説明

内歯車

【課題】歯に応力集中が生じにくく、歯全体の強度向上を図ることができる歯形形状になっている内歯車の提供を目的とする。
【解決手段】内歯車1の歯2の歯元側は、(1)歯面3に滑らかに接続され、且つ、歯面3と同方向に凸となる第1の曲面4と、(2)この第1の曲面4に接続される平面5と、(3)この平面5に滑らかに接続され、且つ、第1の曲面4と同方向に凸となる第2の曲面6と、が形成されている。そして、平面5は、その第1の曲面4側の端部を延長した仮想平面が歯形中心線13に50°の角度で交わるように形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、精密機械、産業機械、及びこれらの部品等の動力伝達機構に広く使用される内歯車に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車や精密機械等の動力伝達機構に使用される歯車には、歯の強度を高めるための様々な工夫が施されてきた。
【0003】
図8は、このような歯車100の歯形形状を示すものである。この図8に示す歯車100は、歯101の歯底側の形状が、噛み合う相手歯車(ピニオン)の歯の運動軌跡に干渉しない程度に近づけたアーチ形状の曲面102とし、30°接線法における危険断面の位置をP1からP2へと歯先側に近づけて、歯の強度が高められている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2004−519644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、図8に示す歯車100は、外歯車の歯101の強度向上を図るものであり、内歯車の歯の強度向上を目的としたものではない。
【0006】
しかも、図8に示す歯車100は、隣り合う歯101,101のアーチ状の曲面102,102が合流し、尖った三角状の頂点103が歯底に形成される。そのため、図8に示す歯車100は、歯底に応力が集中し易くなっていた。
【0007】
そこで、本発明は、歯の歯元側の形状を工夫することにより、歯に応力集中が生じにくく、歯全体の強度向上を図ることができる内歯車の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明は、内周側に複数の歯が形成された内歯車に関するものである。この発明において、前記歯の歯元側は、(1)歯面に滑らかに接続され、且つ、前記歯面と同方向に凸となる第1の曲面と、(2)この第1の曲面に接続される平面と、(3)この平面に滑らかに接続され、且つ、前記第1の曲面と同方向に凸となる第2の曲面と、が形成されたことを特徴としている。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1の発明に係る内歯車において、前記第2の曲面が、隣りの歯の前記平面にも滑らかに接続された、ことを特徴としている。
【0010】
請求項3の発明は、請求項1又は2の発明に係る内歯車の前記平面に特徴を有するものである。すなわち、本発明において、前記平面は、その第1の曲面側の端部を延長した仮想平面が歯形中心線に50°の角度で交わるように形成された、ことを特徴としている。
【0011】
請求項4の発明は、請求項1乃至3のいずれかの発明に係る内歯車の前記第1の曲面の曲率半径に特徴を有するものである。すなわち、本発明において、前記第1の曲面の曲率半径は、前記第2の曲面の曲率半径の1〜1/0.7の大きさで、且つ、噛み合う相手歯車の歯の運動軌跡に干渉しない大きさである、ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、歯に生じる応力が歯元側に広く分散して、歯に応力集中が生じにくく、歯全体の強度向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係る内歯車の歯の一部(歯直角断面)を示す図である。
【図2】図1の内歯車の歯の一部(矢印Yで示す部分)を拡大して示す図である
【図3】第1実施形態に係る歯形形状の第1形成過程を示す図(歯直角断面図)である。
【図4】第1実施形態に係る歯形形状の第2形成過程を示す図(歯直角断面図)である。
【図5】第1実施形態に係る歯形形状の第3形成過程を示す図(歯直角断面図)である。
【図6】第1実施形態に係る歯形形状の第4形成過程を示す図(歯直角断面図)である。
【図7】比較例の歯の歯直角断面図である。
【図8】従来の歯車の歯の歯直角断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき詳述する。
【0015】
図1は、本発明の実施形態に係る内歯車1の歯2の一部を拡大して示す図である。また、図2は、図1の歯2の歯元側(矢印Yで示す部分)を拡大して示す図である。なお、本実施形態において、内歯車1は、樹脂材料(PA,POM、PPS、PPA等)製のものであり、射出成形によって製造される。
【0016】
これら図1及び図2に示すように、本発明の実施形態に係る内歯車1の歯2は、インボリュート歯形Aの歯元側の形状が工夫されており、インボリュート歯形Aの歯面3に接続される第1の曲面4と、この第1の曲面4の端部から延びる平面5と、この平面5の端部に滑らかに接続され、且つ、隣り合う他の歯2の平面5の端部に滑らかに接続される第2の曲面6と、を有している。なお、図2において、S1は歯面3と第1の曲面4の一端側との接続点を示し、S2は第1の曲面4の他端側と平面5の一端側との接続点を示し、S3は平面5,5の他端側と第2の曲面6の端部との接続点を示している。
【0017】
本実施形態に係る内歯車1の歯2の歯形形状は、次のようにして決定される。
【0018】
まず、図3の歯直角断面において、インボリュート歯形Aの歯底7に接すると共に、隣り合う両歯2,2のうちの同一の歯溝8を形作る歯面3,3に接し、且つ、噛み合う相手歯車の歯の運動軌跡Bに干渉しない円弧のうちで最大の曲率半径R1の円弧(歯先から歯元へ向かう方向に凸となる円弧であって、歯面3と同方向に凸となる円弧)を求める。なお、説明の便宜上、この円弧を歯底R11とする。
【0019】
次に、図4に示すように、上記歯底R11の曲率半径R1の1〜1/0.7倍の大きさの曲率半径R2の円弧であって、歯面3に接し、且つ、噛み合う相手歯車の歯の運動軌跡Bに干渉しない円弧(歯面3と同方向に凸となる円弧)を求める。なお、説明の便宜上、この円弧を歯面R12とする。なお、噛み合う相手歯車の歯の圧力角は20°である。
【0020】
次に、図5に示すように、歯面R12に接し、且つ、歯形中心線13に対してθ=50°の角度で交わる接線14を引く。
【0021】
次に、図6に示すように、歯底R11を使用して、接線14に接する歯底R11を描画する。これにより、図2に示した内歯車1の歯2の歯形形状が完成する。ここで、歯面R12を、歯直角断面における第1の曲面4の形状とする。また、歯底R11を、歯直角断面における第2の曲面6の形状とする。そして、接線14は、一端部が接続点S2で歯面R12に接し、他端部が接続点S3で歯底R11に接しており、第1の曲面4と第2の曲面6との間に位置する平面5の歯直角断面の形状を表している(図2参照)。なお、平面5は、その第1の曲面4側の端部を延長した仮想平面が歯形中心線13に対して50°の角度で交わるようになっている(図5参照)。また、図6において、歯面3と歯面R12とが接続点S1で接している。
【0022】
表1は、図7に示した歯2(ここでは参考例の歯とする)の歯元側のミーゼス応力値と、図2に示した本実施形態の歯2の歯元側の応力値(第1の曲面4のミーゼス応力値、平面5のミーゼス応力値、及び第2の曲面6のミーゼス応力値)と、を対比して示すものである。なお、図7に示した参考例は、従来から一般的に使用される内歯車のうちで、歯底に応力集中しないようにして、歯2の歯底の隅肉Rを最大にしたものであり、歯2,2間の歯溝8の歯底形状が歯底R11で描画される円弧形状となっている(図3参照)。また、参考例の歯2及び本実施形態の歯2は、歯元側の形状を除き、歯車諸元が共通している。また、この表1に示した各数値は、シミュレーション解析(2次元線形解析(CAE))によるミーゼス応力値を示すものである。
【0023】
【表1】

【0024】
この表1に示すように、本実施形態の歯2は、第1の曲面4、平面5、及び第2の曲面6の各部分に応力が分散し、各部分のミーゼス応力値が比較例の歯2のミーゼス応力値よりも小さく、少なくともミーゼス応力値を比較例の歯2のミーゼス応力値よりも約12%低減できる。
【0025】
以上のように、本実施形態に係る内歯車1の歯形形状によれば、歯2に応力集中が生じにくく、歯2の全体の強度を容易に向上させることができる。また、本実施形態の歯形形状の内歯車1は、参考例の歯2の歯形形状を採用した場合に比較し、歯2に生じる最大応力値を低減することができる。
【0026】
(本実施形態の変形例)
表2は、本実施形態の接線14の角度θを50°に代え、接線14の各度θを45°,55°,60°,65°とした場合のミーゼス応力値を示すものである。この表2に示すように、各接線14の角度の歯形形状の歯2は、比較例の歯2のミーゼス応力値が35.5(MPa)であるのに対し(表1参照)、ミーゼス応力値を小さくすることができる。したがって、内歯車1の歯2は、接線14の角度θを45°〜65°の範囲で適宜変更してもよい。
【0027】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明に係る内歯車の歯形形状は、平歯車、はすば歯車の歯形形状として広く適用できる。なお、本発明に係る内歯車の歯形形状は、樹脂材料で形成された内歯車に限定されるものではなく、金属製の内歯車、焼結成形される内歯車に適用が可能である。
【符号の説明】
【0029】
1……内歯車、2……歯、3……歯面、4……第1の曲面、5……平面、6……第2の曲面、13……歯形中心線、B……噛み合う相手歯車の歯の運動軌跡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周側に複数の歯が形成された内歯車において、
前記歯の歯元側は、(1)歯面に滑らかに接続され、且つ、前記歯面と同方向に凸となる第1の曲面と、(2)この第1の曲面に接続される平面と、(3)この平面に滑らかに接続され、且つ、前記第1の曲面と同方向に凸となる第2の曲面と、が形成された、
ことを特徴とする内歯車。
【請求項2】
前記第2の曲面が、隣りの歯の前記平面にも滑らかに接続された、
ことを特徴とする請求項1に記載の内歯車。
【請求項3】
前記平面は、その第1の曲面側の端部を延長した仮想平面が歯形中心線に50°の角度で交わるように形成された、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の内歯車。
【請求項4】
前記第1の曲面の曲率半径は、前記第2の曲面の曲率半径の1〜1/0.7の大きさで、且つ、噛み合う相手歯車の歯の運動軌跡に干渉しない大きさである、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の内歯車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−216526(P2010−216526A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−62073(P2009−62073)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000208765)株式会社エンプラス (403)
【Fターム(参考)】