説明

共鳴ラマン散乱測定による分析方法

【課題】 ナノメータースケールでの半導体の分析を実用上可能とする。
【解決手段】 波長364nmまたは351nmの紫外レーザ光または極端紫外レーザ光を光源として、当該光またはこれに由来する近接場光を3.3〜5.1eVのバンドギャップを有する試料に照射し、当該試料と当該近接場光との相互作用により発生した共鳴ラマン散乱光を、近接場プローブにより集光することを特徴とする共鳴ラマン散乱測定による分析方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料の分析方法に関するものであり、より具体的には、Si 、GaN、SiCなどの半導体の分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体等を使用した各種の電子機器用素子や電子デバイスは、年々、高集積化、微小化の一途をたどっている。これに伴い、ナノメータースケールの空間分解能・深さ分解能での半導体試料の分析が要望されてきている。
【0003】
ラマン分光法はSi半導体やGaN系化合物半導体の局所領域の歪みや応力の評価、カーボンナノチューブ等の結晶性の評価に盛んに利用されている。しかし従来の光学顕微鏡を使用するラマン分光法は、光の回折限界による制約のために分析上の空間分解能も0.5μm程度に限定されていた。
【0004】
また、近接場ラマン分光装置の開発も進んでいる(例えば特許文献1参照。)。しかし、近接場ラマン分光法は理論的には光の回折限界を超えた空間分解能での観察が可能であるが、ナノメータースケールでの観察は実用的にはやはり不可能であった。従来の近接場ラマン分光法では、信号強度が光学顕微鏡を用いた顕微ラマン分光装置に比べ3桁以上も弱いからである。
【特許文献1】特開2002−148173号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ナノメータースケールでの半導体の分析を実用上可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明は、波長364nmまたは351nmの紫外レーザ光または極端紫外レーザ光をプローブに導入して近接場光を発生させ、当該近接場光を3.3〜5.1eVのバンドギャップを有する試料に照射し、当該試料と当該近接場光との相互作用により発生した共鳴ラマン散乱光を、前記プローブにより集光することを特徴とする共鳴ラマン散乱測定による分析方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、Si、GaN、SiCなどの半導体材料やこれらを用いた電子デバイスに対する、結晶性、応力(歪み)、更には、電子状態、組成、化合物の結合状態等の評価を、ナノメータースケールの空間分解能や深さ分解能で行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の分析方法は、3.3〜5.1eVのバンドギャップを有する試料を分析の対象とする。具体的には例えば、Siや多結晶Si 、GaN、SiC等である。これらは、電子機器用素子や電子デバイスの材料として有用である。また、3.3〜5.1eVのバンドギャップを有する試料であれば半導体以外の材料でもよい。
【0009】
また、本発明の分析方法は、入射光として、波長364nmまたは351nmの紫外レーザ光または極端紫外レーザ光を採用することが重要である。そうすることで、当該光またはこれに由来する近接場光と前述の特定のバンドギャップを有する試料との相互作用により、従来の近接場ラマン分光法に比べ著しく強度の高い共鳴ラマン散乱光を得ることができる。これは、ラマン強度をI、試料のバンドギャップエネルギーをE、レーザ光のエネルギーをE0としたとき、IはEとE0との差の2乗に反比例すること、すなわち、
I∝(E−E0-2
であることに着目して応用したものである。
【0010】
また本発明の分析方法は、近接場光を利用することが重要である。光の回折限界を超えた空間分解能を得るためである。
【0011】
近接場光を利用する態様としては、少なくとも、共鳴ラマン散乱光を近接場光として集光する、すなわち近接場プローブにより集光することが重要である。すなわち、いわゆるコレクションモードを採用することにより、共鳴ラマン散乱光以外の光が迷光となって光学系に混入するのを防ぐことができる。
【0012】
さらに、試料への照射光についても、入射光をプローブに導入して近接場光を発生させることが好ましい。すなわち、いわゆるイルミネーション・コレクションモードとすることにより、光照射と集光とを同軸で行うことができ、光像から試料の実像を正確に解釈することができる。
【0013】
近接場プローブとしては、ガラス製の光ファイバーや、内部が空洞化した金属ファイバーや、カンチレバーを有するプローブ等を採用することができる。
【0014】
内部が空洞化した金属ファイバーは、プローブ自体から蛍光が漏れ出るのを防ぐことができ、バックグランドの低減を図ることができ、またプローブの開口径が大きく取れるので、ラマン散乱光やフォトルミネッセンスの集光効率を高くすることができる。
【0015】
また、近接場プローブが金属以外の材料から形成されている場合には、その先端開口部以外の表面に0.1nm〜100nmの厚みの金属薄膜を設けることが好ましい。当該金属薄膜を設けることで、試料とプローブとの間で表面増強ラマン(Surface Enhanced Raman Scattering, SERS)効果を生じさせ、信号強度を飛躍的に増大させることができる。
【0016】
当該金属薄膜の材料としては、Ag、AlまたはAuが好ましい。Ag、Al、Auは金属材料のなかでも表面増強ラマン効果が大きく、2桁程度の信号強度の増大が期待できるからである。
【0017】
また近接場プローブとしては、走査型プローブであることが、分析の空間的な自由度が増すため好ましい。走査型プローブの制御方式としては、光てこ方式やシアフォース方式等を採用することができる。
【0018】
本発明の分光方法は、近接場プローブで集光した光を分光装置により、分光することが好ましい。分光装置により分光することで、スペクトルを測定することができるようになり、試料のより詳細な情報を得ることが可能となる。例えば、複数の測定点でスペクトルを測定し解析することで、強度像だけでなく、信号強度のピーク位置の場所依存性や信号線の半値幅の場所依存性を可視化することも可能となる。
【0019】
分光装置としては、回折格子型分光器、プリズム型分光器、誘電体多層膜利用光学フィルター型分光器、ダイクロイックミラー型分光器よりなる群から選ばれる少なくとも一つが好ましい。
【0020】
また本発明の分光方法は、近接場光により試料から放出される蛍光も集光して解析することが好ましい。そうすることで、試料の結晶性、組成、結合状態や電子状態、欠陥などのより詳細な情報を得ることができる。
【実施例】
【0021】
波長364nmと波長351nmの紫外レーザ励起顕微ラマン分光装置を作製した。装置は(1)紫外レーザ光を除去するためのバンドパスフィルターとしては誘電体多層膜のバンドバスフィルター、(2)高感度なCharge Coupled Device(CCD)検出器、(3)3600本の高刻線数のグレーティングを有する焦点距離1mの高感度高分解能シングル分光器、(4)高感度紫外測定用光学顕微鏡で構成されている。その結果、1秒当たり、SiとGaNの共鳴ラマン信号が、それぞれ、600、1000カウント以上検出でき、高感度で高分解能な分光システムを構築することができた。
【0022】
日立製作所製S−4300SE走査型電子顕微鏡に、近接場プローブとして、金属製カンチレバー(開口径100nm)を用いてGaN化合物半導体の電子線励起のルミネッセンス(カソードルミネッセンス)を測定した。開口径100nmのカンチレバーを用いて電子線を照射し、開口径100nmから放出されるカソードルミネッセンスを測定したところ、信号強度はカンチレバーを用いない場合よりも約45分の1に落ちたが、SN比の高い、高感度なカソードルミネッセンススペクトルを測定することができた。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明の分析方法は、各種電子機器用素子や電子デバイス、中でも特に、半導体レーザ、発光ダイオード、フォトダイオード、トランジスタ、半導体集積回路、CCD素子、光ファイバー、セラミックスコンデンサ、液晶表示(LCD)素子、プラズマディスプレイ(PDP)パネル、有機EL素子、ダイヤモンド膜等の分析に有効に用いられる。
【0024】
本発明の分析方法を各種電子機器用素子製造にてインラインまたはオフラインで行うことにより、歩留まり向上と飛躍的な品質向上が期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長364nmまたは351nmの紫外レーザ光または極端紫外レーザ光を光源として、当該光またはこれに由来する近接場光を3.3〜5.1eVのバンドギャップを有する試料に照射し、当該試料と当該近接場光との相互作用により発生した共鳴ラマン散乱光を、近接場プローブにより集光することを特徴とする共鳴ラマン散乱測定による分析方法。
【請求項2】
近接場プローブが、ガラス製の光ファイバー、内部が空洞化した金属ファイバー、またはカンチレバーを有するプローブである、請求項1記載の共鳴ラマン散乱測定による分析方法。
【請求項3】
近接場プローブが金属以外の材料から形成されており、その先端開口部以外の表面に0.1nm〜100nmの厚みの金属薄膜を有する、請求項1または2記載の共鳴ラマン散乱測定による分析方法。
【請求項4】
金属薄膜がAg、AlまたはAuを含んでいる、請求項3記載の共鳴ラマン散乱測定による分析方法。
【請求項5】
近接場プローブにて集光した光を、回折格子型分光器、プリズム型分光器、誘電体多層膜利用光学フィルター型分光器、ダイクロイックミラー型分光器よりなる群から選ばれる少なくとも一つの分光装置により分光する、請求項1〜4のいずれか記載の共鳴ラマン散乱測定による分析方法。
【請求項6】
近接場光により試料から放出される蛍光も集光して解析する、請求項1〜5のいずれか記載の共鳴ラマン散乱測定による分析方法。

【公開番号】特開2006−52965(P2006−52965A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−233138(P2004−233138)
【出願日】平成16年8月10日(2004.8.10)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成15年度新エネルギー・産業技術総合開発機構基盤技術研究促進事業(民間基盤技術研究支援制度)委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(000151243)株式会社東レリサーチセンター (10)
【Fターム(参考)】