説明

共焦点STEM像取得方法及び装置

【課題】本発明は共焦点像取得装置に関し、構成を簡単にした共焦点STEM像取得方法及び装置を提供することを目的としている。
【解決手段】電子ビームを試料10に照射し試料から放出される信号を検出する検出器6'と、該検出器で検出した信号を記憶するメモリ22と、前記検出器を制御すると共にメモリに記憶した画像を読み出して所定の演算処理を行なう演算制御手段21と、を具備し、前記演算制御手段21は、メモリ22に記憶した画像からその場所に対応する回折像を引き出し、ピクセル毎に回折像中心位置を選択して中心位置の補正を行ない、中心位置の補正を行なったピクセル毎の回折画像の中心位置を合わせた回折情報を有する画像セットを作成し、作成した画像セットのピクセル毎に中心位置の更に中心部のみを選択して回折画像からSTEM画像を再生して共焦点STEM像を得る、ように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は共焦点STEM像取得方法及び装置に関し、構成を簡単にした共焦点STEM像取得方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子銃から引き出された電子ビームは加速管で加速され、薄膜試料に照射される。電子線は薄膜試料を通過する時に、試料と相互作用し、軌道や位相を変えたり、サンプル中の原子と相互作用することによりエネルギーをロスしたりする。
【0003】
共焦点型透過電子顕微鏡は、電子銃から出た照射電子を収束レンズによって試料上にフォーカスし、試料を透過した電子を結像レンズによって試料下にある検出器上面の絞り位置に再びフォーカスし、試料上の収束電子プローブの中央の一部のみを絞りによって透過させて検出器により検出するものである。
【0004】
図6は従来装置の構成例を示す図である。図において、1は電子銃、2は引き出された電子を収束する収束レンズ、10は収束レンズ2の後段に配置された試料である。3は該試料10を光軸と垂直方向に移動させるピエゾアクチュエータである。4は試料10を透過した透過電子を含む信号を結像するための結像レンズ、5は該結像レンズ4の下段のフォーカス点に配置されたピンホール型のアパーチャ、6はアパーチャ5を透過した画像信号を検出する検出器である。9は試料を3次元に移動させるゴニオメータである。
【0005】
7はコントロールイメージングシステムパソコン(PC)、8は電子顕微鏡システムパソコン(PC)である。コントロールイメージングシステムPC7は検出器6からの検出信号を受けると共に、ピエゾアクチュエータ3に制御信号を与えている。電子顕微鏡システムPC8は、収束レンズ2及びゴニオメータ9及び結像レンズ4を制御する。このように構成された装置の動作を説明すれば、以下の通りである。
【0006】
電子銃1から出射された電子ビームは収束レンズ2により収束され、試料10上に細かく絞って2次元方向に走査される。この時、試料10を透過した透過電子等の信号は、結像レンズ4を介してアパーチャ5を介して検出器6上に照射される。ここで、アパーチャ5をピンホール絞りとしておけば、焦点位置からのみの透過電子を取得することができる。
【0007】
取得された透過電子は、試料検出器6で検出され、コントロールイメージングシステムPC7に入力され、メモリ(図示せず)に記憶される。この際において、試料走査を電子顕微鏡システムPC8で制御し、検出器6による検出器信号と同期させて共焦点像を得ることができる。
【0008】
この従来装置では、光学系を固定し、試料10のみをピエゾアクチュエータ3により走査するようにする。これにより、結像系の走査システムを不要とすることができる。
その他のこの種の装置として、暗視野走査透過電子顕微鏡(ADF−STEM)の像計算を共焦点走査透過型電子顕微鏡に応用して該共焦点走査透過型電子顕微鏡の共焦点像を得るようにして試料の深さ方向の情報を得ることができるようにした装置が知られている。
【0009】
従来のこの種の装置としては、試料を透過した電子線の強度を、電子線の焦点位置を試料の深さ方向に変化させて測定し、試料による電子線の吸収及び散乱の深さ方向の分布を測定する技術が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0010】
また、試料を保持する試料ステージを、ナノ駆動構造により電子ビームの光軸方向であるZ軸方向とそれに直交するX軸とY軸方向とに移動調整可能にした技術が知られている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2008−84643号公報(段落0013〜0027、図1〜図3)
【特許文献2】特開2008−270056号公報(段落0019〜0023、図4,図5,図6,図12,図13)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
走査透過型電子顕微鏡において共焦点走査透過型電子顕微鏡像を得ようとする場合、検出器6の前に配置する特殊なピンホール型絞り(アパーチャ)が必要である。また、共焦点像を得るためにピンホールを透過でき、別の信号が混じらないように試料上のビームのスキャンのみならず、結像系にもビームのスキャン装置が必要とる。この場合において、結像系スキャンは、走査系スキャンと連動することが絶対であり、通常の装置では困難であり、また制御も困難である。
【0013】
上記した問題を緩和するため、図6に示す装置では、電子ビームのスキャンを停止し、試料上にスポットモードでビームを止めた状態を作る。その上で、試料側をスキャンすることで、結像系のスキャンを必要としない装置を作ることができる。しかしながら、この装置も試料をサブÅスケールで走査させる必要があり、試料ドリフトの問題及びx,y方向の試料移動に伴い、z方向の位置ずれも生じ、通常x,yはゴニオメータのx,yの共同で作り出しているため制御が大変である。
【0014】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであって、以下のような目的を有している。
1)本発明は、スキャニングと同期させて回折像(Diffraction)をCCDカメラにより記録する。
2)CCDカメラに記録された結像系信号(Diffraction patterm)を、データ取得後で画像データとして中心位置を検知、位置補正を行なうことで、結像系スキャンを不要とする。
3)位置補正を行なったDiffractionを有するスキャン画像中から抜き出したDiffraction中心部のみから画像データとして再生することで、検出器前に置かれたピンホール型の絞りを不要とする。
4)特殊な装置を用いず、通常の装置で共焦点走査透過型電子顕微鏡像を得ることができる。
【0015】
本発明は、このように、構成を簡単にした共焦点STEM像取得方法及び装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記した課題を解決するために、本発明は以下のような構成をとっている。
(1)請求項1記載の発明は、電子ビームで試料を2次元走査して試料から放出される信号を検出器で検出し、該検出器で検出した信号をデジタルデータに変換して画像データとしてメモリに記憶し、メモリに記憶した画像からその場所に対応する回折像を引き出し、引き出した回折像に対してピクセル毎に回折像中心位置を選択して中心位置の補正を行ない、中心位置の補正を行なったピクセル毎の回折画像の中心位置を合わせた回折情報を有する画像セットを作成し、作成した画像セットのピクセル毎に中心位置の更に中心部のみを選択して回折画像からSTEM画像を再生して共焦点STEM像を得るようにしたことを特徴とする。
【0017】
(2)請求項2記載の発明は、電子ビームで試料を2次元走査して試料から放出される信号を検出する検出器と、該検出器で検出した信号をデジタルデータに変換して画像データとして記憶するメモリと、前記検出器及び前記メモリと接続され、前記検出器を制御すると共にメモリに記憶した画像を読み出して所定の演算処理を行なう演算制御手段と、を具備し、前記演算制御手段は、メモリに記憶した画像からその場所に対応する回折像を引き出し、引き出した回折像に対してピクセル毎に回折像中心位置を選択して中心位置の補正を行ない、中心位置の補正を行なったピクセル毎の回折画像の中心位置を合わせた回折情報を有する画像セットを作成し、作成した画像セットのピクセル毎に中心位置の更に中心部のみを選択して回折画像からSTEM画像を再生して共焦点STEM像を得るように構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明は以下に示すような効果を有する。
(1)請求項1記載の発明によれば、特殊な検出器絞りを用いず、また照射系スキャンと連動した結像系スキャンを用いることなく、通常の走査透過型電子顕微鏡において共焦点走査透過型電子顕微鏡像を得ることができる。
【0019】
(2)請求項2記載の発明によれば、特殊な検出器絞りを用いず、また照射系スキャンと連動した結像系スキャンを用いることなく、通常の走査透過型電子顕微鏡において共焦点走査透過型電子顕微鏡像を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の構成原理図である。
【図2】画像からその場所に対応する回折像引き出しの説明図である。
【図3】回折像の中心位置を選択し、中心位置の補正を示す図である。
【図4】各ピクセル毎に中心位置を合わせた回折情報の画像セットを示す図である。
【図5】共焦点STEM画像生成の説明図である。
【図6】従来装置の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の実施例を詳細に説明する。図1は本発明の構成原理図である。図6と同一のものは同一の符号を付して示す。図において、10は試料、20は該試料10上にフォーカスされる電子プローブである。該電子プローブ20は、外部からのスキャン制御信号によって試料10上を走査する。試料10に入射された電子プローブ20は、該試料10との相互作用により20a〜20cに示すような方向に出射される。
【0022】
6'は透過電子像を検出するCCDカメラである。21はCCDカメラ6'からの検出信号を電気信号に変換した画像データを取り込んでデジタル画像データに変換した後、メモリ22に記憶させる、演算制御手段としてのCCDカメラ制御パソコン(PC)である。CCDカメラ制御PC21は、メモリ22に記憶された画像データを読み出して後述するような所定の演算処理を行なう。
【0023】
23は電子プローブ20を試料上で二次元方向にスキャンするための電子ビームスキャン制御信号を図示しない照射光学系に与える電子顕微鏡制御パソコン(PC)である。該電子顕微鏡制御パソコン23からはCCDカメラ制御PC21にスキャン情報が与えられ、画像取得の同期をとるようになっている。図より明らかなように、本発明には結像光学系は不要となっている。このように構成された装置の動作を説明すれば以下のとおりである。
【0024】
(1)図2は画像からその場所に対応する回折像引き出しの説明図である。先ず、顕微鏡制御PC23(以下PC2と略す)により電子プローブ20が試料10上をスキャンする。
【0025】
(2)試料10上を電子プローブ20がスキャンすることにより、試料10からは透過電子や散乱電子が出射される。CCDカメラ6'は、試料10を透過した透過像をスキャニングと同期して検出してCCDカメラ制御PC21(以下PC1と略す)に送信する。PC21は、CCDカメラ6'から送られてくるアナログ画像データを図示しないA/D変換器によりデジタル画像データに変換してメモリ22に記憶させていく。
【0026】
(3)次に、PC1はメモリ22に記憶された画像を読み出して、この画像からその場所に対応する回折像を引き出す。図2は画像からその場所に対応する回折像引き出しの説明図である。図において、(a)はスキャン画像、(b)は回折像である。(a)に示す四角で囲った領域のピクセル毎の回折像を引き出す。スキャン画像と回折像とはペアになっているので、既存の技術を用いてスキャン画像から回折像をピクセル毎に引き出す(変換)するのは容易である。
【0027】
(4)PC1はステップ(3)で引き出された回折像の中心位置(透過波)を選択し、ドリフト補正をかける。図3は回折像の中心位置を選択し、中心位置の補正を示す図である。中心付近の透過波を選択し、選択した回折像の中心位置(透過波)補正を行なう。図では、ピクセル1〜ピクセル4…毎に回折像の中心位置を図の矢印方向に移動させて中心位置の補正を行なう。この方法は、結像系スキャンで戻すための補正を中心位置の補正を行なうことで実現するようにしたものである。
【0028】
試料をスキャンすると、CCDカメラ6'の検出面で回折パターンが移動する。これを補正して中心位置にもってくる必要がある。これは、投影系をスキャンしてピンホールに固定することに相当する。中心位置の補正は、例えば相互相関関数等を用いてズレの大きさを計算し、計算したズレ量だけ回折像の中心位置を補正すればよい。
【0029】
(5)PC1は各ピクセル毎に中心(透過波)位置を合わせた回折情報を有する画像セットを作成する。図4は各ピクセル毎に中心位置を合わせた回折情報の画像セットを示す図である。(a)は回折像の中心があったSTEM画像(各ピクセル毎に回折パターンを内包している)。(b)が画像セットである。画像セットは複数のピクセル毎の回折像から構成されており、ステップ(4)で位置補正を行なった回折像である。
【0030】
(6)PC1は画像セットの内、中心位置の更に中心部のみを選択し、共焦点STEM像を得る。図5は共焦点STEM画像生成の説明図である。(a)はピクセル毎の回折像、(b)はこの回折像から中心位置の更に中心部のみを選択して変換された共焦点STEM像である。中心位置の更に中心部のみを選択するのは、従来装置と同様のピンホールで獲得した共焦点STEM像と同様に正確な共焦点STEM像を得るためである。
【0031】
以上、詳細に説明したように、本発明によれば、特殊な検出絞りを用いず、また照射系スキャンと結像系スキャンを用いずとも、通常の走査透過型電子顕微鏡において、共焦点走査透過型電子顕微鏡像を得ることができる。
【符号の説明】
【0032】
6' CCDカメラ
10 試料
20 電子プローブ
20a 透過像
20b 透過像
20c 透過像
21 CCDカメラ制御PC
22 メモリ
23 顕微鏡制御PC

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子ビームで試料上を2次元走査して試料から放出される信号を検出器で検出し、
該検出器で検出した信号をデジタルデータに変換して画像データとしてメモリに記憶し、
メモリに記憶した画像からその場所に対応する回折像を引き出し、
引き出した回折像に対してピクセル毎に回折像中心位置を選択して中心位置の補正を行ない、
中心位置の補正を行なったピクセル毎の回折画像の中心位置を合わせた回折情報を有する画像セットを作成し、
作成した画像セットのピクセル毎に中心位置の更に中心部のみを選択して回折画像からSTEM画像を再生して共焦点STEM像を得る、
ようにしたことを特徴とする共焦点STEM像取得方法。
【請求項2】
電子ビームで試料上を2次元走査して試料から放出される信号を検出する検出器と、
該検出器で検出した信号をデジタルデータに変換して画像データとして記憶するメモリと、
前記検出器及び前記メモリと接続され、前記検出器を制御すると共にメモリに記憶した画像を読み出して所定の演算処理を行なう演算制御手段と、
を具備し、
前記演算制御手段は、
メモリに記憶した画像からその場所に対応する回折像を引き出し、
引き出した回折像に対してピクセル毎に回折像中心位置を選択して中心位置の補正を行ない、
中心位置の補正を行なったピクセル毎の回折画像の中心位置を合わせた回折情報を有する画像セットを作成し、
作成した画像セットのピクセル毎に中心位置の更に中心部のみを選択して回折画像からSTEM画像を再生して共焦点STEM像を得る、
ように構成したことを特徴とする共焦点STEM像取得装置。

【図1】
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【図6】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−65860(P2011−65860A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−215458(P2009−215458)
【出願日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】