していないことを除き、その他は前記全芳香族ポリアミド繊維とすべて同一の比較全芳香族ポリアミド繊維の靭性因子(TFo)に対する比(TF/TFo)が、1.1以上である、請求の範囲第10項に記載の全芳香族ポリアミド繊維。
【請求項12】
前記層状粘土鉱物粒子が、その層間に有機オニウムイオンを有する請求の範囲第1〜3項のいずれか1項に記載の全芳香族ポリアミド繊維。
【請求項13】
全芳香族ポリアミドが、メタ系全芳香族ポリアミドから選ばれる、請求の範囲第1〜3項のいずれか1項に記載の全芳香族ポリアミド繊維。
【請求項14】
溶媒と、全芳香族ポリアミドと、前記全芳香族ポリアミド100質量部に対して0.05〜20質量部の層状粘土鉱物粒子とを含む紡糸原液を、紡糸口金を通して水性凝固浴中に繊維状に押し出して紡出し、前記押し出された繊維状原液流を凝固せしめ、得られた未延伸繊維を湿式雰囲気中で延伸し、得られた延伸繊維を乾燥熱処理することを特徴とする、延伸配向された全芳香族ポリアミド繊維の製造方法。
【請求項15】
前記紡糸原液が、前記溶媒の一部と、前記全芳香族ポリアミドの一部と及び該全芳香族ポリアミド部分100質量部に対して、30〜300質量部の層状粘土鉱物粒子とからなる溶液Aと、前記溶媒の残部及び前記全芳香族ポリアミドの残部とからなる溶液Bとを混合して調製され、かつ、下記要件(1)及び(2):
(1)溶液Aの剪断速度0.1秒−1における粘度が、剪断速度10秒−1における粘度の15〜80倍であること、及び
(2)剪断速度0.1秒−1において、溶液Aの粘度が、溶液Bの粘度の4〜20倍であること
を満足する請求の範囲第14又は15項に記載の全芳香族ポリアミド繊維の製造方法。
【請求項16】
前記紡糸原液中の全芳香族ポリアミドの濃度が0.1〜30質量%である、請求の範囲第14又は15項に記載の全芳香族ポリアミド繊維の製造方法。
【請求項17】
前記湿式雰囲気中における前記未延伸繊維に対する延伸倍率が、その最大延伸倍率の0.3〜0.6倍の範囲内にある、請求の範囲第14又は15項に記載の全芳香族ポリアミド繊維の製造方法。
【請求項18】
前記溶媒が、アミド系極性溶媒から選ばれる、請求の範囲第14又は15項に記載の全芳香族ポリアミド繊維の製造方法。
【請求項19】
前記全芳香族ポリアミドが、メタ系全芳香族ポリアミドから選ばれる、請求の範囲第14又は15項に記載の全芳香族ポリアミド繊維の製造方法。

【国際公開番号】WO2005/026418
【国際公開日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【発行日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−513982(P2005−513982)
【国際出願番号】PCT/JP2004/013693
【国際出願日】平成16年9月13日(2004.9.13)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】