説明

共沸又は共沸様組成物、及び2,3,3,3−テトラフルオロプロペンの製造方法

本発明は、水と2,3,3,3−テトラフルオロプロペンからなる混合物を蒸留して、該混合物より水分濃度の高い2,3,3,3−テトラフルオロプロペンを含む第1ストリームと、該混合物より水分濃度の低い2,3,3,3−テトラフルオロプロペンを含む第2ストリームに分離し、第2ストリームから水分濃度が低下した2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを得る工程を含む、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法を提供するものである。本発明方法によれば、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)に含まれる水分を効率よく除去できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと水からなる共沸又は共沸様組成物、及び該共弗又は共弗様組成物の性質を利用する水分濃度の低下した2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
HFC-125(C2HF5)、HFC-32(CH2F2)などの代替冷媒は、オゾン層を破壊するCFC、HCFCなどに替わる重要な物質として広く用いられている。しかしながら、これらの代替溶媒は強力な地球温暖化物質であり、その拡散によって地球温暖化に影響を及ぼすことが懸念されている。その対策として使用後の回収が行われているが、すべてを回収できるわけではなく、漏洩などによる拡散も無視できない。代替溶媒としてCO2や炭化水素系物質の使用も検討されているが、CO2冷媒は効率が悪く、これを用いる機器は大きくなることから、消費エネルギーを含めた総合的な温暖化ガス排出量の削減には課題が多い。また、炭化水素系物質はその燃焼性の高さから安全性の面で問題がある。
【0003】
これらの問題を解決する物質として、最近、温暖化係数の低いオレフィンのHFCである2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf、CF3CF=CH2)が注目されている。
【0004】
2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)の製造方法としては、1,1,1,2,3−ペンタフルオロプロパン(HFC-245eb)や1,1,1,2,2−ペンタフルオロプロパン(HFC-245cb)を脱フッ化水素反応に供する方法が知られている。しかしながら、これらの脱フッ化水素反応を用いる方法では、得られたHFO-1234yfはHFとの混合物となるため、何らかの方法でHFを除去することが必要である。
【0005】
HFO-1234yfとHFの混合ガスからHFを取り除く方法として最も簡便な方法は、水によりHFを吸収する方法である。しかしながら、この方法では、処理後のHFO-1234yfには、蒸気ミストや、蒸気圧分の水が必ず混入する。その他にも、原料中に含まれる水分や、触媒から発生する水分、設備内に残留する水分など、さまざまな水の発生源があり、これらの水分がHFO-1234yfに混入することになる。
【0006】
最終製品であるHFO-1234yfに含まれる水分は、HFO-1234yfの安定性や装置の腐食性、冷媒としての能力などに影響を及ぼすため、品質管理上も重要なファクターの一つであり、水分を除去する方法は特に重要な技術である。
【0007】
従来は、モレキュラーシーブなどの吸着剤を用いて脱水する方法が一般的であり、例えば、下記特許文献1には、液状のHFO-1234yfをゼオライトに流通させて乾燥する方法が開示されている。しかしながら、この方法では、水分濃度が比較的低いガスを高速で処理する必要があるため大きな脱水塔が必要である。しかも、定期的に吸着剤を再生、交換する必要があり、交換の際には多量の産業廃棄物が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】WO2007/144632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記した従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)から水分を効率よく除去できる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと水が最低共沸組成物(液液分離する場合は、異相共沸組成物という)を形成するという従来知られていない現象を見出した。そして、この性質を利用することで、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン中に含まれる水を効率的に除去できることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて完成されたものである。
【0011】
即ち、本発明は、下記の共沸又は共沸様組成物、及び水分濃度の低下した2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法を提供するものである。
1. 2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと水からなる共沸又は共沸様組成物。
2. 2,3,3,3-テトラフルオロプロペン99重量%〜99.995重量%と水0.005〜1重量%からなる共沸又は共沸様組成物。
3. 水と2,3,3,3−テトラフルオロプロペンからなる混合物を蒸留して、該混合物より水分濃度の高い2,3,3,3−テトラフルオロプロペンを含む第1ストリームと、該混合物より水分濃度の低い2,3,3,3−テトラフルオロプロペンを含む第2ストリームに分離し、第二ストリームから水分濃度の低下した2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを得る工程を含む、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法。
4. 大気圧〜2MPaの圧力範囲で蒸留を行う上記項3に記載の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法。
5. 更に、上記項3又は4の方法で分離された第1ストリームの混合物を冷却して水を多く含む液相Aと、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを多く含む液相Bに分離する工程を含む、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法。
6. 更に、上記項5の方法で分離された液相Bを蒸留塔に再循環する工程を含む、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法。
【0012】
以下、本発明の共沸又は共沸様組成物、及び2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法について具体的に説明する。
【0013】
共沸又は共沸様組成物
本発明の共沸又は共沸様組成物は、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと水からなるものである。
【0014】
本発明者の研究によれば、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと水の混合物の精留を行う際に、精留塔の塔頂に向かって水分濃度が増加し、一定の水分濃度に達するとこれ以上濃度が上昇しない現象が見出された。このことから、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと水が最低共沸組成物を形成することが明らかとなった。具体的な共沸組成は、温度及び圧力によって変動するが、圧力0.55MPa、温度16℃においては、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン99.979重量%と水0.021重量%からなる組成が共沸組成である。
【0015】
本発明では、後述する通り、水分除去のための蒸留操作に適する圧力は、大気圧〜2MPa程度の範囲である。この圧力範囲においては、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン99重量%〜99.995重量%程度と水0.005〜1重量%程度の範囲の混合物が共沸又は共沸様組成物となる。
【0016】
ここで、共沸組成物とは、液相と平衡にある気相が液相と同一の組成を示す混合物を意味し、共沸様組成物とは、液相と平衡にある気相が液相と類似の組成を示す混合物を意味する。
【0017】
水分濃度の低下した2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法
本発明の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法では、まず、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと水の混合物の蒸留を行う。蒸留は、大気圧(0.1013MPa)〜2MPa程度の圧力で行えばよい。圧力が低すぎると還流温度が低くなり、塔内で分液する可能性があるため、0.4MPa〜2MPa程度の圧力範囲で行うのが好適である。
【0018】
原料として用いるHFO-1234yfに含まれる水分量は任意であるが、両者の相互溶解度には限界がある。このため、原料とするHFO-1234yf中の水分量が多すぎるときは、精留塔内で液液分離を生じることがあり、三相蒸留となって、これにより精留塔の効率が低下する。このため、蒸留塔の前に、デカンターなどを用いて水相とHFO-1234yfリッチの有機相に分液させてHFO-1234yf中の水分濃度をある程度低下させた後、水分量の低下したHFO-1234yfを精留塔に供給してもよい。
【0019】
上記した通り、大気圧(0.1013MPa)〜2MPaの圧力範囲において、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン99重量%〜99.995重量%と水0.005〜1重量%程度の範囲の混合物、即ち、水の含有量が50〜10000ppm(重量基準、以下同様)の範囲の混合物が共沸又は共沸様組成物となる。
【0020】
従って、水の含有率が上記した共沸組成を下回る2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと水の混合物を蒸留する場合に、水分が濃縮された2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと水の混合物、即ち、蒸留塔に供給された混合物より水分濃度が高い2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと水の混合物が、蒸留塔の塔頂部から得られる。
【0021】
塔頂部から得られた水分の濃縮された2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと水の混合物については、モレキュラーシーブなどの吸着剤を用いて乾燥すれば、従来の方法に比べて乾燥塔を小さくすることができる。また、塔頂部から得られた2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと水の混合物について、デカンタ等を用いて冷却して、水を多く含む液相Aと、2,3,3,3-−テトラフルオロプロペンを多く含む液相Bに分離することにより、さらに効率的に水分の分離を行うことができる。デカンタにおいては、蒸留塔から抜き出した2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと水の混合物よりも低い温度に冷却して二液相に分離を行えばよい。温度は分液した水が凍らない温度とすればよい。
【0022】
上記した蒸留操作と液液分離を連続した操作として行うことによって、効率良く水分を分離することができる。
【0023】
上記方法で分離された水を多く含む相は廃棄すればよい。また、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを多く含む相については、精留塔に戻して再度精留することもできるし、これのみモレキュラーシーブで乾燥すれば、乾燥塔を大幅に小さくすることができる。
【0024】
塔底から得られる水分濃度の低下した2,3,3,3-テトラフルオロプロペンについても、モレキュラーシーブ等で乾燥することによって、規模の小さい乾燥塔を用いて水分を除去することができる。
【0025】
上記した方法によれば、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと水の混合物から、水分濃度の低下した2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを得ることができる。
【0026】
尚、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと水の蒸留においては、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンに含まれる不純物、例えば脱フッ化水素反応の原料で未反応物として残留する1,1,1,2,3−ペンタフルオロプロパン(HFC-245eb)や1,1,1,2,2−ペンタフルオロプロパン(HFC-245cb)などの物質を含んでいてもよい。その場合は2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと一緒に抜き出して、別の蒸留塔で分離すればよい。
【0027】
なお、「濃縮」および「除去」なる用語は、相対する概念を意味するものとして使用している。即ち、混合物においてある成分を濃縮することは、その成分以外の他の成分を除去することになる。
【発明の効果】
【0028】
本発明方法によれば、各種の合成方法で得られた水を含む2,3,3,3-テトラフルオロプロペンについて、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと水の共沸を利用した蒸留操作行い、更に、必要に応じて液液分離を行うによって、効率よく水分を除去することができ、水分濃度の低下した2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施例1の操作の概要を示すフロー図である。
【図2】実施例2の操作の概要を示すフロー図である。
【図3】実施例3の操作の概要を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0031】
実施例1
図1に示すフロー図に従って2,3,3,3-テトラフルオロプロペン中に含まれる水分の除去を行った。以下の実施例1〜3は、蒸留及び液液分離を連続操作により行う方法の例を示す。
【0032】
まず、水分を50ppm含む2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを、10kg/hrの速度で高さ2m、径7cmの精留塔中段に仕込み(ストリームF11)、塔の運転圧力:0.6MPa、塔頂温度:21℃、還流比:16の条件で精留を行った。
【0033】
塔頂から水分の濃縮された2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを抜き出し、1kg/hrの速度でデカンタに供給し(ストリームS11)、2℃に冷却して液液分離を行った。下層を精留塔塔頂に戻した(ストリームS14)。上層は水分に富む層として分離した(ストリームS13)。
【0034】
塔底からは9kg/hrの速度で水分量の減少した2,3,3,3-テトラフルオロプロペンが得られた(ストリームS12)。
【0035】
各ストリームの水分濃度をカールフィッシャー水分計により測定した結果を下記表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
実施例2
図2に示すフロー図に従って2,3,3,3-テトラフルオロプロペン中の水分の除去を行った。
【0038】
まず、水分を50ppm含む2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを、10kg/hrの速度で高さ2m、径7cmの精留塔中段に仕込み(ストリームF11)、塔の運転圧力:0.6MPa、塔頂温度:21℃、還流比:16の条件で精留を行った。
【0039】
塔頂から水分の濃縮された2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを1kg/hrの速度で抜き出し(ストリームS11)、モレキュラーシーブを充填した乾燥塔へフィードし、乾燥した(ストリームS13)。
【0040】
塔底からは9kg/hrの速度で水分の減少した2,3,3,3-テトラフルオロプロペンが得られた(ストリームS12)。
【0041】
各ストリームの水分濃度をカールフィッシャー水分計により測定した結果を下記表2に示す。
【0042】
【表2】

【0043】
実施例3
図3に示すフロー図に従って2,3,3,3-テトラフルオロプロペン中の水分の除去を行った。
【0044】
まず、水分を50ppm含む2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを、10kg/hrの速度で高さ2m、径7cmの精留塔中段に仕込み(ストリームF11)、塔の運転圧力:0.6MPa、塔頂温度:21℃、還流比:16の条件で精留を行った。
【0045】
塔頂から水分の濃縮された2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを抜き出し、1kg/hrの速度でデカンタに供給した(ストリームS11)。2℃に冷却して液液分離を行い、下層を液体として抜き出し(ストリームS14)、モレキュラーシーブ4Aを充填した塔を通して乾燥した(ストリームS15)。上層は水分に富む層として分離した(ストリームS13)。
【0046】
塔底からは9kg/hrの速度で水分の減少した2,3,3,3-テトラフルオロプロペンが得られた(ストリームS12)。
【0047】
各ストリームの水分濃度をカールフィッシャー水分計により測定した結果を下記表3に示す。
【0048】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと水からなる共沸又は共沸様組成物。
【請求項2】
2,3,3,3-テトラフルオロプロペン99重量%〜99.995重量%と水0.005〜1重量%からなる共沸又は共沸様組成物。
【請求項3】
水と2,3,3,3−テトラフルオロプロペンからなる混合物を蒸留して、該混合物より水分濃度の高い2,3,3,3−テトラフルオロプロペンを含む第1ストリームと、該混合物より水分濃度の低い2,3,3,3−テトラフルオロプロペンを含む第2ストリームに分離し、第二ストリームから水分濃度の低下した2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを得る工程を含む、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法。
【請求項4】
大気圧〜2MPaの圧力範囲で蒸留を行う請求項3に記載の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法。
【請求項5】
更に、請求項3又は4の方法で分離された第1ストリームの混合物を冷却して、水を多く含む液相Aと、2,3,3,3-−テトラフルオロプロペンを多く含む液相Bに分離する工程を含む、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法。
【請求項6】
更に、請求項5の方法で分離された液相Bを蒸留塔に再循環する工程を含む、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−500185(P2012−500185A)
【公表日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−507751(P2011−507751)
【出願日】平成21年8月21日(2009.8.21)
【国際出願番号】PCT/JP2009/065023
【国際公開番号】WO2010/024366
【国際公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】