説明

内燃機関の排気処理装置

【課題】内燃機関の排気ガス中の粒子状物質をコロナ放電を利用して酸化燃焼させる装置において、低電圧で放電空間の全域に粒子状物質の浄化に必要な電界を発生させ、簡易な構造で安全かつ低コストの装置を実現する。
【解決手段】エンジンEの排気管11に設けた放電空間部12に、放電用の高圧電極2と接地電極3を対向して配置し、コロナ放電を発生させて排気ガス中の粒子状物質を帯電凝集させる集塵部1とする。高圧電極2は、筒状碍子部23内に保持される導電部21と、筒状碍子部23の端部から放電空間部12に延出する放電部22とからなり、筒状碍子部23の外周に冷却器4を設置して、冷却水との熱交換により筒状碍子部23の絶縁抵抗値の低下を抑制する抑制手段とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気ガスに含まれる粒子状物質を、コロナ放電を利用して集塵捕集する排気処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
筒内に直接燃料を噴射する直噴ガソリンエンジンやディーゼルエンジンは、リーン燃焼により燃費性能に優れる反面、粒子状物質(パティキュレート;PM)が発生しやすいという問題がある。粒子状物質は、主に煤(Soot)と可溶性有機成分(SOF)からなり、特に、直径が10μm以下の浮遊粒子状物質(SPM)は、空気中に長期間浮遊してしまうという問題がある。
【0003】
粒子状物質を含む排気ガスの後処理装置として、例えば、ディーゼルエンジンでは、ハニカム構造のパティキュレートフィルタを設置することが一般に行なわれている。しかしながら、直噴ガソリンエンジンでは、パティキュレートフィルタは必ずしも有効な手段とされていない。これは、ディーゼルエンジンに比し熱効率の低い直噴ガソリンエンジンにパティキュレートフィルタを設置すると、ポンピングロスによりさらに燃費が低下するおそれがあるからである。
【0004】
パティキュレートフィルタ以外の後処理装置としては、コロナ放電を利用した集塵装置がある。一例として、特許文献1に記載される排気処理装置の構成を、図8に示す。図8において、エンジン排気管101には、放電電極102と第1、第2接地電極103、104を備える凝集器105が設置されている。放電電極102は、両端を除く外周が筒状碍子106内に保持された状態で、排気管101壁に固定されており、高電圧の印加により多数の突起を有する先端部102aの周囲にコロナ放電を発生させて、帯電した粒子状物質を第1、第2接地電極103、104にて凝集捕集することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−320955号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、粒子状物質の排出規制が厳しくなる傾向にあり、ポンピングロスのない後処理装置として、コロナ放電を利用した集塵装置を、直噴ガソリンエンジンに適用することが有望視されている。ところが、直噴ガソリンエンジンでは、高負荷運転時の排気ガスが高温になるために(例えば600℃)、集塵装置の構成部材も高温に晒される。特に、図8の構成において、高電圧が印加される放電電極102の碍子106が、高温環境に晒されることで抵抗値が下がってしまい、絶縁機能が低下する。このため、電圧印加時に碍子106中に電流が流れてしまうという問題があり、エネルギロスを引き起こすおそれがあった。
【0007】
すなわち、本発明の目的は、内燃機関の排気ガス中の粒子状物質を、コロナ放電を利用して捕集する排気処理装置において、排気が高温となる環境下でも放電電極を取り巻く碍子の絶縁抵抗値が低下するのを防止し、エネルギロスによるコストの増大を抑制できる高効率な排気処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明請求項1の排気処理装置は、内燃機関の排気通路に設けた放電空間部に放電電極と対向電極を配置し、両電極間にコロナ放電を発生させて排気ガス中の粒子状物質を帯電凝集させる集塵部を備えており、
上記放電電極は、上記排気通路壁に支持固定され、絶縁性材料からなる筒状碍子部内に保持される導電部と、上記筒状碍子部の端部から上記放電空間部内に延出し、先端が上記放電空間部中央に位置する放電部とからなり、
上記筒状碍子部の絶縁抵抗値の低下を抑制する抑制手段を設けたことを特徴とする。
【0009】
請求項2の発明において、上記抑制手段は、上記筒状碍子部の外周を取り巻く冷却水流路を備えた冷却部を有する。
【0010】
請求項3の発明において、上記抑制手段は、上記冷却水流路を流通する冷却水の流量を制御する制御部を有する。
【0011】
請求項4の発明において、上記抑制手段は、上記排気通路の排気ガス温度を検出する温度検出手段を有し、該温度検出手段の検出結果に基づいて上記制御部が上記冷却部の作動を制御する。
【0012】
請求項5の発明において、上記抑制手段は、上記排気通路の外部に露出する上記筒状碍子部の外周にフィンを設けた放熱部を有する
【0013】
請求項6の発明において、上記筒状碍子部は、上記放熱部に接する外周面を凹凸面に形成する。
【0014】
請求項7の発明において、上記抑制手段は、上記排気通路の内部に露出する上記筒状碍子部の外周を取り巻く断熱部を有する。
【0015】
請求項8の発明において、上記断熱部はリング状の中空体で、内周面が上記筒状碍子部の先端側外周面に接して配置される。
【0016】
請求項9の発明の排気処理装置は、上記抑制手段として、上記集塵部を、内燃機関の排気通路に配置されるマフラーの近傍に配置するとともに、該マフラーの近傍の温度を制御する制御部を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明請求項1の排気処理装置は、例えば、直噴ガソリンエンジンのように排気が高温となりやすく、集塵部の放電電極が高温雰囲気に晒される環境であっても、抑制手段が、筒状碍子部を高抵抗状態に維持する。したがって、筒状碍子部への電流リークを抑制し、コロナ放電を利用した集塵部によって、排気ガス中の粒子状物質を効率よく捕集できるので、エネルギロスの少ない高性能な排気処理装置を実現できる。
【0018】
請求項2の発明のように、抑制手段を水冷式の冷却部とすることができ、筒状碍子部の外周に冷却水流路を配置することで、効率よく熱交換を行なって、筒状碍子部の温度上昇を防止することができる。
【0019】
請求項3の発明のように、好適には、制御部を設けて冷却水の流量を制御することで、より効率的に熱交換を行うことができる。
【0020】
請求項4の発明のように、好適には、排気通路に温度検出手段を設けて、排気ガス温度に応じて冷却水の流量を制御することで、筒状碍子部が所望の温度以下となるように、容易に制御することができる。
【0021】
請求項5の発明のように、抑制手段を空冷式の放熱部とすることができ、排気通路外の大気に接するフィンが、筒状碍子部からの熱を放出して、筒状碍子部の温度上昇を抑制するしたがって、筒状碍子部への電流リークを抑制し、エネルギロスの少ない高性能な排気処理装置を実現できる。
【0022】
請求項6の発明のように、好適には、筒状碍子部の外周面に凹凸を設けることで、放熱に寄与する放熱面積が増加し、放熱性を向上させることができる。
【0023】
請求項7の発明のように、好適には、筒状碍子部の先端を断熱部で保護することで、排気通路に流入する排気ガス温度が高温となっても、筒状碍子部先端の温度上昇が抑制できる。
【0024】
請求項8の発明のように、具体的には、断熱部となる中空体が筒状碍子部の外周を覆っていることで、断熱性を確保することができる。
【0025】
請求項9の発明のように、抑制手段として、集塵部を排気通路の低温部であるマフラーの近傍に配置し、制御部で温度制御して、排気ガスが所定温度以下となるようにすれば、筒状碍子部の温度上昇を確実に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】(a)は本発明の第1の実施形態における排気処理装置の全体概略構成図、(b)は(a)の主要部断面図である。
【図2】(a)は本発明の排気処理装置の集塵部における排気浄化のメカニズムを説明するための模式図、(b)は排気温度と抵抗値の関係を示す図である。メカニズムを説明するための図である。
【図3】第1の実施形態における冷却器の制御方法を説明するための装置概略構成図、(b)は、排気温度と冷却水流量の関係を示す図である。
【図4】排気温度と抵抗値の関係およびエネルギ損失の関係を示す図である。
【図5】第1の実施形態における冷却器の制御フローを説明するための図である。
【図6】(a)は第2の実施形態における排気処理装置の全体概略構成図、(b)は(a)の主要部拡大断面図である。
【図7】(a)、(b)は、それぞれ第3、第4の実施形態における排気処理装置の全体概略構成図である。
【図8】従来の排気処理装置の全体概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を内燃機関の排気処理装置に適用した第1の実施形態について、図面を用いて説明する。図1(a)は、排気処理装置の全体概略構成図であり、図1(b)は、図1(a)の主要部である冷却器の横断面図である。本実施形態の排気処理装置は、内燃機関である直噴ガソリンエンジンへの適用例としてあり、図1(a)に示すように、エンジンEの排気通路である排気管11の途中に集塵部1を備えている。エンジンEは、インジェクタから筒内に燃料を直接噴射する方式のもので、図示しない各種センサからの運転情報に基づいて噴射量および噴射時期が制御される。
【0028】
集塵部1は、燃焼排気ガスが流通する排気管11内部に、放電空間部12を形成して、放電電極となる高圧電極2と、対向電極となる接地電極3を配設している。高圧電極2は、排気管11壁に保持固定され、先端側(図の下端側)は排気管11壁を貫通して放電空間部12に、基端側(図の上端側)は排気管11外に位置している。接地電極3は、本実施形態では、放電空間部12を構成する排気管11の内周壁であり、接地電位としてある。高圧電極2の中央部外周は、冷却器4を介して排気管11壁に保持固定されている。冷却部である冷却器4は、本発明の特徴部分である抑制手段を構成するもので、詳細は後述する。
【0029】
高圧電極2は、筒状碍子部23内に挿通保持される棒状の導電部21と、導電部21に続く放電部22からなる。高圧電極2の筒状碍子部23は、例えばアルミナ等のセラミック絶縁材料にて構成される。導電部21の基端部(図の上端部)は、筒状碍子部23の基端側(図の上端側)から突出して排気管11外に位置し、図示しない直流高圧電源に接続される。放電部22は、筒状碍子部23の先端側(図の下端側)から放電空間部12内に突出し、L字状に屈曲して排気管11の中心軸に沿って延びている。放電部22のL字状に延出する先端は、多数の突起状電極24が放射状に配置された形状となっている。このように、放電部22の先端に多数の突起状電極24を設け、放電空間部12の中央に配置することで、放電空間部12に均等にコロナ放電を発生させることができる。
【0030】
ここで、直噴ガソリンエンジンであるエンジンEは、リーン燃焼時に、微粒子状炭素(Soot)を主体とする粒子状物質(パティキュレートマター;PM)を排出しやすい。ガソリンエンジンの排気処理としては、三元触媒が一般的に使用されるが、粒子状物質には対応することができず、また、ディーゼルエンジン用のパティキュレートフィルタは、ポンピングロスによる燃費悪化の懸念がある。そこで、本発明ではポンピングロスのない排気処理装置として、コロナ放電を利用した集塵部1を設けて、排気管11へ放出される燃焼排気ガスに含まれる粒子状物質を捕集する。
【0031】
図2(a)を参照して、集塵部1による粒子状物質(PM)浄化のメカニズムについて説明する。図1(a)のエンジンEで発生し排気管11へ放出される粒子状物質は、燃焼排気ガスとともに排気処理装置の集塵部1に流入する。粒子状物質は、例えば、0.01μmから数μm程度のナノミクロン級の微粒子(ナノPM)を含んでいる。集塵部1の高圧電極2に、外部の直流高電圧電源から負の直流高電圧(例えば−20kV)を印加すると、放電部22先端の多数の突起状電極24と外周の接地電極3との間にコロナ放電が生起する。コロナ放電により放射される電子は高いエネルギを有しており、放電空間部12内の排気ガスに含まれる気体に衝突して電離させ、排気管11内に、酸素ラジカル(Oラジカル)や酸素イオン(O2-イオン)を含む放電空間部12を形成する。
【0032】
この時、エネルギ状態が高く活性な酸素ラジカルは、放電空間部12を通過する粒子状物質PMと容易に反応して、微粒子状炭素(C)であるナノPMを酸化分解し、二酸化炭素(CO2)とする。酸素イオンは、周囲のナノPMに付着して帯電させ、帯電したナノPMは、クーロン力によって接地電極3に引き付けられ、外周側へ移動して接地電極3である排気管11内周壁面に付着し、放電する。電子を放出したナノPMは、接地電極3にて凝集・捕集されて保持されるので、外部に放出されるのを防止できる。好適には、接地電極3となる排気管11近傍に電気ヒータ等を付設し、捕集した凝集粒子を加熱することで燃焼除去することができる。
【0033】
ただし、直噴ガソリンエンジンは、高負荷運転時に排気温度が高温となり(例えば600℃ないしそれ以上)、集塵部1が高温の排気ガスに晒されることになる。高圧電極2の筒状碍子部23を構成するアルミナ等のセラミック絶縁材料は、温度が上昇すると絶縁抵抗値が低下するため、高温時には筒状碍子部23への電流リークで、エネルギロスが生じる。本発明の冷却器4は、筒状碍子部23と熱交換を行ってその温度上昇を抑制し、絶縁抵抗値の低下を抑制するために設置される。
【0034】
次に、本実施形態における冷却器4の構成を説明する。図1(a)、(b)において、冷却器4は、排気管11壁に固定される二重筒状の容器体41を備え、上端開口部にシール材44を介してリング状の蓋体42を覆着することにより、内部にリング状の冷却水流路43を形成している。高圧電極2は、容器体41の内筒内にシール材44を介して保持固定されており、筒状碍子部23の下半部は、冷却水流路43を構成する容器体41の内筒と密着している。容器体41および蓋体42は、ステンレス鋼等の耐熱性および熱伝導性に優れる金属材料からなる。
【0035】
容器体41の外筒には、冷却水入口45となる複数の管路と、冷却水出口46となる複数の管路が対向位置に突設形成される。冷却水入口45は、外部の冷却水ポンプPを介して図示しないエンジン冷却水タンクに接続しており、冷却水ポンプPを作動させると、冷却水入口45からエンジン冷却水が冷却水流路43に導入される。エンジン冷却水は、冷却水流路43を流通する間に、容器体41を介して接する筒状碍子部23と熱交換を行い、冷却水出口46から回収される。
【0036】
排気管11内には、冷却器4の上流側に温度検出手段としての熱電対Tが配置され、集塵部1に流入する排気ガスの温度を検出するようになっている。熱電対Tの検出結果は制御部に入力され、制御部5は、検出される排気温度に基づいて、冷却水ポンプPの作動を制御する。具体的には、排気温度が高いほど筒状碍子部23の絶縁抵抗値が低下するため、冷却水ポンプPの回転数を大きくして、冷却水流路43に導入されるエンジン冷却水の流量を増大する。排気温度が十分低い場合には、冷却水ポンプPの作動を停止してよい。
【0037】
図2(b)は、排気温度と筒状碍子部23の絶縁抵抗値の関係を示したものである。ここでは、筒状碍子部23の構成材料を、例えばアルミナとしており、排気温度が上昇するほど絶縁抵抗値が低下していることがわかる。高圧電極2への供給エネルギ15W(電圧−10kV、電流1.5mA)の時、電流リークによる損失電力は1.5W以下、すなわちエネルギ損失率=10%(1.5W/15W×100)以下であることが望ましい。これは、排気システム全体を考えた場合、電流リークによる燃費悪化は0.03%以下とされており、損失例えば欧州の走行モードでは50W消費で燃費悪化が1%とされていることから、燃費悪化0.03%が損失電力1.5Wに相当することによる。
【0038】
図3に示すように、例えば、排気温度600℃において筒状碍子部23の絶縁抵抗値Rは33MΩである(電圧−10kV)。この時、碍子に漏れる電流Iは、3×10-4(A)であり、また、損失電力Wは、3(W)となる。
I=V/R=10000/33×106=3×10-4(A)・・・(1)
W=IV=3×10-4×10000(W)・・・(2)
つまり、前述した燃費悪化0.03%を達成する損失電力1.5Wの2倍の電力を損失することになり、エネルギ損失率10%を達成するには、2倍の供給エネルギ30Wが必要となる。
損失率=損失エネルギ(W)/供給エネルギ(W)×100=3/30×100=10%・・・(3)
この電極電圧(−10kV)は、集塵部1のほぼ下限値で、電極電圧が上昇すれば、絶縁抵抗値はさらに低下する。
【0039】
上記(1)、(2)式から、損失電力Wを1.5W以下とするには、電極電圧(−10kV)の場合、筒状碍子部23の絶縁抵抗値が66MΩ以上であることが必要となる。
R=10kV/(1.5mA×0.1)=66MΩ
また、図2(b)の関係から、絶縁抵抗値を66MΩ以上とするには、排気温度300℃以下(排気温度≦300℃)にする必要があることがわかる。そこで、本実施形態では、熱電対Tで検出される排気温度が300℃以下でない場合には、冷却器4を用いて冷却水制御を行い、筒状碍子部23の温度が300℃以下となるようにして、絶縁抵抗値の低下を抑制する。
【0040】
具体的には、以下のように制御する。図4(a)に示すように、第1実施形態の構成において、高圧電極2の筒状碍子部23をアルミナ製(熱伝導率29W/(m・K))とし、冷却器4により冷却される下半部の長さ(冷却軸長さ)を40mm、直径φ7mmとする。また、冷却器4は、ステンレス鋼(SUS;熱伝導率16.7W/(m・K))よりなり、筒状碍子部23と接する容器体41の厚さを1mmとする。また、集塵部1が設置される排気管11を直径φ50mmとする。ここで、冷却水と筒状碍子部23との間で熱交換を行なって、排気温度を300℃に降下し、冷却水温を80℃から100℃に昇温するとした時、排気温度と冷却水流量の関係は、図4(b)のようになる。
【0041】
つまり、排気温度が300℃以下であれば、冷却器4を作動させず、排気温度が300℃を超えた場合には、排気温度が高いほど冷却水流量が増加するように、検出される温度に応じて制御部5が冷却水ポンプの回転数を調整する。例えば、排気温度が600℃の場合には、冷却水流量53g/秒とし、温度が低下するのに従って、徐々に冷却水流量を低下させるのがよい。
【0042】
図5は、制御部5による冷却水流量の制御フローを示している。まず、ステップS1において、熱電対Tで検出される排気温度をモニタし、ステップS2で検出された排気温度が300℃以下か否かを判断する。ステップS2が否定判定された場合には、ステップS3に進み、肯定判定された場合は冷却水ポンプPを作動させずに、または冷却水ポンプPを停止してステップS1に戻る。ステップS3では、温度差ΔT=排気温度−300℃を算出し、ステップS4において、算出された温度差ΔTに基づいて、図4(b)の関係から、必要な冷却水流量を算出する。次に、ステップS5において、必要な冷却水流量に対応する冷却水ポンプPの回転数を算出し、ステップS6に進んで冷却水ポンプPを作動させる。
【0043】
これらステップを繰り返すことで、冷却器4により筒状碍子部23が300℃を超えないように、つまり絶縁抵抗値が66MΩ以上となるように、エンジン冷却水を用いて効率よく高圧電極2を冷却することができる。したがって、筒状碍子部23への電流リークを抑制して、粒子状物質処理時のエネルギロスを大幅に削減し、高効率の集塵部1を備える排気処理装置とすることができる。
【0044】
図6に本発明の第2の実施形態を示す。上記第1の実施形態では、水冷式の抑制手段としてエンジン冷却水を用いた冷却器4を設置したが、本実施形態では、空冷式の抑制手段を設けている。本実施形態における集塵部1の基本構成は、上記第1の実施形態と同様であり、以下、相違点を中心に説明する。図6(a)に示すように、高圧電極2は、筒状碍子部23の下半部外周に、放熱部6と断熱部7を備えている。
【0045】
放熱部6は、排気管11外部に露出する筒状碍子部23を取り巻く筒状基体61の外周に、軸方向に等間隔で並設されるリング状の多数のフィン62を有している。筒状基体61およびフィン62は、アルミニウム等の熱伝導性に優れた金属にて一体的に構成される。放熱部6の設置部位において、筒状基体61の内周側には、筒状碍子部23との間に、カーボン等よりなる概略筒状の高熱伝導部材63が介設され、シール材44でシールされる。図6(b)に拡大して示すように、筒状碍子部23は、大径部26と小径部25が交互に位置する形状として、高熱伝導部材63に接する外周面を凹凸面としている。高熱伝導部材63は、内周面を、高熱伝導部材63の外周面と嵌合する凹凸面形状としている。これにより、筒状碍子部23と放熱部6の高熱伝導部材63および筒状基体61が互いに密着して、効率よく放熱できるようにしている。
【0046】
断熱部7は、耐熱材よりなるリング状の中空体で、排気管11内部に突出する筒状碍子部23の先端部外周を取り巻いている。断熱部7は、リング状の中空部71内に断熱作用を有する空気が充填された構造で、内周面が筒状碍子部23の先端部外周面に密着している。これにより、排気管11内部において、筒状碍子部23の先端部が高温の排気ガスに晒されるのを防止し、断熱保護する。
【0047】
本実施形態の構成では、空気の断熱作用で筒状碍子部23の先端部の温度上昇を防止しながら、先端部の熱を、筒状碍子部23の凹凸面から高熱伝導部材63を介してフィン62に伝達し、排気管11外部の大気と熱交換を行う。この時、フィン62の表面積や枚数により熱交換面積を適宜調整することによって、筒状碍子部23の温度が300℃を超えないように、効率よく高圧電極2を冷却することができる。そして、筒状碍子部23への電流リークを抑制して、粒子状物質処理時のエネルギロスを大幅に削減し、高効率の集塵部1を備える排気処理装置とすることができる。
【0048】
図7に本発明の第3〜5の実施形態を示す。図7(a)は、本発明が適用される直噴ガソリンエンジンの排気通路構成を示す図であり、エンジンEの排気管11には、公知の三元触媒81が設置される。また、排気管11の大気への開放端側には、公知のマフラーMが設置されている。ここで、上記第1、2の実施形態の集塵部1は、通常、排気ガスの温度の高い三元触媒81の近傍に配置されるが、排気管11後端側のマフラーM近傍では、排気ガスの温度が300℃前後まで低下する。そこで、第3の実施形態では、図7(a)において、高圧電極2と接地電極3からなる集塵部1を、マフラーMの上流位置(図中(1)位置)または下流位置(図中(2)位置)に配置する。さらに、制御部5にて、集塵部1が設置されるマフラーMの近傍位置の排気ガス温度が300℃以下となるように、エンジン回転数や燃料噴射量を制御する。
【0049】
第3の実施形態のように、抑制手段として、集塵部1の設置位置と制御部5による制御を組み合わせることもでき、高圧電極2の筒状碍子部23の絶縁抵抗値の低下を防止して、電流リークを抑制することができる。したがって、粒子状物質処理時のエネルギロスを低減し、高効率の集塵部1を備える排気処理装置とする同様の効果が得られる。
【0050】
上記第1、2の実施形態では、本発明を直噴ガソリンエンジンに適用して、その排気通路に冷却機構を有する集塵部1を設ける構成としたが、本発明をディーゼルエンジンに適用することももちろんできる。図7(b)は、本発明の第4実施形態で、ディーゼルエンジンに適用した場合である。エンジンEの排気管11には、公知のディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)82が設置される。一般に、ディーゼルエンジンの排気通路を流通する排気ガスの温度は、直噴ガソリンエンジンより低いものの、例えば、ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)を設置した場合、再生処理時にはDPF82後流に高温の燃焼ガスが排出される。
【0051】
近年、DPFをすり抜ける粒子状物質を処理するために、図示するように、DPF82の後流側に、コロナ放電を利用した集塵部1を設置することが検討されている(図中(3)位置)。このような場合には、集塵部1に上記第1、2の実施形態の冷却機構を有する集塵部1を設けることが有効で、同様の効果が得られる。
【0052】
また、排気管11の大気への開放端側には、公知のマフラーMが設置されており、この近傍では排気ガスの温度がより低くなる。そこで、上記第3の実施形態と同様に、高圧電極2と接地電極3からなる集塵部1を、マフラーMの下流位置(図中(4)位置)または上流位置に配置することができる。さらに、図示しない制御部にて、DPF82の再生時であっても集塵部1が設置されるマフラーMの近傍位置の排気ガス温度が300℃以下となるように、エンジン回転数や燃料噴射量さらにDPF82の再生を制御する。
【0053】
このように、ディーゼルエンジンにおいても、抑制手段として、集塵部1の設置位置と制御部5による制御を組み合わせ、高圧電極2の筒状碍子部23の絶縁抵抗値の低下を防止して、電流リークを抑制することができる。したがって、粒子状物質処理時のエネルギロスを低減し、高効率の集塵部1を備える排気処理装置とする同様の効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の排気処理装置は、直噴ガソリンエンジンやディーゼルエンジンに限らず、内燃機関から排出される粒子状物質の浄化にコロナ放電を利用する場合に好適である。そして、抑制手段は、集塵部の放電電極が高温雰囲気に晒される環境であっても筒状碍子部の抵抗値が低下せず、または高温雰囲気に晒されないように制御して、筒状碍子部の高抵抗状態に維持するので、耐久性および安全性に優れ、実用性が高い。
【符号の説明】
【0055】
1 集塵部
11 排気管(排気通路)
12 放電空間部
2 高圧電極(放電電極)
21 導電部
22 放電部
23 筒状碍子部
24 突起状電極部
3 接地電極(対向電極)
4 冷却器(冷却部)
41 容器体
42 蓋体
43 冷却水流路
44 シール材
45 冷却水入口
46 冷却水出口
5 制御部
6 放熱部
61 筒状基体
62 フィン
63 高熱伝導部材
7 断熱部
71 中空部
81 三元触媒
82 DPF
E エンジン
T 熱電対(温度検出手段)
M マフラー
P ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に設けた放電空間部に放電電極と対向電極を配置し、両電極間にコロナ放電を発生させて排気ガス中の粒子状物質を帯電凝集させる集塵部を備えており、
上記放電電極は、上記排気通路壁に支持固定され、絶縁性材料からなる筒状碍子部内に保持される導電部と、上記筒状碍子部の端部から上記放電空間部内に延出し、先端が上記放電空間部中央に位置する放電部とからなり、
上記筒状碍子部の絶縁抵抗値の低下を抑制する抑制手段を設けたことを特徴とする内燃機関の排気処理装置。
【請求項2】
上記抑制手段は、上記筒状碍子部の外周を取り巻く冷却水流路を備えた冷却部を有する請求項1記載の内燃機関の排気処理装置。
【請求項3】
上記抑制手段は、上記冷却水流路を流通する冷却水の流量を制御する制御部を有する請求項2記載の内燃機関の排気処理装置。
【請求項4】
上記抑制手段は、上記排気通路の排気ガス温度を検出する温度検出手段を有し、該温度検出手段の検出結果に基づいて上記制御部が上記冷却部の作動を制御する請求項3記載の内燃機関の排気処理装置。
【請求項5】
上記抑制手段は、上記排気通路の外部に露出する上記筒状碍子部の外周にフィンを設けた放熱部を有する請求項4記載の内燃機関の排気処理装置。
【請求項6】
上記筒状碍子部は、上記放熱部に接する外周面を凹凸面に形成する請求項5記載の内燃機関の排気処理装置。
【請求項7】
上記抑制手段は、上記抑制手段は、上記排気通路の内部に露出する上記筒状碍子部の先端外周を取り巻く断熱部を有する請求項4または5記載の内燃機関の排気処理装置。
【請求項8】
上記断熱部はリング状の中空体で、内周面が上記筒状碍子部の先端側外周面に接して配置される請求項7記載の内燃機関の排気処理装置。
【請求項9】
上記抑制手段として、上記集塵部を、内燃機関の排気通路に配置されるマフラーの近傍に配置するとともに、該マフラーの近傍の温度を制御する制御部を設けたことを特徴とする内燃機関の排気処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−136954(P2012−136954A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−288064(P2010−288064)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】