説明

共振防止体、共振防止構造

【課題】自動車の走行の際に路面入力に対する共振によって生じるこもり音の低減化の作業を容易化する。
【解決手段】フロアパン104には、プレス成形によって、側壁部111と底壁部112とにより囲われる収納凹部107が形成される。収納ボックス151は、工具等の収納物を収納可能な本体部152と、本体部152の下面153に設けられる受部154とを有する。収納ボックス151が収納凹部107に収納されると、本体部152の底部155は底壁部112と対面する。受部154は、本体部152の底部155の下面153側で、この下面153の延展方向に複数設けられる。受部154は、いずれも底壁部112に載置され、個々に取り外し可能となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、側壁部と底壁部とを設けてこれらによって収納凹部を形成するフロアパンに収納され、自動車ボデーの曲げ共振やフロアパネルの共振をコントロールし制振機能を発揮する共振防止体、及び、これを用いた共振防止構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車が凸凹路面を走行するときに、低周波数の振動がタイヤ、自動車ボデー、フロアパネル等に伝達し、路面入力に対する共振が生じて、こもり音が発生することがある。このようなこもり音を抑制する技術が、種々開示されている。
【0003】
特許文献1には、フロアパネル上にスペアタイヤを配置して自動車ボデーの曲げ共振やフロアパネルの共振を抑え、自動車の振動や騒音を抑制する技術的思想が開示されている。特許文献1の段落0008及び図1、図2には、ウェルドナット3とクッション10とを有したクッションホルダ2Aをリヤフロアパネル1に溶接固定し、リヤフロアパネル1とスペアタイヤ9のタイヤ部9aの側面との間に発泡ゴム製の4個のクッション10を介在させ、スペアタイヤ9のディスクホイール9bのハブ穴9cをウェルドナット3で締結して、スペアタイヤ9を車両のダイナミックダンパとして機能させることの記載がある。
【0004】
特許文献1の段落0009から段落0011には、「フロアリインフォース2は、クッションホルダ2Aの前後方向部分に重ねられ、ワゴン車のリヤフロアパネル1を補強する本来の目的に対応して構成され、その共振周波数の23Hzを僅かに高くする形状及び板厚である。一方、このような周波数関係はワゴン車に対しては一般的に略共通し、また車両全体の骨格等で構成される実車であるボデーの曲げ共振周波数は例えば26Hz程度である。」、「これに対して、クッション10は、タイヤ部9aの側面に対応した大きさの接触面積を有すると共に、底面にはばね定数を小さくするように空洞部11が形成され、その大きさの調整によりリヤフロアパネル1の共振周波数は28Hz程度調整されている。」、及び、「タイヤ部9aは通常の締付け状態ではその締付け力にほとんど影響を受けることなく、所定の加圧力でクッション10に圧接する。これにより、クッション10及びスペアタイヤ9は、静ばね領域でリヤフロアパネル1と一体化された剛性体としてボデーの曲げ共振周波数に対して共振周波数を高くし、ルーフパネル及びバックドアの振動方向とリヤフロアパネルの振動方向が車室の体積変化を小さくするように同方向となり、こもり音が低減される。」との記載がある。
【0005】
特許文献2には、樹脂の成形性の優位な点に着目し、フロアパネルを樹脂製として、所定周波数で放射音の発生が低減するようフロアパネルの剛性の分布を調整することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−335271号公報
【特許文献2】特開2004−322920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の技術は、クッションゴムの硬度や配置、スペアタイヤの空気圧、締付ボルトのトルク等の調整が行われた上で構成されるものである。しかしながら、リヤフロアパネルやボデーには個体差があり、リヤフロアパネルの共振周波数やボデーの曲げ共振周波数は個別に異なる。
【0008】
また、自動車の構造を設計する際に、リヤフロアパネルの共振周波数やボデーの曲げ共振周波数を容易にコントロールできると都合が良い。この点、特許文献1に記載の技術では、クッションホルダ2Aの形状を変更することが難しく、共振周波数をコントロールするためには、スペアタイヤ9やクッションホルダ2Aとは異なる別部品が必要となる。
【0009】
本発明は、上記の点を鑑みてなされたものであり、自動車の走行の際に路面入力に対する共振によって生じるこもり音の低減化の作業を容易化することを目的とする。
【0010】
なお、本発明は、フロアパンと他部品との関係性に着目するものであり、フロアパネルの構造そのものに着目する特許文献2に記載の技術的思想とは本質的に異なる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の共振防止体は、側壁部と底壁部とを設けてこれらによって収納凹部を形成するフロアパンに収納される共振防止体であって、前記底壁部と対面する底部を有し、前記収納凹部に収納される本体部と、前記底部の下面側でこの下面の延展方向に複数設けられ、いずれも前記底壁部に載置され、個々に取り外し可能である受部と、を備える。
【0012】
本発明の共振防止構造は、側壁部と底壁部とを設けてこれらによって収納凹部を形成するフロアパンと、前記底壁部と対面する底部を有し、前記収納凹部に収納される本体部と、前記底部の下面側でこの下面の延展方向に複数設けられ、いずれも前記底壁部に載置され、個々に取り外し可能である受部と、を備える。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、共振防止体の底部に設けられる受部を作業者の所望の個数及び個数だけ取り外して、自動車の走行の際に路面入力に対する共振によって生じるこもり音の低減化の作業を容易化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】車体下部構造の斜視図である。
【図2】車体下部構造を車体後方側から見た側面図である。
【図3】収納ボックスの底面図である。
【図4】図2のA部拡大図である。
【図5】変形例での図2のA部拡大図である。
【図6】第1使用例での車体下部構造を車体後方側から見た側面図である。
【図7】第1使用例での収納ボックスの底面図である。
【図8】第2使用例での車体下部構造を車体後方側から見た側面図である。
【図9】第2使用例での収納ボックスの底面図である。
【図10】第1使用例におけるフロアパンの振動領域を示す説明図である。
【図11】第2使用例におけるフロアパンの振動領域を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、車体下部構造101の斜視図である。車体下部構造101は、一対のリアサイドメンバ102と、リアサスペンションクロスメンバ103と、フロアパン104とにより構成される。
【0016】
一対のリアサイドメンバ102は、フロアパン104の車幅方向Wの両側部のそれぞれに位置し、いずれも車体前後方向Lに延びている。リアサイドメンバ102の断面形状は、車体上方側が開放された逆ハット形である(図2参照)。リアサイドメンバ102は、フロアパン104の下面側に溶接されて閉断面を構成している。
【0017】
リアサスペンションクロスメンバ103は、車幅方向Wに延び、一対のリアサイドメンバ102を繋いでいる。リアサスペンションクロスメンバ103の両端部のそれぞれには、リアサスペンション105が取り付けられる。
【0018】
フロアパン104は、鋼板をプレス成形してつくられた板状の部材であり、車両の荷室RMの床部分として機能する平坦部106と、後述の収納物(図示せず)が収納される収納凹部107とを有する。収納凹部107は、フロアパン104における後方側で車幅方向Wの略中央箇所に形成される。フロアパン104の後縁部には、ロアバック108が、スポット溶接等により接合される。フロアパン104の両側領域や車体前方領域の縁部には、前述のリアサイドメンバ102やリアサスペンションクロスメンバ103が、スポット溶接等により接合される。
【0019】
図2は、車体下部構造101を車体後方側から見た側面図である。図1及び図2を参照する。収納凹部107は、車体下方側に突出し、車体後方側に開放する形状をなしている。収納凹部107の車体前方部分は、平面視において略円形に見える。収納凹部107は、側壁部111と底壁部112とによって、収納ボックス151(後述)を収納可能とする深さの収納用空間を形成している。側壁部111も底壁部112も、フロアパン104の成形によって設けられる。底壁部112は、収納凹部107の底部として機能する。側壁部111は、底壁部112の周縁部から略車体上方側に延びて収納凹部107の縦壁として機能する。
【0020】
蓋部113は、収納凹部107を閉じ、平坦部106とともに車両の荷室RMの床部分としての役割を果たす。荷室RMは、車体形状によって規定される空気の体積によって、固有振動が、所定の振動周波数付近(例えば、30Hz付近)で生じるようになっている。換言すると、荷室RMにて所定の振動周波数付近(例えば、30Hz付近)の振動があると、車内音(こもり音)が乗員に聞こえやすくなる。なお、一般的なセダン系車両では、30Hz付近の振動があると、車内音(こもり音)が生じやすい。
【0021】
図3は、収納ボックス151の底面図である。図2及び図3を参照する。収納凹部107には、共振防止体としての収納ボックス151が収納される。収納ボックス151は、略直方体形状の本体部152と、本体部152の下面153に設けられる受部154とを有する。収納ボックス151とフロアパン104とによって、共振防止構造201が構成される。
【0022】
本体部152は、平面視、底面視、正面視、背面視、左側面視及び右側面視のいずれにおいても、略長方形に見える。本体部152は、底壁部112と対面する底部155と、底部155の周縁部から略車体上方側に延びる側部156とを有し、底部155と側部156とにより収納空間157を形成する。収納空間157には、工具やパンクの修理材その他の収納物(図示せず)が収納される。
【0023】
受部154は、発泡スチロール、ウレタン等の、容易にちぎり取ることができる素材から作られ、上面154A(図4参照)と下面154B(図4参照)とが互いに平行な小型の柱体形状に形成される。なお、受部154の上面154Aと下面154Bとが互いに平行であれば、受部154は扁平な板状をなしていても良い。このような受部154は、底部155の下面側に複数設けられ、底部155の下面を囲む二対の辺(図3において符号155A及び155Bで示す)のそれぞれに平行となるよう升目状に並んで、この下面の延展方向に広がっている。収納ボックス151が底壁部112に収納されると、受部154は底壁部112に載置されてこの底壁部112に接触し、底壁部112と本体部152とに挟まれる。
【0024】
図4は、図2のA部拡大図である。図2、図3及び図4を参照する。受部154は、成形済部材160から個々に取り外して本体部152から離反させることが可能になっている。詳細に述べると、収納ボックス151の本体部152の底部155の下面153は平坦になっており、この下面153には成形済部材160が設けられる。ここで、収納ボックス151は硬質の樹脂素材を成形してなるものであって、成形済部材160は、この収納ボックス151の下面に設けられるように収納ボックス151とともに一体成形により作られる。成形済部材160は、発泡スチロール、ウレタン等の収納ボックス151よりも容易にちぎり取りやすい素材で、平坦なシート部160Aから升目状に並ぶ複数の受部154を突出させる形状に作られる。
【0025】
成形済部材160の構造を詳細に説明する。成形済部材160は、シート状のシート部160Aを有する。シート部160Aからは、シート部160Aの延展方向に升目状に並ぶ複数の突出部161が、下方に突出する。個々の突出部161の下端には、一つの受部154が設けられる。突出部161は、下方に向かうにつれて窄まった錐台形状をなしている。ここで、シート部160Aの下面と同じ高さにある突出部161の第1底部161A(錐台形状において相対的に大きい底部であり、図4にて一点鎖線で示す)の面積は、受部154の上面154Aの面積よりも小さい。なお、当然のことながら、第1底部161Aよりも下方にある突出部161の第2底部161B(錐台形状において相対的に小さい底部であり、図4にて一点鎖線で示す)の面積は、第1底部161Aの面積よりも小さい。
【0026】
突出部161の第2底部161Bは、受部154の上面154Aの略中央領域に位置している。このとき、受部154の上面154Aには、突出部161の第2底部161Bよりも外側に広がる余白部分154Cが残る。また、突出部161がシート部160Aよりも下方に突出することから、シート部160Aの下面と受部154の上面154Aの余白部分154Cとの間には、隙間SPが形成される。作業者は、この隙間SPに指を入れて所望の受部154を成形済部材160から引き剥がすことで、受部154を本体部152から取り外すことができる。
【0027】
図5は、変形例での図2のA部拡大図である。図2、図3及び図5を参照する。変形例として、収納ボックス151も受部154も、同じ素材(発泡スチロール、ウレタン等の容易にちぎることができる素材)で一体成形で作ってもよい。この場合、収納ボックス151の本体部152の底部155の下面153から複数の突出部161が下方に突出し、これらの突出部161が下面153の延展方向に升目状に並び、個々の突出部161の下端に受部154が設けられ、収納ボックス151の本体部152の底部155の下面153と受部154の上面154Aの余白部分154Cとの間に隙間SPが形成される。なお、この例では、突出部161の第1底部161A(錐台形状において相対的に大きい底部であり、図5にて一点鎖線で示す)は、収納ボックス151の本体部152の底部155の下面153と同じ高さにある。作業者は、隙間SPに指を入れて所望の受部154を収納ボックス151から引き剥がすことで、受部154を本体部152から取り外すことができる。
【0028】
図6は、第1使用例での車体下部構造101を車体後方側から見た側面図である。図7は、第1使用例での収納ボックス151の底面図である。図8は、第2使用例での車体下部構造101を車体後方側から見た側面図である。図9は、第2使用例での収納ボックス151の底面図である。本実施の形態では、作業者が所望の受部154を本体部152から取り外して収納ボックス151を収納凹部107に収納することで、フロアパン104と収納ボックス151との接触領域を変化させることができる。図6及び図7に示す第1使用例では、図8及び図9に示す第2使用例に比べて、フロアパン104と収納ボックス151との接触面積が大きい。
【0029】
図10は、第1使用例におけるフロアパン104の振動領域を示す説明図である。図11は、第2使用例におけるフロアパン104の振動領域を示す説明図である。フロアパン104の底壁部112に接触する受部154は、収納ボックス151の本体部152及びその中に収納される工具等の収納物の荷重によって底壁部112を押さえつけ、フロアパン104で生じる振動を抑制する。換言すると、底壁部112を押さえつける受部154は、フロアパン104において振動を起こさない剛体部171として機能する。そして、底壁部112のうち剛体部171に接触されていない部分と、側壁部111とは、車両の走行やエンジンの駆動等を受けて振動にするバネ部172となる。
【0030】
第1使用例(図6、図7参照)のように、剛体部171を広げると、バネ部172が狭まり、バネ係数k1が変化してフロアパン104の振動周波数が上昇する(図10)。また、第2使用例(図8、図9参照)のように、剛体部171を狭めると、バネ部172が広まり、バネ係数k1が変化して振動周波数が減少する(図11)。このように、本実施の形態では、収納ボックス151の底部155に設けられる受部154を作業者の所望の個数及び個数だけ取り外して、収納ボックス151とフロアパン104との接触面積を変化させることができる。即ち、個々のフロアパン104の個体差に応じてフロアパン104の振動周波数を変化させて、自動車の走行の際に路面入力に対する共振によって生じるこもり音の低減化の作業を容易化することができる。
【0031】
また、本実施の形態の収納ボックス151では、本体部152から取り外す受部154の個数及び箇所を作業者が容易に選ぶことができる。このため、収納ボックス151とフロアパン104との接触箇所を適宜変えることができる。従って、一種類のプレス成形済のフロアパン104にこの収納ボックス151を適用して、様々な車種の下部構造を作ることができる。
【符号の説明】
【0032】
104 フロアパン
107 収納凹部
111 側壁部
112 底壁部
151 収納ボックス(共振防止体)
152 本体部
153 底部の下面
154 受部
154A 受部の上面
154C 余白部分
155 底部
155A、155B 底部の下面を囲む二対の辺
161 突出部
201 共振防止構造
SP 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
側壁部と底壁部とを設けてこれらによって収納凹部を形成するフロアパンに収納される共振防止体であって、
前記底壁部と対面する底部を有し、前記収納凹部に収納される本体部と、
前記底部の下面側でこの下面の延展方向に複数設けられ、いずれも前記底壁部に載置され、個々に取り外し可能である受部と、
を備える共振防止体。
【請求項2】
前記本体部の底部の下面から下方に突出し、前記受部の上面の一部分に余白を残して前記受部の上面に接する突出部を更に備え、
前記底部の下面と前記受部の上面の余白との間には、隙間が形成されている、
請求項1記載の共振防止体。
【請求項3】
前記本体部の底部の下面は、略長方形をなし、
前記受部は、前記底部の下面を囲む二対の辺のそれぞれに平行となるよう升目状に並んでいる、
請求項1又は2記載の共振防止体。
【請求項4】
側壁部と底壁部とを設けてこれらによって収納凹部を形成するフロアパンと、
前記底壁部と対面する底部を有し、前記収納凹部に収納される本体部と、
前記底部の下面側でこの下面の延展方向に複数設けられ、いずれも前記底壁部に載置され、個々に取り外し可能である受部と、
を備える共振防止構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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