説明

内燃機関の制御装置

【課題】駆動系の部品の重量やコストの増加を招くことなく、スリップとグリップとを繰り返すことによる駆動系部品に過大な負荷がかかることを抑制する。
【解決手段】出力軸回転数検知手段を介して検出された駆動系の出力軸回転数を用いて駆動輪9がスリップとグリップの反復を生じている状態を検知した場合に、内燃機関3の出力を低下させる制御を行う。駆動輪がスリップとグリップの反復を生じている状態を初期段階で判断して、一時的に内燃機関の出力を低下させるように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の出力を制御する制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
商用車の一である軽トラック車両では、車体前部に内燃機関を配置し、プロペラシャフトを介して駆動輪である後輪を回転させるフロントエンジン・リアドライブ方式(FR)駆動のものが多い。
【0003】
ところで、このようなFR駆動の軽トラックは、車体後部に荷物が積まれていない状態では車体の重心が前方に位置することとなる。また、前進していた状態から一気に後退に切り換えた際にも車体の重心が前方に位置する。さらに、勾配のある坂道を下る際にも車体の重心が前方に位置する。
【0004】
このように車体の重心が前方に位置した状態から、アクセルペダルを踏み込んで後進しようとすると、路面と駆動輪との間の摩擦如何によって、駆動輪がスリップとグリップとを繰り返すことがある。このスリップとグリップとの反復は、1秒間あたり十数回にわたって生じることもある。
【0005】
この際、スリップにより駆動輪の車軸も内燃機関も高回転になっている状態と、グリップにより車軸は低回転しているにもかかわらず内燃機関が高回転になっている状態とを短時間に繰り返すため、デファレンシャルギア等の駆動系部品に過大な負荷がかかるという不具合が生じる場合がある。
【0006】
このような問題への対処法として、駆動系部品の強度を上げることが考えられるが、重量が大きくなってしまうとともに、部品のコストも増加してしまうため、何らかの対策が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開平7−42415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、駆動系部品の重量やコストの増加を招くことなく、スリップとグリップとを繰り返すことによる駆動系部品に過大な負荷がかかることを抑制することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以上のような課題を解決するために、次のような構成を採用したものである。すなわち、本発明に係る内燃機関の制御装置は、出力軸回転数検知手段を介して検出された駆動系の出力軸回転数を用いて駆動輪がスリップとグリップの反復を生じている状態を検知した場合に、内燃機関の出力を低下させる制御を行うことを特徴とする。
【0010】
このようなものであれば、駆動輪がスリップとグリップの反復を生じている状態を初期段階で判断して、一時的に内燃機関の出力を低下させるように制御することで出力軸回転数を小さくし、上述したようなスリップとグリップとを繰り返す不具合の発生を抑制することができる。すなわち、スリップとグリップとの反復の発生を最低限に抑えることができるため、従来のものと比べて駆動系部品の強度を上げることに伴う重量やコストの増加を招くことなく、駆動系部品に過大な負荷がかかることを抑制できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、以上のような構成であるから、駆動系部品の重量やコストの増加を招くことなく、スリップとグリップとを繰り返すことによる駆動系部品に過大な負荷がかかることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態の内燃機関を搭載した車両を概略的に示す図。
【図2】同実施形態の内燃機関の構成を示す図。
【図3】同実施形態の内燃機関の電子スロットル弁の開度と出力軸回転数の変化の様子を概略的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0014】
この実施形態の車両1は、図1に概略的に示すように、走行に要する駆動力を発生する内燃機関3と、内燃機関3の駆動力をプロペラシャフト5に伝えるオートマチックトランスミッション7と、駆動輪9に接続される駆動軸11と、内燃機関3の運転を制御する電子制御装置(Electronic Control Unit)13とを備えている。オートマチックトランスミッション7には、駆動系の出力軸回転数を検出する出力軸回転数検知手段である車速センサ15が設けられている。車速センサ15は、プロペラシャフト5の回転数、すなわち駆動輪9の回転数を検出する。本実施形態においては、この車両1は、例えば軽トラック等であって、車体前部に内燃機関3を配置し、プロペラシャフト5を介して駆動輪9である後輪を回転させるFR駆動のものである。なお、符号17は、デファレンシャルギアである。
【0015】
図2に、本実施形態の制御方法の適用対象である車両用内燃機関3の概要を示す。本実施形態における内燃機関3は、三気筒のガソリンエンジンであり、同図では、三気筒あるうちの任意の一気筒の概略構成を示している。この内燃機関3は、各気筒19と、燃料を噴射するインジェクタ21と、各気筒19に吸気を供給するための吸気系23と、各気筒19から排気を排出するための排気系25とを具備する。
【0016】
内燃機関3の吸気系23は、外部から空気を取り入れて気筒19の吸気ポート27へと導く。吸気系23には、アクセルペダルの踏み込み量に応じて作動する電子スロットル弁29を設けており、電子スロットル弁29の下流にはサージタンク31を有する吸気マニホルド33を取り付けている。サージタンク31には吸気管圧力を検出するための圧力センサ35を配している。サージタンク31より下流の吸気系23には、吸気ポート27に向けて燃料を噴射する燃料噴射弁37が取り付けてある。電子スロットル弁29及び燃料噴射弁37は、ECU13により開閉を制御される。
【0017】
内燃機関3の排気系25は、気筒19内で燃料を燃焼させた結果発生した排気を気筒19の排気ポート39から外部へと導く。排気系25には、排気マニホルド41を取り付け、排気ガス浄化用の三元触媒43を装着している。三元触媒43の下流位置には排気ガス中の酸素濃度に応じた電圧信号fを出力するO2センサ45を配置している。
【0018】
気筒19上部に形成される燃焼室47の天井部には、吸気弁49、排気弁51及び点火プラグ53が配置される。
【0019】
ECU13は、内燃機関3の運転を制御するもので、中央演算装置55、記憶装置57、入力インターフェース59、出力インターフェース61などを有するコンピュータシステムである。
【0020】
入力インターフェース59には、圧力センサ35から出力される吸気圧信号a、エンジン回転数を検出するための回転数センサ64から出力される回転数信号b、車速及び出力軸回転数を検出するための車速センサ15から出力される車速信号c、アクセルペダルの踏込量(または、電子スロットル弁29の開度)を検出するためのアクセルセンサ65から出力されるアクセル信号d、シフトポジションスイッチ67から出力されるシフトポジション信号e、冷却水の温度を検出するための水温センサ69から出力される水温信号f、O2センサ45から出力される電圧信号gなどが入力される。一方、出力インターフェース61からは、インジェクタ21に対して燃料噴射信号h、点火プラグ53に対して点火信号i、電子スロットル弁29に対してスロットル開度信号jなどが出力される。
【0021】
中央演算装置55は、記憶装置57に予め格納されているプログラムを解釈、実行し、内燃機関3の燃料噴射量や点火時期、気筒19に充填される吸気量等の制御を遂行する。
【0022】
内燃機関3の運転制御において、ECU13は、内燃機関3の運転制御に必要な各種情報a、b、c、d、e、f、gを入力インターフェース59を介して取得し、さらに現状の吸気量等を推定して、それらに基づいて制御入力である燃料噴射量、燃料噴射時期、点火時期、電子スロットル弁29の開度等を演算する。そして、演算した制御入力に対応した制御信号h、i、jを、出力インターフェース61を介して印加する。
【0023】
しかして、本実施形態の制御装置たるECU13は、車速センサ15を介して検出された駆動系の出力軸回転数を用いて駆動輪9がスリップとグリップの反復を生じている状態を検知した場合、すなわち、出力軸回転数の変動の度合いが所定値以上の場合に、内燃機関3の出力を低下させる制御を行う制御プログラムを実行する。この実施形態における内燃機関3の制御は、車速センサ15から出力される車速信号cを用いて、所定時間あたりの出力軸回転数の変動、すなわちスリップ状態を示す出力軸回転数の極大値とグリップ状態を示す出力軸回転数の極小値に基づいて行う。具体的には、駆動輪9がスリップとグリップの反復を生じている状態を検知した場合、すなわち出力軸回転数の極大値が予め定めておいた閾値よりも大きくなる場合を複数回検出した場合に、内燃機関3の出力を低下させるべく、電子スロットル弁29の開度を小さくする制御を行う。この閾値は、例えば、駆動輪9がグリップ状態で出力軸が回転すると駆動系に過大な負荷がかかり駆動系の強度上問題が生じるような値に設定してある。
【0024】
図3は、ECU13が実行する処理の一例を示しており、時間経過に対応する電子スロットル弁29の開度と出力軸回転数のグラフを示している。
【0025】
まず、シフトポジションをドライブレンジからリバースレンジまで動かしながらアクセルペダルを踏み込んで後退する際、電子スロットル弁29が全開または略全開になった後、所定時間内に出力軸回転数の極大値が出力抑制処理実行用の閾値を超えるか否かを検出する。所定時間内に出力軸回転数の極大値が所定回数以上、出力抑制処理実行用の閾値を上回った場合には、駆動輪9が路面に対してスリップとグリップとを繰り返している状態であると判断する。その後、出力インターフェース61から電子スロットル弁29に出力されるスロットル開度信号iに基づいて、電子スロットル弁29の開度を所定開度に絞る。この電子スロットル弁29の制御は、アクセルペダルの踏込量にかかわらず実行される。このように電子スロットル弁29の開度を絞ることで、吸気系23に入る吸気量を減少させて、この吸気量に対応させた燃料噴射量を減少させ、エンジン回転数を低下させることができるため、オートマチックトランスミッション7やデファレンシャルギア17等の駆動系に入るトルクを小さくすることができる。したがって、駆動輪9が一時的なグリップ状態となっても駆動系に過大な負荷がかかることが抑制できる。
【0026】
電子スロットル弁29の開度を所定開度に絞った後は、所定時間t内に出力軸回転数の極大値が出力抑制処理解除用の閾値を超えるか否かを検出する。所定時間t内に出力軸回転数の極大値が継続して出力抑制処理解除用の閾値を下回った場合には、駆動輪9が路面に対してスリップとグリップとを繰り返していない状態であると判断する。その後、出力インターフェース61から電子スロットル弁29に出力されるスロットル開度信号iに基づいて、電子スロットル弁29の開度を徐々に大きくする。この電子スロットル弁29の制御も、アクセルペダルの踏込量にかかわらず実行される。これによって、吸気系23に入る吸気量を徐々に増加させて、最終的には、電子スロットル弁29の開度がアクセルペダルの踏込量に対応する値となるまで開放する。
【0027】
以上説明したように、本実施形態の内燃機関3の制御装置によれば、車速センサ15を介して検出された駆動系の出力軸回転数を用いて駆動輪9がスリップとグリップの反復を生じている状態を検知した場合に、内燃機関3の出力を低下させる制御を行うので、重量増加や部品コストの増加を招くことなく、スリップとグリップとを繰り返すことによるデファレンシャルギア17等の駆動系部品に過大な負荷がかかることを抑制できる。すなわち、このような内燃機関3の制御装置を備えたものであれば、駆動輪9がスリップとグリップの反復を生じている状態を初期段階で判断することができるため、内燃機関3を適切に制御して、スリップとグリップとの反復の発生を最低限に抑えることができる。そのため、駆動系の過度の強度設計が不要となり、軽量で低コストな駆動系を実現することができる。
【0028】
特に、車両として本実施形態のようなFR駆動の軽トラックを採用した場合には、車体の前方に重心がかかるとともに、プロペラシャフト5やデファレンシャルギア17等の駆動系によって後輪駆動させるものであり、さらに、駆動輪9の幅が比較的小さいことも相俟って、上述したスリップとグリップとの繰り返しという問題が発生しやすい。そのため、このような内燃機関3の制御装置を採用することが有効である。
【0029】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0030】
駆動系の出力軸回転数は、実施形態で示したようなトランスミッションの出力軸の回転数の他に、駆動輪の回転数であってもよい。
【0031】
駆動輪がスリップとグリップの反復を生じている状態を検知する方法としては、出力軸回転数の極大値及び/または極小値を測定するものに限られない。例えば、単位時間当たりの出力軸回転数を検出して、出力軸回転数の変化率(出力軸回転数が極小値から極大値に至る際の加速度または極大値から極小値に至る際の加速度、言い換えれば、出力軸回転数を時間微分したもの)を算出し、この出力軸回転数の変化率と、駆動輪がスリップとグリップの反復を生じていると検知する基準となる閾値とを比較することもできる。前記出力軸回転数の変化率が閾値よりも大きければ、駆動輪がスリップとグリップを繰り返している状態であると検知し、出力軸回転数の変化率が閾値よりも小さければ、駆動輪がスリップとグリップを繰り返している状態ではないと検知する。また、他の方法としては、出力軸回転数の極大値と極小値との差が発生する時間を測定し、この測定時間と、駆動輪がスリップとグリップの反復を生じていると検知する基準となる閾値となる時間とを比較することもできる。前記測定時間が閾値となる時間よりも短ければ、駆動輪がスリップとグリップを繰り返している状態であると検知し、前記測定時間が閾値となる時間よりも長ければ、駆動輪がスリップとグリップを繰り返している状態ではないと検知する。
【0032】
内燃機関の出力を低下させる制御としては、電子スロットル弁の開度を小さくする代わりに、インジェクタからの燃料噴射量を少なくする制御を行ってもよい。また、点火タイミングを遅角する制御や、気筒における燃焼回数を間引く(特定の気筒のみを燃焼させる、あるいは、全ての気筒または特定の気筒を数回に1回のみ燃焼させる)制御を行ってもよい。
【0033】
電子スロットル弁の絞り量は、出力軸回転数の極大値と出力抑制処理実行用または出力抑制処理解除用の閾値との差に基づいて調節することが好ましい。これは、駆動輪の状態や駆動輪が接触する路面の状況によって異なることに起因するものであるが、このように調整すれば、適切な出力制御が可能となり、運転性能を良好なものとすることができる。
【0034】
電子スロットル弁を絞った後、この電子スロットル弁の開度を徐々に大きくしていく場合の所要時間は、図3に示したものに限られず、出力抑制処理解除用の閾値の設定方法によって変化させても構わない。
【0035】
上述した実施形態においては、車庫入れのような、前進から後退への切り換え時を想定していたが、車体の重心が前方に位置する状態からの後進時や、坂道で車体の重心が前方に位置する状態から後進して坂道を上昇する場合であっても、同様の不具合が生じるため、本発明の制御装置を適用できる。車体の重心が後方に位置する状態からの前進時や、後退から前進への切り換え時や、勾配のある坂道で車体の重心が後方に位置する状態から前進して坂道を上昇する場合に、駆動輪のスリップとグリップの繰り返しが発生するおそれは完全には否定できない。その場合にも、本発明の制御装置を適用可能である。
【0036】
本発明の内燃機関はガソリンエンジンの場合に限られず、ディーゼルエンジンであってもよい。また、本発明の内燃機関の制御装置を備えた車両は、FR式に限られない。また、本発明は、オートマチックトランスミッション車には限られず、CVT車にも、マニュアルトランスミッション車にも適用可能である。
【0037】
その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、車両等に搭載される内燃機関の制御に適用することができる。
【符号の説明】
【0039】
3…内燃機関
15…車速センサ(出力軸回転数検知手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
出力軸回転数検知手段を介して検出された駆動系の出力軸回転数を用いて駆動輪がスリップとグリップの反復を生じている状態を検知した場合に、内燃機関の出力を低下させる制御を行うことを特徴とする内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−92093(P2013−92093A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−234256(P2011−234256)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】