説明

内因性荷電リガンドを有する加水分解澱粉の微小球

本発明は、直径が10〜2000μmであり、1種類以上のリガンドがカルボン酸エステル結合により結合した架橋加水分解澱粉を含有する、生分解性微小球に関する。当該リガンドは、内因性の荷電した分子であり、分子量が1000Da未満であり、当該リガンドを前記微小球と結合させるのに用いられるもの以外に1つ以上の追加のカルボン酸官能基及び/又は1つ以上のアミン官能基を有してもよい。平均0.05〜1.5個のリガンドが、前記加水分解澱粉中の各グルコース部分と結合している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内因性荷電リガンドが結合した加水分解澱粉の生分解性微小球に関する。また、本発明は、そのような微小球を含有する材料、及び止血、創傷治癒、細胞培養、又は血管閉塞における、当該微小球又は材料の使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
分岐グルコースポリマーである澱粉(α6分岐を有するα4グルコース鎖)は、植物及び動物中に存在する天然の材料で、エネルギーを貯蔵する機能を有する。当該ポリマーは、アミロース(鎖が長く分岐が少ない)及びアミロペクチン(高度に分岐し鎖が短い)からなる。
【0003】
分解性澱粉微小球(DSM)は、架橋澱粉鎖で形成される。分解性澱粉微小球は、長年、細胞毒性薬剤の投与と共に、又は単独で、一時的な血管の閉塞に使用されてきた(腫瘍の処置および出血の防止)が、局所的な手術中の止血にも使用されている。
【0004】
前記澱粉微小球は、血漿アミラーゼによりインビボでオリゴ糖類、マルトース、そして最終的にグルコースに分解され、通常の代謝に組み込まれる。
【0005】
澱粉の微小粒子又は修飾された澱粉は当該技術分野で公知であり、とりわけ生体適合性の止血材として、例えばUS 6,060,461及びWO 2009/091549に記載のものがある。
【0006】
更に、US 3,812,252は、加水分解澱粉及びその慢性の創傷を含む創傷の処置における使用に関する。
【0007】
創傷治癒は、創傷後に皮膚又は他の器官がその創傷を修復する複雑なプロセスである。創傷治癒の古典的なモデルは、重複しているものの、(1)止血、(2)炎症、(3)増殖及び(4)リモデリングの4つの連続的な相に分類される。
【0008】
止血は、創傷治癒における最初の相であり、出血プロセスを停止させる。皮膚又は他の器官に創傷が生じて数分で、血小板(platelet又はthrombocyte)が活性化され、創傷部位に凝集してフィブリン塊を形成する。
【0009】
内皮に創傷が生じたとき、内皮細胞は凝固の阻害を止め、創傷後の止血を誘導する凝固因子の分泌を開始する。止血は、1)血管収縮、2)血小板の栓による一時的なブロック、並びに3)フィブリノーゲンのフィブリンへの変換による血液の凝固及び組織が修復されるまで穴を塞ぐ血餅の形成の、3つの主要な段階を有する。
【0010】
炎症相において、細菌及び夾雑物は食作用により除去され、増殖相に関与する細胞の移動及び分裂を引き起こす因子が放出される。
【0011】
約2〜3日以内に、線維芽細胞が創傷部位に侵入し、炎症相が終了しない内から増殖相が開始される。この相は、血管形成、コラーゲン沈着、顆粒組織形成、上皮化、及び創傷の収縮を特徴とする。血管形成において、新しい血管が形成され、これはその後の創傷治癒段階を支持する創傷部位への酸素及び栄養分の供給に必須である。同様に、線維芽細胞が創傷部位に蓄積し、その数は負傷後1〜2週間で最大となる。1週間目の終わりまでには、線維芽細胞は、創傷の中の腫瘍な細胞となっている。
【0012】
負傷後2又は3週間以内に、線維芽細胞は主に増殖及び移動するが、その後は、主に創傷部位にコラーゲンマトリックスを蓄積させる。まず線維芽細胞は移動に炎症相で形成されたフィブリンのかさぶたを使用し、フィブロネクチンに接着する。そして線維芽細胞は、創傷床(wound bed)内に基質(ground substance)を沈着させ、その後それらの細胞が移動のために接着できるコラーゲンを沈着させる。創傷の基部から増殖した顆粒組織は、炎症相の間に既に創傷中に発生しており、創傷床が覆われるまで増殖を続ける。顆粒組織は、新しい血管、線維芽細胞、炎症細胞、内皮細胞、筋線維芽細胞、及び新しい仮の細胞外マトリックスで構成される。上皮細胞の再上皮化は、上皮細胞が増殖し、創傷床の上を這い(crawl)、新しく形成された組織の覆いを提供する。
【0013】
細胞培養は、制御された条件下で細胞を増殖させるプロセスである。細胞培養の歴史的発展及び方法論は、組織及び器官の培養のそれらと密接に関連している。動物細胞の培養は、20世紀中盤にはありふれた研究室技術となったが、元の組織から分離した生きた細胞を維持する概念は、19世紀には発見されていた。組織培養は、器官から分離した組織及び/又は細胞の増殖である。これは、典型的には、液体、半固体、又は固体の増殖培地、例えばブロス又はアガーの使用により促進される。本明細書中、細胞培養と組織培養は、同義語として使用される。
【0014】
血流中に存在する細胞等のある種の細胞は、通常懸濁した状態で生存し、表面に接着しない。これらの細胞は、懸濁液中で生存出来る。しかしながら、固形組織に由来する大半の細胞は、接着状態が生存に必須な、所謂接着細胞である。接着細胞は、組織培養プラスチック又は微小担体等の表面が、増殖に必須である。接着細胞を増殖させるための微小担体は市販されており、例えばデキストラン微小球が挙げられる。接着細胞が回収され、又は継代(継代培養の輸送)されるとき、それらの細胞は接着していた表面から剥離される必要がある。通常、この剥離は、培養細胞にトリプシン-EDTAの混合物を添加することによりなされる。
【0015】
血管閉塞(embolisation又はocclusion)は、侵襲性が最小な手術の代替手段として使用される。閉塞の目的は、身体のある部分への血流を阻止することにより虚血を生じさせ、腫瘍を効率的に縮小させ又は動脈瘤をブロックすることである。
【0016】
前記手順は、血管内の手順として実施され、血管造影装置(interventional suite)中で、専門の放射線科医により行われる。殆どの患者にとって、この処置が鎮静を殆ど又は全く使用せずに実施されるのが通常であるが、それは閉塞される器官に大きく依存している。
【0017】
器官への到達は、ガイドワイヤー及びカテーテルにより達成される。使用される人工塞栓は、通常、以下の方法:コイル若しくはハイドロコイル、粒子、泡又は栓のいずれかである。
【0018】
閉塞療法において使用される薬剤として、特に、複雑な血管構造内を流動出来る液体閉塞剤が挙げられる。その例として、ヨウ素と強力な増粘剤であるポピーシード油を含有し、しばしば化学的閉塞、特に止血に使用されるエチオドール;血管を裏打ちする内皮を硬化させる硬化剤及びエタノールが挙げられる。
【0019】
顆粒閉塞剤も、毛細血管前細動脈又は細い動脈の閉塞に使用される。Gelfoam(登録商標)は、5週間一時的に血管を閉塞する。微小球は、通常、穏和な閉塞(bland embolisation)及び化学閉塞に使用される薬剤である。ポリビニルアルコール(PVA)及びアクリル性ゼラチン微小球は、インビボで分解されず、患者の体内に永続的に残留する。状況に応じて、様々なサイズの微小球が使用され、その範囲は直径約50μm〜約1.2mmである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0020】
時として、生分解性澱粉微小球の特性を変化させることは興味深い。本発明は、生分解性澱粉微小球の生分解性;生分解性澱粉微小球の生体系及び/又はその構成成分との親和性;生分解性澱粉微小球の膨潤の程度;生分解性澱粉微小球の膨潤の速度、生分解性微小球の圧縮率/弾性、及び/又は生分解性澱粉微小球中及び上のイオン及び分子との化学的相互作用の選択性を変化させる方法を提供する。上記生体系及び/又はその構成成分は、例えば、器官又は細胞又はそれらの成分;細菌;ウイルス;タンパク質及び酵素;多糖類;脂質;小分子及び/又はイオン等である。
【0021】
故に、本発明は、直径10〜2000μmの生分解性微小球であり、1種類以上のリガンドがカルボン酸エステル結合により結合した架橋加水分解澱粉を含有し、当該リガンドが、内因性の荷電した分子であり、分子量が1000Da未満であり、1つ以上の追加のカルボン酸官能基及び/又は1つ以上のアミン官能基を有するものであり、平均0.05〜1.5個のリガンドが、前記加水分解澱粉中の各グルコース部分と結合した、前記生分解性微小球に関する。
【0022】
また、本発明は、この微小球の様々な使用及び応用にも関する。
【0023】
発明の説明
本発明の微小球は、架橋酸加水分解澱粉を含有する。この微小球は、澱粉溶液をトルエン又は二塩化エチレン等の有機溶媒中に乳化させることにより製造されてもよい。ポリグルコース鎖は、エピクロロヒドリン等の架橋剤で架橋され、グリセロールエーテル(1,3-オキシ-プロパン-2-オール)結合を形成し、下記のように、分解性澱粉微小球(DSM)を形成する。
【化1】

【0024】
DSMは、アミラーゼによりインビボで、オリゴデキストリンに分解され、最後はグルコースまで分解される。架橋は、様々なサイズのオリゴ糖類として維持される。これらのインビトロでの運命は現在不明であるが、恐らくそれらは尿中に排出されるか、細網内皮系により濾過されて分解される。
【0025】
前記微小球は生分解性であり、即ち生理的(インビボ)条件下で分解され、及び/又は代謝され、そして排出される材料である。ここで、生理的(インビボ)条件とは、動物、より具体的には脊椎動物、そして最も具体的には哺乳類の生理的条件を含む。
【0026】
基本的に、前記生分解性澱粉微小球は完全に分解され、そしてその生理的環境、例えば人体から排除される。適用手段に依存して、当該微小球は、その意図される使用に適した所定の時間維持されるように調整される。この維持時間は、数分から最大で3ヶ月、より好ましくは最大で1ヶ月であり得る。
【0027】
本発明の生分解性微小球のサイズは微小スケールであり、より具体的には10μm〜2000μmである。
【0028】
DSMの特性は、DSMに、より具体的にはDSM中のグルコースのヒドロキシル基に結合しているリガンドにより、変化し得る。DSMの特性は、リガンドの選択に、また当該澱粉に結合したリガンドの数に影響される。
【0029】
前記リガンドは、DSMのグルコースモノマーにカルボン酸エステル結合によりDSMと結合する。リガンドと加水分解澱粉がこのエステル結合を介して結合するように、当該リガンドは、エステル結合を形成することが出来る、1つ以上のカルボン酸官能基、即ち1つ以上の-COOH基を有するべきである。当該エステル結合は、インビボでの化学的又は酵素的加水分解により加水分解が可能であり、このエステル結合の利用により、生体分離リガンド(biodetachable ligand)が提供される。
【0030】
更に、前記リガンドは、生理的pH、即ちpH6〜8で荷電した内因性の物質であるべきである。エステル結合を介してリガンドと加水分解澱粉が結合するのに利用されるカルボン酸官能基に加えて、前記リガンドは、1つ以上の追加のカルボン酸官能基及び/又は1つ以上の第一級、第二級、第三級、又は第四級アミン基を有するべきである。前記リガンドは内因性化合物であるから、DSMは、代謝され及び/又は排出される内因性化合物に分解される。
【0031】
故に、前記リガンドは正もしくは負に荷電してもよく、又は双性イオンであり、即ち同時に正及び負に荷電していてもよい。また、前記リガンドは、DSMの特性を更に変化させるように、無極性(疎水性)部分を有していてもよい。更に、複数のリガンドの混合物を使用することも出来る。
【0032】
荷電したリガンドは、対イオンを必要とする。リガンドが正に荷電している場合、対イオンは負に荷電しており、そしてリガンドが負に荷電している場合、対イオンは正に荷電している。この対イオンは生理活性対イオンであってもよい。前記リガンドが双性イオンである場合、そのリガンド自体が対イオンであってもよい。
【0033】
前記内因性リガンドは、更に、分子量が1000Da未満の小分子であってもよい。
【0034】
本発明において、DSM中のグルコース部分に結合するリガンドの数は、平均で0.05〜1.5個である。従って、DSM中でのリガンドとグルコースのモル比は、1.5:1〜1:20である。
【0035】
前記リガンドは、アミノ酸、他の窒素含有有機酸及び二酸(dioic acid)からなる群から選択されてもよい。
【0036】
本発明の幾つかの態様に適したリガンドを、表1に列挙する。
【0037】
表1は、好ましいリガンドを示す。構造中のRは、加水分解澱粉中、下記のグルコピラノシルモノマーを表す。R2はリガンドを表し、下記のDSMのグルコース部分上、2、3及び/又は6位のいずれに存在することも可能である。
【表1−1】

【表1−2】

【表1−3】

【0038】
上記微小球は、止血、創傷治癒、インビトロでの細胞培養及び血管閉塞に使用され得る。また、上記微小球は、創傷治癒における使用に適した生分解性材料の生産にも使用され得る。
【0039】
これらの様々な応用は、下記で更に議論する。
【0040】
止血
止血において使用する幾つかの態様において、前記微小顆粒と結合するリガンドは、好ましくは正に荷電し、又は双性イオンである。
【0041】
幾つかの態様において、微小顆粒と結合するリガンドは、好ましくは正に荷電している。そして使用される対イオンはエラグ酸(ellagic acid)であってもよい。
【0042】
止血において、本発明の微小球は、好ましくは、直径が平均で10μm〜200μmである。
【0043】
止血に使用されるとき、本発明の微小球は、粉末として、液体中に懸濁して、又はガーゼ等の裏当て構造(backing structure)に接着させて、創傷上/中に添加され得る。
【0044】
創傷治癒
創傷治癒において、前記微小球は、材料の製造に使用されてもよい。この材料は、微小球及び当該微小球の間の間隙で構成される三次元構造を有し得る。
【0045】
前記間隙が存在することにより、当該材料は、気体及び液体のいずれも透過するため、液体と接触してもゲル化しない。
【0046】
前記材料が非ゲル材料であることは、当該材料が創傷上/中に使用されたときフィルムの形成を免れることを意味し、それにより、当該層の下に浮腫が発生するのを防ぎ;酸素及び栄養分の効率的な輸送を促進し、更に、細胞の自由な移動及び下部の組織からの、又はそこへの圧力の効率的な伝達が可能となる。
【0047】
前記材料中の微小球は、均一なサイズ分布であってもよい。微小球の間に間隙が形成されるために、多くの場合、材料中の当該微小球のサイズが概ね均一であることが好ましい。微小球のサイズが不均一である場合、間隙は小さい微小球で埋まるため、意図していた効果に支障のある固い構造が形成される。微小球が均一なサイズ分布を形成する場合、少なくとも幾つかの態様において、サイズのばらつきは最大でも中央値から15%である。例えば、300μmの微小球の集合において、個々の微小球のサイズは、255〜345μmであってもよい。間隙、即ち詰め込まれた均一サイズの丸い球の間の空間は((2/3の平方根)-1)で計算され、微小球の直径の0.155倍である。
【0048】
前記材料は、一体の固体の、多孔質かつ三次元的な網目構造を形成し得る。
【0049】
前記微小球は、当該微小球を裏当てすることにより不動化する基質に接着されてもよい。そのような裏当ては、通常のガーゼ又はポリマー性発泡材料であってもよい。
【0050】
創傷治癒における使用の少なくとも幾つかの態様において、微小球に結合したリガンドは、好ましくは正に荷電している。
【0051】
創傷治癒における使用の少なくとも幾つかの態様において、微小球に結合したリガンドは、好ましくは正に荷電しており、疎水性である。
【0052】
創傷治癒において、本発明の微小球は、好ましくは直径が平均200μm〜2000μmである。
【0053】
好ましくは、前記材料中の間隙の直径は30μm〜300μmで、より好ましくは100μm〜300μmである。当該間隙は、典型的には直径20〜30μmである組織細胞や神経細胞束が通過できるように、30μm以上である。
【0054】
更に、前記材料の表面の特性は、細胞の接着及び増殖を刺激する。この特性として、材料表面に対する細胞の親和性、及び接着に適した材料の弾力性が挙げられる。
【0055】
本発明の創傷治癒に適した生分解性材料は、特に、創傷治癒プロセスの第三及び第四の相、即ち増殖及びリモデリング相における、標準的な創傷治癒管理において、又はNPWT(Negative Pressure Wound Treatment)において、特に、細胞の結合、移動及び増殖を促進する。
【0056】
本発明の創傷治癒に適した生分解性材料の三次元構造は、瘢痕組織の形成を低下させる。瘢痕組織はコラーゲンの単一方向の蓄積を特徴とするところ、コラーゲンの無秩序な蓄積を強いることが出来るマトリックスが、瘢痕化を減少させると考えられる。まとめると、本発明の材料は、新しい健康な顆粒組織の永続的な増殖を刺激及び促進する。
【0057】
創傷治癒において、適切なリガンドを選択することにより、前記材料の生分解を2日から2週間まで遅延させることが有利であり得る。そうすることにより、他の理由で必要な場合を除いて被覆材を交換すること無く、適切に治癒を行うことが出来る。
【0058】
創傷治癒又は創傷管理に使用されるとき、本発明の材料は、粉末として、若しくは溶液として、ガーゼ等の裏当て構造に接着され、又は一体の固体の網目として創傷中/上に添加され得る。
【0059】
また、本発明の材料は、創傷被覆材の一部を形成してもよい。
【0060】
正に荷電した表面を有する平均の直径が200μmの非ゲル生分解性澱粉球の2mmの相を創傷床に適用すると、4日で、細胞増殖により500μmに達する非常に良好な顆粒化が観察されることが示されている。
【0061】
インビトロ細胞培養
インビトロ細胞における使用において、前記微小球の平均直径は、好ましくは200μm〜1000μm、より好ましくは200μm〜500μmである。
【0062】
インビトロ細胞培養における幾つかの態様において、前記リガンドは、好ましくは正に荷電している。
【0063】
間隙は、接着及び増殖する細胞の効果的な通行を可能とし、また、培養系内の増殖マトリックス及び巨大分子の効果的な輸送を可能とするので、細胞の培養に重要である。
【0064】
血管閉塞
血管閉塞において、本発明の微小球は、好ましくは、平均直径10μm〜1200μmである。
【0065】
血管閉塞における使用において、微小球と結合するリガンドは、少なくとも幾つかの態様において、負に荷電している。
【0066】
前記負の荷電は、対イオンである、腫瘍の処置用のカチオン性細胞増殖抑制薬物とイオン的に結合するように使用されてもよい。そのような細胞増殖抑制剤として、ドキソルビシン、イリノテカン、トポテカン、エピルビシン、マイトマイシン、シスプラチン、及びソラフェニブが挙げられる。
【0067】
上記本発明の、及び特許請求の範囲に記載の態様に係る微小球は、止血、創傷治癒及び/又は血管閉塞を助長し、促進し、又は実施する方法に使用されてもよい。同様に、上記本発明の、及び特許請求の範囲に記載の態様に係る材料は、創傷治癒を促進又は実施する方法に使用されてもよい。
【0068】
前記微小球又は材料は、それぞれ治療有効量で、止血、創傷治癒及び/又は血管閉塞を要する哺乳類、例えばヒトに投与される。投与対象が、出血している創傷、又はたの種類の創傷、外的な創傷、内的な創傷、例えば皮膚上の創傷を有するヒトであってもよい。
【0069】
「投与」は、本発明の微小球又は材料が、止血、創傷治癒及び/又は血管閉塞を要する領域と接触するようにもたらされることを意図する。創傷の場合、止血又は創傷治癒の目的で、前記材料は、例えば、創傷の孔の中に、又は創傷の表面に設置され得る。創傷治癒の場合、前記DSMは、粉末、懸濁物又は軟膏として製剤化されてもよい。止血の場合、前記DSMは、乾燥粉末として、又はガーゼ中に、若しくはパッド中に組み込まれて適用されてもよい。閉塞の場合、前記DSMは、好ましくは、生理食塩水等の適切な媒体中に懸濁される。
【0070】
本文中、「有効量」という用語は、止血、創傷治癒及び/又は血管閉塞に正の効果を有する量を意味する。
【0071】
また、本発明の微小球は、インビトロでの細胞の培養を助長し、促進し、又は実施する方法に使用されてもよい。よって、本発明の微小球は、適切な培養培地に添加されてもよい。培養される細胞も、この培地に添加される。当該微小球は、細胞と同時に培養培地に添加されてもよく、又は、細胞の添加の前、若しくは細胞の添加の後に添加されてもよい。そして、当該細胞が成育される。上記のように、本明細書中の細胞培養は、組織培養も含む。
【0072】
上記の、又は特許請求の範囲に記載の、本発明のいずれかの態様に係る微小球は、更に、止血、創傷治癒及び/又は血管閉塞を助長し、促進し、又は実施するのに使用されてもよい。
【0073】
上記の、又は特許請求の範囲に記載の、本発明のいずれかの態様に係る微小球は、更に、医療器具又は医薬組成物の生産に使用されてもよい。
【0074】
上記の、又は特許請求の範囲に記載の、本発明のいずれかの態様に係る微小球は、更に、止血、創傷治癒及び/又は血管閉塞の助長、促進又は実施の為に特に製造されてもよい。
【0075】
本明細書及び特許請求の範囲の全体で、「含む」及び「含有する」という用語、並びにそれらの派生語、例えば「含んでいる(含んだ)」及び「有する」等は、「含むがそれに限定されない」ことを意味し、それらは、他の部分、添加物、成分、混入物又は工程を除外することを意図しない。
【0076】
本願の明細書及び特許請求の範囲全体において、その前後で他の言及が無い限り、単数形は複数形をも包含する。不定冠詞が使用されている場合、本願は、その前後で他の言及が無い限り、単数形及び複数形を想定するものとして理解される。
【0077】
本発明の特定の側面、態様、又は例と併せて記載される、特徴、整数、特性、化合物、化学部分又は基は、それらと矛盾しない限り、本明細書中に記載される任意の他の側面、態様、又は例に適用できるものと理解されるべきである。
【0078】
本発明は下記実施例でより詳細に記載され、当該実施例は、添付図面を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】図1は、分解性澱粉微小球(DSM)及び本研究において実施される化学修飾の模式図である。
【0080】
【図2】図2は、前記微小球の膨潤が、指数関数的に低下する初期急速膨潤率(initial rapid swelling rate)を有するフィックの拡散法則に従うとみなされ得ることを示す。Y=Y(1-e-kt)式中、k=一次膨潤定数、Y=最大膨潤時の体積の増大である。
【0081】
【図3】図3は、血小板の接着を示す。図3Aは、様々な修飾をしたバッチにおけるDSM及びDSMに接着した血小板を示す、位相差及び蛍光顕微鏡画像である。図3Bは、2つの凝集したDSM(バッチ4)の間の連結部分と、当該DSMに結合した血小板凝集体の拡大画像を示す。画像は、微分干渉コントラスト(DIC)を用いて取得した。
【0082】
【図4】図4は、3つのDSMバッチのインビボ試験を示す。抗凝固処理ラットの実験的出血モデル(腎臓外傷)で、バッチ5,6及び9の評価を行った。バッチ9で処理した全てのラットにおいて最初の止血(primary hemostasis)が確認されたが、29%が観察開始から20分以内に再出血した。他のバッチの止血効率は顕著に低く、殆どの動物が最初の止血を達成しなかった。
【0083】
【図5】図5は、インビボ試験中の処理バッチにおける血液の損失を示す。血液の損失は、ガーゼで回収した血液を計量することにより測定した。異なるバッチ間で出血量の顕著な差異があり(p=0.001)、バッチ5は非修飾DSMであり、バッチ6は血液凝固を活性化し、そしてバッチ9のDSMは血小板を吸着した。
【実施例】
【0084】
分解性澱粉微小球(DSM)は、エピクロロヒドリンのトルエン溶液を用いて加水分解澱粉を架橋して、乳濁物として調製された。続いて、当該DSMをエタノールで繰り返し洗浄し、更に蒸留水で洗浄し、そして最後に濃度を漸増させたエタノールで脱水させ、これを60℃で一昼夜乾燥させた。
【0085】
DSMの調製の詳細
2gの水酸化ナトリウムを280mlの精製水に溶解し、これに水素化ホウ素ナトリウム2gを加え、溶解させる。153gの加水分解澱粉を2時間以上ゆっくり攪拌して溶解させる。20gの界面活性剤(Rhodafac PA17)を、450gのトルエンに溶解させる。前記澱粉溶液を加え、トルエン溶液中で乳化させ、温度を70℃に上げ、そして、当該エマルジョンを、所望の滴粒サイズ分布が形成されるまで攪拌する。22gのエピクロロヒドリンを添加し、5時間架橋を実施する。当該混合物を室温に冷まし、沈殿させ、その後上澄を捨てる。得られたDSMを95%エタノールで3回洗浄し、0.8%酢酸で1回洗浄し、続いて純水で4回洗浄し、そして最後に無水エタノールで脱水した後、換気乾燥キャビネット中、60℃で乾燥させる。
【0086】
置換度の決定(PS)
置換度は、グルコースモノマーあたりの置換基の平均数として定義される。
【0087】
アルカリ鹸化とその後の過剰のアルカリの滴定を、置換度の判定に採用した。250mgのDSM試料に0.50MのNaOHを添加し、これを時々混合させながら72時間室温に置いた。フェノールフタレインをインジケーターとして使用して、過剰のNaOHを0.50MのHClで滴定した。
【0088】
アミラーゼによる分解性の決定
DSMの試料(3〜6mg)をpH7のリン酸緩衝液(5ml)で希釈し、そして400μlのヒト唾液を添加し、続いて37℃で4時間インキュベーションした。当該試料を20分間置き、又は遠心分離し、そして底から少量の試料を取り、顕微鏡で解析して、微小球の存否を判定した。
【0089】
二酸(表1に列挙)によるDSMの置換の一般的手順
DSM(1g)をDMF(10ml)に懸濁し、この混合物に、無水コハク酸(154mg、1.54mmol)及びピリジン(124μl、1.60mmol)を添加した。この混合物を拡散し、一昼夜90℃まで加熱し、そして当該材料を、40mlのエタノールで3回洗浄し、続いて5mlの飽和NaHCO3で洗浄し、そして30mlの水で3回洗浄した。当該材料をエタノールで脱水し、そしてオーブン中60℃で乾燥させた。当該材料を1730cm-1でカルボニルエステルを示すFTIRで分析した。
DS: 0.25 (上記のように判定された)
α-アミラーゼにより分解可能(上記のように判定された)
【0090】
エステルによるDSMの置換の一般的手順
ベタインによる修飾
ベタイン(1 .66g, 10,8 mmol)及びCDI (1 .75 g, 10.8 mmol)を50mlのDMFと混合し、80℃で2時間加熱した。そしてDSM(5g)を添加し、温度を90℃まで上げ、その混合物を一昼夜攪拌した。当該混合物をエタノール(250ml)で2回洗浄し、希塩酸(250ml)で洗浄し、そして水(250ml)で2回洗浄した。当該材料をエタノールで脱水し、60℃で一昼夜乾燥させた。
1751cm-1でカルボニルエステルを示すFTIR
DS: 0.23(上記のように判定された)
α-アミラーゼにより分解可能(上記のように判定された)
【0091】
ジメチル-グリシンによる修飾
上記ベタインによる例と同様であるが、DSM(2g)、N,N-ジメチル塩酸グリシン(430 mg, 3.1 mmol)及びCDI(500 mg, 3.1 mmol)が使用された。
1753cm-1でカルボニルエステルを示すFTIR
DS: 0.24(上記のように判定された)
α-アミラーゼにより分解可能(上記のように判定された)
【0092】
Nα-アセチル-L-アルギニンによる修飾
上記ベタインによる例と同様であるが、DSM(2g)、Nα-アセチル-L-アルギニン(623 mg, 2.5 mmol)、CDI (400 mg, 2.5 mmol)が使用された。
1748cm-1でカルボニルエステルを示すFTIR
DS: 0.24(上記のように判定された)
α-アミラーゼにより分解可能(上記のように判定された)
【0093】
プロリンによる修飾
上記ベタインによる例と同様であるが、DSM(1g)、Boc-Pro-OH(266 mg, 1.2 mmol)、CDI(200 mg)が使用され、続いて、TFAでtert-ブトキシカルボニルの脱保護が行われた。
1743cm-1でカルボニルエステルを示すFTIR
α-アミラーゼにより分解可能(上記のように判定された)
【0094】
グリシンによる修飾
上記ベタインによる例と同様であるが、DSM(1g)、Boc-Gly-OH (216 mg, 1 .2 mmol)、CDI(200 mg)が使用され、続いて、TFAでtert-ブトキシカルボニルの脱保護が行われた。
1748cm-1でカルボニルエステルを示すFTIR
α-アミラーゼにより分解可能(上記のように判定された)
【0095】
フェニルアラニンによる修飾
上記ベタインによる例と同様であるが、DSM(1g)、Boc-Phe-OH (327 mg, 1 .2 mmol)、CDI(200 mg)が使用され、続いて、TFAでtert-ブトキシカルボニルの脱保護が行われた。
1743cm-1でカルボニルエステルを示すFTIR
α-アミラーゼにより分解可能(上記のように判定された)
【0096】
荷電効果の調査に使用される分離不能(Non-detatchable)の表面修飾
当該表面修飾は、図1に示されている。
【0097】
オクテニルコハク酸(陰性かつ疎水性)
80gのDSMを純水中に懸濁し、N-オクテニルコハク酸無水物(Pentagon)を0.08g/g乾燥DSMで添加し、3時間反応を続行させた。0.75MのNaOHを添加することにより、7.4以上のpHを維持した。当該反応材料を2000mlの純水で8回洗浄し、その後漸増濃度のエタノールで脱水し、最後に60℃で一昼夜乾燥させた(Hui Rea. Preparation and properties of octenyl succinic anhydride modified potato starch. Food Chemis-try2009;1 14:81 -6)。
【0098】
カルボキシメチル化(陰性)
50gのDSMを純水中に懸濁し;クロロ酢酸を0.1g/g乾燥DSMで添加し、この反応を70℃で5時間続行した。クロロ酢酸は添加される前に水に溶解され、そして1MのNaOHで中和された。当該反応材料を2000mlの純水で8回洗浄し、その後漸増濃度のエタノールで脱水し、最後に60℃で一昼夜乾燥させた (Tomaski P, Schilling, C.H. Chemical modification of starch. Adv Carbohydr Chem Biochem 2004;59:175-403)。
【0099】
アセチル化(疎水性)
50gのDSMを純水中に懸濁し、無水酢酸を、0.05 g乾燥DSMまで添加した。無水酢酸は一滴ずつ加えられ、0.75MのNaOHを添加して、pH7.3〜7.8を維持した。得られた材料を2000mlの純水で7回洗浄し、その後漸増濃度のエタノールで脱水し、最後に60℃で一昼夜乾燥させた(Sathe SK, Salunkhe, D.K. Isolation, Partial Characterisation and Modification of the Great Northern Bean (Phaseolus vulgaris L.) Starch. J Food Sci1981 ;46:617-21 )。
【0100】
ジエチルアミノエチル塩酸、Aldrich(陽性)
50gのDSMを純水中に懸濁し、0.375molのDEAE塩酸塩を添加し、温度を60℃に上げた。250mlの3M水酸化ナトリウム溶液を添加し、当該反応を60℃で1時間維持した。当該DSMをブフナー漏斗を用いて20lの純水で洗浄した。そして当該DSMを、上記のように脱水及び乾燥させた(Manousos M, Ahmed M, Torchio C, Wolff J, Shibley G, Stephens R, et al. Feasibility studies of oncornavirus production in microcarrier cultures. In Vitro1980 Jun;16(6):507-15)。
【0101】
エラグ酸(吸着/吸収陰性)
エラグ酸(Alfa Aesar)は、2つの異なる方法を使用して受動吸着された(passive adsorbed)。方法1:0.1mMのエラグ酸を水に溶解させ、そしてDSMと混合させた。方法2:0.1mMのエラグ酸をエタノール中に溶解させ、そしてDSMと混合させた(Ratnoff OD, Saito H. Interactions among Hageman factor, plasma prekallikrein, high molecular weight kininogen, and plasma thromboplastin antecedent. Proc Natl Acad Sci U S A1979 Feb;76(2):958-61 )。洗浄及び乾燥は上記と同様に行われた。エラグ酸は受動的に吸収/吸着され、電荷の測定に利用することは出来なかった。
【0102】
標準的な修飾プロトコール(最適化していない)を用いて、様々な表面修飾が行われた。それらの修飾は、インビトロ及びインビボにおいて止血効果の概念を証明するために選択され、ヒトにおいて毒物学的に許容されるものであるかについて評価されなかった。
【0103】
表面荷電
表面荷電の程度は、PCD 02、Particle Charge Detector (Mutek)により測定された。
【0104】
設計
9個の異なる修飾DSMが無作為化及び盲検された。実験の実施者に対し修飾の情報は一切与えられなかった。
【0105】
DSMの特徴
顕微鏡(AxioObserver Z1 , Zeiss)での観察により澱粉微小球の形態が判定され、そして球の直径は、9個のバッチのそれぞれにおいて5個の球の最小のものについて測定された。吸収は、100μlのリン酸緩衝液の添加前及び添加後の所定の時点(1、3、9、15及び30s)の直径の測定により判定された。各バッチからの5個の球の直径の最小値が測定され、それらのDSMが完全な球であると過程して、それらの体積が計算された。微小球の膨潤は、ポリマー内への水の分散及び水和により起こり、架橋結合された澱粉鎖の最大緩和(maximum relaxation)での平衡に向かうプロセスである。結果として、当該プロセスは、指数関数的に低下する初期急速膨潤率(initial rapid swelling rate)を有するフィックの拡散法則に従うと推定され得る。よって、当該データは下記式により説明され得る。
Y=Y(1-e-kt)
式中、k=一次膨潤定数、Y=最大膨潤時の体積の増大である。
【0106】
インビトロ血小板接着
様々なDSMバッチと公知の凝血プロセスに重要な因子との間の可能な親和性/相互作用を研究するために、様々なDSMバッチへの血小板の接着を調査した。450μmlのヘパリン化血小板リッチ血漿を、1gのDSMが入った試験管に添加し、その後、軌道シェーカーを用いて、500rpmで20分間攪拌した。そして、当該DSMをPBS中に懸濁し、DSMを沈殿させ、上澄を新しいPBSに入れ替え、当該チューブをボルテックスし、これを繰り返すことにより洗浄を行った。DSMに接着した血小板を3.7%PFAのPBS溶液で固定し、0.1%Triton-XのPBS溶液を使用して透過化し、そして最後にAlexa 546-ファロイジンで蛍光染色した。当該手順の各工程の間にリンスが実施された。DSM及び蛍光血小板の画像はAxioObserver Z1 (Zeiss) 蛍光顕微鏡及びAxioVision (Zeiss)イメージングソフトウエアを用いて取得された。
【0107】
実験的腎臓出血モデルにおけるインビボパイロット実験
本試験は、医薬品安全性試験実施基準(good laboratory practice)のガイドラインに従い実施され、Local University Ethics Committee for Animal Experimentsにより承認されたものである。3つの異なるDSMのバッチを、上記インビトロ試験の結果に基づいて選択した。中間的な1バッチ、凝血を活性化した1バッチ、及び血小板接着性を有する1バッチが、本インビボ試験のために選択された。これらのバッチを、本実験の実施者に対し、盲検及び無作為化した。水及び餌を自由に与えた21頭の順化雄Sprauge-Dawleyラット(中間体重342g、iqr:314-360)を麻酔した(Hynorm, Janssen Pharma, Belgium and Midazolam Hameln, Pharma Hameln, GmbH)。頚動脈にカテーテルを挿入(IV注入用)した後、横断開腹(transversal laparotomy)を実施した。左腎臓を解剖し、Unfractionated Heparin (UH, LEO Pharma A S, Denmark) 200 IU/kgのIV投与の2分後、腎血管を締め付けた。当該腎臓の側方3分の1を摘出し、1mlの無作為化したDSMを生の腎臓の表面に適用し、手動で圧着させ(澱粉粉末と実験者の指との間にガーゼがある)、そして前記血管の締め付けを取り外した。圧着は2分間行われ、その後、止血のコントロールのために開放された。出血が起こった場合、圧着による止血を続行した。最初の止血は、腎臓切除から20分以内に目に見える出血が無いこととして定義される。止血した動物は、再出血の可能性があるため、更に20分間観察された。全ての動物は、フェノバルビツール酸(phenobarbiturate acid)及びエタノールのIV注入により安楽死された。損失した血液は回収され、計量された。試験の評価項目は:最初の止血を達成する性能、止血の時間、再出血の頻度及び血液の損失であった。
【0108】
統計
記載されているデータは中間値で、及び個々に、又は四分位範囲(inter quartile range)で表される。データの分布が非対称であったため非パラメトリック試験が実施され、分割表のためにX2試験が実施され、そして対になっていないデータを比較するとき、分散のKruskal-Wallis検定が使用された。p値<0.05は、有意とみなされた。Mac及びWindows用ソフトウエアSPSS17.0(www.spss.com)が使用された。
【0109】
結果
DSMの修飾
表面の修飾を表2に示す。合成手順は最適化されておらず、カルボキシメチル化は、特段の表面電荷をもたらさなかった。アセチル化は表面の電荷を変化させると考えられないが、他の方法は、表面の電荷を顕著な正及び負に変化させ得る。
【0110】
表2
DSMの化学修飾及び測定された電荷の結果
【表2】

【0111】
澱粉球の特徴
バッチ間で乾燥状態の直径は著しく異なり、バッチ6が最小の球を形成し(中間直径54μm、iqr:38-58)、そしてバッチ2が最大であった(中間直径72μm、iqr:67-76)。リン酸緩衝液の添加後、全てのバッチの体積は急速に増大し(図2)、30秒後には乾燥体積の5〜25倍に拡大した(表3)。この膨潤の程度は、バッチ間で顕著に異なる(p=0.001)。
【0112】
表3
DSM乾燥体積及びリン酸緩衝溶液に入れて30秒後の体積
【表3】

【0113】
血小板刺激
3つの修飾したバッチのDSM(4、7及び9番)への血小板の接着は明らかであったが、他のバッチは、血小板に全く影響しなかった(図3)。この結果は、3人の異なるドナーから得たPRPを使用して確認された。
【0114】
無作為化盲検インビボパイロット実験
バッチ9で処理した全ての動物は最初の止血を示したが、他のバッチで最初の止血を示したものは14〜43%であった(図4)。止血までの時間も群間で異なり(p=0.44)、バッチ9で処理した動物で最も早く(中間値2分:iqr:2-3:20)、一方バッチ6では中間値が6分で(n=3)、バッチ5では10分(n=1)かかった。バッチ9で処理した動物中再出血したのは2頭のみであった。(p=NS、他のバッチとの比較)。バッチ9で処理した動物は(中間値1g、iqr:0.4-1.2)、他のバッチと比較して(バッチ5:5g、4.3-6.7、バッチ6:5.3g、2.2-8.6)血液の損失が少なかった(p=0.001、図5)。
【0115】
血液からの体液(及び小分子)の吸収による、及び球表面への内因性凝血因子の濃縮による、想定される止血効果は、微小球の迅速で顕著な膨潤に依存し得る。本実験における全てのバッチはリン酸緩衝液の添加直後に体積を増大させたが、その速度と量はバッチ間で異なっていた。膨潤は、ポリグルコースが水和したときの弛緩に依存する。これは多くの架橋により制限され、リガンドの電荷斥力(charge repulsion)により促進される。しかしながら、我々は、測定された特性(例えば電荷等)との明確な関連性を見出すことはできなかった。低い架橋と高度かつ迅速な膨潤は迅速な分解を示唆するので、体積の増大は、手順の最後に、空間が限定され位置に術中投与されたとしても、体積の増大は有害ないと考えられる。この研究において、体液の迅速な吸収及びDSMの膨潤はインビボでの止血にとって充分ではなく、非修飾微小球で処理した動物中、最初の止血を示したのは7頭中1頭のみであった。
【0116】
インビボでの優れた止血性能を有するDSMは、血小板刺激特性を有するものであることが実証された。血小板は、正に荷電したDSM、ジエチルアミノエチル(DEAE)で調製したバッチ(4、7及び9)に結合し、これは、血小板が正に荷電した基を提示する表面に結合するという報告(Lee JH, Khang G, Lee JW, Lee HB. Platelet adhesion onto chargeable functional group gradient surfaces. J Biomed Mater Res 1998 May;40(2):180-6)と一致する。各DEAE修飾バッチに接着する血小板の量の客観的な定量は行わなかったが、バッチ4及び9の間で荷電の差異が測定されているにもかかわらず、肉眼での評価により、バッチ4、7及び9の間で、血小板の接着量の明確な差異は認められなかった。DEAE塩化物はDSM表面上で水酸化基と反応し、生理的なpHで正に荷電するDEAE基を生じる。DEAEリガンドは、ヒトにおける使用に好ましくない非生分解性の微小球をもたらす。しかしながら、当該球が血小板接着性となり得るか否か、及びこれが何らかの臨床的な止血の意義を有するか否かを判別するという概念実証として、かかるDEAE修飾は価値があった。血小板の迅速かつ効果的な刺激は、集合した血小板の物理的な栓により引き起こされる即時の止血に不可欠である。血小板は、また、トロンビンの生産の効率的な増幅及び促進にも要求される。当該プロセスは、刺激された血小板表面により触媒され、初期の血小板プラグを安定化するフィブリンネットワークをもたらす。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直径10〜2000μmの生分解性微小球であり、1種類以上のリガンドがカルボン酸エステル結合により結合した架橋加水分解澱粉を含有し、当該リガンドが、内因性の荷電した分子であり、分子量が1000Da未満であり、1つ以上の追加のカルボン酸官能基及び/又は1つ以上のアミン官能基を有するものであり、平均0.05〜1.5個のリガンドが、前記加水分解澱粉中の各グルコース部分と結合した、前記生分解性微小球。
【請求項2】
前記リガンドが、アミノ酸、窒素含有有機酸及び二酸(dioic acid)からなる群から選択される、請求項1に記載の微小球。
【請求項3】
前記リガンドが正に荷電している、請求項1又は2のいずれかに記載の微小球。
【請求項4】
前記リガンドが負に荷電している、請求項1又は2のいずれかに記載の微小球。
【請求項5】
前記リガンドが双性イオン性である、請求項1又は2のいずれかに記載の微小球。
【請求項6】
前記リガンドが、生理的に活性な対イオンを有する、請求項3又は4のいずれかに記載の微小球。
【請求項7】
平均の直径が10〜200μmである、止血に使用される請求項1〜6のいずれか1項に記載の微小球。
【請求項8】
請求項6に従属する場合、前記対イオンがエラグ酸(ellagic acid)である、請求項7に記載の微小球。
【請求項9】
請求項3、又は請求項3に従属する場合の請求項6の微小球を含有する創傷治癒に使用される材料であり、当該微小球が、微小球間に空間を有する三次元構造を形成する、前記材料。
【請求項10】
各微小球が、平均直径のばらつきが最大で±15%の均一なサイズ分布の一部である、請求項9に記載の材料。
【請求項11】
前記微小球の平均直径が、200μm〜2000μmである、請求項9又は10のいずれかに記載の材料。
【請求項12】
前記リガンドが疎水性である、請求項9〜11のいずれか1項に記載の材料。
【請求項13】
インビトロの細胞培養に使用され、平均直径が200μm〜1000μmである。請求項1〜6のいずれか1項に記載の微小球。
【請求項14】
血管塞栓に使用され、平均直径が10〜1200μmである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の微小球。
【請求項15】
前記対イオンが細胞増殖制御剤である、請求項4に従属する場合の請求項6に従属する場合の請求項14に記載の微小球。
【請求項16】
請求項9〜12のいずれか1項に記載の材料を含有する創傷被覆材。
【請求項17】
有効量の請求項1〜8のいずれか1項に記載の微小球を、出血している傷口を有する哺乳類に投与することによる、止血を実施する方法。
【請求項18】
有効量の請求項9〜12のいずれか1項に記載の材料を創傷を有する哺乳類に与えることにより創傷治癒を実施する方法。
【請求項19】
細胞をインビトロで培養する方法であり、請求項1〜6又は13のいずれか1項に記載の1つ以上の微小球を、培養される細胞に与えられる培養培地に添加することにより当該細胞を増殖する、前記方法。
【請求項20】
血管閉塞を実施する方法であり、有効量の請求項1〜6、14又は15のいずれか1項に記載の微小球を、血管閉塞を要する哺乳類に与えることによる、前記方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2013−512895(P2013−512895A)
【公表日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−541973(P2012−541973)
【出願日】平成22年11月17日(2010.11.17)
【国際出願番号】PCT/SE2010/051268
【国際公開番号】WO2011/068455
【国際公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(512140256)マグレ アクティエボラーグ (1)
【Fターム(参考)】