説明

共重合芳香族ポリエステルおよびその製造方法ならびに二軸配向フィルム

【課題】6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分を共重合していながらも、フィルムなどにしたときに含有する異物などの周辺に発生するフライスペックと呼ばれる欠陥が少ない共重合芳香族ポリエステルおよびその製造方法ならびにそれを用いた二軸配向フィルムの提供。
【解決手段】芳香族ジカルボン酸成分とグリコール成分とからなり、全酸成分の5モル%以上80モル%未満が6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分であるポリエステルあって、孔径8μmの直孔性フィルターを通過できない不溶性粗大異物量を反応途中および反応後のフィルター濾過などによって100個/mg以下とした共重合芳香族ポリエステル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸を共重合した新規な芳香族ポリエステルおよびその製造方法ならびにそれを用いた二軸配向フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートやポリエチレン−2,6−ナフタレートに代表されるポリエステルは優れた機械的特性、寸法安定性および耐熱性を有することから、フィルムなどに幅広く使用されている。特にポリエチレン−2,6−ナフタレートは、ポリエチレンテレフタレートよりも優れた機械的特性、寸法安定性および耐熱性を有することから、それらの要求の厳しい用途、例えば高密度磁気記録媒体などのベースフィルムなどに使用されている。しかしながら、近年の高密度磁気記録媒体などでの寸法安定性、特に温度や湿度の変化に対する寸法安定性の要求はますます高くなってきており、さらなる特性の向上が求められている。
【0003】
温度や湿度の変化に対する寸法変化を小さくする方法としては、例えばポリエチレンテレフタレートやポリエチレン−2,6−ナフタレートの場合、湿度膨張係数と温度膨張係数とはともにヤング率と非常に密接な関係にあり、その方向のヤング率を高くすればよい。しかしながら、ヤング率を高めるにはその方向により厳しい延伸条件で延伸することとなり、例えばフィルム中に存在する粗大異物とポリマーの界面に剥離が生じ、フライスペックと言われる欠陥が生じやすくなる。また、特許文献3では、湿度膨張係数の小さいポリマーとして、6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸を酸成分として用いたポリエステルが提案されている。しかしながら、その実施例を見ても分かるように、湿度膨張係数は低いものの、温度膨張係数が非常に高いものであった。
【0004】
そこで、さらに研究を進めたところ、6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分を共重合成分として用いても湿度膨張係数を小さくでき、しかも温度膨張係数はヤング率を高くしていくことで小さくできるとの知見を得た。ところが、従来からポリエステルの原料として用いられてきたテレフタル酸もしくは2,6−ナフタレンジカルボン酸またはそれらのエステル形成性誘導体に比べ、6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸もしくはそのエステル形成性誘導体といった原料は、その融点が高く溶媒などへの溶解も困難なことから、原料段階での異物の低減が困難であり、ポリマーとしたときに含有する異物量が多く、前述のフライスペックと呼ばれる欠陥が生じやすいという新たな問題があることを見出した。
【0005】
【特許文献1】特開昭60−135428号公報
【特許文献2】特開昭60−221420号公報
【特許文献3】特開昭61−145724号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分を共重合していながらも、フィルムなどにしたときに含有する異物などの周辺に発生するフライスペックと呼ばれる欠陥が少ない共重合芳香族ポリエステルおよびその製造方法ならびにそれを用いた二軸配向フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決しようと鋭意研究したとき、下記構造式(I)で示される6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分を共重合成分として用いる場合、その重合工程の途中および重合終了後に濾過を行うなどして粗大異物を特定量以下まで減らすと、フライスペックの少ないフィルムが得られることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
かくして本発明によれば、主たる芳香族ジカルボン酸成分が下記構造式(I)で表わされる6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分および下記構造式(II)で表わされる芳香族ジカルボン酸成分からなり、下記構造式(I)の割合が、全芳香族ジカルボン酸成分のモル数を基準として、5モル%以上80モル%未満の範囲にあること、およびグリコール成分が下記構造式(III)であることを具備する共重合芳香族ポリエステルであって、
孔径8μmの直孔性フィルターを通過できない不溶性粗大異物量が、共重合芳香族ポリエステルの重量を基準として、100個/mg以下である共重合芳香族ポリエステルが提供される。
【0009】
【化1】

(上記構造式(I)中のRは炭素数1〜10のアルキレン基を、上記構造式(II)中のRはフェニレン基またはナフタレンジイル基、上記構造式(III)中のRは炭素数2〜4のアルキレン基を示す。)
【0010】
また、上記本発明の好ましい態様として、前記構造式(II)で表わされる芳香族ジカルボン酸成分が、テレフタル酸成分、イソフタル酸成分、2,6−ナフタレンジカルボン酸成分および2,7−ナフタレンジカルボン酸成分からなる群より選ばれる少なくとも1種であること、アルキレングリコール成分は、その90モル%以上がエチレングリコール成分であることの少なくともいずれかを具備する共重合芳香族ポリエステルおよびそれらを用いた二軸配向共重合芳香族ポリエステルフィルムも提供される。
【0011】
また、もう一つの本発明として、芳香族ジカルボン酸もしくはそのエステル形成性誘導体とアルキレングリコールとをエステル化反応もしくはエステル交換反応させてポリエステルの前駆体を合成する第一反応と、該前駆体を重縮合反応させる第二反応とからなるポリエステルの製造方法において、
主たる芳香族ジカルボン酸成分が前記構造式(I)で表わされる6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分および前記構造式(II)で表わされる芳香族ジカルボン酸成分からなり、かつ前記構造式(I)で表わされる6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分の割合が、全芳香族ジカルボン酸成分のモル数を基準として5モル%以上80モル%未満であること、
第一反応で得られたポリエステル前駆体を、第二反応を開始する前に、95%濾過精度が10μm以下の第1フィルターでろ過を行なうこと、そして、
第二反応によって得られる共重合芳香族ポリエステルを溶融状態とし、平均空孔径が6μm以下の第2フィルターで濾過する共重合芳香族ポリエステルの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、含有する異物量が多くなりやすい前記構造式(I)で示される6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分を共重合しても、粒径8μm以上の粗大異物を特定量以下まで取り除くことで、本発明の共重合芳香族ポリエステルが持つポリエチレン−2,6−ナフタレートなどに比べて延伸するときの応力が低いという特性とあいまってか、フライスペックの少ないフィルムなどの成形品を提供することができる。
【0013】
そして、本発明の共重合芳香族ポリエステルを用いれば、6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分を共重合することによる湿度膨張係数の低減だけでなく、より高い延伸倍率で延伸してもフライスペックができにくいことから、さらに温湿度変化に対する寸法安定性に優れた成形品などを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明について、詳述する。
本発明において、共重合芳香族ポリエステルを形成する主たる芳香族ジカルボン成分としては、前記式(I)および(II)で挙げられたものであることが、フィルムなどに成形したときに十分な機械的特性などを具備させるために必要である。
【0015】
また、本発明の共重合芳香族ポリエステルは、全芳香族ジカルボン酸成分のうち5モル%以上80モル%未満が前記構造式(I)の6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分である。6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分の割合が少なすぎると、共重合によるフライスペックの低減効果が小さくなりやすく、また成形品としたときの寸法安定性などの向上効果が乏しい。他方、6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分の割合が多すぎると、結晶性や融点が高すぎて、製膜などの工程での生産性が低下しやすい。好ましい6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分の割合は、10モル%以上75モル%以下、さらに15モル%以上70モル%以下の範囲である。特に、成形性と寸法安定性の点からは、20モル%以上40モル%以下の範囲が好ましい。一方、共重合量の多いものを作成すれば、共重合していないか共重合量の少ないものと併用することで目的の共重合量のものを簡便に用意することができる。そのような観点から、好ましい6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分の割合は、50モル%以上80モル%未満、さらに55モル%以上75モル%以下の範囲である。
【0016】
本発明における、前述の構造式(I)で示される6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分としては、Rの部分が炭素数1〜10のアルキレン基であるものであり、好ましくは6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分、6,6’−(トリメチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分および6,6’−(ブチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分などが挙げられ、これらの中でも本発明の効果の点からは、上記一般式(I)におけるRの炭素数が偶数のものが好ましく、特に6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分が好ましい。
【0017】
つぎに、本発明における前記構造式(II)で表わされる芳香族ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸成分、フタル酸成分、イソフタル酸成分、1,4−フェニレンジオキシジ酢酸成分、1,3−フェニレンジオキシジ酢酸成分、4,4’−ジフェニルジカルボン酸成分、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸成分、4,4’−ジフェニルケトンジカルボン酸成分、4,4’−ジフェノキシエタンジカルボン酸成分、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸成分、2,6−ナフタレンジカルボン酸成分、2,7−ナフタレンジカルボン酸成分などが挙げられ、これらの中でもより機械的特性などを高度に維持しやすい観点から、テレフタル酸成分、イソフタル酸成分、2,6−ナフタレンジカルボン酸成分および2,7−ナフタレンジカルボン酸成分が好ましく、特にテレフタル酸成分、2,6−ナフタレンジカルボン酸成分が好ましく、最も好ましいのは2,6−ナフタレンジカルボン酸成分である。
【0018】
また、前記構造式(III)で表わされるアルキレングリコール成分としては、エチレングリコールが本発明の効果の点から好ましい。好ましいグリコール成分中のエチレングリコール成分の割合は90モル%以上、さらに95モル%以上、特に97モル%以上である。
【0019】
なお、本発明の共重合芳香族ポリエステルは、本発明の効果を損なわない範囲で、それ自体公知の他の共重合成分をさらに共重合、例えば繰り返し単位のモル数に対して10モル%以下、さらに5モル%以下の範囲で共重合していてもよいし、他の熱可塑性樹脂などを、例えば20重量%以下、さらに10重量%以下の範囲でブレンドしても良い。
【0020】
ところで、本発明の共重合芳香族ポリエステルは、テトラエチレングリコールによって分解・溶解し、孔径8μmの直孔性フィルターによってろ過したときの、不溶性粗大異物量が、共重合芳香族ポリエステルの重量を基準として、100個/mg以下であることが必要である。不溶性粗大異物量が上限を越えると、前述の延伸応力の低い特性を活かしてもフライスペックが発生しやすくなる。好ましい不溶性粗大異物量の上限は80個/mg以下、さらに50個/mg以下である。このような不溶性粗大異物量は、例えば、後述の本発明の共重合芳香族ポリエステルの製造方法などを採用することにより、減らすことができる。なお、不溶性粗大異物量は少ないほど好ましく、下限は0個/mgである。
【0021】
また、本発明の共重合芳香族ポリエステルは、P−クロロフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン(重量比40/60)の混合溶媒を用いて35℃で測定した固有粘度が、0.4〜1.5dl/g、さらに0.5〜1.3dl/gの範囲にあることが取扱い性や機械的特性などの点から好ましく、特に後述の第2フィルターでの濾過を容易に行なえるようにする観点から、0.8dl/g以下であることが好ましい。
【0022】
以下、第2の本発明の共重合芳香族ポリエステルの製造方法について説明する。なお、特に断りがない部分については、前述の第1の本発明で説明したのと同様なことが言える。
【0023】
本発明の共重合芳香族ポリエステルの製造方法は、芳香族ジカルボン酸もしくはそのエステル形成性誘導体とアルキレングリコールとをエステル化反応もしくはエステル交換反応させてポリエステルの前駆体を合成する第一反応と、該前駆体を重縮合反応させる第二反応とからなる。
【0024】
第2の本発明における、主たる芳香族ジカルボン酸およびそのエステル形成性誘導体としては、前記構造式(I)で示される6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分および前記構造式(II)で表わされる芳香族ジカルボン酸成分を形成するものであり、具体的には前記構造式(I)および(II)の両端に、水酸基もしくは炭素数1〜4のアルコキシ基が付加したものが好ましく挙げられる。
【0025】
ところで、本発明における第一反応は、前記構造式(I)を形成しうる6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸もしくはそのエステル形成誘導体とアルキレングリコールとの反応を、前記構造式(II)を形成しうる芳香族ジカルボン酸もしくはそのエステル形成性誘導体とアルキレングリコールとの反応と、一緒に行なってもよいし別々に行なっても良い。好ましくは製造工程を簡略化できることから、両方を一緒に行なうことが好ましい。
【0026】
ところで、第2の本発明の特徴の一つは、第一反応で得られたポリエステル前駆体を、第二反応を開始する前に、95%濾過精度が10μm以下の第1フィルターでろ過を行ない、得られる共重合芳香族ポリエステルをテトラエチレングリコールによって溶解したときに、孔径8μmの直孔性フィルターを通過できない不溶性粗大異物量を減らすことにある。好ましくは、得られる共重合芳香族ポリエステルの重量を基準として、孔径8μmの直孔性フィルターを通過できない不溶性粗大異物量を200個/mg以下、さらに150個/mg以下となるように第1フィルターで濾過するのが好ましい。このようにして不溶性粗大異物量を減らすことで、後述の第二反応後の濾過で、前述の延伸応力の低い特性を活かしてフライスペックの抑制を可能に出来る範囲まで不溶性粗大異物量を減らしやすくなる。なお、第1フィルターでの濾過は一度に限定されず、必要であればさらに濾過を繰り返したり、フィルターを多重に使用しても良い。したがって、第一反応と第二反応の間で行なう第1フィルターの濾過精度は、フライスペック低減の観点からは小さいほど好ましく、95%濾過精度がさらに8μm以下、さらに5μm以下であることが好ましい。一方、第1フィルターの95%濾過精度の下限は特に制限されないが、小さくしていくとそれだけ詰まりやすく交換周期が短くなるので、生産性などの観点から3μm以上、さらに4μm以上であることが好ましい。また、第1フィルターは、金属繊維の不織布を積層した構造のもので、積層された金属不織布の空隙率は通常40〜80%の範囲にあることが、濾過速度を維持しつつ、濾過圧力に耐えられるので好ましい。なお、このような不溶性粗大異物量は、原料段階から極力減らすことが好ましいが、前述のとおり難しく、第一反応後のフィルター濾過によって取り除くことが、簡便で且つ極めて有効である。
【0027】
ところで、第2の本発明において、第一反応は反応液が透明になるまで十分に進行させることが好ましい。反応が十分でなく反応液が白濁色である場合、第1フィルターが詰まりやすく、また次の重縮合反応に進行すると得られる共重合芳香族ポリエステルの重合反応が途中で進みにくくなることがある。
【0028】
さらに好ましい第一反応の条件について説明する。第一反応は、常圧下で行ってもよいが、0.05MPa〜0.5MPaの加圧下で行うことが反応速度をより速めやすいことから好ましい。また、第一反応の温度は、210℃〜270℃の範囲で行なうことが好ましい。反応圧力を上記範囲内とすることで反応の進行を進みやすくしつつ、ジアルキレングリコールに代表される副生物の発生を抑制できる。このとき、アルキレングリコール成分は、第一反応を行う反応系に存在する酸成分に対し1.1〜6モル倍用いることが、反応速度及び樹脂の物性維持の点から好ましい。より好ましくは2〜5モル倍、さらに好ましくは3〜5モル倍である。
【0029】
また、第一反応の反応速度をより早くするには、それ自体公知の触媒を用いることが好ましく、たとえばLi,Na,K,Mg,Ca,Mn、Co、Tiなどの金属成分を有する金属化合物が好ましく挙げられ、これらの中でも加圧下で行う場合は、反応の進みやすさの点からMnやTi化合物が好ましい。特にTi化合物は、さらに重縮合反応触媒としても使用でき、かつ触媒残渣の析出も少ないことから好ましい。本発明で用いるチタン化合物としては、触媒残渣の析出による不溶性粗大異物の発生を抑制する観点からポリエステル中に可溶な有機チタン化合物が好ましい。特に好ましいチタン化合物としては、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラプロポキシド、チタンテトラブトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンテトラフェノキシド、トリメリット酸チタンなどを好ましく例示できる。
【0030】
添加する触媒量は、第一反応中に存在する全酸成分のモル数を基準として、金属元素換算で、10〜150ミリモル%の範囲にあることが好ましく、さらに20〜100ミリモル%、特に30〜70ミリモル%の範囲にあることが反応速度を促進しつつ、触媒起因の粗大不溶性異物の生成を抑制でき、さらに得られる共重合芳香族ポリエステルの耐熱性を高度に維持できることから好ましい。なお、チタン化合物を添加する場合の添加時期は、第一反応のエステル化反応開始時から存在するように添加し、前述のとおり、引き続き重縮合反応触媒として使用することが好ましい。もちろん、重縮合反応速度をコントロールする目的で2回以上に分けて添加してもよい。
【0031】
つぎに、第一反応で得られた前駆体を重縮合反応させる第二反応について説明する。
本発明では、得られる共重合芳香族ポリエステルに、高度の熱安定性を付与させる目的で、第二反応における重縮合反応の開始以前に、反応系にリン化合物からなる熱安定剤を添加することが好ましい。具体的なリン化合物としては、化合物中にリン元素を有するものであれば特に限定されず、例えば、リン酸、亜リン酸、リン酸トリメチルエステル、リン酸トリブチルエステル、リン酸トリフェニルエステル、リン酸モノメチルエステル、リン酸ジメチルエステル、フェニルホスホン酸、フェニルホスホン酸ジメチルエステル、フェニルホスホン酸ジエチルエステル、リン酸アンモニウム、トリエチルホスホノアセテート、メチルジエチルホスホノアセテートなどを挙げることができ、これらのリン化合物は二種以上を併用してもよい。なお、リン化合物の添加時期は、第一反応が実質的に終了してから第二反応である重縮合反応初期の間に行なうことが好ましく、添加は一度に行ってもよいし、2回以上に分割して行ってもよい。
【0032】
ところで、重縮合反応の温度は270℃〜300℃の範囲で行い、重縮合反応中の圧力は50Pa以下の減圧下で行うのが好ましい。重縮合反応中の圧力が上限より高いと重縮合反応に要する時間が長くなり且つ重合度の高い共重合芳香族ポリエステルを得ることが困難になる。重縮合触媒としては、それ自体公知のTi,Al,Sb,Geなどの金属化合物を好適に使用でき、それらの中でもエステル化反応時に添加されたチタン化合物を引き続き使用することが触媒残渣による不溶性粗大異物の発生を抑制できることから好ましい。
【0033】
ところで、本発明のもう一つの特徴は、重縮合反応によって得られる所望の分子量を有する共重合芳香族ポリエステルを、溶融状態で平均空孔径が6μm以下の第2フィルターで濾過することにある。このような濾過により、前述の第一反応と第二反応の間で行なう濾過では取りきれなかった、またはその後に生成された不溶性粗大異物を取り除くことが出来る。好ましい第2フィルターの平均空孔径は、5μm以下であり、小さければ小さいほどフライスペックの点では好ましいが、生産性などの点から2μm以上、さらに3μm以上であることが好ましい。
【0034】
また、第2フィルターは、金属不織布メディアを積層した構造のもので、積層された金属不織布の空隙率は通常40〜80%の範囲にあることが、濾過速度を維持しつつ、濾過圧力に耐えられるので好ましい。
【0035】
以上、説明してきた本発明の製造方法を用いれば、成形したときにフライスペックなどの欠点が発生しにくい共重合芳香族ポリエステルを製造することができる。
このようにして得られる本発明の共重合芳香族ポリエステルは、本発明の効果を阻害しない範囲で、他の熱可塑性ポリマー、紫外線吸収剤等の安定剤、酸化防止剤、可塑剤、滑剤、難燃剤、離型剤、顔料、核剤、充填剤あるいはガラス繊維、炭素繊維、層状ケイ酸塩などを必要に応じて配合してポリエステル組成物としても良く、そのようなポリエステル組成物にすることは得られる成形品に更なる特性を付与しやすいことから好ましい。なお、他の熱可塑性ポリマーとしては、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート、ABS樹脂、ポリメチルメタクリレート、ポリアミド系エラストマー、ポリエステル系エラストマーなどが挙げられる。また、このようにして得られる本発明の共重合芳香族ポリエステルは、押出成形法、射出成形法、押出しブロー成形法、カレンダー成形法により、各種の成形品とすることができる。
【0036】
また、本発明の二軸配向フィルムは、上述の本発明の共重合芳香族ポリエステルを溶融状態で押出し、二軸方向に延伸することで製造でき、製膜方法などはそれ自体公知のものを採用することができる。なお、前述の第2フィルターの濾過は、製膜直前であるほど、再凝集などによって後から生成される不溶性粗大異物の影響を低減できる。そのような観点から、第2フィルターでの濾過は、製膜する際の溶融押出工程で用いるのが好ましい。
【0037】
本発明の二軸配向フィルムについては、前述の本発明の共重合芳香族ポリエステルおよびその製造方法で説明したことと、特に断らない限り同様なことが言える。なお、前述の通り、6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分を共重合していることから、本発明の二軸配向フィルムは、同じヤング率のポリエチレン−2、6−ナフタレートからなる成形品と比べたとき、同等の温度膨張係数を維持しつつ、低い湿度膨張係数を有するなど、温湿度変化に対する優れた寸法安定性を発現し、しかも6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分を共重合することに基づくフライスペックの問題も、第一フィルターと第二フィルターの濾過などによる不溶性粗大異物の低減と6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸を共重合したときのポリマー特性によって極めて少なくすることができる。
【実施例】
【0038】
以下に実施例及び比較例を挙げ、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明における共重合芳香族ポリエステルおよび二軸配向共重合芳香族ポリエステルフィルムの特性は、下記の方法で測定および評価した。
【0039】
(1)固有粘度
得られたポリエステルの固有粘度はP−クロロフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン(40/60重量比)の混合溶媒を用いて、35℃で測定して求めた。
【0040】
(2)大突起の数(フライスペック)
アルミニウムをフィルム表面に蒸着した層を、光学顕微鏡を用いて微分干渉法により倍率200倍にて1cm×5cmの範囲を観察し、長径が10μm以上の大きさの突起をマーキングした。この突起を非接触三次元粗さ計(WYKO社製TOPO−3D)にて、測定倍率40倍、測定面積242μm×239μm(0.058mm)の条件にて測定、表面粗さのプロフィル(オリジナルデータ)を得た。同粗さ測定計内臓のソフトによる表面解析により、ベースライン高さからの最高高さをもって突起高さとし、高さ100nm以上の突起を1cmあたりの個数で表す。
【0041】
(3)不溶性粗大異物の含有量
粗大異物量1は、第1フィルター通過後のポリエステル前駆体を、テトラエチレングリコールによって200℃に加熱して分解・溶解し、溶解液とした。そして、その溶解液を、孔径8μmの直孔性メンブレンフィルターによってろ過した。そして、フィルター上に残った不溶性粗大異物の数をカウントし、溶解させたポリエステル前駆体から得られる共重合芳香族ポリエステルの重量を基準として、含有量を個/mgとして算出した。
粗大異物量2は第2フィルター通過後の共重合芳香族ポリエステルを、テトラエチレングリコールによって200℃に加熱して分解・溶解し、溶解液とした。そして、その溶解液を、孔径8μmの直孔性メンブレンフィルターによってろ過した。そして、フィルター上に残った不溶性粗大異物の数をカウントし、溶解させた共重合芳香族ポリエステルの重量を基準として、含有量を個/mgとして算出した。
【0042】
(4)第1フィルターの濾過精度
試験粉体のガラスビーズ(JIS−Z8901:2006記載)を蒸留水中に分散させ、フィルター濾過前後の粒度分布の変化を測定し、95%カット値を持って濾過精度とする。
【0043】
(5)第2フィルターの平均空孔径
予め10分以上イソプロピルアルコールに浸したフィルターエレメントを水平にして、試験用タンクに取り付け、タンク内にイソプロピルアルコールをフィルターエレメントの上端15mmの高さまで注ぐ。次にフィルターエレメント内部の空気圧を零から徐々に増加し、メディアより最初に気泡(バブル)が発生し、その気泡が連続して発生する時の空気圧をマノメータにより読み取る。更に空気流量を増し、空気流量と空気圧を測定し、空気流量の変化率がほぼ一定になるまで継続する。空気流量と空気圧の関係をグラフに表わし、初期の傾きの接線と終期傾きの接線から、交点のバブルポイント圧を読み取る。得られた交点バブルポイント圧より、平均空孔径を次式より算出する。
D=3640/P
ここで、D:平均空孔径(μm)、P:交点バブルポイント圧(mmH2O)である。
【0044】
[実施例1]
6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸30kg(74.6モル)、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルエステル7.0kg(32.0モル)、エチレングリコール21kgを攪拌機、精留塔、冷却器を供えた反応槽に仕込み、150℃まで昇温した。その後、トリメリット酸チタンをTi元素量として2.3g(45ミリモル%)添加し、反応槽全体を窒素により0.25MPaの圧力下で加熱して、反応槽内部温度を240℃に昇温した。精留塔の塔頂温度は、200℃を超えたときに全還流となるようにし、200℃より低いときは還流比1に設定した。反応の進行に従い、圧力一定のまま内温を250℃まで上げた。反応液が白濁色から透明に変化したことを確認し、反応終了とした。反応時間は175分であった。その後、反応槽内の圧力を常圧にゆっくりと戻し、トリメチルフォスフェート13.4g(90ミリモル%)を添加し、余剰のエチレングリコールを追い出した。
【0045】
得られた反応生成物を重合反応槽へと移送した。このとき、移送途中で95%濾過精度8μmの金属繊維製のフィルターを通して濾過した。重合反応槽では250℃からゆっくりと昇温しながら、また減圧させながら重縮合反応を行い、最終的に290℃、50Paで所定の重合度になるまで重縮合を行い、共重合芳香族ポリエステルを製造した。
【0046】
このようにして得られたポリエステルを、押し出し機に供給して290℃まで過熱して溶融状態とし、平均空孔径が4.3μmの金属不織布製の第二フィルターで濾過した後、ダイから溶融状態で回転中の温度50℃の冷却ドラム上にシート状に押し出し未延伸フィルムとした。そして、製膜方向に沿って回転速度の異なる二組のローラー間で、上方よりIRヒーターにてフィルム表面温度が140℃になるように加熱して縦方向(製膜方向)の延伸を、延伸倍率5.5倍で行い、一軸延伸フィルムを得た。そして、この一軸延伸フィルムをステンターに導き、140℃で横方向(幅方向)に延伸倍率6.0倍で延伸し、その後210℃で10秒間熱固定処理を行い、厚さ7μmの二軸延伸フィルムを得た。得られた共重合芳香族ポリエステルおよび二軸配向共重合芳香族ポリエステルフィルムの特性を表1に示す。
【0047】
[実施例2〜4および比較例1〜4]
実施例1において、第1フィルターまたは第2フィルターを表1に示す95%濾過精度もしくは平均空孔径のものに変更したほかは同様な操作を繰り返した。得られた共重合芳香族ポリエステルおよび二軸配向共重合芳香族ポリエステルフィルムの特性を表1に示す。
【0048】
[実施例5]
組成を表1のように変更した、すなわち6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸15kg(37.3モル)、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルエステル16.9kg(69.3モル)、エチレングリコール17.8kgとしたほかは実施例1同様な操作を繰り返した。得られた共重合芳香族ポリエステルおよび二軸配向共重合芳香族ポリエステルフィルムの特性を表1に示す。
【0049】
[実施例6および比較例5〜7]
実施例5において、第1フィルターまたは第2フィルターを表1に示す濾過精度もしくは平均空孔径のものに変更したほかは同様な操作を繰り返した。得られた共重合芳香族ポリエステルおよび二軸配向共重合芳香族ポリエステルフィルムの特性を表1に示す。
【0050】
[実施例7]
組成を表1のように変更した、すなわち2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルエステルに代えてテレフタル酸ジメチルエステル6.2Kg(32.0モル)としたほかは、実施例1同様な操作を繰り返した。得られた共重合芳香族ポリエステルおよび二軸配向共重合芳香族ポリエステルフィルムの特性を表1に示す。
【0051】
[実施例8および比較例8〜9]
実施例7において、第1フィルターまたは第2フィルターを表1に示す濾過精度もしくは平均空孔径のものに変更したほかは同様な操作を繰り返した。得られた共重合芳香族ポリエステルおよび二軸配向共重合芳香族ポリエステルフィルムの特性を表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
表1中の、Aは6,6’−エチレンジオキシージー2−ナフトエ酸成分、Bは2,6−ナフタレンジカルボン酸成分、Cはテレフタル酸成分、粗大異物量1は第1フィルター濾過後の原料中の粒径8μmを越える不溶性粗大異物量を、得られるポリエステル樹脂1mg当たりに換算したもの、粗大異物量2は第2フィルター濾過後の得られたポリエステル樹脂中の粒径8μmを越える不溶性粗大異物量を、得られるポリエステル樹脂1mg当たりに換算したもの、粗大突起数は前述の(2)大突起の数(フライスペック)で説明した測定方法で得られた突起数である。
実施例はいずれも大突起数が低めで良好であった。
【0054】
また、参考までにポリエチレン−2,6−ナフタレートに6,6−エチレンジオキシージ−2−ナフトエ酸成分を酸成分で6モル%共重合したものを樹脂1、20モル%共重合したものを樹脂2、27モル%共重合したものを樹脂3、35モル%共重合したものを樹脂4、70モル%共重合したものを樹脂5、ポリエチレンテレフタレートに6,6−エチレンジオキシージ−2−ナフトエ酸を酸成分で20モル%共重合したものを樹脂6、35モル%共重合したものを樹脂7とし、それらとポリエチレン−2,6−ナフタレート(以下、PEN)とをそれぞれ延伸してフィルムにしたときのヤング率と、そのヤング率のときの湿度膨張係数(以下、αh)および湿度膨張係数(以下、αt)の結果を表2に示す。
【0055】
【表2】

【0056】
表2の結果から明らかなように、6,6−エチレンジオキシージ−2−ナフトエ酸成分を共重合したものはPENよりも同じヤング率なら低い湿度膨張係数を示し、特許文献3のような温度膨張係数が大きくなることもなく、優れた温湿度変化に対する寸法安定性を有することが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の製造方法で作られる共重合芳香族ポリエステルは、押出成形、射出成形、圧縮成形、ブロー成形などの通常の溶融成形に供することができ、繊維、フィルム、三次元成形品、容器、ホース等に加工することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主たる芳香族ジカルボン酸成分が下記構造式(I)で表わされる6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分および下記構造式(II)で表わされる芳香族ジカルボン酸成分からなり、下記構造式(I)の割合が、全芳香族ジカルボン酸成分のモル数を基準として、5モル%以上80モル%未満の範囲にあること、およびグリコール成分が下記構造式(III)であることを具備する共重合芳香族ポリエステルであって、
孔径8μmの直孔性フィルターを通過できない不溶性粗大異物量が、共重合芳香族ポリエステルの重量を基準として、100個/mg以下であることを特徴とする共重合芳香族ポリエステル。
【化1】

(上記構造式(I)中のRは炭素数1〜10のアルキレン基を、上記構造式(II)中のRはフェニレン基またはナフタレンジイル基、上記構造式(III)中のRは炭素数2〜4のアルキレン基を示す。)
【請求項2】
前記構造式(II)で表わされる芳香族ジカルボン酸成分が、テレフタル酸成分、イソフタル酸成分、2,6−ナフタレンジカルボン酸成分および2,7−ナフタレンジカルボン酸成分からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1記載の共重合芳香族ポリエステル。
【請求項3】
アルキレングリコール成分は、その90モル%以上がエチレングリコール成分である請求項1記載の共重合芳香族ポリエステル。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の共重合芳香族ポリエステルを用いた二軸配向フィルム。
【請求項5】
芳香族ジカルボン酸もしくはそのエステル形成性誘導体とアルキレングリコールとをエステル化反応もしくはエステル交換反応させてポリエステルの前駆体を合成する第一反応と、該前駆体を重縮合反応させる第二反応とからなるポリエステルの製造方法において、
主たる芳香族ジカルボン酸成分が前記構造式(I)で表わされる6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分および前記構造式(II)で表わされる芳香族ジカルボン酸成分からなり、かつ前記構造式(I)で表わされる6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分の割合が、全芳香族ジカルボン酸成分のモル数を基準として5モル%以上80モル%未満であること、
第一反応で得られたポリエステル前駆体を、第二反応を開始する前に、95%濾過精度が10μm以下の第1フィルターでろ過を行なうこと、そして、
第二反応によって得られる共重合芳香族ポリエステルを溶融状態とし、平均空孔径が6μm以下の第2フィルターで濾過することを特徴とする共重合芳香族ポリエステルの製造方法。

【公開番号】特開2009−144036(P2009−144036A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−322105(P2007−322105)
【出願日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】