説明

内因性トロンビン活性を自動的に測定するための方法

【課題】 本発明は、血液または血漿検体の内因性トロンビン活性を自動的に測定する方法に関する。
【解決手段】 a)総反応速度の飽和相の直線領域を、所定の試験特有の時間枠の範囲内で測定し、そして、次に、
b)トロンビンのα2−マクログロブリンに対する結合定数Cを、飽和相の直線領域における総反応速度の勾配Aを用いて反復測定し、ここで該勾配はα2MTの反応速度の勾配に対応しており、そして、次に、
c)α2MTの反応速度の値を測定して、総反応速度の対応する値から差引き、そして、次に、
d)飽和相の総反応速度の直線領域について測定した、遊離トロンビンの反応速度の値を平均化することによって、生のETP値を測定する、
時間の関数として、測定すべきトロンビン基質のターンオーバー速度を用いる、凝固する血液または血漿の検体の内因性トロンビン活性(ETP)の測定。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液または血漿検体の内因性トロンビン活性(ポテンシャル)を自動的に測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
止血は、異なった活性化因子、阻害因子、並びに、ポジテイブおよびネガテイブフィードバック機構の相互作用により制御されている。この構造的な組織機構の障害により、止血システムの平衡がくずされ、その結果、出血または血栓のいずれかが生じる可能性がある。
【0003】
トロンビンは、セリンプロテアーゼの1つであって、血液凝固の中心的な酵素であり、その主要な機能は、フィブリンの多量体化の誘導と、かくして血栓を形成させることである。その必要が生じた場合、トロンビンの生成が、酵素的に不活性の前駆体分子であるプロトロンビンの活性化により開始される。損傷が生じた場合、この凝固プロセスを局所的および時間的に限定するために、この凝固反応は速やかに減速させられ、とりわけそれは、アンチトロンビンまたはα2−マクログロブリン(α2M)のような阻害因子と遊離トロンビンとの複合体形成によるものである。トロンビン生成または阻害の制御プロセスにおける障害は、過剰凝固または低凝固状態を生じさせ、その結果、凝固における病理的な障害をもたらす。それゆえに、トロンビンの生成および阻害を記録することは、特定の凝固状態に関する情報を提供する場合に、非常に価値がある。
【0004】
検体中に内在する(内因性の)、酵素活性を有する遊離トロンビンを生成しまたは阻害する活性(ポテンシャル)(血漿検体の場合はその血漿中に内在する活性)は、内因性トロンビン活性(ETP)とも呼ばれている。検査の材料中に存在し、そして、トロンビンの生成および阻害に影響を及ぼすことのできる、あらゆる生物学的な構成成分が、個々の検体のトロンビン活性を決定するので、このETP測定は、止血システムの様々な構成成分を検出するために使用できる広範囲の試験として、および、治療措置を監視(モニタリング)するため、のいずれの使用にも適している。
【0005】
内因性トロンビン活性(文献でも「内因性トロンビン活性」とよばれている)を定量的に測定するために好ましく用いられるパラメータは、時間/濃度積分またはトロンビン生成曲線下面積である[EP0420332−B1,EP0802986−B1およびHemker等(1993年)Thromb.Haemostasis 70:617−624参照]。このパラメータは、凝固する血液または血漿の検体中で、時間t=0から存在している、内在性トロンビンの量および活性の尺度である。
【0006】
ETPを測定するために、凝固可能な血液または血漿の検体中の、トロンビン基質のターンオーバー速度(turnover kinetics)を、測定可能な指示物質の遊離により測定する。トロンビン基質濃度は、基質が反応の経過中に完全に消費されることがないように調整されており、遊離した指示物質の量は、理想的には、凝固反応の経過中に生成したトロンビンの酵素活性に比例する。
【0007】
しかしながら、現在使用可能なトロンビン基質は分子量が8kD未満であり、生理的に重要な遊離トロンビンの活性に加えて、生理的に無関係のα2−マクログロブリン/トロンビン複合体(α2MT)の活性をも測定してしまう。時間の経過にしたがって遊離する指示物質の量を測定する場合は、遊離トロンビンの阻害が累進的で最終的には完結しているにもかかわらず、反応速度はプラトーに達することがなく、そのかわりに、さらに上昇し続けるという結果をもたらす。
【0008】
測定された総反応速度を出発点とした時に、生理的に重要なトロンビン反応速度(thrombin kinetics)T(t)を導き出すためには、知られているように、α2MT複合体の活性であるα2MT(t)により表される部分を求め、これを総反応速度(total kinetics)K(t)から差引く必要がある:
【数1】

【0009】
α2MT複合体の量は、遊離トロンビンの量に直接依存する。遊離トロンビンは、まず最初に、酵素的に不活性な前駆体分子プロトロンビンから生成され、次にこの遊離トロンビンは速やかにα2−マクログロブリンと結合し、その結果、比較的安定なα2MT複合体が生成される。それゆえに、α2MT複合体の濃度は、反応の経過中、トロンビン濃度に比例して変化してくために、このトロンビン反応速度T(t)とα2MT複合体の反応速度α2MT(t)との間の数学的関係は、微分方程式として記載されている[Hemker等(1993年)Thromb.Haemostasis 70:617−624]:
【数2】

[式中、
∂ は、偏導関数、
α2MT(t)は、時間tにおけるα2−マクログロブリン/トロンビン複合体の濃度、
T(t)は、時間tにおけるトロンビンの濃度、および
Cは、トロンビンのα2Mに対する結合定数。]
【0010】
内因性トロンビン活性または遊離トロンビン濃度を測定するための、これまで知られていた評価方法[Hemker等(1993年)Thromb.Haemostasis 70:617−624:WO2004/016807−A1]は、この微分方程式(2)を解くための非常に複雑な手順を記載している。この公知方法は、最初に、総反応速度の一次導関数を作成して、α2−マクログロブリン/トロンビン複合体の反応速度を決定する。この分析方法の帰結として必要とされる平均化の結果、合計した場合に不正確が生じる可能性がある。複雑な最適化方法、例えば、「Microsoft EXCEL Solver」ソフトウエアプログラムからの修正ニュートン法、がトロンビンのα2マクログロブリンに対する結合定数Cを決定するために指示されているが、その仕様書の大部分はユーザーに知らされておらず、また、いずれにしても、必ずしも結果が得られるわけではない。さらに、反応基質の量に基づき遊離トロンビン量に関する結論を得るようにするためには、多くの酵素−反応速度的パラメータ、例えば、特定の基質のミカエリス定数が考慮される。これらの基質特異的パラメータは、文献から知るか、または、予備実験において、使用する基質に関して測定するか、いずれかでなければならない。
【0011】
凝固の研究室で用いられる分析機器を用いて、内因性トロンビン活性を測定するための従来からの公知方法を実施することは、該従来公知方法が、複雑で、相対的に長い計算時間により大量のデータ保存容量を必要とする場合には、制限される。容量の理由により、長い操作時間は、多くの処理量をこなさなければならない診断検査室の場合に、特に不利である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、本発明は、凝固診断で常用される分析機器を用いて、内因性トロンビン活性が迅速および確実に測定できる、簡略化された方法を利用可能にするという目的に基づいている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的は、請求項に記載された本発明の方法および主題を提供することにより達成される。
【0014】
検体の内因性トロンビン活性(ETP)を測定するための本発明は、以下の工程を含んでいる:
1.当業者に周知の、時間の関数としてのトロンビン基質のターンオーバー速度の測定、および
2.本発明による、定量されるべき検体の内因性トロンビン活性の定量を可能にする、生のETP値の測定。
【0015】
内因性トロンビン活性の測定に必要な、トロンビン基質のターンオーバー速度の測定には、検査すべき検体をトロンビン基質で処理すること、トロンビン生成を誘導すること(例えばトロンビン生成活性化物質を添加により)、および、変換されたトロンビン基質の物理化学的性質を時間の関数として測定すること、が要求される。
【0016】
ヒトまたは動物由来の、血液または血漿は、例えば、検体の材料として使用するために好適である。EDTAおよび/またはクエン酸塩で処理できる血小板が乏しいまたは血小板が富んだ血漿が、特に、この目的のためには好適である。
【0017】
適切なトロンビン基質は、例えば、トロンビンにより認識される特異的な配列を含む部分、および、測定可能な物理的特性を有する脱離シグナル基を包含するオリゴペプチドである。この脱離シグナル基は、脱離した後に物理的特性の好ましい変化を示し、その性質が測定可能な、発色性、化学発光性または蛍光性の基であっていい。好ましいのは、その光学的性質が光で測定される発色性のシグナル基であり、その例として、パラニトロアニリド(pNA)が挙げられ、その吸光度は、トロンビンにより開裂を受けた後、405nmの波長で測定できる。本発明の実施に適切な合成トロンビン基質の例は、例えば、EP0802986−B1の特許明細書の請求項1〜5に記載されている。
【0018】
トロンビン基質の濃度は、遊離する指示物質の量が、凝固反応の経過中に生成した、遊離型およびα2−マクログロブリン複合型のトロンビンの酵素活性に比例することを確実にするために、反応の過程中にその基質が完全に消費し切らないように調整されなければならない[Hemker等(1993年)Thromb.Haemostasis 70:617−624を参照]。
【0019】
妨害するフィブリン塊の生成を防ぐために、例えば、バトロキソビンのような蛇毒を添加するか、加熱するか、もしくは、沈殿法もしくは免疫アフィニティクロマトグラフィー法のような公知の方法により、検体を予め脱フィブリン化しておくことができるし、または、この検体をフィブリン重合化反応の阻害物質を用いて処理することもできる。検体中に存在するトロンビンを阻害することがなく、フィブリン重合化反応を阻害ために適したペプチドは、例えば、EP0456152−B1の特許明細書の請求項1および2の主題である。
【0020】
トロンビン生成を誘導するために、例えば、Ca2+イオンを含み、さらに、例えば、トロンボプラスチン、または、カオリン、リン脂質、蛇毒もしくはトロンボモジュリンのような接触性活性化物質、および、活性化プロテインCを含有する溶液を使用することができる。それぞれの場合、当業者は、問われている診断上の問題に準じて、その凝固系の一つの構成部分、またはその全体のいずれかを考慮するために、多数の知られた血液凝固活性化物質から選択することができる(EP0420332−B1を参照)。
【0021】
変換したトロンビン基質の物理的特性は、好ましくはトロンビン生成活性化物質の添加の時点から始まって測定され、その時間間隔は好ましくは10秒当り1〜25回の測定である。時間順に割り当てられた測定値は、トロンビン基質のターンオーバー速度、または、総反応速度を記述する(図1〜3の曲線Aも参照)。総反応曲線の勾配は、トロンビン基質が開裂する、または、シグナル基(指示物質)が遊離する反応速度の尺度である。
【0022】
時間の経過に渡って遊離する指示物質の量を測定することにより、典型的な総反応曲線が得られ、この曲線は目視検査により3つの相に大まかに分けられる:
a)誘導相(lag phase)と名づけられた、第一相は、トロンビン生成活性化物質の添加をした時点t0に始まり、遅い反応速度を示すゆるやかな曲線で特徴付けられる。ここは、トロンビン生成が進行状態にある反応部分である。試験設計の如何によって、この誘導相は0〜30分間続く可能性がある。
b)指数相(exponential phase)と名づけられた、第二相は、誘導相の後に続き、速い反応速度を示す急勾配の上昇曲線で特徴付けられる。この相は、トロンビン生成速度が最大に達した反応部分を含み、そして、結局のところ、トロンビンの阻害速度もまた最大である。この相では、トロンビン基質は、遊離トロンビン、および、α2−マクログロブリン/トロンビン複合体(α2MT)の活性の両方により変換される。この相は遊離トロンビンがもはや存在しなくなる時まで継続する。
c)飽和相(saturation phase)と名づけられた、第三相は、継続して上昇するが指数相に比べればよりゆるやかな曲線で特徴付けられる。この相は、トロンビン基質の変換がもっぱらα2−マクログロブリン/トロンビン複合体(α2MT)の活性に起因している反応部分を含んでいる。この相は、総反応速度が継続的に直線的に上昇していく経過が予想されるように、反応速度または単位時間当たり遊離される指示物質の量が一定のままである、という事実により確認できる。
【0023】
トロンビンを生成および阻害するために、検体中の内因的活性に依存することに加えて、反応曲線の進み方、または、3つの異なった反応相の持続時間は、選択された試験に特有の反応条件にも依存する。そうした反応条件で、当業者が診断上の問題に応じて変更することができ、および、変換速度への効果を有する可能性のある例は、使用するトロンビン生成活性化物質の性質および濃度、または、検体材料の前処理の性質および方法である。それぞれの場合に、試験設計の如何に応じて、このようにして、一測定の間に、全ての3つの反応相で十分な評価をするような測定時間に合わせられるように、総反応時間を、日常的な予備実験によって実験的に決めなければならない。実施例および図1〜3から明らかなように、20分間の総反応時間が、実施例として本願で記載されている、内因性トロンビン活性の測定のためには適切である。
【0024】
測定は、測定試験中の遊離トロンビンの生成および阻害が完了し、そして、トロンビン基質の測定されるターンオーバー速度が、もっぱらα2−マクログロブリン/トロンビン複合体(α2MT)の活性に起因するのみとなる時点まで継続される。特に好ましい測定時間は、トロンビン基質の変換が、α2−マクログロブリン/トロンビン複合体(α2MT)の活性のみに起因する反応相、即ち、飽和相が、生のETP値を確実に測定することができるように十分に長い時間継続している、という事実によって特徴付けられる。
【0025】
本発明の方法において、総反応速度の飽和相の直線領域は、最初に、所定の試験特有の時間枠の中で測定される。
【0026】
開始点がtminとも名づけられ、および、その後の終結点がtendとも名づけられている、この時間枠は、誘導相の経過の間に生じる可能性のある総反応速度の直線領域をこの分析から除外するために、誘導相を確実に除外するように定めるべきである。
【0027】
開始点tminは、時間的に誘導相の下流に位置するように定められるべきである。開始点tminは、好ましくは、指数相の終結点、または、指数相から飽和相への移行領域に位置している(図1も参照する)。
【0028】
次に、終結点tendは、飽和相の中に位置するように、そして、結果として得られる時間枠tmin〜tendが、飽和相の中で少なくとも3個の測定点を包含するように定められるべきである。
【0029】
時間枠の位置および大きさは、好ましくは、この時間枠が、飽和相の中に3個より多い測定点を包含できるように、特に好ましくは4〜500個の測定点、より特に好ましくは100〜300個の測定点を包含するように定められる。
【0030】
その範囲内で直線領域が測定されるこの時間枠は、選択された反応条件に依存して定められる試験特有のパラメータである。このために、当業者は、多くの日常的な予備実験における一定の反応条件の下で、典型的な反応曲線のコースを決定することができる。異なった内因性トロンビン活性(略してETP)を示すことが知られている検体は、試験特有の時間枠を予め決定していた場合、反応相の経過時間の変更可能性を確実に評価できるように、そうした予備実験において有利に使用される。このようにして、当業者は、未知の検体を分析する場合に、開始点tminを常に誘導相の時間的な下流に位置させ、そして、終結点tendが、時間枠を飽和相の中で少なくとも3個の測定点を包含するように定めることが保証されるように、時間枠を設定することができる。
【0031】
所定の時間枠内の直線領域は、好ましくは回帰法を用いて決定される。
【0032】
回帰法の特定の好ましい実施態様において、ピアソン相関係数rの二乗:
【数3】

(式中、
nは、時間枠の中の測定点の数、
iは、数値カウンター変数(numeric counter variable)
iは、測定する反応速度の時間値を含む級数、および
iは、測定する反応速度の測定値を含む級数)
が、その終結点がtendに対応し、および、その開始点がtmin、または、所定の時間枠tmin〜tendの範囲内の任意の測定点に対応している、それぞれの可能な時間枠について作成される。
【0033】
ピアソン相関係数の二乗r2は、所与の測定値の範囲または時間枠の中での反応曲線の直線性の尺度である。r2は、0〜1の範囲の値をとることができる。その値が高いほど、直線性は優れている。このようにして計算された、ピアソン相関係数riの二乗の最大値が測定され、この最大値を有する時間枠が、最良の直線的経過を有する領域または反応相として選択される。もしいくつかの時間枠が同じ最大値を示した場合は、その枠が最も大きいものが選択される。
【0034】
他の好ましい実施態様において、直線領域の必要最小の大きさを定めることができる。当業者は、内因性トロンビン活性の特に信頼できる測定を確実にするために、最終的に内因性トロンビン活性を測定する基礎として使用される直線領域が、測定点の定められた最小数、すなわち、定められた最小サイズより小さくならないように定めることができる。生のETP値を測定するために使用される、この直線領域の最小サイズは、反応曲線のコース、または、直線領域内の測定値の分散、に応じて作成されなければならないので、当業者は、信頼できる生のETP値の測定のための適切な統計上の確実性さがあるように選択された、試験特有の反応条件の最小範囲を定めなければならない。もし、最良の直線的コースを有する時間枠が所定の最小サイズを充たさなかった場合、次に、例えば、その後の分析に関して、正確に測定点の定められた最小数を含み、および、その終結点がtendに対応している領域を用いることが可能である。このやり方の利点は、例えば、個々の測定値が著しくずれている(「異常値である」)反応速度であっても、完全に捨てさる必要はなく、なおまだ解析ができることである。このようにして測定された生のETP値は、ユーザーが、例えば、目視検査により反応曲線を評価できるような、適切なコメントとともに発行することができる。
【0035】
本発明の方法のさらなる様相は、トロンビンのα2−マクログロブリンに対する結合定数Cが、α2MT反応速度の勾配に対応する、飽和相の直線領域における総反応速度の勾配Aを用いて、反復して測定されることである。
【0036】
この方法論的手段は、飽和相におけるトロンビン基質の変換が、もっぱらα2MT複合体の酵素活性のみに起因するという事実を基にしている。トロンビン基質が開裂される反応速度、すなわち、単位時間に遊離される指示物質の量は、総反応曲線の勾配に相関する。α2MT複合体の濃度は、飽和相において一定のままであるために、同じ量のトロンビン基質が単位時間当たりに開裂され、その結果、総反応曲線が直線的に増加していく。したがって、飽和相における総反応速度K(t)の直線領域の勾配Aは、α2MT反応速度α2MT(t)の勾配と同等とみることができる。
【0037】
微分方程式(2)を考慮に入れて、
【数4】

以下のようになる:
【数5】

【0038】
総反応速度K(t)の勾配Aは、好ましくは直線回帰を用いて計算できる:
【数6】

(式中、
nは、飽和相の直線領域における測定点の数、
iは、数値カウンター変数
iは、飽和相の直線領域における時間値を含む級数、および
iは、飽和相の直線領域における測定された総反応速度の測定値を含む級数)。
【0039】
式(4)に従って、C・T(t)がAと等しいことから、厳密に言って、直線領域において以下のようにされるべきである:
【数7】

【0040】
しかしながら、理想的な直線を形成しないような誤りを含んだトロンビン反応速度値T(ti)の級数を扱うために、この要件は充たされない。
【0041】
この理由により、C・T(ti)とAとを一致させる代わりに、式(4)によりC・T(ti)と一致している、Cを変換して勾配Aから、計算されたα2MTの計算された勾配の偏差を最小化するための、補償計算方法を用いることが有利である。最小二乗法(最適最小二乗法ともよばれる)の使用は、特に、この目的のためには有利である。
【0042】
したがって、最小二乗法によれば、以下の式が成り立つことが必要とされる:
【数8】

(式中、
i=T(ti)は、時間tiでのトロンビン反応速度値、
istartは、直線領域の開始の指標、
iendは、直線領域の終結の指標である)。
【0043】
この要件を充たす必要条件は、Cに関する導関数がゼロになることである。Cはそれゆえに以下のように決められる:
【数9】

【0044】
以下のものは、Cに関する式を解いて求められる:
【数10】

【0045】
式(13)のために、代わりに定数Cの関数であるトロンビン反応速度Tに、定数Cの値が依存しているために、定数Cは式(2)へ迂回するフイードバックを有し、そのためにCは、それぞれの場合に以下の式に従う、次の反復工程の開始値として、反復工程の結果を使うことにより、反復的に測定される:
【数11】

(式中、
0=0、および
iは、トロンビン反応速度値T(ti)に関する数値指標、
jは、反復に関する数値指標である)。
【0046】
終止の判定基準は、反復を終結させるために定義される。この終止判定基準は、当業者により、計算されたトロンビン反応速度がもはや有意に変化しない時間を調べることによって、多くの日常的な予備実験で選択された、反応条件の関数として、試験に特有となるように定められる。この終止判定基準は、好ましくは、偏差|Cj−Cj+1|が所定の最大値εより大きな値である場合に、CjがCj+1と等しくなるように置かれ、式(13)が再度、偏差|Cj−Cj+1|がもはやεを超えなくなるまで新しいCjを用いて計算されるように、定められる。
【0047】
他の本発明の様相は、α2MT反応速度の値α2MT(t)が測定されることである。このα2MT反応速度の値α2MT(t)は、本願で、測定されたC結合定数を用いて、それぞれの時点に関して測定することができる。これに関して、微分方程式(2)が式(1)を考慮して、数値的に解かれ、以下のようになる:
【数12】

【0048】
次に、式(11)は、有限差分(階差)として公式化される{これに関しては、Fritsch, Herbert: Finite-Differeneze-Methoden [Method of finite differences]. IRB Verlag Stuttgart, 1998 (ISBN 3816712797)、または、Marshal, Dietrich: Finite Differenzen und Elemente. Numerische Loesung von Variationsproblemen und partiellen Differentialgleichungen [Finite differences and elements. Numeric solution of variation problems and partial differential equations]. Springer-Verlag Berlin Heidelberg, 1989 (ISBN 3540501924)、も参照されたい。}:
【数13】

【0049】
この式から、α2MT反応速度の値に関する時間級数が、次に求められる:
【数14】

(式中、α2MT0=0。)
【0050】
式(10)で算出されたC結合定数、測定されたK反応速度値および対応する時間値tを用いて、α2MT反応速度値α2MT(t)を、式(13)を用いてそれぞれの時間に関して測定できる。
【0051】
本発明の方法のさらなる様相は、α2MT反応速度の値が、対応する総反応速度の値から差引かれることである。時点i+1におけるトロンビン反応速度T(t)を測定するために、時点i+1で測定した総反応速度値K(t)と、前の時点iで測定したα2MT反応速度値α2MT(t)との差分を求める:
【数15】

【0052】
本発明の方法のさらなる様相は、飽和相の直線領域中での遊離トロンビンの反応速度T(t)について測定した値の平均値を求めることである。
【0053】
総反応速度の飽和相の直線領域中で、トロンビン反応速度T(t)は時間軸に対して実質的に平行に伸びて、すなわち、計算されたトロンビン値は結果としてほとんど一定となるはずである。総反応速度の飽和相の直線領域中(istartからiend)で測定された遊離トロンビンT(t)の反応速度値の平均は、生のETP値(Etpr)ともよばれる:
【数16】

【0054】
三番目の実施態様において、統計的手法を、好ましくは、平均化のために用いられた遊離トロンビンの反応速度値の変動係数CVを求めることで、測定された生ETP値の品質を検定するために、用いることができる:
【数17】

【0055】
本発明の方法を用いて測定された検体の生のETP値は、変換されたトロンビン基質の物理的特性、例えば光学的密度、[mU]で表す吸収度等の単位を有する。
【0056】
好ましい実施態様において、患者または患者検体の凝固状態は、正常標準検体の生のETP値と比較することで定めることができる。適切な正常標準検体の例は、健常人被験者より得られた血液検体または血漿検体のプールである。正常標準生ETP値より高い生のETP値は血栓性素因を示す。正常標準生ETP値より低い生のETP値は出血性素因を示す。さらに、検体の生ETP値と、トロンビンまたはプロトロンビンの濃度が知られた検体の生ETP値とを比較することで、検体中で生成したトロンビンの定量が可能になる。
【0057】
本発明はさらに、内因性トロンビン活性を測定するための本発明の方法が実行される機器に関し、およびこの機器は、本発明の方法を使って、操作者の命令に従って記録された測定値を自動的に分析することができる。この関連により、この機器は、電子的データ処理のためのユニットに加えて、さらに、検体を操作する装置、および、検体または試験方法の物理的特性を測定するための試薬および/または装置も装備できる、自動型凝固分析機のような機器であってもいい。
【0058】
本発明はまた、本発明の方法がコンピュータープログラムの形態で保存される貯蔵媒体にも関する。固定型デスクの他に、こうした媒体には、デスケット、CDおよびDVDのような交換可能な担体をも含まれている。
【0059】
以下に記載する実施例は、本発明の方法を説明するためのものであり、限定するものとして理解されるべきではない。
【0060】
実施例
血漿検体の生ETP値の自動測定
EP0420332−B1に記載されたような、発色試験法をヒト血漿検体の生ETP値を測定するために用いた。
【0061】
貧血小板血漿(PPP)の135μLを、緩衝液(50mMトリス−塩酸、pH7.4)の40μL、ならびに、トロンビンにより特異的に開裂されるパラニトロアニリド(pNA)−共役型オリゴペプチド(Pefachrome(R)TG;ペンタファーム社、スイス)、および、フィブリン重合化阻害剤(ペプチドアミド H−Gly−Pro−Arg−Pro−Ala−NH2; EP0456152−B1を参照されたい)を含む溶液の40μLとを混合した。7分間のインキュベーションの後、CaCl2(250mM)の15μL、および、Innovin(R)(組換えヒト組織因子および合成リン脂質の混合物から構成された試薬; デードベーリング・マールブルグ社、ドイツ)の30μLを、トロンビン生成活性化剤として、混合液の中に加え、そして、405nmの波長で吸光度測定を開始した。この吸光度は、一秒間で1〜2回の測定となる時間間隔で、20分間に渡って測定された。測定値は、時間順で連続的に記録された。このようにして測定された総反応速度は、次に、本発明の方法を用いて、検体の生ETP値を測定するために使用された。選択された試験特有の条件としては、開始点Tmin=650秒および終結点tend=1078秒を有する時間枠が、総反応速度の飽和相の直線領域を測定するために予め定められた。
【0062】
検体と試薬とを混合すること、吸光度の測定、および、生ETP値の自動測定は、本発明の方法をソフトウエアの形態で実行するBCR(R)凝固分析機(デードベーリング・マールブルグ社、ドイツ)上で、自動的な方法により行われた。
【0063】
正常標準検体(図1)および2つの病気の患者検体(図2および3)は、このようにして調べられた。
【0064】
図1、2および3は、それぞれ、本発明の方法を用いて測定された、総反応速度K(t)(曲線A)、すなわち、時間[t]に従って測定された吸光度[mU]、ならびに、α2MT−マクログロブリン/トロンビン複合体の反応速度α2MT(t)(曲線C)、および、遊離トロンビンの反応速度T(t)(曲線B)に関するグラフを示している。
図1:本発明の方法を用いて測定された、正常血漿検体の、総反応速度(A)、ならびに、α2MTおよびトロンビンの反応速度のグラフによる表示。説明のために、総反応曲線(A)の3つの反応相のおおよその経過時間を書き込んだ(Iは誘導相、IIは指数相およびIIIは飽和相を意味している)。さらに、本願で用いた、tmin=650秒からtend=1078秒で、最良の直線性を有する総反応速度K(t)の領域が求められた、試験特有の時間枠を書き入れた(点線)。総反応速度の直線領域(破線)は、点istart=672秒およびiend=tend=1078秒の間として決められた。この直線領域の範囲内で、測定されたトロンビン反応速度に関する曲線Bは、X軸に対してほぼ平行に伸びている。生のETP値の378mUは、生の値の測定に関して2.9%の変動係数を有し、この直線領域の時間枠内で測定されたトロンビン値を平均化することにより測定された。
図2:本発明の方法を用いて測定された、経口抗凝固剤を投与されている患者の血漿検体の、総反応速度(A)、ならびに、α2MTおよびトロンビンの反応速度のグラフによる表示。生のETP値の136mUは、正常血漿検体の生のETP値と比較して著しく減少しており、これは患者が出血性凝固状態を有していることを示しており、総反応速度の直線領域で測定された、遊離トロンビンの反応速度の値を平均化することにより測定された。生の値の測定に関する変動係数は2.3%である。
図3:本発明の方法を用いて測定された、病理的な血漿検体の、総反応速度(A)、ならびに、α2MTおよびトロンビンの反応速度のグラフによる表示。生のETP値の1034mUは、正常血漿検体の生のETP値と比較して著しく上昇しており、これは患者が血栓性凝固状態を有していることを示しており、総反応速度の直線領域で測定された、遊離トロンビンの反応速度の値を平均化することにより測定された。生の値の測定に関する変動係数は0.7%である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の方法を用いて測定された、正常血漿検体の、総反応速度(A)、ならびに、α2MTおよびトロンビンの反応速度をグラフにより表示する。
【図2】本発明の方法を用いて測定された、経口抗凝固剤を投与されている患者の血漿検体の、総反応速度(A)、ならびに、α2MTおよびトロンビンの反応速度をグラフによる表示する。
【図3】本発明の方法を用いて測定された、病理的な血漿検体の、総反応速度(A)、ならびに、α2MTおよびトロンビンの反応速度をグラフにより表示する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
時間の関数として、測定すべきトロンビン基質の代謝速度を用いる、凝固する血液または血漿の検体の内因性トロンビン活性(ETP)の測定方法であって、
a)総反応速度の飽和相の直線領域を、所定の試験特有の時間枠の範囲内で測定し、そして、次に、
b)トロンビンのα2−マクログロブリンに対する結合定数Cを、飽和相の直線領域における総反応速度の勾配Aを用いて反復測定し、ここで該勾配はα2MTの反応速度の勾配に対応しており、そして、次に、
c)α2MTの反応速度の値を測定して、総反応速度の対応する値から差引き、そして、次に、
d)飽和相の総反応速度の直線領域について測定した、遊離トロンビンの反応速度の値を平均化することによって、生のETP値を測定する、
上記の測定方法。
【請求項2】
試験特有の時間枠が、飽和相の範囲内で少なくとも3個の測定点を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
測定した総反応速度の飽和相の直線領域を、回帰法を用いて測定する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
終結点が所定の試験特有の時間枠の終結点に対応し、および、開始点が所定の試験特有の時間枠の開始点か、または、所定の時間枠の範囲内で任意の測定点に対応している、それぞれの可能な時間枠について、ピアソン相関係数rの二乗値を作成する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
相関係数riの二乗値の最大値を測定し、次いで、該最大値を有する時間枠を総反応速度の直線領域として選択する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
測定された直線領域が定義された最小幅より小さい場合、予め定義された最小幅の枠を直線領域として選択する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
飽和相の直線領域中での総反応速度の勾配Aを、直線回帰を用いて計算する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
トロンビンのα2Mに対する結合定数Cの変動による、総反応速度の勾配Aからのα2MTの計算された勾配の変動を最小にするために、適合計算の方法を用いる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
最小二乗法を、適合計算の方法として用いる、請求項8に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−162623(P2006−162623A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−351485(P2005−351485)
【出願日】平成17年12月6日(2005.12.6)
【出願人】(398032751)デイド・ベーリング・マルブルク・ゲゼルシヤフト・ミツト・ベシユレンクテル・ハフツング (36)
【Fターム(参考)】