説明

共有結合およびアミノ鎖を含む抗トロンビン活性を有する十六糖

本発明は、アミノ鎖との共有結合を少なくとも1個有する抗トロンビン活性を有する新規な合成十六糖、ならびにこの調製方法およびこの治療的使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミノ鎖との共有結合を少なくとも1個有し、ヘパリンの抗凝固および抗トロンビン薬理活性を有する新規な合成十六糖に関する。
【背景技術】
【0002】
特許出願WO2006/030104は、ビオチン(ヘキサヒドロ−2−オキソ−1H−チエノ[3,4−d]イミダゾール−4−ペンタン酸)またはビオチン誘導体との共有結合を有する合成十六糖を記載している。このような十六糖は抗トロンビン活性を有し、この活性によりこの十六糖が抗凝固剤として使用可能になり、さらに十六糖は、急を要する状況において特定の解毒薬により迅速に中和することができるという利点を有する。この特定の解毒薬は、アビジン(The Merck Index,Twelfth edition,1996,M.N.920,pages151−152)またはストレプトアビジンであり、これらは、それぞれの質量が約66000および60000Daである2種の4量体タンパク質であり、ビオチンに対して極めて強力なアフィニティーを有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2006/030104号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】The Merck Index,Twelfth edition,1996,M.N.920,pages151−152
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
特許出願WO2006/030104に記載の構造と類似の構造を有するが、ビオチンとの共有結合に代えて、アミノ鎖を有する新規な十六糖化合物を目下同定した。この新規な糖は、有利には、上記特許出願に記載の糖と比肩する抗トロンビン特性を有する。
【0006】
従って、一般に、本発明は、式−NH−CO−(CH−NHのアミノ鎖との共有結合を少なくとも1個有する、抗トロンビン活性を有する合成十六糖に関する。
【0007】
特に、本発明の対象は、式(I)の十六糖およびそれらの医薬的に許容される塩:
【0008】
【化1】

[式中、
Tは、−NH−CO−(CH−NH基を表し、
Rは、(C−C)アルコキシ基、特にメトキシ基または−OSO基を表し、
は、(C−C)アルコキシ基、特にメトキシ基または−OSO基を表し、
は、(C−C)アルコキシ基または−OSO基を表し、
は、(C−C)アルコキシ基、特にメトキシ基もしくは−OSO基を表し、またはRは、−O−CH−架橋を構成し、−CH−基は、同一環上のカルボキシル官能基を担持する炭素原子に結合しており、
Peは、以下の式の糖鎖:
【0009】
【化2】

を表す。]である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
多糖部分は、非荷電および/または部分荷電および/または完全荷電のアルキル化単糖単位から構成される。荷電または非荷電の単位は、鎖にわたって分散していてよく、またはこれらの単位は、対照的に、荷電または非荷電の糖ドメイン中に集まっていてよい。
【0011】
本明細書において、L−イズロン酸について立体配座を、D−グルクロン酸について立体配座を表すことが選択されているが、一般に、単糖単位の溶液中での立体配座が変動することは共通の認識である。従って、L−イズロン酸は、または立体配座のものであり得る。
【0012】
本発明は、酸形態の十六糖またはそれらの医薬的に許容される塩のいずれか1種の形態の十六糖を包含する。酸形態において、−COOおよび−SO官能基は、それぞれ、−COOHおよび−SOH形態である。
【0013】
表現「本発明の多糖の医薬的に許容される塩」は、−COOおよび/または−SO官能基の1種以上が医薬的に許容される陽イオンにイオン結合している多糖を意味するものとする。本発明による好ましい塩は、陽イオンがアルカリ金属陽イオンから選択される塩であり、よりいっそう好ましくは、陽イオンがNaまたはKである塩である。
【0014】
上記式(I)の化合物は、1個以上の水素または炭素原子がこれらの放射性同位体、例えば、トリチウムまたは炭素C14により置き換えられた化合物も含む。このような標識化合物は、研究、代謝もしくは薬物動態実験、または生化学試験においてリガンドとして使用される。
【0015】
本発明に関して、用語「(C−C)アルコキシ基」は、−O−アルキル基を意味するものとし、アルキル基は、1から6個の炭素原子鎖を有する直鎖または分枝鎖の飽和脂肪族基である。アルキル基の例として、メチル、エチル、プロピル、イソプロピルブチル、イソブチルまたはtert−ブチル基を挙げることができる。(C−C)アルコキシ基の例として、メトキシまたはエトキシ基を挙げることができる。
【0016】
本発明の別の態様によれば、本発明は、
Rが、メトキシ基または−OSO基を表し、
が、メトキシ基を表し、
が、−OSO基を表し、および
が、メトキシ基を表す、
一般式(I)のビオチン化十六糖に関する。
【0017】
本発明の別の態様によれば、本発明は、以下の十六糖に関する:
メチル(2,3,4,6−テトラ−O−スルホナト−α−D−グルコピラノシル)−(1→4)−(2,3,6−トリ−O−スルホナト−α−D−グルコピラノシル)−(1→4)−(2,3,6−トリ−O−スルホナト−β−D−グルコピラノシル)−(1→4)−(2,3−ジ−O−メチル−6−O−スルホナト−α−D−グルコピラノシル)−(1→4)−(2,3,6−トリ−O−メチル−β−D−グルコピラノシル)−(1→4)−[(2,3,6−トリ−O−メチル−α−D−グルコピラノシル)−(1→4)−O−(2,3,6−トリ−O−メチル−β−D−グルコピラノシル)−(1→4)]−(2−[N−(6−アミノヘキサノイル)]−2−デオキシ−3−O−メチル−6−O−スルホナト−α−D−グルコピラノシル)−(1→4)−(2,3−ジ−O−メチル−β−D−グルコピラノシルウロン酸)−(1→4)−(2,3,6−トリ−O−スルホナト−α−D−グルコピラノシル)−(1→4)−(2,3−ジ−O−メチル−α−L−イドピラノシルウロン酸)−(1→4)−3−O−メチル−2,6−ジ−O−スルホナト−α−D−グルコピラノシドナトリウム塩、
メチル(2,3,4,6−テトラ−O−スルホナト−α−D−グルコピラノシル)−(1→4)−(2,3,6−トリ−O−スルホナト−α−D−グルコピラノシル)−(1→4)−(2,3,6−トリ−O−スルホナト−β−D−グルコピラノシル)−(1→4)−(2,3−ジ−O−メチル−6−O−スルホナト−α−D−グルコピラノシル)−(1→4)−(2,3,6−トリ−O−メチル−β−D−グルコピラノシル)−(1→4)−[(2,3,6−トリ−O−メチル−α−D−グルコピラノシル)−(1→4)−O−(2,3,6−トリ−O−メチル−β−D−グルコピラノシル)−(1→4)]−(2−[N−(6−アミノヘキサノイル)]−2−デオキシ−3−O−メチル−6−O−スルホナト−α−D−グルコピラノシル)−(1→4)−(2,3−ジ−O−メチル−β−D−グルコピラノシルウロン酸)−(1→4)−(2,3,6−トリ−O−スルホナト−α−D−グルコピラノシル)−(1→4)−(2,3−ジ−O−メチル−α−L−イドピラノシルウロン酸)−(1→4)−2,3,6−トリ−O−スルホナト−α−D−グルコピラノシドナトリウム塩。
【0018】
原則として、本発明による化合物を調製する方法は、文献中で既に報告されている通り調製された二糖またはオリゴ糖ベースシントンを使用する。特に、特許または特許出願EP0300099、EP0529715、EP0621282およびEP0649854、ならびに文献C.van Boeckel,M.Petitou,Angew.Chem.Int.Ed.Engl.,(1993),32,pp.1671−1690も参照される。次いで、これらのシントンを互いにカップリングして本発明による十六糖の完全に保護されている等価物を提供する。次いで、この保護されている等価物を本発明による化合物に変換する。
【0019】
上記ベースシントンの1種は、特に、−CO−(CH−NH基の後続の導入(−NH−CO−(CH−NH鎖を十六糖上に形成するため)を可能にするよう保護されている特定の官能基、例えば、アジド基形態の、またはN−フタルイミド形態で保護されている潜在的なアミン官能基を含有する。
【0020】
上記カップリング反応において、「供与体」の二糖またはオリゴ糖は、これらのアノマー炭素上で活性化されており、遊離ヒドロキシルを有する「受容体」の二糖またはオリゴ糖と反応する。
【0021】
本発明は、式(I)の化合物を調製する方法であって、
第1の工程において、特に、−CO−(CH−NH基の後続の導入のために好適に保護されているアミン官能基を担持する保護されている五糖前駆体を含有する、所望の式(I)の十六糖の完全に保護されている等価物を得(この保護されている五糖前駆体自体は、多糖ドメインPeの保護されている前駆体により伸長している。);
第2の工程において、負に荷電している基を導入し、および/または脱マスク化し;
第3の工程において、十六糖上のアミン官能基を脱保護し、次いで保護されている−CO−(CH−NH基を導入し;
第4の工程において、末端NH基を脱マスク化する
ことを特徴とする方法に関する。
【0022】
−CO−(CH−NH基がグラフト化される五糖の合成は、特に、特許出願:WO98/03554およびWO99/36443、ならびに多糖に関する文献に記載の方法によっても実施することができる。
【0023】
Peの前駆体である多糖部分は、オリゴ糖合成法を使用して当業者に周知の反応により、合成する(G.J.Boons,Tetrahedron,(1996),52,pp.1095−1121、WO98/03554およびWO99/36443)。典型的には、グリコシド連結供与体オリゴ糖は、グリコシド連結受容体オリゴ糖とカップリングし、サイズが2種の反応種のサイズの合計に等しい別のオリゴ糖を生成する。この順序は、所望の式(I)の化合物が得られるまで繰り返す。所望の最終化合物の性質および荷電プロファイルは、当業者に周知の規則に従って、合成の種々の工程において使用される化学成分の性質を決定する。例えば、C.van Boeckel,M.Petitou,Angew.Chem.Int.Ed.Engl.,(1993),32,pp.1671−1690、またはH.Paulsen,「Advances in selective chemical syntheses of complex oligosaccharides」Angew.Chem.Int.Ed.Engl.,(1982),21,pp.155−173を参照することができる。
【0024】
本発明の化合物は、以下の一連の反応を使用して、完全に保護されているこの多糖前駆体から得る:
O−スルホ基に変換しなければならないアルコール官能基およびカルボン酸を、骨格生成の間に使用される保護基を除去することにより脱保護し、
次いで、スルホ基を導入し、
−CO−(CH−NH基の導入を可能にする十六糖のアミン官能基を脱保護し、
好適に保護されている−CO−(CH−NH基を慣用のアミノ/酸カップリング反応により導入し、次いで、
末端−NH基を脱マスク化する。
【0025】
本発明の化合物は、オリゴ糖合成分野の当業者に公知の種々の方策を使用して、容易に調製することができる。
【0026】
上記方法は、本発明の好ましい方法である。しかしながら、式(I)の化合物は、例えば、「Monosaccharides,Their Chemistry and their roles in natural products」,P.M.Collins and R.J.Ferrier,J.Wiley & Sons,(1995)and G.J.Boons,Tetrahedron,(1996),52,p.1095−1121に記載の、糖化学において周知の他の方法により調製することができる。
【0027】
従って、Pe五糖は、C.van Boeckel,M.Petitouによる刊行物Angew.Chem.Int.Ed.Engl.,(1993),32,1671−1690に記載の様式において、二糖シントンから得ることができる。
【0028】
一般に、式Iの化合物を調製する方法において使用される保護基は、例えば、「Protective Groups in Organic Synthesis」,(1981),TW Greene,John Wiley & Sons,New Yorkに記載の、糖化学において一般に使用される保護基である。保護基は、例えば、アセチル、ハロメチル、ベンゾイル、レブリニル ベンジル、置換ベンジル、場合により置換されているトリチル、テトラヒドロピラニル、アリル、ペンタニル、tert−ブチルジメチルシリル(tBDMS)またはトリメチルシリルエチル基から選択することができる。
【0029】
活性化基は、例えば、G.J.Boons,Tetrahedron,(1996),52,pp.1095−1121により、糖化学において慣用に使用される活性化基である。この活性基は、例えば、イミダート、チオグリコシド、ペンテニルグリコシド、キサンタート、ホスファイトまたはハロゲン化物から選択される。
【0030】
特に、上記方法による十六糖の遊離アミン官能基上への−CO−(CH−NH基の導入は、Act−CO−(CH−NH−Pgタイプ(「Act」は、酸官能基活性化基(例えば、イミド、例えば、スクシンイミド誘導体、もしくは混合酸無水物、またはアミノ/酸カップリング反応のためのペプチド化学において公知の任意の他の活性化剤)を表し、「Pg」は、アミン官能基保護基(例えば、ベンジルオキシカルボニル基)を表す。)の反応物質を使用して実施することができる。
【0031】
上記の方法により、本発明の化合物を塩の形態で得ることができる。対応する酸を得るため、塩形態の本発明の化合物を酸形態の陽イオン交換樹脂に接触させる。次いで、酸形態の本発明の化合物を塩基により中和して所望の塩を得ることができる。式(I)の化合物の塩を調製するため、式(I)の化合物と医薬的に許容される塩を与える任意の無機または有機塩基を使用することができる。水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムまたは水酸化マグネシウムが、塩基として好ましく使用される。式(I)の化合物のナトリウムおよびカルシウム塩が、好ましい塩である。
【0032】
本発明は、本発明による化合物の調製に関する以下の詳細な実施例によって、より明確に理解されたい。これらの実施例は、本発明を限定するものではなく、説明するものにすぎない。
【実施例1】
【0033】
化合物1の調製
メチル(2,3,4,6−テトラ−O−スルホナト−α−D−グルコピラノシル)−(1→4)−(2,3,6−トリ−O−スルホナト−α−D−グルコピラノシル)−(1→4)−(2,3,6−トリ−O−スルホナト−β−D−グルコピラノシル)−(1→4)−(2,3−ジ−O−メチル−6−O−スルホナト−α−D−グルコピラノシル)−(1→4)−(2,3,6−トリ−O−メチル−β−D−グルコピラノシル)−(1→4)−[(2,3,6−トリ−O−メチル−α−D−グルコピラノシル)−(1→4)−O−(2,3,6−トリ−O−メチル−β−D−グルコピラノシル)−(1→4)]−(2−[N−(6−アミノヘキサノイル)]−2−デオキシ−3−O−メチル−6−O−スルホナト−α−D−グルコピラノシル)−(1→4)−(2,3−ジ−O−メチル−β−D−グルコピラノシルウロン酸)−(1→4)−(2,3,6−トリ−O−スルホナト−α−D−グルコピラノシル)−(1→4)−(2,3−ジ−O−メチル−α−L−イドピラノシルウロン酸)−(1→4)−3−O−メチル−2,6−ジ−O−スルホナト−α−D−グルコピラノシドナトリウム塩
【0034】
1.1:スクシンイミジル6−(ベンジルオキシカルボニルアミノ)ヘキサノアートの調製
トリエチルアミン(0.63ml、4.52mmol)を、6−(ベンジルオキシカルボニルアミノ)ヘキサン酸(1.00g、3.77mmol)のジメチルホルムアミド(20ml)中溶液に添加し、混合物を周囲温度においてアルゴン下で30分間撹拌しておく。溶液を0℃に冷却し、クロロギ酸エチル(0.43ml、4.52mmol)を滴加する。周囲温度において2時間後、N−ヒドロキシスクシンイミド(0.52g、4.52mmol)を添加し、混合物を周囲温度において一晩撹拌しておく。混合物を蒸発乾固させてから、残留物を水中に取り、この水に酢酸エチルを添加する。相を分離し、水相を酢酸エチルにより抽出する。有機相を合わせ、硫酸ナトリウムにより脱水し、濾過し、蒸発乾固させてからシリカゲルカラム上で溶出剤としての酢酸エチル/ペンタン混合物(75/25v/v)により精製する。画分を1回蒸発させ、1.13gのスクシンイミジル6(ベンジルオキシカルボニルアミノ)ヘキサノアートを油状物の形態で生じさせる。TLC:R=0.22、シリカゲルプレート上、溶出剤としてn−ヘプタン/酢酸エチル混合物(30/70v/v)。
【0035】
1.2:化合物1’の調製
アミン鎖を、特許出願WO2006/030104に調製が記載されている十六糖43、またはメチル(2,3,4,6−テトラ−O−スルホナト−α−D−グルコピラノシル)−(1→4)−(2,3,6−トリ−O−スルホナト−α−D−グルコピラノシル)−(1→4)−(2,3,6−トリ−O−スルホナト−β−D−グルコピラノシル)−(1→4)−(2,3−ジ−O−メチル−6−O−スルホナト−α−D−グルコピラノシル)−(1→4)−(2,3,6−トリ−O−メチル−β−D−グルコピラノシル)−(1→4)−[(2,3,6−トリ−O−メチル−α−D−グルコピラノシル)−(1→4)−O−(2,3,6−トリ−O−メチル−β−D−グルコピラノシル)−(1→4)]−(2−アミノ−2−デオキシ−3−O−メチル−6−O−スルホナト−α−D−グルコピラノシル)−(1→4)−(2,3−ジ−O−メチル−β−D−グルコピラノシルウロン酸)−(1→4)−(2,3,6−トリ−O−スルホナト−α−D−グルコピラノシル)−(1→4)−(2,3−ジ−O−メチル−α−L−イドピラノシルウロン酸)−(1→4)−2,3,6−トリ−O−スルホナト−α−D−グルコピラノシドナトリウム塩上にグラフト化する。
【0036】
化合物43(200mg、40.6μmol)を、N,N−ジメチルホルムアミド(3ml)および水(0.5ml)の混合物中で溶解させる。スクシンイミジル6−(ベンジルオキシカルボニルアミノ)ヘキサノアート(66mg、0.18mmol)のN,N−ジメチルホルムアミド(0.7ml)中溶液をこの混合物に滴加する。周囲温度において48時間撹拌した後、反応容量を、真空下で蒸発することにより1mlに減らし、tert−ブチルメチルエーテル(30ml)に滴加する。懸濁液を1時間撹拌し、濾過して化合物1’に対応する固体生成物(190mg)を生じさせる。この生成物は、−NH−CO−(CH−NH基のアミン官能基がベンジルオキシカルボニル基により保護されている化合物1である。
【0037】
重水素化水中での200MHzにおけるプロトンNMR:得られたスペクトルが特許出願WO2006/030104の実施例2により合成された生成物のスペクトルと同一であり、ビオチン部分の原子に起因するシグナルは有さないが、ベンジルオキシ基に起因する5.2から5.3および7.4から7.5ppmのシグナルを有するという事実から、予期生成物の構造を確認する。
【0038】
1.3:化合物1の調製
前工程の終了時に得られた生成物1’(190mg)を、重水素化水(6ml)中で溶解させる。30%炭素上パラジウム(19mg)を添加し、溶液を周囲温度において水素雰囲気下で36時間撹拌しておく。濾過した後、溶液を30mlのtert−ブチルメチルエーテルに滴加し、懸濁液を1時間撹拌し、濾過して140mgの化合物1を生じさせる。
【0039】
TLC:R=0.8、シリカゲル上、ニトリル相がグラフト化しているMerck製HPTLCプレートを使用、アセトニトリル/水/エタノール溶出剤[5/4/1(v/v/v)]。
【0040】
全反射法による固体についての赤外線:998.28;1026.30;1227.37;1630.25;2942.25;3472.20cm−1
【0041】
重水素化水中での600MHzにおけるプロトンNMR:得られたスペクトルが特許出願WO2006/030104の実施例2により合成された生成物のスペクトルと同一であり、ビオチン部分の原子に起因するシグナルは有さないという事実から、予期生成物の構造を確認する。
【実施例2】
【0042】
化合物2の調製
メチル(2,3,4,6−テトラ−O−スルホナト−α−D−グルコピラノシル)−(1→4)−(2,3,6−トリ−O−スルホナト−α−D−グルコピラノシル)−(1→4)−(2,3,6−トリ−O−スルホナト−β−D−グルコピラノシル)−(1→4)−(2,3−ジ−O−メチル−6−O−スルホナト−α−D−グルコピラノシル)−(1→4)−(2,3,6−トリ−O−メチル−β−D−グルコピラノシル)−(1→4)−[(2,3,6−トリ−O−メチル−α−D−グルコピラノシル)−(1→4)−O−(2,3,6−トリ−O−メチル−β−D−グルコピラノシル)−(1→4)]−(2−[N−(6−アミノヘキサノイル)]−2−デオキシ−3−O−メチル−6−O−スルホナト−α−D−グルコピラノシル)−(1→4)−(2,3−ジ−O−メチル−β−D−グルコピラノシルウロン酸)−(1→4)−(2,3,6−トリ−O−スルホナト−α−D−グルコピラノシル)−(1→4)−(2,3−ジ−O−メチル−α−L−イドピラノシルウロン酸)−(1→4)−3−O−メチル−2,6−ジ−O−スルホナト−α−D−グルコピラノシドナトリウム塩
【0043】
実施例1に記載の方法を、特許出願WO2006/030104に調製が記載されている十六糖42、またはメチル(2,3,4,6−テトラ−O−スルホナト−α−D−グルコピラノシル)−(1→4)−(2,3,6−トリ−O−スルホナト−α−D−グルコピラノシル)−(1→4)−(2,3,6−トリ−O−スルホナト−β−D−グルコピラノシル)−(1→4)−(2,3−ジ−O−メチル−6−O−スルホナト−α−D−グルコピラノシル)−(1→4)−(2,3,6−トリ−O−メチル−β−D−グルコピラノシル)−(1→4)−[(2,3,6−トリ−O−メチル−α−D−グルコピラノシル)−(1→4)−O−(2,3,6−トリ−O−メチル−β−D−グルコピラノシル)−(1→4)]−(2−アミノ−2−デオキシ−3−O−メチル−6−O−スルホナト−α−D−グルコピラノシル)−(1→4)−(2,3−ジ−O−メチル−β−D−グルコピラノシルウロン酸)−(1→4)−(2,3,6−トリ−O−スルホナト−α−D−グルコピラノシル)−(1→4)−(2,3−ジ−O−メチル−α−L−イドピラノシルウロン酸)−(1→4)−3−O−メチル−2,6−ジ−O−スルホナト−α−D−グルコピラノシドナトリウム塩から出発して実施した。109mgの化合物2を得た。
【0044】
TLC:R=0.8、シリカゲル上、ニトリル相がグラフト化しているMerck製HPTLCプレートを使用、アセトニトリル/水/エタノール溶出剤[5/4/1(v/v/v)]。
【0045】
全反射法による固体についての赤外線:997.79;1025.99;1226.97;1634.37;2937.94;3468.92cm−1
【0046】
重水素化水中での600MHzにおけるプロトンNMR:得られたスペクトルが特許出願WO2006/030104の実施例1により合成された生成物のスペクトルと同一であり、ビオチン部分の原子に起因するシグナルは有さないという事実から、予期生成物の構造を確認する。
【0047】
【化3】

【0048】
【化4】

【0049】
【化5】

【0050】
本発明による化合物を、生化学的および薬理学的実験の対象とした。
【0051】
これらの生成物の薬理学的活性を、特に、J.−M.Herbert et al.,Blood,1998,91,4197−4205に記載の通り、アンチトロンビンの存在下でXa凝固因子の阻害のインビトロモデルにおいて実験した(アンチトロンビンの存在に依存する抗Xa因子活性)。このモデルにおいて、本発明による化合物の抗トロンビン特性が確認される。
【0052】
本発明のオリゴ糖の生化学的および医薬的活性により、本発明のオリゴ糖は、極めて有利な医薬品を構成する。本発明のオリゴ糖の毒性は、この使用と完全な適合性を示す。本発明のオリゴ糖はまた、極めて安定であり、従って、特許医薬の活性成分を構成するのに特に好適である。
【0053】
本発明のオリゴ糖は、特に、心血管および脳血管系障害の間に生じる凝固系の恒常性の変化に続く種々の病態、例えば、アテローム性動脈硬化症および糖尿病に伴う血栓塞栓障害、例えば、不安定狭心症、卒中、血管形成術後の再狭窄、動脈内膜摘除術、血管内プロテーゼ挿入;または血栓溶解後の再血栓症(rethrombosis)、梗塞、虚血由来の認知症、末梢動脈障害、血液透析、心房細動に伴う血栓塞栓障害、または血管プロテーゼを大動脈冠状動脈バイパス術に使用する間の血栓塞栓障害において使用することができる。本発明の生成物は、さらに、静脈由来の血栓塞栓病態、例えば、肺塞栓症および深部静脈血栓症の治療または予防に使用することができる。本発明の生成物は、例えば、外科的手術後に観察される血症合併症、腫瘍の増殖または細菌性、ウイルス性もしくは酵素的活性化因子により誘発される凝固異常を予防または治療するために使用することができる。本発明の化合物をプロテーゼの挿入の間に使用する場合、本発明の化合物はプロテーゼを被覆することができ、従って、プロテーゼを血液適合性にすることができる。特に、本発明の化合物は、血管内プロテーゼ(ステント)に付着させることができる。この場合、本発明の化合物は、EP649854に記載の通り、適切なアームを非還元または還元末端に導入することにより、場合により化学的に改変することができる。本発明の化合物は、有孔バルーンにより実施される動脈内膜摘除術中の補助剤として使用することもできる。
【0054】
本発明による化合物は、上記疾患治療用の医薬品の調製において使用することができる。
【0055】
従って、本発明の別の態様によれば、本発明の主題は、活性成分として、本発明による合成多糖またはそれらの医薬的に許容されるこの塩を、1種以上の好適な不活性賦形剤と場合により組み合わせて含有する医薬組成物である。
【0056】
前記賦形剤は、所望の医薬形態および投与方式:経口、舌下、皮下、筋肉内、静脈内、経皮、経粘膜、局所または直腸に従って選択される。
【0057】
活性成分はシクロデキストリン、例えば、α−、β−またはγ−シクロデキストリン、2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンまたはメチル−β−シクロデキストリンとの複合体の形態で提供することもできる。
【0058】
活性成分は、活性成分を含有するバルーンにより、または血管中に挿入される血管内拡張器によっても放出させることができる。従って、活性成分の薬理学的効力は影響を受けない。
【0059】
各投与単位において、活性成分は、所望の予防または治療効果を得るのに好適な量で存在する。各投与単位は、0.1から100mgの活性成分、好ましくは0.5から50mgの活性成分を含有することができる。
【0060】
本発明による化合物は、所望の治療に使用される1種以上の他の活性成分、例えば、抗血栓薬、抗凝固薬、血小板凝集阻害剤など、例えば、ジピリダモール、アスピリン、チクロピジン、クロピドグレル、またはグリコプロテインIIb/IIIa複合アンタゴニストと組み合わせて使用することもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)の十六糖およびそれらの医薬的に許容される塩:
【化1】

[式中、
Tは、−NH−CO−(CH−NH基を表し、
Rは、(C−C)アルコキシ基、特にメトキシ基または−OSO基を表し、
は、(C−C)アルコキシ基、特にメトキシ基または−OSO−基を表し、
は、(C−C)アルコキシ基または−OSO−基を表し、
は、(C−C)アルコキシ基、特にメトキシ基もしくは−OSO基を表し、またはRは、−O−CH−架橋を構成し、−CH−基は、同一環上のカルボキシル官能基を担持する炭素原子に結合しており、
Peは、以下の式の糖鎖:
【化2】

を表す。]。
【請求項2】
Rが、メトキシ基または−OSO基を表し、
が、メトキシ基を表し、
が、−OSO基を表し、および
が、メトキシ基を表す、
請求項1に記載の十六糖。
【請求項3】
以下から選択される、請求項1または2に記載の十六糖:
メチル(2,3,4,6−テトラ−O−スルホナト−α−D−グルコピラノシル)−(1→4)−(2,3,6−トリ−O−スルホナト−α−D−グルコピラノシル)−(1→4)−(2,3,6−トリ−O−スルホナト−β−D−グルコピラノシル)−(1→4)−(2,3−ジ−O−メチル−6−O−スルホナト−α−D−グルコピラノシル)−(1→4)−(2,3,6−トリ−O−メチル−β−D−グルコピラノシル)−(1→4)−[(2,3,6−トリ−O−メチル−α−D−グルコピラノシル)−(1→4)−O−(2,3,6−トリ−O−メチル−β−D−グルコピラノシル)−(1→4)]−(2−[N−(6−アミノヘキサノイル)]−2−デオキシ−3−O−メチル−6−O−スルホナト−α−D−グルコピラノシル)−(1→4)−(2,3−ジ−O−メチル−β−D−グルコピラノシルウロン酸)−(1→4)−(2,3,6−トリ−O−スルホナト−α−D−グルコピラノシル)−(1→4)−(2,3−ジ−O−メチル−α−L−イドピラノシルウロン酸)−(1→4)−3−O−メチル−2,6−ジ−O−スルホナト−α−D−グルコピラノシドナトリウム塩、
メチル(2,3,4,6−テトラ−O−スルホナト−α−D−グルコピラノシル)−(1→4)−(2,3,6−トリ−O−スルホナト−α−D−グルコピラノシル)−(1→4)−(2,3,6−トリ−O−スルホナト−β−D−グルコピラノシル)−(1→4)−(2,3−ジ−O−メチル−6−O−スルホナト−α−D−グルコピラノシル)−(1→4)−(2,3,6−トリ−O−メチル−β−D−グルコピラノシル)−(1→4)−[(2,3,6−トリ−O−メチル−α−D−グルコピラノシル)−(1→4)−O−(2,3,6−トリ−O−メチル−β−D−グルコピラノシル)−(1→4)]−(2−[N−(6−アミノヘキサノイル)]−2−デオキシ−3−O−メチル−6−O−スルホナト−α−D−グルコピラノシル)−(1→4)−(2,3−ジ−O−メチル−β−D−グルコピラノシルウロン酸)−(1→4)−(2,3,6−トリ−O−スルホナト−α−D−グルコピラノシル)−(1→4)−(2,3−ジ−O−メチル−α−L−イドピラノシルウロン酸)−(1→4)−2,3,6−トリ−O−スルホナト−α−D−グルコピラノシドナトリウム塩。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の十六糖を含むことを特徴とする医薬品。
【請求項5】
活性成分として、請求項1から3のいずれか一項に記載の十六糖を含有し、および1種以上の好適な不活性賦形剤をも含有する医薬組成物。
【請求項6】
心血管および脳血管系障害の間に生じる凝固系の恒常性の変化に続く病態、例えば、アテローム性動脈硬化症および糖尿病に伴う血栓塞栓障害、例えば、不安定狭心症、卒中、血管形成術後の再狭窄、動脈内膜摘除術、血管内プロテーゼ挿入;または血栓崩壊後の再血栓症、梗塞、虚血由来の認知症、末梢動脈障害、血液透析、心房細動に伴う血栓塞栓障害、血管プロテーゼを大動脈冠状動脈バイパス術に使用する間の血栓塞栓障害の治療および予防用の医薬品を調製するための、静脈由来の血栓塞栓病態、例えば、肺塞栓症および深部静脈血栓症の治療または予防における、外科的手術後に観察される血栓合併症、腫瘍の増殖または細菌性、ウイルス性もしくは酵素的活性化因子により誘発される凝固異常を予防または治療するための、請求項1から3のいずれか一項に記載の十六糖の使用。
【請求項7】
プロテーゼを被覆するための、請求項1から3のいずれか一項に記載の十六糖の使用。
【請求項8】
有孔バルーンを用いて実施される動脈内膜摘除術中の補助剤としての、請求項1から3のいずれか一項に記載の十六糖の使用。

【公表番号】特表2012−500885(P2012−500885A)
【公表日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−524424(P2011−524424)
【出願日】平成21年8月24日(2009.8.24)
【国際出願番号】PCT/FR2009/001024
【国際公開番号】WO2010/023375
【国際公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(504456798)サノフイ (433)
【Fターム(参考)】