説明

共鳴非線形光信号を検出するための方法およびその方法を実装するための装置

【解決手段】本願発明は、界面(43)を形成する共鳴媒質(41)および非共鳴媒質(42)を含むサンプル(105)中に誘導された共鳴非線形光信号を検出するための方法および装置(100)に関する。本装置は、第1の所定の角振動数ωにて前記サンプルの共鳴媒質を励起するためのポンプビームと呼ばれる少なくとも1つの第1の励起ビームの放射源(101)と、サンプルに入射する前記励起ビームの光軸に関して少なくとも2つの対称な方向(ベクトルk,ベクトルk’)において、前記ポンプビームとサンプルの共鳴媒質−非共鳴媒質間の軸方向界面との相互作用から生じた非線形光信号を検出するための光検出モジュール(106)と、検出された信号(IFwd(ベクトルk),IFwd(ベクトルk’))を処理することにより、前記検出信号間の差を得ることを可能とする処理装置(125)と、を含む。得られた信号の差は、サンプルの共鳴媒質の振動共鳴または電子共鳴の指標となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、共鳴非線形光信号を検出するための方法およびその方法を実装するための装置に関する。本願発明は、特にCARS散乱の検出に適用できる。
【背景技術】
【0002】
すべての化学結合は、それらに固有の振動数を有する。光と物質の相互作用を使用することによって、これらの分子振動に関する情報の取得を目指す方法は、振動感受性の光学技術と呼ばれる。これらの技術のうち最もよく知られているのは、赤外(IR)分光法である。赤外分光法は、サンプル中に存在する化学結合に特異的な吸収線を観察する。1928年に発見されたラマン散乱(この効果を発見した物理学者であるチャンドラシェーカル・ヴェンカタ・ラーマンの名前に由来する)は、使用される可視光線を、光線と相互作用する分子の振動スペクトルに接近させることを可能にする。ラマン散乱では、分子に入射する角振動数ωのポンプ波が、ストークス波と呼ばれる角振動数ωの波(図1(A))および抗ストークス波と呼ばれる角振動数ωASの波(図1(B))の中へと非弾性的に散乱される。生成された波とポンプ波との間の振動数の差は、ω−ω=ωas−ω=Ωとなるように(角振動数Ωの)分子ラマン遷移に依存する。この過程を光子的に見ると、ストークス波および抗ストークス波は、それぞれ基底振動準位および励起振動準位からの吸収に相当する。励起振動準位(B)から抗ストークス波を生成する過程は、ストークス波を生成する過程よりもずっと起こりにくい。ストークス波を生成する過程は、自発的ラマン分光法において実際に観察される唯一の過程である。ストークス波のスペクトル分布の詳細な研究によって、サンプル中に存在する化学結合の密度に関する情報が生み出される。この非弾性散乱の自発的過程は、蛍光発光に比べて非常に非効率である(10−16cm/分子に達するフルオロフォア1光子の吸収断面積に対して、ラマン断面積は10−30cm/分子のオーダーである)。
【0003】
CARS(コヒーレント抗ストークスラマン散乱)ラマン分光法は、4つの波を混合する過程であって、サンプル中に存在する振動性結合を検出することができる。この過程は、たとえばR.W.Boydの非線形光学(Academic Press、ボストン、1992年)に記載されている。本方法は、角振動数ωおよびω(または振動数νおよびν)の2つのレーザパルスを送出することを含む。この方法の角振動数差は、解析中の振動準位における角振動数Ωに等しい。ω−ω=Ωというこの共鳴の形態において、角振動数Ωの振動準位は活性化された状態で存在しており、角振動数ωのビームを角振動数ωas=2ω−ωのビームへと非弾性的に散乱させることが可能であろう(図2(A))。この新たな放射ωas(以下、「CARS散乱信号」と呼ぶ)が存在することは、サンプル中に角振動数Ωにて振動する結合が存在する痕跡(signature)である。CARSの第1の実装の本質は、スペクトル的にピコ秒という狭さの2つのパルスをサンプルに向けることにある。これらのパルスの角振動数差によって、たった1つの特異的な振動性結合を検出することができるだけである。同定を最適にするためには、サンプル中に存在するすべての振動性結合がテストされる。これは「多重CARS」(たとえばM.MullerおよびJ.Schinsの「多重CARS分光法を用いた脂質膜の熱力学的状態の画像化」(Physical Chemistry B106巻、3715〜3723頁(2002年)を参照)と呼ばれるモードの操作により行われる。ここではスペクトル的に狭いパルスωとスペクトル的に広いパルスωとがサンプルに向けられる(図2(B))。したがって、サンプル中に存在するすべての振動準位Ωを検出することができ、生じた信号ωasのスペクトルを得ることができる。技術的な観点から、狭スペクトルはたとえばピコ秒のレーザから生じ、広域スペクトルはたとえばフェムト秒のレーザ、または超連続体(SC)を生み出すフォトニック結晶ファイバーから生じる。
【0004】
図3(A)には、共鳴CARS散乱の過程が説明されている。共鳴CARS散乱は、特定される分子の痕跡に接近するために使用される。しかし、図3(B)に示された非共鳴CARS寄与が存在する。非共鳴CARS寄与はサンプルの電子的寄与から生じる。この非共鳴寄与は、様々な化学結合を含むサンプルに対してCARS分光法が実行される場合に重要となりうる。
【0005】
Xieらによる米国特許出願第6809814号は、CARS信号の逆行(epi)検出に基づいた顕微鏡サンプルにおけるCARS信号の検出を説明する。この検出は、励起の放射源の波長に相当するサイズの物体の非共鳴ノイズを除去することを可能にする。特に、この検出モードは、波長サイズ以下の物体(たとえばオルガネラ)の可視化、および一般に生物学的サンプルを囲む溶媒の非共鳴背景ノイズの抑制を可能にする。しかし、この検出は、これら波長サイズ以下の物体に内在する非共鳴背景ノイズを抑制できないという欠点を有する。
【0006】
非共鳴寄与を除去することを可能にするCARS信号を検出するための別の技術が、Potmaらによる国際特許出願第2005/124322号に説明されている。非共鳴CARS背景ノイズは、局所的な発振器を用いることおよびヘテロダイン検出を行うことによって抑制される。実際には、これには補助的なサンプル中(たとえば溶媒または光ファイバー中)でCARS信号を生成すること、およびこのCARS信号と対象とするサンプルより位相を制御する間に顕微鏡中で得られたCARS信号とを再結合させることが含まれる。この位相制御には、安定化させることが難しい干渉設定が必要となる。実際は、この方法は依然として実験室のデモ段階にある。
【0007】
Rimkeらによる国際特許出願第2008135257号では、先に引用した国際特許出願第2005/124322号に開示されたヘテロダイン検出の設計が使用される。また、使用されたレーザ光源は、1064nmにて放射され532nmにて複製されたピコ秒レーザを含む。次に532nmのビームは光学パラメータ式発振器(OPO)に供給される。OPOは、1/λsignal(nm)+λidler(nm)=1/532(nm)に従って調整可能な2つの「信号」波長λsignalおよび「遊び(idler)」波長λidlerを生成する。したがって、1064nmのレーザおよび遊びビームは、それぞれポンプビームおよびストークスビームの役割を果たす。信号ビームは、サンプル中で生成された抗ストークスビームと同波長である。信号ビームは、抗ストークスビームと再結合される。この干渉によって生じた信号は、国際特許出願第2005/124322号に説明されたヘテロダイン干渉法に従って検出される。この非常に有効な技術では、2つの信号波長および遊び波長を生成可能なOPOを使用することが必要となる。
【0008】
非共鳴寄与を除外可能にするCARS信号を検出する別の技術が、Xieらによる米国特許出願第7352458号に記載されている。観察された抗ストークス波長を(振動数νにて)高速に調節することにより、非共鳴CARS背景ノイズが抑制される。実際には、2つのビーム(ポンプまたはストークス)のうち1つが、2つの波長を搬送するレーザ光源により供給される。また、もう一方のビームは、レーザ光源によって単一波長にて生成される。第1の光源により搬送される2つの波長間の高速調節によって、CARS信号の共鳴励起および非共鳴励起を同じ振動数にて調節することが可能となる。したがって、CARS信号の非共鳴ノイズは、CARS信号を振動数νにて調節することにより抑制される。実際は、この方法は2つの波長を放射する光源と、調節が機能できる共鳴信号−非共鳴信号間の良好なコントラストとを必要とする。
【0009】
非共鳴寄与を除外可能にするCARS信号を検出する別の技術が、XieおよびChengによる米国特許出願第6789507号に記載されている。この技術は、共鳴信号および非共鳴信号の様々な偏光特性を用いる。自発的ラマン分光法では、振動共鳴が励起ビームの偏光を解消することが知られている。実際は、散乱したビームが励起ビームとの関係で偏光を解消される。この偏光解消効果は、各振動共鳴に特異的な「偏光解消係数」によって定量化される。CARS散乱に適用すると、この効果は以下のように使用される。つまり、ポンプ励起ビームとストークス励起ビームの直線偏光間に、角度が導入される。次に異なる偏光に従って、共鳴CARS信号および非共鳴CARS信号が生成される。次に偏光板がサンプルの下流に導入されることにより、非共鳴信号が消され、一部の共鳴信号が消されずに通過する。この方法は実装するのが簡単だが、検出される共鳴信号のレベルを大幅に低下させてしまう。調べられたラマン共鳴の「偏光解消係数」が1/3に近づくほど、この減少は大きくなる。
【0010】
本願発明は、共鳴非線形光信号を検出するための原法を提案する。この方法は、実装が簡単で、高速な画像化とも両立しうる。特に、顕微鏡または分光法の画像化用途において、非共鳴CARSノイズを除去することを可能にする。本方法は、共鳴媒質および非共鳴媒質の軸方向界面におけるCARS信号の散乱方向の解析に基づく。より正確には、信号の角度のずれの解析に基づく。
【発明の概要】
【0011】
第1の態様によると、本願発明は、界面を形成する共鳴媒質および非共鳴媒質を含むタイプのサンプル中に誘導された共鳴非線形光信号を検出するための装置に関する。第1の態様に従った装置は、第1の所定の角振動数ωにて所定タイプのサンプルの共鳴媒質を励起するためのポンプビームと呼ばれる少なくとも1つの第1の励起光ビームの放射源と、サンプルに入射する前記ポンプビームの光軸に関して少なくとも2つの対称な方向において、前記入射ポンプビームとサンプルの共鳴媒質−非共鳴媒質間の軸方向界面との相互作用から生じた非線形光信号を検出するための光検出モジュールと、検出された信号を処理することにより、検出信号中の差を得ることを可能とする処理装置と、を含む。得られた差は、サンプルの共鳴媒質の振動共鳴または電子共鳴の指標となる。したがって、説明される本装置は、1以上のビームと解析されるサンプルとの相互作用から生じた非線形光信号の角度がずれることを可能にする。これにより、共鳴媒質および非共鳴媒質の軸方向界面にて、共鳴媒質の振動共鳴または電子共鳴の指標となる信号を得ることができる。
【0012】
変形態様によると、放射源は、角振動数ωのポンプビームおよび角振動数ωのストークスビームの放射を可能にする。前記ポンプビームとストークスビームとの相互作用から生じた非線形光信号は、角振動数ωas=2ω−ωのCARS散乱信号と呼ばれる信号である。また、CARS散乱信号の放射方向の解析から生じた信号は、共鳴媒質のラマン放射の指標となる信号である。
【0013】
ある態様によると、光検出モジュールは、少なくとも1つのシャドーマスクと、光軸に関して対称な2つの相補的な半空間に統合された非線形光信号の検出を可能にする少なくとも1つの検出器とを含む。差は、2つの半空間にて統合された信号に関してもたらされる。
【0014】
別の変形態様によると、光検出モジュールは、光軸に関して対称な方向にて集められた非線形光信号を1つ1つ検出可能にする画像記録システムを含む。差は、検出された各信号対(カップル)に関してもたらされる。
【0015】
別の態様によると、前記非線形光信号を検出するための光検出モジュールは、所定の振動数(ν)にて光軸の周りに回転するマスクを含む。マスクは、前記信号を部分的に隠す。検出器は、最大値および最小値を有するマスクの前記回転振動数における変調信号を搬送するために、検出されるようにマスクによって隠されない空間の一部に統合された光信号の検出を可能にする。また、1つの処理装置は、マスクの回転の前記振動数にて、信号の角振動数成分の振幅(amplitude)を得るために、変調信号の処理を可能にする。振幅は、前記最大値と最小値の差に比例し、共鳴媒質の振動共鳴または電子共鳴の指標となる。
【0016】
変形態様によると、本装置はまた、1以上の励起ビームをスキャンすることにより、1以上の励起ビームが共鳴媒質と非共鳴媒質との界面の異なる位置にてサンプルを妨害することを可能にする角度スキャン装置を含む。
【0017】
変形態様によると、放射源は、共鳴媒質の振動共鳴または電子共鳴のスペクトルを得ることを可能にする少なくとも1つの可変波長励起ビームを放射する。
【0018】
第2の態様によると、本願発明は、サンプル中に誘導された共鳴非線形光信号を検出するための方法に関する。サンプルは、界面を形成する共鳴媒質および非共鳴媒質を含む。本方法は、ポンプビームと呼ばれる共鳴媒質を励起するための少なくとも1つの第1の光線を第1の所定の角振動数ωにて放射するステップを含む。前記ポンプビームは、光軸に沿ってサンプルに入射し、共鳴媒質と非共鳴媒質との前記界面を妨害する。本方法は、光軸に関して対称な少なくとも2つの方向において、1以上の励起ビームとサンプルの共鳴媒質−非共鳴媒質の軸方向界面との相互作用から生じた非線形光信号を検出するステップと、前記信号間の差が得られることを可能にするために、検出された信号を処理するステップとを含む。得られた信号の差は、サンプルの共鳴媒質の振動共鳴または電子共鳴の指標となる。
【0019】
変形態様によると、本方法は、角振動数ωのポンプビームおよび角振動数ωのストークスビームを放射するステップを含む。前記ポンプビームとストークスビームとの相互作用から生じた非線形信号は、CARS散乱信号と呼ばれる角振動数ωas=2ω−ωの信号である。また、CARS散乱信号の放射方向の解析から生じた信号は、共鳴媒質のラマン放射の指標となる信号である。
【0020】
変形態様によると、非線形信号を検出するステップは、信号を光軸に関して対称な2つの相補的な半空間へと統合すること(integration)によって実行される。また、信号を処理するステップは、2つの半空間へと統合された信号間の差を計算することを含む。
【0021】
別の態様によると、非線形信号を検出するステップは、光軸に関して対称な方向に非線形光信号を1つ1つ検出する。また、信号を処理するステップは、検出された各信号対の信号間の差を計算することを含む。
【0022】
別の態様によると、非線形信号を検出するステップは、所定の振動数(ν)にて光軸の周りを回転するマスクによって前記非線形光信号を部分的に隠すことを含む。また、光信号を検出するステップは、最大値と最小値を有するマスクの前記回転角振動数にて変調信号を搬送するために、マスクによって隠されていない空間の一部へと統合する。また、信号を処理するステップは、前記変調信号のマスクの前記回転角振動数における角振動数成分の振幅を決定することを含む。振幅は、変調信号の前記最大値と最小値の差に比例し、共鳴媒質の振動共鳴または電子共鳴の指標となる。
【0023】
別の態様によると、1以上の励起ビームが、角度スキャンを受けることにより、共鳴媒質と非共鳴媒質との間の界面の様々な位置にてサンプルを妨害する。
【0024】
別の変形態様によると、少なくとも1つの励起ビームが可変の放射波長を有することにより、共鳴媒質の振動共鳴または電子共鳴のスペクトルを得ることが可能となる。
【0025】
本願発明の他の利点および特徴は、以下の図を用いて説明された記載を読むことによって明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】(説明済)図1(A)と図1(B)は、ラマン散乱過程におけるストークス放射および抗ストークス放射の原理を示す。
【図2】(説明済)図2(A)と図2(B)は、2つの異なるモードにおけるCARS放射の原理を示す。
【図3】(説明済)図3(A)と図3(B)は、共鳴および非共鳴CARS過程の図である。
【図4】共鳴媒質と非共鳴媒質との間の界面において、CARS散乱を実装するための幾何学的条件を示す略図である。
【図5】図5(A)〜図5(E)は、励起ビームの焦点の相対位置の関数として、共鳴媒質と非共鳴媒質との間の界面とともにCARS散乱信号のずれを示す図である。
【図6】ヤングの二重スリットの実験設定を示す図である。
【図7】パラメータζ=(ω−ω−ΩR)/Γ(ラマン共鳴に対する正規化偏移)の関数として、CARS散乱信号のずれを説明する数値シミュレーションにより得られた曲線である。
【図8】図8(A)と図8(B)は、パラメータζの関数として(図8(A))、および励起ビームの焦点の界面に対するX座標上の位置として(図8(B))、空間(k>0)および空間(k<0)においてそれぞれ計算された光強度、および光強度の差を示す数値シミュレーションにより得られた曲線である。
【図9】図9(A)〜図9(C)は、CARS検出を実装するための3つの可能なモダリティを示す図である。
【図10】本願発明の例示的な態様に従って、CARS散乱の検出を実装するための装置を示す図である。
【図11】ポリスチレンビーズ(直径20μm、屈折率n=1.56の水溶液に浸されている)に対してラマン偏移の関数としてCARS散乱の強度を示す、図10の構成を用いて得られた実験的な曲線である。
【図12】本願発明の別の例示的な態様に従ってCARS散乱を検出を実装するための装置を示す図である。
【図13】図13(A)〜図13(C)は、本願発明の他の例示的な態様に従ってCARS散乱を検出を実装するための装置を示す図である。
【図14】図14(A)と図14(B)は、共鳴のない図13(A)の実験条件下で測定された信号を示す図である。
【図15】図15(A)と図15(B)は、共鳴のある図13(A)の実験条件下で測定された信号を示す図である。
【図16】図13(A)に従った装置を用いた界面の配向性ならびに共鳴媒質および非共鳴媒質の相対位置を決定を示す図である。
【0027】
(詳細な説明)
図4は、たとえば解析される媒質を含む媒質、つまり生物学的に興味が持たれた媒質である共鳴媒質41と、通常は溶媒を含む媒質である非共鳴媒質42とを含むサンプルを示す。三次非線形感受率は、共鳴媒質41中で共鳴項χ(3)1Rおよび非共鳴項χ(3)1NRによって定義される。非共鳴媒質42では、三次非線形感受率は非共鳴項χ(3)2NRによって定義される。本願発明に従った検出方法のある態様は、角振動数ωのポンプ励起ビームと角振動数ωのプローブ励起ビームとの相互作用から生じ、CARS過程によって散乱された信号(図4の参照数字44)を空間的に解析するステップから構成される。ポンプ励起ビームとプローブ励起ビームとは同一直線上であって、サンプルの軸方向界面を有する焦点体(focal volume)45中のサンプルに入射する。つまり、ある態様は、入射ポンプビームおよびストークスビームの軸に沿った非ゼロ成分を提示するステップから構成される。より具体的には、以下で詳細に説明するように、本方法は、界面の両側において、波動ベクトルkの空間、つまりCARSにより放射された信号の放射方向の空間において、ビームの非線形光強度を解析するステップを含む。この強度は、界面の両側でそれぞれIFwd(ベクトルk)およびIFwd(ベクトルk’)として図4で言及されている。以下の説明では、「Fwd」との省略形は、後ろ方向に散乱された「Epi」として知られる信号の対語として、前方CARS散乱信号を表す。
【0028】
実際に出願人は、軸方向界面においてCARS過程により放射された信号が共鳴によって角度のずれの影響を受けることを実験的および理論的に実証した。
【0029】
図5(A)〜(E)は、CARS散乱信号のずれを、界面に入射するポンプビームおよびストークスビームの相対位置の関数として、一連の略図によって示す。図5(A)〜(E)は、能動CARS体45(ポンプビームおよびストークスビームの焦点)を示す。能動CARS体45は、CARS対象物50の中を通って移動される(各図は対象物中の能動体(active volume)の異なる位置に対応する)。CARS対象物は、その対象物の周囲の媒質が共鳴していないと見なされる場合に、共鳴していると見なされる(以下の記載では、このCARS対象物を「溶媒」と呼ぶ)。CARS対象物と溶媒との間の界面では、CARS散乱信号はずれ(または偏向)の影響を受けるようである。出願人は、以下で説明するように、このずれは純粋にCARS対象物と溶媒との干渉過程から生じ、決して屈折の影響によるものではないことを実証している。2つの実例1(図5(A)および(E))では、溶媒中でCARS体に焦点が合わせられる。CARS散乱信号は標準的な方向(ポンプビームおよびストークスビームの入射軸に平行である。矢印51により示される)に放射される。符号2(図5(B))では、CARS体はCARS対象物と溶媒との間の界面に焦点が合わせられる。次に、(ポンプビームおよびストークスビームの入射軸に対して)正の角度αにてCARS散乱信号が放射されることにより、波動ベクトルkの空間において、(k>0)により規定される方向にビームをずれさせる。実例3(図5(C))では、CARS体がCARS対象物中の中心に置かれる。その結果CARS信号は強くなり、標準的な方向(ポンプビームおよびストークスビームの入射軸に平行)に向けられる。次に以下の実例(図5(D)の符号4および図14(E)の符号1)において似た状況が見られる。しかし、実例4ではαが負で、(k<0)によって規定される方向へのずれに対応することに留意することは重要である。出願人は、標準化パラメータζ=(ω−ω−Ω)/Γ(式中、Γは実験された振動線の分光幅である)の関数としての角αの変化は、媒質1を記述するテンソルχ(3)=χ(3)1R+χ(3)1NRの位相に従うことを、理論的かつ実験的に実証している。出願人はまた、たとえば中央値1の純粋ラマンスペクトルを決定するために(k>0)と(k<0)によって規定された相補的な半空間にて放射されたCARS信号のエネルギー間の差をとることによって、入射ビームの光軸の周囲に対称散乱方向にてCARS信号を解析することにより、それが可能であることを実証している。
【0030】
出願人は、この実験的な発見がヤングの二重スリット理論に基づく単純なモデルにより説明できることを実証した。図6は、ヤングの二重スリットの実験設定を示す。ヤングの実験では、単色光源S(図6には図示せず)が2つのスリット(AおよびBで表示)が空けられた板61を照射する。これらのスリットは、振幅E1およびE2の二次光源として機能する。ここで、板61から距離Dを空けて配置されたスクリーン62上で、AおよびBから到達した波の干渉から生じた交互の明暗縞模様が観察される。スクリーン62の位置M(x)にて測定された光強度は、以下の式で記述される。
【0031】
【数1】

【0032】
2次光源のうち1つが他方に対して位相シフトを有すると見なされるなら、位置M(x)にて測定された強度I(x)は、以下の式で記述される。
【0033】
【数2】

【0034】
この結果は、スリットの軸に関して対称な2つの地点M(x)およびM’(−x)にて測定された強度差から得られた強度差ΔI(x)=I(x)−I(−x)が、以下の以下の式で記述されるということを示す。
【0035】
【数3】

【0036】
同様にして、ポンプビームおよびストークスビーム(図4)の入射軸に関して対称な2方向のベクトルkおよびベクトルk’に沿って測定された強度IFwd(ベクトルk)および強度IFwd(ベクトルk’)の差ΔI(ベクトルk)の式が、ヤングの二重スリット理論から誘導可能であることを、出願人は実証した。
【0037】
【数4】

【0038】
ここでは、位相シフトφは共鳴媒質の分子振動の痕跡(signature)に由来する。位相シフトφは、差ΔI(ベクトルk)が共鳴媒質の三次非線形感受率の虚数部、つまり媒質1の純粋ラマンスペクトルに比例するこの式から生じる。
【0039】
図7は、共鳴媒質1と非共鳴媒質2との間の軸方向界面(図4)に焦点が合わせられたポンプビームおよびストークスビームのベクトル特性を考慮した厳密な数値計算の結果を示す。この解析の目的は、波動ベクトルkの空間において、標準化ラマン偏移ζ=(ω−ω−Ω)/Γの関数として放射されたCARS散乱信号の角変位を研究することにある。共鳴のない状態(ζ=?10)では、ビームが中心に向けられる。一方、共鳴のある状態(ζ=0)では、角変位がはっきりと現れる。
【0040】
図8(A)は、ポンプビームおよびストークスビームが界面(x=0)に焦点を合わせられた場合の半空間(k>0)および半空間(k<0)に統合されたCARSスペクトルを、これらの差ΔIとともに示す。この差はIm[χ(3)1R]によって与えられるラマンスペクトルに正確に従う。このことは非共鳴ノイズを有さないCARS分光法に対する本方法の関連性を示す。したがって、たとえばストークスビームの振動数を変化させることによって、共鳴媒質のラマンスペクトルを決定することが可能である。
【0041】
図8(B)は、界面に対してポンプビームおよびストークスビームの焦点の関数として半空間(k>0)および半空間(k<0)に積分されたCARS信号を示す。これらの差は、界面の近傍にて一意的にゼロではない。したがって、界面の近傍にて背景ノイズのない非共鳴CARS画像を得ることができる。
【0042】
k空間にてCARS信号間で差を見つけるこの新たなアプローチを以下ではDk−CARS(K空間における差動的(Differential)イメージング)という。
【0043】
図9(A)および図9(C)は、Dk−CARS顕微鏡用の可能な3つの検出モダリティを示す。各検出モダリティに対して、数値シミュレーションは水性溶媒中の直径3μmのビーズに対して得られた画像を示す(ポンプ波長:730nm、ストークス波長:787nm、励起レンズの水中における開口数:1.2、集光レンズの空気中における開口数:0.5)。この画像は、励起ビームの入射方向Z(図5参照)に垂直なビーズの赤道面に対応するXY平面にて、各ケースにおいて計算される。図9(A)は、X軸に垂直な界面における検出を可能にするX検出モダリティを示す。図9(A)に示す例では、光強度の差は、空間(k>0)(ケースα、図9(A))および空間(k<0)(ケースβ、図9(A))にて統合された。ポンプビームおよびストークスビームの焦点の相対位置を変化させることによって、図9(A)の画像が得られる。図9(B)の検出モダリティは、Y軸に垂直な界面における検出を可能にする。この例では、異なる位置に対して、空間(k>0)(ケースα、図9(B))および空間(k<0)(ケースβ、図9(B))にて積分された(integrated)光強度の差が計算される。図9(C)は、検出モダリティXYZを示す。この画像は、それぞれ図9(C)のケースαおよびβにおいて、2つの反対方向であるベクトルk(k,k,k)およびベクトルk″(−k,−k,k)にて測定された光強度Iα(k,k)およびIβ(−k,−k)において2×2の差をとることにより計算される。これらの方向は、角円錐(angular cone)に含まれる。角円錐の開口角は、CARS散乱信号を集めるための開口数(たとえば空気中では0.5である)によって規定される。この後者の検出モードでは、すべての界面がビーズの赤道面中に視認される。
【0044】
図10は、たとえば共鳴媒質と非共鳴媒質との界面を含むサンプルを研究するために、図9(A)および図9(B)の検出手段として構成されたDk−CARSの実験実装の第1の例を示す。図10による検出装置100は通常、角振動数ωの第1の励起ビーム(ポンプビーム)および角振動数ωの第2の励起ビーム(ストークスビーム)の放射を可能にするレーザシステム101を含む。矢印102により示された2つの励起ビームは、同一直線上であって、全体が103として参照された装置の光検出モジュール中で、主方向Zに従って入射する。光検出モジュール103は全体として、主方向Zと明確に垂直なXY平面中に配置されたサンプル105と相互作用する励起ビームを生成する手段104と、励起ビームとサンプル105との相互作用から、より具体的にはCARS信号の角度のずれから生じたCARS信号の分散方向を解析する手段とを含む。また光検出モジュール103は、光検出モジュール106と処理装置125とを含む。
【0045】
レーザシステム101は、たとえばいわゆる2色用途において、2つのスペクトル的に狭く調節可能なレーザ光源108を含む。レーザ光源108は、たとえば690〜1000nmの波長にて放射され、ポンプレーザ809によって送出されるチタン:サファイア型、または532nmにて放射されるネオジム:YVO4型である。調節可能なレーザは、たとえば通常3ピコ秒(ps)のオーダーのピコ秒のパルスを放射することにより、角振動数ω(通常は波長730nm)のポンプ励起ビームおよび角振動数ωのストークス励起ビームを形成する。パルスピッカー(picker)110が使用されることにより、ピークパルス力を減らすことなく、ポンプ励起レーザおよびプローブ励起レーザのパルス反復振動数を減少させてもよい。調節可能なストークスビームまたはポンプビームを用いることにより、特に抗ストークス放射スペクトルを、共鳴媒質のラマンスペクトルを決定することを目的とした分光法における用途に対して、スキャンすることができる。たとえば光学パラメータ式発振器(OPO)、光学的パラメトリック増幅器(OPA)、ピコ秒ネオジム:ガラス発振器、イッテルビウムまたはエルビウム添加光ファイバーなどの他の調整可能なレーザ光源が使用されてもよい。また光源は、観察されるラマン線の分光幅に応じて、ナノ秒(ns)またはフェムト秒(fs)のレーザ光源であってもよい。しかし、ナノ秒パルスはスペクトル的には非常に良いが、ピコ秒パルスよりも低い最大出力および低い繰り返し周波数しか有さない。さらに、ナノ秒パルスに関連した熱的効果は、生物学的サンプルによりダメージを与えうる。未加工のフェムト秒パルスは一般に、スペクトルが広すぎる。凝縮相(固体または液体)では線幅が約10〜20cm−1である。これはピコ秒パルスの使用に対応する。
【0046】
図10に示す例では、手段104は、たとえばサンプルを解析するための共通の焦点体において、ポンプビームおよびストークスビームに焦点を合せることを目的とした励起ビームに焦点を合せるための焦点レンズ107を含む。焦点レンズの使用は、顕微鏡用途に特に好適である。しかし、特に薄いサンプルを研究する場合、CARS信号の放射が焦点ビームを用いて機能するためには、焦点レンズは必須ではない。
【0047】
図10に示す例では、光検出モジュール106は、放射された非線型光信号(この例ではCARS信号)の収集を可能にする集光レンズ111と、励起信号をカットするためのフィルタ112と、2つの経路に沿って設けられた光ビームスプリッタと、各経路上に設けられた2つの相補的な半空間が区切られるようにするためのかみそり刃タイプの刃(blade)と、を含む。図10の場合、刃は、検出モードX(図9(A))に対応する2つの半空間(k>0)および半空間(k<0)を区切るように配置されている。変形例によると、刃は、検出モードY(図9(B))に対応する2つの半空間(k>0)および半空間(k<0)を区切るように配置されうる。各経路上には、刃の後方に配置された検出器116,117によって、各半空間において光強度を測定することが可能となる。検出器は、たとえばアバランシェ光ダイオード(APD)型、高速光ダイオード(PIN)型、または光電子増倍管(PMT)型である。検出器は、集光部(collecting optic)118,119の上流に位置してもよい。処理ユニットは、検出器116,117によって検出された信号を受け取り、各経路において測定された光強度における差ΔIを決定する。出願人らは、差ΔIが共鳴媒質のラマンスペクトルに比例することを示した。
【0048】
ある例によると、手段104はまた、サンプルのXY平面中に励起ビームスキャン装置も含む。このスキャン装置は、サンプルを形成する共鳴媒質および非共鳴媒質の横断界面に対して励起ビームの焦点を調節するために、分光法用途において、つまり画像化用途において、同時に有用でありうる。このスキャン装置は、サンプルの置換を可能とする装置、または好ましくは励起ビームの角度スキャン装置として機能してもよい(図10には図示せず)。励起ビーム用の角度スキャンシステムが設けられる場合、励起ビームは軸(光軸)に沿って入射する。光軸はもはや主方向Zに統合される必要はない。したがって、2つの半空間を集光レンズの射出瞳または射出瞳の像(image)に区切ることを可能にする部材を中心に配置することが好ましいであろう。実際は、射出瞳上に配置することによって、サンプルへの入射角がどうであろうと、励起ビームが中心に集められたままにすることができる。
【0049】
図11は、図10に示す実験設定を用いて得られた実験結果を示す。サンプルは、ポリスチレンビーズ(直径20μm)により構成されている。ポリスチレンの芳香族環は、1003cm−1および1034cm−1にて振動共鳴を有する。これらのビーズは、屈折率がn=1.56の水溶液中に浸され、水中の開口数が1.2であるレンズにより励起される。ポンプビームの波長は、730nmに設定されている。ストークスビームの波長は、上述したラマン共鳴を通過するように変化できるように構成されている。曲線C1は、CARS強度、つまり空間全体で統合された光強度を示す。曲線C2(実戦)は、それぞれ半空間(k>0)および半空間(k<0)にて測定された強度の差ΔIを示す。995cm−1にて共鳴がない場合、差ΔIは何の信号も生じさせない。一方、1010cm−1にて図10に示すように隠し刀(occulting blades)を使用することにより、界面はx軸方向の照射(illuminate)に従う。これにより、切望された結果が得られる(図8(B)参照)。検出器116,117(図10)が同じ信号を検出するため、刃が取り除かれると信号は現れない。スペクトル的には、ビーズと液体間の2つの対向する界面におけるω−ωの関数として、曲線C2およびC3はΔIにおける変化を示す。出願人は、これらの曲線が、実験的に不確実なエラーをわずかにしか伴わずにラマンスペクトルに従うことを実証した。
【0050】
したがって、図10はDk−CARS検出を実装するための特に単純な態様を示す。様々な変形例がありうる。
【0051】
ある変形態様によると、かみそり刃115,116は、2つの相補的な半空間に区切ることを可能にする任意のタイプのシャドーマスクと置換されてもよい。たとえば、これらのマスクは、光ビームスプリッタ113上に直接配置されうる。
【0052】
別の変形態様によると、光検出モジュール106は、たとえば電気的に制御された液晶フィルタなどの適応フィルタを用いることにより、アバランシェ光ダイオード型または光電子増倍管型の単一の検出器を備えた単一の経路のみを含む。この場合、1つの半空間上で統合された強度が最初に測定され、次に他の半空間上で強度が測定される。また、強度間で差の計算が行われる。
【0053】
図12は、図10の変形例を示す。ここでは、CARS信号の散乱方向の解析手段は、XYモード(図9(C))にて検出するように構成され、単一の経路を備えた光検出モジュール106を含む。この変形例によると、画像記録システム、たとえば4つの光ダイオードを有するCCD型またはCMOS型のマトリックスカメラにより形成された単一の検出器によって、シャドーマスクシステムが置換される。このカメラを用いることにより、(フィルタ112が除去された場合に)励起ビームのカメラへの入射方向に関して対称な方向に放射された非線形光信号を、1つ1つ検出することが可能となる。したがって、各信号対に対してとられた差が検出される。
【0054】
実際は、顕微鏡用途では、たとえば励起ビームがサンプル上でスキャンされる場合、励起ビームの入射方向が変化し、たとえば異なるスキャン位置に対して検出器における励起ビームの位置を記録することにより、校正を行うことができる。カメラもまた「溶液中で」校正されてもよい。これを行うために、たとえば均質なCARS媒質中で励起ビームが焦点を合わせられた場合に、励起ビームの異なる入射角に対して信号の位置を記録することができる。したがって、CARS散乱信号のずれは存在しない。次に、この参照位置に対して偏移が測定される。
【0055】
顕微鏡用途では、ポンプ励起ビームおよびストークス励起ビームに対するスキャンシステムが使用された場合、集光レンズの射出瞳(exit pupil)または射出瞳の像(image)にてカメラを配置することが好ましい。これにより、サンプルへの入射角がどうであろうと、励起ビームを集中させたままにすることができる。または、様々なスキャン角度に対して入射励起ビームの位置を考慮するようにカメラを校正することが可能である。この位置は、非線形光信号中の偏移を測定するための基準として機能する。
【0056】
図13〜16は、CARS信号の放射方向の解析手段の他の変形例を示す。上述の例のように、界面を形成する共鳴媒質および非共鳴媒質を含むサンプル105(図13(B))がポンプビームおよびストークスビームによって励起される。ポンプビームおよびストークスビームは同一直線上であって、共通の焦点体45に従ってサンプルに入射する。図13(A)に示す例では、光検出モジュール106は所定の振動数(ν)にて主方向Zの周りを回転するマスク130を含む。このマスクは、たとえば図13(C)に示すように半円盤134として形成されることによって、主方向Zに垂直なXY平面中でCARS散乱信号を特に隠す。したがって、隠された信号が、焦点レンズ131に続いて、たとえば光電子増倍管タイプ、光ダイオードPINまたはアバランシェ光ダイオードタイプの検出器132によって検出される。
【0057】
共鳴していない場合、CARS散乱信号が集中される。また、検出器132によって検出された信号は、マスクの角度位置θの関数として一定である(図13(C)に示されるように、たとえばθはX軸との関係で定義される)。図14(A)から明らかなように、検出された信号S(θ)は一定である。フーリエ空間では、振動数νにおける信号の高調波は0である(図14(B))。
【0058】
共鳴している場合、CARS散乱信号はずれてるため、回転マスクに集中していない。したがって、検出器132により検出された信号(図15(A)の曲線141)は、以下の方程式にて調節される。
S(θ)=a cos(θ+φ)+定数
または
S(t)=a cos(νt+φ)+定数
【0059】
処理装置125は、フーリエ変換の振動数νにおける(0でない)振幅(amplitude)を決定するために、フーリエ変換を計算すること、または好ましくは同期検波により、振動数νにて信号が調節されることを可能にする。この振幅は、信号S(t)の最大値と最小値の差に比例する。この振幅は、中央値1の虚数部Im[χ(3)1R]に比例するため、共鳴媒質の共鳴振動の指標となる。したがって、軸方向界面にてコントラスト画像を得るために、分光法または顕微鏡用途においてラマンスペクトルが決定可能となる。
【0060】
さらに、図16に示すように、フーリエ変換にて得られ、第1の高調波νにて調節された信号の位相φを決定することにより、共鳴媒質および非共鳴媒質の配向性および相対位置に関する情報が提供される。
【0061】
たとえば1/4の円盤または3/4の円盤など、回転マスクには、半円盤以外の形状が使用されてもよい。さらに、回転マスクは説明したように機械的に製造されてもよいし、電気的に制御可能なフィルタ、たとえば液晶フィルタによって製造されてもよい。
【0062】
図13(A)は、ポンプ励起ビームおよびストークス励起ビームに対するスキャンシステムが使用される場合の顕微鏡法の応用を示す。この例では、集光レンズの射出瞳中または射出瞳の像中に回転盤を配置するのが好ましい。これにより、サンプルに対する入射角がどうであろうと、励起ビームが中心に集まる状態が維持される。
【0063】
Dk−CARSの実装に対して、離れた場にてCARS信号の散乱方向が解析される。集光レンズ111(図10,12,13(A))を使用することにより、実験実装が促進される。しかし、この集光レンズは厳密には必要ではなく、検出はサンプルの下流にて直接行うことができる。
【0064】
2つのスペクトル的に狭いレーザ光源を用いて、2色用途に関する用途において、CARSの検出を説明してきた。多重用途(multiplex)と呼ばれる用途では、たとえばフェムト秒パルスまたは光ファイバーもしくは他の分散性媒質により生成された超連続体によって生成されたストークスビームのスペクトル的に広い放射源が選択可能である。ポンプ信号自体は、スペクトル的に狭いままである。この用途では、たとえば検出された2つの半空間に入る2つの信号が入力されるCCDカメラを備えた2つのスリット分光計または単一の分光計を用いて、単一パルスにおけるラマンスペクトルを得ることが可能となるであろう。この用途では、半空間(k>0)および半空間(k<0)においてスペクトルを得て、これらの差を生じさせることが問題である。
【0065】
3色用途と呼ばれる用途では、関連する振動数ω、ωおよびωの3つの波長が使用されることにより、角振動数ω−ω+ωにてCARS信号が生成される。半空間(k>0)および半空間(k<0)において角振動数ω−ω+ωにて信号を検出してこれらの差を算出することにより、CARS信号はノイズのない非共鳴な状態にされてもよい。
【0066】
CARS散乱の場合にて検出方法を説明してきたが、この検出方法は、分光法用途および顕微鏡用途の両方に対して、軸方向界面にて検出して共鳴媒質と非共鳴媒質との間の界面を明らかにできることによって、他の非線形の2次または3次の処理にも同様に適用される。いずれの場合も、1つ以上の励起ビームの相互作用から生じた非線形光信号の放射方向の解析が、共鳴媒質と非共鳴媒質との間に界面を呈するサンプルを用いて行われる。この放射方向の解析は、共鳴媒質と非共鳴媒質との間の界面を明らかにすること、または共鳴媒質のスペクトルを特徴づけることを可能にする。
【0067】
ある例によると、第3の共鳴調波(harmonic)を生成する処理は、角振動数ωの単一のポンプ励起ビームを用いて共鳴媒質と非共鳴媒質との間に界面を含むサンプルを励起することによって、共鳴が電子共鳴である場合に使用されうる。たとえば、発振器型のチタン:サファイア、ネオジム:ガラス、またはイッテルビウムまたはエルビウム添加光ファイバーのピコ秒またはフェムト秒レーザ光源である。
【0068】
他の例によると、4波混合処理は、共鳴が電子共鳴である場合に、角振動数ωの単一のポンプ励起ビームを用いて、共鳴媒質と非共鳴媒質との間の界面を含むサンプルを励起することにより使用されうる。たとえば、発振器型のチタン:サファイア、ネオジム:ガラス、またはイッテルビウムまたはエルビウム添加光ファイバーのピコ秒またはフェムト秒レーザ光源である。
【0069】
上述の2つの例は、電子共鳴を取り扱っている。電子共鳴は、原子、分子、半導体の結晶などにおいて見られる。
【0070】
別の態様によると、第2の共鳴調波は単一のポンプビームを用いて励起されうる。または、振動数の合計がポンプビームおよびプローブビームを用いて作られうる(二次の非線形効果)。
【0071】
いくつかの詳細で例示的な態様を用いて本願発明を説明したが、本願発明による検出装置および方法は、当業者に明らかな異なる変形例、修正、および改良を含む。そのため、以下の特許請求の範囲に規定されるように、これらの異なる変形例、修正、および改良が本願発明の範囲に含まれることが理解されるであろう。
【図1A−1B】

【図2A】

【図2B】

【図3A】

【図3B】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
界面(43)を形成する共鳴媒質(41)および非共鳴媒質(42)を含むタイプのサンプル(105)中に誘導された共鳴非線形光信号を検出するための装置(100)であって、
第1の所定の角振動数ωにて所定タイプのサンプルの共鳴媒質を励起するためのポンプビームと呼ばれる少なくとも1つの第1の励起光ビームの放射源(801)と、
サンプルに入射する前記入射ポンプビームの光軸に関して少なくとも2つの対称な方向(ベクトルk,ベクトルk’)において、前記ポンプビームとサンプルの共鳴媒質−非共鳴媒質間の軸方向界面との相互作用から生じた非線形光信号を検出するための光検出モジュール(106)と、
検出された信号(IFwd(ベクトルk),IFwd(ベクトルk’))を処理することにより、検出信号中の差を得ることを可能にする処理装置(125)と、を含み、
得られた信号の差は、共鳴媒質の振動共鳴または電子共鳴の指標となる装置。
【請求項2】
放射源(801)は、第1の角振動数ωとは異なる少なくとも第2の角振動数ωにて、共鳴媒質を励起するための第2の励起ビーム放射を少なくとも可能にし、
第1の励起ビームと第2の励起ビームとは同一直線上であって、
得られた前記信号の差は、励起ビームの振動数の線形結合に等しい角振動数において、共鳴媒質の振動共鳴または電子共鳴の指標である請求項1に記載の装置。
【請求項3】
放射源は、角振動数ωのポンプビームおよび角振動数ωのストークスビームの放射を可能にし、これによって所定タイプのサンプル中で、角振動数ωas=2ω−ωのCARS散乱信号と呼ばれる非線形信号が生じることが可能となり、
得られた信号の差は、共鳴媒質のラマン放射の指標となる請求項2に記載の装置。
【請求項4】
共通の焦点体(45)中にて1以上の前記励起ビームの焦点を合せることにより、所定タイプのサンプルの共鳴媒質と非共鳴媒質との間の界面を妨害する焦点レンズ(107)を含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の装置。
【請求項5】
光検出モジュール(106)は、少なくとも1つのシャドーマスクと、光軸に関して対称な2つの相補的な半空間に統合された非線形光信号の検出を可能とする少なくとも1つの検出器とを含み、
差は、2つの半空間にて統合された信号に関してとられる請求項1〜4のいずれか1項に記載の装置。
【請求項6】
光検出モジュール(106)は、
集められた非線型光信号を第1の経路と第2の経路に分離させる光スプリット要素(111)と、
各経路において、
非線型光信号を隠すシャドーマスク(114,115)と、
検出器(116,117)と、を含み、
各経路の信号は、2つの半空間に従ってそれぞれ隠される請求項5に記載の装置。
【請求項7】
光検出モジュールは、前記非線型光信号を収集するための集光レンズ(111)を含む請求項5または6に記載の装置。
【請求項8】
1つ以上のシャドーマスクが、射出瞳または集光レンズの射出瞳の像に集中される請求項7に記載の装置。
【請求項9】
光検出モジュール(106)は、光軸に関して対称な方向に収集された非線型光信号を1つ1つ検出することを可能にする画像記録システム(120)を含み、
差は、検出された各信号対に関してとられる請求項1〜4のいずれか1項に記載の装置。
【請求項10】
光検出モジュールは、前記非線型光信号を収集するための集光レンズを含む請求項9に記載の装置。
【請求項11】
画像記録システムは、集光レンズの射出瞳上または射出瞳の像上に配置されている請求項10に記載の装置。
【請求項12】
前記非線形光信号の光検出モジュール(106)は、所定の振動数(ν)にて光軸の周りを回転するマスク(130)を含み、
マスクは、前記信号を部分的に隠し、
検出器は、マスクによって隠されない空間の一部に統合された光信号の検出を可能にすることによって、マスクの前記回転振動数にて調節され、最大値および最小値を有する信号を搬送し、
処理装置(125)は、マスクの前記回転振動数にて信号の振動数成分の振幅を得るために前記変調信号の処理を可能にし、
振幅は、前記最大値と最小値の差に比例し、共鳴媒質の振動共鳴または電子共鳴の指標となる請求項1〜4のいずれか1項に記載の装置。
【請求項13】
処理装置はまた、調節された検出信号の振動数成分の位相を得ることも可能にし、
位相は、共鳴媒質および非共鳴媒質の相対位置の指標となる請求項12に記載の装置。
【請求項14】
マスクは、光軸の周りを回転する半円盤(134)を含む請求項12または13に記載の装置。
【請求項15】
光検出モジュールは、前記非線形光信号を集めるための装置を含む請求項12〜14のいずれか1項に記載の装置。
【請求項16】
マスクは、収集装置の射出瞳または前記射出瞳の瞳孔の像に集中される請求項15に記載の装置。
【請求項17】
共鳴媒質と非共鳴媒質との界面の異なる位置にて、1以上の励起ビームが所定タイプのサンプルを妨害することを可能とする、1以上の励起ビームを角度スキャンするための装置をさらに含む請求項1〜16のいずれか1項に記載の装置。
【請求項18】
放射源が少なくとも1つの可変波長励起ビームを放射することにより、所定タイプのサンプルの共鳴媒質の振動共鳴または電子共鳴のスペクトルを得ることを可能にする請求項1〜17のいずれか1項に記載の装置。
【請求項19】
サンプル(105)中に誘導された共鳴非線形光信号を検出するための方法であって、
サンプルは、界面(43)を形成する共鳴媒質(41)および非共鳴媒質(42)を含み、
本方法は、
第1の所定の角振動数ωにて、ポンプビームと呼ばれる共鳴媒質の少なくとも1つの第1の励起ビームを放射するステップと、
光軸に関して少なくとも2つの対称な方向(ベクトルk、ベクトルk’)において、1以上の前記ビームとサンプルの共鳴媒質−非共鳴媒質間の軸方向界面との相互作用から生じた非線形光信号を検出するステップと、
検出された信号(IFwd(ベクトルk),IFwd(ベクトルk’))を処理することにより、前記信号間の差を得ることを可能にするステップと、を含み、
前記ポンプビームは、光軸に沿ってサンプルに入射し、共鳴媒質と非共鳴媒質との前記界面を妨害し、
得られた信号の差は、サンプルの共鳴媒質の振動共鳴または電子共鳴の指標となる方法。
【請求項20】
第1の角振動数ωとは異なる少なくとも1つの第2の角振動数ωにて共鳴媒質の少なくとも1つの第2の励起ビームを放射するステップを含み、
励起ビームは同一線上にあって、信号の差は、励起ビームの振動数の線形結合に等しい角振動数における共鳴媒質の振動共鳴または電子共鳴の指標である請求項19に記載の方法。
【請求項21】
角振動数ωのポンプビームおよび角振動数ωのストークスビームを放射するステップを含み、
前記ポンプビームとストークスビームとの相互作用から生じた非線形光信号は角振動数ωas=2ω−ωのCARS散乱信号と呼ばれる信号であって、
信号の差は、共鳴媒質のラマン放射の指標である請求項20に記載の方法。
【請求項22】
1以上の前記励起ビームは、共通の焦点体(45)中へと集中されることにより、共鳴媒質と非共鳴媒質との間で前記界面が妨害されることを可能とする請求項19〜21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
非線型光信号の検出は、光軸に関して対称な2つの相補的な半空間へと信号を統合することにより実現され、
検出された信号を処理するステップは、2つの半空間へと統合された信号間の差を計算することを含む請求項19〜22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
非線形信号を検出するステップは、光軸に関して対称な方向に非線形光信号を1つ1つ検出することにより実現され、
信号を処理するステップは、検出された各信号対の信号間の差を計算することを含む請求項19〜22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
非線形光信号を検出するステップは、所定の振動数(ν)にて光軸の周りを回転するマスク(130)によって、前記非線形光信号を部分的に隠すことを含み、
光信号を検出するステップは、最大値と最小値を有するマスクの前記回転振動数にて変調信号を搬送するために、マスクによって隠されていない空間の一部へと統合し、
信号を処理するステップは、前記変調信号のマスクの前記回転振動数における振動数成分の振幅を決定することを含み、
振幅は、変調信号の前記最大値と最小値の差に比例し、共鳴媒質の振動共鳴または電子共鳴の指標となる請求項19〜22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
調節検出信号の振動数成分の位相を決定するステップをさらに含み、
位相は、共鳴媒質および非共鳴媒質の相対位置の指標となる請求項25に記載の方法。
【請求項27】
1以上の励起ビームが、角度スキャンを受けることにより、共鳴媒質と非共鳴媒質との間の界面の複数の位置にてサンプルを妨害する請求項19〜26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
少なくとも1つの励起ビームが可変の放射波長を有することにより、共鳴媒質の振動共鳴または電子共鳴のスペクトルを得ることが可能となる請求項19〜27のいずれか1項に記載の方法。

【図4】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図10】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図5】
image rotate

【図9】
image rotate

【図11】
image rotate


【公表番号】特表2013−517491(P2013−517491A)
【公表日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−549334(P2012−549334)
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【国際出願番号】PCT/EP2011/050622
【国際公開番号】WO2011/089119
【国際公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(512190608)セントレ ナショナル デ ラ ルシェルシェ サイエンティフィック−シーエヌアールエス (2)
【Fターム(参考)】