説明

内燃機関の可変バルブタイミングシステム

【課題】内燃機関の可変バルブタイミングシステムにおいて、バルブタイミングのフィードバック制御におけるフィードバックゲインの適正値を速やかに得る。
【解決手段】バルブタイミングを変更するときに実際のタイミングを目標タイミングに近づけるフィードバック制御を行うフィードバック制御手段と、フィードバック制御中において時間をカウントするカウンタ(S107)と、フィードバック制御中において実際のタイミングと目標のタイミングとの差の変化量を算出する変化量算出手段(S108)と、カウンタにより得られるカウント値と変化量算出手段により得られる変化量とを記憶する記憶手段(S110)と、記憶手段に記憶されている値に基づいて、フィードバック制御におけるフィードバックゲインを設定するフィードバックゲイン設定手段と、を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の可変バルブタイミングシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関のクランクシャフトとカムシャフトの相対回転位置を変更する可変バルブタイミングシステムが知られている。このシステムは、内燃機関の潤滑油の圧力を利用して駆動されることがある。
【0003】
しかし、油圧を用いたシステムでは、製造誤差や使用する潤滑油の粘度の変化によって、作動速度が変化する。そのため、カムシャフトの回転位置をフィードバック制御するときのフィードバックゲインを、ばらつきの範囲内で最も作動速度の速いものにあわせて設定している。これにより、オーバーシュートを抑制することができる。しかし、このフィードバックゲインを作動速度の遅いシステムに用いると、カムシャフトの変位角を目標値に合わせるのに要する時間が長くなる。
【0004】
これに対し、カムの実際の変位角と目標変位角との差、及び実際の変位角の微分値(すなわち実際の変位角の変位速度)に応じてフィードバックゲインを切り替えることで、バルブタイミングの収束速度を高める技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2000−145485号公報
【特許文献2】特開2000−257454号公報
【特許文献3】特開2005−009393号公報
【特許文献4】特開2001−263101号公報
【特許文献5】特開平11−236831号公報
【特許文献6】特開2006−117246号公報
【特許文献7】特開2007−107539号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、ある程度のフィードバック制御を行ってからの変位速度を検出し、そこからフィードバックゲインを切り替えるため、フィードバック制御初期の変位速度を高めることは困難である。
【0006】
本発明は、上記したような問題点に鑑みてなされたものであり、内燃機関の可変バルブタイミングシステムにおいて、バルブタイミングのフィードバック制御におけるフィードバックゲインの適正値を速やかに得ることができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を達成するために本発明による内燃機関の可変バルブタイミングシステムは、
内燃機関のバルブタイミングを変更させる内燃機関の可変バルブタイミングシステムにおいて、
バルブタイミングを変更するときに実際のタイミングを目標タイミングに近づけるフィードバック制御を行うフィードバック制御手段と、
前記フィードバック制御中において時間をカウントするカウンタと、
前記フィードバック制御中において実際のタイミングと目標のタイミングとの差の変化量を算出する変化量算出手段と、
前記カウンタにより得られるカウント値と前記変化量算出手段により得られる変化量とを記憶する記憶手段と、
前記記憶手段に記憶されている値に基づいて、前記フィードバック制御におけるフィードバックゲインを設定するフィードバックゲイン設定手段と、
を具備することを特徴とする。
【0008】
フィードバック制御手段によりフィードバック制御が行われると、実際のタイミングが目標タイミングへ近づく。このときに、フィードバックゲインが大きすぎると、実際のタイミングが目標タイミングを一旦越えてしまい、その後に目標タイミングへ戻る。つまり、オーバーシュートが発生する。一方、フィードバックゲインが小さすぎると、実際のタイミングが目標タイミングへ到達するまでの時間が長くなる。
【0009】
このような現象が起こるか否かは、フィードバック制御時における実際のタイミングの変化時間と変化量とによって変わる。たとえば、一定の期間における実際のバルブタイミングの変化量に着目した場合、このときの変化量が小さくなるほど、可変バルブタイミングシステムの応答性が低いといえる。一方、実際のバルブタイミングが一定量変化するのに要する時間に着目した場合、変化時間が長いほど、可変バルブタイミングシステムの応答性が低いといえる。そして、可変バルブタイミングシステムの応答性が低いときには、フィードバックゲインを大きくすることにより、応答性を高めることができる。
【0010】
つまり、カウンタにより得られるカウント値と、変化量算出手段により得られる変化量と求め、これらを記憶しておくことで、内燃機関の始動直後であってもシステムの応答性を判断することができる。そして、このような学習を行うことにより、システムの応答性が低い場合には、内燃機関の始動直後であっても速やかにフィードバックゲインを適正値に変更することができる。
【0011】
そして、本発明においては、前記フィードバック制御において実際のタイミングが目標タイミングを超える状態であるオーバーシュートを検出するオーバーシュート検出手段を備え、
前記オーバーシュート検出手段によりオーバーシュートが検出された場合には、前記フィードバックゲイン設定手段により設定されたフィードバックゲインの代わりにフィードバックゲインの基準値を用いてフィードバック制御を行い、このときのフィードバック制御中に前記記憶手段に記憶される値に基づいて、前記フィードバック制御におけるフィードバックゲインを再設定することができる。
【0012】
つまり、記憶手段により記憶されている値を用いてフィードバックゲインを設定したとしても、潤滑油の交換等によりシステムの応答性が変化するので、フィードバックゲインを変更する必要がある。オーバーシュートが検出された場合には、フィードバックゲインが大きくなりすぎているため、再度の学習を行う。このときに、フィードバックゲインを基準値に戻している。つまり、オーバーシュートが発生しているフィードバックゲインを用いて学習をすると、オーバーシュートの発生により内燃機関の運転状態が安定しない虞がある。また、同一条件の下で応答性を学習することにより、学習の精度を高めることができる。
【0013】
なお、実際のタイミングが目標タイミングを超えた場合に、オーバーシュートが発生したとしても良いし、実際のタイミングが目標タイミングを規定値以上超えた場合にオーバーシュートが発生したとしても良い。さらに、実際のタイミングが目標タイミングを規定値以上超えた時間が閾値以上となった場合にオーバーシュートが発生したとしても良い。つまり、僅かなオーバーシュートは無視しても良い。
【0014】
また、本発明においては、前記カウンタによりカウントされる時間が、前記変化量算出手段により算出される変化量に応じて設定される閾値以上の場合には、前記フィードバッ
クゲイン設定手段により設定されたフィードバックゲインの代わりにフィードバックゲインの基準値を用いてフィードバック制御を行い、このときのフィードバック制御中に前記記憶手段に記憶される値に基づいて、前記フィードバック制御におけるフィードバックゲインを再設定することができる。
【0015】
ここでいう閾値とは、システムの応答性が許容範囲よりも低くなっていることを示す値である。つまり、カウンタによりカウントされる時間が、変化量算出手段により算出される変化量に応じて設定される閾値以上の場合には、システムの応答性が低くなっている。このような場合には、再度の学習によりフィードバックゲインを大きくすることができるので、システムの応答性を高くすることができる。このときには、同一条件の下で応答性を学習するために、フィードバックゲインを基準値に一旦戻す。
【0016】
本発明においては、前記カウンタは、実際のタイミングが所定のタイミングから目標タイミングとなるまでの時間をカウントし、
前記変化量算出手段は、実際のタイミングが所定のタイミングから目標タイミングとなるまでの変化量を算出することができる。
【0017】
ここで、実際のタイミングが所定のタイミングから目標タイミングとなるまでの変化量は一定である。そして、バルブタイミングが一定量変化するのにかかった時間をカウンタにより得る。つまり一定の変化量という条件の下で、どれだけの時間を要するのかを求めることにより、システムの応答性を判断している。
【0018】
この場合、前記カウンタにより得られるカウント値が大きいほど、前記フィードバックゲインを大きくすることができる。
【0019】
つまり、カウント値が大きいほど、一定量の変化に要する時間が長いので、システムの応答性は低いといえる。これに対し、フィードバックゲインを大きくして、システムの応答性を高くすることができる。また、カウント値が小さいほど、一定量の変化に要する時間が短いので、システムの応答性は高いといえる。これに対し、フィードバックゲインを小さくして、システムの応答性を低くすることができる。
【0020】
一方、本発明においては、前記カウンタは、実際のタイミングが所定のタイミングとなってから所定の期間が経過するまでカウントし、
前記変化量算出手段は、前記所定の期間における実際のタイミングの変化量を算出することができる。
【0021】
ここで、所定の期間とは、バルブタイミングの変化量を検出するのに要する期間であり、一定の期間である。そして、所定の期間においてどれだけバルブタイミングが変化したのかを検出する。つまり一定の期間という条件の下で、どれだけのバルブタイミングが変化するのかを求めることにより、システムの応答性を判断している。このようにすることで、実際のバルブタイミングが目標タイミングとなるまで待たずに、システムの応答性を判断することができるため、より速やかにフィードバックゲインの適正値を得ることができる。
【0022】
この場合、前記変化量が大きいほど、前記フィードバックゲインを小さくすることができる。
【0023】
つまり、一定時間における変化量が大きいほど、システムの応答性は高いといえる。これに対し、フィードバックゲインを小さくして、システムの応答性を低くすることができる。また、一定時間における変化量が小さいほど、システムの応答性は低いといえる。こ
れに対し、フィードバックゲインを大きくして、システムの応答性を高くすることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る内燃機関の可変バルブタイミングシステムによれば、バルブタイミングのフィードバック制御におけるフィードバックゲインの適正値を速やかに得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明に係る内燃機関の可変バルブタイミングシステムの具体的な実施態様について図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0026】
図1は、本実施例に係る内燃機関の可変バルブタイミングシステムを適用する内燃機関1の概略構成を示す図である。図1に示す内燃機関1は、水冷式の4サイクル・ディーゼルエンジンである。
【0027】
内燃機関1には吸気弁5が備えられ、該吸気弁5の開閉動作は吸気カムシャフト6によって行われる。吸気カムシャフト6には吸気側プーリ7が取り付けられている。更に、吸気カムシャフト6と吸気側プーリ7との相対的な回転位置を変更可能とする可変バルブタイミング機構(以下、「VVT」という)8が設けられている。このVVT8は、後述するECU10からの指令に従って吸気カムシャフト6と吸気側プーリ7との相対回転位置を制御する。また、VVT8には内燃機関1の潤滑油が循環し、該VVT8は潤滑油の圧力によって作動する。そして、油圧を与える時間をデューティ制御することにより、VVT8の作動速度が制御される。
【0028】
そして、吸気側プーリ7の回転駆動は、クランクシャフト9の駆動力によって行われる。これにより吸気カムシャフト6が回転駆動されて、吸気弁5の開閉動作が行われる。
【0029】
吸気カムシャフト6には、該吸気カムシャフトの回転位置を計測するカム角センサ11が取り付けられている。一方、クランクシャフト9には、該クランクシャフトの回転位置を計測するクランク角センサ12が取り付けられている。
【0030】
なお、本実施例では、吸気側にVVT8を備えているが、排気側に備えていても良く、また、吸気側及び排気側の両方に備えていても良い。
【0031】
以上述べたように構成された内燃機関1には、該内燃機関1を制御するための電子制御ユニットであるECU10が併設されている。このECU10は、内燃機関1の運転条件や運転者の要求に応じて内燃機関1の運転状態を制御するユニットである。
【0032】
また、ECU10には、上記センサが電気配線を介して接続され、これら各種センサの出力信号がECU10に入力されるようになっている。そして、カム角センサ11の出力信号とクランク角センサ12の出力信号とに基づいて、VVT8の変位角が算出される。変位角は、たとえば吸気カムシャフト6が最遅角側からどれだけ進角側へ移動しているのかによって表される。
【0033】
一方、ECU10には、VVT8が電気配線を介して接続され、該ECU10によりこれらの機器が制御される。
【0034】
そして、ECU10は、VVT8の実際の変位角(以下、実変位角という。実際のバル
ブタイミングとしても良い。)と、目標となる変位角(以下、目標変位角という。目標タイミングとしても良い。)と、の差が小さくなるように、VVT8を制御する。つまり、実際のバルブタイミングが目標タイミングへ近づくように、変位角のフィードバック制御を行っている。これは、バルブタイミングを計測し、該バルブタイミングをフィードバック制御しても良い。なお、実変位角と目標変位角との差を変位角差と称する。なお、本実施例においては、このようなフィードバック制御を行うECU10が、本発明におけるフィードバック制御手段に相当する。
【0035】
このフィードバック制御時に用いるフィードバックゲインを本実施例ではVVT8の応答性の学習制御により得ている。
【0036】
ここで、変位角のフィードバック制御が行われると、実変位角が目標変位角へ近づく。このときに、フィードバックゲインが大きすぎると、実変位角が目標変位角を一旦越えてしまい、その後に目標変位角へ戻る。つまり、オーバーシュートが発生する。一方、フィードバックゲインが小さすぎると、実変位角が目標変位角へ到達するまでの時間が長くなる。
【0037】
そこで本実施例では、実変位角が一定量変化するのに要する時間に着目した。この場合、変化時間が長いほど、VVT8の応答性が低いといえる。そして、VVT8の応答性が低いときには、フィードバックゲインを大きくすることにより、応答性を高めることができる。そして、本実施例では、得られた結果を学習値としてECU10に記憶しておく。
【0038】
ここで、図2及び図3は、本実施例におけるVVT8の応答性を学習するフローを示したフローチャートである。本ルーチンは所定の時間毎に繰り返し実行される。
【0039】
ステップS101では、学習完了フラグがOFFとなっているか否か判定される。学習完了フラグは、VVVT8の応答性の学習が完了しており学習の必要がない場合にはONとされ、学習をする必要がある場合にはOFFとされるフラグである。ステップS101で肯定判定がなされた場合には、VVT8の応答性の学習を行なうためにステップS102へ進む。一方、否定判定がなされた場合には、VVT8の応答性の学習が既に完了しているので、学習を行なわずに本ルーチンを一旦終了させる。
【0040】
ステップS102では、VVT8の応答性の学習条件が成立しているか否か判定される。この学習条件とは、VVT8の応答性の学習を高精度に行なうことができるか、及び、VVT8の応答性の学習を行なうことができる状態にあるか等に基づいて判定される。
【0041】
たとえば、内燃機関1の冷却水温度が所定の範囲内であり且つ機関回転数が所定の範囲内のときに第一の学習条件が成立していると判定する。これにより、VVT8の応答性に影響する要因のなかでVVT8の個体差以外の要因を排除することができる。
【0042】
また、たとえば、VVT8の目標変位角が安定し且つVVT8の変位角差が所定値以上のときに第二の学習条件が成立していると判定する。これにより、VVT8の応答性を測定するときの前提条件を限定する。
【0043】
そして、第一の学習条件及び第二の学習条件の両方とも成立しているときに、本ステップにおいて肯定判定がなされる。ステップS102で肯定判定がなされた場合にはステップS103へ進み、否定判定がなされた場合にはステップS104へ進む。
【0044】
ステップS103では、学習中フラグがONとされる。この学習中フラグは、応答性の学習が行なわれているときにONとされ、学習が行われていないときにOFFとされるフ
ラグである。
【0045】
ステップS104では、学習中フラグがONとなっているか否か判定される。つまり、応答性の学習中であるか否か判定される。ステップS104で肯定判定がなされた場合にはステップS105へ進み、否定判定がなされた場合には学習が行われないため本ルーチンを一旦終了させる。
【0046】
ステップS105では、変位角差が所定値以上であるか否か判定される。ここでいう所定値は、応答性の学習を開始する閾値となる変位角差である。つまり、変位角差がまだ大きな状態にある。そして、変位角差が所定の範囲内まで減少するまでに要する時間を以降の処理で求める。ステップS105で肯定判定がなされた場合には、変位角差が大きすぎるのでステップS106へ進み、学習は行わない。一方、否定判定がなされた場合には学習を行うためにステップS107へ進む。
【0047】
ステップS106では、カウンタがクリアされる。つまり0とされる。このカウンタは、変位角差がステップS105で説明した所定値から例えば略0となるまでに要する時間を測定するためのものである。そのため、変位角差が所定値以上の場合には、応答性の学習を行なわないためにカウンタは0とされる。なお、カウンタはECU10に内蔵されている。
【0048】
ステップS107では、カウンタのカウントアップが行なわれる。つまり、応答性の学習が行なわれているので、その経過時間をカウントしている。
【0049】
ステップS108では、変位角差が所定の範囲内であるか否か判定される。ここでいう所定の範囲とは、変位角差がなくなったとすることのできる範囲であり、略0としても良い。つまり、実変位角と目標変位角とが等しくなったとすることのできる場合に、本ステップにおいて肯定判定がなされる。ステップS108で肯定判定がなされた場合にはステップS109へ進み、否定判定がなされた場合には本ルーチンを一旦終了させる。なお、本実施例においてはステップS108を処理するECU10が、本発明における変化量算出手段に相当する。
【0050】
ステップS109では、応答レベル判定が行われる。応答レベルとは、応答性を数値化して表したものである。そして、応答レベルは、カウンタでカウントされた時間に基づいて決定される。つまり、カウンタの値が大きいほど、変位角差を無くすために要する時間が長いため、応答レベルは低くなる。なお、本実施例においては、応答レベルはカウンタによるカウント値をそのまま用いても良い。
【0051】
ステップS110では、応答レベルがECU10に記憶される。なお、カウント値と変位角の変化量とを関連付けてECU10に記憶してもよい。このようにしてECU10に記憶される値が学習値である。そして、本実施例においてはステップS110を実行するECU10が、本発明における記憶手段に相当する。
【0052】
ステップS111では、学習完了フラグがONとされる。つまり、応答性の学習が完了しているため、学習完了フラグはONとなる。
【0053】
ステップS112では、学習中フラグがOFFとされる。つまり、応答性の学習が行われていないため、学習中フラグはOFFとなる。
【0054】
なお、応答性の学習時のフィードバックゲインは、応答性が最も速いときの値を用いる。応答性が最も速いとしたきのフィードバックゲインを以下「通常値」又は「基準値」と
もいう。そして、フィードバックゲインの基準値を用いてVVT8を制御すると、オーバーシュートの発生を抑制できる。
【0055】
このようにして得られたフィードバックゲインに基づいて変位角のフィードバック制御が行われる。次に、図4は、フィードバック制御のフローを示したフローチャートである。本ルーチンは、所定の時間毎に繰り返し実行される。
【0056】
ステップS201では、学習完了フラグがONとなっているか否か判定される。つまり、応答性の学習が完了しているか否か判定される。ステップS201で肯定判定がなされた場合にはステップS201へ進み、否定判定がなされた場合にはステップS203へ進む。
【0057】
ステップS202では、前記ステップS109で得られた応答レベルに応じたゲインマップが選択される。つまり、応答性の学習が完了しているため、応答レベルに応じてフィードバックゲインが選択される。なお、本実施例においてはステップS202を実行するECU10が、本発明におけるフィードバックゲイン設定手段に相当する。
【0058】
ステップS203では、通常のゲインマップが選択される。つまり、応答性が最も速いときのゲインマップが選択される。
【0059】
なお、ステップS202及びステップS203で選択されるマップは、変位角差と機関回転数との関係を予め実験等により求めてマップ化したものである。このマップは、応答レベルに応じて複数備えている。そして、応答レベルが低いほどフィードバックゲインが大きなマップが選択される。
【0060】
ステップS204では、VVT8のフィードバック制御が行われる。
【0061】
ステップS205では、フィードバック量に基づいてデューティ出力が行なわれる。
【0062】
このようにして、VVT8の応答性が低い場合には、大きなフィードバックゲインが選択されてフィードバック制御が行われるため、VVT8の応答速度を高くすることができる。また、学習した結果をECU10に記憶させるため、フィードバック制御の初期からVVT8の応答性に応じたフィードバックゲインを選択することができる。さらに、VVT8の個体差に応じた最適制御が可能となり、目標値へより近づけることができる。
【実施例2】
【0063】
本実施例は、実施例1と比較して、応答レベルの求め方が異なる。その他は実施例1と同様である。
【0064】
本実施例では、一方、実際のバルブタイミングが一定量変化するのに要する時間に着目する。この場合、変化時間が長いほど、VVT8の応答性が低いといえる。そして、VVT8の応答性が低いときには、フィードバックゲインを大きくすることにより、応答性を高める。
つまり、本実施例では、規定の期間中における変位角差の変化量を求め、この変化量に基づいて応答レベルを算出する。つまり、規定の期間の始まりのときの変位角差と、規定の期間の終わりのときの変位角差と、の差に基づいて応答レベルを算出する。ここで、規定の期間中における変位角差の変化量が大きいほど、応答レベルが高く、小さいほど応答レベルが低いといえる。この関係に従って応答レベルを算出することにより、実施例1と同様にしてフィードバックゲインを選択することができる。
【0065】
図2及び図5は、本実施例におけるVVT8の応答性を学習するフローを示したフローチャートである。本ルーチンは所定の時間毎に繰り返し実行される。なお、図2については、実施例1で説明したので、本実施例では説明を省略する。また、図5について図3と同じ処理がなされるステップについては、同じ符号を付して説明を省略する。
【0066】
ステップS301では、カウンタが所定値以上であるか否か判定される。ここでいう所定値とは、応答レベルを求めるために必要となるカウント値である。つまり、変位角差が所定値となってから(ステップS105で最初に否定判定がなされてから)、規定の期間が経過したか否か判定される。ステップS301で肯定判定がなされた場合には応答性の学習を行うためにステップS302へ進む。一方、否定判定がなされた場合には、本ルーチンを一旦終了させる。
【0067】
ステップS302では、変位角差の変化量が算出される。つまり、カウンタのカウントアップが開始されてから現時点までの間で、どれだけ変位角差が変化したか算出される。カウントアップが開始されたときの変位角差と、現時点における変位角差と、の差を求めることにより変位角差の変化量を得ることができる。
【0068】
なお、変位角差の変化量に代えて、実変位角の変化量を算出しても良い。つまり、目標変位角は変わらないので、変位角差の変化量でも、実変位角の変化量でも応答レベルの判定を行うことができる。そして、本実施例においてはステップS302を実行するECU10が、本発明における変化量算出手段に相当する。
【0069】
ステップS303では、応答レベル判定が行われる。本実施例における応答レベルは、変位角差の変化量又は実変位角の変化量に基づいて決定される。つまり、変位角差又は実変位角の変化量が小さいほど、実変位角差が小さくなるのに要する時間が長くなるため、応答レベルは低くなる。
【0070】
このようにして、応答レベルを求めることができるため、実施例1と同様に、該応答レベルに応じてゲインマップを選択することができる。
【0071】
また、本実施例によれば、変位角差が略0となる前に応答レベルを算出することができるため、より速やかにフィードバックゲインを選択することが可能となる。また、変位角差が略0となる直前には該変位角差のバラツキが大きくなることがあるため、応答レベル判定が困難となったり、判定精度が低下したりする虞があるが、本実施例ではバラツキが出る前に応答レベル判定を行うことができる。
【実施例3】
【0072】
本実施例では、応答性の学習が完了した後において、VVT8の応答性を監視し、該VVT8の変位角のオーバーシュートが所定時間以上発生したときには、フィードバックゲインを再度選択する。このときに、通常のフィードバックゲイン(つまり、応答性が最も高いときのフィードバックゲイン)へ戻してから応答レベルを求め、該応答レベルに基づいてフィードバックゲインを再度選択する。応答レベルの算出方法については、実施例1または実施例2と同様である。
【0073】
ここで、内燃機関1の潤滑油を交換した場合又は内燃機関1に組み込まれている部品を交換した場合等には、VVT8の応答性が変化する場合がある。このような場合に、過去に得たフィードバックゲインを用いてフィードバック制御を行うと、VVT8の変位角が目標値を一旦超えた後に、目標値に戻る虞がある。
【0074】
これに対し本実施例では、変位角のオーバーシュートが発生した場合に再度フィードバ
ックゲインの学習を行なうことで、その後のオーバーシュートの発生を抑制する。
【0075】
また、内燃機関1の潤滑油を交換した場合又は内燃機関1に組み込まれている部品を交換した場合等には、VVT8の応答性が低くなる場合もあり得る。このような場合に、過去に得たフィードバックゲインを用いてフィードバック制御を行うと、VVT8の変位角が目標値に収束するまでの時間が長くなる
【0076】
これに対し本実施例では、VVT8の応答性が低下した場合に、通常のフィードバックゲイン(つまり、応答性が最も高いときのフィードバックゲイン)へ戻してから応答レベルを求め、該応答レベルに基づいてフィードバックゲインを再度選択する。これにより、フィードバックゲインの適正値を再度得ることができるため、VVT8の応答性の低下を速やかに改善することができる。
【0077】
ここで、図6及び図7は、本実施例におけるVVT8の応答性を学習するフローを示したフローチャートである。本ルーチンは所定の時間毎に繰り返し実行される。なお、既に説明した処理と同じ処理がなされるステップについては、同じ符号を付して説明を省略する。なお、本ルーチンに入る前には、応答性の学習が既に完了しているため、学習完了フラグはONとなっている。
【0078】
ステップS401では、オーバーシュートの検出が行われる。VVT8の実変位角が目標の変位角を閾値以上越えた場合にオーバーシュートであると検出される。そして、オーバーシュートの継続時間、すなわちVVT8の実変位角が目標の変位角を閾値以上越えている時間(以下、オーバーシュート時間という。)を計測する。オーバーシュート時間は、VVT8の応答性が高くなるほど長くなる。
【0079】
ステップS402では、オーバーシュートが発生しているか否か判定される。つまり、ステップS401でオーバーシュートが検出されたか否か判定される。ステップS402で肯定判定がなされた場合にはステップS403へ進む。一方、否定判定がなされた場合にはステップS102へ進む。
【0080】
ステップS403では、オーバーシュート時間が所定値以上であるか否か判定される。ここでいう所定値とは、許容範囲を超える閾値であり、オーバーシュート時間が所定値よりも長い場合には、応答性が高すぎる状態であることを示している。逆に、オーバーシュートの量が小さい場合や、オーバーシュートの時間が短い場合には、あまり問題とならないため、学習は行わないようにしている。ステップS403で肯定判定がなされた場合にはステップS404へ進み、否定判定がなされた場合にはステップS102へ進む。なお、本実施例においてはステップS401,402,403を実行するECU10が、本発明におけるオーバーシュート検出手段に相当する。
【0081】
ステップS404では、学習完了フラグがOFFとされる。つまり、学習が完了していない状態とする。これにより、以降の処理において学習が行なわれる状態となる。このようにして、オーバーシュートの継続時間が所定値以上長くなった場合には再度フィードバックゲインが選択されるため、その後にオーバーシュートが発生することを抑制できる。
【0082】
次にステップS405では、学習完了フラグがOFFであるか否か判定される。つまり、応答レベル判定を行うことができる状態にあるか否か判定される。ステップS405で肯定判定がなされた場合にはステップS109へ進み応答レベル判定を行う。一方、否定判定がなされた場合にはステップS406へ進む。
【0083】
ステップS406では、カウンタが所定値以上であるか否か判定される。ここでいう所
定値とは、VVT8の変位角が収束するまでの時間が許容範囲を超える閾値である。つまり、カウンタが所定値以上となった場合には、VVT8の変位角が収束するまでの時間が許容範囲よりも長くなっている。これは、応答性が低すぎる状態であることを示している。そのため、本ステップで肯定判定がなされた場合には再度の学習が必要となる。そして、ステップS406で肯定判定がなされた場合にはステップS407へ進み、否定判定がなされた場合にはステップS112へ進む。
【0084】
ステップS407では、学習完了フラグがOFFとされる。つまり、学習が完了していない状態とされる。これにより、以降の処理において学習が行なわれる状態となる。このようにして、VVT8の変位角が収束するまでの時間が許容範囲よりも長くなった場合には再度フィードバックゲインが選択されるため、その後に応答性を高めることができる。
【0085】
以上説明したように、本実施例においては、フィードバックゲインの学習が完了した後に、VVT8の応答性が変化した場合であっても、速やかに再度の学習を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】実施例に係る内燃機関の可変バルブタイミングシステムを適用する内燃機関の概略構成を示す図である。
【図2】本実施例1及び2におけるVVTの応答性を学習するフローを示したフローチャートである。
【図3】実施例1におけるVVTの応答性を学習するフローを示したフローチャートである。
【図4】フィードバック制御のフローを示したフローチャートである。
【図5】実施例2におけるVVTの応答性を学習するフローを示したフローチャートである。
【図6】実施例3におけるVVTの応答性を学習するフローを示したフローチャートである。
【図7】実施例3におけるVVTの応答性を学習するフローを示したフローチャートである。
【符号の説明】
【0087】
1 内燃機関
5 吸気弁
6 吸気カムシャフト
7 吸気側プーリ
8 可変バルブタイミング機構(VVT)
9 クランクシャフト
10 ECU
11 カム角センサ
12 クランク角センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のバルブタイミングを変更させる内燃機関の可変バルブタイミングシステムにおいて、
バルブタイミングを変更するときに実際のタイミングを目標タイミングに近づけるフィードバック制御を行うフィードバック制御手段と、
前記フィードバック制御中において時間をカウントするカウンタと、
前記フィードバック制御中において実際のタイミングと目標のタイミングとの差の変化量を算出する変化量算出手段と、
前記カウンタにより得られるカウント値と前記変化量算出手段により得られる変化量とを記憶する記憶手段と、
前記記憶手段に記憶されている値に基づいて、前記フィードバック制御におけるフィードバックゲインを設定するフィードバックゲイン設定手段と、
を具備することを特徴とする内燃機関の可変バルブタイミングシステム。
【請求項2】
前記フィードバック制御において実際のタイミングが目標タイミングを超える状態であるオーバーシュートを検出するオーバーシュート検出手段を備え、
前記オーバーシュート検出手段によりオーバーシュートが検出された場合には、前記フィードバックゲイン設定手段により設定されたフィードバックゲインの代わりにフィードバックゲインの基準値を用いてフィードバック制御を行い、このときのフィードバック制御中に前記記憶手段に記憶される値に基づいて、前記フィードバック制御におけるフィードバックゲインを再設定することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の可変バルブタイミングシステム。
【請求項3】
前記カウンタによりカウントされる時間が、前記変化量算出手段により算出される変化量に応じて設定される閾値以上の場合には、前記フィードバックゲイン設定手段により設定されたフィードバックゲインの代わりにフィードバックゲインの基準値を用いてフィードバック制御を行い、このときのフィードバック制御中に前記記憶手段に記憶される値に基づいて、前記フィードバック制御におけるフィードバックゲインを再設定することを特徴とする請求項1または2に記載の内燃機関の可変バルブタイミングシステム。
【請求項4】
前記カウンタは、実際のタイミングが所定のタイミングから目標タイミングとなるまでの時間をカウントし、
前記変化量算出手段は、実際のタイミングが所定のタイミングから目標タイミングとなるまでの変化量を算出することを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の内燃機関の可変バルブタイミングシステム。
【請求項5】
前記カウンタにより得られるカウント値が大きいほど、前記フィードバックゲインを大きくすることを特徴とする請求項4に記載の内燃機関の可変バルブタイミングシステム。
【請求項6】
前記カウンタは、実際のタイミングが所定のタイミングとなってから所定の期間が経過するまでカウントし、
前記変化量算出手段は、前記所定の期間における実際のタイミングの変化量を算出することを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の内燃機関の可変バルブタイミングシステム。
【請求項7】
前記変化量が大きいほど、前記フィードバックゲインを小さくすることを特徴とする請求項6に記載の内燃機関の可変バルブタイミングシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−162201(P2009−162201A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−3083(P2008−3083)
【出願日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【Fターム(参考)】