説明

共重合ポリエステル

【課題】溶融成形時の金型汚れが発生しにくく、熱劣化が少なく、成形品の透明性に優れ、色調及び耐熱寸法安定性に優れた中空成形体を与えるポリエステルを提供する。
【解決手段】
ジカルボン酸成分としてテレフタル酸単位、ジオール成分としてモノエチレングリコールならびにジエチレングリコール単位を含み、液相重縮合の後に固相重縮合を行って得られる共重合ポリエステルであって、固相重縮合前後の固有粘度の増加量ΔIVが式 ΔIV≧0.18 dl/gを満たし、(a)ジオール成分中のジエチレングリコール単位が1.0〜5.0モル%、(b)固有粘度が0.6〜1.5dl/g、(c)末端カルボキシル基濃度が19当量/トン以下、(d)環状エステル体の含有量が0.39重量%以下であって、(e)リン化合物及び/またはその金属塩を含む共重合ポリエステル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改質ポリエチレンテレフタレートおよびその製造方法に関し、さらに詳しくは、飲料などの液体を充填する用途に用いられる容器の素材として好適であり、色相及び透明性に優れた改質ポリエチレンテレフタレートおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル、例えばポリエチレンテレフタレートは、機械的強度、耐熱性、透明性およびガスバリア性に優れており、ジュース、清涼飲料、炭酸飲料などの飲料充填容器の素材をはじめとしてフィルム、シート、繊維などの素材として好適に使用されている。
【0003】
ポリエステルは、通常、テレフタル酸などのジカルボン酸と、モノエチレングリコール(以下単にエチレングリコールと称することがある)などの脂肪族ジオール類とを原料として製造される。具体的には、まず、芳香族ジカルボン酸類と脂肪族ジオール類とのエステル化反応により低次縮合物(エステル低重縮体)を形成し、次いで重縮合触媒の存在下にこの低次縮合物を脱グリコール反応(液相重縮合)させて、高分子量化している。また、場合によっては固相重縮合を行い、さらに分子量を高めている。
【0004】
このようなポリエステルにはジカルボン酸とジオールの環状エステル体が数%含有されている(たとえば非特許文献1)。該環状エステル体は、得られるポリエステルを成形する際、フィルム、シート、ボトルなどの表面に析出し、表面の肌荒れや白化を引き起こし、商品価値が低下する。ボトルなどの容器においては環状エステルが容器の内壁にも析出する恐れがあり、環状エステル体が内容物へ溶出した場合には、異臭、味の変化などが起こり、飲料容器として不適である。更に得られるフィルムをレトルト食品の包装用として使用する場合には、高温、高圧処理を行うため、フィルム表面の白化が起こり、フィルムへの印刷も困難となり、商品価値が低下する。更にまた、環状エステル体はポリエステルの成形工程および加工工程において、金型やノズル類の内壁を汚染するため、用いた金型やノズル類の清掃および交換頻度が増加する。
【0005】
ポリエステル中の環状エステル体を減少させる方法として、たとえば特許文献1および特許文献2には、重縮合反応により得られる粗製ポリエステルを減圧条件下または不活性ガス流通下で、180℃から該ポリエステルの融点までの温度で加熱処理する固相重縮合法が開示されている。これらの公報においては、この方法により、通常ポリエステルに含まれる1.3乃至1.7重量%の環状エステル体を0.5重量%以下に減少できることが開示されている。しかし、このような固相重縮合法では、長時間の処理が必要となり生産性が低下する問題点があった。
【非特許文献1】D.R.Cooper et al.,Polymer, 14, 185(1973).
【特許文献1】特開昭51−48505号公報
【特許文献2】特開昭53−101092号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来技術の問題点を解決することにあり、中空成形体を成形する際の金型汚れが発生しにくく長時間の連続成形性に優れ、成形品の透明性に優れ、溶融成形時の熱劣化が少なく、色調及び耐熱寸法安定性に優れた中空成形体や、滑り性及び成形後の寸法安定性に優れたフィルムなどを与えるポリエステルを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記の従来技術ならびに課題に鑑み鋭意検討を行った結果、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は以下の特徴を有する。
【0008】
(1)ジカルボン酸成分としてテレフタル酸単位を含み、ジオール成分としてモノエチレングリコールならびにジエチレングリコール単位を含み、液相重縮合の後に固相重縮合を行って得られる共重合ポリエステルであって、固相重縮合前と固相重縮合後の固有粘度の増加量が下記式を満たし、
ΔIV≧0.18 dl/g
(ただしΔIVは固相重縮合前のIVと固相重縮合後のIVの差: ΔIV=IV−IV
かつ、a)ジオール成分中のジエチレングリコール単位が1.0〜5.0モル%、b)固有粘度が0.6〜1.5dl/g、c)末端カルボキシル基濃度が19当量/トン以下、d)環状エステル体の含有量が0.39重量%以下であって、e)下記一般式1および一般式2から選ばれる少なくとも一種のリン化合物及び/またはその金属塩を含むことを特徴とする共重合ポリエステル。
【0009】
【化1】


(式1)
(ただし一般式1において、R1、R2、R3、R4はそれぞれ独立に水素あるいは炭素数1乃至4のアルキル基である)
【0010】
【化2】

(式2)
(ただし一般式2においてR5は炭素数1乃至8個のアルキル化合物及びまたはフェニル基であり、aは0乃至2の正数である。R5が複数の時それぞれ異なっていても、同一でも良い。)
【0011】
(2)上記ポリエステルを290℃の成形温度で射出成形して得られた成形品の環状エステル体の含有量をW重量%とし、一方該ポリエステルを温度95℃の熱水で8時間浸積した後に乾燥し、ついで上記のようにして射出成形して得られた成形品の環状エステル体の含有量をW重量%とした場合に、W−Wが0乃至0.10重量%であることが好ましい。
【0012】
(3)固相重縮合工程を、構成成分の脂肪族ジオール蒸気を0.1乃至1重量%含む不活性ガス雰囲気で処理することにより、上記ポリエステルを好適に得ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、中空成形体を成形する際の金型汚れが発生しにくく長時間の連続成形性に優れ、成形品の透明性に優れ、溶融成形時の熱劣化が少なく、色調及び耐熱寸法安定性に優れた中空成形体や、滑り性及び成形後の寸法安定性に優れたフィルムなどを与えるポリエステルを提供される。本発明のポリエステルは、繊維、フィルム、中空成形体としての応用が可能であり、特に中空成形体の素材として用いるのに好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下本発明について、具体例を挙げつつ詳細に説明する。本発明に係るポリエステルは芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとをエステル交換反応させ、ビス(2−ヒドロキシエチル)テレフタレ−ト及び/又はそのオリゴマ−を形成させ、その後、重縮合触媒及び安定剤の存在下で高温減圧下に溶融重縮合を行って、ポリアルキレンテレフタレート樹脂組成物を得る。
【0015】
本発明で用いられる芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸を主成分とし、テレフタル酸の全ジカルボン酸に対する含有量は90モル%以上であり、好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上とする。
テレフタル酸が前記含有量を満たす範囲で、ジカルボン酸としてはテレフタル酸のほかに、フタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニル−4,4−ジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸を共に用いることができる。
【0016】
同様に脂肪族ジオールとしては、モノエチレングリコールを主成分とし、モノエチレングリコールの全ジオールに対する含有量は90モル%以上であり、好ましくは95%モル以上、更に好ましくは97モル%以上とする。
モノエチレングリコールが前記含有量を満たす範囲で、ジオールとしてはモノエチレングリコールのほか、トリメチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンメチレングリコール、ドデカメチレングリコールなどの脂肪族グリコールを用いることができる。
【0017】
また、芳香族ジカルボン酸とともに、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、デカンジカルボン酸などの脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸などを原料として使用することができ、脂肪族ジオールとともに、シクロヘキサンジメタノールなどの脂環族グリコール、ビスフェノール、ハイドロキノン、2,2−ビス(4−β―ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン類などの芳香族ジオールなどを原料として使用することができる。
【0018】
さらに本発明では、トリメシン酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールメタン、ペンタエリスリトールなどの多官能性化合物を原料として使用することができる。
【0019】
本発明の共重合ポリエステルは、全ジオール成分中のジエチレングリコール(以下DEGと称すことがある)の含有割合は、通常1.0乃至5.0モル%、好ましくは1.6乃至3.6モル%、更に好ましくは、1.8乃至2.9の範囲である。
1.0モル%以上であると、共重合ポリエステルを製造する際の固相重縮合工程の環状エステル体低減化速度が高く、成形時に金型に付着する環状エステル体を低減できるので好ましい。5.0モル%以下であると、成形体の耐熱性が低下することなく、また延伸成形体をヒートセットした場合の耐熱性の向上効果も大きいため好ましい。
【0020】
DEG単位を上記範囲に調整する方法としては、DEGを重縮原料として使用する方法の他、反応条件、添加剤などを適宜選択することによって主原料であるモノエチレングリコールから副生成するジエチレングリコールの副生成量を調整する方法が挙げられる。DEGの生成を抑制する添加剤としては、塩基性化合物たとえばトリエチルアミンなどの3級アミン、水酸化テトラエチルアンモニウムなどの4級アンモニウム塩、炭酸ナトリウムなどのアルカリ金属化合物が挙げられる。
【0021】
またDEGの生成を促進させる化合物としては、硫酸などの無機酸、安息香酸などの有機酸が挙げられる。
これらDEGの生成を抑制及びまたは促進させる化合物の添加量としては、原料酸性分に対して、0.001モル%乃至1モル%の範囲で加えられることが好ましい。
【0022】
(エステル化工程)まず、ポリエステルを製造するに際して、芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体と、脂肪族ジオールまたはそのエステル形成性誘導体とをエステル化させる。
【0023】
具体的には、芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体と、脂肪族ジオールまたはそのエステル形成性誘導体とを含むスラリーを調製する。このようなスラリーには芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体1モルに対して、通常1.005乃至1.4モル、好ましくは1.01乃至1.3モルの脂肪族ジオールまたはそのエステル形成性誘導体が含まれる。このスラリーはエステル化反応工程に連続的に供給される。
【0024】
エステル化反応は好ましくは2個以上のエステル化反応基を直列に連結した装置を用いてエチレングリコールが還流する条件下で、反応によって生成した水を精留塔で系外に除去しながら行う。
【0025】
エステル化反応工程は通常多段で実施され、第1段目のエステル化反応は、通常、反応温度が240乃至270℃、好ましくは245乃至265℃であり、圧力が0.019乃至0.29MPaG、好ましくは0.049乃至0.19MPaGの条件下で行われ、また最終段目のエステル化反応は、通常、反応温度が250乃至280℃、好ましくは255乃至275℃であり、圧力が0乃至0.15MPaG、好ましくは0乃至0.13MPaGの条件下で行われる。
【0026】
エステル化反応を2段階で実施する場合には、第1段目および第2段目のエステル化反応条件がそれぞれ上記の範囲であり、3段階以上で実施する場合には、第2段目から最終段の1段前までエステル化反応条件は、上記第1段目の反応条件と最終段目の反応条件の間の条件であればよい。
【0027】
例えば、エステル化反応が3段階で実施される場合には、第2段目のエステル化反応の反応温度は通常245乃至275℃、好ましくは250乃至270℃であり、圧力は通常0乃至0.19MPaG、好ましくは0.019乃至0.15MPaGであればよい。
【0028】
これらの各段におけるエステル化反応率は、特に制限はされないが、各段階におけるエステル化反応率の上昇の度合いが滑らかに分配されることが好ましく、さらに最終段目のエステル化反応生成物においては通常90%以上、好ましくは93%以上に達することが望ましい。
【0029】
このエステル化工程により、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとのエステル化反応物(低次縮合物)が得られ、この低次縮合物の数平均分子量が500乃至5000程度である。
上記のようなエステル化工程で得られた低次縮合物は、次いで重縮合(液相重縮合)工程に供給される。
【0030】
(液相重縮合工程)液相重縮合工程においては、公知の重縮合触媒の存在下に、エステル化工程で得られた低次縮合物を、減圧下で、かつポリエステルの融点以上の温度(通常250乃至280℃)に加熱することにより重縮合させる。この重縮合反応では、未反応の脂肪族ジオールを反応系外に留去させながら行われることが望ましい。
【0031】
重縮合触媒としては、一般にゲルマニウム化合物、アンチモン化合物、チタン化合物、コバルト化合物、スズ、マグネシウム、アルミニウム化合物などが知られている。
重縮合反応は、1段階で行ってもよく、複数段階に分けて行ってもよい。例えば、重縮合反応が複数段階で行われる場合には、第1段目の重縮合反応は、反応温度が250乃至290℃、好ましくは260乃至280℃、圧力が66乃至2.7kPa、好ましくは27乃至4kPaの条件下で行われ、最終段の重縮合反応は、反応温度が265乃至300℃、好ましくは270乃至295℃、圧力が1.3乃至0.013kPa、好ましくは0.67乃至0.067kPaの条件下で行われる。
【0032】
重縮合反応を3段階以上で実施する場合には、第2段目から最終段目の1段前間での重縮合反応は、上記1段目の反応条件と最終段目の反応条件との間の条件で行われる。例えば、重縮合工程が3段階で行われる場合には、第2段目の重縮合反応は通常、反応温度が260乃至295℃、好ましくは270乃至285℃で、圧力が6.7乃至0.27kPa、好ましくは5.3乃至0.7kPaの条件下で行われる。
【0033】
また、重縮合反応では、安定剤の共存下で行われることが望ましい。安定剤としては前記一般式2に示す化合物であり、具体的には、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリ−n−ブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリフェニルホスフェート等のリン酸エステル類メチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、イソプロピルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、ジブチルホスフェート、モノブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート等のリン酸エステルなどのリン化合物が挙げられる。
【0034】
更に本発明では、リン化合物として前記一般式1に示す化合物を加えることも出来る.ここで、R1、R2、R3、R4はそれぞれ独立に水素あるいは炭素数1乃至4のアルキル基である。具体的にはたとえば、4−ヒドロキシベンジルホスホン酸、4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルベンジルホスホン酸、4−ヒドロキシ−3,5−ジエチルベンジルホスホン酸、4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルベンジルホスホン酸、4−ヒドロキシベンジルホスホン酸ジメチルエステル、4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルベンジルホスホン酸ジメチルエステル、4−ヒドロキシ−3,5−ジエチルベンジルホスホン酸ジメチルエステル、4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルベンジルホスホン酸ジエチルエステル、4−ヒドロキシベンジルホスホン酸ジエチルエステル、4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルベンジルホスホン酸ジエチルエステル、4−ヒドロキシ−3,5−ジエチルベンジルホスホン酸ジエチルエステル、4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルベンジルホスホン酸ジエチルエステル、4−ヒドロキシベンジルホスホン酸モノメチルエステル、4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルベンジルホスホン酸モノメチルエステル、4−ヒドロキシ−3,5−ジエチルベンジルホスホン酸モノメチルエステル、4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルベンジルホスホン酸モノメチルエステル、4−ヒドロキシベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−ヒドロキシ−3,5−ジエチルベンジルホスホン酸モノエチルエステル、4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルベンジルホスホン酸モノエチルエステル、
【0035】
本発明では、上述したリン化合物の中で金属塩化合物を用いることが出来る。リン化合物の金属塩としてはモノ金属塩、ジ金属塩、トリ金属塩などが含まれる。
また上述金属塩の金属としては、L i 、B e 、N a 、M g、K 、Ca、M n 、N i、C u 、Z n、S r 、B aから選択されたものを用いることが好ましい。
【0036】
上記の触媒の使用割合は、全重縮原料中触媒中の金属重量として2乃至1000ppm、好ましくは4乃至500ppmの範囲とされ、安定剤の使用割合は全原料中、安定剤中のリン原子の重量として通常4乃至1000ppm、好ましくは4乃至500ppmの範囲とされる。また、触媒及び安定剤の供給は、公知技術では原料スラリー調製時の他、エステル化反応の任意の段階において行うことができる。さらに重縮合反応工程の初期に供給することもできる。
【0037】
以上のような液相重縮合工程で得られるポリエステルの固有粘度[IV]は0.40乃至1.0dl/g、好ましくは0.50乃至0.90dl/gであることが望ましい。なお、この液相重縮合工程の最終段目を除く各段階において達成される固有粘度は特に制限されないが、各段階における固有粘度の上昇の度合いが滑らか分配されることが好ましい。本発明において固有粘度は、フェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン混合溶媒(50/50重量比)を用いて0.5g/dlの試料溶液を調製し、25℃で測定した溶液粘度から算出した。
【0038】
この重縮合工程で得られるポリエステルは、通常、溶融押し出し成形されて粒状(チップ状)に成形される。
【0039】
また、液相重縮合で得られるポリエステルの末端カルボキシル基濃度は10乃至50当量/トン、好ましくは14乃至45当量/トンであることが望ましい。液相重縮合での末端カルボキシル基濃度が該範囲を超えて高い場合は、後述の固相重縮合反応において、ポリエステル樹脂中の環状エステル体濃度が減少しないため、該ポリエステルを射出成形するとき、金型に付着する環状エステル体が多くなり、従来のポリエステル以上の優位性が見いだせないことがある。
【0040】
末端カルボキシル基濃度の調整は原料の芳香族時カルボン酸と脂肪族ジオールの混合比により調整することが出来る。芳香族ジカルボン酸に対する脂肪族ジオールの比率が低いと末端カルボキシル基濃度は増加し、比率が高いと末端カルボキシル基濃度は減少する。また、重縮合反応中の加水分解によっても末端カルボキシル基濃度は増加する。
更に後述の固相重縮合反応において、不活性ガス中の脂肪族ジオール成分濃度によっても制御することが出来る。脂肪族ジオール成分濃度が高いと末端カルボキシル基濃度を低減することが出来る。
【0041】
(固相重縮合工程)上記液相重縮合工程で得られるポリエステルは、さらに固相重縮合工程に供給される。固相重縮合工程に供給される粒状ポリエステルは、予め、固相重縮合を行なう場合の温度より低い温度に加熱して予備結晶化を行なった後、固相重縮合工程に供給してもよい。
【0042】
このような予備結晶化工程は、粒状ポリエステルを乾燥状態で通常、120乃至200℃、好ましくは130乃至180℃の温度に1分から4時間加熱することによって行なうことができる。またこのような予備結晶化は、粒状ポリエステルを水蒸気雰囲気、水蒸気含有不活性ガス雰囲気下、あるいは水蒸気含有空気雰囲気下で、120乃至200℃の温度で1分間以上加熱することによって行なうこともできる。
【0043】
予備結晶化されたポリエステルは、結晶化度が20乃至50%であることが望ましい。なお、この予備結晶化処理によっては、いわゆるポリエステルの固相重縮合反応は進行せず、予備結晶化されたポリエステルの固有粘度は、液相重縮合後のポリエステルの固有粘度とほぼ同じであり、予備結晶化されたポリエステルの固有粘度と予備結晶化される前のポリエステルの固有粘度との差は、通常0.06dl/g以下である。
【0044】
固相重縮合工程は、少なくとも1段からなり、温度が190乃至230℃、好ましくは195乃至225℃であり、圧力が0.1MPa乃至1.3kPa、好ましくは常圧から13.3kPaの条件下で、窒素、アルゴン、炭酸ガスなどの不活性ガス雰囲気下で行われる。固相重縮合における滞留時間は5乃至24時間、好ましくは20時間以下である。使用する不活性ガスとしては窒素ガスが望ましい。この不活性ガス中には少なくとも0.1重量%以上の脂肪族ジオール成分が含まれていることが望ましい。脂肪族ジオール成分が0.1重量%未満では、固相重縮合中に環状エステル体の開環反応による低減が促進されず、通常1重量%程度含まれる環状エステル体が液相重縮合チップから十分に減少されないことがある。そのため、成形時に環状エステル体が金型に付着し、ボトル外観を悪化させることになる。不活性ガス中の脂肪族ジオール成分量は1重量%以下が好ましい。1重量%以上では、脂肪族ジオール成分を留去しながら進行する重縮合反応の進行を阻害し、ポリエチレンテレフタレートの生産性が大幅に低下することがある。本発明において脂肪族ジオール成分は、重縮合原料に用いた脂肪族ジオール成分が好ましく、特にエチレングリコールが望ましい。なお、脂肪族ジオール成分濃度の制御は、固相重縮合で生成した脂肪族ジオール成分量と固相重縮合工程に供給する脂肪族ジオール成分量の比率から制御することが出来る。また、脂肪族ジオール成分を別途固相重縮合工程に供給することで制御することも出来る。
【0045】
本発明は,このような固相重縮合により得られるポリエステルであって,固相重縮合前の固有粘度,すなわち液相重縮合で得られたポリエチレンテレフタレートの固有粘度と、固相重縮合後のポリエチレンテレフタレートの固有粘度の差:ΔIVが0.18dl/g以上であり、0.19dl/g以上が好ましく,更に好ましくは0.20dl/g以上である。固有粘度の差は固相重縮合時間で調整することが出来る。
【0046】
ΔIVが上記範囲に満たない場合は、液相重縮合で生成した環状エステル体が十分減少せず、ポリエステルを射出成形するときに、金型に付着する環状エステル体が多くなり、従来のポリエステル以上の優位性が見いだせないことがある。
【0047】
更に、固相重縮合前の環状エステル体,すなわち液相重縮合で得られたポリエチレンテレフタレートの環状エステル体含有量:CEと、固相重縮合後のポリエチレンテレフタレートの環状エステル体:CEの差:ΔCTが0.4重量%以上であることが好ましく,更に好ましくは0.6重量%以上であり、望ましくは0.65重量%以上である。
【0048】
このような固相重縮合工程を経て得られた粒状ポリエステルには、例えば特公平7−64920号公報記載の方法で、水処理を行ってもよく、この水処理は、粒状ポリエステルを水、水蒸気、水蒸気含有不活性ガス、水蒸気含有空気などと接触させることにより行われる。
【0049】
このようにして得られた粒状ポリエステルは、a)ジオール成分としてジエチレングリコールが1.0〜5.0モル%であり、好ましくは1.6乃至3.6モル%、更に好ましくは、1.8乃至2.9の範囲であり、b)固有粘度が、0.60乃至1.50dl/g、好ましくは0.75乃至0.95dl/gであり、c)末端カルボキシル基濃度が19当量/トン以下、好ましくは18当量/トン以下であり、環状エステル体の含有量が0.39重量%以下、好ましくは0.36重量%以下、更に好ましくは0.34重量%以下である。
【0050】
本発明における、上記の様な実施の形態で製造されたポリエステルを290℃の成形温度で射出成形して得られた成形品の環状エステル体の含有量をWとし、一方該ポリエステルを温度95℃の熱水で8時間浸積したあとに乾燥し、ついで上記のようにして射出成形して得られた成形品の環状エステル体の含有量をWとした場合、W−Wが0乃至0.10重量%である。
【0051】
上記のようなエステル化工程と重縮合工程とを含むポリエステルの製造工程はバッチ式、半連続式、連続式のいずれでも行うことができる。
【0052】
本発明によって得られるポリエステルは、製膜設備でポリエステルフィルムにして各種ポリエステルフィルム製品群としたり、製糸設備でポリエステル原糸や綿とし、繊維衣料、カーペット、自動車用内装材、フトン、床材などの製品としたりすることもできる。また上記ポリマーを固相重縮合設備で必要な処理を施すことにより、PETボトルやエンジニアリングプラスチックの原料とすることもできる。
【実施例】
【0053】
次に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。本実施例における吸光度の測定は、分光光度計を用いて行った。
本実施例で用いた種々の測定法を以下に示す。
【0054】
(DEG濃度)
試料をモノエタノールアミンで加水分解し、過剰のモノエタノールアミンを中和後、ガスクロマトグラフィーを使用して内部標準法により定量した。
(固有粘度、以下IVと略称することもある)
試料をフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン混合溶媒(50/50重量比)を用いて溶解した。0.5g/dlの試料溶液を調製し、25℃で測定した溶液粘度から固有粘度(IV)を算出した。
(末端カルボキシル基濃度、以下COOH基濃度と略称することもある)
試料をo−クレゾールに加熱溶解し、クロロホルムを加え電位差滴定装置を用いてNaOH水溶液を標準溶液としてて規定した。
【0055】
(環状エステル体含有量)
試料をメタパラクレゾールで加熱溶解、さらにテトラヒドロフランを加えてポリマーを析出させた。その後濾過した濾液を液体クロマトグラフィーを用いて内部標準法により定量した。
(成形体)
ポリエチレンテレフタレートチップを真空乾燥機、170℃、4時間乾燥した。乾燥したポリエチレンテレフタレートを射出成形機M−70B(商品名、(株)名機製作所)にて、290℃で成形し、段付き角板状成形体を得た。段付き角板状成形体は図1に示す様な形状を有しており、A部の厚さは約6.5mmであり、B部の厚さは約5mmであり、C部の厚さは約4mmである。
【0056】
(実施例1)
高純度テレフタル酸 13000部、モノエチレングリコール 5000部、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド20%水溶液 6.88部をオートクレーブに仕込み、圧力 0.17MPaG、260℃の窒素雰囲気下6時間攪拌しながら反応させた。この反応により生成した水は常時系外に留去した。次に重縮合触媒として、二酸化ゲルマニウム 3.3部、メチルアシッドフォスフェート(以下MAPと称す) 2.2部を加えた。1時間かけて280℃まで昇温し、系内を0.27kPaまで減圧し、更に50分反応させ、エチレングリコールを系外に留去した。反応終了後反応物をチップ状に裁断した。以上の液相重縮合によって得られたポリエチレンテレフタレートの固有粘度(IV)は0.58dl/gであった。
【0057】
このようにして得られたポリエチレンテレフタレートは更に窒素雰囲気下170℃、2時間乾燥すると共に結晶化を行った。その後バッチ式固相重縮合装置で、モノエチレングリコールを0.13重量%含有する窒素気流にて230℃で固有粘度が0.77dl/gとなるまで重縮合した。
このようにして得られたポリエチレンテレフタレートの固有粘度(IV)は0.77dl/gであり、DEG濃度は2.3モル%、COOH基濃度15当量/トン、環状エステル体濃度(CE)は0.33重量%であった。
【0058】
次に、該ポリエチレンテレフタレート5部を、ステンレス容器内で6.5部の蒸留水に浸積させ、該ステンレス容器を外部より加熱し、内温95℃にコントロールし、4時間保持して熱水処理を行った後、脱水し、120℃で2時間窒素気流下で乾燥した。
得られたポリエチレンテレフタレートを前記した方法に従い射出成形機で成形した段付き角板状成形体の環状エステル体は0.35重量%であった。この環状エステル体濃度をWとする。
【0059】
次に乾燥ポリエチレンテレフタレートを内温95℃、8時間で更に熱水処理を行った後、脱水、乾燥し、290℃のシリンダー温度で射出成形して得られた段付き角板状成形体の環状エステル体濃度は0.34重量%であった。この環状エステル体濃度をWとすると、W−Wは0.01重量%であった。
【0060】
(実施例2〜4)
液相重縮合の固有粘度(IV)を表1に示すように低くした以外は実施例1と同様に行った。すなわち固相重縮合でのIV上昇幅(ΔIV)を大きく取った。固相重縮合の終点はIV=0.77dl/gに到達するまでとした。
【0061】
(実施例5〜6)
液相重縮合の安定剤(リン化合物)の種類をMAPから化3で表す化合物に変更した以外は同様に行った。
【0062】
【化3】

【0063】
(比較例1)
高純度テレフタル酸 13000部、モノエチレングリコール 4930部、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド20%水溶液 6.88部をオートクレーブに仕込み、圧力 0.17MPaG、260℃の窒素雰囲気下6時間攪拌しながら反応させた。この反応により生成した水は常時系外に留去した。次に重縮合触媒として、二酸化ゲルマニウム 3.3部、リン酸 1.4部を加えた。1時間かけて290℃まで昇温し、系内を0.27kPaまで減圧し、更に50分反応させ、エチレングリコールを系外に留去した。反応終了後反応物をチップ状に裁断した。以上の液相重縮合によって得られたポリエチレンテレフタレートの固有粘度(IV)は0.62dl/gであった。
【0064】
このようにして得られたポリエチレンテレフタレートは更に窒素雰囲気下170℃、2時間乾燥すると共に結晶化を行った。その後バッチ式固相重縮合装置で、モレキュラーシーブ4Aで精製した窒素気流にて210℃で固有粘度が0.77dl/gとなるまで重縮した。
【0065】
このようにして得られたポリエチレンテレフタレートの固有粘度(IV)は0.77dl/gであり、DEG濃度は2.3モル%、COOH基濃度20当量/トン、環状エステル体濃度(CE)は0.45重量%であった。
得られたポリエチレンテレフタレートを前記した方法に従い射出成形機で成形した段付き角板状成形体の環状エステル体は0.60重量%であった。この環状エステル体濃度をWとする。
【0066】
次に乾燥ポリエチレンテレフタレートを内温95℃、8時間で更に熱水処理を行った後、脱水、乾燥し、290℃のシリンダー温度で射出成形して得られた段付き角板状成形体の環状エステル体濃度は0.46重量%であった。この環状エステル体濃度をWとすると、W−Wは0.14重量%であった。
【0067】
(比較例2)
高純度テレフタル酸 13000部、モノエチレングリコール 4930部、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド20%水溶液 51.8部、イソプロピルチタネート 1.6部をオートクレーブに仕込み、圧力 0.17MPaG、240℃の窒素雰囲気下6時間攪拌しながら反応させた。この反応により生成した水は常時系外に留去した。次に重縮合触媒として、二酸化ゲルマニウム 3.3部、リン酸 1.4部を加えた。1時間かけて290℃まで昇温し、系内を0.27kPaまで減圧し、更に50分反応させ、エチレングリコールを系外に留去した。反応終了後反応物をチップ状に裁断した。以上の液相重縮合によって得られたポリエチレンテレフタレートの固有粘度は0.55dl/gであった。
【0068】
このようにして得られたポリエチレンテレフタレートは更に窒素雰囲気下170℃、2時間乾燥すると共に結晶化を行った。その後バッチ式固相重縮合装置で、モレキュラーシーブ4Aで精製した窒素気流にて210℃で固有粘度が0.77dl/gとなるまで重縮した。
【0069】
このようにして得られたポリエチレンテレフタレートの固有粘度は0.77dl/gであり、DEG濃度は1.6モル%、COOH基濃度20当量/トン、環状エステル体濃度0.39重量%であった。
得られたポリエチレンテレフタレートを前記した方法に従い射出成形機で成形した段付き角板状成形体の環状エステル体は0.55重量%であった。この環状エステル体濃度をWとする。
【0070】
次に乾燥ポリエチレンテレフタレートを内温95℃、8時間で更に熱水処理を行った後、脱水、乾燥し、290℃のシリンダー温度で射出成形して得られた段付き角板状成形体の環状エステル体濃度は0.40重量%であった。この環状エステル体濃度をWとすると、W−Wは0.15重量%であった。
【0071】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明方法によれば、成形時の環状エステル体量を抑制することが出来る。従って透明性に優れた、飲料などの液体を充填する用途に用いられる容器の素材をはじめとしてフィルム、シート、繊維などの素材として好適なポリエチレンテレフタレートを提供すること及びその製造方法を提供することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】図1は段付角板状成形物の斜視図である。A部の厚みは約6.5mmであり、B部の厚みは約5mmであり、C部の厚みは約4mmである。この成形物の環状エステル体濃度を測定した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸成分としてテレフタル酸単位を含み、ジオール成分としてモノエチレングリコールならびにジエチレングリコール単位を含み、液相重縮合の後に固相重縮合を行って得られる共重合ポリエステルであって、固相重縮合前と固相重縮合後の固有粘度の増加量が下記式を満たし、
ΔIV≧0.18 dl/g
(ただしΔIVは固相重縮合前のIVと固相重縮合後のIVの差: ΔIV=IV−IV
かつ、a)ジオール成分中のジエチレングリコール単位が1.0〜5.0モル%、b)固有粘度が0.6〜1.5dl/g、c)末端カルボキシル基濃度が19当量/トン以下、d)環状エステル体の含有量が0.39重量%以下であって、e)下記一般式1および一般式2から選ばれる少なくとも一種のリン化合物及び/またはその金属塩を含むことを特徴とする共重合ポリエステル。

【化1】

(式1)
(ただし化1において、R1、R2、R3、R4はそれぞれ独立に水素あるいは炭素数1乃至4のアルキル基である)
【化2】

(式2)
(ただし化2においてR5は炭素数1乃至8個のアルキル化合物及びまたはフェニル基であり、aは0乃至2の正数であり、R5は複数ある時それぞれ異なっていても、同一でも良い。)
【請求項2】
請求項1に記載の共重合ポリエステルであって、該ポリエステルを290℃の成形温度で射出成形して得られた成形品の環状エステル体の含有量をW重量%とし、一方該ポリエステルを温度95℃の熱水で8時間浸積した後に乾燥し、ついで上記のようにして射出成形して得られた成形品の環状エステル体の含有量をW重量%とした場合に、W−Wが0乃至0.10重量%であることを特徴とするポリエステル。
【請求項3】
請求項1乃至2に記載のポリエステルの製造方法であって、固相重縮合行程を、ポリエステル構成成分の脂肪族ジオール蒸気を0.1乃至1重量%含む不活性ガス雰囲気で処理することを特徴とする方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−282697(P2006−282697A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−100801(P2005−100801)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】