説明

内燃機関のシール構造およびそのシール構造に使用されるシール部材

【課題】一体的に組み付けられる複数の部材同士の間をシールするシール構造に対し、各部材の熱膨張量が大きくなっても高いシール性を安定的に確保できる内燃機関のシール構造およびそのシール構造に使用されるシール部材を提供する。
【解決手段】シリンダブロック11、シリンダヘッド12、タイミングチェーンカバー18の三面合わせ部のシール構造に対し、シリンダブロック11およびシリンダヘッド12の側面形状に沿ったシール部材本体31の表面にFIPGを塗布して成るシール部材30を、シリンダブロック11およびシリンダヘッド12の合わせ面を覆うように貼り付け、その後、タイミングチェーンカバー18を組み付ける。熱膨張量の差によって各部材の隙間が変化しても、シール部材本体31の移動によりFIPGの層の膜厚は殆ど変化せず、安定したシール性が維持できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車に搭載される内燃機関のシール構造およびそのシール構造に使用されるシール部材に係る。特に、本発明は、シリンダブロックおよびシリンダヘッド等の複数部材同士の合わせ面およびその周辺において高いシール性を確保するための対策に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車等に搭載される内燃機関(以下、エンジンと呼ぶ)の構成として、シリンダブロックの上面にシリンダヘッドが一体的に組み付けられ、これらシリンダブロックおよびシリンダヘッドの各側面(気筒列方向の一方側の面)に跨るようにタイミングチェーンカバーが取り付けられた構成が知られている。このような三部材が突き当たる部分は一般に三面合わせ部と呼ばれている。
【0003】
上述の如く複数の部材が一体的に組み付けられている構成において、個々の部材の熱膨張量が異なる状況では、これら部材同士の間の隙間(各部材の合わせ面同士の間の隙間)が変化することになり、オイルなどの流体が漏れ出てしまう虞がある。例えば、燃焼室で発生する燃焼熱が、シリンダブロック、シリンダヘッド、タイミングチェーンカバーにそれぞれ伝達される際に、シリンダブロックおよびタイミングチェーンカバーの受熱量よりもシリンダヘッドの受熱量が大きい場合には、このシリンダヘッドの熱膨張量が他の部材よりも大きくなって、各部材同士の間の隙間が一部で大きくなってしまう。このため、これら各部材の合わせ面同士の間には高いシール性が要求されている。
【0004】
一般的には、シリンダブロックとシリンダヘッドとの間に金属製のヘッドガスケットが介在されたり、シリンダブロックおよびシリンダヘッドの各側面とタイミングチェーンカバーとの間に液状ガスケットが介在されることで、各部のシール性を確保している(例えば下記の特許文献1および特許文献2を参照)。
【0005】
また、下記の特許文献3は、上述した三面合わせ部のシール構造について提案している。具体的には、シリンダブロックおよびタイミングチェーンカバーと、これらの上面を覆うように組み付けられたシリンダヘッドとの間にガスケットを介在した構成となっている。そして、このガスケットの下面に、タイミングチェーンカバーの上面と対応するゴム材を設け、このゴム材の弾性変形によって各部材同士の隙間を安定的に埋めるようにしている。
【特許文献1】特開2007−333132号公報
【特許文献2】特開2007−113411号公報
【特許文献3】特開2002−181193号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、シリンダブロックやシリンダヘッドを軽量化することによるエンジン全体としての軽量化が進められている。この場合、これらシリンダブロックやシリンダヘッドの熱容量が小さくなると共にこれら各部材の剛性が低くなるため、エンジン始動初期時から各部材の温度上昇が急速に進み、それに伴う熱膨張によって各部材同士間の隙間が変化しやすい傾向となる。
【0007】
このように各部材同士間の隙間が変化しやすい傾向において、上記各特許文献に開示されているような従来のシール構造では、この熱膨張に伴う上記隙間の変化に追従することが困難であり、シールの信頼性が十分に確保できなくなる虞がある。このため、これまでにない新たなシール構造が求められている。
【0008】
また、上記液状ガスケットを使用するものにおいて、この液状ガスケットの膜厚を大幅に拡大させ、大きな熱膨張が生じた場合であっても、上記隙間の変化に追従できるようにすることが考えられる。しかしながら、これでは、液状ガスケットの膜厚の拡大に伴って各部材同士間の接着不良を招いてしまう可能性があるため実用的ではない。
【0009】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、一体的に組み付けられる複数の部材同士の間をシールするシール構造に対し、各部材の熱膨張量が大きくなっても高いシール性を安定的に確保できる内燃機関のシール構造およびそのシール構造に使用されるシール部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
−課題の解決原理−
上記の目的を達成するために講じられた本発明の解決原理は、一体的に組み付けられる複数のエンジン構成部材(シリンダブロックやシリンダヘッドなど)の合わせ面同士の間の隙間を覆うようにシール部材を配設し、このシール部材とこのシール部材が対面するエンジン構成部材の表面(エンジン構成部材の側面)との間のシール性を高めることで、上記合わせ面同士の間の隙間からの流体漏れを回避し、その結果、複数のエンジン構成部材の合わせ面同士の間のシール性が確保されるようにしている。
【0011】
−解決手段−
具体的に、本発明は、一体的に組み付けられる複数の内燃機関構成部材の合わせ面同士の間での流体漏れを防止するための内燃機関のシール構造を前提とする。この内燃機関のシール構造に対し、上記複数の内燃機関構成部材の外壁面のうち、上記合わせ面同士の間の隙間が臨む側の外壁であるシール外壁面に沿う形状に形成された金属製または合成樹脂製のシール部材本体が、上記合わせ面同士の間の隙間を覆うように配設され、このシール部材本体の表面とシール外壁面との間にシール材が介在された構成としている。
【0012】
この特定事項により、内燃機関構成部材の合わせ面同士の間は上記シール外壁面に沿ってシール部材が配設されることで覆われている。そして、このシール部材を構成するシール部材本体とシール外壁面との間にはシール機能を発揮するシール材が介在されているため、上記内燃機関構成部材の合わせ面同士の間での流体漏れは、このシール材によって効果的に阻止されることになる。そして、このようにシール部材本体と内燃機関構成部材との間にシール材を介在させる構成としたことで、たとえ内燃機関構成部材同士の熱膨張量が異なってこの両者間の隙間が変化したとしても、その変化にシール部材本体が追従することにより、上記シール材の膜厚が大きく変化したりシール材の位置が大きくずれてしまうといったことがなくなる。その結果、シール材の膜厚等の安定的な維持によって高いシール性を継続的に維持させることが可能になる。
【0013】
上記シール材の適用形態として具体的には以下の2タイプが挙げられる。先ず、上記シール材を、シール部材本体と、このシール部材本体が対面する内燃機関構成部材のシール外壁面との間の全域に亘って介在させた構成である。
【0014】
また、上記シール材を、シール部材本体と、このシール部材本体が対面する内燃機関構成部材のシール外壁面との間の領域のうちの外縁部分にのみ介在させた構成も挙げられる。
【0015】
前者の構成の場合、シール部材本体とシール外壁面との間の隙間全体をシール材によって塞ぐことができるので、非常に高いシール性を得ることが可能になる。一方、後者の構成の場合、内燃機関構成部材の合わせ面同士の間を直接的に塞ぐことなしに、この合わせ面同士の間での流体漏れを防止するといったシール構造が構築されることになり、使用するシール材の量を必要最小限に抑えながらも有効なシール性を確保することができる。
【0016】
また、シール部材として以下のような構成を採用することも可能である。つまり、シール部材本体に、複数の内燃機関構成部材の合わせ面同士の間の隙間に挿入される挿入部を備えさせ、この挿入部の外面と各内燃機関構成部材の上記合わせ面との間にもシール材を介在させた構成とするものである。
【0017】
この場合、内燃機関構成部材の外面であるシール外壁面ばかりでなく、各内燃機関構成部材の合わせ面同士の間の隙間をもシール部材本体およびシール材によって塞ぐことで、よりいっそう高いシール性を確保することができる。また、シール部材本体の挿入部を内燃機関構成部材の合わせ面同士の間の隙間に挿入していることで、これら内燃機関構成部材にシール部材を保持する機能を付加することもでき、シール部材を保持するための特別な部材を必要とすることなしに、このシール部材の取り付け位置を安定的に維持することができる。その結果、シール部材の位置ずれによるシール不良を招くことがなくなり、安定したシール性を確保できる。
【0018】
また、上記シール材としては、シリコーン系FIPGが採用されている。
【0019】
この場合、上記シール部材本体においてシール材が設けられる面を予めプラズマ洗浄しておく。
【0020】
これにより、シール部材本体に対するシール材(シリコーン系FIPG)の密着性が良好に得られ、シール性の向上に寄与させることができる。
【0021】
更に、シール材としては以下の構成を採用してもよい。つまり、シール材を、シール部材本体に一体成形されたゴム材で構成するものである。また、シール材が、シール部材本体に予め塗布された粘着材であって、内燃機関構成部材のシール外壁面への貼り付け時に除去される保護紙によって保護されているものである。
【0022】
シール材を粘着材とし、保護紙によって保護するようにすれば、粘着材の粘着性を高く維持することができ、高いシール性を発揮させることができる。
【0023】
尚、上記複数の内燃機関構成部材として具体的には、シリンダブロックおよびシリンダヘッドが挙げられる。つまり、これらシリンダブロックとシリンダヘッドとの合わせ面の隙間を覆うようにシール部材を配設して、この合わせ面同士の間からのオイル漏れなどを防止する構成である。
【0024】
また、この場合、上記シール部材本体の表面のうちタイミングチェーンカバーが接触する面にもシール材を設けるようにすれば、タイミングチェーンカバーの取付面でのシール性を確保することもできる。つまり、上記三面合わせ部のシール構造を、上記シール部材によって構築することが可能になる。
【0025】
また、上述した各解決手段のうち何れか一つの内燃機関のシール構造に使用されるシール部材も本発明の技術的思想の範疇である。つまり、上記シール部材本体の表面のうち内燃機関構成部材に接触する面に予めシール材が塗布または接着されて成るシール部材である。
【発明の効果】
【0026】
本発明では、複数の内燃機関構成部材の合わせ面同士の間のシールを、この内燃機関構成部材の外面(上記合わせ面同士の間の隙間が臨む側の外壁面)にシール部材を適用することで実現している。そして、このシール部材を、金属製または合成樹脂製のシール部材本体とシール材とで構成している。このため、各内燃機関構成部材同士の間の隙間が変化したとしても、その変化にシール部材本体が追従することで、シール材の膜厚を安定的に維持し、高いシール性を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は、自動車用エンジンの内燃機関構成部材としてのシリンダブロック、シリンダヘッド、タイミングチェーンカバーが互いに当接される三面合わせ部のシール構造に本発明を適用した場合について説明する。
【0028】
−エンジンの概略構成−
図1は本実施形態に係るエンジン(内燃機関)10の外観の概略を示す側面図(気筒列方向に対して直交する水平方向から見た図)である。この図1に示すように、エンジン10は、シリンダブロック11と、その上面に組み付けられたシリンダヘッド12とを備えている。また、シリンダヘッド12の上面には、シリンダヘッドカバー13が取り付けられている。更に、シリンダブロック11の下面には、ロアケース14が取り付けられており、このロアケース14の下面には、オイルパン15が固定されている。
【0029】
シリンダブロック11には、複数(図1では4つ)のシリンダ11a,11a,…が直列に並んで配設されている。各シリンダ11aには、ピストン11bが収納されている。そして、シリンダ11aとピストン11bとシリンダヘッド12とによって燃焼室が形成される。シリンダヘッド12には、カムシャフト(吸気カムシャフトおよび排気カムシャフト)16が回転自在に支持されている。このシリンダヘッド12は、シリンダヘッド本体12aとその上面に固定されるカムシャフトハウジング12bとの2部材で構成されている。また、シリンダブロック11とロアケース14とによってクランクケースが構成されており、このクランクケース内にはクランクシャフト17が回転自在に支持されている。
【0030】
シリンダブロック11、シリンダヘッド12、および、ロアケース14の一側部(気筒列方向の一方側の部分であって、図1では左側部)には、タイミングチェーンカバー18が取り付けられている。このタイミングチェーンカバー18には、クランクシャフト17からカムシャフト16にエンジン10の回転力を伝達するためのタイミングチェーン18aが収納されている。また、シリンダブロック11、および、ロアケース14の一側部(図1では右側部)には、オイルシールリテーナ19が固定されている。
【0031】
このように構成されたエンジン10において、互いに対向して配置される部材同士の合わせ面間の所定領域には液状ガスケット20が介在されている。これにより、その合わせ面間が液状ガスケット20によってシールされる。
【0032】
この液状ガスケット20の具体的な使用箇所として、本実施形態では、シリンダヘッド12のシリンダヘッド本体12aとカムシャフトハウジング12bとの合わせ面間、シリンダブロック11とロアケース14との合わせ面間、ロアケース14とオイルパン15との合わせ面間、タイミングチェーンカバー18と、シリンダヘッド12、シリンダブロック11、および、ロアケース14との合わせ面間、ならびに、オイルシールリテーナ19と、シリンダブロック11およびロアケース14との合わせ面間となっている。なお、シリンダブロック11とシリンダヘッド12との合わせ面間には、メタルガスケットが介在されており、シリンダヘッド12とシリンダヘッドカバー13との合わせ面間には、ゴムガスケットが介在されている。尚、上記シリンダブロック11とシリンダヘッド12との合わせ面間についても上記液状ガスケット20によりシールする構成としてもよい。
【0033】
−三面合わせ部のシール構造−
次に、本実施形態の特徴とする構成である三面合わせ部(シリンダブロック11とシリンダヘッド12とタイミングチェーンカバー18とが互いに重ね合わされる部分)のシール構造についての複数の実施形態を説明する。
【0034】
(第1実施形態)
図2は、上記シリンダブロック11、シリンダヘッド12、タイミングチェーンカバー18を概略的に示す分解斜視図である。また、図3は、シリンダブロック11、シリンダヘッド12、タイミングチェーンカバー18が一体的に組み付けられた状態を概略的に示す斜視図である(タイミングチェーンカバー18については仮想線で示している)。
【0035】
これら図2および図3に示すように、シリンダブロック11およびシリンダヘッド12は、平面視形状が略同一形状に形成されている。
【0036】
具体的には、これらシリンダブロック11およびシリンダヘッド12の気筒列方向の一方側の端面には凹陥部11c,12cが上端から下端に亘って形成されており、この凹陥部11c,12cと、タイミングチェーンカバー18の凹陥部18bとによってタイミングチェーン収容空間を形成するようになっている。つまり、これらシリンダブロック11およびシリンダヘッド12の端面において、気筒列方向に直交する方向の水平方向両側には、タイミングチェーンカバー18側に向かって突出する一対の突出部11d,11d、12d,12dがそれぞれ形成されており、この一対の突出部11d,11d、12d,12dの間に上記凹陥部11c,12cが形成されている。即ち、この凹陥部11c,12cは、シリンダブロック11およびシリンダヘッド12の側面(凹陥部11c,12cの底面を構成する面)11e,12eと、突出部11d,11d、12d,12dそれぞれの内側面11f,11f、12f,12fと、突出部11d,11d、12d,12dそれぞれの先端面(タイミングチェーンカバー18側に向かう面)11g,11g、12g,12gとにより成る空間として形成されている(これら側面11e,12e、内側面11f,12f、先端面11g,12gがそれぞれ本発明でいう内燃機関構成部材のシール外壁面に相当する)。
【0037】
一方、タイミングチェーンカバー18は、幅方向(気筒列方向に直交する水平方向)の長さ寸法が上記シリンダブロック11およびシリンダヘッド12の幅方向(同じく、気筒列方向に直交する水平方向)の長さ寸法に略一致している。そして、このタイミングチェーンカバー18の幅方向両側の端縁には、上記シリンダブロック11およびシリンダヘッド12の突出部11d,11d、12d,12dの先端面11g,11g、12g,12gに当接されて一体的にボルト止めされるフランジ部18c,18cが形成されている。つまり、このタイミングチェーンカバー18のフランジ部18c,18cを、シリンダブロック11およびシリンダヘッド12の突出部11d,11d、12d,12dの先端面11g,11g、12g,12gに当接させてボルト止めすることで、これらシリンダブロック11、シリンダヘッド12、タイミングチェーンカバー18の間にタイミングチェーン収容空間が形成されることになる。
【0038】
そして、本実施形態の特徴は、これらシリンダブロック11、シリンダヘッド12、タイミングチェーンカバー18が互いに当接される三面合わせ部をシールするためのシール部材30を使用したシール構造にある。
【0039】
−シール部材30−
上記シール部材30は、金属(例えばアルミニウムやステンレス等)の板材が折り曲げ加工されて成るシール部材本体31と、このシール部材本体31の表面の所定領域に塗布されたシリコーン系FIPG(Formed In Place Gasket)32(図4を参照)とにより構成されている。以下、具体的に説明する。
【0040】
図4(a)はシール部材30の正面図(エンジン10に組み込まれた状態においてタイミングチェーンカバー18側から見た図)、図4(b)はシール部材30の平面図、図4(c)はシール部材30の背面図(エンジン10に組み込まれた状態においてシリンダブロック11およびシリンダヘッド12側から見た図)である。また、これら図4(a)〜(c)ではシリコーン系FIPG(シール材)32が塗布されている領域にドットを付している。
【0041】
図2および図4に示すように、シール部材本体31は、上記シリンダブロック11およびシリンダヘッド12の各凹陥部11c,12cに沿う形状に形成されている。
【0042】
具体的に、このシール部材本体31は、上記凹陥部11c,12cの底面つまりシリンダブロック11およびシリンダヘッド12の側面11e,12eに沿う形状とされた第1壁31aと、この第1壁31aの両外側に連続し、上記各突出部11d,11d、12d,12dの内側面11f,11f、12f,12fに沿う形状とされた第2壁31b,31bと、これら第2壁31b,31bの先端側に連続し、各突出部11d,11d、12d,12dの先端面11g,11g、12g,12gに沿う形状とされた第3壁31c,31cとを備えている。つまり、上記第1壁31aおよび第3壁31c,31cは、エンジン10の気筒列方向に直交する鉛直方向に延びる板材として形成されている一方、第2壁31b,31bは、上記第1壁31aと第3壁31c,31cとを連結し且つエンジン10の気筒列方向に沿って鉛直方向に延びる板材として形成されている。
【0043】
また、これら第1壁31a、第2壁31b,31b、第3壁31c,31cの高さ方向の寸法は、互いに一致しており、上記シリンダブロック11とシリンダヘッド12との合わせ面部分を十分に覆い隠すことができる寸法(例えば50mm程度)に設定されている。
【0044】
更に、上記各第2壁31b,31bの水平方向の長さ寸法(気筒列方向の長さ寸法であって、図2における寸法A)は、上記各突出部11d,11d、12d,12dの突出寸法(上記内側面11f,11f、12f,12fの水平方向の寸法:図2における寸法a(より詳しくは後述する凹部11h,12hが形成されている部分での長さ寸法))に対して僅かに(数mm程度)長く設定されている。
【0045】
尚、上記突出部11d,11d、12d,12dの先端面11g,11g、12g,12gには、上記シール部材30の各第3壁31c,31cを嵌め込むための凹部11h,11h、12h,12hが形成されている。具体的に、シリンダブロック11に形成されている凹部11h,11hは、このシリンダブロック11の先端面11g,11gの上端部に設けられており、その高さ寸法は、上記シール部材本体31の高さ寸法の約半分に設定され、深さ寸法(気筒列方向の凹陥寸法)はシール部材本体31の厚さ寸法に対して略一致するか又は僅かに長く設定されている。一方、シリンダヘッド12に形成されている凹部12h,12hは、このシリンダヘッド12の先端面12g,12gの下端部に設けられており、その高さ寸法は、上記シール部材本体31の高さ寸法の約半分に設定され、深さ寸法(気筒列方向の凹陥寸法)はシール部材本体31の厚さ寸法に対して略一致するか又は僅かに長く設定されている。このため、上記シリンダブロック11の上面にシリンダヘッド12が重ね合わされた状態では、各凹部11h、12hが連続した矩形状の凹部として形成され、その凹陥形状が上記シール部材本体31の第3壁31cの形状に略一致することになる。
【0046】
一方、上記シリコーン系FIPG(以下、単にFIPGと呼ぶ)32は、シール部材本体31のうち、シリンダブロック11、シリンダヘッド12、タイミングチェーンカバー18に当接する面にそれぞれ予め塗布されている。
【0047】
具体的には、図4に示すように、上記第1壁31a、第2壁31b,31b、第3壁31c,31cそれぞれにおけるシリンダブロック11およびシリンダヘッド12に対向する面の全面、第3壁31c,31cにおけるタイミングチェーンカバー18に対向する面の全面に塗布されている。つまり、第1壁31aおよび第2壁31bにおいては片面のみにFIPG32が塗布されており、第3壁31cにおいては表裏両面にFIPG32が塗布されている。
【0048】
このFIPG32をシール部材本体31の各領域に塗布する際の作業としては、そのシール部材本体31におけるFIPG塗布領域を予めプラズマ洗浄しておく。これにより、シール部材本体31に対するFIPG32の密着性が良好に得られ、シール性の向上に寄与させることができる。
【0049】
−エンジン組み立て作業−
以上の如く構成されたシール部材30を使用した上記三面合わせ部のシール構造を構築するためのエンジン組み立て作業について以下に説明する。
【0050】
先ず、シリンダブロック11の上面にシリンダヘッド12を重ね合わせ、これらを図示しないヘッドボルトによって一体的に組み付ける。これにより、上記シリンダブロック11およびシリンダヘッド12の先端面11g、12gにそれぞれ形成されている凹部11h、12h同士が連続した凹部として形成される。この凹部の凹陥形状は、上述した如く上記シール部材本体31の第3壁31cの形状に略一致する。
【0051】
その後、図2および図3に示すように、シリンダブロック11の上面およびシリンダヘッド12の下面である合わせ面の境界部分を覆うように、シリンダブロック11およびシリンダヘッド12の側方からシール部材30を貼り付ける。つまり、上記凹部11h、12h同士が連続して形成される凹部にシール部材本体31の第3壁31cを嵌め込むようにして、このシール部材30の第1壁31aをシリンダブロック11およびシリンダヘッド12の各側面11e,12eにFIPG32を介在させた状態で接触させ、シール部材30の第2壁31b,31bをシリンダブロック11およびシリンダヘッド12の各内側面11f,12fにFIPG32を介在させた状態で接触させる。これにより、シール部材30の各壁31a,31b,31cとシリンダブロック11およびシリンダヘッド12との間には、その全体に亘ってFIPG32が介在されることになる。
【0052】
その後、図3に示すようにシリンダブロック11およびシリンダヘッド12に対してタイミングチェーンカバー18を覆い被せることで、これらシリンダブロック11およびシリンダヘッド12とタイミングチェーンカバー18との間でシール部材30を挟持して、これら部材間をシールする。尚、このタイミングチェーンカバー18は、シリンダブロック11およびシリンダヘッド12に対してボルト止めされる。
【0053】
この場合、上述した如く、シリンダブロック11およびシリンダヘッド12の突出部11d,11d、12d,12dの先端面11g,11gには、上記シール部材30の第3壁31cを嵌め込むための凹部11h、12hが形成されているので、このシリンダブロック11およびシリンダヘッド12の突出部11d,11d、12d,12dの先端面11g,11g、12g,12gとシール部材30の第3壁31c,31cの前面(タイミングチェーンカバー18側に向かう面)とは略面一となる。このため、上記シリンダブロック11およびシリンダヘッド12の先端面11g,11g、12g,12gと、タイミングチェーンカバー18のフランジ部18c,18cとは隙間無く重なり合わされることになる。そして、上記シール部材30が適用されてない箇所にあっては、シリンダブロック11およびシリンダヘッド12の先端面11g,11g、12g,12gと、タイミングチェーンカバー18のフランジ部18c,18cとの間に予め塗布されていたFIPG(液状ガスケット)20によってシールされる。また、シール部材30が配設されている箇所にあっては、このシール部材30の第3壁31c,31cの表裏両面に塗布されているFIPG32によって、このシール部材30とシリンダブロック11およびシリンダヘッド12との間、シール部材30とタイミングチェーンカバー18との間がそれぞれシールされる。
【0054】
以上のようにして、シリンダブロック11、シリンダヘッド12、タイミングチェーンカバー18が互いに当接される三面合わせ部がシール部材30によってシールされることになる。
【0055】
このようなシール構造によれば、シリンダブロック11の上面およびシリンダヘッド12の下面である合わせ面の境界部分を覆うように上記シール部材30が取り付けられており、このシール部材30は、上記シリンダブロック11およびシリンダヘッド12とタイミングチェーンカバー18との間で挟持された状態で、三面合わせ部をシールしている。そして、このシール部材30の背面(シリンダブロック11およびシリンダヘッド12に接触する面)では、その全面にFIPG32が存在している。このため、タイミングチェーン収容空間内のオイルがシリンダブロック11とシリンダヘッド12との間の合わせ面間に流れ込んでしまうことが効果的に阻止されることになり、高いシール性を発揮することができる。また、シール部材30の第3壁31c,31cとタイミングチェーンカバー18との間においても、その全体にFIPG32が存在しており、シリンダブロック11およびシリンダヘッド12とタイミングチェーンカバー18との間からオイルが漏れ出てしまうことが効果的に阻止されることになり、この部分においても高いシール性を発揮することができる。また、上述した如く、シール部材本体31の第2壁31b,31bの水平方向の長さ寸法(図2における寸法A)は、上記各突出部11d,11d、12d,12dの突出寸法(図2における寸法a)に対して僅かに長く設定されているため、シリンダブロック11およびシリンダヘッド12とタイミングチェーンカバー18との間でシール部材30を挟持した状態では、このシール部材30が上記シリンダブロック11およびシリンダヘッド12の各側面11e,12eに押し付けられた状態となり、FIPG32に圧縮力を付与することで、高いシール性が発揮される。
【0056】
また、シリンダブロック11、シリンダヘッド12、タイミングチェーンカバー18それぞれの熱膨張量が異なる状況で、これら部材同士の間の隙間(各部材の合わせ面同士の間の隙間)が変化する状況となった場合、その変化に応じてシール部材30のシール部材本体31が僅かに移動し、FIPG32の層の膜厚を大幅に変化させることなしに、上記隙間の変化に応じたシール構造が成形されることになる。例えば、シリンダヘッド12の熱膨張量が他の部材(シリンダブロック11およびタイミングチェーンカバー18)よりも大きくなって、このシリンダヘッド12の先端面12gの位置が変化する状況となった場合、その位置変化に従ってシール部材本体31も移動することになり、このシール部材本体31とシリンダヘッド12の先端面12gとの間のFIPG32の膜厚が大きく変化してしまうことはなく、この膜厚の安定的な維持によって高いシール性が継続的に維持されることになる。
【0057】
以上のように、本実施形態では、シール部材30をシール部材本体31とFIPG32との複合材により構成したことで、従来のFIPGのみによるシール構造(上記隙間の変化に従ってFIPGの膜厚も変化する構成)に比べて、熱膨張量の変化によるシール性の劣化を招くことのないシール構造を得ることができる。
【0058】
(変形例)
上述した実施形態では、シール部材本体31に予めFIPG32を塗布しておくことでシール部材30を構成しておき、このシール部材30を、シリンダブロック11、シリンダヘッド12、タイミングチェーンカバー18の間に組み込むことでシール構造を構成するようにしていた。
【0059】
これに代えて、シール部材本体31のみでシール部材30を構成しておくと共に、シリンダブロック11、シリンダヘッド12、タイミングチェーンカバー18の所定領域(シールすべき領域)にFIPG32を塗布しておき、シール部材本体31を、シリンダブロック11、シリンダヘッド12、タイミングチェーンカバー18の間に組み込むことでシール構造を構成するようにしてもよい。
【0060】
また、上述した実施形態では、シール部材30の第1壁31a、第2壁31b,31b、第3壁31c,31cそれぞれにおけるシリンダブロック11およびシリンダヘッド12に対向する面の全面にFIPG32を塗布するようにしていた。これに代えて、上記第1壁31a、第2壁31b,31b、第3壁31c,31cそれぞれにおける上端縁部および下端縁部のみにFIPG32を塗布するようにしてもよい。この場合、シリンダブロック11とシリンダヘッド12との合わせ面部分をFIPG32によってに直接的に塞ぐといったことなしに、この合わせ面同士の間でのオイル漏れを防止するといったシール構造が構築されることになり、使用するFIPG32の量を必要最小限に抑えながらも有効なシール性を確保することができる。尚、この場合にも、シリンダブロック11、シリンダヘッド12、タイミングチェーンカバー18の所定領域(シールすべき領域)にFIPG32を予め塗布しておくようにすることもできる。
【0061】
また、上述した実施形態および変形例におけるシール材としては、上述したFIPG32に代えて、以下の構成としてもよい。
【0062】
先ず、上記FIPG32に代えて、シール部材本体31に一体成形されたゴム材でシール材を構成するものである。このゴム材としては、シリコンゴム等の種々のゴム材料が適用可能であるが、粘着性を有していることが好ましい。
【0063】
また、シール材を、シール部材本体31に予め塗布された粘着材とするものである。この場合、シリンダブロック11およびシリンダヘッド12への貼り付け時に除去される保護紙によって粘着材を保護しておくことが好ましい。これによれば、粘着材の粘着性を高く維持することができ、高いシール性を発揮させることができる。尚、適用可能な粘着材としては、ゴム系、アクリル系、ビニルアルキルエーテル系、シリコーン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ウレタン系等が挙げられる。
【0064】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態も三面合わせ部(シリンダブロック11とシリンダヘッド12とタイミングチェーンカバー18とが互いに重ね合わされる部分)のシール構造であって、シール部材の構成およびそれによるシール構造が上記実施形態のものとは異なっている。その他の構成は上記実施形態のものと略同一である。従って、ここでは、シール部材の構成およびそれによるシール構造について主に説明する。
【0065】
図5は、本実施形態におけるシリンダブロック11、シリンダヘッド12、タイミングチェーンカバー18を概略的に示す分解斜視図である。また、図6は、シリンダブロック11、シリンダヘッド12、タイミングチェーンカバー18が一体的に組み付けられた状態を概略的に示す斜視図である(タイミングチェーンカバー18を仮想線で示している)。
【0066】
これらシリンダブロック11、シリンダヘッド12、タイミングチェーンカバー18の構成は、上記実施形態のものと同様である。
【0067】
本実施形態の特徴とする部材であるシール部材40について以下に説明する。
【0068】
−シール部材40−
本実施形態におけるシール部材40は、金属(例えばアルミニウムやステンレス等)の板材により形成されたシール部材本体41と、このシール部材本体41の表面の所定領域に塗布されたシリコーン系FIPG42とにより構成されている。以下、具体的に説明する。
【0069】
図7(a)はシール部材40の正面図(エンジン10に組み込まれた状態においてタイミングチェーンカバー18側から見た図)、図7(b)はシール部材40の平面図、図7(c)はシール部材40の側面図(エンジン10に組み込まれた状態において気筒列方向に対して直交する水平方向から見た図)である。また、これら図7(a)〜(c)ではシリコーン系FIPG42が塗布されている領域にドットを付している。
【0070】
図5および図7に示すように、シール部材本体41は、上記シリンダブロック11およびシリンダヘッド12の各凹陥部11c,12cに沿う形状に形成されている。具体的には、金属製の板材が折り曲げ加工されて形成されるベース体43と、このベース体43に接着または溶接により一体的に取り付けられたフランジ板44,44とを備えている。
【0071】
上記ベース体43は、上記シリンダヘッド12の凹陥部12cの形状に沿うように形成された第1鉛直部45、この第1鉛直部45の下端から外方に向けて水平に延びる第1水平部(挿入部)46、この第1水平部46の外側端から約180°折り返されて内方に向けて水平に延びる第2水平部(挿入部)47、この第2水平部47の内方端から鉛直下方に延び、上記シリンダブロック11の凹陥部11cの形状に沿うように形成された第2鉛直部48を備えている。以下、詳しく説明する。
【0072】
上記第1鉛直部45は、平面視がコ字状に形成され、上記シリンダヘッド12の凹陥部12cを構成する上記側面12eに沿う第1壁45aと、内側面12f,12fに沿う第2壁45b,45bとを有している。また、この第2壁45b,45bの水平方向の長さ寸法(気筒列方向の長さ寸法であって、図5における寸法A)は、上記シリンダヘッド12の突出部12d,12dの突出寸法(上記内側面12f,12fの水平方向の寸法:図5における寸法a(より詳しくは凹部12h,12hが形成されている部分での長さ寸法))に対して僅かに(数mm程度)長く設定されている。
【0073】
また、第1水平部46は、上記第1鉛直部45の下端から90°外側に折り曲げられて形成され、その水平方向の長さ寸法は、上記シリンダヘッド12の突出部12dの幅寸法に対して約半分に設定されている。
【0074】
また、第2水平部47は、上述した如く第1水平部46の外側端から約180°折り返されて内方に向けて水平に延びており、その水平方向の長さ寸法も、上記シリンダヘッド12の突出部12dの幅寸法に対して約半分に設定されている。
【0075】
更に、第2鉛直部48は、上記第2水平部47の内側端から90°下側に折り曲げられて平面視がコ字状に形成され、上記シリンダブロック11の凹陥部11cを構成する上記側面11eに沿う第1壁48aと、内側面11f,11fに沿う第2壁48b,48bとを有している。また、この第2壁48b,48bの水平方向の長さ寸法(気筒列方向の長さ寸法であって、図5における寸法A)も、上記シリンダブロック11の突出部11d,11dの突出寸法(上記内側面11f,11fの水平方向の寸法:図5における寸法a(より詳しくは凹部11h,11hが形成されている部分での長さ寸法))に対して僅かに(数mm程度)長く設定されている。また、上述した如く、上記第1水平部46と第2水平部47とはその幅寸法(水平方向の寸法)が互いに一致しているため、上記第1鉛直部45と第2鉛直部48とは鉛直方向で略面一に配設されている。また、これら第1鉛直部45および第2鉛直部48の高さ方向の寸法は、互いに一致しており、上記シリンダブロック11とシリンダヘッド12との合わせ面部分を十分に覆い隠すことができる寸法(例えばそれぞれが30mm程度)に設定されている。
【0076】
一方、フランジ板44は、上記ベース体43の先端面(タイミングチェーンカバー18側の先端面)に接合されており、上記シリンダブロック11およびシリンダヘッド12とタイミングチェーンカバー18との間に挟持される部分である。また、このフランジ板44の高さ寸法は上記ベース体43の高さ寸法に略一致しているのに対し、水平方向の寸法(気筒列方向に直交する水平方向の寸法)は上記シリンダブロック11およびシリンダヘッド12の突出部11d,12dの先端面11g,12gの幅寸法(同じく、気筒列方向に直交する水平方向の寸法)に略一致している。
【0077】
尚、本実施形態における上記突出部11d,11d、12d,12dの先端面11g,11g、12g,12gには、上記シール部材40の各フランジ板44,44を嵌め込むための凹部11h,11h、12h,12hが形成されている。この凹部11h,11h、12h,12hの形状としては、上述した第1実施形態のものとは高さ寸法が異なっているのみであるので、ここでの詳細な説明は省略するが、上記シリンダブロック11の上面にシリンダヘッド12が重ね合わされた状態では、各凹部11h、12hが連続した矩形状の凹部として形成され、その凹陥形状が上記フランジ板44の形状に略一致することになる。
【0078】
一方、上記シリコーン系FIPG(以下、単にFIPGと呼ぶ)42は、シール部材本体41のうち、シリンダブロック11、シリンダヘッド12、タイミングチェーンカバー18に当接する面にそれぞれ予め塗布されている。
【0079】
具体的には、上記第1鉛直部45、第2鉛直部48およびフランジ板44それぞれにおけるシリンダブロック11およびシリンダヘッド12に対向する面の全面、第1水平部46および第2水平部47それぞれにおけるシリンダブロック11およびシリンダヘッド12の合わせ面(シリンダブロック11の上面およびシリンダヘッド12の下面)に対向する面の全面、フランジ板44におけるタイミングチェーンカバー18に対向する面の全面に塗布されている。つまり、第1鉛直部45、第2鉛直部48、第1水平部46および第2水平部47においては片面のみにFIPG42が塗布されており、フランジ板44においては表裏両面にFIPG42が塗布されている。
【0080】
尚、図5における50は、シリンダブロック11とシリンダヘッド12との合わせ面間に配設されたメタルガスケットである。このメタルガスケット50は、図5および図8(図6におけるVIII−VIII線に沿った断面図)に示すように、上記シリンダブロック11の突出部11d,11dの上面とシリンダヘッド12の突出部12d,12dの下面との間で挟持される腕部51,51を備えている。この腕部51,51は、シリンダブロック11の突出部11dの上面の外側半分およびシリンダヘッド12の突出部12dの下面の外側半分に当接する形状とされている。これにより、シリンダブロック11の突出部11dの上面の内側半分およびシリンダヘッド12の突出部12dの下面の内側半分(図8における右側半分)に、上記シール部材40の第1水平部46および第2水平部47を挿入するための空間を形成するようになっている。
【0081】
−エンジン組み立て作業−
以上の如く構成されたシール部材40を使用した上記三面合わせ部のシール構造を構築するためのエンジン組み立て作業について以下に説明する。
【0082】
先ず、シリンダブロック11の上面に上記メタルガスケット50を介してシリンダヘッド12を重ね合わせ、これらを図示しないヘッドボルトによって一体的に組み付ける。これにより、上記シリンダブロック11およびシリンダヘッド12にそれぞれ形成されている凹部11h、12h同士が連続した凹部として形成される。この凹部の凹陥形状は、上述した如く上記シール部材本体41のフランジ板44の形状に略一致する。また、これらシリンダブロック11とシリンダヘッド12との間において、メタルガスケット50の腕部51の内側には、シール部材40の第1水平部46および第2水平部47を挿入するための空間が形成される。
【0083】
その後、図6および図8に示すように、シリンダブロック11の上面およびシリンダヘッド12の下面である合わせ面の境界部分周辺に第1鉛直部45および第2鉛直部48が沿うように、且つシリンダブロック11の上面とシリンダヘッド12の下面との間の隙間に上記第1水平部46および第2水平部47が嵌り込むように、シリンダブロック11およびシリンダヘッド12の側方からシール部材40を装着する。つまり、上記凹部11h、12h同士が連続して形成される凹部にシール部材本体41のフランジ板44を嵌め込むようにして、このシール部材40の第1鉛直部45および第2鉛直部48をシリンダブロック11およびシリンダヘッド12の各面11e,12e、11f,12fにFIPG42を介在させた状態で接触させる。これにより、シール部材40の第1鉛直部45および第2鉛直部48とシリンダブロック11およびシリンダヘッド12との間には、その全体に亘ってFIPG42が介在されることになる。また、シール部材40の第1水平部46および第2水平部47とシリンダブロック11の上面およびシリンダヘッド12の下面との間にも、その全体に亘ってFIPG42が介在されることになる。
【0084】
その後、シリンダブロック11およびシリンダヘッド12に対してタイミングチェーンカバー18を覆い被せることで、これらシリンダブロック11およびシリンダヘッド12とタイミングチェーンカバー18との間でシール部材40を挟持して、これら部材間をシールする。
【0085】
この場合、上述した如く、シリンダブロック11およびシリンダヘッド12の突出部11d,11d、12d,12dの先端面11g,11g、12g,12gには、上記シール部材40のフランジ板44を嵌め込むための凹部11h、12hが形成されているので、このシリンダブロック11およびシリンダヘッド12の突出部11d,11d、12d,12dの先端面11g,11g、12g,12gとシール部材40のフランジ板44,44の前面(タイミングチェーンカバー18側に向かう面)とは略面一となる。このため、上記シリンダブロック11およびシリンダヘッド12の先端面11g,11g、12g,12gと、タイミングチェーンカバー18のフランジ部18c,18cとは隙間無く重なり合わされることになる。そして、上記シール部材40が適用されてない箇所にあっては、シリンダブロック11およびシリンダヘッド12の先端面11g,11g、12g,12gと、タイミングチェーンカバー18のフランジ部18c,18cとの間に予め塗布されていた上記液状ガスケット20によってシールされる。また、シール部材40が配設されている箇所にあっては、このシール部材40のフランジ板44の表裏両面に塗布されているFIPG42によって、このシール部材40とシリンダブロック11およびシリンダヘッド12との間、シール部材40とタイミングチェーンカバー18との間がそれぞれシールされる。
【0086】
以上のようにして、シリンダブロック11、シリンダヘッド12、タイミングチェーンカバー18が互いに当接される三面合わせ部がシール部材40によってシールされることになる。
【0087】
このようなシール構造によれば、シリンダブロック11の上面およびシリンダヘッド12の下面である合わせ面の境界部分を覆うように、また、シリンダブロック11の上面とシリンダヘッド12の下面との間の隙間を埋めるように上記シール部材40が取り付けられており、このシール部材40は、上記シリンダブロック11およびシリンダヘッド12とタイミングチェーンカバー18との間で挟持された状態で、三面合わせ部をシールしている。そして、このシール部材40の背面(シリンダブロック11およびシリンダヘッド12に接触する面)では、その全面にFIPG42が存在している。このため、タイミングチェーン収容空間内のオイルがシリンダブロック11とシリンダヘッド12との間の合わせ面間に流れ込んでしまうことが効果的に阻止されることになり、高いシール性を発揮することができる。また、シール部材40のフランジ板44,44とタイミングチェーンカバー18との間においても、その全体にFIPG42が存在しており、シリンダブロック11およびシリンダヘッド12とタイミングチェーンカバー18との間からオイルが漏れ出てしまうことが効果的に阻止されることになり、この部分においても高いシール性を発揮することができる。また、上述した如く、シール部材本体41の各鉛直部45,48の水平方向の長さ寸法(図5における寸法A)は、上記各突出部11d,11d、12d,12dの突出寸法(図5における寸法a)に対して僅かに長く設定されているため、シリンダブロック11およびシリンダヘッド12とタイミングチェーンカバー18との間でシール部材40を挟持した状態では、このシール部材40が上記シリンダブロック11およびシリンダヘッド12の各側面11e,12eに押し付けられた状態となり、FIPG42に圧縮方向の圧力を付与することで、高いシール性が発揮されるようになっている。
【0088】
また、本実施形態においても、シリンダブロック11、シリンダヘッド12、タイミングチェーンカバー18それぞれの熱膨張量が異なる状況で、これら部材同士の間の隙間(各部材の合わせ面同士の間の隙間)が変化する状況となった場合、その変化に応じてシール部材40のシール部材本体41が僅かに移動し、FIPG42の層の膜厚を大幅に変化させることなしに、上記隙間の変化に応じたシール構造が成形されることになる。このため、FIPG42の膜厚の安定的な維持によって高いシール性が継続的に維持されることになる。特に、本実施形態にあっては、シール部材本体41を板材の曲げ加工により形成したことで、各鉛直部45,48や各水平部46,47はバネ性を有しているため、その弾性変形によって容易に変位することができ、FIPG42の層の膜厚を安定的に維持させることができる。
【0089】
更に、本実施形態の構成によれば、シール部材本体41の各水平部46,47をシリンダブロック11とシリンダヘッド12との合わせ面同士の間の隙間に挿入していることで、これらシリンダブロック11およびシリンダヘッド12にシール部材40を保持する機能を付加することもでき、シール部材40を保持するための特別な部材を必要とすることなしに、このシール部材40の取り付け位置を安定的に維持することができる。その結果、シール部材40の位置ずれによるシール不良を招くことがなくなり、安定したシール性を確保できる。
【0090】
(変形例)
本実施形態においても、上述した第1実施形態の場合と同様の変形例を適用することができる。
【0091】
つまり、シリンダブロック11、シリンダヘッド12、タイミングチェーンカバー18の所定領域(シールすべき領域)にFIPG42を塗布しておき、FIPG42が塗布されていないシール部材本体41を、シリンダブロック11、シリンダヘッド12、タイミングチェーンカバー18の間に組み込むことでシール構造を構成するものである。
【0092】
また、第2実施形態の場合、シリンダブロック11とシリンダヘッド12との合わせ面同士の間の隙間にシール部材本体41の各水平部46,47が挿入されるため、この合わせ面同士の間のみにFIPG42を塗布しておくことで、各水平部46,47の挿入時に、シリンダブロック11およびシリンダヘッド12の側面11e,12eや各内側面11f,12fにFIPG42が流れ出すことになる。これにより、この流れ出したFIPG42によって、シール部材本体41の各鉛直部45,48とシリンダブロック11およびシリンダヘッド12との間にFIPG42を充填させてシール構造を構成することができる。
【0093】
また、シール材を、シール部材本体41に一体成形されたゴム材とするものである。
【0094】
更には、シール材を、シリンダブロック11およびシリンダヘッド12への貼り付け時に除去される保護紙によって保護された粘着材とするものである。
【0095】
−その他の実施形態−
以上説明した各実施形態では、シール部材本体31,41を金属製としたが、合成樹脂製としてもよい。
【0096】
また、自動車用エンジンに限らず、他の用途に使用されるエンジンの構成部材の合わせ面部分に対しても本発明は適用可能である。また、三面合わせ部以外の箇所(例えば、シリンダヘッド12とシリンダヘッドカバー13との間)におけるシール構造としても本発明は適用可能である。
【0097】
また、シール部材30、40の一部(第3壁31cやフランジ板44)を嵌め込むための凹部11h,12hをシリンダブロック11およびシリンダヘッド12に形成するようにしていたが、タイミングチェーンカバー18に同様の凹部を形成する構成としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】実施形態に係るエンジンの外観の概略を示す側面図である。
【図2】第1実施形態におけるシリンダブロック、シリンダヘッド、タイミングチェーンカバーを概略的に示す分解斜視図である。
【図3】第1実施形態におけるシリンダブロック、シリンダヘッド、タイミングチェーンカバーが一体的に組み付けられた状態を概略的に示す斜視図である。
【図4】第1実施形態に係るシール部材を示す図であって、図4(a)は正面図、図4(b)は平面図、図4(c)は背面図である。
【図5】第2実施形態におけるシリンダブロック、シリンダヘッド、タイミングチェーンカバーを概略的に示す分解斜視図である。
【図6】第2実施形態におけるシリンダブロック、シリンダヘッド、タイミングチェーンカバーが一体的に組み付けられた状態を概略的に示す斜視図である。
【図7】第2実施形態に係るシール部材を示す図であって、図7(a)は正面図、図7(b)は平面図、図7(c)は側面図である。
【図8】図6におけるVIII−VIII線に沿った断面図である。
【符号の説明】
【0099】
10 エンジン(内燃機関)
11 シリンダブロック(内燃機関構成部材)
12 シリンダヘッド(内燃機関構成部材)
11e,12e 側面(シール外壁面)
11f,12f 内側面(シール外壁面)
11g,12g 先端面(シール外壁面)
18 タイミングチェーンカバー(内燃機関構成部材)
30,40 シール部材
31,41 シール部材本体
32,42 シリコーン系FIPG(シール材)
46 第1水平部(挿入部)
47 第2水平部(挿入部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一体的に組み付けられる複数の内燃機関構成部材の合わせ面同士の間での流体漏れを防止するための内燃機関のシール構造において、
上記複数の内燃機関構成部材の外壁面のうち、上記合わせ面同士の間の隙間が臨む側の外壁であるシール外壁面に沿う形状に形成された金属製または合成樹脂製のシール部材本体が、上記合わせ面同士の間の隙間を覆うように配設され、このシール部材本体の表面とシール外壁面との間にシール材が介在されて成ることを特徴とする内燃機関のシール構造。
【請求項2】
上記請求項1記載の内燃機関のシール構造において、
上記シール材は、上記シール部材本体と、このシール部材本体が対面する内燃機関構成部材のシール外壁面との間の全域に亘って介在されていることを特徴とする内燃機関のシール構造。
【請求項3】
上記請求項1記載の内燃機関のシール構造において、
上記シール材は、上記シール部材本体と、このシール部材本体が対面する内燃機関構成部材のシール外壁面との間の領域のうちの外縁部分にのみ介在されていることを特徴とする内燃機関のシール構造。
【請求項4】
上記請求項1、2または3記載の内燃機関のシール構造において、
上記シール部材本体は、複数の内燃機関構成部材の合わせ面同士の間の隙間に挿入される挿入部を備えており、この挿入部の外面と各内燃機関構成部材の上記合わせ面との間にもシール材が介在されていることを特徴とする内燃機関のシール構造。
【請求項5】
上記請求項1〜4のうち何れか一つに記載の内燃機関のシール構造において、
上記シール材は、シリコーン系FIPGであることを特徴とする内燃機関のシール構造。
【請求項6】
上記請求項5記載の内燃機関のシール構造において、
上記シール部材本体においてシール材が設けられる面は予めプラズマ洗浄されていることを特徴とする内燃機関のシール構造。
【請求項7】
上記請求項1〜4のうち何れか一つに記載の内燃機関のシール構造において、
上記シール材は、シール部材本体に一体成形されたゴム材で構成されていることを特徴とする内燃機関のシール構造。
【請求項8】
上記請求項1〜4のうち何れか一つに記載の内燃機関のシール構造において、
上記シール材は、シール部材本体に予め塗布された粘着材であって、内燃機関構成部材のシール外壁面への貼り付け時に除去される保護紙によって保護されていることを特徴とする内燃機関のシール構造。
【請求項9】
上記請求項1〜8のうち何れか一つに記載の内燃機関のシール構造において、
上記内燃機関構成部材は、シリンダブロックおよびシリンダヘッドであることを特徴とする内燃機関のシール構造。
【請求項10】
上記請求項9記載の内燃機関のシール構造において、
上記シール部材本体の表面のうちタイミングチェーンカバーが接触する面にもシール材が設けられていることを特徴とする内燃機関のシール構造。
【請求項11】
上記請求項1〜10のうち何れか一つに記載の内燃機関のシール構造に使用されるシール部材であって、
上記シール部材本体の表面のうち内燃機関構成部材に接触する面に予めシール材が塗布または接着されていることを特徴とするシール部材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2010−31790(P2010−31790A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−196227(P2008−196227)
【出願日】平成20年7月30日(2008.7.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】