説明

共重合ポリエステル樹脂組成物、及びそれよりなる接着剤

【課題】優れた難燃性を有すると共に、有機溶剤に対する溶解性が良好であり、低分子オリゴマーの含有量が低いポリエステル樹脂、及びそれを用いた接着剤を提供する。
【解決手段】多塩基酸成分と多価アルコール成分から構成される共重合ポリエステル樹脂で、多塩基酸成分として、式(I)で示される有機リン化合物を10〜50mol%、テレフタル酸10〜80mol%、イソフタル酸0〜50mol%、アジピン酸0〜40mol%を含み、多価アルコール成分として、1,9−ノナンジオール10〜80mol%、グリコール20〜90mol%を含み、分子量1000未満のオリゴマー成分の含有量が2.0質量%未満であるポリエステル樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性を有する共重合ポリエステル樹脂、並びにこれを用いた接着剤に関する。さらに詳しくは、特定構造の含リンジカルボン酸化合物が共重合されたポリエステル樹脂、ならびにその接着剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、共重合ポリエステル樹脂に難燃性を付与する方法として、ハロゲン系難燃剤と三酸化アンチモン等の難燃助剤を樹脂に混合したり、ハロゲン原子を含有するモノマー原料を樹脂中に共重合する方法が用いられている。しかし、ハロゲン系難燃剤および難燃化された樹脂自体の毒性や焼却時の環境負荷が大きいということが指摘されており、このような方法によって難燃化されたポリエステル樹脂は使用されなくなっている。
【0003】
一方、リン系化合物をポリエステル樹脂に混練によって分散させることで、難燃性を付与する方法も提案されている。難燃性を発現させるには、通常、樹脂に対して20重量%程度添加する必要がある。このため、これらの難燃化された樹脂を、溶剤に溶かして接着剤として使用する場合には、リン系化合物の一部が沈降して溶液安定性が低下する、接着強度が低下するといった問題があった。
【0004】
特許文献1には、ポリエステル中のリン原子含有率が500〜5000ppmであるリン化合物を用いて、優れた耐火性を有する繊維、フィルム、ボードなどを成形することのできるポリエステルの開示がある。特許文献2には、リン原子を含有したジカルボン酸成分を共重合し、リン原子を0.05〜5重量%含む共重合ポリエステル樹脂が、難燃性が優れる接着剤として好適に用いることができるとの開示がある。
【0005】
しかしながら、特許文献1、特許文献2に挙げるポリエステル樹脂は、分子量1000未満のオリゴマー成分を2〜3重量%含んでおり、近年の環境問題の高まりの中でその含有量の規制が行われ、低分子ポリエステルを多く含むポリエステル樹脂は使用の制限がされ始めた。低分子ポリエステルであるダイマー、トリマー等のオリゴマー成分は、人体に対し有害であるため、特に、汎用的に使用する家電、電子部品に用いるポリエステル系接着剤においては、オリゴマー成分の溶出を低減させるために、ポリエステル樹脂に含まれる分子量1000未満のポリエステルの含有量を減らすことが求められている。
【特許文献1】特公昭55-41610号公報
【特許文献2】特許第3191154号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、難燃性とポリエステルフィルムへの良好な接着性とを保持しつつ、分子量1000未満のオリゴマー成分の含有量を低減した共重合ポリエステル樹脂及びそれを用いた接着剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、多塩基酸成分として、特定の有機リン化合物、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸を用い、多価アルコール成分として1,9−ノナンジオール、グリコールを用いた共重合ポリエステル樹脂は、分子量1000未満のオリゴマー成分の含有量が低減し得ることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明の要旨は、下記のとおりである。
【0009】
(1)多塩基酸成分と多価アルコール成分から構成される共重合ポリエステル樹脂であって、多塩基酸成分として、下記一般式(I)で示される有機リン化合物10〜50mol%、テレフタル酸10〜80mol%、イソフタル酸0〜30mol%、アジピン酸0〜40mol%を含み、多価アルコール成分として、1,9−ノナンジオール10〜80mol%、グリコール20〜90mol%を含み、分子量1000未満のオリゴマー成分の含有量が2.0質量%未満であることを特徴とする共重合ポリエステル樹脂。
【0010】
【化1】

(2)グリコールが、エチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリエチレングリコール、1,6−ヘキサメチレングリコールから選ばれる1種以上のグリコールであることを特徴とする(1)の共重合ポリエステル樹脂。
(3)(1)または(2)の共重合ポリエステル樹脂を、有機溶剤に溶解してなる共重合ポリエステル樹脂系接着剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明の共重合ポリエステル樹脂は、ポリエステル樹脂材料同士あるいはポリエステル樹脂材料と他の材料とを接着する接着剤用として有用であり、得られた接着物は優れた難燃性を有する。また、分子量1000未満のオリゴマー成分の含有量が2.0質量%未満であり、環境に対しても、人体への安全性も高い共重合ポリエステル樹脂とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明における共重合ポリエステル樹脂とは、多塩基酸成分と多価アルコール成分とから構成され、各1種類の多塩基酸成分と多価アルコール成分とに加えて、さらに1種類以上の多塩基酸成分もしくは多価アルコール成分もしくはオキシ酸成分を含むポリエステル系樹脂の総称である。
【0014】
本発明の共重合ポリエステル樹脂を構成する多塩基酸成分としては、下記一般式(I)で示される有機リン化合物10〜50mol%、テレフタル酸10〜80mol%、イソフタル酸0〜30mol%、アジピン酸0〜40mol%を含むことが必要である。
【0015】
【化1】

【0016】
一般式(I)で示す有機リン化合物の配合が、10mol%未満であると、十分な難燃性を付与することができないこととなり、また、有機リン化合物の配合が、50mol%を越えると重合性が低下していまい、十分な分子量を得ることができなくなり、本願発明の難燃性に優れる、共重合ポリエステル樹脂が得られない。
【0017】
テレフタル酸の配合が10mol%未満であると、共重合ポリエステル樹脂の接着性能が低下し、テレフタル酸の配合が80mol%を越えると溶剤に対する溶解性が低下する。また、イソフタル酸の配合が30mol%を越えると靭性が失われて加工性が低下し、アジピン酸の配合が40mol%を越えると重合性が低下し生産性が落ちることとなり問題である。
【0018】
また、テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸以外のジカルボン酸成分も本発明の目的を阻害しない範囲で用いる事ができる。そのようなジカルボン酸成分を具体的に例示すれば、芳香族ジカルボン酸としては、ジフェン酸等が挙げられ、脂肪族ジカルボン酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカン二酸、アイコサン二酸、ダイマー酸、水添ダイマー酸等が挙げられ、脂環族ジカルボン酸としては、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等が挙げられる。
【0019】
本発明で用いる有機リン化合物は、一般式(I)で示される構造を有することが必要であり、側鎖に9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレンを有することが必要である。側鎖に9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレンを有さない有機リン化合物は、難燃性に必要なリン含有量を得るためには、多量の有機リン化合物を配合しなければならず、共重合ポリエステル樹脂の重合において多量の有機リン化合物の配合は重合反応の阻害となり、十分な重合度まで高めることが出来ず、接着剤として十分な接着性能を有する共重合ポリエステル樹脂を得ることが出来ない。
【0020】
本発明の共重合ポリエステル樹脂を構成する多価アルコール成分としては、1,9−ノナンジオール10〜80mol%、グリコール20〜90mol%を含むことが必要である。
【0021】
1,9−ノナンジオールの配合が10mol%未満であると、オリゴマー成分の生成量が大きくなりとなり、1,9−ノナンジオールの配合が80mol%を越えると、重合にかかる時間が長くなり生産性が低下することとなり問題である。また、グリコールとしては、エチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリエチレングリコール、1,6−ヘキサメチレングリコールから選ばれる1種以上のグリコールを用いることができ、それらを用いる場合は、20〜90mol%の範囲で用いることができる。グリコールの配合が10mol%未満であると、共重合ポリエステル樹脂の生産性が低下することとなり、グリコールの配合が90mol%を越えるとオリゴマー成分の生成量が大きくなり問題である。
【0022】
1,9−ノナンジオール、エチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,6−ヘキサメチレングリコール、トリエチレングリコール以外のグリコール成分としては、本発明の目的を阻害しない範囲で次のグリコールを用いることができる。そのようなグリコール成分を具体的に例示すれば、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリヘキシレングリコール、ポリノナンジオール、ポリ(3−メチル−1,5−ペンタン)ジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,10−デカンジオール、トリシクロデカンジメタノール、スピログリコール、ビスフェノール−Aのポリエチレングリコール付加物、ビスフェノール−Aのポリプロピレングリコール付加物、ビスフェノール−Aのポリテトラメチレングリコール付加物、ビスフェノール−Aのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノール−Aのプロピレンオキサイド付加物、ビスフェノール−Sのエチレンオキサイド付加物、ダイマージオール等が挙げられる。
【0023】
本発明の共重合ポリエステル樹脂には、上記のジカルボン酸成分や二価アルコール成分以外に、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール等の三価以上の多価アルコール成分、あるいはトリメリット酸、ピロメリット酸等の三価以上の多価カルボン酸成分、さらにはε−カプロラクトン、γ−ブチロラクトン、p−ヒドロキシ安息香酸、3−ヒドロキシイソフタル酸等のオキシ酸成分が含まれていてもよい。これらは本発明の目的を逸脱しない範囲で、樹脂の要求性能に応じて1種類もしくは2種類以上含まれていてもよい。
【0024】
本発明において得られる共重合ポリエステル樹脂が十分な難燃性を示すには、リン原子を樹脂中に3重量%以上含有させることが必要である。そのため、共重合ポリエステル樹脂中に、一般式(I)の有機リン化合物が10〜50mol%含まれることが必要である。
【0025】
上記の共重合比率の範囲内で1,9−ノナンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,6−ヘキサメチレングリコール、トリエチレングリコール、一般式(I)の有機リン化合物を用いて重合すれば、難燃性を有し、さらに接着剤用樹脂に求められる汎用の溶剤に対する溶解性を有しつつ低分子量物質の含有量が2.0重量%未満である共重合ポリエステル樹脂が得られる。
【0026】
また、本発明の共重合ポリエステル樹脂の分子量としては、好ましくは10000〜60000、さらに好ましくは15000〜40000が好ましい。数平均分子量が10000未満である場合には、分子量1000未満の含有量が大幅に増加すること、および接着強度が不足する傾向にあることから好ましくない。一方、数平均分子量が60000を超えると、溶剤に溶解させた場合に溶液が粘調になり基材へ塗布した場合に作業性が落ちるため好ましくない。
【0027】
本発明の共重合ポリエステル樹脂組成物を得るための製造方法としては、特に限定されないが、直接エステル化法、エステル交換法等の溶融重合法による公知の共重合ポリエステル樹脂の製造方法によって製造することができる。
【0028】
なお、共重合ポリエステル樹脂を製造する際のカルボン酸成分の原料としては、カルボン酸をそのまま用いることもできるが、カルボン酸のエステル誘導体やカルボン酸無水物を用いてもよい。
【0029】
また、共重合ポリエステル樹脂を製造する際の触媒としては、公知の金属化合物を用いることができる。そのような金属化合物としては、テトラブチルチタネ−トなどの有機チタン酸化合物、酢酸亜鉛、酢酸マグネシウムなどのアルカリ金属、アルカリ土類金属の酢酸塩、三酸化アンチモン、ヒドロキシブチルスズオキサイド、オクチル酸スズなどが挙あげられる。その際の触媒使用量は、生成する樹脂質量に対し、1.0重量% 以下で用いるのが好ましい。なお、上記の触媒は1種類で用いることもできるが、2種類以上混合して用いてもよい。
【0030】
本発明の接着剤用共重合ポリエステル樹脂は、接着剤の主成分として用いられるものであり、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアリレート等のポリエステル系樹脂に対して良好な接着性を有する。また、ポリエステル系樹脂以外の樹脂、例えばポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等の塩素系樹脂、ポリカーボネート、ポリエーテルサルホン、ポリサルホン、ポリスチレン、アクリル樹脂、ナイロン樹脂、ポリイミド樹脂等に対しても良好な接着性を有し、さらには銅、鉄、アルミニウム、ブリキ等の金属に対しても良好な接着性を有する。
【0031】
本発明の接着剤としては、本発明の接着剤用共重合ポリエステル樹脂が有機溶剤に溶解されてなるものである。本発明の接着剤に用いられる有機溶剤としては、本発明の共重合ポリエステル樹脂を溶解する有機溶剤であればよく、特に限定されるものではないが、具体的に例示すると、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の塩素系溶剤、酢酸エチル、イソホロン、γ−ブチロラクトン等のエステル系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、ジエチルエーテル、ブチルセルソルブ、エチルセルソルブ、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル系溶剤、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール系溶剤、ブタン、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン等の脂肪族炭化水素が挙げられる。なお、有機溶剤としては、1種類のみを使用しても、2種類以上混合して使用してもよい。
【0032】
また、本発明の接着剤には、その用途に応じて、共重合ポリエステル樹脂以外の樹脂や硬化剤が含まれていてもよい。そのような共重合ポリエステル樹脂以外の樹脂としては、例えばウレタン樹脂、エポキシ樹脂等を挙げることができる。
【0033】
また、本発明の接着剤には、必要に応じて、ハジキ防止剤、レベリング剤、消泡剤、顔料分散剤、滑剤等の各種の添加剤や、酸化チタン、硫酸バリウム、シリカ等の顔料が配合されていてもよい。
【0034】
本発明の共重合ポリエステル樹脂は、数平均分子量1000未満のオリゴマー成分の含有量が2.0質量%未満であり、かつ難燃性に優れる共重合ポリエステル樹脂であるため、それらを有機溶剤に溶解し得られる接着剤は、難燃性が必要とされる電気分野、電子分野、機械分野、建築分野、自動車分野で使用する共重合ポリエステル樹脂接着剤として好適に用いることができる。また、低分子量オリゴマーの溶出が低減され人体及び生態系に対する負荷も減らすことができたために、特に、汎用的に使用する家電、電子部品に用いる安全な共重合ポリエステル樹脂接着剤として利用することができ、各種の樹脂からなる材料同士の接着や、樹脂材料と金属材料との接着に用いることができ、液状であるために被着体の形状を限定することなく、例えばフィルム状、板状、円筒状、繊維状等の色々な形状の材料に塗布して使用することができる。
【実施例】
【0035】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではなく、本発明の思想を逸脱しない範囲で種々の変形および応用が可能である。なお、共重合ポリエステル樹脂の特性については、下記の方法で測定あるいは評価した。
【0036】
1.測定方法
【0037】
(a)共重合ポリエステル樹脂の構成
プロトンNMR分析装置(日本電子社製、JEOL LAMDBA300WB型)を用いて、樹脂の構成を分析した。酸成分およびグリコール成分それぞれを100mol%とした。
【0038】
(b)共重合ポリエステル樹脂のガラス転移温度
示差走査熱量測定装置(パーキンエルマー社製、Diamond DSC型)を用い、昇温速度10℃/minで測定して求めた。
【0039】
(c)共重合ポリエステル樹脂の数平均分子量
高速液体クロマトグラフ(島津製作所社製)を使用したゲルパーミエーションクロマトグラムにより、検出器に示差屈折計検出器RID−6Aを用いて測定した。溶媒はテトラヒドロフランを使用した。ポリスチレン換算分子量を求め、共重合ポリエステル樹脂の数平均分子量とした。
【0040】
(d)共重合ポリエステル樹脂のオリゴマー含有量
(c)の共重合ポリエステル樹脂の数平均分子量の測定において、オリゴマー成分は分子量1000未満に含まれるので、ポリスチレン換算で分子量1000となる保持時間の前後の面積比からオリゴマー成分の含有量を算出した。
【0041】
(e)難燃性
UL規格 UL−94に記載の薄手材料垂直燃焼性試験に準拠して評価した。評価サンプルは共重合ポリエステル樹脂を、温度120℃ 、圧力1kgf/cm、時間30秒 の条件で熱プレスを行い、十分に冷却することで、厚さ500μmの試験片を作成した。なお、熱プレス時に、試験片がプレス板に圧着しないように、試験片とプレス板間にテフロン(登録商標)シートを挟み込み熱プレスを行った。難燃性の評価基準としては、VTM−0を合格とした。
【0042】
(f)接着強度
共重合ポリエステル樹脂を、トルエンとメチルエチルケトンとの混合溶媒(重量比8/2)に30重量%の濃度となるように溶解し、38μmのPETフィルム上に溶液を塗布後、溶媒を除去して、10μm厚の接着剤層を形成した。次いで、接着剤層を形成したPETフィルム同士を温度120℃、圧力1kgf/cm2、時間30秒の条件で熱プレスすることにより、(PETフィルム)/(共重合ポリエステル樹脂の接着剤層)/(PETフィルム)からなる積層体Aを得た。また、上記の方法で得た接着剤層を形成したPETフィルムを金属板上に重ね、温度120℃、圧力1kgf/cm2、時間30秒の条件で熱プレスすることにより、(PETフィルム)/(共重合ポリエステル樹脂の接着剤層)/(金属板)からなる積層体Bを得た。なお、金属板としては、銅、ブリキ、アルミのいずれかの材質の板を用い、いずれかの材質の厚み2mmの金属板を用いて評価を行った。
【0043】
得られた積層体を精密万能材料試験機(インテスコ社製2020型)にて温度20℃×相対湿度60%RHの雰囲気下、引張速度50mm/分でT字剥離試験を行なった。積層体Aについては5N/cmを合格とし、積層体Bについては3N/cm以上を合格とした。
【0044】
2.共重合ポリエステル樹脂の製造
【0045】
実施例1
テレフタル酸64g、イソフタル酸27g、式(I)の有機リン化合物のエチレングリコール溶液220g、1,9−ノナンジオール170gを反応器に仕込み、系内を窒素に置換した後、撹拌しながら反応器を250℃に加熱してエステル化反応を行った。続いて、触媒としてテトラブチルチタネートを反応器に仕込み、100Paに減圧し、250℃で3時間重縮合反応を行ない共重合ポリエステル樹脂P−1を得た。得られた樹脂は、表1に示す樹脂構成であり、ガラス転移点が8℃、数平均分子量21000、分子量1000未満のオリゴマー成分の含有量は0.6質量%だった。それらをまとめた結果を表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
実施例2
テレフタル酸64g、イソフタル酸27g、式(I)の有機リン化合物のエチレングリコール溶液220g、1,9−ノナンジオール130gに変更した以外は、実施例1と同様の方法で共重合ポリエステル樹脂P−2を得た。得られた樹脂は、表1に示す樹脂構成であり、ガラス転移点が16℃、数平均分子量20000、分子量1000未満のオリゴマー成分の含有量は0.9質量%だった。それらをまとめた結果を表1に示す。
【0048】
実施例3
原料の仕込みを、テレフタル酸75g、イソフタル酸37g、式(I)の有機リン化合物のエチレングリコール溶液155g、1,9−ノナンジオール43g、トリエチレングリコール41g、1,6−ヘキサメチレングリコール32gに変更した以外は、実施例1と同様の方法で共重合ポリエステル樹脂P−3を得た。得られた樹脂は、表1に示す樹脂構成であり、ガラス転移点が20℃、数平均分子量20000、分子量1000未満のオリゴマー成分の含有量は1.4質量%だった。それらをまとめた結果を表1に示す。
【0049】
実施例4
原料の仕込みを、テレフタル酸54g、アジピン酸49g、式(I)の有機リン化合物のエチレングリコール溶液167g、1,9−ノナンジオール43g、1,4−シクロヘキサンジメタノール65g、1,6−ヘキサメチレングリコール53gに変更した以外は、実施例1と同様の方法で共重合ポリエステル樹脂P−4を得た。得られた樹脂は、表1に示す樹脂構成であり、ガラス転移点が1℃、数平均分子量22000、分子量1000未満のオリゴマー成分の含有量は0.7質量%だった。それらをまとめた結果を表1に示す。
【0050】
実施例5
原料の仕込みを、テレフタル酸54g、アジピン酸47g、式(I)の有機リン化合物のエチレングリコール溶液174g、1,9−ノナンジオール43g、1,4−シクロヘキサンジメタノール65g、トリエチレングリコール65gに変更した以外は、実施例1と同様の方法で共重合ポリエステル樹脂P−5を得た。得られた樹脂は、表1に示す樹脂構成であり、ガラス転移点が3℃、数平均分子量20000、分子量1000未満のオリゴマー成分の含有量は0.8質量%だった。それらをまとめた結果を表1に示す。
【0051】
比較例1
原料の仕込みを、テレフタル酸64g、イソフタル酸27g、式(I)の有機リン化合物のエチレングリコール溶液220g、ネオペンチルグリコール58gに変更した以外は、実施例1と同様の方法で共重合ポリエステル樹脂P−6を得た。得られた樹脂は、表1に示す樹脂構成であり、ガラス転移点が45℃、数平均分子量20000、分子量1000未満のオリゴマー成分の含有量は3.2質量%だった。それらをまとめた結果を表2に示す。なお、本願発明の共重合ポリエステル樹脂で規定するオリゴマー含有量を大きく越えたために、接着剤用の材料としては不適と判断し、接着性能、難燃性能の評価は行わなかった。
【0052】
【表2】

【0053】
比較例2
原料の仕込みを、テレフタル酸64g、イソフタル酸27g、式(I)の有機リン化合物のエチレングリコール溶液220g、1,6−ヘキサメチレングリコール127gに変更した以外は、実施例1と同様の方法で共重合ポリエステル樹脂P−7を得た。得られた樹脂は、表2に示す樹脂構成であり、ガラス転移点が43℃、数平均分子量19000、分子量1000未満のオリゴマー成分の含有量は3.5質量%だった。それらをまとめた結果を表2に示す。なお、本願発明の共重合ポリエステル樹脂で規定するオリゴマー含有量を大きく越えたために、接着剤用の材料としては不適と判断し、接着性能、難燃性能の評価は行わなかった。
【0054】
比較例3
原料の仕込みを、テレフタル酸64g、イソフタル酸27g、式(I)の有機リン化合物のエチレングリコール溶液220g、トリエチレングリコール120gに変更した以外は、実施例1と同様の方法で共重合ポリエステル樹脂P−8を得た。得られた樹脂は、表2に示す樹脂構成であり、ガラス転移点が29℃、数平均分子量17000、分子量1000未満のオリゴマー成分の含有量は2.7質量%だった。それらをまとめた結果を表2に示す。なお、本願発明の共重合ポリエステル樹脂で規定するオリゴマー含有量を大きく越えたために、接着剤用の材料としては不適と判断し、接着性能、難燃性能の評価は行わなかった。
【0055】
比較例4
原料の仕込みを、テレフタル酸74g、イソフタル酸37g、式(I)の有機リン化合物のエチレングリコール溶液155g、トリエチレングリコール54g、1,4−シクロヘキサンジメタノール52g、1,6−ヘキサメチレンジグリコール43gに変更した以外は、実施例1と同様の方法で共重合ポリエステル樹脂P−9を得た。得られた樹脂は、表2に示す樹脂構成であり、ガラス転移点が30℃、数平均分子量18000、分子量1000未満のオリゴマー成分の含有量は2.2質量%だった。それらをまとめた結果を表2に示す。なお、本願発明の共重合ポリエステル樹脂で規定するオリゴマー含有量を大きく越えたために、接着剤用の材料としては不適と判断し、接着性能、難燃性能の評価は行わなかった。
【0056】
比較例5
原料の仕込みを、テレフタル酸97g、イソフタル酸45g、式(I)の有機リン化合物のエチレングリコール溶液31g、エチレングリコール13g、1,9−ノナンジオール184gに変更した以外は、実施例1と同様の方法で共重合ポリエステル樹脂P−10を得た。得られた樹脂は、表2に示す樹脂構成であり、ガラス転移点が9℃、数平均分子量26000、分子量1000未満のオリゴマー成分の含有量は0.6質量%だった。それらをまとめた結果を表2に示す。
【0057】
比較例6
原料の仕込みを、テレフタル酸45g、イソフタル酸10g、式(I)の有機リン化合物のエチレングリコール溶液372g、ノナンジオール144g、トリエチレングリコール54gに変更した以外は、実施例1と同様の方法で共重合ポリエステル樹脂P−11を得た。得られた樹脂は、表2に示す樹脂構成であり、ガラス転移点が14℃、数平均分子量10000、分子量1000未満のオリゴマー成分の含有量は3.7質量%だった。それらをまとめた結果を表2に示す。
【0058】
比較例7
原料の仕込みを、テレフタル酸135g、式(I)の有機リン化合物のエチレングリコール溶液17g、ノナンジオール35g、1,6−ヘキサメチレングリコール21gに変更した以外は、実施例1と同様の方法で共重合ポリエステル樹脂P−12を得た。得られた樹脂は、表2に示す樹脂構成であり、ガラス転移点が56℃、数平均分子量19000、分子量1000未満のオリゴマー成分の含有量は1.8質量%だった。それらをまとめた結果を表2に示す。
【0059】
比較例8
原料の仕込みを、テレフタル酸15g、イソフタル酸90g、式(I)の有機リン化合物のエチレングリコール溶液186g、ノナンジオール36g、1,4−シクロヘキサンジメタノール32g、1,6−ヘキサメチレングリコール21gに変更した以外は、実施例1と同様の方法で共重合ポリエステル樹脂P−12を得た。得られた樹脂は、表2に示す樹脂構成であり、ガラス転移点が47℃、数平均分子量17000、分子量1000未満のオリゴマー成分の含有量は1.9質量%だった。それらをまとめた結果を表2に示す。
【0060】
3.共重合ポリエステル樹脂接着剤の作成
【0061】
実施例6〜8
実施例1で得られた共重合ポリエステル樹脂P−1をトルエンとメチルエチルケトンとの混合溶剤(質量比8:2)に固形分濃度が30質量%となるように溶解させて接着剤を得た。得られた共重合ポリエステル樹脂接着剤を用いて、PET/樹脂/PET、およびPET/樹脂/金属板の剥離強度の測定を行ない、接着性の評価を行なった。また、難燃性の試験も行なった。その結果を表3に示す。
【0062】
【表3】

【0063】
実施例9〜12
実施例2〜5で得られた共重合ポリエステル樹脂P−2〜P−5をトルエンとメチルエチルケトンとの混合溶剤(質量比8:2)に固形分濃度が30質量%となるように溶解させて接着剤を得た。得られた共重合ポリエステル樹脂接着剤を用いて、PET/樹脂/PET、およびPET/樹脂/銅板の剥離強度の測定を行ない、接着性の評価を行なった。また、難燃性の試験も行なった。その結果を表3に示す。
【0064】
比較例9
比較例5で得られた共重合ポリエステル樹脂P−10をトルエンとメチルエチルケトンとの混合溶剤(質量比8:2)に固形分濃度が30質量%となるように溶解させて接着剤を得た。得られた共重合ポリエステル樹脂接着剤を用いて、PET/樹脂/PET、およびPET/樹脂/銅板の剥離強度の測定を行ない、接着性の評価を行なった。また、難燃性の試験も行なった。その結果を表3に示す。
【0065】
比較例10
比較例6で得られた共重合ポリエステル樹脂P−11をトルエンとメチルエチルケトンとの混合溶剤(質量比8:2)に固形分濃度が30質量%となるように溶解させて接着剤を得た。得られた共重合ポリエステル樹脂接着剤を用いて、PET/樹脂/PET、およびPET/樹脂/銅板の剥離強度の測定を行ない、接着性の評価を行なった。また、難燃性の試験も行なった。その結果を表3に示す。
【0066】
比較例11
比較例7で得られた共重合ポリエステル樹脂P−12をトルエンとメチルエチルケトンとの混合溶剤(質量比8:2)に固形分濃度が30質量%となるように溶解させたが、完全に溶解しなかった。その結果を表3に示す。
【0067】
比較例12
比較例8で得られた共重合ポリエステル樹脂P−13をトルエンとメチルエチルケトンとの混合溶剤(質量比8:2)に固形分濃度が30質量%となるように溶解させて接着剤を得た。得られた共重合ポリエステル樹脂接着剤を用いて、PET/樹脂/PET、およびPET/樹脂/銅板の剥離強度の測定を行ない、接着性の評価を行なった。また、難燃性の試験も行なった。その結果を表3に示す。
【0068】
実施例1〜5は、本願で規定する所定の配合で共重合ポリエステル樹脂の重合を行ったために、オリゴマー含有量が少なく、また、実施例6〜12に示すように、それら共重合ポリエステル樹脂から得られた接着剤は、PETフィルム同士の接着、またはPET/金属板の接着においても十分な接着性能を示し、さらに、難燃性能も良好であった。
【0069】
比較例1〜4は、1,9−ノナンジオールの配合を行わず共重合ポリエステル樹脂の重合を行ったために、オリゴマー含有量が2.0%以上であった。
【0070】
比較例5は、有機リン化合物の配合が所定よりも少なかったために、得られた共重合ポリエステル樹脂P−10中のリン原子含有量は低かった。さらにP−10を用いて作成した接着剤は、比較例9に示すように難燃性能が不足した。
【0071】
比較例6は、有機リン化合物の配合が所定よりも多かったために、得られた共重合ポリエステル樹脂P−11の重合度が十分高くならなかった。さらにP−11を用いて作成した接着剤は、比較例10に示すように接着性能が不足した。
【0072】
比較例7は、テレフタル酸の配合が所定よりも多かったために、得られた共重合ポリエステルP−12は有機溶剤に完全に溶解せず、接着剤が得られなかった。P−12の接着性の評価は、比較例11に示すように評価不能であった。
【0073】
比較例8は、イソフタル酸の配合が所定よりも多かったために、得られた共重合ポリエステル樹脂P−13の靭性が不足した。さらにP−13を用いて作成した接着剤は、比較例12に示すように接着性能が不足した。







【特許請求の範囲】
【請求項1】
多塩基酸成分と多価アルコール成分から構成される共重合ポリエステル樹脂であって、
多塩基酸成分として、下記一般式(I)で示される有機リン化合物10〜50mol%、テレフタル酸10〜80mol%、イソフタル酸0〜30mol%、アジピン酸0〜40mol%を含み、多価アルコール成分として、1,9−ノナンジオール10〜80mol%、グリコール20〜90mol%を含み、分子量1000未満のオリゴマー成分の含有量が2.0質量%未満であることを特徴とする共重合ポリエステル樹脂。
【化1】

【請求項2】
グリコールが、エチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリエチレングリコール、1,6−ヘキサメチレングリコールから選ばれる1種以上のグリコール
であることを特徴とする請求項1に記載の共重合ポリエステル樹脂。
【請求項3】
請求項1または2に記載の共重合ポリエステル樹脂を、有機溶剤に溶解してなる共重合ポリエステル樹脂系接着剤。

【公開番号】特開2010−83985(P2010−83985A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−253800(P2008−253800)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】