説明

内燃機関のシリンダヘッド

【課題】燃費を向上させながらオイルの劣化を有効に回避し得る内燃機関のシリンダヘッドを提供する。
【解決手段】エンジン1のシリンダヘッド3は、本発明のオイル落とし通路として機能するオイルゲージ通路33及びオイル落とし通路32に対し、オイルの低温時にはカム室30に溜まるオイルを多く保持するとともに高温時にはオイルを低温時よりも少なく保持するようカム室のオイル保持量を変化させ得る保持量変更手段Xを設けたことを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の一部を構成するシリンダヘッドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等に搭載される内燃機関では、シリンダブロックの上面に締結したシリンダヘッドの上面に、カム軸等を含む動弁機構を内蔵するカム室を凹み形成した内底面を形成し、この内底面にオイルパンから供給されるオイルを導入することにより動弁機構を潤滑し、この潤滑した後のオイルを、前記シリンダヘッドの内部に前記カム室の内底面に開口するように設けたオイル落とし通路を通してシリンダブロック下部におけるオイルパンに再び戻すという構成となっている。そしてこのオイルがカム室の内底面にあるときにオイルとシリンダヘッドとの熱交換が主に行なわれる。
【0003】
そして、低温始動時においてはオイルの温度が十分に上昇していないうちは、オイル自体の粘度が高いことによって起こるメカロスにより、温度が十分に高いときに比べて燃費が劣る傾向にある。
【0004】
そこで近年、オイル落とし通路に熱伝導率の低いバイメタルを設け、低温時にはオイル落とし通路の内面にオイルを導入してオイルの温度上昇を促す一方、高温時には前記バイメタルを伝ってオイルの温度上昇を抑えながらオイルパンに戻すという技術も提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
他方、オイルをオイルパンに戻す構成として、オイル落とし通路の他にオイルゲージを挿通するオイルゲージ通路を介してもオイルを戻し得る構成とし、オイルゲージ通路における開口位置を高く設定することにより、オイルが一定の容量以上にカム室に溜められると、オイルゲージ通路をも利用して速やかにオイルを戻し得る技術も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されている構成では、高温時及び低温時で起こるオイルとシリンダヘッドとの熱交換の違いは、オイル落とし通路にオイルが接するか否かという違いのみである。そして上述の通りオイルによる熱交換はシリンダヘッドの内底面にオイルが留まる際に主に行なわれるので、当該構成によって得られる効果は限られたものとなっている。勿論オイル落とし通路の面積を増大させることによる性能の向上も考えられるが、そうなるとかえってオイル落とし通路の設置箇所が限定されたり、バイメタル等の部品のサイズや数の増大を招来したりしてしまう。
【0007】
他方特許文献2に記載された構成であると、オイルゲージの開口位置にまでオイルが溜められる状態ではオイルがシリンダヘッドの内底面に留まる時間は相対的に長くなっているのでオイルの温度上昇を促す効果は期待できると思われる。しかし反面、オイルが過剰に昇温されるとオイルの劣化を招来してしまう。また加えて、オイルの温度が上昇した状態で内燃機関を循環し続けると、動作箇所における各部の焼き付きを招来してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−231899号公報
【特許文献2】特開2011−7104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述したような不具合に着目したものであり、燃費を向上させながらオイルの劣化を有効に回避し得る内燃機関のシリンダヘッドを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、このような目的を達成するために、次のような手段を講じたものである。
【0011】
すなわち本発明に係る内燃機関のシリンダヘッドは、カム室と、オイルパンから前記カム室に供給されるオイルをオイルパンに導くために設けられたオイル落とし通路と、前記オイル落とし通路に設けられ、前記オイルの低温時には前記カム室に溜まるオイルを多く保持するとともに高温時には前記オイルを低温時よりも少なく保持するよう前記カム室のオイル保持量を変化させ得る保持量変更手段とを具備することを特徴とする。
【0012】
このようなものであれば、低温時には多くのオイルが溜まってからオイルが落とされる構成とすることができるので、オイルが溜まるまでの時間だけ燃焼により熱せられたシリンダヘッドと溜められたオイルとの熱交換量が増加する。そのため、オイルの昇温を促進されオイル粘度が速やかに低下されることによるメカロスの低減が促される。これにより、内燃機関の燃費の向上が促される。また高負荷時やデッドソーク時など、オイルの高温時にはオイルがカム室に長く滞留しないので、過剰な温度上昇によるオイルの劣化やオイルの温度上昇による各部の焼き付きを有効に防止できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、燃費を向上させながらオイルの劣化を有効に回避し得る内燃機関のシリンダヘッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る内燃機関の平断面図。
【図2】図1に係るI−I線断面図。
【図3】図1に係る要部を示すII−II線断面図。
【図4】同III−III線断面図。
【図5】図4に係る作用説明図。
【図6】同実施形態の変形例1に係る図1に対応した平断面図。
【図7】同変形例2に係る図2に対応した断面図。
【図8】同変形例3に係る図2に対応した断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を、図1〜図5の図面について説明する。
【0016】
この内燃機関たるエンジン1は、下部に図示しないオイルパンを備えたシリンダブロック2と、その上面に配設したシリンダヘッド3と、このシリンダヘッド3の上面に凹み形成したカム室30を塞ぐようにしたヘッドカバー4とを備えており、シリンダヘッド3は、シリンダブロック2に対して各気筒における左右両側のうち各気筒間の部位に配設した複数本のヘッドボルトbによって締結されている。またシリンダブロック2及びシリンダヘッド3の側面には、図示しないクランク軸から両カム軸8、9への動力伝達用タイミングチェーン13を内蔵したチェーンケース5が設けられ、このチェーンケース5内の下部は、オイルパンに連通している。
【0017】
シリンダヘッド3には、吸気弁6と排気弁7とが各気筒ごとに設けられており、これら吸気弁6及び排気弁7は、カム室30の内底面30aのうち後述するオイル落とし通路32が開口する部分から適宜寸法だけカム室30内に突出するように設けたバルブガイドスリーブ10にて支持されており、これらバルブガイドスリーブ10の上端の各々には、バルブステムオイルシール11が設けられている。
【0018】
吸気弁6及び排気弁7は、カム室30内に軸支した吸気弁用カム軸8及び排気弁用カム軸9の回転によって開閉作動するように構成されている。
【0019】
また、両カム軸8、9等の動弁機構には、オイルパン内におけるオイルがオイルポンプ(図示せず)にて供給されることにより潤滑され、この潤滑後のオイルは、カム室30の内底面30a及び立面である内壁面30bの下部に溜まるように構成されており、更に、オイルポンプは、エンジン1の駆動により、当該オイルポンプによる動弁機構等に対するオイルの供給は、エンジン1の回転数に比例して増大するようになっている。
【0020】
シリンダヘッド3の外側の部位には、上下方向に延びるオイル落とし通路32が、カム室30における内底面30aに開口するように、例えばドリル加工や鋳抜きによって形成されており、このオイル落とし通路32の下部は、シリンダブロック22の内部に形成したオイル通過路21を介して下部のオイルパンに連通している。
【0021】
シリンダヘッド3のうち少なくとも一本のヘッドボルトbより外側の部位には、上下方向に延びるオイルゲージ通路33が、カム室30内に開口するように形成されており、このオイルゲージ通路33の下端は、シリンダブロック2に形成したゲージ挿通口22を介してオイルパンに連通している。なお当該オイルゲージ通路33は、後述するようにここを介してオイルがオイルパンへ案内され得る構造をなしているので、本発明に係る「オイル落とし通路」の概念に含まれるものとする。
【0022】
オイルゲージ通路33内には、ヘッドカバー4を着脱可能に貫通するオイルレベルゲージ12が、その下端がオイルパン内にまで届くように着脱可能に差し込まれて、このオイルレベルゲージ12を抜き差しすることによって、オイルパン内におけるオイルの油量を検出するように構成している。
【0023】
しかして本実施形態に係るエンジン1のシリンダヘッド3は、本発明のオイル落とし通路として機能するオイルゲージ通路33及びオイル落とし通路32に対し、オイルの低温時にはカム室30に溜まるオイルを多く保持するとともに高温時にはオイルを低温時よりも少なく保持するようカム室30のオイル保持量を変化させ得る保持量変更手段Xを設けたことを特徴としている。
【0024】
以下、本発明に係る保持量変更手段Xの構成について、オイル落とし通路32及びオイルゲージ通路33の構成とともに具体的に説明する。
【0025】
オイルゲージ通路33は、図3に示すように、開口部分を内底面30aよりも若干高い位置、詳細には内底面30aからバルブガイドスリーブ10における上端よりも適宜寸法だけ低い部位に位置するように構成している。さらに具体的には、オイルゲージ通路33は本実施形態では、開口部分を構成する高位決定面33aと、内底面30aから立ち上がる立面33bとを有している。そしてこの高位決定面33aが、オイルをカム室30内に最も多く溜めた場合の油面Lの位置を決定するものである。
【0026】
オイル落とし通路32は、図4及び図5に示すように、開口部分をオイルゲージ通路33の如く内底面30aよりも若干高い位置に設定した高位開口34と、開口部分をカム室30の内底面30aの内最も低いかそれに準ずる位置に設定した低位開口35と、この低位開口35を開閉可能に塞ぐサーモスタット36とを有している。高位開口34は、開口部分を構成する高位決定面34aと、内底面30aから立ち上がる立面34bとを有している。そしてこの高位決定面34aが、オイルをカム室30内に最も多く溜めた場合の油面Lの位置を決定するものである。低位開口35はその周縁をサーモスタット36に接し得る低位決定面35aとしている。そしてサーモスタット36は、オイルが低温であるときには下向面が低位決定面35aに接して塞ぐか、わずかなオイルしか通過させない状態とするとともに、オイルが高温になるにつれ低位開口35との隙間を増大させることで、より多くのオイルを通過させ得るものである。このサーモスタット36の具体的な構成は、既存のものと同種であるため、本実施形態では具体的な説明を省略する。
【0027】
この構成によると、図3及び図4に示すようにカム室30内におけるオイルは、低温始動時など、オイルが低温の状態では低位開口35がサーモスタット36により完全か略完全に閉鎖されるので、オイルの温度上昇にサーモスタット36が変形しない限り、オイル落とし通路32及びオイルゲージ通路33の高位開口34から油面Lが高くなった後オイルパンに戻される。換言すれば、低温のオイルはその油面Lが高位開口34を超えるまでの間、シリンダヘッド3の内底面30aを主に介して暖められ、速やかな温度の上昇による粘度の低下が促される。
【0028】
そして図5に示すように、カム室30内におけるオイルの温度が高くなるとサーモスタット36が変形することにより当該サーモスタット36と低位開口35との隙間が大きくなる。これによりカム室30に導入されたオイルは低位開口35を介して速やかにオイルパンに戻されることになる。
【0029】
以上のような構成とすることにより、本実施形態に係るシリンダヘッド3は、オイルの低温時にはカム室30の底面に溜まるオイルを多く保持するとともに高温時にはオイルを低温時よりも少なく保持するようカム室30のオイル保持量を変化させ得る保持量変更手段Xを設けることにより、低温時には多くのオイルが溜まってからオイルが落とされる構成とすることができ、オイルが溜まるまでの時間だけ燃焼により熱せられたシリンダヘッド3と溜められたオイルとの熱交換量が増加する。そのため、オイルの昇温が促進されオイル粘度が速やかに低下されることによるメカロスの低減が促される構成となっている。その結果、エンジン1の燃費がより向上したものとなっている。また高負荷時やデッドソーク時など、オイルの高温時にはオイルがカム室30に長く滞留しないので、過剰な温度上昇によるオイルの劣化を有効に防止し得るものとなっている。またオイルの過剰な温度上昇が回避されることから、温度が上昇したオイルに接することによるエンジン1各部の焼き付きをも、有効に回避することを実現している。
【0030】
<変形例1>
以下、本実施形態の各変形例について説明する。これら各変形例において、上記実施形態の構成要素に相当するものについては同じ符号を付すとともに、その具体的な説明を省略するものとする。
【0031】
上記実施形態では保持量変更手段Xをカム室30の内底面30aにのみ形成した態様を開示したが、本発明の保持量変更手段Xは、当該構成に限られない。
【0032】
すなわち本変形例に係る保持量変更手段Xは、カム室30の立壁である内壁面30bに形成している。具体的には保持量変更手段Xは、内壁面30bにおける内底面30a近傍に形成された壁面側開口37と、この壁面側開口37を開閉可能に塞ぐサーモスタット36とを有したオイル落とし通路32に相当する。そして壁面側開口37は、チェーンケース5側に形成された連通路50に連通することで、チェーンケース5内部を介してオイルパンに連通している。
【0033】
この構成によるとカム室30内におけるオイルは、オイルが低温の状態では壁面側開口37がサーモスタット36により完全か略完全に閉鎖されるので、低温のオイルは上記実施形態同様にシリンダヘッド3の内底面30aを主に介して暖められ、速やかな温度の上昇が促される。しかる後カム室30内におけるオイルの温度が高くなるとサーモスタット36が変形することにより当該サーモスタット36と壁面側開口37との隙間が大きくなる。これによりカム室30に導入されたオイルは壁面側開口37、チェーンケース5内部を介して速やかにオイルパンに戻されることになる。
【0034】
このようなものであっても上記実施形態同様、オイルの昇温が促進されオイル粘度が速やかに低下されることによるメカロスの低減が促されるとともに、過剰な温度上昇によるオイルの劣化を有効に防止し得るものとなっている。
【0035】
<変形例2>
また、上記実施形態及び変形例1では、保持量変更手段Xが専らサーモスタット36を有するものとしたが、勿論本発明の保持量変更手段Xはサーモスタット36を用いた構成に限られない。
【0036】
すなわち本変形例に係る保持量変更手段Xは、オイル落とし通路32及びオイルゲージ通路33に、温度上昇に伴い上方へ膨張するか或いは上方へ移動する、例えばバイメタル等によって形成されるか或いは図示しないアクチュエータにより制御される油面変更手段38を設けたものとしている。
【0037】
このようなものであっても、オイルの低温時には油面Lが高く、高温時には油面Lが低く設定されることにより、上記実施形態並びに変形例1同様の効果を奏する。
【0038】
<変形例3>
さらに、上記実施形態及び各変形例では、保持量変更手段Xを専らエンジン1において、専ら構成部品をドリル加工や鋳抜きにより構成した通路を利用した態様を開示したが、本発明の保持量変更手段Xはこれに限られない。
【0039】
すなわち本変形例に係る保持量変更手段Xは、カム室30の内壁面30bにおける内底面30a近傍に、具体的にはチェーンケース5が取り付けられていない方向に壁面側開口37を形成するとともに、この壁面側開口37に連通する外付けの配管であるオイル落とし配管39を取り付けた態様のオイル落とし通路32に対し、上記同様のサーモスタット36を取り付けてなるものである。このオイル落とし配管39の最下部は勿論、図示しないオイルパンに接続している。
【0040】
このようなものであっても、オイルの低温時には油面Lが高く、高温時には油面Lが低く設定されることにより、上記実施形態並びに各変形例同様の効果を奏する。
【0041】
以上、本発明の実施形態について説明したが、各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【0042】
例えば、上記実施形態では主にサーモスタットやバイメタルにより保持両変更手段を構成した態様を開示したが、勿論、図示しない中央演算装置により制御される電磁弁より保持量変更手段を構成し、オイルの温度のみならず、エンジン回転数も勘案してオイル落とし通路を開閉制御したものであってもよい。これにより、油温のみならず、エンジン回転数に依存するオイルポンプの挙動にも好適に対応し得る。またオイル落とし通路の数や形状といった具体的な態様は上記実施形態のものに限定されることはなく、既存のものを含め、種々の態様のものを適用することができる。
【0043】
その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は内燃機関の一部を構成するシリンダヘッドとして利用することができる。
【符号の説明】
【0045】
1…内燃機関(エンジン)
3…シリンダヘッド
30…カム室
32…オイル落とし通路
33…オイル落とし通路(オイルゲージ通路)
X…保持量変更手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カム室と、
オイルパンから前記カム室に供給されるオイルを前記オイルパンに導くために設けられたオイル落とし通路と、
前記オイル落とし通路に設けられ、前記オイルの低温時には前記カム室に溜まるオイルを多く保持するとともに高温時には前記オイルを低温時よりも少なく保持するよう前記カム室のオイル保持量を変化させ得る保持量変更手段とを具備することを特徴とする内燃機関のシリンダヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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