内燃機関のピストン
【課題】内燃機関のピストンに関し、簡素な構成で冷却性を向上させる。
【解決手段】ロアピストン2及びアッパピストン3間に、アッパピストン3の摺動量に応じて容積が変化する第一油室5と、付勢部材4が配置される付勢室6とを形成する。また、ロアピストン2及びアッパピストン3が互いに摺動自在に接触する摺接面7を付勢室6に隣接して設ける。
さらに、アッパピストン3の外周面3eから摺接面7までを貫通する油穴3tを設けるとともに、ロアピストン2内に第一通路2pを形成する。油穴3t及び第一通路2pの連通状態は、燃焼室16の容積の変化に応じて変化するものとする。また、アッパピストン3内には、第一油室5と付勢室6とを連通する第二通路3m,3pを設ける。
【解決手段】ロアピストン2及びアッパピストン3間に、アッパピストン3の摺動量に応じて容積が変化する第一油室5と、付勢部材4が配置される付勢室6とを形成する。また、ロアピストン2及びアッパピストン3が互いに摺動自在に接触する摺接面7を付勢室6に隣接して設ける。
さらに、アッパピストン3の外周面3eから摺接面7までを貫通する油穴3tを設けるとともに、ロアピストン2内に第一通路2pを形成する。油穴3t及び第一通路2pの連通状態は、燃焼室16の容積の変化に応じて変化するものとする。また、アッパピストン3内には、第一油室5と付勢室6とを連通する第二通路3m,3pを設ける。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の燃焼室内の圧力に応じて燃焼室容積を変更する圧力感応型の可変圧縮比ピストンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関の圧縮比を可変とする構造の一つとして、ピストン頂面からピストンピン中心までの距離を変更可能としたピストン構造が提案されている。すなわち、ピストンのうち、ピストンピンに支持される部位と燃焼室の底面となる部位とを別体に形成し、これらの相対距離を伸縮させることによって燃焼室の容積を変更して圧縮比を増減させるものである。
【0003】
例えば特許文献1には、ピストンのトランク部(ピストンピンに支持される本体部)に対して、クラウン部(頂面を含む部位)をスライド式に取り付け、これらの間に皿ばねを挿入したピストン構造が記載されている。この技術では、燃焼室の圧力(シリンダ圧力)が閾値を超えたときにクラウン部がトランク部側へと移動し、燃焼室の容積を増大させることによって圧縮比を低下させている。
【0004】
一般に、圧縮比が高いほど燃焼室内の混合気が高温,高圧となり、エンジンの熱効率が上昇する。そのため、例えばエンジンが低負荷,低回転の状態では、圧縮比を上昇させることで燃焼安定性及び燃費を改善できる。一方、圧縮比が高いほど混合気の燃焼反応性の上昇に伴いノッキング(異常燃焼)が発生しやすくなる。そのため、例えばエンジンが高負荷,高回転の状態では、圧縮比を低下させることで燃焼安定性を確保できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第5755192号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のような従来のピストンでは、燃焼室側からクラウン部の内側に伝達された熱の逃げ道がなく、クラウン部の温度上昇を抑制する手段にも乏しい。そのため、クラウン部を移動させるための皿ばねが介装されるクラウン部とトランク部との間の空間内部に熱が籠もりやすく、ピストンの冷却性を向上させることが難しいという課題がある。また、トランク部の下方からのオイル噴射等によって間接的に冷却することも考えられるが、クラウン部自体の温度やクラウン部とトランク部との摺動部分の温度を低下させることは難しく、破損や摩耗が発生しやすい。したがって、ピストンの耐熱疲労性を考慮した部品設計が要求されることになり、製品コストを削減することができない。
【0007】
一方、クラウン部とトランク部との間にエンジンオイルを供給する通路を形成し、エンジンオイルを冷媒として機能させることも考えられる。例えば、コネクティングロッドの内部に形成された油路を介して、エンジンオイルをクラウン部とトランク部との間の空間に供給することで、クラウン部を冷却しながら駆動するものである(特許文献1のFig.10)。しかしながら、このような手法では、油路の構成が複雑となるほか、コネクティングロッドとピストンとの間でのオイル漏れが生じやすく、冷却効率を向上させることができない。さらに、コネクティングロッド及びピストンの両方に油路を形成する必要があり、加工に係るコストも上昇する。
【0008】
本件の目的の一つは、上記のような課題に鑑み創案されたもので、内燃機関のピストンに関し、簡素な構成で冷却性を向上させることである。
なお、この目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも本件の他の目的として位置づけることができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)ここで開示する内燃機関のピストンは、ピストンピンが連結されるロアピストンと燃焼室の底面を成すヘッド部を備えるアッパピストンとの間に付勢部材を介装して前記アッパピストンを気筒軸方向に移動させることで燃焼室容積を可変とする内燃機関のピストンである。
まず、前記ロアピストン及び前記アッパピストン間に形成され、前記ロアピストンに対する前記アッパピストンの摺動量に応じて容積が変化する第一油室と、前記ロアピストン及び前記アッパピストン間で前記第一油室とは別体に形成され、前記付勢部材が配置される付勢室とを備える。
また、前記付勢室に隣接して形成され、前記ロアピストン及び前記アッパピストンが互いに摺動自在に接触する摺接面と、気筒内壁と対向する前記アッパピストンの外周面から前記摺接面までを貫通する油穴とを備える。さらに、前記ロアピストン内に形成され、前記第一油室と前記摺接面との間を連通し、前記燃焼室容積の変化に応じて前記油穴との連通状態が変化する第一通路と、前記アッパピストン内に形成され、前記第一油室と前記付勢室とを連通する第二通路とを備える。
【0010】
前記ロアピストンに対する前記アッパピストンの移動により前記第一油室の容積が減少すると、油が前記第一油室から前記第一通路を通って前記付勢室へと流動する。また、前記付勢室の油は、前記第一油室の容積が増大したときに吸引され、再び前記第一油室へと流動する。このように、前記アッパピストン,前記第一油室及び前記付勢室が油圧ポンプとして機能する。
【0011】
また、前記第一油室の容積が増大したときには、油が前記油穴からも吸引されて前記第一油室に補充される。このように、前記アッパピストン,前記第一通路及び前記油穴は、ピストン外部から油を吸引する真空ポンプとして機能する。なお、前記ピストンは、例えば車両や船舶,航空機,産業用機械等に搭載されるガソリンエンジン,ディーゼルエンジン等の内燃機関に用いて好適である。
【0012】
(2)また、前記ロアピストン及び前記アッパピストンが摺動自在に嵌合する凹部及び凸部を有し、前記第一油室が、前記凹部及び前記凸部に囲まれてなることが好ましい。これにより、空間の容積の変化は、前記ロアピストンに対する前記アッパピストンの相対移動距離に応じたものとなる。
(3)また、前記第二通路上に設けられ、前記第一油室側への油の逆流を遮断する逆止弁を備えることが好ましい。
(4)また、前記第二通路が、前記第一油室から前記ヘッド部の裏面に向かって開放されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
開示の内燃機関のピストンによれば、第一油室から第二通路,付勢室,第一通路を通って再び第一油室へと循環する油の流れを生じさせることができる。これにより、ピストンの冷却性を向上させることができる。また、ピストンの伸縮状態に応じて第一通路と油穴との連通状態を変化させることで、摺動部から油が漏洩したとしても、油穴を介してシリンダー内周面の油を補充することができる。これにより、循環する油量を維持することができ、ピストンの冷却性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施形態に係るピストンが適用されたエンジンの模式的な断面構成図である。
【図2】第一実施形態に係るピストンの全体構成を分解して示す模式的な分解斜視図である。
【図3】図2のピストンのうちロアピストンの構成を示す図であり、(a)はその縦断面図、(b)は上面図である。
【図4】図2のピストンのうちアッパピストンの構成を示す図であり、(a)はその下面側を示す斜視図、(b)はその縦断面図、(c)は内部構成を説明するための上面図である。なお(d)は内部構成の変形例を説明するための上面図である。
【図5】図2のピストンのロアピストン及びアッパピストンの組み付け状態を示す縦断面図である。
【図6】図2のピストンの動作を説明するための断面図であり、(a)はピストンが伸長した高圧縮比の状態、(b)はピストンが縮小した低圧縮比の状態を示す。
【図7】第二実施形態に係るピストンの構成を示す図であり、(a)はアッパピストンの縦断面図、(b)はその水平断面図〔図7(a)のA−A断面図〕、(c)は組み付け状態を示す縦断面図である。
【図8】図7のピストンの動作を説明するための断面図であり、(a)はピストンが伸長した高圧縮比の状態、(b)はピストンが縮小した低圧縮比の状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図面を参照して内燃機関のピストンについて説明する。なお、以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができるとともに、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることが可能である。
【0016】
[1.第一実施形態]
[1−1.エンジン]
第一実施形態のピストン1は圧力感応型の可変圧縮比ピストンであり、図1に示す車載のエンジン10に適用される。このエンジン10は、シリンダーブロック11内に複数のシリンダー12を備えた多気筒エンジンであり、図1では複数のシリンダー12のうちの一つを示す。ピストン1は、中空円筒状に形成されたシリンダー12の内周面に沿って往復摺動自在に内装される。また、ピストン1の下部は、ピストンピン22を介してコネクティングロッド19の一端に軸支される。なお、コネクティングロッド19の他端は、クランク軸20の軸心から偏心した中心軸を持つクランクアームに軸支される。ピストン1の往復動作は、コネクティングロッド19を介してクランクアームに伝達され、クランク軸20の回転運動に変換される。
【0017】
シリンダーブロック11の上部には、シリンダー12の天井面を成すシリンダーヘッド13がガスケットを介して固定される。また、シリンダーヘッド13の内部には、各シリンダー12に空気を供給するための吸気ポート14と、シリンダー12内で燃焼した空気を排出するための排気ポート15とが穿孔される。
【0018】
ピストン1の頂面とシリンダー12の内周面とシリンダーヘッド13の下面とで囲まれた空間は、燃料混合気の燃焼室16として機能する。また、吸気ポート14及び排気ポート15のそれぞれの燃焼室16側の端部には、吸気弁17及び排気弁18が設けられる。これらの吸気弁17,排気弁18は、シリンダーヘッド13の上部に設けられる図示しない動弁機構によって各々の動作を個別に制御される。
【0019】
シリンダー12の外周には、その筒面の全体を囲むようにウォータージャケット21が設けられる。ウォータージャケット21の内部には、エンジン冷却水が流通する。燃焼室16内での燃料混合気の燃焼によって昇温したシリンダーブロック11やシリンダーヘッド13は、エンジン冷却水によって冷却される。また、ピストン1の熱もピストン1とシリンダー12との摺接面を介してシリンダーブロック11側に伝達され、エンジン冷却水に吸熱される。一方、本実施形態のピストン1には、ピストン1自身をエンジンオイルで冷却するための冷却構造が適用されている。
【0020】
[1−2.ピストン構成]
[1−2−1.概要]
図2に示すように、ピストン1は、ロアピストン2,アッパピストン3及び皿ばね4の三部材を組み付けて形成される。ロアピストン2は、ピストンピン22を介してコネクティングロッド19に接続される部材であり、アッパピストン3はピストン1の頂面となる部位を有する部材である。アッパピストン3は、ロアピストン2に対してその中心軸C方向(シリンダー12の筒軸方向)に移動可能に設けられる。また、皿ばね4は、円錐台の錐面状に形成された付勢部材であり、ロアピストン2とアッパピストン3との間に挿入される。皿ばね4は、アッパピストン3をシリンダー12の筒軸方向の上向きに付勢する。
【0021】
皿ばね4からアッパピストン3に与えられる付勢力の作用方向は、アッパピストン3の頂面に対して燃焼室16から与えられるシリンダー内圧の作用方向と正反対の向きとなる。したがって、皿ばね4の付勢力がシリンダー内圧よりも高い状態では、アッパピストン3がロアピストン2から離隔する方向に押し上げられる。一方、シリンダー内圧が皿ばね4の付勢力よりも高い状態では、アッパピストン3がロアピストン2に近接する方向に押し縮められる。以下、皿ばね4の付勢力とシリンダー内圧とが釣り合った状態を基準として、ロアピストン2とアッパピストン3との相対距離が短くなったピストン1の状態を縮小状態と呼び、相対距離が長くなったピストン1の状態を伸長状態と呼ぶ。
【0022】
縮小状態では、ピストンピン22の中心からアッパピストン3の頂面までの距離が短くなるため、ピストン1が上死点に位置するときの燃焼室16の容積が増大し、すなわち燃焼室16の圧縮比が低下する。一方、伸長状態ではピストンピン22の中心からアッパピストン3の頂面までの距離が長くなり、燃焼室16の圧縮比が上昇する。
【0023】
[1−2−2.ロアピストン]
続いて、ピストン1を構成する各部材の具合的な内部構造について詳述する。図2,図3(a)に示すように、ロアピストン2には、台座部2a及び突出部2bが設けられる。
【0024】
台座部2aは、コネクティングロッド19の上端に接続される筒状の部位であり、ここにはロアピストン2に連結されるピストンピン22を挿入するためのピン穴22aが穿孔される。ピン穴22aの延設方向はクランク軸20の延在方向に平行である。また、台座部2aをその上面方向から見て、台座部2aの中央からピン穴22aに対して垂直な方向に位置する端部となる外筒面には、下方に向けて延設されたスカート部が形成される。なお、台座部2aの外筒面の径は、シリンダー12の内筒面と同径か、やや小径に形成される。
【0025】
突出部2bは台座部2aよりもさらに小径の二つの筒状体をピストン1の中心軸C方向に連結した形状に形成され、台座部2aの上に固設された部位である。第一筒面2cは、二つの筒状体のうち、突出部2bの下方に位置する筒状体の外筒面に対応し、第二筒面2dは、上方に位置する筒状体の外筒面に対応する。つまり、ロアピストン2は、台座部2aの上に前者の筒状体を固設し、さらにその上に後者の筒状体を固設した格好となる。
【0026】
第一筒面2cの外径は、第二筒面2dの外径よりも小径である。第一筒面2cと第二筒面2dとの間を接続する段部2eは、これらの二つの筒面の半径差に相当する幅を持ち、第一筒面2cの周囲を囲む環状の平面として形成される。本実施形態の段部2eは、第一筒面2c及び第二筒面2dのそれぞれに対して垂直である。
【0027】
また、突出部2bの上方に位置する一方の筒状体の上面2fには、下方に向かって中空円筒状に凹んだへこみ部2m(凹部)が形成される。このへこみ部2mの底面2kは中心軸C上に中心を持つ円形であり、へこみ部2mの内筒面2hは中心軸Cを筒軸とした円筒面である。内筒面2hは、後述するアッパピストン3の突起部3cと摺動する部位であり、突起部3cの外筒面3hの外径に対応する内径を持つ。また、内筒面2hの上端部近傍には、シールリング26を取り付けるための内溝2gが刻設される。シールリング26は、内筒面2hと外筒面3hとの摺接面を封止して隙間を塞ぐための部材であり、オイル漏れを抑制するように機能する。
【0028】
また、突出部2bにはへこみ部2mの内筒面2hと第二筒面2dとを連通する第一通路2pが形成される。この第一通路2pは、図3(b)に示すように、ロアピストン2の中心軸Cに対して垂直な方向に向かって放射状に穿孔された貫通穴である。ここでは、スカート部が形成された台座部2aの両側方に向かって十本の第一通路2pが形成されたものを例示する。
【0029】
第一通路2pが内筒面2hに開放される位置は、アッパピストン3の上面3kが底面2kに最も接近したとき(ピストン31が縮小状態であるとき)に第一通路2pがアッパピストン3の外筒面3hによって完全に閉塞される位置とすることが好ましく、へこみ部2mの底面2kに近接する位置であることが好ましい。本実施形態では、図3(a)に示すように、縦断面で第一通路2pの下面が底面2kと同一平面を成すように、第一通路2pの内筒面2h側の開口位置が設定されている。
【0030】
[1−2−3.アッパピストン]
アッパピストン3には、ヘッド部3a,リング部3b及び突起部3c(凸部)が設けられる。図4(a)は、アッパピストン3を裏返して下方(ロアピストン2側)から見た状態を示す。また、図中の一点鎖線は、アッパピストン3とロアピストン2とを組み付けたときのロアピストン2の中心軸Cを示す。
ヘッド部3aは、燃焼室16の底面を成す部位であり、ロアピストン2の台座部2aと略同径の円盤状に形成される。アッパピストン3は、ヘッド部3aの中心がロアピストン2の中心軸C上に位置するように組み付けられる。
【0031】
リング部3bは、ヘッド部3aの裏面3fの外周縁から下方〔図4(a),(b)中では上方〕に向けて延設された部位である。図4(a)に示すように、リング部3bの形状は中空円筒状であり、その外筒面3e(外周面)にはピストンリング23やオイルリング24を取り付けるための溝23a,24aが刻設される。ピストンリング23は、ピストン1とシリンダー12との隙間を塞ぐための部材であり、ピストン1の熱をシリンダー12側へ伝達するとともに燃焼室16の圧力低下やオイル漏れを抑制するように機能する。また、オイルリング24は、シリンダー12の壁面に付着するエンジンオイルの膜厚を調整する機能を持つ。
【0032】
一方、リング部3bの内筒面3dには、止め輪25を取り付けるための内溝3gが刻設される。止め輪25は、ピストン1の伸長時にロアピストン2の段部2eに当接する部材であり、ロアピストン2と組み合わされたアッパピストン3の脱落を防止するためのストッパーとして機能する。なお、リング部3bの内筒面3dは、アッパピストン3がロアピストン2に組み付けられたときにその第二筒面2dと対向する筒面(摺接面)であり、第二筒面2dの外径よりも大径に形成される。
【0033】
また、リング部3bの内部には、オイルリング24の溝23aの底からリング部3bの内筒面3dまで貫通するオイル穴3t(油穴)が形成される。オイル穴3tは、シリンダー12の内壁と対向するアッパピストン3の外筒面3eと内筒面3dとを連通しており、オイルリング24によってシリンダー12の壁面から掻き出された余剰分のエンジンオイルの通路として機能する。この余剰分のエンジンオイルの一部はピストン1の下方に排出され、また一部はピストン1の内部に補充される。
【0034】
オイル穴3tは、図4(c)に示すように、アッパピストン3をロアピストン2に組み付けたときのロアピストン2の中心軸Cに対して垂直な方向に向かって放射状に穿孔される。さらに、オイル穴3tは、ピストン1の縮小状態でロアピストン2の第一通路2pと連通する位置に形成される。オイル穴3tと第一通路2pとの連通状態は、アッパピストン3とロアピストン2との位置関係によって変化し、言い換えると燃焼室16の容積変化に応じたものとなる。
【0035】
突起部3cは、ヘッド部3aの裏面3fの中央から下方〔図4(a),(b)中では上方〕に向けて円筒状に膨出した部位である。突起部3cの外筒面3hの外径は、ロアピストン2の内筒面2hの内径に対応する大きさであり、例えばロアピストン2の内筒面2hと同径か、内筒面2hよりもやや小径に形成される。これにより、突起部3cはロアピストン2のへこみ部2mに対して摺動自在に嵌合する。
【0036】
また、図4(b)に示すように、突起部3cの内部には、その上面3kからアッパピストン3の内部に向かって掘り下げられた空洞部3m(第二通路の一部)が形成され、空洞部3m内に第二逆止弁3r(逆止弁)が介装される。突起部3cの上面3kに対して開放された空洞である。空洞部3mの平面方向の形状は、例えば図4(c)に示すように、円形状に形成される。空洞部3mの内部には、アッパピストン3を冷却する冷媒としてのエンジンオイル8(油)が充填される。このエンジンオイル8の成分は、エンジン10のオイルパンに貯留される潤滑用のオイルと同一のものである。
【0037】
第二逆止弁3rは、空洞部3m内を流れるエンジンオイル8の流動方向を一方向に制限する弁である。ここでは、第一油室5側から第二通路3p側へのエンジンオイル8の流通が許容されるとともに、第二通路3p側から第一油室5側への流通が遮断される。
さらに、突起部3cの内部には、空洞部3mとヘッド部3aの裏面3fとを連通する第二通路3pが形成される。ヘッド部3aの裏面3fは、皿ばね室6に面した部位である。したがって、第二通路3pは、空洞部3mと皿ばね室6とを連通状態に接続する冷媒通路として機能する。
【0038】
なお、空洞部3mの平面形状は、アッパピストン3の上面の温度分布に応じた形状としてもよい。すなわち、アッパピストン3のうち温度が高温になりやすい部分の下方に空洞部3mが位置するように、空洞部3mの平面形状を設定してもよい。あるいは、図4(d)に示すように、アッパピストン3に要求される強度,剛性を確保することを考慮して、ヘッド部3aの中央から外周縁に向かって放射状に広がった形状の空洞部3mを形成してもよい。
【0039】
[1−2−4.組み付け]
上記のロアピストン2,アッパピストン3及び皿ばね4を組み付けた状態を図5に示す。図5中では、ピストン1の内部構造を示すべく、ピストン1の内部に封入されたエンジンオイル8の表示を省略する。ロアピストン2の上面2fとアッパピストン3の裏面3fとの間には、皿ばね4が挿入される皿ばね室6(付勢室)が形成される。皿ばね4は、その厚み方向に押し縮められた状態で上面2fと裏面3fとの間に挟装され、上面2fと裏面3fとの双方を互いに離隔する方向に常時押圧する。
【0040】
ロアピストン2の第二筒面2dとアッパピストン3の内筒面3dとの間には、それぞれの径の差に応じた僅かな隙間7(摺接面)が形成される。ロアピストン2及びアッパピストン3は、この隙間7を介して互いに摺動する。隙間7は、アッパピストン3とロアピストン2との離接移動時におけるエンジンオイル8の通路として機能する。
【0041】
また、ロアピストン2のへこみ部2mとアッパピストン3の突起部3cとの間には、第一油室5が形成される。第一油室5は、へこみ部2mの内筒面2h及び底面2kと突起部3cの上面3kとによって囲まれた空間である。へこみ部2mと内筒面2hは、突起部3cの外筒面3hと摺動自在に接触している。また、へこみ部2mの底面2kは、皿ばね室6の皿ばね4が最も縮小した状態で突起部3cの上面3kと面接触する。
【0042】
したがって、第一油室5の容積は、底面2kと上面3kとの距離が離れるほど、すなわちアッパピストン3がロアピストン2から離隔する方向に移動するほど増大し、底面2kと上面3kとが接触したときに最小(ほぼゼロ)となる。つまり、第一油室5の容積は、ロアピストン2に対するアッパピストン3の摺動量に応じて変化する。
ピストン1の内部には、第一油室5から空洞部3mを通り、第二通路3pを通過して皿ばね室6を経由し、さらに隙間7を介して第一通路2pに進入し、再び第一油室5に至るエンジンオイル8の循環通路が形成される。この循環経路の中に適量のエンジンオイル8が封入され、ピストン1の伸縮動作に応じてエンジンオイル8が経路内を流通する。
【0043】
これに加えて、ピストン1の内部には、上記のような循環経路とは別個に、オイル穴3tを介して第一通路2pに進入し、第一油室5へと補充されるエンジンオイル8の補給経路が形成される。これにより、隙間7からエンジンオイル8が漏洩したとしても、ピストン1の外部から適量のエンジンオイル8が補充され、ピストン1内を循環するエンジンオイル8の液量が確保される。
【0044】
[1−3.作用]
エンジン10の燃焼サイクル行程とピストン1の内部でのエンジンオイル8の流動との関係について、図6(a),(b)を用いて説明する。ここでは、エンジン10が高負荷であるときに、燃焼サイクル行程の進行に沿ってピストン1が伸縮動作するような状況を想定する。
【0045】
シリンダー内圧が比較的低圧である圧縮行程の初期には、図6(a)に示すように、皿ばね4がアッパピストン3の上面に作用する圧力に抗い、アッパピストン3をロアピストン2から離隔する方向に押し上げ、ピストン1が伸長状態となる。これにより、アッパピストン3の突起部3cの上面3kがロアピストン2の底面2kから離れて、第一油室5の容積が増大する。突起部3cの上面3kは、第一油室5の天井面に相当し、図6(a)中では第一油室5の上方に位置する。このとき、第一油室5の内部にはエンジンオイル8が貯留されており、第二逆止弁3rは閉止状態である。
【0046】
続いて、シリンダー内圧が比較的高圧になる圧縮行程の後期には、図6(b)に示すように、皿ばね4が中心軸C方向に圧縮され、ピストン1が縮小状態となる。これにより、第一油室5の容積が減少して圧力が増大するため、第二逆止弁3rが開放される。したがって、第一油室5内を満たしていたエンジンオイル8が空洞部3mの内部で図8(b)中に白抜き矢印で示す方向へと移動し、第二通路3pを通過して皿ばね室6に供給される。
【0047】
このときエンジンオイル8は、空洞部3mを流通する過程でアッパピストン3から吸熱し、アッパピストン3を冷却する。また、皿ばね室6の内部に供給されたエンジンオイル8は、アッパピストン3の裏面3fや内筒面3d,外筒面3h,皿ばね4等からも熱を吸収する。
【0048】
一方、アッパピストン3の上面3kとロアピストン2の底面2kとが接触した状態になると、第一通路2pの内筒面2h側の開口が閉鎖される。これにより、エンジンオイル8が空洞部3mから皿ばね室6に至る経路内に貯留される。このとき、アッパピストン3の内筒面3dとロアピストン2の第二筒面2dとの間の隙間7からは、エンジンオイル8がほとんど漏洩しない。また、仮に第一通路2pの内筒面2h側の開口が完全に閉鎖されていなくても、第一通路2pとオイル穴3tとが連通しないため、第一油室5及び第一通路2pは密閉される。
【0049】
その後、膨張行程でシリンダー内圧が低下すると、図6(a)に示すように、ピストン1が再び伸長状態となる。このとき、第一油室5の内部が負圧となり、第二逆止弁3rが閉止状態となる。これにより、図8(a)に白抜き矢印で示すように、隙間7を介して皿ばね室6のエンジンオイル8が第一通路2pに吸引され、第一油室5に移動する。
【0050】
これと同時に、第一通路2pと連通状態となったオイル穴3tからもピストン1外部のエンジンオイル8が吸引される。したがって、隙間7からピストン1の外部にエンジンオイル8が漏出したとしても、シリンダー12の内壁面からエンジンオイル8が第一油室5に補充される。第一油室5に貯留されたエンジンオイル8の熱はロアピストン2の内筒面2h及び底面2kに伝達され、すなわちエンジンオイル8が冷却される。
【0051】
このように、本ピストン1では、第一油室5及びこれに連通する空洞部3mと皿ばね室6とを、隙間7,第一通路2p及び第二通路3pで環状に接続した循環経路が形成される。また、ロアピストン2及びアッパピストン3は、この循環経路内でエンジンオイル8を循環させる油圧ポンプとして機能し、ピストン1の伸縮動作に伴ってエンジンオイル8をピストン31の内部で循環させる。
エンジンオイル8を熱媒体としたアッパピストン3側からロアピストン2側への熱交換は、ピストン1が伸び縮みする度に実施される。すなわち、エンジン10が高負荷のときには燃焼サイクル毎にピストン1が冷却されることになる。
【0052】
また、本ピストン1はピストン1の縮小状態で、ロアピストン2及びアッパピストン3の摺接面である隙間7を挟んで、第一通路2pとオイル穴3tとが連通する構造を備えている。これにより、第一油室5の容積が増大するピストン1の伸長時には、アッパピストン3,第一通路2p及びオイル穴3tがピストン1の外部からエンジンオイル8を吸引する真空ポンプとして機能し、シリンダー12の壁面から掻き出された余剰分のエンジンオイル8がピストン1の内部に補充される。したがって、ピストン1内を循環するエンジンオイル8の流量が十分に確保される。
【0053】
[1−4.効果]
(1)上記のピストン1によれば、エンジンオイル8を循環させることにより、循環経路内での熱的偏りを生じにくくすることができ、ピストン1の冷却性を向上させることができる。例えば、ピストン1の縮小状態ではエンジンオイル8が空洞部3m及び皿ばね室6側へと流入するため、アッパピストン3を冷却することができる。一方、ピストン1の伸長状態では第一油室5の容積が増大してエンジンオイル8が第一油室5側に移動するため、暖められたエンジンオイル8に放熱させることができる。したがって、ピストン1の冷却性を向上させることができる。
【0054】
また、エンジンオイル8の流通方向が常に一定方向となるため、エンジンオイル8の流量を増加させることができ、例えばピストン1が一回伸縮動作したときにアッパピストン3から吸収しうる熱量を増大させることができる。したがって、ピストン1の冷却効率をより高めることができる。
さらに、ピストン1の縮小状態で第一通路2pとオイル穴3tとを連通させることで、隙間7からエンジンオイル8が漏洩したとしても、オイル穴3tを介してシリンダー12の内周面に付着した余剰のエンジンオイル8をピストン1の内部に補充することができる。これにより、循環するエンジンオイル量を安定して維持することができ、ピストン1の冷却性を向上させることができる。
【0055】
また、このようなエンジンオイル8を利用したアッパピストン3側からロアピストン2側への熱交換がエンジン10の燃焼サイクル毎に実施されるため、ピストン1を効率的に冷却することができる。さらに、エンジンオイル8をピストン1の内部で移動させるための構造が簡素であり、製造コストを削減することができる。なお、ピストン1の冷却性が高まることで、アッパピストン3とロアピストン2との摺動部の破損や摩耗を減少させることができるため、低コストで耐熱疲労性を改善することができる。
【0056】
(2)また、上記のピストン1では、ロアピストン2のへこみ部2mとアッパピストン3の突起部3cとが摺動自在に嵌合する構造とし、これらのへこみ部2m及び突起部3cによって囲まれた部位を第一油室5として機能させている。これにより、ピストン1の伸縮動作に合わせて第一油室5の容積を容易に増減させることができ、油圧ポンプ及び真空ポンプとしての機能を実現することができる。
つまり、簡素な構成でエンジンオイル8をピストン1内で流動させることができ、ピストン1の冷却性をさらに向上させることができる。また、エンジンオイル8を補充するための複雑な給油経路を設ける必要がなくなり、ピストン1の製造コストを削減することができる。
【0057】
(3)また、上記のピストン1では、空洞部3mの内部に第二逆止弁3rが介装されているため、第一油室5の圧力に応じてエンジンオイル8の流動方向を制御することができ、循環効率を向上させることができる。これにより、ピストン31の冷却効率を向上させることができる。
【0058】
[2.第二実施形態]
[2−1.構成]
第二実施形態のピストン31は、ロアピストン32,アッパピストン33及び皿ばね4の三部材を組み付けて形成される。このピストン31は、アッパピストン33の内部構造が第一実施形態のピストン1と相違する。ここでは、第一実施形態で説明された要素に対応する要素や同一の要素に同一符号を付してそれらの説明を省略する。アッパピストン33の縦断面を図7(a)に示す。
【0059】
アッパピストン33の内部には、図7(a)に示すように、空洞部3mから突起部3cの外筒面3hに向かって穿孔された第二通路3sが形成される。第二通路3sの外筒面3h側の開口は、アッパピストン33のヘッド部3aの裏面3fに向かって開放されており、これによりエンジンオイル8が裏面3fに対して噴射される。したがって、皿ばね室6の天井面を成す裏面3f全体がエンジンオイル8によって冷却される。
なお、第二通路3sの具体的な形状や本数は任意である。例えば、裏面3fを均一に冷却することを考慮して、図7(b)に示すように、空洞部3mの中央から外側に向かって放射状に複数の第二通路3sを形成してもよい。
【0060】
上記のロアピストン32,アッパピストン33及び皿ばね4を組み付けた状態を図7(c)に示す。ロアピストン32は、第一実施形態のロアピストン2と同一である。ピストン31の内部には、第一油室5から空洞部3mを通り、第二通路3sから皿ばね室6に向かって噴射されるエンジンオイル8の流路が形成され、また、皿ばね室6から隙間7及び第一通路2pを通過して再び第一油室5に至るエンジンオイル8の循環通路が形成される。この循環経路の中に適量のエンジンオイル8が封入され、ピストン31の伸縮動作に応じてエンジンオイル8が経路内を流通する。
【0061】
[2−2.作用]
上記のロアピストン32,アッパピストン33及び皿ばね4を組み付けたピストン31の動作について、図8(a),(b)を用いて説明する。
シリンダー内圧が比較的低圧である状態では、図8(a)に示すように、皿ばね4がアッパピストン33の上面に作用する圧力に抗してアッパピストン33を上方に押圧し、ピストン31が伸長状態となる。アッパピストン33の突起部3cの上面3kはロアピストン32の底面2kから離れており、第一油室5の容積が増大した状態となる。このとき、第一油室5の内部にはエンジンオイル8が貯留されており、第二逆止弁3rは閉止状態である。
【0062】
シリンダー内圧が高圧になると、図8(b)に示すように、皿ばね4が中心軸C方向に圧縮され、ピストン31が縮小状態となる。これにより、第一油室5の容積が減少して圧力が増大するため、第二逆止弁3rが開放される。したがって、第一油室5内のエンジンオイル8が空洞部3mの内部で図8(b)中に白抜き矢印で示す方向へと移動し、第二通路3sを通って皿ばね室6に噴射される。ここで噴射されたエンジンオイル8は、アッパピストン33の裏面3fの全体に満遍なく供給され、アッパピストン33を冷却する。また、皿ばね室6の内部に供給されたエンジンオイル8は、アッパピストン33の内筒面3dや外筒面3h,皿ばね4等からも熱を吸収する。
【0063】
また、アッパピストン33の上面3kとロアピストン32の底面2kとが接触した状態になると、第一通路2pの内筒面2h側の開口が閉鎖され、エンジンオイル8が空洞部3mから皿ばね室6に至る経路内に貯留される。このとき、第一通路2pとオイル穴3tとが非連通状態となり、第一油室5及び第一通路2pが密閉される。
【0064】
その後、シリンダー内圧が低圧になると、ピストン31が再び伸長状態となる。このとき、第一油室5の内部が負圧となり、第二逆止弁3rが閉止状態となる。また、図8(a)に白抜き矢印で示すように、隙間7及び第一通路2pを介して皿ばね室6のエンジンオイル8が第一油室5に吸引される。これと同時に、第一通路2pと連通状態となったオイル穴3tからもピストン1外部のエンジンオイル8が吸引され、シリンダー12の内壁面からエンジンオイル8が第一油室5に補充される。第一油室5に貯留されたエンジンオイル8の熱はロアピストン32の内筒面2h及び底面2kに伝達され、すなわちエンジンオイル8が冷却される。
【0065】
このように、本ピストン31では、第一油室5及びこれに連通する空洞部3mと皿ばね室6とを、隙間7,第一通路2p及び第二通路3sで環状に接続した循環経路が形成される。また、ロアピストン32及びアッパピストン33は、この循環経路内でエンジンオイル8を循環させる油圧ポンプとして機能し、ピストン31の伸縮動作に伴ってエンジンオイル8をピストン31の内部で循環させる。この循環の過程で、エンジンオイル8がアッパピストン33の裏面3fに対して噴射されるため、皿ばね室6へのエンジンオイル8の貯留量が十分でない場合であっても、効率的にアッパピストン33が冷却されることになる。
【0066】
エンジンオイル8を熱媒体としたアッパピストン33側からロアピストン32側への熱交換は、ピストン31が伸び縮みする度に実施される。すなわち、エンジン10が高負荷のときには燃焼サイクル毎にピストン31が冷却される。
また、本ピストン31では、第一油室5の容積が増大するピストン1の伸長時に、アッパピストン3,第一通路2p及びオイル穴3tがピストン1の外部からエンジンオイル8を吸引する真空ポンプとして機能し、シリンダー12の壁面から掻き出された余剰分のエンジンオイル8をピストン1の内部に補充する。これにより、ピストン1内を循環するエンジンオイル8の流量が十分に確保される。
【0067】
[2−3.効果]
(4)上記のピストン31によれば、エンジンオイル8を循環させることにより、循環経路内での熱的偏りを生じにくくすることができ、ピストン31の冷却性を向上させることができる。また、第一実施形態のピストン1と比較して、エンジンオイル8がアッパピストン33の裏面3fに対して噴射されるため、アッパピストン33からの吸熱量を増加させることができ、ピストン31の冷却効率をより高めることができる。
【0068】
[3.変形例]
上記のピストン1,31,41の変形例は多種多様に考えられる。
(1)例えば第一実施形態では、ロアピストン2及びアッパピストン3を組み付けて形成されるピストン1を例示したが、ピストン1を構成する部材はこれに限定されず、三つ以上の部材に分割されたものを組み付けて形成されるものとしてもよい。少なくとも、二つの部材間に付勢部材を介装することで燃焼室16の容積を可変としたピストン1であれば、開示の構造を適用することが可能である。例えば、スカート部がアッパピストン3に形成され、ロアピストン2がアッパピストンの内側に嵌合する構造としてもよい。
【0069】
(2)また、開示のピストン1の適用対象となるエンジン10の燃焼方式や燃料の種類等は任意である。例えば、ディーゼルエンジンであってもよいし、ガソリンエンジンに適用してもよい。車両や船舶,航空機,産業用機械といった様々な機械に搭載される内燃機関のピストンに利用することができる。
【符号の説明】
【0070】
1 ピストン
2 ロアピストン
2m へこみ部(凹部)
2p 第一通路
3 アッパピストン
3c 突起部(凸部)
3f 裏面
3m 空洞部(第二通路)
3p 第二通路
3r 第二逆止弁(逆止弁)
3s 第二通路
3t オイル穴(油穴)
4 皿ばね
5 第一油室
6 皿ばね室(付勢室)
7 隙間(摺接面)
24 オイルリング
24a オイルリング溝
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の燃焼室内の圧力に応じて燃焼室容積を変更する圧力感応型の可変圧縮比ピストンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関の圧縮比を可変とする構造の一つとして、ピストン頂面からピストンピン中心までの距離を変更可能としたピストン構造が提案されている。すなわち、ピストンのうち、ピストンピンに支持される部位と燃焼室の底面となる部位とを別体に形成し、これらの相対距離を伸縮させることによって燃焼室の容積を変更して圧縮比を増減させるものである。
【0003】
例えば特許文献1には、ピストンのトランク部(ピストンピンに支持される本体部)に対して、クラウン部(頂面を含む部位)をスライド式に取り付け、これらの間に皿ばねを挿入したピストン構造が記載されている。この技術では、燃焼室の圧力(シリンダ圧力)が閾値を超えたときにクラウン部がトランク部側へと移動し、燃焼室の容積を増大させることによって圧縮比を低下させている。
【0004】
一般に、圧縮比が高いほど燃焼室内の混合気が高温,高圧となり、エンジンの熱効率が上昇する。そのため、例えばエンジンが低負荷,低回転の状態では、圧縮比を上昇させることで燃焼安定性及び燃費を改善できる。一方、圧縮比が高いほど混合気の燃焼反応性の上昇に伴いノッキング(異常燃焼)が発生しやすくなる。そのため、例えばエンジンが高負荷,高回転の状態では、圧縮比を低下させることで燃焼安定性を確保できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第5755192号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のような従来のピストンでは、燃焼室側からクラウン部の内側に伝達された熱の逃げ道がなく、クラウン部の温度上昇を抑制する手段にも乏しい。そのため、クラウン部を移動させるための皿ばねが介装されるクラウン部とトランク部との間の空間内部に熱が籠もりやすく、ピストンの冷却性を向上させることが難しいという課題がある。また、トランク部の下方からのオイル噴射等によって間接的に冷却することも考えられるが、クラウン部自体の温度やクラウン部とトランク部との摺動部分の温度を低下させることは難しく、破損や摩耗が発生しやすい。したがって、ピストンの耐熱疲労性を考慮した部品設計が要求されることになり、製品コストを削減することができない。
【0007】
一方、クラウン部とトランク部との間にエンジンオイルを供給する通路を形成し、エンジンオイルを冷媒として機能させることも考えられる。例えば、コネクティングロッドの内部に形成された油路を介して、エンジンオイルをクラウン部とトランク部との間の空間に供給することで、クラウン部を冷却しながら駆動するものである(特許文献1のFig.10)。しかしながら、このような手法では、油路の構成が複雑となるほか、コネクティングロッドとピストンとの間でのオイル漏れが生じやすく、冷却効率を向上させることができない。さらに、コネクティングロッド及びピストンの両方に油路を形成する必要があり、加工に係るコストも上昇する。
【0008】
本件の目的の一つは、上記のような課題に鑑み創案されたもので、内燃機関のピストンに関し、簡素な構成で冷却性を向上させることである。
なお、この目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも本件の他の目的として位置づけることができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)ここで開示する内燃機関のピストンは、ピストンピンが連結されるロアピストンと燃焼室の底面を成すヘッド部を備えるアッパピストンとの間に付勢部材を介装して前記アッパピストンを気筒軸方向に移動させることで燃焼室容積を可変とする内燃機関のピストンである。
まず、前記ロアピストン及び前記アッパピストン間に形成され、前記ロアピストンに対する前記アッパピストンの摺動量に応じて容積が変化する第一油室と、前記ロアピストン及び前記アッパピストン間で前記第一油室とは別体に形成され、前記付勢部材が配置される付勢室とを備える。
また、前記付勢室に隣接して形成され、前記ロアピストン及び前記アッパピストンが互いに摺動自在に接触する摺接面と、気筒内壁と対向する前記アッパピストンの外周面から前記摺接面までを貫通する油穴とを備える。さらに、前記ロアピストン内に形成され、前記第一油室と前記摺接面との間を連通し、前記燃焼室容積の変化に応じて前記油穴との連通状態が変化する第一通路と、前記アッパピストン内に形成され、前記第一油室と前記付勢室とを連通する第二通路とを備える。
【0010】
前記ロアピストンに対する前記アッパピストンの移動により前記第一油室の容積が減少すると、油が前記第一油室から前記第一通路を通って前記付勢室へと流動する。また、前記付勢室の油は、前記第一油室の容積が増大したときに吸引され、再び前記第一油室へと流動する。このように、前記アッパピストン,前記第一油室及び前記付勢室が油圧ポンプとして機能する。
【0011】
また、前記第一油室の容積が増大したときには、油が前記油穴からも吸引されて前記第一油室に補充される。このように、前記アッパピストン,前記第一通路及び前記油穴は、ピストン外部から油を吸引する真空ポンプとして機能する。なお、前記ピストンは、例えば車両や船舶,航空機,産業用機械等に搭載されるガソリンエンジン,ディーゼルエンジン等の内燃機関に用いて好適である。
【0012】
(2)また、前記ロアピストン及び前記アッパピストンが摺動自在に嵌合する凹部及び凸部を有し、前記第一油室が、前記凹部及び前記凸部に囲まれてなることが好ましい。これにより、空間の容積の変化は、前記ロアピストンに対する前記アッパピストンの相対移動距離に応じたものとなる。
(3)また、前記第二通路上に設けられ、前記第一油室側への油の逆流を遮断する逆止弁を備えることが好ましい。
(4)また、前記第二通路が、前記第一油室から前記ヘッド部の裏面に向かって開放されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
開示の内燃機関のピストンによれば、第一油室から第二通路,付勢室,第一通路を通って再び第一油室へと循環する油の流れを生じさせることができる。これにより、ピストンの冷却性を向上させることができる。また、ピストンの伸縮状態に応じて第一通路と油穴との連通状態を変化させることで、摺動部から油が漏洩したとしても、油穴を介してシリンダー内周面の油を補充することができる。これにより、循環する油量を維持することができ、ピストンの冷却性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施形態に係るピストンが適用されたエンジンの模式的な断面構成図である。
【図2】第一実施形態に係るピストンの全体構成を分解して示す模式的な分解斜視図である。
【図3】図2のピストンのうちロアピストンの構成を示す図であり、(a)はその縦断面図、(b)は上面図である。
【図4】図2のピストンのうちアッパピストンの構成を示す図であり、(a)はその下面側を示す斜視図、(b)はその縦断面図、(c)は内部構成を説明するための上面図である。なお(d)は内部構成の変形例を説明するための上面図である。
【図5】図2のピストンのロアピストン及びアッパピストンの組み付け状態を示す縦断面図である。
【図6】図2のピストンの動作を説明するための断面図であり、(a)はピストンが伸長した高圧縮比の状態、(b)はピストンが縮小した低圧縮比の状態を示す。
【図7】第二実施形態に係るピストンの構成を示す図であり、(a)はアッパピストンの縦断面図、(b)はその水平断面図〔図7(a)のA−A断面図〕、(c)は組み付け状態を示す縦断面図である。
【図8】図7のピストンの動作を説明するための断面図であり、(a)はピストンが伸長した高圧縮比の状態、(b)はピストンが縮小した低圧縮比の状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図面を参照して内燃機関のピストンについて説明する。なお、以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができるとともに、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることが可能である。
【0016】
[1.第一実施形態]
[1−1.エンジン]
第一実施形態のピストン1は圧力感応型の可変圧縮比ピストンであり、図1に示す車載のエンジン10に適用される。このエンジン10は、シリンダーブロック11内に複数のシリンダー12を備えた多気筒エンジンであり、図1では複数のシリンダー12のうちの一つを示す。ピストン1は、中空円筒状に形成されたシリンダー12の内周面に沿って往復摺動自在に内装される。また、ピストン1の下部は、ピストンピン22を介してコネクティングロッド19の一端に軸支される。なお、コネクティングロッド19の他端は、クランク軸20の軸心から偏心した中心軸を持つクランクアームに軸支される。ピストン1の往復動作は、コネクティングロッド19を介してクランクアームに伝達され、クランク軸20の回転運動に変換される。
【0017】
シリンダーブロック11の上部には、シリンダー12の天井面を成すシリンダーヘッド13がガスケットを介して固定される。また、シリンダーヘッド13の内部には、各シリンダー12に空気を供給するための吸気ポート14と、シリンダー12内で燃焼した空気を排出するための排気ポート15とが穿孔される。
【0018】
ピストン1の頂面とシリンダー12の内周面とシリンダーヘッド13の下面とで囲まれた空間は、燃料混合気の燃焼室16として機能する。また、吸気ポート14及び排気ポート15のそれぞれの燃焼室16側の端部には、吸気弁17及び排気弁18が設けられる。これらの吸気弁17,排気弁18は、シリンダーヘッド13の上部に設けられる図示しない動弁機構によって各々の動作を個別に制御される。
【0019】
シリンダー12の外周には、その筒面の全体を囲むようにウォータージャケット21が設けられる。ウォータージャケット21の内部には、エンジン冷却水が流通する。燃焼室16内での燃料混合気の燃焼によって昇温したシリンダーブロック11やシリンダーヘッド13は、エンジン冷却水によって冷却される。また、ピストン1の熱もピストン1とシリンダー12との摺接面を介してシリンダーブロック11側に伝達され、エンジン冷却水に吸熱される。一方、本実施形態のピストン1には、ピストン1自身をエンジンオイルで冷却するための冷却構造が適用されている。
【0020】
[1−2.ピストン構成]
[1−2−1.概要]
図2に示すように、ピストン1は、ロアピストン2,アッパピストン3及び皿ばね4の三部材を組み付けて形成される。ロアピストン2は、ピストンピン22を介してコネクティングロッド19に接続される部材であり、アッパピストン3はピストン1の頂面となる部位を有する部材である。アッパピストン3は、ロアピストン2に対してその中心軸C方向(シリンダー12の筒軸方向)に移動可能に設けられる。また、皿ばね4は、円錐台の錐面状に形成された付勢部材であり、ロアピストン2とアッパピストン3との間に挿入される。皿ばね4は、アッパピストン3をシリンダー12の筒軸方向の上向きに付勢する。
【0021】
皿ばね4からアッパピストン3に与えられる付勢力の作用方向は、アッパピストン3の頂面に対して燃焼室16から与えられるシリンダー内圧の作用方向と正反対の向きとなる。したがって、皿ばね4の付勢力がシリンダー内圧よりも高い状態では、アッパピストン3がロアピストン2から離隔する方向に押し上げられる。一方、シリンダー内圧が皿ばね4の付勢力よりも高い状態では、アッパピストン3がロアピストン2に近接する方向に押し縮められる。以下、皿ばね4の付勢力とシリンダー内圧とが釣り合った状態を基準として、ロアピストン2とアッパピストン3との相対距離が短くなったピストン1の状態を縮小状態と呼び、相対距離が長くなったピストン1の状態を伸長状態と呼ぶ。
【0022】
縮小状態では、ピストンピン22の中心からアッパピストン3の頂面までの距離が短くなるため、ピストン1が上死点に位置するときの燃焼室16の容積が増大し、すなわち燃焼室16の圧縮比が低下する。一方、伸長状態ではピストンピン22の中心からアッパピストン3の頂面までの距離が長くなり、燃焼室16の圧縮比が上昇する。
【0023】
[1−2−2.ロアピストン]
続いて、ピストン1を構成する各部材の具合的な内部構造について詳述する。図2,図3(a)に示すように、ロアピストン2には、台座部2a及び突出部2bが設けられる。
【0024】
台座部2aは、コネクティングロッド19の上端に接続される筒状の部位であり、ここにはロアピストン2に連結されるピストンピン22を挿入するためのピン穴22aが穿孔される。ピン穴22aの延設方向はクランク軸20の延在方向に平行である。また、台座部2aをその上面方向から見て、台座部2aの中央からピン穴22aに対して垂直な方向に位置する端部となる外筒面には、下方に向けて延設されたスカート部が形成される。なお、台座部2aの外筒面の径は、シリンダー12の内筒面と同径か、やや小径に形成される。
【0025】
突出部2bは台座部2aよりもさらに小径の二つの筒状体をピストン1の中心軸C方向に連結した形状に形成され、台座部2aの上に固設された部位である。第一筒面2cは、二つの筒状体のうち、突出部2bの下方に位置する筒状体の外筒面に対応し、第二筒面2dは、上方に位置する筒状体の外筒面に対応する。つまり、ロアピストン2は、台座部2aの上に前者の筒状体を固設し、さらにその上に後者の筒状体を固設した格好となる。
【0026】
第一筒面2cの外径は、第二筒面2dの外径よりも小径である。第一筒面2cと第二筒面2dとの間を接続する段部2eは、これらの二つの筒面の半径差に相当する幅を持ち、第一筒面2cの周囲を囲む環状の平面として形成される。本実施形態の段部2eは、第一筒面2c及び第二筒面2dのそれぞれに対して垂直である。
【0027】
また、突出部2bの上方に位置する一方の筒状体の上面2fには、下方に向かって中空円筒状に凹んだへこみ部2m(凹部)が形成される。このへこみ部2mの底面2kは中心軸C上に中心を持つ円形であり、へこみ部2mの内筒面2hは中心軸Cを筒軸とした円筒面である。内筒面2hは、後述するアッパピストン3の突起部3cと摺動する部位であり、突起部3cの外筒面3hの外径に対応する内径を持つ。また、内筒面2hの上端部近傍には、シールリング26を取り付けるための内溝2gが刻設される。シールリング26は、内筒面2hと外筒面3hとの摺接面を封止して隙間を塞ぐための部材であり、オイル漏れを抑制するように機能する。
【0028】
また、突出部2bにはへこみ部2mの内筒面2hと第二筒面2dとを連通する第一通路2pが形成される。この第一通路2pは、図3(b)に示すように、ロアピストン2の中心軸Cに対して垂直な方向に向かって放射状に穿孔された貫通穴である。ここでは、スカート部が形成された台座部2aの両側方に向かって十本の第一通路2pが形成されたものを例示する。
【0029】
第一通路2pが内筒面2hに開放される位置は、アッパピストン3の上面3kが底面2kに最も接近したとき(ピストン31が縮小状態であるとき)に第一通路2pがアッパピストン3の外筒面3hによって完全に閉塞される位置とすることが好ましく、へこみ部2mの底面2kに近接する位置であることが好ましい。本実施形態では、図3(a)に示すように、縦断面で第一通路2pの下面が底面2kと同一平面を成すように、第一通路2pの内筒面2h側の開口位置が設定されている。
【0030】
[1−2−3.アッパピストン]
アッパピストン3には、ヘッド部3a,リング部3b及び突起部3c(凸部)が設けられる。図4(a)は、アッパピストン3を裏返して下方(ロアピストン2側)から見た状態を示す。また、図中の一点鎖線は、アッパピストン3とロアピストン2とを組み付けたときのロアピストン2の中心軸Cを示す。
ヘッド部3aは、燃焼室16の底面を成す部位であり、ロアピストン2の台座部2aと略同径の円盤状に形成される。アッパピストン3は、ヘッド部3aの中心がロアピストン2の中心軸C上に位置するように組み付けられる。
【0031】
リング部3bは、ヘッド部3aの裏面3fの外周縁から下方〔図4(a),(b)中では上方〕に向けて延設された部位である。図4(a)に示すように、リング部3bの形状は中空円筒状であり、その外筒面3e(外周面)にはピストンリング23やオイルリング24を取り付けるための溝23a,24aが刻設される。ピストンリング23は、ピストン1とシリンダー12との隙間を塞ぐための部材であり、ピストン1の熱をシリンダー12側へ伝達するとともに燃焼室16の圧力低下やオイル漏れを抑制するように機能する。また、オイルリング24は、シリンダー12の壁面に付着するエンジンオイルの膜厚を調整する機能を持つ。
【0032】
一方、リング部3bの内筒面3dには、止め輪25を取り付けるための内溝3gが刻設される。止め輪25は、ピストン1の伸長時にロアピストン2の段部2eに当接する部材であり、ロアピストン2と組み合わされたアッパピストン3の脱落を防止するためのストッパーとして機能する。なお、リング部3bの内筒面3dは、アッパピストン3がロアピストン2に組み付けられたときにその第二筒面2dと対向する筒面(摺接面)であり、第二筒面2dの外径よりも大径に形成される。
【0033】
また、リング部3bの内部には、オイルリング24の溝23aの底からリング部3bの内筒面3dまで貫通するオイル穴3t(油穴)が形成される。オイル穴3tは、シリンダー12の内壁と対向するアッパピストン3の外筒面3eと内筒面3dとを連通しており、オイルリング24によってシリンダー12の壁面から掻き出された余剰分のエンジンオイルの通路として機能する。この余剰分のエンジンオイルの一部はピストン1の下方に排出され、また一部はピストン1の内部に補充される。
【0034】
オイル穴3tは、図4(c)に示すように、アッパピストン3をロアピストン2に組み付けたときのロアピストン2の中心軸Cに対して垂直な方向に向かって放射状に穿孔される。さらに、オイル穴3tは、ピストン1の縮小状態でロアピストン2の第一通路2pと連通する位置に形成される。オイル穴3tと第一通路2pとの連通状態は、アッパピストン3とロアピストン2との位置関係によって変化し、言い換えると燃焼室16の容積変化に応じたものとなる。
【0035】
突起部3cは、ヘッド部3aの裏面3fの中央から下方〔図4(a),(b)中では上方〕に向けて円筒状に膨出した部位である。突起部3cの外筒面3hの外径は、ロアピストン2の内筒面2hの内径に対応する大きさであり、例えばロアピストン2の内筒面2hと同径か、内筒面2hよりもやや小径に形成される。これにより、突起部3cはロアピストン2のへこみ部2mに対して摺動自在に嵌合する。
【0036】
また、図4(b)に示すように、突起部3cの内部には、その上面3kからアッパピストン3の内部に向かって掘り下げられた空洞部3m(第二通路の一部)が形成され、空洞部3m内に第二逆止弁3r(逆止弁)が介装される。突起部3cの上面3kに対して開放された空洞である。空洞部3mの平面方向の形状は、例えば図4(c)に示すように、円形状に形成される。空洞部3mの内部には、アッパピストン3を冷却する冷媒としてのエンジンオイル8(油)が充填される。このエンジンオイル8の成分は、エンジン10のオイルパンに貯留される潤滑用のオイルと同一のものである。
【0037】
第二逆止弁3rは、空洞部3m内を流れるエンジンオイル8の流動方向を一方向に制限する弁である。ここでは、第一油室5側から第二通路3p側へのエンジンオイル8の流通が許容されるとともに、第二通路3p側から第一油室5側への流通が遮断される。
さらに、突起部3cの内部には、空洞部3mとヘッド部3aの裏面3fとを連通する第二通路3pが形成される。ヘッド部3aの裏面3fは、皿ばね室6に面した部位である。したがって、第二通路3pは、空洞部3mと皿ばね室6とを連通状態に接続する冷媒通路として機能する。
【0038】
なお、空洞部3mの平面形状は、アッパピストン3の上面の温度分布に応じた形状としてもよい。すなわち、アッパピストン3のうち温度が高温になりやすい部分の下方に空洞部3mが位置するように、空洞部3mの平面形状を設定してもよい。あるいは、図4(d)に示すように、アッパピストン3に要求される強度,剛性を確保することを考慮して、ヘッド部3aの中央から外周縁に向かって放射状に広がった形状の空洞部3mを形成してもよい。
【0039】
[1−2−4.組み付け]
上記のロアピストン2,アッパピストン3及び皿ばね4を組み付けた状態を図5に示す。図5中では、ピストン1の内部構造を示すべく、ピストン1の内部に封入されたエンジンオイル8の表示を省略する。ロアピストン2の上面2fとアッパピストン3の裏面3fとの間には、皿ばね4が挿入される皿ばね室6(付勢室)が形成される。皿ばね4は、その厚み方向に押し縮められた状態で上面2fと裏面3fとの間に挟装され、上面2fと裏面3fとの双方を互いに離隔する方向に常時押圧する。
【0040】
ロアピストン2の第二筒面2dとアッパピストン3の内筒面3dとの間には、それぞれの径の差に応じた僅かな隙間7(摺接面)が形成される。ロアピストン2及びアッパピストン3は、この隙間7を介して互いに摺動する。隙間7は、アッパピストン3とロアピストン2との離接移動時におけるエンジンオイル8の通路として機能する。
【0041】
また、ロアピストン2のへこみ部2mとアッパピストン3の突起部3cとの間には、第一油室5が形成される。第一油室5は、へこみ部2mの内筒面2h及び底面2kと突起部3cの上面3kとによって囲まれた空間である。へこみ部2mと内筒面2hは、突起部3cの外筒面3hと摺動自在に接触している。また、へこみ部2mの底面2kは、皿ばね室6の皿ばね4が最も縮小した状態で突起部3cの上面3kと面接触する。
【0042】
したがって、第一油室5の容積は、底面2kと上面3kとの距離が離れるほど、すなわちアッパピストン3がロアピストン2から離隔する方向に移動するほど増大し、底面2kと上面3kとが接触したときに最小(ほぼゼロ)となる。つまり、第一油室5の容積は、ロアピストン2に対するアッパピストン3の摺動量に応じて変化する。
ピストン1の内部には、第一油室5から空洞部3mを通り、第二通路3pを通過して皿ばね室6を経由し、さらに隙間7を介して第一通路2pに進入し、再び第一油室5に至るエンジンオイル8の循環通路が形成される。この循環経路の中に適量のエンジンオイル8が封入され、ピストン1の伸縮動作に応じてエンジンオイル8が経路内を流通する。
【0043】
これに加えて、ピストン1の内部には、上記のような循環経路とは別個に、オイル穴3tを介して第一通路2pに進入し、第一油室5へと補充されるエンジンオイル8の補給経路が形成される。これにより、隙間7からエンジンオイル8が漏洩したとしても、ピストン1の外部から適量のエンジンオイル8が補充され、ピストン1内を循環するエンジンオイル8の液量が確保される。
【0044】
[1−3.作用]
エンジン10の燃焼サイクル行程とピストン1の内部でのエンジンオイル8の流動との関係について、図6(a),(b)を用いて説明する。ここでは、エンジン10が高負荷であるときに、燃焼サイクル行程の進行に沿ってピストン1が伸縮動作するような状況を想定する。
【0045】
シリンダー内圧が比較的低圧である圧縮行程の初期には、図6(a)に示すように、皿ばね4がアッパピストン3の上面に作用する圧力に抗い、アッパピストン3をロアピストン2から離隔する方向に押し上げ、ピストン1が伸長状態となる。これにより、アッパピストン3の突起部3cの上面3kがロアピストン2の底面2kから離れて、第一油室5の容積が増大する。突起部3cの上面3kは、第一油室5の天井面に相当し、図6(a)中では第一油室5の上方に位置する。このとき、第一油室5の内部にはエンジンオイル8が貯留されており、第二逆止弁3rは閉止状態である。
【0046】
続いて、シリンダー内圧が比較的高圧になる圧縮行程の後期には、図6(b)に示すように、皿ばね4が中心軸C方向に圧縮され、ピストン1が縮小状態となる。これにより、第一油室5の容積が減少して圧力が増大するため、第二逆止弁3rが開放される。したがって、第一油室5内を満たしていたエンジンオイル8が空洞部3mの内部で図8(b)中に白抜き矢印で示す方向へと移動し、第二通路3pを通過して皿ばね室6に供給される。
【0047】
このときエンジンオイル8は、空洞部3mを流通する過程でアッパピストン3から吸熱し、アッパピストン3を冷却する。また、皿ばね室6の内部に供給されたエンジンオイル8は、アッパピストン3の裏面3fや内筒面3d,外筒面3h,皿ばね4等からも熱を吸収する。
【0048】
一方、アッパピストン3の上面3kとロアピストン2の底面2kとが接触した状態になると、第一通路2pの内筒面2h側の開口が閉鎖される。これにより、エンジンオイル8が空洞部3mから皿ばね室6に至る経路内に貯留される。このとき、アッパピストン3の内筒面3dとロアピストン2の第二筒面2dとの間の隙間7からは、エンジンオイル8がほとんど漏洩しない。また、仮に第一通路2pの内筒面2h側の開口が完全に閉鎖されていなくても、第一通路2pとオイル穴3tとが連通しないため、第一油室5及び第一通路2pは密閉される。
【0049】
その後、膨張行程でシリンダー内圧が低下すると、図6(a)に示すように、ピストン1が再び伸長状態となる。このとき、第一油室5の内部が負圧となり、第二逆止弁3rが閉止状態となる。これにより、図8(a)に白抜き矢印で示すように、隙間7を介して皿ばね室6のエンジンオイル8が第一通路2pに吸引され、第一油室5に移動する。
【0050】
これと同時に、第一通路2pと連通状態となったオイル穴3tからもピストン1外部のエンジンオイル8が吸引される。したがって、隙間7からピストン1の外部にエンジンオイル8が漏出したとしても、シリンダー12の内壁面からエンジンオイル8が第一油室5に補充される。第一油室5に貯留されたエンジンオイル8の熱はロアピストン2の内筒面2h及び底面2kに伝達され、すなわちエンジンオイル8が冷却される。
【0051】
このように、本ピストン1では、第一油室5及びこれに連通する空洞部3mと皿ばね室6とを、隙間7,第一通路2p及び第二通路3pで環状に接続した循環経路が形成される。また、ロアピストン2及びアッパピストン3は、この循環経路内でエンジンオイル8を循環させる油圧ポンプとして機能し、ピストン1の伸縮動作に伴ってエンジンオイル8をピストン31の内部で循環させる。
エンジンオイル8を熱媒体としたアッパピストン3側からロアピストン2側への熱交換は、ピストン1が伸び縮みする度に実施される。すなわち、エンジン10が高負荷のときには燃焼サイクル毎にピストン1が冷却されることになる。
【0052】
また、本ピストン1はピストン1の縮小状態で、ロアピストン2及びアッパピストン3の摺接面である隙間7を挟んで、第一通路2pとオイル穴3tとが連通する構造を備えている。これにより、第一油室5の容積が増大するピストン1の伸長時には、アッパピストン3,第一通路2p及びオイル穴3tがピストン1の外部からエンジンオイル8を吸引する真空ポンプとして機能し、シリンダー12の壁面から掻き出された余剰分のエンジンオイル8がピストン1の内部に補充される。したがって、ピストン1内を循環するエンジンオイル8の流量が十分に確保される。
【0053】
[1−4.効果]
(1)上記のピストン1によれば、エンジンオイル8を循環させることにより、循環経路内での熱的偏りを生じにくくすることができ、ピストン1の冷却性を向上させることができる。例えば、ピストン1の縮小状態ではエンジンオイル8が空洞部3m及び皿ばね室6側へと流入するため、アッパピストン3を冷却することができる。一方、ピストン1の伸長状態では第一油室5の容積が増大してエンジンオイル8が第一油室5側に移動するため、暖められたエンジンオイル8に放熱させることができる。したがって、ピストン1の冷却性を向上させることができる。
【0054】
また、エンジンオイル8の流通方向が常に一定方向となるため、エンジンオイル8の流量を増加させることができ、例えばピストン1が一回伸縮動作したときにアッパピストン3から吸収しうる熱量を増大させることができる。したがって、ピストン1の冷却効率をより高めることができる。
さらに、ピストン1の縮小状態で第一通路2pとオイル穴3tとを連通させることで、隙間7からエンジンオイル8が漏洩したとしても、オイル穴3tを介してシリンダー12の内周面に付着した余剰のエンジンオイル8をピストン1の内部に補充することができる。これにより、循環するエンジンオイル量を安定して維持することができ、ピストン1の冷却性を向上させることができる。
【0055】
また、このようなエンジンオイル8を利用したアッパピストン3側からロアピストン2側への熱交換がエンジン10の燃焼サイクル毎に実施されるため、ピストン1を効率的に冷却することができる。さらに、エンジンオイル8をピストン1の内部で移動させるための構造が簡素であり、製造コストを削減することができる。なお、ピストン1の冷却性が高まることで、アッパピストン3とロアピストン2との摺動部の破損や摩耗を減少させることができるため、低コストで耐熱疲労性を改善することができる。
【0056】
(2)また、上記のピストン1では、ロアピストン2のへこみ部2mとアッパピストン3の突起部3cとが摺動自在に嵌合する構造とし、これらのへこみ部2m及び突起部3cによって囲まれた部位を第一油室5として機能させている。これにより、ピストン1の伸縮動作に合わせて第一油室5の容積を容易に増減させることができ、油圧ポンプ及び真空ポンプとしての機能を実現することができる。
つまり、簡素な構成でエンジンオイル8をピストン1内で流動させることができ、ピストン1の冷却性をさらに向上させることができる。また、エンジンオイル8を補充するための複雑な給油経路を設ける必要がなくなり、ピストン1の製造コストを削減することができる。
【0057】
(3)また、上記のピストン1では、空洞部3mの内部に第二逆止弁3rが介装されているため、第一油室5の圧力に応じてエンジンオイル8の流動方向を制御することができ、循環効率を向上させることができる。これにより、ピストン31の冷却効率を向上させることができる。
【0058】
[2.第二実施形態]
[2−1.構成]
第二実施形態のピストン31は、ロアピストン32,アッパピストン33及び皿ばね4の三部材を組み付けて形成される。このピストン31は、アッパピストン33の内部構造が第一実施形態のピストン1と相違する。ここでは、第一実施形態で説明された要素に対応する要素や同一の要素に同一符号を付してそれらの説明を省略する。アッパピストン33の縦断面を図7(a)に示す。
【0059】
アッパピストン33の内部には、図7(a)に示すように、空洞部3mから突起部3cの外筒面3hに向かって穿孔された第二通路3sが形成される。第二通路3sの外筒面3h側の開口は、アッパピストン33のヘッド部3aの裏面3fに向かって開放されており、これによりエンジンオイル8が裏面3fに対して噴射される。したがって、皿ばね室6の天井面を成す裏面3f全体がエンジンオイル8によって冷却される。
なお、第二通路3sの具体的な形状や本数は任意である。例えば、裏面3fを均一に冷却することを考慮して、図7(b)に示すように、空洞部3mの中央から外側に向かって放射状に複数の第二通路3sを形成してもよい。
【0060】
上記のロアピストン32,アッパピストン33及び皿ばね4を組み付けた状態を図7(c)に示す。ロアピストン32は、第一実施形態のロアピストン2と同一である。ピストン31の内部には、第一油室5から空洞部3mを通り、第二通路3sから皿ばね室6に向かって噴射されるエンジンオイル8の流路が形成され、また、皿ばね室6から隙間7及び第一通路2pを通過して再び第一油室5に至るエンジンオイル8の循環通路が形成される。この循環経路の中に適量のエンジンオイル8が封入され、ピストン31の伸縮動作に応じてエンジンオイル8が経路内を流通する。
【0061】
[2−2.作用]
上記のロアピストン32,アッパピストン33及び皿ばね4を組み付けたピストン31の動作について、図8(a),(b)を用いて説明する。
シリンダー内圧が比較的低圧である状態では、図8(a)に示すように、皿ばね4がアッパピストン33の上面に作用する圧力に抗してアッパピストン33を上方に押圧し、ピストン31が伸長状態となる。アッパピストン33の突起部3cの上面3kはロアピストン32の底面2kから離れており、第一油室5の容積が増大した状態となる。このとき、第一油室5の内部にはエンジンオイル8が貯留されており、第二逆止弁3rは閉止状態である。
【0062】
シリンダー内圧が高圧になると、図8(b)に示すように、皿ばね4が中心軸C方向に圧縮され、ピストン31が縮小状態となる。これにより、第一油室5の容積が減少して圧力が増大するため、第二逆止弁3rが開放される。したがって、第一油室5内のエンジンオイル8が空洞部3mの内部で図8(b)中に白抜き矢印で示す方向へと移動し、第二通路3sを通って皿ばね室6に噴射される。ここで噴射されたエンジンオイル8は、アッパピストン33の裏面3fの全体に満遍なく供給され、アッパピストン33を冷却する。また、皿ばね室6の内部に供給されたエンジンオイル8は、アッパピストン33の内筒面3dや外筒面3h,皿ばね4等からも熱を吸収する。
【0063】
また、アッパピストン33の上面3kとロアピストン32の底面2kとが接触した状態になると、第一通路2pの内筒面2h側の開口が閉鎖され、エンジンオイル8が空洞部3mから皿ばね室6に至る経路内に貯留される。このとき、第一通路2pとオイル穴3tとが非連通状態となり、第一油室5及び第一通路2pが密閉される。
【0064】
その後、シリンダー内圧が低圧になると、ピストン31が再び伸長状態となる。このとき、第一油室5の内部が負圧となり、第二逆止弁3rが閉止状態となる。また、図8(a)に白抜き矢印で示すように、隙間7及び第一通路2pを介して皿ばね室6のエンジンオイル8が第一油室5に吸引される。これと同時に、第一通路2pと連通状態となったオイル穴3tからもピストン1外部のエンジンオイル8が吸引され、シリンダー12の内壁面からエンジンオイル8が第一油室5に補充される。第一油室5に貯留されたエンジンオイル8の熱はロアピストン32の内筒面2h及び底面2kに伝達され、すなわちエンジンオイル8が冷却される。
【0065】
このように、本ピストン31では、第一油室5及びこれに連通する空洞部3mと皿ばね室6とを、隙間7,第一通路2p及び第二通路3sで環状に接続した循環経路が形成される。また、ロアピストン32及びアッパピストン33は、この循環経路内でエンジンオイル8を循環させる油圧ポンプとして機能し、ピストン31の伸縮動作に伴ってエンジンオイル8をピストン31の内部で循環させる。この循環の過程で、エンジンオイル8がアッパピストン33の裏面3fに対して噴射されるため、皿ばね室6へのエンジンオイル8の貯留量が十分でない場合であっても、効率的にアッパピストン33が冷却されることになる。
【0066】
エンジンオイル8を熱媒体としたアッパピストン33側からロアピストン32側への熱交換は、ピストン31が伸び縮みする度に実施される。すなわち、エンジン10が高負荷のときには燃焼サイクル毎にピストン31が冷却される。
また、本ピストン31では、第一油室5の容積が増大するピストン1の伸長時に、アッパピストン3,第一通路2p及びオイル穴3tがピストン1の外部からエンジンオイル8を吸引する真空ポンプとして機能し、シリンダー12の壁面から掻き出された余剰分のエンジンオイル8をピストン1の内部に補充する。これにより、ピストン1内を循環するエンジンオイル8の流量が十分に確保される。
【0067】
[2−3.効果]
(4)上記のピストン31によれば、エンジンオイル8を循環させることにより、循環経路内での熱的偏りを生じにくくすることができ、ピストン31の冷却性を向上させることができる。また、第一実施形態のピストン1と比較して、エンジンオイル8がアッパピストン33の裏面3fに対して噴射されるため、アッパピストン33からの吸熱量を増加させることができ、ピストン31の冷却効率をより高めることができる。
【0068】
[3.変形例]
上記のピストン1,31,41の変形例は多種多様に考えられる。
(1)例えば第一実施形態では、ロアピストン2及びアッパピストン3を組み付けて形成されるピストン1を例示したが、ピストン1を構成する部材はこれに限定されず、三つ以上の部材に分割されたものを組み付けて形成されるものとしてもよい。少なくとも、二つの部材間に付勢部材を介装することで燃焼室16の容積を可変としたピストン1であれば、開示の構造を適用することが可能である。例えば、スカート部がアッパピストン3に形成され、ロアピストン2がアッパピストンの内側に嵌合する構造としてもよい。
【0069】
(2)また、開示のピストン1の適用対象となるエンジン10の燃焼方式や燃料の種類等は任意である。例えば、ディーゼルエンジンであってもよいし、ガソリンエンジンに適用してもよい。車両や船舶,航空機,産業用機械といった様々な機械に搭載される内燃機関のピストンに利用することができる。
【符号の説明】
【0070】
1 ピストン
2 ロアピストン
2m へこみ部(凹部)
2p 第一通路
3 アッパピストン
3c 突起部(凸部)
3f 裏面
3m 空洞部(第二通路)
3p 第二通路
3r 第二逆止弁(逆止弁)
3s 第二通路
3t オイル穴(油穴)
4 皿ばね
5 第一油室
6 皿ばね室(付勢室)
7 隙間(摺接面)
24 オイルリング
24a オイルリング溝
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンピンが連結されるロアピストンと燃焼室の底面を成すヘッド部を備えるアッパピストンとの間に付勢部材を介装し、前記ロアピストンに対する前記アッパピストンの気筒軸方向への摺動により燃焼室容積を可変とする内燃機関のピストンにおいて、
前記ロアピストン及び前記アッパピストン間に形成され、前記ロアピストンに対する前記アッパピストンの摺動量に応じて容積が変化する第一油室と、
前記ロアピストン及び前記アッパピストン間で前記第一油室とは別体に形成され、前記付勢部材が配置される付勢室と、
前記付勢室に隣接して形成され、前記ロアピストン及び前記アッパピストンが互いに摺動自在に接触する摺接面と、
気筒内壁と対向する前記アッパピストンの外周面から前記摺接面までを貫通する油穴と、
前記ロアピストン内に形成され、前記第一油室と前記摺接面との間を連通し、前記燃焼室容積の変化に応じて前記油穴との連通状態が変化する第一通路と、
前記アッパピストン内に形成され、前記第一油室と前記付勢室とを連通する第二通路と
を備えたことを特徴とする、内燃機関のピストン。
【請求項2】
前記ロアピストン及び前記アッパピストンが摺動自在に嵌合する凹部及び凸部を有し、
前記第一油室が、前記凹部及び前記凸部に囲まれてなる
ことを特徴とする、請求項1記載の内燃機関のピストン。
【請求項3】
前記第二通路上に設けられ、前記第一油室側への油の逆流を遮断する逆止弁を備えた
ことを特徴とする、請求項1又は2記載の内燃機関のピストン。
【請求項4】
前記第二通路が、前記第一油室から前記ヘッド部の裏面に向かって開放されている
ことを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載の内燃機関のピストン。
【請求項1】
ピストンピンが連結されるロアピストンと燃焼室の底面を成すヘッド部を備えるアッパピストンとの間に付勢部材を介装し、前記ロアピストンに対する前記アッパピストンの気筒軸方向への摺動により燃焼室容積を可変とする内燃機関のピストンにおいて、
前記ロアピストン及び前記アッパピストン間に形成され、前記ロアピストンに対する前記アッパピストンの摺動量に応じて容積が変化する第一油室と、
前記ロアピストン及び前記アッパピストン間で前記第一油室とは別体に形成され、前記付勢部材が配置される付勢室と、
前記付勢室に隣接して形成され、前記ロアピストン及び前記アッパピストンが互いに摺動自在に接触する摺接面と、
気筒内壁と対向する前記アッパピストンの外周面から前記摺接面までを貫通する油穴と、
前記ロアピストン内に形成され、前記第一油室と前記摺接面との間を連通し、前記燃焼室容積の変化に応じて前記油穴との連通状態が変化する第一通路と、
前記アッパピストン内に形成され、前記第一油室と前記付勢室とを連通する第二通路と
を備えたことを特徴とする、内燃機関のピストン。
【請求項2】
前記ロアピストン及び前記アッパピストンが摺動自在に嵌合する凹部及び凸部を有し、
前記第一油室が、前記凹部及び前記凸部に囲まれてなる
ことを特徴とする、請求項1記載の内燃機関のピストン。
【請求項3】
前記第二通路上に設けられ、前記第一油室側への油の逆流を遮断する逆止弁を備えた
ことを特徴とする、請求項1又は2記載の内燃機関のピストン。
【請求項4】
前記第二通路が、前記第一油室から前記ヘッド部の裏面に向かって開放されている
ことを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載の内燃機関のピストン。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【公開番号】特開2013−83221(P2013−83221A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−224298(P2011−224298)
【出願日】平成23年10月11日(2011.10.11)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月11日(2011.10.11)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】
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