説明

内燃エンジンの潤滑用オイルに含まれる燃料を除去する方法およびこの方法を使用するエンジン

本発明は、燃料混合ガス用の吸気回路と、既燃ガス排気回路と、オイルパン(44)と、オイルパンに収容された潤滑用オイルを汲み上げる手段(48)と、を備えたエンジンブロック(10)を有する内燃エンジンの潤滑用オイルに含まれる燃料を除去する方法に関する。本発明による方法は、このオイルを汲み上げた後にオイル内で希釈された燃料を除去することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃エンジンの潤滑用オイルに含まれる燃料を除去する方法およびこの方法を使用するエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に知られているように、内燃エンジンは、エンジンブロックの下部に位置するオイルパンと、このオイルパンに収容されたオイルを汲み上げ、オイル内の不純物を除去するようにオイルをオイルフィルタを通過させるオイルポンプと、場合によっては、濾過されたこのオイルをエンジン内に戻す前に冷却するオイルラジエータとを備えている閉じた潤滑回路を有する。
【0003】
潤滑用オイルの主な目的は、エンジンの2つの部品の間の摩擦を最小にしたり、更にはこの摩擦を防止したりすることによって、これらの2つの部品の間の相対運動を容易にすることである。そのため、このオイルは、これらの部品の2つの表面間の直接的な接触を減少させたり防止したりするように、2つの部品間に介在する粘性膜を生成できるようにする。
【0004】
この目的は、燃料混合ガスの燃焼が起こる燃焼室がシリンダヘッドとシリンダとで区切られたエンジンのピストンにおいて特に達せられなければならない。ピストンはシリンダ内を直線往復運動で摺動し、薄いオイル膜がピストンの外側表面とシリンダの壁との間に連続して存在しなければならない。この薄いオイル膜が存在しないと、ピストンの運動はシリンダ内の摩擦によって減速し、ピストンおよびシリンダの温度が上昇することで、エンジンの不調に繋がる。この不調は、ピストンの固着、つまりシリンダ内でのピストンの固着に繋がる可能性がある。そのような固着がエンジンの突然の故障の原因となり、エンジンの修理の機会が必要になることで、修理費用の増大を招く。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
燃焼排出物の後処理を行うある種類のディーゼルエンジンでは、噴射された燃料の一部がオイル膜内で希釈されるような燃料噴射方法であるため、この問題は一層厄介である。実際にエンジンの動作サイクル中は、この燃料は、シリンダ壁の軸方向領域の大部分に在るオイル膜上に噴霧されるように燃焼室内に供給される。そして、この燃料は、希釈されてオイル膜と混合する。
【0006】
それから、燃料を含むこのオイルは、概して重力によって、ピストンの周囲に設けられたスクレーパリングの作用により、オイルパンに到達する。更に、オイルは、濾過されるように、かつ特にピストンとシリンダとの間にオイル膜を生成するように潤滑される複数の部品に向けて送り戻されるようにオイルパンから汲み上げられる。こうして、このオイル膜にはオイル膜内で更に希釈される燃料が更にまた供給される。依然として多くの燃料が希釈されているこのオイルは、オイルパンに流れ戻り、そこで新しい潤滑サイクル用のポンプに吸い込まれる。
【0007】
このようにして、ある潤滑サイクル数の後には、オイル膜がピストンとシリンダとの間に形成されないかまたは局所的にのみ形成されるかして、オイル内の燃料の希釈率がピストンの運動時に破れるようになる。そのため、2つの部品は、部分的にまたは全体的に直接接触することにより、ピストンの動きが摩擦によって減速し、ピストンの温度に加えてシリンダ壁の温度も上昇し、最終的にこのピストンの固着が引き起こされることになる。
【0008】
本発明は、潤滑用オイル内に在る燃料をエンジンに戻す前に除去することができる方法によって前述の欠点を克服することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このように、本発明は、燃料混合ガス用の吸気回路と、既燃ガス排気回路と、オイルパンと、オイルパンに収容された潤滑用オイルを汲み上げる手段と、を備えたエンジンブロックを有する内燃エンジンの潤滑用オイルに含まれる燃料を除去する方法において、オイルを汲み上げた後にオイル内で希釈された燃料を除去することを特徴とする方法に関する。
【0010】
本方法は、オイルからの分離によって燃料を除去することが可能であることが有利である。
【0011】
本方法は、オイルに含まれる燃料を蒸発させるようにオイルを加熱することによって燃料を除去することが可能である。
【0012】
本方法は、オイルを断続的に加熱することが可能であることが好ましい。
【0013】
本方法は、燃料を気化させるようにオイルを150℃から350℃の範囲の温度に加熱することが可能である。
【0014】
本方法は、1/100秒から10秒の範囲の期間、オイルを加熱することが可能である。
【0015】
本方法は、前述の処理された燃料をエンジンの吸気回路に送ることが可能であることが好ましい。
【0016】
また、本方法は、前述の処理された燃料をエンジンの排気回路に送ることも可能である。
【0017】
本発明は、燃料混合ガス用の吸気回路と、既燃ガス排気回路と、オイルパンと、オイルパンに収容されたオイルを汲み上げる手段とを備えたエンジンブロックを有する内燃エンジンにおいて、オイル内で希釈された燃料を除去する手段を有することを特徴とする内燃エンジンにも関する。
【0018】
除去手段はオイルを加熱する手段を有することが可能で、この加熱手段は放射による加熱手段であることが好ましい。
【0019】
加熱手段は複数の赤外線放出器および/または複数のマイクロ波放出器を有することが可能である。
【0020】
本発明のその他の特徴および利点は、添付の1つの図面を参照して、非限定的な実施例によって示される以降の説明を読むことで明確になろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1のエンジンは、少なくとも1つのシリンダ14を有するシリンダブロック12を備えたエンジンブロック10を有し、シリンダ14内において、クランク軸22のクランクピン20に接続されているロッド18の作用の下でピストン16が直線往復運動によって摺動する。このシリンダブロックは、ピストンの上部と、ピストンに対向しているシリンダヘッドの一部と、シリンダ14の壁28と、の間で燃焼室26を区切ることが可能なシリンダヘッドブロック24を上部に有する。
【0022】
広く知られているように、シリンダヘッド24は吸気管32などの吸気手段30を有し、燃焼室26内へ向かって開口している吸気管32の開口は、吸気弁34によって制御されている。この吸気手段は、複数の吸気管に接続されている吸気マニフォールドと、吸気ラインと、場合によっては、吸気マニフォールドの上流に位置している、吸入される空気を圧縮するターボ圧縮機などの手段とを一般に有するエンジンの吸気回路(不図示)に属している。このシリンダヘッドは、排気管38と排気弁40とを備えた既燃ガス排気手段36も有する。この排気手段は、複数の排気管に接続されている排気マニフォールドと、触媒などの排気後処理手段を有することが可能な排気ラインとを有する既燃ガス排気回路(不図示)にも属している。直噴エンジンを例として示す図1の場合には、シリンダヘッドは、燃料混合ガスを発生させるように燃料を燃焼室26内に供給可能な燃料噴射ノズル42も有する。
【0023】
エンジンブロックの下部は、クランク軸22を部分的に収容しているクランクケースと呼ばれるハウジング44を有し、ハウジング44の機能の一つは、エンジン潤滑用オイル46を回収する容器として使用することである。
【0024】
この容器は、ハウジング44内に在るオイル46に浸されている吸入ライン50と、オイル濾過手段54つまりオイルフィルタに接続されている排出ライン52とを備えたオイルポンプ48を有する。このオイルフィルタは、このオイルを濾過後に冷却する装置(不図示)に付随させることもできる。このフィルタの出口56は、このオイルに含まれる燃料を除去する手段58に接続されている。この除去は、燃料をオイルから気化作用によって分離することで達せられる。この除去手段58は、精製されたオイル、つまり燃料が含まれておらず、濾過されており、場合によっては冷却されているオイルを、種々の可動部品を潤滑するようにエンジンブロックに再導入することができるオイル出口60と呼ばれる第1の出口を有する。除去手段58の燃料出口62と呼ばれる他の出口によって、気化した燃料をキャニスタータイプの燃料蒸気処理および格納装置に送るか、この処理された燃料を(図1に示すような)吸気管32や吸気マニフォールドまたはターボ圧縮機の上流の吸気ラインなどの吸気回路に再導入するかのいずれかが可能になる。
【0025】
その代わりに、気化した燃料を排気回路、より具体的には排気後処理手段の上流の排気ラインに供給することもできる。
【0026】
例として、除去手段58は、フィルタから来るオイルを加熱する手段66を含むハウジング64を有する。この加熱手段によって、このオイルに含まれる燃料を気化させるように、このオイルの不連続な放射加熱が可能になる。赤外線放出器やマイクロ波放出器などのこれらの加熱手段によって、以降でフラッシュと呼ぶ非常に短時間の間の大量のエネルギーの放出が可能となる。実際に、不連続なエネルギーの供給によって、過度にエネルギー消費することなく高温を得ることができる。更に、これらの放射加熱手段によって、複数の高温地点とオイルとの接触が回避できることで、オイルの酸化が防止される。
【0027】
出願人は、実地試験時に、ディーゼルタイプのエンジンについて、燃料を含むオイルをフラッシュのたびに150℃から350℃の範囲、好ましくは320℃付近の温度にすることができると仮定した。この温度の上昇によって、このオイルの物理化学的特性を変化させずに、このオイル内で希釈された燃料の気化が可能になる。フラッシュの継続期間およびフラッシュの間隔は、オイル内での燃料の希釈率と、供給量の処理に用いられる条件とによって定まる。これにより、継続期間とフラッシュ頻度とを選択することによって、使用されるエネルギーとフラッシュ毎に処理される潤滑用オイルの質量とを定めることができた。フラッシュ継続期間は1/100秒から10秒の間の範囲であることが有利であり、フラッシュの間隔は約6秒とすることが可能で、これは600秒を超えてもよい。
【0028】
従って、オイル内での燃料の希釈率が5から10%のオイルの例では、以下の表によって、オイルパン内に収容されている潤滑用オイルの総量に対する処理される潤滑用オイルのパーセント(処理される供給量%)と、様々なフラッシュ継続期間(0.01秒から1秒)に対する使用されるエネルギーと、フラッシュ間の6秒から600秒までの様々な間隔とが得られる。
【0029】
【表1】

【0030】
動作中、燃料が希釈されたオイル46はクランクケース44内に在る。このオイルは、ポンプ48によって吸入管50を通して吸入され、それから排出管52を通してフィルタ54に送られる。フィルタの出口で、オイルは、ディーゼルエンジンの場合150℃から350℃の範囲、好ましくは320℃の温度に加熱される燃料除去手段に入る。この温度は、分離によって除去するこの手段に含まれる放射加熱手段(複数の赤外線放出器またはマイクロ波放出器)によって実現される1つ以上のエネルギーフラッシュによって得られる。例えば、これらのフラッシュは、各フラッシュの間隔が非常に短く(約6秒)、1/100秒オーダーの非常に短い期間持続する。この突然で断続的な加熱が、オイルに含まれる燃料の気化と、オイルからの分離と、吸気管32の出口62を通した蒸気形態での排出とを引き起こす。そして、燃料が含まれていないオイルは、エンジンの種々の可動部品の潤滑が継続できるように、出口60を通してエンジンブロックに送られる。
【0031】
もちろん、本発明の範囲から逸脱することなく、分離によって除去する手段を使用した、オイル内に在る燃料の気化の動作は、各エンジン運転サイクルに関しての、およびその運転時間を通した永続的な動作、または、例えば、エンジンがある時間数運転された後の所定の期間の間の周期的な動作のいずれであってもよい。
【0032】
本発明は、前述の実施形態の実施例には限定されず、任意の変形例および均等物を包含する。
【0033】
特に、燃料が含まれていないオイルを、除去手段の出口位置でエンジンブロック内に供給する前にオイルの動作温度に到達するように再度冷却することが考慮できる。濾過後に最初に行われるオイルの冷却動作なしに、燃料の除去後に1回のオイル冷却動作を実施することも考慮できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の方法を使用した内燃エンジンを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料混合ガス用の吸気回路と、既燃ガス排気回路と、オイルパン(44)と、該オイルパン(44)に収容された潤滑用オイルを汲み上げる手段(48)と、を備えたエンジンブロック(10)を有する内燃エンジンの潤滑用オイルに含まれる燃料を除去する方法において、
前記オイルを汲み上げた後に該オイル内で希釈された前記燃料を除去することを特徴とする、
方法。
【請求項2】
前記オイルからの分離によって前記燃料を除去することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記オイルに含まれる前記燃料を蒸発させるように該オイルを加熱することによって該燃料を除去することを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記オイルを断続的に加熱することを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記燃料を気化させるように前記オイルを150℃から350℃の範囲の温度に加熱することを特徴とする、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
1/100秒から10秒の範囲の期間、前記オイルを加熱することを特徴とする、請求項3から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
処理された前記燃料を前記エンジンの前記吸気回路に送ることを特徴とする、請求項2から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
処理された前記燃料を前記エンジンの前記排気回路に送ることを特徴とする、請求項2から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
燃料混合ガス用の吸気回路と、既燃ガス排気回路と、オイルパン(44)と、該オイルパン(44)に収容されたオイルを汲み上げる手段(48)と、を備えたエンジンブロック(10)を有する内燃エンジンにおいて、
前記オイル内で希釈された燃料を除去する手段(58)を有することを特徴とする、
内燃エンジン。
【請求項10】
前記除去手段(58)は、前記オイルを加熱する手段を有することを特徴とする、請求項9に記載の内燃エンジン。
【請求項11】
前記加熱手段は、複数の赤外線放出器(66)を有することを特徴とする、請求項10に記載の内燃エンジン。
【請求項12】
前記加熱手段は、複数のマイクロ波放出器(66)を有することを特徴とする、請求項10に記載の内燃エンジン。

【図1】
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【公表番号】特表2009−511814(P2009−511814A)
【公表日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−535061(P2008−535061)
【出願日】平成18年10月11日(2006.10.11)
【国際出願番号】PCT/FR2006/002292
【国際公開番号】WO2007/042675
【国際公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【出願人】(591007826)イエフペ (261)
【Fターム(参考)】