説明

全部または一部が不活性化した煙道ガス脱窒用触媒を洗浄およびまたは再生する方法

【課題】
不活性化した触媒の表面におけるガス拡散を再びに可能にし、触媒毒による活性中心の閉塞をできるだけ元に戻す処理を、触媒を取外さないで脱窒設備内で実施すること。
【解決手段】
触媒が洗浄液または再生液によって処理される、煙道ガスを脱窒するための、全部または一部が不活性化した触媒を洗浄およびまたは再生する方法であって、不活性化した触媒を脱イオン水を含む洗浄液または再生液で処理することによって、触媒から、煙道ガスの触媒への拡散を妨害する表面層を除去することを特徴とする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒が洗浄液または再生液によって処理される、煙道ガスを脱窒するための、全部または一部が不活性化した触媒を洗浄およびまたは再生する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
このような触媒はSCR触媒(選択接触還元触媒)とも呼ばれる。この触媒の不活性化には多くの異なる原因がある。特に、
ハニカムまたは触媒自由空間の閉塞。それによって、煙道ガスは触媒に達せず、閉塞された触媒通路は触媒作用のための利用されない。取付けられた触媒材料をできるだけ効率的に利用するために、ハニカム通路またはプレート通路の閉塞を、DENOX 設備の蒸気吹き付け器のような洗浄手段によってまたは手動洗浄によって低減する試みがなされる。それにもかかわらず、時が経つにつれて、触媒の若干のハニカムまたは自由空間が閉塞する。若干の設備の場合には、触媒モジュールが取り外され、適当な振動装置上に置かれる。振動によって閉塞物が剥がれる。これにより、煙道ガスが再び触媒材料に接近するようになる。この活性の向上は、再生ではなく、閉塞した触媒材料への単なる接近を可能にする。運転中形成される表面層は、この洗浄手段では手つかずである。
【0003】
約1〜100μmの薄い表面層の成長および細孔の閉塞による、触媒壁表面におけるガス拡散の低下。それによって、煙道ガスが触媒材料の細孔に達しにくくなるかまたはもはや全く達しない。薄い表面層の形成は、触媒材料内へのガス拡散が非常に妨げられることにより、NOx NH3 からN2,H2Oへの化学的な変換を悪化させる。
【0004】
いわゆる触媒毒、例えばAs,K,Na の堆積による、触媒の表面の活性触媒中心部の閉塞。触媒の活性中心部における、例えば砒素のような触媒毒の堆積は、この中心部における反応を不可能にし、これにより同様に触媒材料の活性を低下させることになる。
【0005】
例えばフライアッシュのような、煙道ガスに含まれる固体による触媒材料の摩耗。触媒材料の損失によって触媒材料が減少し、それに伴い反応に供される表面が減少する。触媒材料の摩耗は不可逆である。それによって、永久的な活性損失が生じる。フライアッシュによる摩耗の際同時に、次のプロセスが生じる。
【0006】
触媒材料と既存の表面層の除去。
【0007】
フライアッシュの成分の残留およびそれに伴う、新しいガス拡散妨害表面層の形成。
【0008】
ドイツ連邦共和国特許第3816600号公報には、砒素で汚染した触媒を再生する方法が記載されている。この方法は、ガス拡散を妨げる表面層による不活性化を考慮していない。ドイツ連邦共和国特許第3816600号公報の方法の場合には、洗浄懸濁液として、硝酸水溶液、塩酸水溶液、硫酸水溶液または酢酸水溶液が使用される。この洗浄懸濁液は高価であり、砒素で汚染した酸の廃棄処理にコストがかかるという欠点がある。
【0009】
ヨーロッパ特許第0136966号公報には、先ず最初に乾燥蒸気によって、表面に付着した塵埃を除去する方法が記載されている。そして、第2のステップで、触媒毒が水分≦0.4 を含む湿り蒸気によって溶解され、洗い流される。乾燥は再び乾燥蒸気によって行われる。ヨーロッパ特許第0136966号公報記載の方法の場合には、第1のステップで、ガス拡散を妨害する薄い層が除去されず、閉塞し利用されない通路だけが開放される。これは、いわゆる塵埃吹きまたは煤吹きの形で既に以前から工場規模で実施されている。この方法の第2のステップは、ガス拡散を妨害する層が存在しないかあるいは表面全体に存在しない触媒の場合にのみ、活性を高める作用をする。更に、多量の乾燥蒸気と湿り蒸気の発生は非常に多くのエネルギーを必要とする。
【0010】
特開昭63−147155号公報には、不活性化した触媒の再生方法が記載されている。この方法では、触媒が取り外され、籠に入れられる。この籠は再生処理タンク内で吊り下げられる。このタンク内には再生液流が存在する。再生液は水中の研磨粉末の懸濁液または酸性の洗浄液からなっている。
【0011】
特開昭52−027091号公報には、能力が低下した触媒を水または希釈された水性の無機酸で処理する再生方法が記載されている。
【0012】
米国特許第4,210,628号明細書には、金属触媒添加物(W,Mo,V,Cu等)を含む粉末状または顆粒状の活性炭からなる脱窒触媒が記載されている。硫酸アンモニウム生成による触媒活性の低下の際、約350°CのN2を触媒製品を通過させるかまたは約80°Cの高温水で触媒製品が洗浄され一つのカラムに充填された粉末状の触媒製品が再生される。
【0013】
ドイツ連邦共和国特許第3020698号公報には、不活性物質を所定の圧力と所定の温度で除去する、触媒を再活性化する方法が記載されている。その際、方法を最適化するために、例えばメタン、プロパン、二酸化炭素またはアルゴンのようないろいろなガスを添加することができる。この方法は、ガス拡散を妨害する表面層を考慮していない。
【0014】
上記のほとんどの方法の大きな欠点は、別の設備でしか実施できないということにある。更に、触媒の取外し、従って設備の停止を必要とする。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
そこで、本発明の課題は、触媒の表面におけるガス拡散を再びに可能にし、更に、触媒毒による活性中心の閉塞を、できるだけ元にもどし、触媒を取外さないで脱窒設備内で実施できるように、上記種類の方法を改良することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この課題は、不活性化した触媒を処理するための洗浄液または再生液として、脱イオン水(Deionat)が使用されることによって解決される。
【0017】
本発明の作用は、ガス拡散を回復させ、触媒表面における脱窒反応の活性中心部を開放するために、表面層を溶解させて除去することにある。その際、液体の組成は、再生懸濁液の少ない消費で、表面層のできるだけ迅速な溶解が達成されるように選択される。SCR触媒の再生の場合には、表面層の溶解のために、脱塩水すなわち脱イオン水(Deionat)を使用すると、驚くほど効果があることが判った。洗浄液として脱塩水を使用すると、触媒毒が洗浄液と共に入り込むことが防止される。脱塩水は他の液体と比べて、比較的に低コストであり、ほとんどの発電所現場で製造可能であるという利点がある。触媒洗浄および再生は周囲温度で機能するので、液体を加熱するためのエネルギーは不要である。この方法により、廃棄すべき不活性化した触媒の数を大幅に減らすことができる。この方法は特に、窒素酸化物を低減するための大型設備、いわゆるDENOX 設備において、使用済みの不活性化した触媒を取り外さないで触媒を再生するために、すなわち低下した触媒活性を再び高めるために適している。
【0018】
この方法の有利な実施態様では、堆積物を吸い出したり吹き飛ばしたりすることによって、触媒を先ず最初に機械的に洗浄し、その後洗浄サイクルで処理する。この洗浄サイクルは再生懸濁液によって表面層を除去し、活性中心部の閉塞部材を充分に溶解する。再生懸濁液消費にとって、再生懸濁液の少量だけを連続的に抜き出し、新しい再生懸濁液に置き換え、大部分は循環運転で使用すると有利であることが判った。
【0019】
洗浄水を低減するための付加的な方法では、表面層だけを除去する適当なブラスト材が入れられる。この方法は同様に、脱窒設備内で行うことができる。ガス拡散を妨害する表面層の成分を含むブラスト材(例えばガラス小球)は、電気集塵装置のフライアッシュと一緒に利用可能である。
【0020】
本発明の他の有利な実施形態は従属請求項に記載してある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
次に、添付の図を参照して、適切な再生装置の使用のための実施の形態を詳しく説明する。
【0022】
図1は表面層を有する触媒細路の構造を概略的に示す図、
図2は図1の部分拡大図、
図3はDENOX 設備内の触媒を洗浄するためのフローチャート、
図4はブラスト材による触媒洗浄の概略的な図である。
【0023】
図1,2は触媒6の触媒細路60の断面を拡大して示している。細孔61を有するハニカム状の触媒の触媒細路60が図示してある。運転時間が経過するにつれて、約1〜100μmの厚さの表面層62が成長する。この表面層は厚さが増すにつれて、触媒材料特に細孔61内への浄化すべき煙道ガスの拡散を益々妨害する。
【0024】
本発明の実施の形態は図3に示した方法フローチャートから明らかになる。
【0025】
容器11には、管路1から、脱塩された水、例えば発電所の脱塩設備の脱塩水(脱イオン水)が充填される。管路2,3から、洗浄液添加物、例えばバナジウム、モリブデンまたはタングステンのような再生物質を供給することができる。ポンプ4は管路5を経て再生懸濁液をDENOX 設備17に供給する。このDENOX 設備では、触媒6が洗浄される。適当な受け装置例えばホッパーと、ポンプ7とを経て、洗浄液は表面層の内容物および触媒毒と共に、分離装置8に案内される。この分離装置において、内容物は適切な方法で洗浄液から分離される。この分離装置としては例えばハイドロサイクロンが適している。しかし、フィルタ等でもよい。分離装置8の固体を多く含む下側流は、ポンプ16を経て沈降容器9に供給される。この沈降容器9内では、固体成分が更に濃縮され、管路10を経て分流として排出され、そして図示していない適当な廃水処理部に供給される。沈降容器9の溢流と分離装置8の上流は、管路12,13とポンプ14,15を経て容器11に供給される。
【0026】
この構造は適当な沈澱装置によって拡張可能である。この沈澱装置は例えば触媒毒、砒素のような溶けた有害物質を沈澱させるので、この有害物質は分離装置8を経て分離され、洗浄液から排出される。これにより、洗浄液または再生液は回路内循環案内され、1回の循環あたり、濃縮された有害物質を含む一定分量の液体だけがこの回路から排出される。この分量は管路1,2,3から補充される。
【0027】
他の実施の形態では、触媒6の下方で触媒ハニカムまたは反応器が閉鎖される。その後、触媒6に洗浄液または再生液が充填される。再生液に浸す際、先ず最初にガス拡散を妨げる表面層が溶解する。触媒細孔内で、触媒毒が触媒表面の活性中心部から溶解し、触媒表面へ再生液内を移動する。触媒細孔内の再生液とハニカム通路内の再生液の間の濃度勾配によって、溶解した触媒毒はハニカム通路に移動する。所定の時間経過後、再生液はガス拡散を妨げる表面層成分および触媒毒と共に排出される。続いて、触媒が煙道ガスまたは高温空気によって乾燥される。この実施の形態の利点は再生液の消費が少ない点にある。
【0028】
上記の実施の形態に補足して、触媒の再生を乾燥に直接結びつけて行うことができる。大型の脱窒設備の場合、触媒6内にまだ数トンの再生液が残り得る。触媒モジュールを収容するための鋼構造体はこの付加的な重量を考慮して設計しなければならない。若干の設備の場合、これは考慮されていない。従って、一部区間の再生の後すぐに、この区間の乾燥を行われなければならない。その際、一つの装置において、触媒6が先ず最初に上述のように再生される。この再生に続いて、再生された区間が高温空気または高温ガスによって乾燥される。それによって、触媒6内に残る再生懸濁液が蒸発し、排出される。
【0029】
図4は、触媒6の表面層62を除去する補足的な方法を概略的に示している。表面層62を機械的に除去するために、ブラスト材63、例えば砂またはガラスが使用される。ブラスト材63は管64等によって触媒6の表面65に吹き付けられる。表面層の一部によって汚れたブラスト材66は触媒6から吹き出されるかまたは洗浄液による洗浄の際に洗い流される。
実施例:
本発明は使用済みの不活性化した触媒でテストされた。その際、全長が840mm
で辺の長さが150 ×150mm の不活性化した触媒要素がDENOX 設備から取り外され、上記再生方法によって処理された。脱塩水による再生の前に、触媒要素を試験スタンド上で検査した。そして、5分間にわたって触媒要素を脱塩水によって洗浄し、続いて高温空気で乾燥した。次の表から判るように、NOX 分離率は0.8 〜1.2 のモル比NH3/NOX 全体にわたって、約5〜6%向上した。
【0030】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】表面層を有する触媒細路の構造を概略的に示す図である。
【図2】図1の部分拡大図である。
【図3】DENOX 設備内の触媒を洗浄するためのフローチャートである。
【図4】ブラスト材による触媒洗浄の概略的な図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒が洗浄液または再生液によって処理される、煙道ガスを脱窒するための、全部または一部が不活性化した触媒を洗浄およびまたは再生する方法であって、不活性化した触媒を脱イオン水を含む洗浄液または再生液で処理することによって、触媒から、煙道ガスの触媒への拡散を妨害する表面層を除去することを特徴とする方法。
【請求項2】
洗浄液または再生液が回路内を循環案内され、触媒の下流で一部流れが排出され、新しい洗浄液または再生液が補充されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記洗浄液または再生液が加熱されないで使用されることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項4】
洗浄液または再生液に、少なくとも一つの触媒的に活性な成分が添加されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の方法。
【請求項5】
洗浄液または再生液が脱窒設備内を案内され、そこで不活性化した触媒が取り外さないで処理されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
触媒が洗浄液または再生液で洗浄され、この液体が捕集され、分離装置に供給されることを特徴とする請求項5記載の方法。
【請求項7】
触媒が洗浄液または再生液に浸されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一つに記載の方法。
【請求項8】
触媒ハニカムまたは脱窒反応器の下側で閉鎖され、洗浄液または再生液が触媒に充填されることを特徴とする請求項7記載の方法。
【請求項9】
飛塵を除去するための既存の蒸気または空気吹き付け装置が、洗浄液または再生液を供給するために使用されることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一つに記載の方法。
【請求項10】
洗浄液または再生液による処理の前に、触媒が機械的に洗浄されることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一つに記載の方法。
【請求項11】
洗浄液または再生液による処理の前に、塵埃堆積物が手動で除去されるか、若しくは吹き出し装置または排気装置のいずれかひとつによって除去されることを特徴とする請求項10記載の方法。
【請求項12】
触媒表面がブラスト材によって処理されることを特徴とする請求項10または11記載の方法。
【請求項13】
洗浄液または再生液による処理の後で、触媒が空気または煙道ガスによって乾燥させられることを特徴とする請求項1〜12のいずれか一つに記載の方法。
【請求項14】
触媒の一部の区間が洗浄液または再生液によって処理された後すぐに当該区間の乾燥が行われることを特徴とする請求項13記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−119695(P2008−119695A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−31690(P2008−31690)
【出願日】平成20年2月13日(2008.2.13)
【分割の表示】特願平10−505588の分割
【原出願日】平成9年7月10日(1997.7.10)
【出願人】(508014006)エネルギー‐フェルゾルグング シュバーベン アクチェンゲゼルシャフト (1)
【Fターム(参考)】