内燃機関のクランク軸用軸受
【課題】爪と切欠の係合関係により一体的に組み合わされた半円形スラスト軸受と半円筒形すべり軸受の該係合部の変形、破損を効果的に防止できる内燃機関のクランク軸用軸受を提供する。
【解決手段】半円形スラスト軸受30の内周辺に、二つの爪34の他に少なくとも二つの衝撃荷重受突起36が突設されている。二つの衝撃荷重受突起36の各々は、二つの爪34の各々と、半円形スラスト軸受30の各円周方向端面との間にあって、しかも二つの衝撃荷重受突起36は半円形スラスト軸受30の円周方向長さを2等分する中心線に対して互いに線対称位置にある。衝撃荷重受突起36の高さは、一対の半円筒形すべり軸受20が、クランク軸の軸受ハウジング(H)内に組み付けられて拘束された静的状態で、衝撃荷重受突起36の頂部が半円筒形すべり軸受20の外周面に接しない寸法になされている。
【解決手段】半円形スラスト軸受30の内周辺に、二つの爪34の他に少なくとも二つの衝撃荷重受突起36が突設されている。二つの衝撃荷重受突起36の各々は、二つの爪34の各々と、半円形スラスト軸受30の各円周方向端面との間にあって、しかも二つの衝撃荷重受突起36は半円形スラスト軸受30の円周方向長さを2等分する中心線に対して互いに線対称位置にある。衝撃荷重受突起36の高さは、一対の半円筒形すべり軸受20が、クランク軸の軸受ハウジング(H)内に組み付けられて拘束された静的状態で、衝撃荷重受突起36の頂部が半円筒形すべり軸受20の外周面に接しない寸法になされている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のクランク軸用軸受に係り、具体的に云えば、円筒形に組み合わされるべき一対の半円筒形すべり軸受の各々に半円形スラスト軸受を組み付けて用いるクランク軸用軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関のクランク軸は、そのジャーナル部において、一対の半円筒形すべり軸受から成る主軸受を介して内燃機関のシリンダブロック下部に支持される。一対の半円筒形すべり軸受のうち、一方または両方の半円筒形すべり軸受は、半円形スラスト軸受と組み合せて用いられる。半円形スラスト軸受は、少なくとも一方の半円筒形すべり軸受の二つの軸線方向端面側辺(すなわち、幅方向側辺)の一方または両方に沿って鍔状をなして組み付け添設される。その組み付けは、半円形スラスト軸受の内周辺に、互いに間隔を置いて設けた少なくとも二つの爪を、半円筒形すべり軸受の軸線方向側辺に形成した複数の対応切欠(すなわち、凹所)に嵌入係合させることによって行なわれる。
【0003】
一対の半円筒形すべり軸受は、円筒形をなして分割型軸受ハウジング内に保持されるが、分割型軸受ハウジングに組み込まれる前の自由状態での半円筒形すべり軸受が、その円周方向中央領域から円周方向両端に向かって曲率半径が次第に大きくなるような形状になされる。そして、一対の半円筒形すべり軸受が分割型軸受ハウジングの軸受保持孔内に組み込まれた状態(拘束状態)で、一対の半円筒形すべり軸受の各突き合わせ端部領域が、軸受保持孔の形状に整合するように、初期半円形状(軸受ハウジング内に組み込まれる前の自由状態での形状)よりも円中心側に押圧変形せしめられた形状になる。換言すれば、組立前の分割型軸受ハウジングの各半体に対して装着された各半円筒形すべり軸受は、前記変形によって生じる自身の弾性復元力で軸受ハウジング半体に密着保持される。
【0004】
すなわち、自由状態での半円筒形すべり軸受は、円周方向中央領域と、円周方向両端領域とで曲率半径が異なっており、前者に比して後者が大である。爪と切欠(凹所)の係合関係を利用して、半円形スラスト軸受を半円筒形すべり軸受に組み付ける際、自由状態にある半円筒形すべり軸受の切欠の一側辺に対して、爪の一側辺が干渉して、半円形スラスト軸受と半円筒形すべり軸受とが機械的に結合された状態になる。故に、半円形スラスト軸受と半円筒形すべり軸受とを一体的に組み合わせた単一組立体として、分割型軸受ハウジングに対して組み付けることができる。この組み付け状態では、一対の半円筒形すべり軸受の各突き合わせ端部領域が曲率中心側に偏位する態様で、一対の半円筒形すべり軸受が軸受保持孔の形状に倣って変形し、他方、半円形スラスト軸受は、分割型軸受ハウジングの外にあって何ら変形しない。また、半円筒形すべり軸受の変形により、切欠と爪の前記干渉・結合関係が解消して、半円形スラスト軸受が、半円筒形すべり軸受に対してクランク軸の軸線方向に僅かに可動となる。この結果、内燃機関の運転時、半円形スラスト軸受のスラスト荷重受面が、クランク軸の軸線方向負荷を与えるクランク・ウェブの側面に対して平行になる自動位置づけ(アライメント)がなされる。
半円筒形すべり軸受と半円形スラスト軸受との組み合わせ関係が示されている特許文献を以下に挙げる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭47−7011号公報
【特許文献2】特開昭59−147115号公報
【特許文献3】特表平7−504017号公報
【特許文献4】WO 2009/062904 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年の趨勢として、内燃機関の高出力化が図られるとともに、内燃機関を軽量化するためにクランク軸の軸受ハウジングが低剛性化される傾向にある。これに関連して、軸受ハウジングが弾性変形し易くなり、内燃機関の運転時に、半円形スラスト軸受の爪と、半円筒形すべり軸受の切欠とが反復して干渉し、爪および切欠が変形し、または破損するという問題が生じるようになった。
【0007】
ここで、爪および切欠の破損問題について説明する。
内燃機関の運転で、クランク軸が高速回転する時には、軸受ハウジングに反復する大きな変動荷重が加わって、低剛性化された軸受ハウジングが反復弾性変形し、軸受ハウジングの軸受保持孔形状も反復変化して、分割型軸受ハウジングの組み合わせ面に沿う方向(以下、水平方向と称する。一対の半円筒形すべり軸受の組合せについても、同じく、組み合わせ面に沿う方向を水平方向と称する)の軸受保持孔径が増減を繰り返す。それに伴って、軸受ハウジングの軸受保持孔内に保持された一対の半円筒形すべり軸受の形状も反復変化する。すなわち、前記軸受保持孔の水平方向内径が増大すると、一対の半円筒形すべり軸受の水平方向外径が増大する。その結果、半円形スラスト軸受の爪と、半円筒形すべり軸受の切欠の側辺同士が衝突し、強く干渉する。この衝突、干渉の反復により、爪と切欠の変形、破損が生じる。
【0008】
かくして、本発明の目的は、クランク軸用軸受を保持する軸受ハウジングが、内燃機関の作動の間、反復弾性変形して、軸受ハウジングに保持される一対の半円筒形すべり軸受の反復弾性変形が生じる現象に対して、爪と切欠の係合関係により一体的に組み合わされた半円形スラスト軸受と半円筒形すべり軸受の該爪と切欠の変形、破損を効果的に防止できる内燃機関のクランク軸用軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的に照らし、本発明によれば、以下の内燃機関のクランク軸用軸受が提供される。
一対の半円筒形すべり軸受を組合せて円筒形状体として用いる内燃機関のクランク軸用軸受であって、
前記一対の半円筒形すべり軸受の少なくとも一方に対して一つまたは二つの半円形スラスト軸受が組み付けられ、該一つまたは二つの半円形スラスト軸受は、前記半円筒形すべり軸受の二つの軸線方向側辺の一方または両方に沿って添設されており、
前記半円形スラスト軸受は、円周方向の両端面を有するとともに、いずれも円弧形状である外周辺と内周辺とを有し、該内周辺の円弧径が、前記半円筒形すべり軸受の外径よりも大きく、また、前記半円形スラスト軸受の前記内周辺に、半径方向内方に向かって伸張する二つの爪が円周方向で互いに離隔して突設され、該二つの爪は、前記内周辺の長さを2等分する半径方向の直線すなわち中心線に対して互いに線対称位置にあり、さらに、前記爪の各々は、前記半円形スラスト軸受の本体に連なる爪基部の、前記円周方向端面の各々から遠い側に位置する角隅部が、前記円周方向端面の各々から測定した円周角度15°〜55°の範囲に存在するように前記内周辺に突設されており、
前記少なくとも一方の半円筒形すべり軸受は、前記半円形スラスト軸受が添設される前記軸線方向側辺に沿う全円周方向長さに亘って、軸受壁厚さが軸受内周面側で部分的に薄肉化された減厚領域を有し、かつ、前記減厚領域に、円周方向で互いに離隔して、二つの切欠が形成されており、該二つの切欠は、前記半円形スラスト軸受の前記二つの爪と、それぞれ係合する関係にあり、その係合関係は、前記クランク軸用軸受がクランク軸に組み付けられて、前記一対の半円筒形すべり軸受がクランク軸の軸受ハウジングに拘束される前の自由状態時に、前記半円筒形すべり軸受の外径が円周方向中央部に比して円周方向両端部で大きくなっており、それによって前記爪の幅方向の一側辺が、前記切欠の幅方向の一側辺と互いに干渉して係合する状態にあり、また、前記一対の半円筒形すべり軸受が、クランク軸の軸受ハウジング内に組み付けられて拘束された状態では、前記半円筒形すべり軸受の外径が均一になって前記干渉、係合関係が解消され、前記爪が前記切欠内で自由な状態に置かれ、もって、前記半円形スラスト軸受がクランク軸の軸線方向で動くことができるようになされ、
前記切欠と前記爪の寸法関係が、関係式1:切欠の円周方向長さ(幅)>爪の円周方向長さ(幅)、関係式2:切欠の軸線方向幅(深さ)>爪の軸線方向幅(厚さ)を満たす前記構成になされた前記内燃機関のクランク軸用軸受において、
前記半円形スラスト軸受の前記内周辺に、前記二つの爪の他に少なくとも二つの隙間支持突起が突設され、該少なくとも二つの衝撃荷重受突起の各々は、前記二つの爪の各々と、前記半円形スラスト軸受の各円周方向端面との間にあって、しかも該二つの衝撃荷重受突起は前記半円形スラスト軸受の前記中心線に対して互いに線対称位置にあり、また、前記衝撃荷重受突起の高さは、前記一対の半円筒形すべり軸受が、クランク軸の軸受ハウジング内に組み付けられて拘束された静的状態で、前記衝撃荷重受突起の頂部が前記半円筒形すべり軸受の外周面に接しない寸法になされていることを特徴とする内燃機関のクランク軸用軸受。なお、一対の半円筒形すべり軸受のうち、一方を本発明の半円筒形すべり軸受とし、他方はスラスト軸受を添設しない半円筒形すべり軸受とし、これらを組み合わせて円筒形状として用いることもできる。
【0010】
本発明の第一実施形態によるクランク軸用軸受では、衝撃荷重受突起が、半円形スラスト軸受のスラスト荷重受面に対して後退位置にある。
【0011】
本発明の第二実施形態によるクランク軸用軸受では、爪と衝撃荷重受突起は、相互の連なりがない関係で形成される。
【0012】
本発明の第三実施形態によるクランク軸用軸受では、爪が、衝撃荷重受突起に対して、スラスト荷重受面とは反対側である半円形スラスト軸受の背面方向に偏位しており、少なくとも爪の一部は前記背面を越えて突出する。
【0013】
本発明の第四実施形態によるクランク軸用軸受では、前記二つの爪の他に、第三の爪が半円形スラスト軸受の内周辺に突設されており、該第三の爪は、二つの爪の間で、前記内周辺の長さの中央部領域に位置し、また、半円筒形すべり軸受の前記減厚領域に、前記二つの切欠の間に位置する第三の切欠が形成されており、該第三の切欠は第三の爪と係合する関係にあり、該係合関係によって、半円筒形すべり軸受に対する半円形スラスト軸受の円周方向での相対回転が阻止されるようになされる。
【0014】
本発明の第五実施形態によるクランク軸用軸受では、二つの衝撃荷重受突起の他に、更に第一および第二の隙間支持突起が、半円形スラスト軸受の内周辺に突設され、該第一および第二の隙間支持の各々は、半円形スラスト軸受の内周辺の長さを2等分する中央位置の円周角度をゼロ度とした時、該中央位置の両側で、円周角度20°の範囲を越えた位置にあり、また、前記隙間支持突起の高さは、前記一対の半円筒形すべり軸受が、クランク軸の軸受ハウジング内に組み付けられた状態で、前記隙間支持突起の頂部が前記半円筒形すべり軸受の外周面に接する寸法になされている。
【発明の効果】
【0015】
(1)本発明のクランク軸用軸受では、半円形スラスト軸受の内周辺に、二つの爪の他に少なくとも二つの衝撃荷重受突起が突設され、該少なくとも二つの衝撃荷重受突起の各々は、二つの爪の各々と、半円形スラスト軸受の各円周方向端面との間にあって、しかも該二つの衝撃荷重受突起は前記半円形スラスト軸受の中心線に対して互いに線対称位置にあり、また、衝撃荷重受突起の高さは、一対の半円筒形すべり軸受が、クランク軸の軸受ハウジング内に組み付けられて拘束された静的状態で、衝撃荷重受突起の頂部が半円筒形すべり軸受の外周面に接しない寸法になされている。したがって、クランク軸用軸受を保持する軸受ハウジングの軸受保持孔内に本発明クランク軸用軸受が組み込まれ、内燃機関の作動の間、動荷重の作用による軸受ハウジングの反復弾性変形に伴って、一対の半円筒形すべり軸受が水平方向に反復弾性変形する時、半円筒形すべり軸受の外周面が、半円形スラスト軸受の内周辺に突設された二つの衝撃荷重受突起に接触して、半円筒形すべり軸受の弾性変形が阻止される。その結果、半円形スラスト軸受の爪の、半円筒形すべり軸受の切欠内での動きが抑制され、爪の側辺と切欠の側辺との反復衝突も抑制され、爪と切欠の変形、破損を効果的に防止できる。
本発明における二つの爪の各々は、半円形スラスト軸受の本体に連なる爪基部の、半円形スラスト軸受の円周方向端面の各々から遠い側に位置する角隅部が、前記円周方向端面の各々から測定した円周角度15°〜55°の範囲に存在するように半円形スラスト軸受の内周辺に突設されている。この突設位置を限定したのは、前記角隅部が円周角度55°の位置を超えると、本発明クランク軸用軸受が軸受ハウジングに組み込まれる前の自由状態における半円筒形すべり軸受の「曲率半径が、円周方向中央領域から円周方向両端面に向かって次第に大きくなった形状」により、二つの爪と二つの切欠との係合、干渉関係が不十分で、半円筒形すべり軸受と半円形スラスト軸受との一体的な結合関係が得られないからであり、また、前記角隅部が円周角度15°未満の位置にあると、二つの衝撃荷重受突起を半円形スラスト軸受の内周辺に設けることが困難であるという理由による。
【0016】
(2)本発明の第一実施形態によるクランク軸用軸受は、衝撃荷重受突起が、半円形スラスト軸受のスラスト荷重受面に対して後退位置にあるという構成を有する。本発明のクランク軸用軸受では、半円形スラスト軸受と半円筒形すべり軸受とを一体的に組み合わせた単一組立体として、分割型軸受ハウジングに対して組み付けられるが、この組み付け状態では、一対の半円筒形すべり軸受の各突き合わせ端部領域が曲率中心側に偏位する態様で、一対の半円筒形すべり軸受が軸受保持孔の形状に倣って変形し、他方、半円形スラスト軸受は、分割型軸受ハウジングの外にあって何ら変形しない。そして、半円筒形すべり軸受の変形により、切欠と爪の前記干渉・結合関係が解消して、半円形スラスト軸受が、半円筒形すべり軸受に対してクランク軸の軸線方向に僅かに動くことができる。この結果、内燃機関の運転時、半円形スラスト軸受のスラスト荷重受面が、クランク軸の軸線方向負荷を与えるクランク・ウェブの側面に対して平行になる自動位置づけ(アライメント)がなされる。そのため、半円形スラスト軸受の衝撃荷重受突起の一面がスラスト荷重受面と面一であると、半円形スラスト軸受が半円筒形すべり軸受の軸線に対して傾いて、半円形スラスト軸受のスラスト荷重受面の外周辺部分がクランク軸の摺動面から離れる側に変位し、スラスト荷重受面の内周辺部分がクランク軸の摺動面(クランク・ウェブの側面)に接近する側に変位した状態になった場合、衝撃荷重受突起がクランク軸の摺動面と接触し、衝撃荷重受突起の表面が摩耗し、あるいは、破損する可能性がある。しかしながら、第一実施形態によるクランク軸用軸受では、前記のように、衝撃荷重受突起が、半円形スラスト軸受のスラスト荷重受面に対して後退位置にあるという構成になされているので、半円形スラスト軸受が前記のように傾斜しても、衝撃荷重受突起とクランク軸の摺動面との接触を避けることができ、したがって衝撃荷重受突起の損傷を防ぐことができる。
【0017】
(3)本発明の第二実施形態によるクランク軸用軸受における爪と衝撃荷重受突起は、相互の連なりがない関係で形成される。機関作動の間、クランク軸の動荷重による半円筒形すべり軸受の弾性変形によって、半円筒形すべり軸受の外周面が、半円形スラスト軸受の衝撃荷重受突起に当接すると、衝撃荷重受突起が弾性変形する。そのため、衝撃荷重受突起と爪とが互いに連なっていると、衝撃荷重受突起の変形が爪に及び、爪が弾性変形して、半円筒形すべり軸受の切欠から離脱し、あるいは、爪の側辺と切欠の側辺とが強く干渉して、爪と切欠の変形、損傷を惹起する危惧がある。しかしながら、本第二実施形態によれば、そのような不具合を効果的に予防できる。
【0018】
(4)本発明の第三実施形態によるクランク軸用軸受では、爪が、衝撃荷重受突起に対して、スラスト荷重受面とは反対側である半円形スラスト軸受の背面方向に偏位しており、少なくとも爪の一部が前記背面を越えて突出している。このような構成の場合も、前記第二実施形態におけると同様な作用効果を得ることができる。
(5)本発明の第四実施形態によるクランク軸用軸受では、二つの爪の他に、第三の爪が半円形スラスト軸受の内周辺に突設されており、該第三の爪は、二つの爪の間で、前記内周辺の長さの中央部領域に位置し、また、半円筒形すべり軸受の減厚領域に、二つの切欠の間に位置する第三の切欠が形成されており、該第三の切欠は第三の爪と係合する関係にあり、該係合関係によって、半円筒形すべり軸受に対する半円形スラスト軸受の円周方向での相対回転が阻止される構成になされている。このような構成を採用すれば、半円形スラスト軸受が、クランク軸の摺動面との接触関係によって、該摺動面と供回りする可能性をなくすことができる。
【0019】
(6)本発明の第五実施形態によるクランク軸用軸受では、二つの衝撃荷重受突起の他に、更に第一および第二の隙間支持突起が、半円形スラスト軸受の内周辺に突設され、該第一および第二の隙間支持突起の各々は、半円形スラスト軸受の内周辺の長さを2等分する中央位置の円周角度をゼロ度とした時、該中央位置の両側で、円周角度20°の範囲を越えた位置にある。これら第一および第二の隙間支持突起は、クランク軸用軸受を保持する軸受ハウジングの軸受保持孔内に本発明クランク軸用軸受が組み付けられて拘束された静的状態で、その先端が半円筒形すべり軸受の外周面と接する寸法になされ、半円筒形すべり軸受の外周面と半円形スラスト軸受の内周辺との間の間隙(軸受中心線に対して垂直方向の間隙)を維持するために設ける。仮に、半円筒形すべり軸受の外周面と、半円形スラスト軸受の内周辺とが接触すると、両者の干渉関係により、半円形スラスト軸受が軸線方向で拘束され、クランク軸の軸線方向負荷を与えるクランク・ウェブの側面に対して半円形スラスト軸受のスラスト荷重受面が平行になる自動位置づけ(アライメント)が行なわれなくなる。また、第一および第二の隙間支持突起を、前記中央位置の両側で、円周角度20°の範囲を越えた位置に設ける理由は、以下のとおりである。
半円筒形すべり軸受の円周方向長さを2等分する半径方向の直線すなわち中心線に対する垂直方向は、内燃機関作動時におけるクランク軸の動荷重負荷が直接作用する方向である。第一および第二の隙間支持突起を、前記中央位置の両側で、円周角度20°の範囲内に設けると、第一および第二の隙間支持突起の先端と、半円筒形すべり軸受の外周面とが強く反復接触して、両隙間支持突起が変形し、あるいは、破損する可能性がある。
なお、前記項目(3)と同様な理由で、第一および第二の隙間支持突起と第三の爪とを連続させることは避けた方がよい。また、第一および第二の隙間支持突起を設けない場合には、第三の爪に無理な力が作用するので留意すべきである。また、第一および第二の隙間支持突起のみを設けて第一および第二の衝撃荷重受突起を設けない場合、内燃機関作動の間、軸受ハウジングの弾性変形に伴って、軸受ハウジングの軸受保持孔内に保持される一対の半円筒形すべり軸受が水平方向で弾性変形して、一対の半円筒形すべり軸受の外周面が反復変位した時に、半円形スラスト軸受の爪の側辺と、半円筒形すべり軸受の切欠の側辺とが反復衝突するので、爪と切欠の変形、破損は防止できない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】互いに組合せ関係にある、本発明の第一実施例に係る半円形スラスト軸受と半円筒形すべり軸受の側面図。
【図2】図1に示す半円形スラスト軸受の側面図。
【図3】図1に示す半円筒形すべり軸受の側面図。
【図4】図1および図3に示す半円筒形すべり軸受のA方向矢視図。
【図5】本発明軸受が軸受ハウジングに組み込まれて半円筒形すべり軸受が拘束された状態にある軸受要部を示す図。
【図6】図1におけるVI−VI線截断図。
【図7】機関作動時において、半円筒形すべり軸受が弾性変形して、半円筒形すべり軸受の外周面が半円形スラスト軸受衝撃荷重受突起に接触した状態を示す図5対応図。
【図8】図5におけるVIII−VIII線截断図。
【図9】図7におけるIX−IX線截断図。
【図10】互いに組合せ関係にある、本発明の第二実施例に係る半円形スラスト軸受と半円筒形すべり軸受の側面図。
【図11】図10に示す半円形スラスト軸受の側面図。
【図12】図10に示す半円筒形すべり軸受のA方向矢視図。
【図13】図11の要部拡大図。
【図14】図6に示す半円形スラスト軸受の変形例。
【図15】図10、図11に示す半円形スラスト軸受の変形例としての半円形スラスト軸受の一部を示す図。
【図16】図15におけるB方向矢視図。
【図17】図10、図11に示す半円形スラスト軸受の変形例としての半円形スラスト軸受の一部を示す図。
【実施例】
【0021】
以下、添付図面を見ながら本発明の実施例について説明する。
図1は、本発明の第一実施例に係る内燃機関のクランク軸用軸受の半体10を示し、該半体10は、互いに組合せ関係にある半円筒形すべり軸受20と半円形スラスト軸受30とから成る。半円形スラスト軸受30は、半円筒形すべり軸受20の両端面22(すなわち、軸線方向または幅方向の両端)に沿って、一対の鍔状をなして添設される(ただし、図面では、一方の半円形スラスト軸受30のみが見える)。なお、本実施例では、半円筒形すべり軸受20に対して一対の半円形スラスト軸受30を付設する構成を採用したが、半円筒形すべり軸受に対して単一の半円形スラスト軸受を付設する場合もある。
半円形スラスト軸受30は、スラスト軸受本体32と、スラスト軸受本体32の内周辺に突設された二つの爪34と、二つの衝撃荷重受突起36から成る。二つの爪34の各々は、半円形スラスト軸受本体32に連なる爪基部の、半円形スラスト軸受円周方向端面の各々から遠い側に位置する角隅部34aが、前記円周方向端面32aの各々から測定した円周角θ1=15°〜55°の範囲に存在するようにスラスト軸受本体32の内周辺に突設されている。二つの衝撃荷重受突起36は、スラスト軸受本体32の各円周方向端面から爪34に隣接する位置まで延在して、スラスト軸受本体32の内周辺に突設されており、それらの高さは爪34の高さよりも小さく、機関作動時にクランク軸の動荷重が軸受に作用する時以外、衝撃荷重受突起36の先端が、半円筒形すべり軸受20の外周面から離れている(図5)。
半円筒形すべり軸受20は、その両端面22の各々に、二つの切欠24が形成されている。二つの切欠24と二つの爪34とは互いに係合する関係にある(図1)。半円筒形すべり軸受20は、半円形スラスト軸受30が添設される軸線方向端面22に沿う全円周方向長さに亘って、軸受壁厚さが軸受内周面側で部分的に薄肉化された減厚領域20aを有し、この減厚領域20aに、円周方向で互いに離隔して、二つの切欠24が形成されている。
【0022】
図1は、軸受半体10が軸受ハウジングHに組み付けられる前の自由状態を示しており、爪34の側辺34bが、切欠24の側辺24aに干渉、接触している。この干渉、接触関係は、半円筒形すべり軸受20の自由状態での非円形形状によって得られる。図5は、軸受半体10が軸受ハウジングHに組み付けられた拘束状態を示しており、爪34の側辺34bが、切欠24の側辺24aから離れている。
【0023】
軸受半体10の作用
図1に示す軸受半体10は、爪34の側辺34bが、切欠24の側辺24aに干渉、接触して、半円筒形すべり軸受20と、半円形スラスト軸受30とが一体的に組み合わされた単一組立体として、分割型軸受ハウジングHに組み付けることができる。概ね楕円形状をなして組み合わされた一対の半円筒形すべり軸受20が分割型軸受ハウジングHに組み込まれると、一対の半円筒形すべり軸受20が分割型軸受ハウジングHの円形軸受保持孔に拘束されて、一対の半円筒形すべり軸受20の初期形状(概ね楕円形状)から円形形状に強制的に変形せしめられ、その結果、爪34と切欠24の干渉、接触関係が解消され、爪34の側辺34bが切欠24の側辺24aから離れる(図5)。なお、軸受半体10を分割型軸受ハウジングHに組み込んだ時、半円形スラスト軸受30は、分割型軸受ハウジングHによる拘束を受けない。これは、図6で判るように、半円形スラスト軸受30が分割型軸受ハウジングHの側面に沿っており、半円筒形すべり軸受20の減厚領域20aが分割型軸受ハウジングHの外に突出し、減厚領域20aに形成された切欠24に半円形スラスト軸受30の爪34が係合する構造になされているからである。
軸受半体10が分割型軸受ハウジングHに組み込まれた前記状態では、半円形スラスト軸受30が、半円筒形すべり軸受20に対してクランク軸の軸線方向に僅かに可動となる。この結果、内燃機関の運転時、半円形スラスト軸受30のスラスト荷重受面(潤滑油溝38を有する面)が、クランク軸の軸線方向負荷を与えるクランク・ウェブの側面に対して平行になる自動位置づけ(アライメント)がなされる。また、半円形スラスト軸受30の衝撃荷重受突起36は、半円筒形すべり軸受20の外周面に対して小間隙を置いて離隔している(図5、図8参照)。
機関作動時にあっては、分割型軸受ハウジングHがクランク軸の動荷重を受けて反復的に弾性変形し、一対の半円筒形すべり軸受20も、それらの突合せ端面26に沿う方向(すなわち、水平方向)で、拡径、縮径の弾性変形を繰り返す。一対の半円筒形すべり軸受20が、水平方向で拡径すると、その外周面が半円形スラスト軸受30の一対の衝撃荷重受突起36に当接し(図7、図9参照)、半円筒形すべり軸受20の過度の拡径が防止される。故に、半円形スラスト軸受30の爪34が、その側辺34bで、切欠24の側辺24aと衝接するという従来軸受の有する不具合を首尾よく抑制できる。
【0024】
図10は、本発明の第二実施例に係る内燃機関のクランク軸用軸受の半体40を示し、該半体40は、互いに組合せ関係にある半円筒形すべり軸受50と半円形スラスト軸受60とから成る。半円形スラスト軸受60は、半円筒形すべり軸受50の両端面52(すなわち、軸線方向または幅方向の両端)に沿って、一対の鍔状をなして添設される。
半円形スラスト軸受60は、スラスト軸受本体62と、スラスト軸受本体62の内周辺に突設された三つの爪64A,64A,64Bと、二つの衝撃荷重受突起66A,66Aと二つの隙間支持突起66B,66Bから成る(図11)。二つの爪64Aの各々は、前記第一実施例における二つの爪34と同じ条件で半円形スラスト軸受本体62の内周辺に突設されている。
【0025】
半円筒形すべり軸受50は、その両端面52の各々に、三つの切欠54,54,54Bが形成されている。三つの切欠54,54,54Bと三つの爪64A,64A,64Bとは、それぞれ互いに係合する関係にある(図10)。切欠54Bは、爪64Bとの係合によって、半円筒形すべり軸受50に対する半円形スラスト軸受60の円周方向での相対回転が阻止される構成になされている。このような構成を採用すれば、半円形スラスト軸受60が、クランク軸の摺動面との接触関係によって、該摺動面と供回りする可能性をなくすことができる。
【0026】
また、二つの衝撃荷重受突起66Aは、第一実施例における二つの衝撃荷重受突起36に対応するが、スラスト軸受本体62の各円周方向端面から僅かに離れた位置から爪64Aに対して円周方向で僅かに離れた位置まで、半円形スラスト軸受本体62の内周辺に突設されている点で(図10、図11)、第一実施例における衝撃荷重受突起36とは異なる。なお、本実施例における衝撃荷重受突起66Aが、スラスト軸受本体62の各円周方向端面から僅かに離れた位置から爪64A方向に延在しているとおり、衝撃荷重受突起の一側辺がスラスト軸受本体の円周方向端面と一致する必要性は特にない。
【0027】
二つの隙間支持突起66Bは、クランク軸用軸受を保持する軸受ハウジングの軸受保持孔内に軸受が組み込まれた時に、その先端が半円筒形すべり軸受の外周面と接する突出高さを有し、各爪64Aと爪64Bとの間で、半円形スラスト軸受本体62の内周辺に突設されている。ただし、二つの隙間支持突起66Bは、半円形スラスト軸受本体62の円周方向長さを2等分して軸受軸心を通る直線すなわち中心線L位置の円周角度をゼロ度とした時、該中心線Lの両側で、それぞれ円周角度θ2=20°の範囲を越えた位置にあり、かつ各隙間支持突起66Bは、それぞれ爪64Aと円周方向で僅かに離れた位置にある。隙間支持突起66Bを、前記円周角度θ2=20°の範囲を越えた位置に設ける理由は、前記段落[0019]の項目(6)で説明したとおりである。
【0028】
変形例について
(1)図14に示す半円形スラスト軸受30Aは、図6に示す半円形スラスト軸受30の変形例である。図14において、半円形スラスト軸受30Aのスラスト軸受本体32Aの内周辺に突設された爪34Aは、スラスト軸受本体32Aの「軸受ハウジングと接する面」に対して、半円筒形すべり軸受20の内方(すなわち、半円筒形すべり軸受20の軸線方向で、半円形スラスト軸受30Aのスラスト荷重受面Fから離れる方向)に偏位して延在している。この偏位した形状は、衝撃荷重受突起36と爪34Aとの連なりを避けるために有利である。
【0029】
(2)図15、図16(図15におけるB方向矢視図)は、図10、図11に示す半円形スラスト軸受60の変形例としての半円形スラスト軸受60Aのスラスト軸受本体62Aを、その円周方向端面近傍のみ局部的に示している。スラスト軸受本体62Aの円周方向端面62a近傍の部分領域では、スラスト荷重受面Fから円周方向端面62aに向かって、スラスト軸受本体62Aの厚さが次第に小さくなる態様でテーパー(T)が付されている。スラスト軸受本体62Aの円周方向端面62aは、円筒形に組み合わされる一対の半円筒形すべり軸受の突合せ端面(すなわち、円周方向端面)を通る水平方向線HRに達しておらず、図1、図2、図10、図11に示す半円形スラスト軸受と対比して、スラスト軸受本体62Aの円周方向長さは、各円周方向端面62a部分で、長さS1だけ短い。また、スラスト軸受本体62Aのテーパー(T)が付された箇所で、衝撃荷重受突起66Aから円周方向端面62aに至る、スラスト軸受本体62Aの内周辺が円弧状に欠截(62b)されている。この円弧状欠截部(62b)の曲率は、スラスト軸受本体62Aの外径の曲率と同じである。
【0030】
(3)図17は、図10、図11に示す半円形スラスト軸受60の変形例としての半円形スラスト軸受60Bのスラスト軸受本体62Bを、その円周方向端面近傍のみ局部的に示している。半円形スラスト軸受60Bの特徴は、スラスト軸受本体62Bの端面近傍領域に、スラスト軸受本体62Bの外周辺よりも半径方向外方に延在する延設部62Cが形成されている点にある。延設部62Cは、図示位置に限定されるわけではなく、スラスト軸受本体62Bの外周辺の任意位置に形成してもよい。いずれの場合であっても、延設部62Cの役割は、半円形スラスト軸受60の位置決め、および回転止め機能である。
【符号の説明】
【0031】
10:クランク軸用軸受の半体
20:半円筒形すべり軸受
20a:減厚領域
22:軸線方向端面
24:切欠
24a:側辺
26:突合せ端面
30,30A:半円形スラスト軸受
32,32A:スラスト軸受本体
32a:円周方向端面
34,34A:爪
34a:角隅部
34b:側辺
36:衝撃荷重受突起
38:潤滑油溝
40:クランク軸用軸受の半体
50:半円筒形すべり軸受
52:軸線方向端面
54,54B:切欠
56:突合せ端面
60,60A,60B:半円形スラスト軸受
62,62A,62B:スラスト軸受本体
62C:延設部
62a:円周方向端面
62b:円弧状欠截部
64A,64B:爪
66A,66C:衝撃荷重受突起
66B:隙間支持突起
68:潤滑油溝
F:スラスト荷重受面
H:軸受ハウジング
HR:水平方向線
S1:長さ
T:テーパー部
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のクランク軸用軸受に係り、具体的に云えば、円筒形に組み合わされるべき一対の半円筒形すべり軸受の各々に半円形スラスト軸受を組み付けて用いるクランク軸用軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関のクランク軸は、そのジャーナル部において、一対の半円筒形すべり軸受から成る主軸受を介して内燃機関のシリンダブロック下部に支持される。一対の半円筒形すべり軸受のうち、一方または両方の半円筒形すべり軸受は、半円形スラスト軸受と組み合せて用いられる。半円形スラスト軸受は、少なくとも一方の半円筒形すべり軸受の二つの軸線方向端面側辺(すなわち、幅方向側辺)の一方または両方に沿って鍔状をなして組み付け添設される。その組み付けは、半円形スラスト軸受の内周辺に、互いに間隔を置いて設けた少なくとも二つの爪を、半円筒形すべり軸受の軸線方向側辺に形成した複数の対応切欠(すなわち、凹所)に嵌入係合させることによって行なわれる。
【0003】
一対の半円筒形すべり軸受は、円筒形をなして分割型軸受ハウジング内に保持されるが、分割型軸受ハウジングに組み込まれる前の自由状態での半円筒形すべり軸受が、その円周方向中央領域から円周方向両端に向かって曲率半径が次第に大きくなるような形状になされる。そして、一対の半円筒形すべり軸受が分割型軸受ハウジングの軸受保持孔内に組み込まれた状態(拘束状態)で、一対の半円筒形すべり軸受の各突き合わせ端部領域が、軸受保持孔の形状に整合するように、初期半円形状(軸受ハウジング内に組み込まれる前の自由状態での形状)よりも円中心側に押圧変形せしめられた形状になる。換言すれば、組立前の分割型軸受ハウジングの各半体に対して装着された各半円筒形すべり軸受は、前記変形によって生じる自身の弾性復元力で軸受ハウジング半体に密着保持される。
【0004】
すなわち、自由状態での半円筒形すべり軸受は、円周方向中央領域と、円周方向両端領域とで曲率半径が異なっており、前者に比して後者が大である。爪と切欠(凹所)の係合関係を利用して、半円形スラスト軸受を半円筒形すべり軸受に組み付ける際、自由状態にある半円筒形すべり軸受の切欠の一側辺に対して、爪の一側辺が干渉して、半円形スラスト軸受と半円筒形すべり軸受とが機械的に結合された状態になる。故に、半円形スラスト軸受と半円筒形すべり軸受とを一体的に組み合わせた単一組立体として、分割型軸受ハウジングに対して組み付けることができる。この組み付け状態では、一対の半円筒形すべり軸受の各突き合わせ端部領域が曲率中心側に偏位する態様で、一対の半円筒形すべり軸受が軸受保持孔の形状に倣って変形し、他方、半円形スラスト軸受は、分割型軸受ハウジングの外にあって何ら変形しない。また、半円筒形すべり軸受の変形により、切欠と爪の前記干渉・結合関係が解消して、半円形スラスト軸受が、半円筒形すべり軸受に対してクランク軸の軸線方向に僅かに可動となる。この結果、内燃機関の運転時、半円形スラスト軸受のスラスト荷重受面が、クランク軸の軸線方向負荷を与えるクランク・ウェブの側面に対して平行になる自動位置づけ(アライメント)がなされる。
半円筒形すべり軸受と半円形スラスト軸受との組み合わせ関係が示されている特許文献を以下に挙げる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭47−7011号公報
【特許文献2】特開昭59−147115号公報
【特許文献3】特表平7−504017号公報
【特許文献4】WO 2009/062904 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年の趨勢として、内燃機関の高出力化が図られるとともに、内燃機関を軽量化するためにクランク軸の軸受ハウジングが低剛性化される傾向にある。これに関連して、軸受ハウジングが弾性変形し易くなり、内燃機関の運転時に、半円形スラスト軸受の爪と、半円筒形すべり軸受の切欠とが反復して干渉し、爪および切欠が変形し、または破損するという問題が生じるようになった。
【0007】
ここで、爪および切欠の破損問題について説明する。
内燃機関の運転で、クランク軸が高速回転する時には、軸受ハウジングに反復する大きな変動荷重が加わって、低剛性化された軸受ハウジングが反復弾性変形し、軸受ハウジングの軸受保持孔形状も反復変化して、分割型軸受ハウジングの組み合わせ面に沿う方向(以下、水平方向と称する。一対の半円筒形すべり軸受の組合せについても、同じく、組み合わせ面に沿う方向を水平方向と称する)の軸受保持孔径が増減を繰り返す。それに伴って、軸受ハウジングの軸受保持孔内に保持された一対の半円筒形すべり軸受の形状も反復変化する。すなわち、前記軸受保持孔の水平方向内径が増大すると、一対の半円筒形すべり軸受の水平方向外径が増大する。その結果、半円形スラスト軸受の爪と、半円筒形すべり軸受の切欠の側辺同士が衝突し、強く干渉する。この衝突、干渉の反復により、爪と切欠の変形、破損が生じる。
【0008】
かくして、本発明の目的は、クランク軸用軸受を保持する軸受ハウジングが、内燃機関の作動の間、反復弾性変形して、軸受ハウジングに保持される一対の半円筒形すべり軸受の反復弾性変形が生じる現象に対して、爪と切欠の係合関係により一体的に組み合わされた半円形スラスト軸受と半円筒形すべり軸受の該爪と切欠の変形、破損を効果的に防止できる内燃機関のクランク軸用軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的に照らし、本発明によれば、以下の内燃機関のクランク軸用軸受が提供される。
一対の半円筒形すべり軸受を組合せて円筒形状体として用いる内燃機関のクランク軸用軸受であって、
前記一対の半円筒形すべり軸受の少なくとも一方に対して一つまたは二つの半円形スラスト軸受が組み付けられ、該一つまたは二つの半円形スラスト軸受は、前記半円筒形すべり軸受の二つの軸線方向側辺の一方または両方に沿って添設されており、
前記半円形スラスト軸受は、円周方向の両端面を有するとともに、いずれも円弧形状である外周辺と内周辺とを有し、該内周辺の円弧径が、前記半円筒形すべり軸受の外径よりも大きく、また、前記半円形スラスト軸受の前記内周辺に、半径方向内方に向かって伸張する二つの爪が円周方向で互いに離隔して突設され、該二つの爪は、前記内周辺の長さを2等分する半径方向の直線すなわち中心線に対して互いに線対称位置にあり、さらに、前記爪の各々は、前記半円形スラスト軸受の本体に連なる爪基部の、前記円周方向端面の各々から遠い側に位置する角隅部が、前記円周方向端面の各々から測定した円周角度15°〜55°の範囲に存在するように前記内周辺に突設されており、
前記少なくとも一方の半円筒形すべり軸受は、前記半円形スラスト軸受が添設される前記軸線方向側辺に沿う全円周方向長さに亘って、軸受壁厚さが軸受内周面側で部分的に薄肉化された減厚領域を有し、かつ、前記減厚領域に、円周方向で互いに離隔して、二つの切欠が形成されており、該二つの切欠は、前記半円形スラスト軸受の前記二つの爪と、それぞれ係合する関係にあり、その係合関係は、前記クランク軸用軸受がクランク軸に組み付けられて、前記一対の半円筒形すべり軸受がクランク軸の軸受ハウジングに拘束される前の自由状態時に、前記半円筒形すべり軸受の外径が円周方向中央部に比して円周方向両端部で大きくなっており、それによって前記爪の幅方向の一側辺が、前記切欠の幅方向の一側辺と互いに干渉して係合する状態にあり、また、前記一対の半円筒形すべり軸受が、クランク軸の軸受ハウジング内に組み付けられて拘束された状態では、前記半円筒形すべり軸受の外径が均一になって前記干渉、係合関係が解消され、前記爪が前記切欠内で自由な状態に置かれ、もって、前記半円形スラスト軸受がクランク軸の軸線方向で動くことができるようになされ、
前記切欠と前記爪の寸法関係が、関係式1:切欠の円周方向長さ(幅)>爪の円周方向長さ(幅)、関係式2:切欠の軸線方向幅(深さ)>爪の軸線方向幅(厚さ)を満たす前記構成になされた前記内燃機関のクランク軸用軸受において、
前記半円形スラスト軸受の前記内周辺に、前記二つの爪の他に少なくとも二つの隙間支持突起が突設され、該少なくとも二つの衝撃荷重受突起の各々は、前記二つの爪の各々と、前記半円形スラスト軸受の各円周方向端面との間にあって、しかも該二つの衝撃荷重受突起は前記半円形スラスト軸受の前記中心線に対して互いに線対称位置にあり、また、前記衝撃荷重受突起の高さは、前記一対の半円筒形すべり軸受が、クランク軸の軸受ハウジング内に組み付けられて拘束された静的状態で、前記衝撃荷重受突起の頂部が前記半円筒形すべり軸受の外周面に接しない寸法になされていることを特徴とする内燃機関のクランク軸用軸受。なお、一対の半円筒形すべり軸受のうち、一方を本発明の半円筒形すべり軸受とし、他方はスラスト軸受を添設しない半円筒形すべり軸受とし、これらを組み合わせて円筒形状として用いることもできる。
【0010】
本発明の第一実施形態によるクランク軸用軸受では、衝撃荷重受突起が、半円形スラスト軸受のスラスト荷重受面に対して後退位置にある。
【0011】
本発明の第二実施形態によるクランク軸用軸受では、爪と衝撃荷重受突起は、相互の連なりがない関係で形成される。
【0012】
本発明の第三実施形態によるクランク軸用軸受では、爪が、衝撃荷重受突起に対して、スラスト荷重受面とは反対側である半円形スラスト軸受の背面方向に偏位しており、少なくとも爪の一部は前記背面を越えて突出する。
【0013】
本発明の第四実施形態によるクランク軸用軸受では、前記二つの爪の他に、第三の爪が半円形スラスト軸受の内周辺に突設されており、該第三の爪は、二つの爪の間で、前記内周辺の長さの中央部領域に位置し、また、半円筒形すべり軸受の前記減厚領域に、前記二つの切欠の間に位置する第三の切欠が形成されており、該第三の切欠は第三の爪と係合する関係にあり、該係合関係によって、半円筒形すべり軸受に対する半円形スラスト軸受の円周方向での相対回転が阻止されるようになされる。
【0014】
本発明の第五実施形態によるクランク軸用軸受では、二つの衝撃荷重受突起の他に、更に第一および第二の隙間支持突起が、半円形スラスト軸受の内周辺に突設され、該第一および第二の隙間支持の各々は、半円形スラスト軸受の内周辺の長さを2等分する中央位置の円周角度をゼロ度とした時、該中央位置の両側で、円周角度20°の範囲を越えた位置にあり、また、前記隙間支持突起の高さは、前記一対の半円筒形すべり軸受が、クランク軸の軸受ハウジング内に組み付けられた状態で、前記隙間支持突起の頂部が前記半円筒形すべり軸受の外周面に接する寸法になされている。
【発明の効果】
【0015】
(1)本発明のクランク軸用軸受では、半円形スラスト軸受の内周辺に、二つの爪の他に少なくとも二つの衝撃荷重受突起が突設され、該少なくとも二つの衝撃荷重受突起の各々は、二つの爪の各々と、半円形スラスト軸受の各円周方向端面との間にあって、しかも該二つの衝撃荷重受突起は前記半円形スラスト軸受の中心線に対して互いに線対称位置にあり、また、衝撃荷重受突起の高さは、一対の半円筒形すべり軸受が、クランク軸の軸受ハウジング内に組み付けられて拘束された静的状態で、衝撃荷重受突起の頂部が半円筒形すべり軸受の外周面に接しない寸法になされている。したがって、クランク軸用軸受を保持する軸受ハウジングの軸受保持孔内に本発明クランク軸用軸受が組み込まれ、内燃機関の作動の間、動荷重の作用による軸受ハウジングの反復弾性変形に伴って、一対の半円筒形すべり軸受が水平方向に反復弾性変形する時、半円筒形すべり軸受の外周面が、半円形スラスト軸受の内周辺に突設された二つの衝撃荷重受突起に接触して、半円筒形すべり軸受の弾性変形が阻止される。その結果、半円形スラスト軸受の爪の、半円筒形すべり軸受の切欠内での動きが抑制され、爪の側辺と切欠の側辺との反復衝突も抑制され、爪と切欠の変形、破損を効果的に防止できる。
本発明における二つの爪の各々は、半円形スラスト軸受の本体に連なる爪基部の、半円形スラスト軸受の円周方向端面の各々から遠い側に位置する角隅部が、前記円周方向端面の各々から測定した円周角度15°〜55°の範囲に存在するように半円形スラスト軸受の内周辺に突設されている。この突設位置を限定したのは、前記角隅部が円周角度55°の位置を超えると、本発明クランク軸用軸受が軸受ハウジングに組み込まれる前の自由状態における半円筒形すべり軸受の「曲率半径が、円周方向中央領域から円周方向両端面に向かって次第に大きくなった形状」により、二つの爪と二つの切欠との係合、干渉関係が不十分で、半円筒形すべり軸受と半円形スラスト軸受との一体的な結合関係が得られないからであり、また、前記角隅部が円周角度15°未満の位置にあると、二つの衝撃荷重受突起を半円形スラスト軸受の内周辺に設けることが困難であるという理由による。
【0016】
(2)本発明の第一実施形態によるクランク軸用軸受は、衝撃荷重受突起が、半円形スラスト軸受のスラスト荷重受面に対して後退位置にあるという構成を有する。本発明のクランク軸用軸受では、半円形スラスト軸受と半円筒形すべり軸受とを一体的に組み合わせた単一組立体として、分割型軸受ハウジングに対して組み付けられるが、この組み付け状態では、一対の半円筒形すべり軸受の各突き合わせ端部領域が曲率中心側に偏位する態様で、一対の半円筒形すべり軸受が軸受保持孔の形状に倣って変形し、他方、半円形スラスト軸受は、分割型軸受ハウジングの外にあって何ら変形しない。そして、半円筒形すべり軸受の変形により、切欠と爪の前記干渉・結合関係が解消して、半円形スラスト軸受が、半円筒形すべり軸受に対してクランク軸の軸線方向に僅かに動くことができる。この結果、内燃機関の運転時、半円形スラスト軸受のスラスト荷重受面が、クランク軸の軸線方向負荷を与えるクランク・ウェブの側面に対して平行になる自動位置づけ(アライメント)がなされる。そのため、半円形スラスト軸受の衝撃荷重受突起の一面がスラスト荷重受面と面一であると、半円形スラスト軸受が半円筒形すべり軸受の軸線に対して傾いて、半円形スラスト軸受のスラスト荷重受面の外周辺部分がクランク軸の摺動面から離れる側に変位し、スラスト荷重受面の内周辺部分がクランク軸の摺動面(クランク・ウェブの側面)に接近する側に変位した状態になった場合、衝撃荷重受突起がクランク軸の摺動面と接触し、衝撃荷重受突起の表面が摩耗し、あるいは、破損する可能性がある。しかしながら、第一実施形態によるクランク軸用軸受では、前記のように、衝撃荷重受突起が、半円形スラスト軸受のスラスト荷重受面に対して後退位置にあるという構成になされているので、半円形スラスト軸受が前記のように傾斜しても、衝撃荷重受突起とクランク軸の摺動面との接触を避けることができ、したがって衝撃荷重受突起の損傷を防ぐことができる。
【0017】
(3)本発明の第二実施形態によるクランク軸用軸受における爪と衝撃荷重受突起は、相互の連なりがない関係で形成される。機関作動の間、クランク軸の動荷重による半円筒形すべり軸受の弾性変形によって、半円筒形すべり軸受の外周面が、半円形スラスト軸受の衝撃荷重受突起に当接すると、衝撃荷重受突起が弾性変形する。そのため、衝撃荷重受突起と爪とが互いに連なっていると、衝撃荷重受突起の変形が爪に及び、爪が弾性変形して、半円筒形すべり軸受の切欠から離脱し、あるいは、爪の側辺と切欠の側辺とが強く干渉して、爪と切欠の変形、損傷を惹起する危惧がある。しかしながら、本第二実施形態によれば、そのような不具合を効果的に予防できる。
【0018】
(4)本発明の第三実施形態によるクランク軸用軸受では、爪が、衝撃荷重受突起に対して、スラスト荷重受面とは反対側である半円形スラスト軸受の背面方向に偏位しており、少なくとも爪の一部が前記背面を越えて突出している。このような構成の場合も、前記第二実施形態におけると同様な作用効果を得ることができる。
(5)本発明の第四実施形態によるクランク軸用軸受では、二つの爪の他に、第三の爪が半円形スラスト軸受の内周辺に突設されており、該第三の爪は、二つの爪の間で、前記内周辺の長さの中央部領域に位置し、また、半円筒形すべり軸受の減厚領域に、二つの切欠の間に位置する第三の切欠が形成されており、該第三の切欠は第三の爪と係合する関係にあり、該係合関係によって、半円筒形すべり軸受に対する半円形スラスト軸受の円周方向での相対回転が阻止される構成になされている。このような構成を採用すれば、半円形スラスト軸受が、クランク軸の摺動面との接触関係によって、該摺動面と供回りする可能性をなくすことができる。
【0019】
(6)本発明の第五実施形態によるクランク軸用軸受では、二つの衝撃荷重受突起の他に、更に第一および第二の隙間支持突起が、半円形スラスト軸受の内周辺に突設され、該第一および第二の隙間支持突起の各々は、半円形スラスト軸受の内周辺の長さを2等分する中央位置の円周角度をゼロ度とした時、該中央位置の両側で、円周角度20°の範囲を越えた位置にある。これら第一および第二の隙間支持突起は、クランク軸用軸受を保持する軸受ハウジングの軸受保持孔内に本発明クランク軸用軸受が組み付けられて拘束された静的状態で、その先端が半円筒形すべり軸受の外周面と接する寸法になされ、半円筒形すべり軸受の外周面と半円形スラスト軸受の内周辺との間の間隙(軸受中心線に対して垂直方向の間隙)を維持するために設ける。仮に、半円筒形すべり軸受の外周面と、半円形スラスト軸受の内周辺とが接触すると、両者の干渉関係により、半円形スラスト軸受が軸線方向で拘束され、クランク軸の軸線方向負荷を与えるクランク・ウェブの側面に対して半円形スラスト軸受のスラスト荷重受面が平行になる自動位置づけ(アライメント)が行なわれなくなる。また、第一および第二の隙間支持突起を、前記中央位置の両側で、円周角度20°の範囲を越えた位置に設ける理由は、以下のとおりである。
半円筒形すべり軸受の円周方向長さを2等分する半径方向の直線すなわち中心線に対する垂直方向は、内燃機関作動時におけるクランク軸の動荷重負荷が直接作用する方向である。第一および第二の隙間支持突起を、前記中央位置の両側で、円周角度20°の範囲内に設けると、第一および第二の隙間支持突起の先端と、半円筒形すべり軸受の外周面とが強く反復接触して、両隙間支持突起が変形し、あるいは、破損する可能性がある。
なお、前記項目(3)と同様な理由で、第一および第二の隙間支持突起と第三の爪とを連続させることは避けた方がよい。また、第一および第二の隙間支持突起を設けない場合には、第三の爪に無理な力が作用するので留意すべきである。また、第一および第二の隙間支持突起のみを設けて第一および第二の衝撃荷重受突起を設けない場合、内燃機関作動の間、軸受ハウジングの弾性変形に伴って、軸受ハウジングの軸受保持孔内に保持される一対の半円筒形すべり軸受が水平方向で弾性変形して、一対の半円筒形すべり軸受の外周面が反復変位した時に、半円形スラスト軸受の爪の側辺と、半円筒形すべり軸受の切欠の側辺とが反復衝突するので、爪と切欠の変形、破損は防止できない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】互いに組合せ関係にある、本発明の第一実施例に係る半円形スラスト軸受と半円筒形すべり軸受の側面図。
【図2】図1に示す半円形スラスト軸受の側面図。
【図3】図1に示す半円筒形すべり軸受の側面図。
【図4】図1および図3に示す半円筒形すべり軸受のA方向矢視図。
【図5】本発明軸受が軸受ハウジングに組み込まれて半円筒形すべり軸受が拘束された状態にある軸受要部を示す図。
【図6】図1におけるVI−VI線截断図。
【図7】機関作動時において、半円筒形すべり軸受が弾性変形して、半円筒形すべり軸受の外周面が半円形スラスト軸受衝撃荷重受突起に接触した状態を示す図5対応図。
【図8】図5におけるVIII−VIII線截断図。
【図9】図7におけるIX−IX線截断図。
【図10】互いに組合せ関係にある、本発明の第二実施例に係る半円形スラスト軸受と半円筒形すべり軸受の側面図。
【図11】図10に示す半円形スラスト軸受の側面図。
【図12】図10に示す半円筒形すべり軸受のA方向矢視図。
【図13】図11の要部拡大図。
【図14】図6に示す半円形スラスト軸受の変形例。
【図15】図10、図11に示す半円形スラスト軸受の変形例としての半円形スラスト軸受の一部を示す図。
【図16】図15におけるB方向矢視図。
【図17】図10、図11に示す半円形スラスト軸受の変形例としての半円形スラスト軸受の一部を示す図。
【実施例】
【0021】
以下、添付図面を見ながら本発明の実施例について説明する。
図1は、本発明の第一実施例に係る内燃機関のクランク軸用軸受の半体10を示し、該半体10は、互いに組合せ関係にある半円筒形すべり軸受20と半円形スラスト軸受30とから成る。半円形スラスト軸受30は、半円筒形すべり軸受20の両端面22(すなわち、軸線方向または幅方向の両端)に沿って、一対の鍔状をなして添設される(ただし、図面では、一方の半円形スラスト軸受30のみが見える)。なお、本実施例では、半円筒形すべり軸受20に対して一対の半円形スラスト軸受30を付設する構成を採用したが、半円筒形すべり軸受に対して単一の半円形スラスト軸受を付設する場合もある。
半円形スラスト軸受30は、スラスト軸受本体32と、スラスト軸受本体32の内周辺に突設された二つの爪34と、二つの衝撃荷重受突起36から成る。二つの爪34の各々は、半円形スラスト軸受本体32に連なる爪基部の、半円形スラスト軸受円周方向端面の各々から遠い側に位置する角隅部34aが、前記円周方向端面32aの各々から測定した円周角θ1=15°〜55°の範囲に存在するようにスラスト軸受本体32の内周辺に突設されている。二つの衝撃荷重受突起36は、スラスト軸受本体32の各円周方向端面から爪34に隣接する位置まで延在して、スラスト軸受本体32の内周辺に突設されており、それらの高さは爪34の高さよりも小さく、機関作動時にクランク軸の動荷重が軸受に作用する時以外、衝撃荷重受突起36の先端が、半円筒形すべり軸受20の外周面から離れている(図5)。
半円筒形すべり軸受20は、その両端面22の各々に、二つの切欠24が形成されている。二つの切欠24と二つの爪34とは互いに係合する関係にある(図1)。半円筒形すべり軸受20は、半円形スラスト軸受30が添設される軸線方向端面22に沿う全円周方向長さに亘って、軸受壁厚さが軸受内周面側で部分的に薄肉化された減厚領域20aを有し、この減厚領域20aに、円周方向で互いに離隔して、二つの切欠24が形成されている。
【0022】
図1は、軸受半体10が軸受ハウジングHに組み付けられる前の自由状態を示しており、爪34の側辺34bが、切欠24の側辺24aに干渉、接触している。この干渉、接触関係は、半円筒形すべり軸受20の自由状態での非円形形状によって得られる。図5は、軸受半体10が軸受ハウジングHに組み付けられた拘束状態を示しており、爪34の側辺34bが、切欠24の側辺24aから離れている。
【0023】
軸受半体10の作用
図1に示す軸受半体10は、爪34の側辺34bが、切欠24の側辺24aに干渉、接触して、半円筒形すべり軸受20と、半円形スラスト軸受30とが一体的に組み合わされた単一組立体として、分割型軸受ハウジングHに組み付けることができる。概ね楕円形状をなして組み合わされた一対の半円筒形すべり軸受20が分割型軸受ハウジングHに組み込まれると、一対の半円筒形すべり軸受20が分割型軸受ハウジングHの円形軸受保持孔に拘束されて、一対の半円筒形すべり軸受20の初期形状(概ね楕円形状)から円形形状に強制的に変形せしめられ、その結果、爪34と切欠24の干渉、接触関係が解消され、爪34の側辺34bが切欠24の側辺24aから離れる(図5)。なお、軸受半体10を分割型軸受ハウジングHに組み込んだ時、半円形スラスト軸受30は、分割型軸受ハウジングHによる拘束を受けない。これは、図6で判るように、半円形スラスト軸受30が分割型軸受ハウジングHの側面に沿っており、半円筒形すべり軸受20の減厚領域20aが分割型軸受ハウジングHの外に突出し、減厚領域20aに形成された切欠24に半円形スラスト軸受30の爪34が係合する構造になされているからである。
軸受半体10が分割型軸受ハウジングHに組み込まれた前記状態では、半円形スラスト軸受30が、半円筒形すべり軸受20に対してクランク軸の軸線方向に僅かに可動となる。この結果、内燃機関の運転時、半円形スラスト軸受30のスラスト荷重受面(潤滑油溝38を有する面)が、クランク軸の軸線方向負荷を与えるクランク・ウェブの側面に対して平行になる自動位置づけ(アライメント)がなされる。また、半円形スラスト軸受30の衝撃荷重受突起36は、半円筒形すべり軸受20の外周面に対して小間隙を置いて離隔している(図5、図8参照)。
機関作動時にあっては、分割型軸受ハウジングHがクランク軸の動荷重を受けて反復的に弾性変形し、一対の半円筒形すべり軸受20も、それらの突合せ端面26に沿う方向(すなわち、水平方向)で、拡径、縮径の弾性変形を繰り返す。一対の半円筒形すべり軸受20が、水平方向で拡径すると、その外周面が半円形スラスト軸受30の一対の衝撃荷重受突起36に当接し(図7、図9参照)、半円筒形すべり軸受20の過度の拡径が防止される。故に、半円形スラスト軸受30の爪34が、その側辺34bで、切欠24の側辺24aと衝接するという従来軸受の有する不具合を首尾よく抑制できる。
【0024】
図10は、本発明の第二実施例に係る内燃機関のクランク軸用軸受の半体40を示し、該半体40は、互いに組合せ関係にある半円筒形すべり軸受50と半円形スラスト軸受60とから成る。半円形スラスト軸受60は、半円筒形すべり軸受50の両端面52(すなわち、軸線方向または幅方向の両端)に沿って、一対の鍔状をなして添設される。
半円形スラスト軸受60は、スラスト軸受本体62と、スラスト軸受本体62の内周辺に突設された三つの爪64A,64A,64Bと、二つの衝撃荷重受突起66A,66Aと二つの隙間支持突起66B,66Bから成る(図11)。二つの爪64Aの各々は、前記第一実施例における二つの爪34と同じ条件で半円形スラスト軸受本体62の内周辺に突設されている。
【0025】
半円筒形すべり軸受50は、その両端面52の各々に、三つの切欠54,54,54Bが形成されている。三つの切欠54,54,54Bと三つの爪64A,64A,64Bとは、それぞれ互いに係合する関係にある(図10)。切欠54Bは、爪64Bとの係合によって、半円筒形すべり軸受50に対する半円形スラスト軸受60の円周方向での相対回転が阻止される構成になされている。このような構成を採用すれば、半円形スラスト軸受60が、クランク軸の摺動面との接触関係によって、該摺動面と供回りする可能性をなくすことができる。
【0026】
また、二つの衝撃荷重受突起66Aは、第一実施例における二つの衝撃荷重受突起36に対応するが、スラスト軸受本体62の各円周方向端面から僅かに離れた位置から爪64Aに対して円周方向で僅かに離れた位置まで、半円形スラスト軸受本体62の内周辺に突設されている点で(図10、図11)、第一実施例における衝撃荷重受突起36とは異なる。なお、本実施例における衝撃荷重受突起66Aが、スラスト軸受本体62の各円周方向端面から僅かに離れた位置から爪64A方向に延在しているとおり、衝撃荷重受突起の一側辺がスラスト軸受本体の円周方向端面と一致する必要性は特にない。
【0027】
二つの隙間支持突起66Bは、クランク軸用軸受を保持する軸受ハウジングの軸受保持孔内に軸受が組み込まれた時に、その先端が半円筒形すべり軸受の外周面と接する突出高さを有し、各爪64Aと爪64Bとの間で、半円形スラスト軸受本体62の内周辺に突設されている。ただし、二つの隙間支持突起66Bは、半円形スラスト軸受本体62の円周方向長さを2等分して軸受軸心を通る直線すなわち中心線L位置の円周角度をゼロ度とした時、該中心線Lの両側で、それぞれ円周角度θ2=20°の範囲を越えた位置にあり、かつ各隙間支持突起66Bは、それぞれ爪64Aと円周方向で僅かに離れた位置にある。隙間支持突起66Bを、前記円周角度θ2=20°の範囲を越えた位置に設ける理由は、前記段落[0019]の項目(6)で説明したとおりである。
【0028】
変形例について
(1)図14に示す半円形スラスト軸受30Aは、図6に示す半円形スラスト軸受30の変形例である。図14において、半円形スラスト軸受30Aのスラスト軸受本体32Aの内周辺に突設された爪34Aは、スラスト軸受本体32Aの「軸受ハウジングと接する面」に対して、半円筒形すべり軸受20の内方(すなわち、半円筒形すべり軸受20の軸線方向で、半円形スラスト軸受30Aのスラスト荷重受面Fから離れる方向)に偏位して延在している。この偏位した形状は、衝撃荷重受突起36と爪34Aとの連なりを避けるために有利である。
【0029】
(2)図15、図16(図15におけるB方向矢視図)は、図10、図11に示す半円形スラスト軸受60の変形例としての半円形スラスト軸受60Aのスラスト軸受本体62Aを、その円周方向端面近傍のみ局部的に示している。スラスト軸受本体62Aの円周方向端面62a近傍の部分領域では、スラスト荷重受面Fから円周方向端面62aに向かって、スラスト軸受本体62Aの厚さが次第に小さくなる態様でテーパー(T)が付されている。スラスト軸受本体62Aの円周方向端面62aは、円筒形に組み合わされる一対の半円筒形すべり軸受の突合せ端面(すなわち、円周方向端面)を通る水平方向線HRに達しておらず、図1、図2、図10、図11に示す半円形スラスト軸受と対比して、スラスト軸受本体62Aの円周方向長さは、各円周方向端面62a部分で、長さS1だけ短い。また、スラスト軸受本体62Aのテーパー(T)が付された箇所で、衝撃荷重受突起66Aから円周方向端面62aに至る、スラスト軸受本体62Aの内周辺が円弧状に欠截(62b)されている。この円弧状欠截部(62b)の曲率は、スラスト軸受本体62Aの外径の曲率と同じである。
【0030】
(3)図17は、図10、図11に示す半円形スラスト軸受60の変形例としての半円形スラスト軸受60Bのスラスト軸受本体62Bを、その円周方向端面近傍のみ局部的に示している。半円形スラスト軸受60Bの特徴は、スラスト軸受本体62Bの端面近傍領域に、スラスト軸受本体62Bの外周辺よりも半径方向外方に延在する延設部62Cが形成されている点にある。延設部62Cは、図示位置に限定されるわけではなく、スラスト軸受本体62Bの外周辺の任意位置に形成してもよい。いずれの場合であっても、延設部62Cの役割は、半円形スラスト軸受60の位置決め、および回転止め機能である。
【符号の説明】
【0031】
10:クランク軸用軸受の半体
20:半円筒形すべり軸受
20a:減厚領域
22:軸線方向端面
24:切欠
24a:側辺
26:突合せ端面
30,30A:半円形スラスト軸受
32,32A:スラスト軸受本体
32a:円周方向端面
34,34A:爪
34a:角隅部
34b:側辺
36:衝撃荷重受突起
38:潤滑油溝
40:クランク軸用軸受の半体
50:半円筒形すべり軸受
52:軸線方向端面
54,54B:切欠
56:突合せ端面
60,60A,60B:半円形スラスト軸受
62,62A,62B:スラスト軸受本体
62C:延設部
62a:円周方向端面
62b:円弧状欠截部
64A,64B:爪
66A,66C:衝撃荷重受突起
66B:隙間支持突起
68:潤滑油溝
F:スラスト荷重受面
H:軸受ハウジング
HR:水平方向線
S1:長さ
T:テーパー部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の半円筒形すべり軸受を組合せて円筒形状体として用いる内燃機関のクランク軸用軸受であって、
前記一対の半円筒形すべり軸受の少なくとも一方に対して一つまたは二つの半円形スラスト軸受が組み付けられ、該一つまたは二つの半円形スラスト軸受は、前記半円筒形すべり軸受の二つの軸線方向側辺の一方または両方に沿って添設されており、
前記半円形スラスト軸受は、円周方向の両端面を有するとともに、いずれも円弧形状である外周辺と内周辺とを有し、該内周辺の円弧径が、前記半円筒形すべり軸受の外径よりも大きく、また、前記半円形スラスト軸受の前記内周辺に、半径方向内方に向かって伸張する二つの爪が円周方向で互いに離隔して突設され、該二つの爪は、前記内周辺の長さを2等分する半径方向の直線すなわち中心線に対して互いに線対称位置にあり、さらに、前記爪の各々は、前記半円形スラスト軸受の本体に連なる爪基部の、前記円周方向端面の各々から遠い側に位置する角隅部が、前記円周方向端面の各々から測定した円周角15°〜55°の範囲に存在するように前記内周辺に突設されており、
前記少なくとも一方の半円筒形すべり軸受は、前記半円形スラスト軸受が添設される前記軸線方向側辺に沿う全円周方向長さに亘って、軸受壁厚さが軸受内周面側で部分的に薄肉化された減厚領域を有し、かつ、前記減厚領域に、円周方向で互いに離隔して、二つの切欠が形成されており、該二つの切欠は、前記半円形スラスト軸受の前記二つの爪と、それぞれ係合する関係にあり、その係合関係は、前記クランク軸用軸受がクランク軸に組み付けられて、前記一対の半円筒形すべり軸受がクランク軸の軸受ハウジングに拘束される前の自由状態時に、前記半円筒形すべり軸受の外径が円周方向中央部に比して円周方向両端部で大きくなっており、それによって前記爪の幅方向の一側辺が、前記切欠の幅方向の一側辺と互いに干渉して係合する状態にあり、また、前記一対の半円筒形すべり軸受が、クランク軸の軸受ハウジング内に組み付けられて拘束された状態では、前記半円筒形すべり軸受の外径が均一になって前記干渉、係合関係が解消され、前記爪が前記切欠内で自由な状態に置かれ、もって、前記半円形スラスト軸受がクランク軸の軸線方向で動くことができるようになされ、
前記切欠と前記爪の寸法関係が、関係式1:切欠の円周方向長さ(幅)>爪の円周方向長さ(幅)、関係式2:切欠の軸線方向幅(深さ)>爪の軸線方向幅(厚さ)を満たす前記構成になされた前記内燃機関のクランク軸用軸受において、
前記半円形スラスト軸受の前記内周辺に、前記二つの爪の他に二つの衝撃荷重受突起が突設され、該少なくとも二つの衝撃荷重受突起の各々は、前記二つの爪の各々と、前記半円形スラスト軸受の各円周方向端面との間にあって、しかも該二つの衝撃荷重受突起は前記半円形スラスト軸受の前記中心線に対して互いに線対称位置にあり、また、前記衝撃荷重受突起の高さは、前記一対の半円筒形すべり軸受が、クランク軸の軸受ハウジング内に組み付けられて拘束された静的状態で、前記衝撃荷重受突起の頂部が前記半円筒形すべり軸受の外周面に接しない寸法になされていることを特徴とする内燃機関のクランク軸用軸受。
【請求項2】
前記衝撃荷重受突起は、前記半円形スラスト軸受のスラスト荷重受面に対して後退位置にある請求項1に記載された内燃機関のクランク軸用軸受。
【請求項3】
前記爪と前記衝撃荷重受突起は、相互の連なりがない関係で形成されている請求項1または請求項2に記載された内燃機関のクランク軸用軸受。
【請求項4】
前記爪が、前記衝撃荷重受突起に対して、前記スラスト荷重受面とは反対側である前記半円形スラスト軸受の背面方向に偏位しており、少なくとも前記爪の一部は前記背面を越えて突出している請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載された内燃機関のクランク軸用軸受。
【請求項5】
前記二つの爪の他に、第三の爪が前記半円形スラスト軸受の前記内周辺に突設されており、該第三の爪は、前記二つの爪の間で、前記内周辺の長さの中央部領域に位置し、
また、前記半円筒形すべり軸受の前記減厚領域に、前記二つの切欠の間に位置する第三の切欠が形成されており、該第三の切欠は前記第三の爪と係合する関係にあり、該係合関係によって、前記半円筒形すべり軸受に対する前記半円形スラスト軸受の円周方向での相対回転が阻止されるようになっている請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載された内燃機関のクランク軸用軸受。
【請求項6】
第一および第二の隙間支持突起が、前記半円形スラスト軸受の前記内周辺に突設され、該第一および第二の隙間支持突起の各々は、前記半円形スラスト軸受の前記内周辺の長さを2等分する中央位置の円周角度をゼロ度とした時、該中央位置の両側で、それぞれ円周角度20°の範囲を越えた位置にあり、また、前記隙間支持突起の高さは、前記一対の半円筒形すべり軸受が、クランク軸の軸受ハウジング内に組み付けられて拘束された静的状態で、前記隙間支持突起の頂部が前記半円筒形すべり軸受の外周面に接する寸法になされている請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載された内燃機関のクランク軸用軸受。
【請求項1】
一対の半円筒形すべり軸受を組合せて円筒形状体として用いる内燃機関のクランク軸用軸受であって、
前記一対の半円筒形すべり軸受の少なくとも一方に対して一つまたは二つの半円形スラスト軸受が組み付けられ、該一つまたは二つの半円形スラスト軸受は、前記半円筒形すべり軸受の二つの軸線方向側辺の一方または両方に沿って添設されており、
前記半円形スラスト軸受は、円周方向の両端面を有するとともに、いずれも円弧形状である外周辺と内周辺とを有し、該内周辺の円弧径が、前記半円筒形すべり軸受の外径よりも大きく、また、前記半円形スラスト軸受の前記内周辺に、半径方向内方に向かって伸張する二つの爪が円周方向で互いに離隔して突設され、該二つの爪は、前記内周辺の長さを2等分する半径方向の直線すなわち中心線に対して互いに線対称位置にあり、さらに、前記爪の各々は、前記半円形スラスト軸受の本体に連なる爪基部の、前記円周方向端面の各々から遠い側に位置する角隅部が、前記円周方向端面の各々から測定した円周角15°〜55°の範囲に存在するように前記内周辺に突設されており、
前記少なくとも一方の半円筒形すべり軸受は、前記半円形スラスト軸受が添設される前記軸線方向側辺に沿う全円周方向長さに亘って、軸受壁厚さが軸受内周面側で部分的に薄肉化された減厚領域を有し、かつ、前記減厚領域に、円周方向で互いに離隔して、二つの切欠が形成されており、該二つの切欠は、前記半円形スラスト軸受の前記二つの爪と、それぞれ係合する関係にあり、その係合関係は、前記クランク軸用軸受がクランク軸に組み付けられて、前記一対の半円筒形すべり軸受がクランク軸の軸受ハウジングに拘束される前の自由状態時に、前記半円筒形すべり軸受の外径が円周方向中央部に比して円周方向両端部で大きくなっており、それによって前記爪の幅方向の一側辺が、前記切欠の幅方向の一側辺と互いに干渉して係合する状態にあり、また、前記一対の半円筒形すべり軸受が、クランク軸の軸受ハウジング内に組み付けられて拘束された状態では、前記半円筒形すべり軸受の外径が均一になって前記干渉、係合関係が解消され、前記爪が前記切欠内で自由な状態に置かれ、もって、前記半円形スラスト軸受がクランク軸の軸線方向で動くことができるようになされ、
前記切欠と前記爪の寸法関係が、関係式1:切欠の円周方向長さ(幅)>爪の円周方向長さ(幅)、関係式2:切欠の軸線方向幅(深さ)>爪の軸線方向幅(厚さ)を満たす前記構成になされた前記内燃機関のクランク軸用軸受において、
前記半円形スラスト軸受の前記内周辺に、前記二つの爪の他に二つの衝撃荷重受突起が突設され、該少なくとも二つの衝撃荷重受突起の各々は、前記二つの爪の各々と、前記半円形スラスト軸受の各円周方向端面との間にあって、しかも該二つの衝撃荷重受突起は前記半円形スラスト軸受の前記中心線に対して互いに線対称位置にあり、また、前記衝撃荷重受突起の高さは、前記一対の半円筒形すべり軸受が、クランク軸の軸受ハウジング内に組み付けられて拘束された静的状態で、前記衝撃荷重受突起の頂部が前記半円筒形すべり軸受の外周面に接しない寸法になされていることを特徴とする内燃機関のクランク軸用軸受。
【請求項2】
前記衝撃荷重受突起は、前記半円形スラスト軸受のスラスト荷重受面に対して後退位置にある請求項1に記載された内燃機関のクランク軸用軸受。
【請求項3】
前記爪と前記衝撃荷重受突起は、相互の連なりがない関係で形成されている請求項1または請求項2に記載された内燃機関のクランク軸用軸受。
【請求項4】
前記爪が、前記衝撃荷重受突起に対して、前記スラスト荷重受面とは反対側である前記半円形スラスト軸受の背面方向に偏位しており、少なくとも前記爪の一部は前記背面を越えて突出している請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載された内燃機関のクランク軸用軸受。
【請求項5】
前記二つの爪の他に、第三の爪が前記半円形スラスト軸受の前記内周辺に突設されており、該第三の爪は、前記二つの爪の間で、前記内周辺の長さの中央部領域に位置し、
また、前記半円筒形すべり軸受の前記減厚領域に、前記二つの切欠の間に位置する第三の切欠が形成されており、該第三の切欠は前記第三の爪と係合する関係にあり、該係合関係によって、前記半円筒形すべり軸受に対する前記半円形スラスト軸受の円周方向での相対回転が阻止されるようになっている請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載された内燃機関のクランク軸用軸受。
【請求項6】
第一および第二の隙間支持突起が、前記半円形スラスト軸受の前記内周辺に突設され、該第一および第二の隙間支持突起の各々は、前記半円形スラスト軸受の前記内周辺の長さを2等分する中央位置の円周角度をゼロ度とした時、該中央位置の両側で、それぞれ円周角度20°の範囲を越えた位置にあり、また、前記隙間支持突起の高さは、前記一対の半円筒形すべり軸受が、クランク軸の軸受ハウジング内に組み付けられて拘束された静的状態で、前記隙間支持突起の頂部が前記半円筒形すべり軸受の外周面に接する寸法になされている請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載された内燃機関のクランク軸用軸受。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2012−202488(P2012−202488A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−67854(P2011−67854)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(591001282)大同メタル工業株式会社 (179)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(591001282)大同メタル工業株式会社 (179)
【Fターム(参考)】
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