説明

共有結合およびアミノ鎖を含む、抗血栓活性を有する多糖類

本発明は、アミノ鎖との共有結合を少なくとも1つ有し、抗血栓活性を有する、新規合成多糖類、およびこの調製法、ならびにこの治療用途に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミノ鎖との共有結合を少なくとも1つ有し、ヘパリンの抗凝血および抗血栓の薬理活性を有する、新規合成オリゴ糖類および多糖類に関する。
【背景技術】
【0002】
特許出願WO02/24754は、ビオチン(ヘキサヒドロ−2−オキソ−1H−チエノ[3,4−d]イミダゾール−4−ペンタン酸)との、またはビオチン誘導体との共有結合を有する合成多糖類を開示している。このような多糖類は、抗血栓活性を有することで、抗凝血薬として有用となるものであり、さらに緊急事態において、特定の解毒剤によりすぐに中和することが可能な利点も有する。特定の解毒剤とは、アビジン(The Merck Index,Twelfth Edition,1996,M.N.920,pages 151−152)およびストレプトアビジンである。これら2種は、それぞれ代表的な質量が約66000Daおよび60000Daの四量体タンパク質であり、ビオチンと非常に強い親和力を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第02/24754号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】The Merck Index,Twelfth Edition,1996,M.N.920,pages 151−152
【発明の概要】
【0005】
特許出願WO02/24754に記載されるものと類似の構造を有するが、ビオチンとの共有結合の代わりにアミノ鎖を有する新規多糖類が今回同定された。これらの新規糖類は、有利なことに、上記の特許出願に記載されるものに匹敵する抗血栓性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0006】
従って、本発明は概して、式−NH−CO−(CH−NHのアミノ鎖との共有結合を少なくとも1つ有する、抗血栓活性を有する合成多糖類に関する。
【0007】
詳細には、本発明の対象は、以下の式(I):
【0008】
【化1】

式中:
波線は、ピラノース環の面の上下いずれかに位置する結合を示し、
式:
【0009】
【化2】

は、n個の同一または異なった単糖単位を含有する多糖を示し、この多糖はアノマー炭素を介してPeに結合しており、
式:
【0010】
【化3】

は、六炭糖類、五炭糖類、および相当するデオキシ糖類から選択されるピラノース構造を有する単糖単位の模式図であり、この単糖単位はこのアノマー炭素を介して別の単糖単位に結合しており、この単糖単位のヒドロキシル基はR基で置換され、R基は同一であっても異なっていてもよく、以下に定義されるとおりであり、
Peは以下の構造を有する五糖を表し:
【0011】
【化4】

hは、1または2に等しく、
nは、0から25の任意の値を取り得る整数であり、
は、−NH−CO−(CH−NH基、(C−C)アルコキシ基、または−OSO基を表し;
は、−NH−CO−(CH−NH基、(C−C)アルコキシ基、または−OSO基を表し;
は、−NH−CO−(CH−NH基または(C−C)アルコキシ基を表し;
は、−NH−CO−(CH−NH基、(C−C)アルコキシ基、または−OSO基を表すか、またはRは−O−CH−架橋を構成し、この−CH−基は同一環のカルボン酸官能基を有する炭素原子に結合しており;
ただし、置換基R、R、R、またはRの少なくとも1つは−NH−CO−(CH−NH基を表し;
Wは、酸素原子またはメチレン基を表す、の多糖類ならびにこの医薬的に許容される塩である。
【0012】
上記に記載のとおり、本記載において一般に波線はピラノース環の面の上下いずれかに位置する結合を示すこととする。
【0013】
Poに含まれる単糖類は互いに同一であっても異なっていてもよく、グリコシド間結合はα型でもβ型でもよい。
【0014】
これらの単糖類は、有利なように、DまたはL六炭糖類、アロース(alose)、アルトロース、グルコース、マンノース、グロース(galose)、イドース、ガラクトース、およびタロース(この場合h=2)から、またはDまたはL五炭糖類、リボース、アラビノース、キシロース、およびリキソース(この場合h=2)から選択される。他の単糖類(例えば、デオキシ糖類など)も用いることができる(h=1および/または−CH=CH)。
【0015】
多糖部分Poは、アルキル化されたジまたはトリ硫酸化単糖単位0から25個で構成されてもよい。
【0016】
多糖部分Poは、アルキル化されたモノまたはジ硫酸化単糖単位0から25個で構成されてもよい。
【0017】
多糖部分Poは、無電荷のおよび/または部分的に電荷を帯びたおよび/または全体に電荷を帯びたアルキル化単糖単位0から25個で構成されてもよい。
【0018】
電荷を帯びたまたは無電荷の単位は、鎖全体に沿って分散していてもよいし、これとは逆に集団で電荷を帯びたまたは無電荷の糖ドメインになってもよい。
【0019】
単位間の結合は、1.2でも、1.3でも、1.4でも、1.5でも、1.6でもよく、α型のものでもβ型のものでもよい。
【0020】
本記載において、L−イズロン酸は配座を、D−グルクロン酸は配座を示すように選択されていたが、一般に、単糖単位の溶液中の配座は変動することが常識である。従って、L−イズロン酸は配座でも配座でも配座でもよい。
【0021】
本発明の態様の1つに従って、本発明は式(I.1)の多糖類:
【0022】
【化5】

式中:
式:
【0023】
【化6】

は、(I)について定義したとおりこれらのアノマー炭素を介してPeに結合した、多糖類Poの特定のファミリーを示し;
式:
【0024】
【化7】

は、(I)について定義したとおりであり、
基は、(I)について定義したとおりであり、1つの単糖中、同一であっても異なっていてもよく
[]に含まれる単糖はm個が繰り返されるものであり、[]に含まれる単糖はt個が繰り返されるものであり、[]に含まれる単糖はp個が繰り返されるものであり、
mは1から5の範囲の整数であり、tは0から24の範囲の整数であり、pは0から24の範囲の整数であるが、ただし1≦m+t+p≦25である、
およびこれらの医薬的に許容される塩に関する。
【0025】
式(I.1)のこれら多糖類のうち、式中の置換基R、R、RまたはRの1つだけが−NH−CO−(CH−NH基を表す多糖類、およびこれらの医薬的に許容される塩は、本発明のサブグループを構成する。
【0026】
1つの特定の態様に従って、本発明は式(I.2):
【0027】
【化8】

式中:
Tは、−NH−CO−(CH−NH基を表し、
Peは、以下の構造を有する五糖を表し:
【0028】
【化9】

式中:
は、(C−C)アルコキシ基または−OSO基を表し、
は、(C−C)アルコキシ基または−OSO基を表し、
は、(C−C)アルコキシ基を表し、
は、(C−C)アルコキシ基または−OSO基を表すか、またはRは−O−CH−架橋を構成し、この−CH−基は同一環のカルボン酸官能基を有する炭素原子に結合しており、
Wは、酸素原子またはメチレン基を表す、
の十六糖類(hexadecasaccharides)およびこれらの医薬的に許容される塩に関する。
【0029】
本発明の別の態様に従って、本発明は、式(I.3):
【0030】
【化10】

式中R、R、R、R、およびWは(I)について定義したとおりである、
の五糖類およびこれらの医薬的に許容される塩に関する。
【0031】
式(I.3)のこれら五糖類のうち、式中の置換基R、R、R、またはRの1つだけが−NH−CO−(CH−NH基を表す五糖類、およびこれらの医薬的に許容される塩は、本発明のサブグループを構成する。
【0032】
式(I.3)のこれら五糖類のうち、本発明の対象物は、式(I.4):
【0033】
【化11】

式中:
Tは、−NH−CO−(CH−NH基を表し、
は、(C−C)アルコキシ基または−OSO基を表し、
は、(C−C)アルコキシ基または−OSO基を表し、
は、(C−C)アルコキシ基を表し、
は、(C−C)アルコキシ基または−OSO基を表すか、またはRは−OH−CH−架橋を構成し、この−CH−基は同一環のカルボン酸官能基を有する炭素原子に結合しており、
Wは、酸素原子またはメチレン基を表す、
の五糖類およびこれらの医薬的に許容される塩でもある。
【0034】
本発明の別の態様に従って、本発明は、以下の多糖に関する:
メチル(2−[N−(6−アミノヘキサノイル)]−2−デオキシ−3,4−ジ−O−メチル−6−O−スルホナト−α−D−グルコピラノシル)−(1→4)−(2,3−ジ−O−メチル−β−D−グルコピラノシルウロン酸)−(1→4)−(2,3,6−トリ−O−スルホナト−α−D−グルコピラノシル)−(1→4)−(2,3−ジ−O−メチル−α−L−イドピラノシルウロン酸)−(1→4)−2,3,6−トリ−O−スルホナト−α−D−グルコピラノシドナトリウム塩。
【0035】
この多糖は、以下の式を有する五糖である(化合物1):
【0036】
【化12】

【0037】
本発明は、多糖類でこの酸の形のものおよび任意のこれらの医薬的に許容される塩の形のものを包含する。酸の形では、−COOおよび−SO官能基は、それぞれ、−COOHおよび−SOHの形である。
【0038】
「本発明の多糖類の医薬的に許容される塩」という表現は、式中1個以上の−COOおよび/または−SO官能基が医薬的に許容されるカチオンとイオン結合している多糖を意味するものとする。本発明による好適な塩は、カチオンがアルカリ金属カチオンから選択されるもの、より好ましくはカチオンがNaまたはKであるものである。
【0039】
上記の式(I)の化合物は、式中1個以上の水素または炭素原子がこれらの放射性同位体(例えば、トリチウムおよび炭素−14)で置換されているものも包含する。このような標識化合物は、調査研究、代謝研究、または薬物動態研究に、またはリガンドとして生化学試験に有用である。
【0040】
原則的に、本発明の化合物の調製法は、文献にすでに報告されるとおりに調製した二糖またはオリゴ糖シントンを用いる。詳細には以下の特許または特許出願を参照することができる:EP0300099、EP0529715、EP0621282、およびEP0649854、ならびに論文C.van Boeckel,M.Petitou,Angew.Chem.Int.Ed.Engl.,1993,32,1671−1690。次いで、これらのシントンを互いにカップリングして、本発明の多糖の完全に保護された等価物を提供する。次いで、この保護された等価物を本発明の化合物に変換する。
【0041】
上記シントンの1つは、その後の−CO−(CH−NH基の導入(多糖に−NH−CO−(CH−NH鎖を形成するため)を可能にする特定の保護された官能基、例えば、アジド基の形に隠れたアミン官能基またはN−フタルイミド形で保護されたアミン官能基などを含有する。
【0042】
上記のカップリング反応において、「ドナー」二糖またはオリゴ糖は、このアノマー炭素が活性化されて、遊離ヒドロキシルを有する「アクセプター」二糖またはオリゴ糖と反応する。
【0043】
本発明は、式(I)の化合物の調製法に関し、この方法は以下を特徴とする:第一工程において、保護されたPeドメイン前駆体を含有し、この前駆体の未還元末端に保護された硫酸化多糖Po前駆体が結合して延びている、所望の多糖(I)の完全に保護された等価物を合成し、これらの前駆体の1つは、詳細には、その後の−CO−(CH−NH基(これ自身適切に保護されている。)の導入に適するように保護されているアミン官能基を含有する;第二工程において、負の電荷を帯びた基を導入および/またはアンマスクする;第三工程におて、多糖のアミン官能基を脱保護し、次いで保護された−CO−(CH−NH基を導入する;第四工程において、末端NH基をアンマスクする。
【0044】
Peの合成は、詳細には、WO98/03554およびWO99/36443の番号で公開された特許出願、ならびに多糖類に関する文献に記載の方法に従って行なう。
【0045】
Poの前駆体である多糖部分は、オリゴ糖合成法を用いて、当業者に既知である反応により合成される(G.J.Boons,Tetrahedron,1996,52,1095−1121,WO98/03554およびWO99/36443)。代表的には、グリコシド結合ドナーオリゴ糖をグリコシド結合アクセプターオリゴ糖とカップリングして、別のオリゴ糖を生成する。この別のオリゴ糖の大きさは、反応種2つの大きさの合計に等しい。所望の式(I)の化合物が得られるまでこの手順を繰り返す。所望の最終化合物の電荷の性質およびプロファイルが、当業者に既知である規則に従って、合成の様々な段階で用いられる化学的実体の性質を決定する。例えば、参照として以下が挙げられる:C.van Boeckel,M.Petitou,Angew.Chem.Int.Ed.Engl.,1993,32,1671−1690,またはH.Paulsen,「Advances in Selective Chemical Syntheses of Complex oligosaccharides」Angew.Chem.Int.Ed.Engl.,21,155−173(1982)。
【0046】
本発明の化合物は、以下の一連の反応を用いて、完全に保護されたこの多糖前駆体から得られる:
骨格の形成の間用いられた保護基を外すことで、O−スルホ基に変換しなければならないアルコール官能基およびカルボン酸を脱保護し、
次いでスルホ基を導入し、
CO−(CH−NH基の導入を可能にする多糖のアミン官能基を脱保護し、
従来のアミノ/酸カップリング反応を用いて、適切に保護された−CO−(CH−NH基を導入し、次いで
末端の−NH基をアンマスクする。
【0047】
本発明の化合物は、当然ながら、オリゴ糖合成の当業者に既知である様々な戦略を用いて調製することができる。
【0048】
上記の方法は、本発明の好適な方法である。しかしながら、式(I)の化合物は、糖化学で既知の他の方法、例えば、Monosaccharides,Their Chemistry and their Roles in Natural Products,P.M.Collins and R.J.Ferrier,J.Wiley & Sons,1995、およびG.J.Boons,Tetrahedron,1996,52,1095−1121に記載される方法により調製することもできる。
【0049】
従って、Pe五糖は、C.van Boeckel,M.Petitou,Angew.Chem.Int.Ed.Engl.,1993,32,1671−1690の論文に記載される様式で、二糖シントンから得ることができる。
【0050】
一般に、化合物(I)の調製法で用いられる保護基は、糖化学で一般に用いられるもの、例えば、Protective Groups in Organic Synthesis,TW Greene,John Wiley & Sons,New York,1981に記載されるものなどである。保護基は、例えば、アセチル、ハロメチル、ベンゾイル、レブリニル(levulinyl)、ベンジル、置換ベンジル、場合により置換されるトリチル、テトラヒドロピラニル、アリル、ペンテニル、tert−ブチルジメチルシリル(tBDMS)、およびトリメチルシリルエチル基から選択することができる。
【0051】
活性化基は、糖化学で、例えば、G.J.Boons,Tetrahedron,1996,52,1095−1121に従って、従来から用いられているものである。こうした活性化基は、例えば、イミダート、チオグリコシド、ペンテニルグリコシド、キサンタート、ホスファイト、およびハライドから選択される。
【0052】
詳細には、多糖の遊離アミン官能基への−CO−(CH−NH基の導入は、上記の方法に従って、Act−CO−(CH−NH−Pg型の反応体(式中「Act」は酸官能基活性化基(イミド、例えば、スクシンイミド誘導体、または混合無水物、またはペプチド化学でアミノ/酸カップリング反応に既知の任意の他の活性化基など)を表し、「Pg」はアミン官能基保護基(ベンジルオキシカルボニル基など)を表す。)を用いて行なうことができる。
【0053】
上記の方法により、本発明の化合物を塩の形で得ることが可能になる。対応する酸を得る目的で、塩の形の本発明の化合物を酸型カチオン交換樹脂と接触させる。次いで、酸の形の本発明の化合物を塩基で中和して、所望の塩を得ることができる。式(I)の化合物の塩を調製するため、式(I)の化合物と一緒に、医薬的に許容される塩を得る任意の無機塩基または有機塩基を用いることができる。水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、または水酸化マグネシウムが、塩基として好適に用いられる。式(I)の化合物のナトリウム塩およびカルシウム塩が好適な塩である。
【0054】
本発明は、以下の、本発明の式(I.4)に対応する五糖型の化合物の調製に関する詳細な実施例により、さらに明瞭に理解される。この実施例は制限ではなく本発明の例示にすぎない。
【実施例】
【0055】
化合物1の調製の実施例:
メチル(2−[N−(6−アミノヘキサノイル)]−2−デオキシ−3,4−ジ−O−メチル−6−O−スルホナト−α−D−グルコピラノシル)−(1→4)−(2,3−ジ−O−メチル−β−D−グルコピラノシルウロン酸)−(1→4)−(2,3,6−トリ−O−スルホナト−α−D−グルコピラノシル)−(1→4)−(2,3−ジ−O−メチル−α−L−イドピラノシルウロン酸)−(1→4)−2,3,6−トリ−O−スルホナト−α−D−グルコピラノシドナトリウム塩
【0056】
【化13】

1)スクシンイミジル6−(ベンジルオキシカルボニルアミノ)ヘキサノアートの調製
6−(ベンジルオキシカルボニルアミノ)ヘキサン酸(1.00g、3.77mmol)のジメチルホルムアミド(20mL)溶液にトリエチルアミン(0.63mL、4.52mmol)を加え、混合物をアルゴン下周辺温度で30分間撹拌放置する。溶液を0℃に冷却し、クロロギ酸エチル(0.43mL、4.52mmol)を滴下する。周辺温度で2時間後、N−ヒドロキシスクシンイミド(0.52g、4.52mmol)を加え、混合物を周辺温度で一晩撹拌放置する。混合物を乾固するまで蒸発させてから、残渣を水に取り、これに酢酸エチルを加える。相を分離して水相を酢酸エチルで抽出する。有機相を1つにまとめ、硫酸ナトリウムで脱水し、ろ過し、乾固するまで蒸発させてから、シリカゲルカラムにかけて酢酸エチル/ペンタン混合物(75/25v/v)で溶出させて精製する。画分をいったん蒸発させて、スクシンイミジル6−(ベンジルオキシカルボニルアミノ)ヘキサノアート1.13gを油状物として得る。
【0057】
TLC:溶離液としてn−ヘプタン/酢酸エチル混合物(30/70v/v)を用いてシリカゲル板上Rf=0.22。
【0058】
2)化合物1’の調製
アミノ鎖を五糖44、即ちメチル(2−アミノ−2−デオキシ−3,4−ジ−O−メチル−6−O−スルホナト−α−D−グルコピラノシル)−(1→4)−(2,3−ジ−O−メチル−β−D−グルコピラノシルウロン酸)−(1→4)−(2,3,6−トリ−O−スルホナト−α−D−グルコピラノシル)−(1→4)−(2,3−ジ−O−メチル−α−L−イドピラノシルウロン酸)−(1→4)−2,3,6−トリ−O−スルホナト−α−D−グルコピラノシドナトリウム塩(この調製は、特許出願WO02/24754に記載されている。)にグラフト結合させる:
【0059】
【化14】

【0060】
スクシンイミジル6−(ベンジルオキシカルボニルアミノ)ヘキサノアート(783mg、2.16mmol)のN,N−ジメチルホルムアミド(10mL)溶液に五糖44(505mg、0.29mmol)を加える。不活性雰囲気下、周辺温度で24時間撹拌後、溶媒を減圧下で蒸発させ、残渣を水(40mL)に溶解し、溶液をクロロホルム(2×30mL)で洗う。クロロホルム相を水(10mL)で洗い、水相を1つにまとめ、次いで減圧下で蒸発させて乾固する。固体残渣を2−プロパノール(10mL)に加えて懸濁させ(triturated)、懸濁液を5分間2500rpmで遠心分離する。アルコール相を分離して2−プロパノール(10mL)と置き換え、遠心分離を繰り返す。溶媒分離後、粗生成物を減圧乾燥する。
【0061】
こうして、化合物1’、即ちメチル(2−[N−(6−ベンジルオキシカルボニルアミノヘキサノイル)]−2−デオキシ−3,4−ジ−O−メチル−6−O−スルホナト−α−D−グルコピラノシル)−(1→4)−(2,3−ジ−O−メチル−β−D−グルコピラノシルウロン酸)−(1→4)−(2,3,6−トリ−O−スルホナト−α−D−グルコピラノシル)−(1→4)−(2,3−ジ−O−メチル−α−L−イドピラノシルウロン酸)−(1→4)−2,3,6−トリ−O−スルホナト−α−D−グルコピラノシド(式中Pgはベンジルオキシカルボニル基を表す。)399mgが得られる:
【0062】
【化15】

【0063】
重水中200MHzでのプロトンNMR:得られるスペクトルは特許出願WO02/24754の実施例5に従って合成された生成物で測定されるスペクトルと同一だが、ただしビオチン部分の原子によるシグナルが無くて、ベンジルオキシ基によるシグナルが7.4から7.5ppmにあるという事実から、期待される生成物の構造が確認される。
【0064】
3)化合物1の調製
先の工程の結果得られる生成物1’(399mg)を重水(10mL)に溶解する。溶液を10%パラジウム担持炭素(25mg)で処理し、大気圧下、水素の存在下で20時間、溶液を撹拌放置する。混合物を水(15mL)で希釈し、触媒をろ別し、溶液をクロロホルム(2×15ml)で洗ってから、減圧下で蒸発させて乾固させる。生成物の一定分量(320mgから98mg取る。)をSephadex G−25ゲルカラム(2.5×50cm)にかけ水で溶出させて精製し、化合物1を25mg得る。
【0065】
HPLC:X−Terra RP−18 150×4.6mmカラム(粒子5μ、Waters、SA)でTr=15.4分。UVランプを用い211nmで検出。溶離液1:酢酸アンモニウム0.02Mおよびジ−n−ブチルアミン0.05Mを含む水、酢酸でpH7に調整。溶離液2:ジ−n−ブチルアミン0.05Mおよび酢酸0.08mを含むアセトニトリル/水混合物(90/10v/v)。溶離液の割合は、以下のようにプログラムする:溶離液2の組成は、0分の時点で10%;25分の時点で20%;40分の時点で50%;43分の時点で50%、および50分の時点で5%。
【0066】
重水中600MHzでのプロトンNMR:得られるスペクトルは特許出願WO02/24754の実施例5に従って合成された生成物で測定されるスペクトルと同一だが、ただしビオチン部分の原子によるシグナルが無いという事実から、期待される生成物の構造が確認される。
【0067】
薬理作用:
本発明の化合物を生化学調査および薬理学調査の対象とした。
【0068】
本発明の生成物の薬理学的活性を、詳細には、J.−M.Herbert et al.,Blood,1998,91,4197−4205に記載されるとおり、アンチトロンビンの存在下(抗Xa因子はアンチトロンビンの存在に依存)で、凝固因子Xaの阻害のin vitroモデルにおいて調査した。このモデルにおいて、本発明の化合物の抗血栓性が確認される。詳細には、本発明の化合物1について、IC50=1.69×10−2mg/ml(IC50:50%阻害用量)。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明のオリゴ糖類は、この生化学活性および薬理学活性のおかげで、非常に有利な薬剤を構成することができる。これらの毒性はこの用途にまったく差し支えない。本発明のオリゴ糖類は、非常に安定でもあり、従って、本発明の薬剤の活性成分を構成するのに特に適している。
【0070】
本発明のオリゴ糖類は、様々な病状、詳細には、心血管系および脳血管系の障害で生じる凝固系の恒常性の修飾に続く様々な病状、例えば粥状動脈硬化および糖尿病に関連した血栓塞栓性障害(不安定狭心症、脳卒中、血管形成術後の再狭窄、動脈内膜切除術、血管内プロステーシスの挿入など);または、血栓溶解後の再血栓症(rethrombosis)に関連した、梗塞に関連した、虚血起源の痴呆に関連した、末梢動脈障害に関連した、血液透析に関連した、動脈細動に関連した血栓塞栓性障害、または大動脈冠状動脈バイパス用血管プロステーシスの使用中の血栓塞栓性障害に用いることができる。本発明の生成物は、その上、静脈起源の血栓塞栓性病状(肺塞栓症および深部静脈血栓症など)の治療または予防に用いることができる。本発明の生成物は、例えば、外科手術、腫瘍増殖、または細菌性、ウイルス性、もしくは酵素性活性化因子により誘導される凝固障害に続いて観察される血栓合併症の予防または治療いずれかに用いることができる。プロステーシスの挿入中に本発明の化合物を用いる場合、本発明の化合物は、プロステーシスを被覆し、そうしてプロステーシスを血液適合性にすることができる。詳細には、本発明の化合物は、血管内プロステーシス(ステント)に付着させることができる。この場合、本発明の化合物は、EP649854に記載されるとおり、適切な側鎖の未還元末端または還元末端で、挿入により場合により化学的に修飾することができる。本発明の化合物は、多孔質バルーンを用いて行なわれる動脈内膜切除術中のアジュバントとして用いることもできる。
【0071】
本発明の化合物は、上記の疾患の治療用または予防用薬剤の製造に用いることができる。
【0072】
従って、本発明の別の態様に従って、本発明の対象は、活性成分として、本発明の合成多糖またはこの医薬的に許容される塩を、場合により1種以上の適した不活性賦形剤と組み合わせることを含む、医薬組成物である。この賦形剤は、薬剤の形および所望の投与様式(経口、舌下、皮下、筋肉内、静脈内、経皮、経粘膜、局所、または直腸)に従って選択される。
【0073】
活性成分は、シクロデキストリン、例えば、α−、β−、もしくはγ−シクロデキストリン、2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン、またはメチル−β−シクロデキストリンとの複合体の形で提供することもできる。
【0074】
活性成分は、これを含有するバルーンから、または血管に挿入された血管内エキスパンダから放出させることもできる。従って活性成分の薬理学的有効性は影響を及ぼされない。
【0075】
各投薬単位において、活性成分は所望の予防効果または治療効果を得るのに適した量で存在する。各投薬単位は、活性成分を0.1から100mg、好ましくは0.5から50mg、より好ましくは2.5から3.0mgを含有することができる。
【0076】
本発明の化合物は、所望の治療に有用な他の活性成分、例えば、抗血栓剤、抗凝血剤、血小板凝集阻害剤(例えば、ジピリダモール、アスピリン、チクロピジン、クロピドグレル)、または糖タンパク質IIb/IIIa複合体アンタゴニストなど、1種以上と組み合わせて用いることもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】

に相当する抗血栓活性を有する合成多糖類
(式中:
波線は、ピラノース環の面の上下いずれかに位置する結合を示し、
式:
【化2】

は、n個の同一または異なった単糖単位を含有する多糖を示し、該多糖はアノマー炭素を介してPeに結合しており、
式:
【化3】

は、六炭糖類、五炭糖類、および相当するデオキシ糖類から選択されるピラノース構造を有する単糖単位の模式図であり、この単位はこのアノマー炭素を介して別の単糖単位に結合しており、ならびにこの単位のヒドロキシル基は同一であっても異なっていてもよいR基で置換され、R基は以下に定義されるとおりであり、
Peは構造:
【化4】

を有する五糖を表し
hは、1または2に等しく、
nは、0から25の任意の値を取り得る整数であり、
は、−NH−CO−(CH−NH基、(C−C)アルコキシ基または−OSO基を表し;
は、−NH−CO−(CH−NH基、(C−C)アルコキシ基または−OSO基を表し;
は、−NH−CO−(CH−NH基または(C−C)アルコキシ基を表し;
は、−NH−CO−(CH−NH基、(C−C)アルコキシ基または−OSO基を表すか、またはRは−OH−CH−架橋を構成し、−CH−基は同一環のカルボン酸官能基を有する炭素原子に結合しており;
ただし、置換基R、R、R、またはRの少なくとも1つは−NH−CO−(CH−NH基を表し;
Wは、酸素原子またはメチレン基を表す。)
およびその医薬的に許容される塩。
【請求項2】
(I.1):
【化5】

に相当する請求項1に記載の多糖類
(式中:
式:
【化6】

は、請求項1に記載の(I)について定義したとおりこれらのアノマー炭素を介してPeに結合した、多糖類Poの特定のファミリーを示し、
式:
【化7】

は、請求項1に記載の(I)について定義したとおりであり、
基は、請求項1に記載の(I)について定義したとおりであり、1つの単糖中、同一であっても異なっていてもよく、
[]に含まれる単糖はm個が繰り返されるものであり、[]に含まれる単糖はt個が繰り返されるものであり、[]に含まれる単糖はp個が繰り返されるものであり、
mは1から5の範囲の整数であり、tは0から24の範囲の整数であり、ならびにpは0から24の範囲の整数であるが、ただし1≦m+t+p≦25である。)
およびその医薬的に許容される塩。
【請求項3】
置換基R、R、R、またはRの1つだけが−NH−CO−(CH−NH基を表す、請求項2に記載の多糖類、およびその医薬的に許容される塩。
【請求項4】
式(I.2):
【化8】

の十六糖類からなる請求項1から3のいずれか一項に記載の多糖類
(式中:
Tは、−NH−CO−(CH−NH基を表し、
Peは、構造:
【化9】

を有する五糖を表し、
構造中:
は、(C−C)アルコキシ基または−OSO基を表し、
は、(C−C)アルコキシ基または−OSO基を表し、
は、(C−C)アルコキシ基を表し、
は、(C−C)アルコキシ基または−OSO基を表すか、またはRは−O−CH−架橋を構成し、−CH−基は同一環のカルボン酸官能基を有する炭素原子に結合しており、
Wは、酸素原子またはメチレン基を表す。)
およびそれらの医薬的に許容される塩。
【請求項5】
式(I.3):
【化10】

の五糖類からなる請求項1に記載の多糖類
(式中R、R、R、R、およびWは、請求項1に記載の(I)について定義したとおりである。)
およびそれらの医薬的に許容される塩。
【請求項6】
置換基R、R、R、またはRの1つだけが−NH−CO−(CH−NH基を表す、請求項5に記載の五糖類、およびその医薬的に許容される塩。
【請求項7】
式(I.4):
【化11】

に相当する請求項5または6に記載の五糖類
(式中:
Tは、−NH−CO−(CH−NH基を表し、
は、(C−C)アルコキシ基または−OSO基を表し、
は、(C−C)アルコキシ基または−OSO基を表し、
は、(C−C)アルコキシ基を表し、
は、(C−C)アルコキシ基または−OSO基を表すか、またはRは−O−CH−架橋を構成し、−CH−基は同一環のカルボン酸官能基を有する炭素原子に結合しており、
Wは、酸素原子またはメチレン基を表す。)
およびその医薬的に許容される塩。
【請求項8】
メチル(2−[N−(6−アミノヘキサノイル)]−2−デオキシ−3,4−ジ−O−メチル−6−O−スルホナト−α−D−グルコピラノシル)−(1→4)−(2,3−ジ−O−メチル−β−D−グルコピラノシルウロン酸)−(1→4)−(2,3,6−トリ−O−スルホナト−α−D−グルコピラノシル)−(1→4)−(2,3−ジ−O−メチル−α−L−イドピラノシルウロン酸)−(1→4)−2,3,6−トリ−O−スルホナト−α−D−グルコピラノシドナトリウム塩である、請求項1、5、6、および7のいずれか一項に記載の多糖類。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の多糖類を含む薬剤。
【請求項10】
活性成分として、請求項1から8のいずれか一項に記載の多糖類、および1種以上の適した不活性賦形剤を含む医薬組成物。
【請求項11】
心血管系および脳血管系の障害で生じる凝固系の恒常性の修飾に続く病状、例えば粥状動脈硬化および糖尿病に関連した血栓塞栓性障害(不安定狭心症、脳卒中、血管形成術後の再狭窄、動脈内膜切除術、血管内プロステーシスの挿入など);または、血栓溶解後の再血栓症に関連した、梗塞に関連した、虚血起源の痴呆に関連した、末梢動脈障害に関連した、血液透析に関連した、動脈細動に関連した血栓塞栓性障害、または大動脈冠状動脈バイパス用血管プロステーシスの使用中の血栓塞栓性障害の治療用または予防用薬剤を製造するための、静脈起源の血栓塞栓性病状(肺塞栓症および深部静脈血栓症など)の治療または予防における、例えば、外科手術、腫瘍増殖、または細菌性、ウイルス性、もしくは酵素性活性化因子により誘導される凝固障害に続いて観察される血栓合併症の予防または治療のための、請求項1から8のいずれか一項に記載の多糖の使用。
【請求項12】
プロステーシスを被覆するための、請求項1から8のいずれか一項に記載の多糖の使用。
【請求項13】
多孔質バルーンを用いて行なわれる動脈内膜切除術中のアジュバントとしての、請求項1から8のいずれか一項に記載の多糖の使用。

【公表番号】特表2012−500884(P2012−500884A)
【公表日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−524423(P2011−524423)
【出願日】平成21年8月24日(2009.8.24)
【国際出願番号】PCT/FR2009/001023
【国際公開番号】WO2010/023374
【国際公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(504456798)サノフイ (433)
【Fターム(参考)】