説明

内燃機関のアクチュエータの位置を特徴付けるパラメータの実際値を調節する方法

【課題】帯域幅、安定性、精度、及び堅牢性に関して制御を最適化することが可能な、アクチュエータの位置を特徴付けるパラメータの実際値を、制御器を用いて目標値に調節する方法が提供する。
【解決手段】アクチュエータ(1)の位置を特徴付けるパラメータの実際値を、制御器(11)を用いて目標値に調節するための方法において、予め定められた目標値の時間的変化が実際値の望ましい時間的変化へと変換される。第一の伝達関数は、周波数範囲の中で予め定められた目標値の時間的変化を実際値の望ましい時間的変化へ変換するために作られ、且つ一つ又は複数の因数、とりわけ遅延要素によって近似される。それ等の因数の少なくとも一つについては、非整数の冪指数が選ばれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクチュエータの位置を特徴付けるパラメータの実際値を調節する方法、コンピュータプログラム製品、コンピュータプログラム、及び独立の請求項の上位概念に基づく記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
アクチュエータの位置を特徴付けるパラメータの実際値を、制御器を用いて目標値に調節するための方法は既に十分知られている。その際、予め定められた目標値の時間的変化を実際値の望ましい時間的変化へと変換することも知られており、その際には、伝達関数が周波数範囲の中で予め定められた目標値の時間的変化を実際値の望ましい時間的変化へ変換するために作られ、且つ一つ又は複数の因数によって近似される。その際、それ等の因数は、通常は整数次の、即ち整数冪指数を持つ、比例時間要素(PT;Proportional-Zeit-Glieder(proportional-time-element))である。刊行物『A.ウスタルー及びB.マチュー著:クローヌ制御、スカラーから多変量へ、エルメス社刊、1999年(La commande CRONE, du scalaire au Multivariable, A. Oustaloup und Mathieu, Hermes, 1999)』から、特に、非整数次の導関数のコンセプトを一般化した新しい数学的演算子の特性を活用するCRONE制御の利用が知られている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、帯域幅、安定性、精度、及び堅牢性に関して制御を最適化することが可能な、アクチュエータの位置を特徴付けるパラメータの実際値を、制御器を用いて目標値に調節する方法が提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明によれば、アクチュエータの位置を特徴付けるパラメータの実際値を調節するための本発明に基づく方法、本発明に基づくコンピュータプログラム製品、本発明に基づくコンピュータプログラム、及び本発明に基づく独立の諸請求項の上位概念に基づく記録媒体は、予め定められた目標値の時間的変化を実際値の望ましい時間的変化へと変換するための伝達関数の少なくとも一つの因数のために非整数の冪指数が選ばれるという利点を持っている。
【発明の効果】
【0005】
この様にすることによって、少なくとも一つの因数が非整数冪指数であるという形で、専ら整数の冪指数を持つ因数の場合よりもはるかに大きな自由度が得られる。加えて、この様にすることによって、必要な因数の数が最少化され、又これによって伝達関数に必要なパラメータの数も可能最少の値に保持することができるようになる。かくして、伝達関数の形成がより迅速に、又より少ない計算要求及びメモリスペース要求で実現可能となる。
【0006】
周波数範囲内での伝達関数の上述の様な形成或いはモデル化は、少なくとも一つの因数が非整数冪指数であるということによって、制御の帯域幅、安定性、精度、及び堅牢性の間における最適な妥協という形で、優れた制御性能を可能にする。更に、この伝達関数は、制御パラメータを特性マップ及び運転条件に応じて適合させることを要求しない、リニアーな(線形的)構造を持っている。最後に、制御装置の校正のために必要な時間長さが、既に述べられたパラメータ数の削減、並びに校正の際に、リニアーな制御理論の使用を可能にし、それによって繰り返され、又時間の掛かる校正テストを回避するために役立つ伝達関数のリニアーな特性により、非常に短くなる。
【0007】
複数の従属請求項に述べられている諸措置によって、主請求項に述べられている方法の有利な拡張及び改良が可能となる。
第一の伝達機能の変化が周波数範囲内で決定され、その様にして決定された第一の伝達関数が一つ又は複数の直線区間によって近似され、それ等の直線区間に対して第一の伝達関数のそれぞれの直線区間を描くそれぞれ一つの因数が決定され、その際それ等の因数の少なくとも一つが非整数の冪指数を持っていると、とりわけ有利である。
【0008】
そのために、望ましい第一の伝達機能の周波数範囲内での変化は、簡単な手法で先ず数値的に決定可能である。
望ましい第一の伝達機能の変化が、因数への特に簡単な変換を可能にするボードダイヤグラムの形で決定されることも有利である。
【0009】
予め定められた目標値の変化が、フィルタを用いて目標値の望ましい変化へ変換され、又フィルタの伝達関数としての第二の伝達関数が、近似された第一の伝達関数を、制御器とアクチュエータの伝達関数で割ることによって作られると、とりわけ有利である。このようにすることによって、望ましい第一の伝達関数が、制御器とアクチュエータの伝達特性が与えられているときに、とりわけ簡単にフィルタによって実現される。
【0010】
制御器としてCRONE制御器が用いられると、とりわけ有利である。この様にすることによって、望ましい第一の伝達関数が、少なくとも一つの因数とその非整数の冪指数とを用いて簡単に変換される。何故なら、CRONE制御器も指数が非整数である、少なくとも一つの因数を持つ伝達関数の利用を可能にしているからである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の一つの実施例が図示されており、以下の記述で詳しく説明される。
図1には、内燃機関の電子的なアクチュエータ1の位置の調節のための機能図が示されている。この電子的なアクチュエータ1は、例えば内燃機関の制御のために用いられ、例えばスロットルバルブ、排気ガス再循環弁、ウェイストゲート弁、或いは排気ガスターボチャージャーのジオメトリーを変化させるためのアクチュエータとすることができる。
【0012】
電子的なアクチュエータ1は、例えば直流モータとして作られる電動のトルク源4を含んでいる。この電動のトルク源4は出力変換器3と結合されており、この出力変換器は電動のトルク源4に入力制御信号uに従って必要な電力を供給する。出力変換器3は、例えば可変電圧/電流源として作られ、特にパルス幅変調された電圧信号或いは電流信号を出力するように設計されている。それに応じて、入力制御信号uは電圧値U、電流値I、或いはデューティー比αに対応している。電動のトルク源4は、運動伝達要素5を介して負荷6を回転運動或いは並進運動で制御する。その際、負荷6は、例えばスロットルバルブ或いは排気ガス再循環弁のフラップとすることができる。運動伝達要素5は、静摩擦、滑り摩擦及び/又はクーロン摩擦、或いは可変変速比などの、一般に可能な非直線特性を持つギヤ要素を含んでいる。運動伝達要素5はまた、電動のトルク源4からトルクを加えられていないときには、負荷6を予め定められた位置へ戻すように働く機械的バネの結節点を含むことができる。位置フィードバック装置7は負荷6と結合されており、負荷6の位置の実際値yを測定する。
【0013】
電子的なアクチュエータ1は、例えばマイクロプロセッサベースの駆動トレーン制御装置として作られている制御装置2と接続されている。制御装置2は、位置フィードバック装置7から実際値yを受取って、出力変換器3に対して入力制御信号uを送り出す。電子的なアクチュエータ1の位置を調節するために、制御装置2は、定期的に制御信号uの新しい値を、受信された実際値yと予め定められた目標値yrefとに応じて決定する位置調節アルゴリズム8を実行する。予め定められた目標値yrefは、例えばエアシステムマネージメントアルゴリズム9によって、当業者には既に知られている手法で、例えばアクセルペダル位置に応じて、定められる。エアシステムマネージメントアルゴリズム9も、図1の例によれば制御装置2に備えられている。
【0014】
位置調節アルゴリズム8とエアシステムマネージメントアルゴリズム9は、ソフトウェアとしておよび/またはハードウェアとして、制御装置2で或いはまた別の制御装置に備えられることができる。制御装置2のその他の入力パラメータ及び出力パラメータは、図1では、参照番号25又は30によって指示されている。その際、入力パラメータ25には、例えば上述のアクセルペダル位置並びに、例えば内燃機関に送り込まれるエアマス流或いは吸気管圧力に応じた、例えばエンジン回転数及びエンジン負荷などの、内燃機関のその他の運転パラメータが属している。制御装置2の出力パラメータ30は、火花点火機関の場合には、例えば点火時期の調節のためのパラメータ、或いは電子的なアクチュエータ1の上述の構成に従って実現可能な、例えば排気ガス還流弁、ウェイストゲート弁、噴射弁等の、その他の弁或いは電子的なアクチュエータの制御装置を含んでいる。
【0015】
図2によれば、位置調節アルゴリズム8は前置フィルタ12を含んでおり、このフィルタには、予め定められた目標値yrefの時間的変化が送り込まれる。前置フィルタ12は、予め定められた目標値yrefの時間的変化をフィルタ処理し、その出力端にフィルタ処理された目標値の時間的変化yfilterを出力する。次いで、結節点35で、フィルタ処理された目標値の時間的変化yfilterから、実際値の時間的変化yを引くことによって、制御偏差εが形成される。次いで、この制御偏差εは制御器11へ送られ、この制御器が、制御偏差εに応じて制御偏差εが最小となるように制御信号uを求め、電子的なアクチュエータ1に対して出力する。制御器11は、例えばP制御器、I制御器、D制御器として、PD制御器として、PID制御器として、或いは特別に有利な手法によれば、刊行物『A.ウスタルー及びB.マチュー著:クローヌ制御、スカラーから多変量へ、エルメス社刊、1999年(La commande CRONE, du scalaire au Multivariable, A. Oustaloup und Mathieu, Hermes, 1999)』に基づくCRONE制御器として作ることができ、この最後の場合には、伝達関数の少なくとも一つの因数が周波数範囲内で非整数冪指数を持っている。以下の説明では、例として、制御器11がCRONE制御器として作られているものと仮定する。
【0016】
図2に示されているような前置フィルタ12、結節点35、制御器11、及び電子的なアクチュエータ1を備えた制御器システムの実現の際には、先ず、予め定められた目標値yrefの時間的変化を実際値yの望ましい時間的変化へ変換するための、周波数範囲内での望ましい第一の伝達関数を作る。その際、そのために必要な周波数範囲内での望ましい第一の伝達関数は、例えば数値的近似法によって、それ故数学的分析的にではなく、決定することができる。その際、有利な手法によれば、望ましい第一の伝達関数の変化は、図3に例示されているようなボードダイヤグラム(Bode-Diagramm)の形で決定することができる。このダイヤグラムには、望ましい第一の伝達関数の周波数に対する振幅が描かれ、参照番号40で示されている。次いで、この例では、数値的にボードダイヤグラムを用いて求められた望ましい第一の伝達関数の周波数に対する振幅の変化が数学的関数によって近似される。この近似は、例えばPT1要素(一次の比例時間要素)を用いて図4に示されているようになるまで行われる。その際変化40は、図4に示されているように、勾配が0の第一の直線区間45と勾配がマイナスの第二の直線区間50とによって近似される。その際、第二の直線区間50のマイナスの勾配は、図4の例では、対数表示で20dB/Dekadeとなるので、望ましい第一の伝達関数は、数学的分析的近似によれば、次のようなPT1要素の伝達関数によって描くことができる。
【0017】
【数1】

【0018】
式(1)で、sは周波数範囲内でのラプラス変数(Laplace-Variable)、ωl1は周波数範囲内で第二の直線区間50が始まる下側の限界周波数を示している。
図5に基づいて、望ましい伝達関数を数学的分析的にn次(nは整数とする)の複数のPT要素の伝達関数の積によって近似すれば、変化40のより良い近似が得られる。そこで、例えば図5の例では、変化40は、勾配が0の三つの直線区間と異なるマイナスの勾配を持つ三つの直線区間によって近似されている。図5には、図4に基づいてPT1要素を用いて行われた近似が、破線で示されている。異なるマイナスの勾配を持つ複数の直線区間を使用することによって、変化40は、図4によるPT1要素だけを使用した場合よりも、より良く近似される。マイナスの勾配を持つ第一の直線区間は、図5では参照番号55で、マイナスの勾配を持つ第二の直線区間は参照番号60で、またマイナスの勾配を持つ第三の直線区間は参照番号65で示されている。第一の直線区間55は、対数表示で20dB/Dekadeのマイナスの勾配を持っている。第二の直線区間60は対数表示で40dB/Dekadeのマイナスの勾配を持っている。第三の直線区間65は、対数表示で20dB/Dekadeのマイナスの勾配を持っている。かくして、第一の直線区間55と第三の直線区間65は、それぞれPT1要素によって数学的分析的に描くことができるのに対して、第二の直線区間60はPT2要素によって数学的分析的に描くことができる。かくして、図5に基づく変化40の数学的分析的に近似された伝達関数については、次式が成り立つ。
【0019】
【数2】

【0020】
ここで、Kは式(2)の中の因数の数であり、この例の場合に、K=3である。nはそれぞれの因数の整数の次数である。
その際、ωl1は第一の直線区間55の下側の限界周波数であり、ωh1は第一の直線区間55の上側の限界周波数である。ωl2は第二の直線区間60の下側の限界周波数であり、ωh2は第二の直線区間605の上側の限界周波数である。ωl3は第三の直線区間65の下側の限界周波数であり、ωh3は第三の直線区間65の上側の限界周波数である。
【0021】
図4及び図5から、数学的分析的に近似された伝達関数HPT1或いはHPTnの整数の冪指数を持つ因数では、指数表示で20dB/Dekadeの値の整数の倍勾配を持つ直線区間しか得られないということが分かる。数学的分析的近似が変化40に対して近くなればなる程、ますます多くのPTn要素が必要となる。
【0022】
それ故、本発明によれば、図6に示されているように、変化40を勾配0の直線区間の他に更に、変化40を可能最大限に模倣する、マイナスの勾配を持つ二つの直線区間を用いて近似することが提案される。この近似は、図5に基づく近似よりも優れている上に、より少ない直線区間しか持っていない。その原因は、マイナスの勾配を持つ直線区間15、20がそれぞれ、20dB/Dekadeの整数倍ではない勾配の値を持っていることにある。それに応じて、図6に基づく、数学的分析的に近似された望ましい第一の伝達関数の因数についても非整数の冪指数となる。それどころかそれ等の冪指数は、それぞれ必ずしも整数ではない、有理数を取ることができる。かくして、例えば図6の例では、望ましい伝達関数の数学的分析的近似として、次式が得られる。
【0023】
【数3】

【0024】
ここで、Kは式(3)の因数の数であり、従ってK=2である。nはそれぞれの因数の有理数から成る次数である。ωl1は図6に基づく変化40の近似のためのマイナスの勾配を持つ第一の直線区間15の下側の限界周波数であり、ωh1は第一の直線区間15の上側の限界周波数である。ωl2は図6に基づく変化40の近似のためのマイナスの勾配を持つ第二の直線区間20の下側の限界周波数であり、ωh2は第二の直線区間20の上側の限界周波数である。
【0025】
かくして、式(3)の中の冪指数nを持つ因数は、第一の直線区間15に割り当てられ、冪指数nを持つ因数は、第二の直線区間20に割り当てられる。冪指数nと割り当てられた指数表示の直線区間の勾配との間には直線的関係が存在している。そこで、例えば割り当てられた直線区間のマイナスの勾配の値が10dB/Dekadeであれば、n=0.5となる。冪指数nは、割り当てられた直線区間のマイナスの勾配の値が5dB/Dekadeであれば、0.25となる。冪指数nは、割り当てられた直線区間のマイナスの勾配の値が15dB/Dekadeであれば、0.75となる。直線区間のマイナスの勾配の値の20dB/Dekadeの整数倍は、図4及び図5の場合と同様、それぞれ整数の冪指数によって表される。従って、HPTfractionalは、予め定められた目標値yrefの時間的変化と実際値yの望ましい時間的変化との間での望ましい第一の伝達関数の数学的分析的接近である。関数HPTfractionalは、図4及び図5による関数HPTn及び関数HPT1と比較すると、望ましい変化40にはるかに近く、しかも少なくとも関数HPT1と比べてはるかに少ないパラメータしか必要としない。関数HPTfractionalの中では必ずしも整数ではない有理数の冪指数を持つ比例時間要素を使用することによって、専ら整数の冪指数を持つあらゆる任意の関数HPTnと比較して無限に大きな自由度が得られる。更に、関数HPTfractionalは、望ましい変化40に対して同じ程度に近接させた場合に、整数のみの冪指数を用いた数学的分析的伝達関数よりも、はるかに少ない因数の数Kで、従ってはるかに少ない数のパラメータn、ωlk、及びωhk(k=1、…、K)で済ませることができる。
【0026】
式(3)に基づく数学的分析的伝達関数HPTfractionalのパラメータn、ωlk、及びωhk(k=1、…、K)は、既に述べられたように、周波数範囲内で図6に基づくボードダイヤグラムを用いて決定される。しかしながら、図2に示されている制御システム全体の物理的限界条件に応じて、パラメータn、ωlk、および/またはωhkは、更に変更されなければならない。それ等の物理的限界条件には、例えば電気的なトルク源4の制御のための最大許容電圧或いは最大許容電流の限界値が含まれることがある。そこでパラメータn、ωlk、および/またはωhkは、特に制御システムの出力及び堅牢性に関する物理的限界条件を満たすことができるようにするために、場合によっては、周波数範囲内での電子的なアクチュエータ1の物理的特性に応じて更に変更されなければならない。
【0027】
このため、場合によっては、式(3)に基づく数学的分析的関数による変化40の近似の精度が犠牲となることがある。式(3)によって数学的分析的に望ましい第一の伝達関数の変化に近似された伝達関数は、ゼロでない勾配を持つ幾つの直線区間が変化40の近似のために用いられるかに応じて、一つまたは複数の因数を持つことがあり、その際、式の中のKは、この直線区間の数を示しており、従って1よりも大きいか又は1に等しい整数の値を取ることができる。その際、本発明によれば、数学的分析的に得られた式(3)に基づく伝達関数HPTfractionalは、非整数の冪指数を持つ少なくとも一つの因数を含んでいる。
【0028】
次に、前置フィルタ12の寸法決定について論じる。そのために先ず、前置フィルタ12の伝達関数が定められるが、この伝達関数は、以下の説明では第二の伝達関数とも呼ばれている。この伝達関数は、予め定められた目標値yrefの時間的変化を、目標値の望ましいフィルタ処理された時間的変化yfilterへ変換する。式(3)に基づく伝達関数HPTfractionalから第二の伝達関数Ffractionalが、次のように得られる。
【0029】
【数4】

【0030】
ここで、Tは周波数範囲内での制御器11と電子的なアクチュエータ1の伝達関数であり、当業者には既に知られている手法で求められる。かくして、式(4)に基づくFfractionalは、周波数範囲内での前置フィルタ12の伝達関数となる。次いで、第二の伝達関数Ffractionalが当業者には既に知られている手法で時間領域内へ逆変換され、制御装置2の制御装置プログラムでの実行のために、次式に基づいて時間領域の中での時間離散的伝達関数FZ(z)に変換される。
【0031】
【数5】

【0032】
ここで、zは離散的時間変数であり、a、b、Nden 、Nnumは上述の変換によって生まれた時間離散的伝達関数FZ(z)のパラメータである。式(4)に基づく第二の伝達関数Ffractionalから、式(5)に基づく時間離散的伝達関数FZ(z)への上述の逆変換は、必ずしも常に数学的分析的に可能である訳ではなく、場合によっては、この逆変換のために、当業者には既に知られている手法で、ボードダイヤグラムによって周波数範囲内で実行することのできる近似的解が発見されなければならない。
【0033】
式(3)に基づく伝達関数HPTfractionalの少なくとも一つの因数が非整数の冪指数を持っているという本発明に基づくケースでは、通常、式(4)に基づく第二の伝達関数Ffractionalもまた、少なくとも一つの非整数の冪指数を持つ因数を持っている。更に、制御器がCRONE制御器として作られていて、その第三の伝達関数と呼ばれる伝達関数もまた少なくとも一つの非整数の冪指数を持つ因数を持っていると、図2に示されている制御システムは、最大可能の帯域幅、安定性、精度、及び堅牢性に関する最小数のパラメータしか用いなくとも、最大の自由度をもって、最適に且つ可能最小の時間及び記憶スペース要求で調節される。
【0034】
図7には、本発明に基づく方法のフローの一例を示している流れ図が示されている。プログラムのスタートの後、プログラムポイント100で、上述のように、周波数範囲内での望ましい第一の伝達関数の変化が、例としてボードダイヤグラムを用い且つ目標値yrefの予め定められた時間的変化を実際値yの望ましい時間的変化へと変換するという条件による数値近似によって求められる。次いで、プログラムポイント105へ分岐される。
【0035】
プログラムポイント105では、図6で述べられた手法に従って、周波数範囲内での伝達関数の振幅の望ましい変化40から、式(3)に従って数学的分析的伝達関数HPTfractionalが求められる。
【0036】
次いで、プログラムポイント110へ分岐される。
プログラムポイント110では、伝達関数HPTfractionalと、当業者には既に知られている手法で求められた制御器11と式(4)に基づいて、電子的なアクチュエータ1の伝達関数Tとから、第二の伝達関数Ffractionalが求められる。次いで、プログラムポイント115へ分岐される。
【0037】
プログラムポイント115では、式(4)の第二の伝達関数Ffractionalが既に述べられたように、場合によっては、周波数範囲内でのボードダイヤグラムを利用した近似によって、式(5)に基づく時間離散の伝達関数F(z)へ変換される。この伝達関数F(z)は、制御装置2の制御装置プログラムでソフトウェア及び/又はハードウェアによって実行可能である。
【0038】
次いで、プログラムは終了される。
本発明に基づく方法のフローは、例えばプログラムコード制御され、コンピュータプログラムを用いて実行可能であり、その際そのコンピュータプログラムは、例えば制御装置2のマイクロプロセッサのようなコンピュータで実行されると、図7に基づく流れ図の全てのステップを実行する。この目的のために、プログラムコードはまた、機械読み取り可能な担体或いは記録媒体に記録され、それによってコンピュータプログラム製品となることができる。その際、機械読み取り可能な担体或いは記録媒体は、制御装置2の中に固定配置されるか、或いはプログラムコードの全てのステップの読取り及び実行のために制御装置のドライブを用いて外部からアクセスすることができる。
【0039】
本発明に基づく方法は、例えば内燃機関の制御装置、例えば火花点火機関或いはディーゼルエンジンの制御装置で用いることができる。
本発明の基礎となっている分数微分の原理は、フランス知的所有権局でボルドー国立電子、情報、無線通信高等学院(ENSEIRB)の下記の著作権によって保護されている。
1978年12月14日の第78.357.28号
1990年03月30日の第90.046.13号
1996年08月28日の第96.640.468号。
【0040】
更に、フランスプログラム保護機関(APP)に登録されている、ENSEIRBの次の著作権によって保護されている。
1993年07月28日の第93.30.006.00号
(IDDN.FR.001.300006.00. R.P.1993.000.000000)
1994年03月16日の第94.11.015.00号(IDDN.FR.001.110015.00. R.P.1994.000.00000)
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】制御セクションのブロック図である。
【図2】前置フィルタ付きの制御システム全体のブロック図である。
【図3】周波数範囲内の伝達機能の振幅の望ましい変化のボードダイヤグラム(Bode-Diagramm)である。
【図4】PT1要素による図3の望ましい変化の近似を示す。
【図5】複数のPTn要素による図3の伝達関数の望ましい変化の近似を示す。
【図6】非整数冪指数を持つ二つのPT要素による図3の伝達関数の望ましい変化の近似を示す。
【図7】本発明に基づく方法のフローの一例を示している流れ図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め定められた目標値の時間的変化が実際値の望ましい時間的変化へと変換され、第一の伝達関数が周波数範囲の中で予め定められた目標値の時間的変化を実際値の望ましい時間的変化へ変換するために作られ、且つ一つ又は複数の因数、とりわけ比例時間要素によって近似される、アクチュエータ(1)の位置を特徴付けるパラメータの実際値を、制御器(11)を用いて目標値に調節する方法において、
前記因数の少なくとも一つについて非整数の冪指数が選ばれることを特徴とする方法。
【請求項2】
第一の伝達機能の変化が、周波数範囲内で決定されること、
決定された第一の伝達関数が、一つ又は複数の直線区間(15、20)によって近似され、それ等の直線区間に対して第一の伝達関数のそれぞれの直線区間(15、20)を描くそれぞれ一つの因数が決定され、それ等の因数の少なくとも一つが非整数の冪指数を持っていること、
を特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第一の伝達機能の変化が、周波数範囲内で数値的に決定されることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
第一の伝達機能の変化が、ボードダイヤグラムの形で決定されることを特徴とする請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
予め定められた目標値の変化が、フィルタ(12)を用いて目標値の望ましい変化へ変換されること、及び
フィルタ(12)の伝達関数としての第二の伝達関数が、近似された第一の伝達関数を制御器(11)及びアクチュエータ(1)の伝達関数で割ることによって作られること、
を特徴とする請求項1ないし4の何れかに記載の方法。
【請求項6】
制御器(11)として、CRONE制御器が用いられることを特徴とする請求項1ないし5の何れかに記載の方法。
【請求項7】
CRONE制御器(11)の伝達関数としての第三の伝達関数が、非整数の冪指数を持つ少なくとも一つの因数を用いて選ばれることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
プログラムがコンピュータの上で実行される時に、請求項1ないし7の何れかに記載の方法を実施するための、機械読み取り可能な媒体に格納されている、プログラムコード付きのコンピュータプログラム製品。
【請求項9】
コンピュータで実行されるときに、請求項1ないし7の何れかに記載の全てのステップを実行するための、プログラムコード付きのコンピュータプログラム。
【請求項10】
マイクロプロセッサで実行可能なプログラムを格納する、内燃機関の制御装置で用いるための、請求項1から7までの何れかに記載の方法に用いるための記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2009−524172(P2009−524172A)
【公表日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−551769(P2008−551769)
【出願日】平成19年1月22日(2007.1.22)
【国際出願番号】PCT/EP2007/050577
【国際公開番号】WO2007/085578
【国際公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【出願人】(591245473)ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング (591)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【Fターム(参考)】