説明

共重合体、その製造方法及び共重合触媒

【課題】機能や性質が安定している。
【解決手段】β−置換スチレン誘導体類から選ばれる単量体とスチレン誘導体類から選ばれる単量体を共重合することによって得られる一般式(1)で表される共重合体であって、分子量分布(重量平均分子量と数平均分子量の比)が2未満である、共重合体。


(式(1)中、n及びmは正の整数であり、n≧mである。R1は水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、水酸基又はアルコキシ基を表す。R2,R3及びR4はそれぞれ独立に水素原子、水酸基若しくはアルコキシ基を表すか又は隣り合う2つが結合して−O(CH2iO−(iは1又は2)をなす。R5は水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、水酸基又はアルコキシ基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な共重合体、その製造方法及び共重合触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者らは、既に、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体と4−メトキシ−α−メチルベンジルアルコールと水を含む触媒系を用いて、p−ヒドロキシスチレンを水酸基を保護することなくリビングカチオン重合させることによりp−ヒドロキシスチレンの重合体を合成した例(特許文献1,2及び非特許文献1)や、p−ヒドロキシスチレンとp−メトキシスチレンとをリビングカチオン重合させることによりランダムなブロック共重合体を合成した例(非特許文献2)などを報告している。この種の共重合体は、例えば、フォトレジストなどの感光材、エポキシ樹脂などの硬化樹脂原料、酸化防止剤、イオン交換樹脂などに利用することができる。
【0003】
一方、近年、循環型社会の形成や地球温暖化防止などに向けて、カーボンニュートラルの観点から、植物由来のバイオマスの有効利用が重要視されている。石油などの有限な枯渇資源を原料とするのではなく、植物が生体内で二酸化炭素と水から生合成することのできる再生可能な資源を原料とする高分子材料を用いることで、持続可能な社会の形成が構築されるだけではなく、地球温暖化などの原因となる二酸化炭素の排出量がトータルで削減できる。例えば、自然界に豊富に存在する天然バイオマスの一つとして、アニス油、丁子油、ウイキョウ油などの植物油に多く含まれるフェニルプロパノイド類があり、かかるフェニルプロパノイド類は、香味料や香料原料等として、広く用いられている。ここで、フェニルプロパノイド類の中にはβ−置換スチレン骨格を有するものがあり、古くから重合性があることが知られているものもある。非特許文献3にはそのようなフェニルプロパノイド類の一種であるアネトールのカチオン重合について、非特許文献4にはアネトールと石油由来のスチレン誘導体との共重合について記載されている。
【特許文献1】特開2000−319312号公報
【特許文献2】特開2001−26611号公報
【非特許文献1】Macromolecules, Vol.33, No.15, 2000, p5405-5410
【非特許文献2】Macromolecules, Vol.33, No.16, 2000, p5830-5835
【非特許文献3】J. Polymer Sci. Polymer Chem. Ed., vol.19,1981, p695-706
【非特許文献4】J. Polymer Sci. Part A-1, vol.10,1972, p85-93
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、非特許文献3,4では得られた重合体の分子量分布(数平均分子量Mnに対する重量平均分子量Mwの比Mw/Mn)については検討されていないが、使用している触媒系から判断すると、いずれも分子量は制御されておらず、分子量分布も広く、明らかに2を超える。分子量が制御されていないと、末端官能性重合体やブロック共重合体、グラフト共重合体などの高機能性材料の製造は不可能である。また、分子量分布が広いと、例えば重合体の機能や性質(例えば耐熱性など)が安定して得られないことがあり、好ましくない。さらに、非特許文献3には分子内にフェノール性水酸基を有するイソオイゲノールのカチオン重合について記載されているが、重合体は得られていない。
【0005】
本発明は、β−置換スチレン誘導体類から選ばれる単量体とスチレン誘導体類から選ばれる単量体を共重合することによって得られる共重合体であって、リビング重合により分子量が制御されているとともに、機能や性質が安定しているものを提供することを目的の一つとする。また、低公害、低環境負荷である植物由来のバイオマス原料とするβ−置換スチレン誘導体と石油由来のスチレン誘導体を共重合することによって得られる共重合体を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、植物由来のβ−置換スチレン誘導体と石油由来のスチレン誘導体を共重合することによって共重合体が得られることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の共重合体は、β−置換スチレン誘導体類から選ばれる単量体とスチレン誘導体類から選ばれる単量体を共重合することによって得られる一般式(1)で表される共重合体であって、分子量分布(重量平均分子量と数平均分子量の比)が2未満であることを要旨とする。
【化1】

(式(1)中、n及びmは正の整数であり、n≧mである。R1は水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、水酸基又はアルコキシ基を表す。R2,R3及びR4はそれぞれ独立に水素原子、水酸基若しくはアルコキシ基を表すか又は隣り合う2つが結合して−O(CH2iO−(iは1又は2)をなす。R5は水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、水酸基又はアルコキシ基を表す。)
【0008】
本発明の共重合体の製造方法は、BF3又はその錯体とα−アルキル又はα,α−ジアルキルベンジルアルコール誘導体と水を含む触媒系を用いて、β−置換スチレン誘導体類から選ばれる単量体とスチレン誘導体類から選ばれる単量体とをカチオン共重合することによって一般式(1)で表される共重合体を製造することを要旨とする。
【0009】
本発明の共重合触媒は、β−置換スチレン誘導体類から選ばれる単量体とスチレン誘導体類から選ばれる単量体とをカチオン共重合することによって一般式(1)で表される共重合体を製造する際に用いられる共重合触媒であって、BF3又はその錯体とα−アルキル又はα,α−ジアルキルベンジルアルコール誘導体と水を含むことを要旨とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の共重合体によれば、分子量分布が2未満と狭いため、重合体の機能や性質(例えば耐熱性)が安定している。また、β−置換スチレン誘導体として、低公害、低環境負荷の植物由来のβ−メチルスチレン誘導体を用いた場合には、地球温暖化などの原因となる二酸化炭素の排出量がトータルで削減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の共重合体において、一般式(1)中のハロゲン原子としては、例えば塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられる。また、アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基などの分岐があってもよいアルキル基のほか、シクロペンチル基やシクロヘキシル基などの環状アルキル基などが挙げられる。また、アルコキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基などが挙げられる。
【0012】
本発明の共重合体において、β−置換スチレン誘導体類から選ばれる単量体としては、植物由来のものを用いることが、地球温暖化などの原因となる二酸化炭素の排出量がトータルで削減できるので好ましい。植物由来のものとしては、例えば、アニス油やダイウイキョウ油、ウイキョウ油、コブシ油などに含まれるアネトール、イランイラン油に含まれるイソオイゲノール、同じくイランイラン油に含まれるイソサフロール、針葉樹の形成層に存在するグルコース配糖体コニフェリンのアグリコンであるコニフェリルアルコール、セイキョウ油に含まれるアサロン、ケイヒ油に含まれるo−クマルアルデヒドから還元して得られるo−クマリルアルコール、カッシア油やソゴウ油などにエステルとして含まれるシンナミルアルコールなどが挙げられる。これらの構造式を表1に示す。また、β−置換スチレン誘導体類から選ばれる単量体として、人為的に合成したものを用いることもできる。芳香環は無置換であってもよいし、1置換(2位、3位、4位のいずれか)であってもよいし、2置換(2,3位、2,4位、2,5位、2,6位、3,4位、3,5位のいずれか)であってもよいし、3置換(2,3,4位、2,3,5位、2,3,6位、2,4,5位、2,4,6位、2,5,6位、3,4,5位のいずれか)であってもよい。また、芳香環は2,4,6位の少なくとも1つに電子供与基(例えば水酸基やアルコキシ基)を有することが好ましい。これらの化合物の中で、経済性、重合反応性などの点からアネトール、イソオイゲノール、イソサフロールがとくに好ましい。
【表1】

【0013】
本発明の共重合体において、スチレン誘導体類から選ばれる単量体としては、例えば、スチレン、p−クロロスチレン、p−ブロモスチレン、p−ヨードスチレン、p−メチルスチレン、p−エチルスチレン、p−n−プロピルスチレン、p−イソプロピルスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−イソブチルスチレン、p−sec−ブチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−ヒドロキシスチレン、p−メトキシスチレン、p−エトキシスチレン、p−n−プロポキシスチレン、p−イソプロピポキシスチレン、p−n−ブトキシスチレン、p−イソブトキシスチレン、p−sec−ブトキシスチレン、p−tert−ブトキシスチレンなどが挙げられる。これらの化合物の中で、経済性、重合反応性などの点からスチレン、p−クロロスチレン、p−メチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−メトキシスチレン、p−ヒドロキシスチレン、p−tert−ブトキシスチレンがとくに好ましい。
【0014】
本発明の共重合体において、各ユニットのモル比は共重合反応の際に使用する各単量体のモル比を変更することによって種々の値とすることができる。例えば、β−置換スチレン誘導体ユニットを1モル%以上50モル%以下含むものとすることもできる。
【0015】
本発明の共重合体の数平均分子量Mnは、特に限定されるものではないが、数百〜数十万とすることができる。また、本発明の共重合体の分子量分布Mw/Mnは1より大きく2未満であり、好ましくは1より大きく1.6以下である。分子量分布Mw/Mnは共重合体が完全に分子量的に均一であれば値1になるが、現実には完全に分子量的に均一になることはないため値1を超える。
【0016】
本発明の共重合体において、一般式(1)の両末端の一方にはα−アルキル又はα,α−ジアルキルベンジル誘導体が結合し、他方には水酸基もしくは反応の停止の際に用いた求核剤(例えばアルコール)が結合しているもの、もしくは他方に結合した水酸基や求核剤が隣接する炭素上の水素と共に脱離して2重結合になっているものとしてもよい。α−アルキル又はα,α−ジアルキルベンジル誘導体としては、例えば、4−メトキシ−α−メチルベンジル、4−メトキシ−α−エチルベンジル、4−メトキシ−α,α−ジメチルベンジル、4−メトキシ−α,α−ジエチルベンジルなどが挙げられる。
【0017】
本発明の共重合体の製造方法は、BF3又はその錯体とα−アルキル又はα,α−ジアルキルベンジルアルコール誘導体と水を含む触媒系を用いて、β−置換スチレン誘導体類から選ばれる単量体とスチレン誘導体類から選ばれる単量体とをカチオン共重合することによって一般式(1)で表される共重合体を製造する。また、共重合体の製造方法としては、分子量が制御されており、分子量分布が2未満の共重合体が得られる限り、例えば、Progress in Polymer Science, Vol.25, 2000, p403-452に記載の公知のリビングカチオン重合法を用いることもできる。
【0018】
BF3の錯体としては、例えばBF3のジエチルエーテル錯体、ジメチルエーテル錯体、メタノール錯体、フェノール錯体、テトラヒドロフラン錯体、アセトニトリル錯体、水錯体、酢酸錯体、リン酸錯体などが挙げられ、そのうち経済性、重合反応性などの点からジエチルエーテル錯体が好ましい。BF3又はその錯体の使用量は、単量体の総モル数に対して0.001〜0.10の割合となるのが好ましく、0.01〜0.05の割合となるのがより好ましい。
【0019】
α−アルキル又はα,α−ジアルキルベンジルアルコール誘導体としては、例えば、4−メトキシ−α−メチルベンジルアルコール、4−メトキシ−α−エチルベンジルアルコール、4−メトキシ−α,α−ジメチルベンジルアルコール、4−メトキシ−α,α−ジエチルベンジルアルコール、1−エトキシ−1−(4−メトキシフェニル)エタン、1−エトキシ−1−(4−メトキシフェニル)プロパン、2−エトキシ−2−(4−メトキシフェニル)プロパン、1−メトキシ−1−(4−メトキシフェニル)エタン、1−メトキシ−1−(4−メトキシフェニル)プロパン、2−メトキシ−2−(4−メトキシフェニル)プロパンなどが挙げられる。こうしたベンジルアルコール誘導体の使用量は、単量体の総モル数に対して、好ましくは0.0001〜0.10モル、より好ましくは0.001〜0.05モルである。
【0020】
さらに本発明において、より分子量分布の狭い共重合体を得るために、反応の際に水を添加してもよい。水の使用量は、α−アルキル又はα,α−ジアルキルベンジルアルコール誘導体1モルに対して、好ましくは0.1〜10000モル、より好ましくは1〜300モルである。
【0021】
反応溶媒は、単量体が溶解し、連鎖移動反応の少ない溶媒であれば特に限定されないが、共重合反応に不活性な有機溶媒が好ましく、重合条件下での溶解性や反応性から、例えば、アセトニトリルやプロピオニトリルなどのニトリル系溶媒、ジクロロメタンやクロロホルム、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、n−プロピルクロライド、1−クロロ−n−ブタンなどのハロゲン化炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン、アニソールなどの芳香族炭化水素、及びペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素のほか、それらの混合溶媒などが挙げられる。これらを単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0022】
反応温度は、特に限定されるものではないが、例えば−70℃〜60℃、好ましくは−30℃〜40℃である。反応温度が高すぎると反応の制御が困難であり、再現性が得られにくく、低すぎると経済性が悪くなる。
【0023】
反応時間は、特に限定されるものではないが、用いる単量体、その量、重合の種類、重合の触媒の種類や量、反応温度等の条件に応じて、所望する性能の重合体が得られるように、反応時間を適宜決めればよい。通常は1秒〜100時間、好ましくは30秒〜20時間である。
【0024】
本発明の製造方法を用いると、末端官能性重合体やブロック共重合体、グラフト共重合体などの高機能性材料を得ることができる。例えば、β−置換スチレン誘導体と石油由来のスチレン誘導体を共重合せしめた後、新たにスチレン誘導体を加えることにより容易にブロック共重合体が得られる。このとき、一段階目の共重合において、未反応のβ−置換スチレン誘導体が残存している場合は、組成の異なるセグメントからなるブロック共重合体が得られる。
【0025】
本発明の製造方法により得られる共重合体は、例えば、再沈澱、加熱下での溶媒除去、減圧下での溶媒除去、水蒸気による溶媒の除去(コアギュレーション)、押出し機での脱気溶媒除去等の、重合体を溶液から単離する際の通常の操作によって、反応混合物から分離、取得することができる。
【0026】
本発明により得られる共重合体は、単体では熱により可塑化でき、プレス成形、押し出し成形、射出成形などの成形加工が可能である。また、シート上で溶媒除去することによりキャスト成形も可能である。成形品として使用する場合、安定剤、滑剤、顔料、耐衝撃性改良剤、加工助剤、補強剤、着色剤、難燃剤、耐候性改良剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防かび剤、抗菌剤、光安定剤、耐電防止剤、シリコンオイル、ブロッキング防止剤、離型剤、発泡剤、香料等の各種添加剤;ガラス繊維、ポリエステル繊維等の各種繊維;タルク、マイカ、モンモリロナイト、シリカ、木粉等の充填剤;各種カップリング剤などの任意成分を必要に応じて配合することができる。得られる成形品の用途は特に制限されず、従来のスチレン樹脂と同様に種々の用途に使用することができ、TV筐体、エアコン外装、CDケースなどの家電製品、容器、トレー、カップなどの食品容器、発泡スチロールなどの発泡断熱材などに用いることができる。
【0027】
本発明により得られる共重合体は、フェノール性水酸基を有する場合、用途は特に制限されず、通常のフェノール樹脂と同様に種々の用途に使用することができる。例えば、感光性材料、難燃剤、酸化防止剤および紫外線吸収剤、金属表面処理剤、イオン交換樹脂および吸着剤、クロマトグラフ用充填剤、イオン交換膜などに用いることができる。
【0028】
本発明により得られる共重合体は、フェノール性水酸基を有する場合、通常のフェノール樹脂と同様に架橋剤と配合することにより、熱硬化性樹脂原料として用いることができる。架橋剤としては、多官能エポキシ化合物、ホルムアルデヒド、ヘキサメチレンテトラミン、多官能イソシアネート化合物などが挙げられる。得られる硬化物の用途は特に制限されず、従来のフェノール樹脂の硬化物と同様に種々の用途に使用することができ、例えば、接着剤、半導体素子の封止剤、プリント配線基盤、コーティング剤、絶縁テープなどに用いることができる。
【0029】
以下、本発明を実施例を用いて具体的に説明する。
【実施例】
【0030】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0031】
以下の例において、それぞれの単量体の反応率、得られた共重合体の数平均分子量及び重量平均分子量、共重合体の組成比、ガラス転移温度は下記のようにして求めた。
(1)単量体の反応率
o−ジクロロベンゼンを不活性標準物質として、ガスクロマトグラフィー(GC)により、反応溶液を分析し、未反応の単量体濃度をそれぞれ調べることにより、それぞれの単量体の反応率を求めた。ここでは、GC装置として(株)島津製作所製、GC-8A(品番)、カラムとして(株)島津ジーエルシー製、Silicone DC11(長さ2m)又はSBS-200(長さ2m)を用いた。また、測定は、ヘリウムガスをキャリヤーガスとし、140℃〜160℃で行った。
(2)共重合体の分子量
共重合体の数平均分子量Mn及び重量平均分子量Mwはゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算で求めた。ここでは、GPC装置として日本分光(株)製、PU-980ポンプ(品番)、930-RI示差屈折計(品番)、カラムとして昭和電工(株)製Shodex K-805L2本を直列に繋いだものを用いた。また、測定は、テトラヒドロフランを溶媒とし、40℃で行った。
(3)共重合体の組成比
重水素化クロロホルムを溶媒とし、テトラメチルシラン(TMS)を0ppmとして、Varian製、Gemini 2000(品番)400MHzを用いてH−NMRスペクトルを得た。測定は室温で実施した。共重合体の組成比はスペクトルにある芳香環に起因する5.5−7.5ppmのピークとβ−置換基に起因する0−1ppmのピークより算出し、決定した。
(4)ガラス転移温度
セイコーインスツル(株)製、SSC−5200(品番)を用いて、示差走査熱量(DSC)測定によりガラス転移温度を求めた。
【0032】
[実施例1]
十分乾燥させたガラス製コック付フラスコに、脱水したアセトニトリル(和光純薬工業(株)製)25.4mL、脱水したジクロロメタン(和光純薬工業(株)製)7.43mL、trans−アネトール(東京化成工業(株)製)1.20mL(8mmol)、p−メトキシスチレン(Aldrich社製)1.06mL(8mmol)、4−メトキシ−α−メチルベンジルアルコール(Aldrich社製)0.32mL(0.5mol/L、アセトニトリル溶液)(単量体の合計に対し1モル%)、o−ジクロロベンゼン(和光純薬(株)製)0.52mLと蒸留水(キシダ化学(株)製)0.072mL(4mmol)を窒素気流下で加え、撹拌して均一に溶解した後、0℃に冷却し、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(Aldrich社製)4.0mL(10.0mmol/L、アセトニトリル溶液)(0.4mM)を加えてカチオン共重合を開始した。49時間後、重合をメタノールで停止し、反応溶液を調べた。なお、実施例1では、p−メトキシスチレン、trans−アネトール、p−メトキシベンジルアルコール、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体及び蒸留水の反応初期濃度は、それぞれ200mM,200mM,4mM,10mM,100mMとなり、p−メトキシベンジルアルコールとtrans−アネトールとの初期モル比は1:1となる。
【0033】
得られた反応溶液をGCにて分析したところ、単量体の反応率はそれぞれ、trans−アネトールが61.5%、p−メトキシスチレンが99.9%であった。反応溶液にクロロホルム50mLを加え、水50mLで反応溶液を洗浄し、減圧により揮発分を留去することで、p−メトキシスチレンとtrans−アネトールとの共重合体A1を2.03g得た。
【0034】
十分乾燥した共重合体A1をTHFに溶解し、GPCで測定し求めた数平均分子量Mn及び分子量分布Mw/Mnはそれぞれ、8700及び1.26であった。また、十分乾燥した共重合体A1を重水素化クロロホルムに溶解し、H−NMRで測定し求めた共重合体の組成比はそれぞれ、trans−アネトールが37.8モル%、p−メトキシスチレンが62.2モル%であった。なお、このときの1H−NMRスペクトルデータを図1の上段に示す。また、十分乾燥した共重合体A1のガラス転移温度は122.2℃であった。ちなみに、主鎖が分岐していないパラメトキシスチレンホモポリマーのガラス転移温度は89℃(文献値)である。このことから、共重合体A1は主鎖が分岐しているため主鎖が分岐していない場合に比べて耐熱性が向上していることがわかる。
【0035】
[実施例2]
p−メトキシベンジルアルコールとtrans−アネトールとの初期モル比が3:1となるようにして、実施例1に準じてカチオン共重合を行った。具体的には、p−メトキシスチレン、trans−アネトール、p−メトキシベンジルアルコール、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体及び蒸留水の反応初期濃度がそれぞれ150mM,50mM,4mM,10mM,200mMとなるように調製し、0℃で反応を行った。図2(a)は、このときの反応時間と反応率との関係を示すグラフである。
【0036】
[実施例3]
p−メトキシベンジルアルコールとtrans−アネトールとの初期モル比が1:1となるようにして、実施例1に準じてカチオン共重合を行った。具体的には、p−メトキシスチレン、trans−アネトール、p−メトキシベンジルアルコール、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体及び蒸留水の反応初期濃度がそれぞれ100mM,100mM,4mM,10mM,200mMとなるように調製し、0℃で反応を行った。図2(b)は、このときの反応時間と反応率との関係を示すグラフである。
【0037】
[実施例4]
p−メトキシベンジルアルコールとtrans−アネトールとの初期モル比が1:3となるようにして、実施例1に準じてカチオン共重合を行った。具体的には、p−メトキシスチレン、trans−アネトール、p−メトキシベンジルアルコール、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体及び蒸留水の反応初期濃度がそれぞれ50mM,150mM,4mM,10mM,200mMとなるように調製し、0℃で反応を行った。図2(c)は、このときの反応時間と反応率との関係を示すグラフである。
【0038】
実施例2〜4の各々において、反応が進むにつれて適時サンプリングを行い、数平均分子量Mnの計算値と実測値とを求め、横軸に数平均分子量Mnの計算値、縦軸に数平均分子量Mnの実測値をプロットしたグラフを作成した(図3(a)、左側の縦軸参照)。なお、数平均分子量Mnの計算値とは、アルコール1分子から1本のポリマーが生成すると仮定したときの数平均分子量である。図3から明らかなように、数平均分子量Mnの計算値と実測値とはよく一致していた。このことから、この共重合はリビングカチオン重合であることが示唆される。また、各サンプリングごとに分子量分布Mw/Mnを求めたところ、図3(a)(右側の縦軸参照)に示すように、いずれも1.2〜1.3の範囲に収まっていた。このことから、生成する共重合体は分子量の大きさが揃っていることがわかる。なお、実施例3における数平均分子量Mnと分子量分布Mw/Mnの推移を図3(b)に示す。
【0039】
[実施例5]
実施例3において、反応9時間後にはp−メトキシスチレンとtrans−アネトールの反応率が横ばいになったが、この時点でp−メトキシスチレンを反応開始時と同量だけ添加したところ、p−メトキシスチレンと共にtrans−アネトールも再び消費された。このことから、この共重合がリビングカチオン重合であることが示唆される。このとき得られた共重合体は、一段階目がGPCで測定し求めた数平均分子量Mnが4800、H−NMRで測定し求めた共重合体の組成比はそれぞれ、trans−アネトールが36.6モル%、p−メトキシスチレンが63.4モル%からなるブロックであり、二段階目が数平均分子量Mnが2500、trans−アネトールが24.9モル%、p−メトキシスチレンが75.1モル%からなるセグメントを含むブロック共重合体であった。
【0040】
[実施例6]
4−メトキシ−α−メチルベンジルアルコール(Aldrich社製)0.08mL(0.5mol/L、アセトニトリル溶液)(単量体の合計に対し0.25モル%)となるようにして、実施例1に準じてカチオン共重合を行った。具体的には、p−メトキシスチレン、trans−アネトール、p−メトキシベンジルアルコール、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体及び蒸留水の反応初期濃度がそれぞれ200mM,200mM,1mM,10mM,100mMとなるように調製し、−15℃で反応を行った。30時間後、重合をメタノールで停止し、反応溶液を調べた。
【0041】
得られた反応溶液をGCにて分析したところ、単量体の反応率はそれぞれ、trans−アネトールが53.4%、p−メトキシスチレンが90.4%であった。反応溶液にクロロホルム50mLを加え、水50mLで反応溶液を洗浄し、減圧により揮発分を留去することで、p−メトキシスチレンとtrans−アネトールとの共重合体A2を1.90g得た。
【0042】
十分乾燥した共重合体A2をTHFに溶解し、GPCで測定し求めた数平均分子量Mn及び分子量分布Mw/Mnはそれぞれ、22900及び1.39であった。このことから、本発明の共重合体製造方法を用いると、単量体に対するα−アルキル又はα,α−ジアルキルベンジルアルコール誘導体の量を変化させることにより任意に分子量を制御可能であり、分子量数万の共重合体も容易に得られることがわかる。
【0043】
[実施例7]
実施例1のtrans−アネトールをイソオイゲノール(東京化成工業(株)製)1.22mLに変更した以外は、実施例1と同様にして反応を行った。9時間後、重合をメタノールで停止し、反応溶液を調べた。得られた反応溶液をGCにて分析したところ、単量体の反応率はそれぞれ、イソオイゲノールが65.2%、p−メトキシスチレンが72.2%であった。反応溶液にクロロホルム50mLを加え、水50mLで反応溶液を洗浄し、減圧により揮発分を留去することで、p−メトキシスチレンとイソオイゲノールとの共重合体B1を2.01g得た。
【0044】
十分乾燥した共重合体B1をTHFに溶解し、GPCで測定し求めた数平均分子量Mn及び分子量分布Mw/Mnはそれぞれ、7050及び1.46であった。また、十分乾燥した共重合体B1を重水素化クロロホルムに溶解し、H−NMRで測定し求めた共重合体の組成比はそれぞれ、イソオイゲノールが47.5モル%、p−メトキシスチレンが52.5モル%であった。このときの1H−NMRスペクトルデータを図1の下段に示す。また、十分乾燥した共重合体B1のガラス転移温度は113.7℃であった。なお、実施例7では、p−メトキシスチレン、イソオイゲノール、p−メトキシベンジルアルコール、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体及び蒸留水の反応初期濃度は、それぞれ200mM,200mM,4mM,10mM,100mMであり、p−メトキシベンジルアルコールとイソオイゲノールとの初期モル比は1:1である。
【0045】
[実施例8]
p−メトキシベンジルアルコールとイソオイゲノールとの初期モル比が3:1となるようにして、実施例7に準じてカチオン共重合を行った。具体的には、p−メトキシスチレン、イソオイゲノール、p−メトキシベンジルアルコール、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体及び蒸留水の反応初期濃度がそれぞれ300mM,100mM,4mM,10mM,100mMとなるように調製し、−15℃で反応を行った。図4(a)は、このときの反応時間と反応率との関係を示すグラフである。
【0046】
[実施例9]
p−メトキシベンジルアルコールとイソオイゲノールとの初期モル比が1:1となるようにして、実施例7に準じてカチオン共重合を行った。具体的には、p−メトキシスチレン、イソオイゲノール、p−メトキシベンジルアルコール、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体及び蒸留水の反応初期濃度がそれぞれ200mM,200mM,4mM,10mM,100mMとなるように調製し、−15℃で反応を行った。図4(b)は、このときの反応時間と反応率との関係を示すグラフである。
【0047】
[実施例10]
p−メトキシベンジルアルコールとイソオイゲノールとの初期モル比が1:3となるようにして、実施例7に準じてカチオン共重合を行った。具体的には、p−メトキシスチレン、イソオイゲノール、p−メトキシベンジルアルコール、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体及び蒸留水の反応初期濃度がそれぞれ100mM,300mM,4mM,10mM,100mMとなるように調製し、−15℃で反応を行った。図4(c)は、このときの反応時間と反応率との関係を示すグラフである。
【0048】
実施例8〜10の各々において、反応が進むにつれて適時サンプリングを行い、数平均分子量Mnの計算値と実測値とを求め、横軸に数平均分子量Mnの計算値、縦軸に数平均分子量Mnの実測値をプロットしたグラフを作成した(図5(a)、左側の縦軸参照)。このグラフから明らかなように、数平均分子量Mnの計算値と実測値とは若干ずれていたが、計算値に対して実測値が直線的に増加していることから、実施例8〜10の共重合はリビング重合であることが示唆される。なお、GPCで得られる数平均分子量Mnは、ポリスチレンの分子量を基準とする相対的な分子量であり、ポリスチレンと全く同じ溶出時間に同じ分子量のものが溶出するときには理論値と合致するが、そうでないときには理論値からずれる。今回、数平均分子量Mnの計算値と実測値とがずれた原因はこの点にあると推察される。また、各サンプリングごとに分子量分布Mw/Mnを求めたところ、図5(a)(右側の縦軸参照)に示すように、いずれも1.2〜1.6の範囲に収まっていた。このことから、生成する共重合体は分子量の大きさが揃っていることがわかる。なお、実施例9における数平均分子量Mnと分子量分布Mw/Mnの推移を図5(b)に示す。
【0049】
[比較例1]
実施例1に準じて、trans−アネトールの単独重合を試みた。具体的には、アセトニトリルとジクロロメタンの混合溶媒(v/v=8/2)中、trans−アネトール、p−メトキシベンジルアルコール、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体及び蒸留水の反応初期濃度がそれぞれ200mM,4mM,10mM,200mMとなるように調製し、0℃で反応を行ったところ、23時間後の反応率、数平均分子量Mn及び分子量分布Mw/Mnはそれぞれ4%,1600,1.29であった(図6参照)。
【0050】
[比較例2]
比較例1において蒸留水を0mMとしたところ、23時間後の反応率、数平均分子量Mn及び分子量分布Mw/Mnはそれぞれ40%,3900,9.22であった(図6参照)。比較例1,2の結果から、分子量分布が狭くなるように制御してtrans−アネトールを単独重合させることは困難であることがわかる。
【0051】
[比較例3]
実施例1に準じて、イソオイゲノールの単独重合を試みた。すなわち、アセトニトリルとジクロロメタンの混合溶媒(v/v=8/2)中、イソオイゲノール、p−メトキシベンジルアルコール、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体及び蒸留水の反応初期濃度がそれぞれ400mM,4mM,10mM,100mMとなるように調製し、−15℃で反応を行ったところ、23時間後の反応率は<2%であった(図6参照)。比較例3の結果から、分子量分布が狭くなるように制御してイソオイゲノールを単独重合させることは困難であることがわかる。
【0052】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の共重合体は、例えば、フォトレジストなどの感光材、エポキシ樹脂などの硬化樹脂原料、酸化防止剤、イオン交換樹脂などに利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】各重合体の1H−NMRスペクトルを表すグラフである。
【図2】実施例2〜4のカチオン共重合の推移を表すグラフである。
【図3】実施例2〜4の共重合体の分子量に関するデータを表すグラフである。
【図4】実施例8〜10のカチオン共重合の推移を表すグラフである。
【図5】実施例8〜10の共重合体の分子量に関するデータを表すグラフである。
【図6】比較例1〜3のカチオン単独重合の推移を表すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
β−置換スチレン誘導体類から選ばれる単量体とスチレン誘導体類から選ばれる単量体を共重合することによって得られる一般式(1)で表される共重合体であって、分子量分布(重量平均分子量と数平均分子量の比)が2未満である、共重合体。
【化1】

(式(1)中、n及びmは正の整数であり、n≧mである。R1は水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、水酸基又はアルコキシ基を表す。R2,R3及びR4はそれぞれ独立に水素原子、水酸基若しくはアルコキシ基を表すか又は隣り合う2つが結合して−O(CH2iO−(iは1又は2)をなす。R5は水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、水酸基又はアルコキシ基を表す。)
【請求項2】
前記β−置換スチレン誘導体ユニットを1モル%以上50モル%以下含む、請求項1に記載の共重合体。
【請求項3】
前記β−置換スチレン誘導体が植物由来のβ−メチルスチレン誘導体である、請求項1又は2に記載の共重合体。
【請求項4】
前記β−置換スチレン誘導体がフェノール性水酸基を有するイソオイゲノールである、請求項1〜3のいずれかに記載の共重合体。
【請求項5】
BF3又はその錯体とα−アルキル又はα,α−ジアルキルベンジルアルコール誘導体と水を含む触媒系を用いて、前記β−置換スチレン誘導体類から選ばれる単量体と前記スチレン誘導体類から選ばれる単量体とをカチオン共重合することによって得られる、請求項1〜4のいずれかに記載の共重合体。
【請求項6】
前記一般式(1)の両末端の一方にはα−アルキルベンジル誘導体又はα,α−ジアルキルベンジル誘導体が結合している、請求項1〜5のいずれかに記載の共重合体。
【請求項7】
BF3又はその錯体とα−アルキル又はα,α−ジアルキルベンジルアルコール誘導体と水を含む触媒系を用いて、β−置換スチレン誘導体類から選ばれる単量体とスチレン誘導体類から選ばれる単量体とをカチオン共重合することによって請求項1〜6のいずれかに記載の共重合体を製造する、共重合体の製造方法。
【請求項8】
β−置換スチレン誘導体類から選ばれる単量体とスチレン誘導体類から選ばれる単量体とをカチオン共重合することによって請求項1〜6のいずれかに記載の共重合体を製造する際に用いられる共重合触媒であって、BF3又はその錯体とα−アルキル又はα,α−ジアルキルベンジルアルコール誘導体と水を含む共重合触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−280378(P2008−280378A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−123602(P2007−123602)
【出願日】平成19年5月8日(2007.5.8)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】