説明

内挿装置

【目的】 エンコーダからの信号をA/D変換器でディジタル信号に変換して内挿回路に供給するようになった内挿装置において、A/D変換器の出力ディジタル信号の下位ビットのふらつきに因る精度の低下を防止すること。
【構成】 変位検出器から供給されるアナログ信号をアナログ・ディジタル変換器A/Dでディジタル信号に変換し、このディジタル信号をディジタル・ローパス・フィルタDFに供給し、そこで信号中の高周波成分、即ち、下位ビットの変動を除去して、内挿回路IPLに供給する。また、上記ディジタル・ローパス・フィルタの後にヒステリシス回路を設けるとフィルタだけでは取り除けなかった雑音を除去することができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は例えば工作機械や産業機械、精密測長、測角装置等に用いられるリニヤーエンコーダやロータリーエンコーダの内挿装置に関する。
【0002】
【従来の技術】リニヤーエンコーダやロータリーエンコーダの内挿回路で100分割以上の高内挿を得るには、平衡変調器を用いて位相変調信号を得、内挿する方法(特公平5−18364号公報参照)、A/D変換器とディジタルコンピュータとを組み合わせてarctan(逆正接)を計算し内挿する方法、A/D変換器とルックアップ・テーブルによる内挿方法(特開昭49−106744号公報参照)、更には、専用の極座標変換IC(DPSP16330:1987年5月発売 英国プレシー社製)を使った内挿方法等がある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】位相変調信号で内挿する場合、平衡変調するキャリア周波数の分割数倍もの比較的高い周波数の内挿クロックが必要で高速のロジック回路が必要になる。また、応答周波数が平衡変調するキャリア周波数の±5%位までしか取れず高内挿高速応答には不向きであった。
【0004】A/D変換器を使った内挿方法は下記のような欠点がある。即ち、A/D変換器にヒステリシス特性が無いため、エンコーダからの信号をA/D変換器に入力した場合、A/D変換器から出力されるディジタルデータはサンプル毎に下位数ビットが頻繁に変化し、そのため、内挿出力にバタツキが発生し、高次のノイズとして出力されるので安定した内挿値が得られない。
【0005】これを防止する対策として、頻繁に変化する下位ビットを使わず、安定している上位ビットだけを使ったり、必要とする分割数の2倍以上の内挿を行い、1分解能以下のヒステリシスを掛ける方法がとられている。
【0006】しかしながら、これらの方法は、必要とされる分解能よりも高い分解能が要求されたり、コンピュータでarctan(正弦波状アナログ信号の位相角の逆正接)の計算を行い内挿する場合は、演算精度を上げる必要から、より高価な演算処理速度の速いCPUが必要となる。
【0007】ルックアップ・デーブルを使う方式の場合は、必要とされる分解能の容量より数倍の容量が要求される。また、高分解能のA/D変換器が必要になる。そうして、一般に高分解能のA/D変換器は変換速度が遅く、かつ、高価であり、コストを考慮すると高内挿高速応答には不向きであった。
【0008】本発明は上述の従来の内挿装置の欠点を克服して、簡単な回路で高分解能、且つ、高速の内挿回路を得ることを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】上述の課題を解決するために、本発明によれば、変位検出器から得られる少なくとも1つの周期性アナログ信号を内挿する内挿装置であって、変位検出器から供給される変位量の位置の関数として周期的に変化する振幅を有するアナログ信号をディジタル信号に変換するA/D変換手段と、該ディジタル信号の高周波成分を除去するディジタルフィルタと、該ディジタルフィルタの出力が供給される内挿手段と、を備えた内挿装置を提供する。
【0010】この内挿装置においては、ディジタルフィルタをマイクロコンピュータによって構成することができる。また、この内挿装置においては、前記ディジタルフィルタと前記内挿回路の間にヒステリシス回路を設けるのが好ましい。更に、この内挿装置においては、前記ディジタルフィルタと前記ヒステリシス回路をマイクロコンピュータで構成することができる。
【0011】
【作用】本発明によれば、アナログ信号をディジタル信号に変換して内挿回路に導くように構成された内挿装置において、ディジタル信号の下位ビットのふらつきをディジタル・ローパス・フィルタによって除去するようにしたので、A/D変換器の分解能をフルに生かすことができるので、簡単な構成で高精度の内挿装置が得られる。
【0012】また、ヒステリシス回路を設けることにより、ディジタル信号の下位ビットの変化を抑えているので、出力のバタツキを一層少なくすることができる。
【0013】
【実施例】本発明の内挿装置は、A/D変換器から得られたデータを直接内挿回路(ルックアップ・テーブルや極座標変換IC)に供給して内挿を行ったり、コンピュータで内挿計算を行わず、A/D変換器から得たデータを一端ディジタルフィルタを通して内挿する前のデータから高域のノイズ成分を除去するように構成する。
【0014】更に、後述するヒステリシス回路で瞬間的なデータの変動を押さえて、より安定したデータにして内挿部に導くことを特徴としている。
【0015】この種の装置において、A/D変換器はその入力が変化していなくても出力の下位数ビットが常時ふらついている。例えばフルスケールが2Vp−pで8ビットのA/D変換器だとすると1分解能あたり約8mVの分解能があることになる。音声信号や映像信号などでは、こうした雑音の影響は信号全体の振幅値との割合(S/N)によって決まり、しかも実効値で比較されるため1分解能8mVが問題視されることはあまりないがエンコーダのような信号の場合はこの雑音が問題になる。
【0016】エンコーダの信号をコンパレータで内挿する場合、出力値にふらつきが発生しないようにするため、約20〜30mVのヒステリシスを掛ける。従って、8mVの分解能のA/D変換器とすると3〜4値つまり下位2ビットがふらつくことになる。
【0017】このデータのふらつきをディジタルフィルタを使って押さえ、arctanの計算による内挿や、ルックアップ・テーブル等による内挿回路に導けばふらつきのない安定した内挿信号が得られる。この実施例を図1に示す。
【0018】図1において、入力アナログ信号は、A/D変換器でディジタル信号に変換されてディジタルフィルタ回路DFに供給され、そこで濾波されて、高周波成分が除かれた、つまり下位ビットが丸められたディジタル信号とされて内挿回路IPLに送られる。
【0019】ディジタルフィルタDFは基本的には、ローパスフィルタであり、単純な方法としては加算平均でも良く、この場合特にハードウェア化し易いことは良く知られている。図2は、ディジタルフィルタの一例を示し、入力をシステムクロックに同期して遅延させた信号を加算器で加算することによって構成することができる。
【0020】又、当然のことであるが、ディジタルフィルタ特性を得るにはコンピュータで計算して得てもよく、この場合は、必要に応じて色々なフィルタが構成できることは言うまでもない。なお、A/D変換器のアナログ入力にアナログフィルタを施してもA/D変換器のふらつきをおさえることはできない。
【0021】図5は加算平均を求める動作フローを示したものである。このフローについて簡単に説明すると、まず、ステップS1において計算がスタートし、S2でメモリの先頭アドレスをn=1とし、S3でアドレスnのメモリ位置に新たなデータを入力する。ステップS4で、アドレス1〜mまでのデータを加算する(但し、m段のデータ加算とする)。ステップS5で加算結果を出力する。これによって、一回の動作を完了し、動作を終了する時はステップS9に進んで終了する。
【0022】動作が続行する時は、次のステップS6で時間Tの遅延を行う。S7でn=n+1の計算をする。ステップS8でnとmの比較をして、もしnがmよりも大きければステップS2に戻り、n=1として前述の動作を繰り返す。ステップS8で、nがmよりも大きくなければステップS3に戻り、加算を続行する。
【0023】以上、ディジタルデータの加算平均について説明したが、この計算により、データの平均化がおこなわれ、下位ビットの変化の少ないディジタル信号が得られる。A/D変換器から出力されるデータのバタツキは殆どホワイトノイズ成分なので、ディジタルフィルタを16段の加算平均で行うとノイズ成分は1/16となり4ビット幅のバタツキまでは、1ビット以下になり安定したデータが得られる。
【0024】通常、ディジタルフィルタは相当数のサンプルが必要になり群遅延が長くなることが危惧されるが、今日では、ビデオ帯域のA/D変換器がホームビデオカメラのディジタル化が進んでいるため、比較的低価格で高速のA/D変換器(20Msps位まで)の入手が可能である。これらのA/D変換器を使えば16段の加算平均のディジタルフィルタでも1μsec以下の群遅延を実現できエンコーダ等のアプリケーションでは殆ど問題にならない。
【0025】A/D変換器の出力に含まれるノイズを除去するには、本質的には、ディジタルフィルタだけで問題はないが信号がA/D変換器の値の変わり目に位置すると1ビットの変化が頻繁に発生する。これもA/D変換器にヒステリシス特性が無いことによるものである。
【0026】このふらつきを押さえるのにヒステリシス回路が使われるが、これは通常のコンパレータに帰還をかけたアナログヒステリシスではなく、A/D変換器、ディジタルフィルタ後のディジタルデータに対して行うディジタルヒステリシスであり、このヒステリシス回路を用いた内挿装置を図3に示す。
【0027】図3の内挿装置において、入力アナログ信号は、アナログ・ディジタル変換回路ADCにおいてディジタル信号に変換されてディジタル・フィルタDFに供給され、このディジタル・フィルタで高周波成分が除去された信号として、次段のヒステリシス回路HYに供給する。ヒステリシス回路HYは信号の変化にヒステリシス特性を持たせるもので、下記に詳細な説明をするが、この回路を通すことによって、急激な変化に対しても安定したディジタル信号が得られる。こうして得られた信号が内挿回路IPLに供給され、精度の高い安定した内挿信号が得られる。
【0028】図4は、ディジタル・ヒステリシス回路の一例を示す。入力端子1には、ディジタルフィルタの出力が供給され、この信号は減算器7の1入力Aに印加されるとともに、比較器4の入力Bおよび比較器5の入力Aに供給される。
【0029】他方、入力端子2にはヒステリシス値が供給され、この信号はセレクタ6に印加されるとともに、加算器3の入力Bに印加される。このヒステリシス値はディジタル信号の下位何ビットが丸められるかによって決まる値である。上記セレクタ6の他の入力Bには0が印加されており、制御端子Sにハイ信号が与えられると入力信号Aを出力し、ロー信号が与えられると0信号を出力するようになっている。
【0030】セレクタ6の出力は上記減算器7の他の入力Bに印加され、入力Aに印加されている前述のフィルタからの出力ディジタル信号との減算を行い、その差出力をレジスタ回路(フリップフロップ)9に供給する。
【0031】このレジスタ回路9の出力は、このディジタルヒステリシス回路の出力として出されるとともに、比較器4の入力Aに印加される。比較器4はレジスタ回路9に蓄積されている値と、入力ディジタル信号との比較を行う比較器で、レジスタに蓄積された値の方が入力よりも大きければ(A>B),出力論理1を出して、OR回路8を通してレジスタ回路9をイネーブルし、減算器7からの信号を蓄積する。なお、この蓄積はシステムクロックに同期して行われる。
【0032】もし、レジスタ回路9からの信号が入力ディジタル信号よりも小さければ比較器4の出力論理は0で、レジスタ回路9にイネーブル信号を出さないので、レジスタ回路9の内容はこのルートによって変更されることはない。
【0033】他方、レジスタ回路9からの出力信号は、加算器3の入力Aに印加され、入力Bに印加されているヒステリシス値が加算され、その結果が比較回路5の入力Bに印加される。比較回路5は、入力ディジタルデータと加算器3の出力とを比較して、入力ディジタル信号の方が大きければ出力論理1を出し、セレクタ6にハイレベル信号を与えて、セレクタ6からヒステリシス値を出力させる。
【0034】減算器7は入力ディジタル信号から上記ヒステリシス値を減算して減算後の信号をレジスタ回路9に供給する。この時、比較器5の出力論理は1になっているのでOR回路8を通してレジスタ回路9にイネーブル信号が与えられており、従って、前述のヒステリシス値の減算されたディジタル信号がレジスタ回路9に蓄積される。
【0035】もし、入力ディジタル信号がレジスタ回路9に蓄積されている値にヒステリシスを加えたものより小さければ比較器5の出力論理は0であるからレジスタ回路は前回の値を保つ。
【0036】図6は、この回路の動作フローの概略を示したものである。先ず、ステップS1でスタートし、ステップS2で前回のデータと今回のデータを比較し、今回のデータが前回のデータよりも小さければステップS5に進んで、今回データを新たなデータとして保持する。
【0037】もし、ステップS2で、今回データが前回データよりも大きければステップS3に進んで、前回のデータにヒステリシスを加えた値と今回データとを比較して、今回データの方が大きければ、ステップS4に進んで、今回のデータからヒステリシスを減算する。
【0038】このヒステリシスを減算した現在データは、ステップS5において、新たなデータとして保持され、ステップS6に進んで処理を終わる。ステップS3において、今回データが前回データよりも大きくないと判断されたときは、ステップS6に進んで処理を終了する。
【0039】この例では、比較器と加算器、減算器、フリップフロップ(レジスタ回路)を用いて、1サンプル毎に前回フリップフロップで保持されているデータと比較し、今回のデータか小さい場合は、今回のデータを無条件でフリップフロップで保持し、また、前回フリップフロップで保持されているデータにヒステリシス値を加算した値と比較し今回のデータが大きい場合は、今回のデータからヒステリシス値を減じた値をフリップフロップで保持し、ヒステリシス処理ができる。なお、このヒステリシス回路もコンピュータを使ってソフトで実施することができる。
【0040】図7は、内挿回路への入力が多相信号の場合のシステム構成を示している。同図に示すように、各相の信号は別々にA/D変換し、ディジタルフィルタとヒステリシス回路を通してから内挿回路に供給される。各相の信号に対する処理は前述の説明から明らかであるから、詳しい説明は省略する。
【0041】図8は、多相信号に対して、A/D変換器、ディジタルフィルタ、ヒステリシス回路を共用し、入力を切り替えて使用するようにした内挿装置のシステム構成例である。各相のアナログ信号は、サンプリング保持回路SH1〜SHnにおいてサンプル保持され、タイミング信号発生器TGからの選択信号によってスイッチSWを動作させて、サンプリング保持回路SH1〜SHnの内容を順次読み出して、A/D変換器に供給しディジタル信号に変換してディジタルフィルタに送り、高周波成分を除去して、ヒステリシス回路に送り、ヒステリシス処理された信号を対応するレジスタR1〜Rnに蓄積する。
【0042】蓄積された各相の信号は並列に内挿回路に供給され、そこで内挿した信号をつくって出力する。このように、多相信号に対して、時分割多重処理を行えば、A/D変換器、ディジタルフィルタ、ヒステリシス回路の所用個数が少なくて済み、コストの低減をはかることができる。
【0043】
【発明の効果】本発明の内挿装置は、上述の構成を備えていることにより、出力信号のバタツキが小さくなり、又は完全に除かれる。また、A/D変換器の分解能を有効に使うことができるので、従来の方法よりA/D変換器のビット数を少なくすることができ、コストの低減をはかることができる。又、従来の同種の装置と同等のA/D変換器を使うとすれば、高分解能・高速応答が容易に実現できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の内挿装置の一例を示すシステム構成図である。
【図2】本発明の内挿装置に適用可能なディジタルフィルタの一例を示す回路図である。
【図3】本発明の内挿装置の他の例を示すシステム構成図である。
【図4】本発明の内挿装置に適用されるヒステリシス回路の一例の回路図である。
【図5】本発明の内挿装置に適用できる加算平均計算フローを示すフローチャートである。
【図6】本発明の内挿装置に適用できるヒステリシスの計算フローを示すフローチャートである。
【図7】本発明の内挿装置の他の例を示すシステム構成図である。
【図8】本発明の内挿装置の更に他の例を示すシステム構成図である。
【符号の説明】
IN 入力
OUT 出力
A/D A/D変換器
IPL 内挿回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】 変位検出器から得られる少なくとも1つの周期性アナログ信号を内挿する内挿装置であって、変位検出器から供給される変位量の位置の関数として周期的に変化する振幅を有するアナログ信号をディジタル信号に変換するA/D変換手段と、該ディジタル信号の高周波成分を除去するディジタルフィルタと、該ディジタルフィルタの出力が供給される内挿手段と、を備えた内挿装置。
【請求項2】 請求項1に記載の内挿装置において、ディジタルフィルタをマイクロコンピュータによって構成した内挿装置。
【請求項3】 請求項1に記載の内挿装置において、前記ディジタルフィルタと前記内挿回路の間にヒステリシス回路を設けた内挿装置。
【請求項4】 請求項3に記載の内挿装置において、前記ディジタルフィルタと前記ヒステリシス回路をマイクロコンピュータで構成した内挿装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図6】
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【図8】
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