説明

内燃機関の排気浄化装置

【課題】内燃機関の排気浄化装置において、選択還元型NOx触媒での高いNOx浄化率の確保とNHスリップ抑制との両立を実現する技術を提供する。
【解決手段】SCR触媒3のNOx浄化率を算出し、算出されたNOx浄化率に基づいて、SCR触媒3に吸着したNHの推定吸着量を算出し、算出された推定吸着量が、内燃機関1のあらゆる運転状態で、一定以上のNOx浄化率を実現でき且つSCR触媒3からのNHのスリップを抑制できるか否かの閾値である所定量以下であると、規定量の尿素水を尿素水添加弁4から添加し、推定吸着量が所定量を超えると、推定吸着量が多い程規定量を減量した尿素水を尿素水添加弁4から添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の排気通路に上流から順に、酸化触媒、還元剤添加弁、選択還元型NOx触媒(以下、SCR触媒という)を配置し、還元剤添加弁から添加した還元剤から生成されるNH(アンモニア)を用いて、SCR触媒に流入する排気中のNOxを浄化することが行われている。ここで、還元剤の添加方法として、2通りの方法が従来から用いられている(例えば特許文献1(段落0005〜0008)参照)。
【0003】
第1の方法としては、内燃機関から排出されてSCR触媒へ流入するNOx量を推定し、そのNOx量に応じた分(当量比1)だけの還元剤を継続的に添加する当量添加方法である。この方法の場合には、還元剤の添加制御の応答遅れ、還元剤から加水分解してNHになるまでの遅れ等からNOx排出量が急激に変化した場合に対応が間に合わず、的確な添加量とすることが困難である。そのため、添加過多によるNHスリップや、添加不足によるNOx浄化率の低下が生じ得る。
【0004】
第2の方法としては、SCR触媒のNH吸着機能を利用し、予め飽和吸着量を超えない範囲でNHを吸着させて保持させておき、NOxを還元浄化させてSCR触媒に吸着させたNHが消費され次第、消費されたNH量に応じた分だけ還元剤を添加する吸着添加方法である。この方法の場合には、第1の方法に比して、応答遅れやNOx量の急激な変化に対応し易いため、従来では、主にこの第2の方法が採用されている。
【0005】
ここで、この第2の方法の場合には、特許文献4の段落0003に記載があるように、SCR触媒へ吸着させておくNH量は、SCR触媒の飽和吸着量を超えない限りにおいてできるだけ多い方がよいと考えられていた。しかし、SCR触媒へ吸着させるNH量は多ければよいというものではなく、NHを吸着した状態であっても、できるだけ還元剤を添加している状態にしておくことの方が高いNOx浄化率を得ることができることが明らかになってきた。その一方で、還元剤を添加している状態にしておくと、NHがSCR触媒からすり抜けてしまうNHスリップが生じ易いという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−261253号公報
【特許文献2】特開2009−293444号公報
【特許文献3】特開2005−226504号公報
【特許文献4】特開2005−127256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたもので、本発明の目的は、内燃機関の排気浄化装置において、選択還元型NOx触媒での高いNOx浄化率の確保とNHスリップ抑制との両立を実現する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にあっては、以下の構成を採用する。すなわち、本発明は、
内燃機関の排気通路に配置された選択還元型NOx触媒と、
前記選択還元型NOx触媒よりも上流の前記排気通路に配置され、前記選択還元型NOx触媒へNHを供給するための還元剤を添加する還元剤添加部と、
を備えた内燃機関の排気浄化装置であって、
前記選択還元型NOx触媒のNOx浄化率を算出する浄化率算出部と、
前記浄化率算出部で算出されたNOx浄化率に基づいて、前記選択還元型NOx触媒に吸着したNHの推定吸着量を算出する推定吸着量算出部と、
前記推定吸着量算出部で算出された推定吸着量が、前記内燃機関のあらゆる運転状態で、一定以上のNOx浄化率を実現でき且つ前記選択還元型NOx触媒からのNHのスリップを抑制できるか否かの閾値である所定量以下であると、規定量以上の還元剤を前記還元剤添加部から添加し、前記推定吸着量が所定量を超えると、前記推定吸着量が多い程規定量を減量した還元剤を前記還元剤添加部から添加する添加制御部と、
を備えたことを特徴とする内燃機関の排気浄化装置である。
【0009】
ここで、所定量とは、推定吸着量がそれ以下の量であると、内燃機関のあらゆる運転状態で、一定以上のNOx浄化率を実現でき且つ選択還元型NOx触媒からのNHのスリップを抑制できる量であり、内燃機関のあらゆる運転状態で、一定以上のNOx浄化率を実現でき且つ選択還元型NOx触媒からのNHのスリップを抑制できるか否かの閾値である。
【0010】
選択還元型NOx触媒は、吸着させるNH量が多ければよいというものではなく、NHを吸着した状態であっても、できるだけ還元剤を添加している状態にしておくことの方が高いNOx浄化率を得ることができることが明らかになってきた。その一方で、還元剤を添加している状態にしておくと、NHが選択還元型NOx触媒からすり抜けてしまうNHスリップが生じ易いという問題もある。
【0011】
そこで本発明では、推定吸着量が所定量以下であると、内燃機関のあらゆる運転状態で、一定以上のNOx浄化率を実現でき且つ選択還元型NOx触媒からのNHのスリップを抑制できるので、規定量以上の還元剤を添加する。一方、推定吸着量が所定量を超えると、選択還元型NOx触媒からのNHのスリップが生じ易くなくなるので、推定吸着量が多い程規定量を減量した還元剤を添加する。これによって、推定吸着量が所定量を超えても、選択還元型NOx触媒の飽和吸着量を超えない範囲内で、できるだけ還元剤を添加している状態にしておくことができる。したがって、選択還元型NOx触媒での高いNOx浄化率の確保とNHスリップ抑制との両立を実現することができる。
【0012】
前記浄化率算出部で算出されたNOx浄化率に基づいて、還元剤の規定量を算出する規定量算出部を更に備えるとよい。
【0013】
これによると、還元剤の規定量がNOx浄化率に基づいて算出されるので、還元剤の規定量がNOx浄化に適した量に設定できる。
【0014】
前記浄化率算出部は、前記選択還元型NOx触媒に流入するNOとNOとの比、前記選択還元型NOx触媒の温度、及び排気流量からNOx浄化率を算出する想定浄化率算出部と、前記選択還元型NOx触媒に出入りするNOx濃度からNOx浄化率を算出する実浄化率算出部と、を有しており、
前記推定吸着量算出部は、前記実浄化率算出部で算出されたNOx浄化率に基づいて、前記推定吸着量を算出し、
前記規定量算出部は、前記想定浄化率算出部で算出されたNOx浄化率に基づいて、還元剤の規定量を算出するとよい。
【0015】
想定浄化率算出部は、選択還元型NOx触媒に流入するNOとNOとの比、選択還元
型NOx触媒の温度、及び排気流量からNOx浄化率を算出するので、今現在のNOx浄化率を予測できる。実浄化率算出部は、選択還元型NOx触媒に出入りするNOx濃度からNOx浄化率を算出するので、タイムラグがあるものの直近における実際のNOx浄化率を導出できる。このため、推定吸着量は、タイムラグがあるものの直近における実際の量を導出でき、還元剤の規定量は、今現在必要な量を導出できる。
【0016】
前記浄化率算出部は、前記選択還元型NOx触媒に流入するNOとNOとの比、前記選択還元型NOx触媒の温度、及び排気流量からNOx浄化率を算出する想定浄化率算出部であるとよい。
【0017】
想定浄化率算出部は、選択還元型NOx触媒に流入するNOとNOとの比、選択還元型NOx触媒の温度、及び排気流量からNOx浄化率を算出するので、今現在のNOx浄化率を予測できる。このため、推定吸着量は、今現在の量を導出でき、還元剤の規定量は、今現在必要な量を導出できる。
【0018】
前記浄化率算出部は、前記選択還元型NOx触媒に出入りするNOx濃度からNOx浄化率を算出する実浄化率算出部であるとよい。
【0019】
実浄化率算出部は、選択還元型NOx触媒に出入りするNOx濃度からNOx浄化率を算出するので、タイムラグがあるものの直近における実際のNOx浄化率を導出できる。このため、推定吸着量は、タイムラグがあるものの直近における実際の量を導出でき、還元剤の規定量は、タイムラグがあるものの直近における実際に必要だった量を導出できる。
【0020】
前記添加制御部が添加する還元剤の量を算出するための、前記推定吸着量算出部で算出された前記推定吸着量と所定量とに基づいて、還元剤の規定量に掛け合わされる増減量率を算出する増減量率算出部を更に備えるとよい。
【0021】
これによると、添加制御部が添加する還元剤の量が、還元剤の規定量に増減量率を掛け合わすことで算出できる。
【0022】
前記添加制御部は、前記推定吸着量が所定量以下であると、規定量の還元剤を前記還元剤添加部から添加するとよい。
【0023】
これによると、推定吸着量が所定量以下のときに規定量の還元剤を添加するので、選択還元型NOx触媒のNHの吸着量を確実にゆっくり増加させ、NHの吸着量が急激に増加することにより不意にNHスリップが生じることを回避することができる。
【0024】
前記添加制御部は、前記推定吸着量が所定量以下であると、前記推定吸着量が少ない程規定量を増量した還元剤を前記還元剤添加部から添加するとよい。
【0025】
これによると、推定吸着量が少ない程還元剤を増量するので、選択還元型NOx触媒のNHの吸着量をより早く増加させ、選択還元型NOx触媒のNOx浄化率をより早く上昇させることができる。
【0026】
また本発明は、
内燃機関の排気通路に配置された選択還元型NOx触媒と、
前記選択還元型NOx触媒よりも上流の前記排気通路に配置され、前記選択還元型NOx触媒へNHを供給するための還元剤を添加する還元剤添加部と、
を備えた内燃機関の排気浄化装置の還元剤添加方法であって、
前記選択還元型NOx触媒のNOx浄化率を算出し、
算出されたNOx浄化率に基づいて、前記選択還元型NOx触媒に吸着したNHの推定吸着量を算出し、
算出された推定吸着量が、前記内燃機関のあらゆる運転状態で、一定以上のNOx浄化率を実現でき且つ前記選択還元型NOx触媒からのNHのスリップを抑制できるか否かの閾値である所定量以下であると、規定量以上の還元剤を前記還元剤添加部から添加し、前記推定吸着量が所定量を超えると、前記推定吸着量が多い程規定量を減量した還元剤を前記還元剤添加部から添加することを特徴とする内燃機関の排気浄化装置の還元剤添加方法である。
【0027】
本発明によっても、内燃機関の排気浄化装置において、選択還元型NOx触媒での高いNOx浄化率の確保とNHスリップ抑制との両立を実現することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によると、内燃機関の排気浄化装置において、選択還元型NOx触媒での高いNOx浄化率の確保とNHスリップ抑制との両立を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施例1に係る内燃機関の概略構成を示す図である。
【図2】SCR触媒のNH吸着量とNOx浄化率との関係を示す図である。
【図3】実施例1に係るECU内の制御ブロック図である。
【図4】実施例1に係る推定吸着量と増減量率との関係を示す図である。
【図5】実施例1に係るSCR触媒床温と所定量及び限界吸着量との関係を示す図である。
【図6】実施例1の他の例に係るSCR触媒床温と所定量及び限界吸着量との関係を示す図である。
【図7】実施例1に係る尿素水添加制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図8】変形例1に係る推定吸着量と増減量率との関係を示す図である。
【図9】変形例2に係るECU内の制御ブロック図である。
【図10】変形例2に係る尿素水添加制御ルーチンを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に本発明の具体的な実施例を説明する。
【0031】
<実施例1>
(内燃機関)
図1は、本発明の実施例1に係る内燃機関の概略構成を示す図である。図1に示す内燃機関1は、4つの気筒を有する車両駆動用の4ストロークサイクル・ディーゼルエンジンである。内燃機関1には、内燃機関1から排出された排気を流通させる排気通路2が接続されている。
【0032】
排気通路2の途中には、選択還元型NOx触媒(以下、SCR触媒という)3が配置されている。SCR触媒3は、NH(アンモニア)を用いて排気中のNOxを還元浄化する。例えば、NOは、4NO+4NH+O→4N+6HOのような反応によって、Nに還元される。NOは、6NO+8NH→7N+12HOのような反応によって、Nに還元される。NO及びNOは、NO+NO+2NH→2N+3HOのような反応によって、Nに還元される。またSCR触媒3は、NHを吸着する機能を有する。SCR触媒3は、ゼオライト等で形成される。
【0033】
SCR触媒3よりも上流の排気通路2には、SCR触媒3に供給するNHに加水分解
される還元剤として尿素水溶液(以下、尿素水という)を添加する尿素水添加弁4が配置されている。尿素水添加弁4からは、尿素水タンク5に蓄えられた尿素水が指令に基づいて排気通路2内に噴射される。噴射された尿素水は、(NH)2CO+HO→2NH+COのような反応で排気熱を用いて加水分解され、NHが生成される。尿素水添加弁4が、本発明の還元剤添加部に対応する。還元剤としては、尿素水以外にもアンモニア水溶液等のアンモニア系溶液を用いることができる。
【0034】
尿素水添加弁4の直上流の排気通路2には、SCR触媒3に流入する排気中のNOx濃度を検出する第1NOxセンサ6が配置されている。第1NOxセンサ6は、第1NOx濃度取得部に対応する。SCR触媒3の直下流の排気通路2には、SCR触媒3から流出する排気中のNOx濃度を検出する第2NOxセンサ7が配置されている。第2NOxセンサ7は、第2NOx濃度取得部に対応する。なお、第1NOx濃度取得部及び第2NOx濃度取得部としては、内燃機関1の運転状態と予め算出したNOx濃度推定マップとからNOx濃度を推定するものでもよい。SCR触媒3には、SCR触媒床温を検出する温度センサ8が配置されている。温度センサ8は、触媒温度取得部に対応する。なお、触媒温度取得部としては、排気通路2に配置された排気温度と予め算出した触媒床温推定マップとからSCR触媒床温を推定するものでもよい。
【0035】
以上述べたように構成された内燃機関1には電子制御ユニット(以下、ECUという)9が併設されている。ECU9には、第1NOxセンサ6、第2NOxセンサ7、及び温度センサ8、並びに不図示のクランクポジションセンサ及びアクセル開度センサが電気的に接続されている。これらの出力信号がECU9に入力される。また、ECU9には、尿素水添加弁4が電気的に接続されており、ECU9によって制御される。
【0036】
(尿素水添加制御)
従来、SCR触媒3へ尿素水を添加する場合として、主に、SCR触媒3のNHを吸着する機能を利用し、予め飽和吸着量を超えない範囲の目標吸着量でNHをSCR触媒3に吸着させて保持させておき、NOxの還元により保持されていたNHが消費され次第、目標吸着量になるように消費されたNHの量に応じた分だけ尿素水を供給する吸着添加方法が用いられていた。
【0037】
ここで、この方法の場合には、目標吸着量であるSCR触媒3へ吸着させておくNH量は、SCR触媒3の飽和吸着量を超えない限りにおいてできるだけ多い方がよいと考えられていた。しかし、SCR触媒3へ吸着させるNH量は多ければよいというものではなく、NHを吸着した状態であっても、できるだけ尿素水を添加している状態にしておくことの方が高いNOx浄化率を得ることができることが明らかになってきた。図2は、SCR触媒のNH吸着量とNOx浄化率との関係を示す図である。図2に示すように、同じNH吸着量であっても、尿素水を添加している状態の方が、添加していない状態よりもNOx浄化率が高くなる。その一方で、尿素水を添加している状態にしておくと、NHがSCR触媒3からすり抜けてしまうNHスリップが生じ易いという問題もある。
【0038】
そこで、本実施例では、SCR触媒3に吸着したNHの推定吸着量が、内燃機関1のあらゆる運転状態で、一定以上のNOx浄化率を実現でき且つSCR触媒3からのNHのスリップを抑制できるか否かの閾値である所定量以下であると、規定量の尿素水を尿素水添加弁4から添加し、前記推定吸着量が所定量を超えると、前記推定吸着量が多い程規定量を減量した尿素水を尿素水添加弁4から添加するようにした。
【0039】
ここで、所定量とは、SCR触媒3に吸着したNHの推定吸着量がそれ以下の量であると、内燃機関1のあらゆる運転状態で、一定以上のNOx浄化率を実現でき且つSCR触媒3からのNHのスリップを抑制できる量であり、内燃機関1のあらゆる運転状態で
、一定以上のNOx浄化率を実現でき且つSCR触媒3からのNHのスリップを抑制できるか否かの閾値である。本実施例の所定量は、SCR触媒3の吸着量に対しNOx浄化率が飽和する浄化率飽和吸着量を用いる。しかし、所定量としては、浄化率飽和吸着量に限られるものではない。
【0040】
本実施例によると、SCR触媒3に吸着したNHの推定吸着量が所定量以下であると、内燃機関1のあらゆる運転状態で、一定以上のNOx浄化率を実現でき且つSCR触媒3からのNHのスリップを抑制できるので、規定量の尿素水を添加する。一方、前記推定吸着量が所定量を超えると、SCR触媒3からのNHのスリップが生じ易くなくなるので、前記推定吸着量が多い程規定量を減量した尿素水を添加する。これによって、前記推定吸着量が所定量を超えても、SCR触媒3の飽和吸着量を超えない範囲内で、できるだけ尿素水を添加している状態にしておくことができる。したがって、SCR触媒3での高いNOx浄化率の確保とNHスリップ抑制との両立を実現することができる。
【0041】
図3は、本実施例に係るECU9内の制御ブロック図である。図3を用いて、SCR触媒3に吸着したNHの推定吸着量と所定量との関係に応じて、尿素水添加弁4からの尿素水の添加制御を行う具体的な構成について述べる。
【0042】
図3に示すように、ECU9は、内燃機関1の運転状態からマップにより推定されるSCR触媒3に流入するNOとNOとの比、温度センサ8で検出するSCR触媒3の温度、及びエアフローメータ10で検出する排気流量から、NOx浄化率を算出する想定浄化率算出部9aを有する。SCR触媒3に流入するNOとNOとの比には、SCR触媒3よりも上流の排気通路2に配置された酸化触媒でのNOからNOへの変化率等も考慮することもできる。これにより、想定浄化率算出部9aでは、今現在のSCR触媒3のNOx浄化率を予測できる。なお、想定浄化率算出部9aは、浄化率算出部の一部である。
【0043】
ECU9は、第1NOxセンサ6及び第2NOxセンサ7で検出するSCR触媒3に出入りするNOx濃度からSCR触媒3のNOx浄化率を算出する実浄化率算出部9bを有する。実浄化率算出部9bでのNOx浄化率は、第1NOxセンサ6で検出するNOx濃度(以下、入NOx濃度という)から、第2NOxセンサ7で検出するNOx濃度(以下、出NOx濃度という)を引いた値を入NOx濃度で割ることで求めることができる。これにより、実浄化率算出部9bでは、タイムラグがあるものの直近におけるSCR触媒3の実際のNOx浄化率を導出できる。なお、実浄化率算出部9bは、浄化率算出部の一部である。
【0044】
ECU9は、第1NOxセンサ7で検出するSCR触媒3に流入するNOx濃度と、エアフローメータ10で検出する排気流量と、から、SCR触媒3に流入するNOx量を算出するNOx量算出部9cを有する。NOx量は、入NOx濃度に排気流量を掛けることで求めることができる。
【0045】
ECU9は、想定浄化率算出部9aで算出されたNOx浄化率に基づいて、尿素水の規定量を算出する規定量算出部9dを有する。規定量算出部9dでは、想定浄化率算出部9aで算出されたNOx浄化率にNOx量算出部9cで算出されたNOx量を掛けることにより、SCR触媒3で浄化する浄化NOx量を算出し、当該浄化NOx量と反応して消費されるであろうNHを生成する尿素水の量を規定量として算出する。想定浄化率算出部9aが今現在のNOx浄化率を予測するので、尿素水の規定量は今現在必要な量を導出できる。
【0046】
ECU9は、実浄化率算出部9bで算出されたNOx浄化率に基づいて、SCR触媒3に吸着したNHの推定吸着量を算出する推定吸着量算出部9eを有する。推定吸着量算
出部9eでは、実浄化率算出部9bで算出されたNOx浄化率にNOx量算出部9cで算出されたNOx量を掛けることにより、SCR触媒3で還元浄化された還元NOx量を算出する。還元NOx量に還元反応させたNH量が消費NH量である。前回の推定吸着量と消費NH量と添加制御部での尿素水の添加量とから、SCR触媒3に吸着したNHの推定吸着量を算出する。実浄化率算出部9bはタイムラグがあるものの直近における実際のNOx浄化率を導出するので、推定吸着量はタイムラグがあるものの直近における実際の量を導出できる。
【0047】
ECU9は、添加制御部9gが添加する尿素水の量を算出するための、推定吸着量算出部9eで算出された推定吸着量と所定量とに基づいて、尿素水の規定量に掛け合わされる増減量率を算出する増減量率算出部9fを有する。図4は、増減量率算出部9fに設定される推定吸着量と増減量率との関係を示す図である。増減量率算出部9fには、図4に示すようなマップが設定される。図4に示すマップは、推定吸着量が所定量以下では増減量率が1であり、推定吸着量が所定量を超えると増減量率が限界吸着量のとき0となるように一次関数的に減少する。このマップに推定吸着量を取り込むことで、増減量率を算出する。ここで、図4に示すマップは、SCR触媒床温に応じて異なる。図5は、SCR触媒床温と所定量及び限界吸着量との関係を示す図である。図5に示す所定量及び限界吸着量の温度特性は予め判明している。このため、増減量率算出部9fでは、温度センサ8で検出したSCR触媒床温に応じて、図5に示す温度特性から、所定量及び限界吸着量を導出する。そして、導出した所定量及び限界吸着量から、図4に示すマップを設定する。なお、限界吸着量は、図5に示す特性のもの以外にも、過渡運転時のNHスリップ等を考慮した温度特性を用いてもよい。図6は、他の例に係るSCR触媒床温と所定量及び限界吸着量との関係を示す図である。所定量や限界吸着量は、図6に示すように、図5の温度特性とは異なるものから導出してもよい。図6に示す所定量の温度特性は、浄化率飽和吸着量よりも吸着量を多く設定しており、限界吸着量の温度特性は、過渡運転時のNHスリップを考慮しているので、最大の限界吸着量よりも吸着量を少なく設定している。
【0048】
ECU9は、尿素水添加弁4から添加する尿素水の添加制御を行う添加制御部9gを有する。添加制御部9gは、規定量算出部9dで算出された規定量に増減量率算出部9fで算出された増減量率を掛けることによって、尿素水の添加量を導出する。そして、導出された添加量を尿素水添加弁4から添加する。つまり、増減量率が図4に示すマップで定まることから、推定吸着量が所定量以下であると、規定量の尿素水を尿素水添加弁4から添加し、推定吸着量が所定量を超えると、推定吸着量が多い程規定量を減量した尿素水を尿素水添加弁4から添加することになる。この場合には、推定吸着量が所定量以下のときに規定量の尿素水を添加するので、SCR触媒3のNHの吸着量を確実にゆっくり増加させ、NHの吸着量が急激に増加することにより不意にNHスリップが生じることを回避することができる。
【0049】
ECU9が行う尿素水添加制御ルーチンについて、図7に示すフローチャートに基づいて説明する。図7は、尿素水添加制御ルーチンを示すフローチャートである。本ルーチンは、所定の時間毎にECU9によって実行される。図7に示すルーチンが開始されると、S101では、想定浄化率算出部9aで想定浄化率を算出する。S102では、想定浄化率算出部9aで算出した想定浄化率と、NOx量算出部9cで算出したNOx量と、から、規定量算出部9dで尿素水の規定量を算出する。S103では、増減量率算出部9fで増減量率を算出する。S104では、規定量算出部9dで算出した尿素水の規定量と、増減量率算出部9fで算出した増減量率と、から、添加制御部9gで尿素水の添加量を算出し、添加を実行する。S105では、実浄化率算出部9bで実浄化率を算出する。S106では、前回の推定吸着量と、添加制御部9gで添加した尿素水の添加量と、実浄化率算出部9bで算出した実浄化率と、から、推定吸着量算出部9eでSCR触媒3に吸着されたNHの吸着量を推定する。本ステップの処理の後、本ルーチンを一旦終了する。以上
説明した本ルーチンによると、SCR触媒3での高いNOx浄化率の確保とNHスリップ抑制との両立を実現することができる。
【0050】
<その他>
本発明に係る内燃機関の排気浄化装置は、上述の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を加えてもよい。
【0051】
<変形例1>
例えば、増減量率算出部9fでは、図8に示すようなマップを設定するものでもよい。図8は、増減量率算出部9fに設定される推定吸着量と増減量率との関係を示す図である。図8に示すマップは、推定吸着量が所定量以下では推定吸着量が少ない程増減量率が1よりも大きく、推定吸着量が所定量のときに増減量率が1となり、推定吸着量が所定量を超えると増減量率が限界吸着量のとき0となるように一次関数的に減少する。これによると、添加制御部9gでは、増減量率が図8に示すマップで定まることから、推定吸着量が所定量以下であると、推定吸着量が少ない程規定量を増量した尿素水を尿素水添加弁4から添加し、推定吸着量が所定量を超えると、推定吸着量が多い程規定量を減量した尿素水を尿素水添加弁4から添加することになる。この場合には、推定吸着量が少ない程尿素水を増量するので、SCR触媒3のNHの吸着量をより早く増加させ、SCR触媒3のNOx浄化率をより早く上昇させることができる。
【0052】
<変形例2>
ECU9内の制御ブロック図は、図9に示すものでもよい。なお、ここでは、図3の制御ブロック図で説明したものについては説明を省略する。
【0053】
図9に示すように、ECU9は、規定量算出部9dで算出された規定量に増減量率算出部9fで算出された増減量率を掛けることによって、尿素水の添加量1を導出する添加量1算出部9hを有する。
【0054】
また、ECU9は、所定量と推定吸着量算出部9eで算出された推定吸着量とを一致するようにPID制御等でフィードバック制御する添加量2を算出する添加量2算出部9iを有する。添加量2算出部9iでは、所定量から推定吸着量を引いた値の関数として添加量2を算出する。この添加量2は、所定量から推定吸着量を引いた値が負(0以下)となる場合には、0として算出される。
【0055】
ECU9は、添加量1と添加量2とを加算して最終添加量を算出し、添加を実行する添加制御部9jを有する。添加制御部9jでは、添加量1算出部9hで算出された添加量1と、添加量2算出部9iで算出された添加量2と、を加算して、尿素水の最終添加量を導出する。そして、導出された最終添加量を尿素水添加弁4から添加する。つまり、添加量2が所定量から推定吸着量を引いた値が負(0以下)となる場合には、0として算出されるので、推定吸着量が所定量以下であると、規定量以上の尿素水を尿素水添加弁4から添加し、推定吸着量が所定量を超えると、推定吸着量が多い程規定量を減量した尿素水を尿素水添加弁4から添加することになる。
【0056】
ECU9が行う尿素水添加制御ルーチンについて、図10に示すフローチャートに基づいて説明する。図10は、尿素水添加制御ルーチンを示すフローチャートである。本ルーチンは、所定の時間毎にECU9によって実行される。なお、実施例1での図7に示すルーチンと同じステップについては説明を省略する。図10に示すルーチンが開始されると、S101〜S103が実行される。S201では、規定量算出部9dで算出した尿素水の規定量と、増減量率算出部9fで算出した増減量率と、から、添加量1算出部9hで尿素水の添加量1を算出する。S202では、添加量2算出部9iで所定量から推定吸着量
算出部9eで算出された推定吸着量を引いた値の関数として添加量2を算出する。S203では、添加制御部9jで添加量1と添加量2とを加算して最終添加量を算出し、添加を実行する。S105〜S106を実行し、このステップの処理の後、本ルーチンを一旦終了する。以上説明した本ルーチンによると、SCR触媒3での高いNOx浄化率の確保とNHスリップ抑制との両立を実現することができる。
【0057】
<変形例3>
また、実施例1では、浄化率算出部が、想定浄化率算出部9aと実浄化率算出部9bとの2つであったが、どちらか一方のみを用いるものでもよい。浄化率算出部が想定浄化率算出部9aのみであると、今現在のNOx浄化率を予測でき、推定吸着量は今現在の量を導出でき、尿素水の規定量は今現在必要な量を導出できる。浄化率算出部が実浄化率算出部9bのみであると、タイムラグがあるものの直近における実際のNOx浄化率を導出でき、推定吸着量はタイムラグがあるものの直近における実際の量を導出でき、尿素水の規定量はタイムラグがあるものの直近における実際に必要だった量を導出できる。
【符号の説明】
【0058】
1:内燃機関、2:排気通路、3:SCR触媒、4:尿素水添加弁、5:尿素水タンク、6:第1NOxセンサ、7:第2NOxセンサ、8:温度センサ、9:ECU、9a:想定浄化率算出部、9b:実浄化率算出部、9c:NOx量算出部、9d:規定量算出部、9e:推定吸着量算出部、9f:増減量率算出部、9g:添加制御部、9h:添加量1算出部、9i:添加量2算出部、9j:添加制御部、10:エアフローメータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に配置された選択還元型NOx触媒と、
前記選択還元型NOx触媒よりも上流の前記排気通路に配置され、前記選択還元型NOx触媒へNHを供給するための還元剤を添加する還元剤添加部と、
を備えた内燃機関の排気浄化装置であって、
前記選択還元型NOx触媒のNOx浄化率を算出する浄化率算出部と、
前記浄化率算出部で算出されたNOx浄化率に基づいて、前記選択還元型NOx触媒に吸着したNHの推定吸着量を算出する推定吸着量算出部と、
前記推定吸着量算出部で算出された推定吸着量が、前記内燃機関のあらゆる運転状態で、一定以上のNOx浄化率を実現でき且つ前記選択還元型NOx触媒からのNHのスリップを抑制できるか否かの閾値である所定量以下であると、規定量以上の還元剤を前記還元剤添加部から添加し、前記推定吸着量が所定量を超えると、前記推定吸着量が多い程規定量を減量した還元剤を前記還元剤添加部から添加する添加制御部と、
を備えたことを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。
【請求項2】
前記浄化率算出部で算出されたNOx浄化率に基づいて、還元剤の規定量を算出する規定量算出部を更に備えたことを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項3】
前記浄化率算出部は、前記選択還元型NOx触媒に流入するNOとNOとの比、前記選択還元型NOx触媒の温度、及び排気流量からNOx浄化率を算出する想定浄化率算出部と、前記選択還元型NOx触媒に出入りするNOx濃度からNOx浄化率を算出する実浄化率算出部と、を有しており、
前記推定吸着量算出部は、前記実浄化率算出部で算出されたNOx浄化率に基づいて、前記推定吸着量を算出し、
前記規定量算出部は、前記想定浄化率算出部で算出されたNOx浄化率に基づいて、還元剤の規定量を算出することを特徴とする請求項2に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項4】
前記浄化率算出部は、前記選択還元型NOx触媒に流入するNOとNOとの比、前記選択還元型NOx触媒の温度、及び排気流量からNOx浄化率を算出する想定浄化率算出部であることを特徴とする請求項2に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項5】
前記浄化率算出部は、前記選択還元型NOx触媒に出入りするNOx濃度からNOx浄化率を算出する実浄化率算出部であることを特徴とする請求項2に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項6】
前記添加制御部が添加する還元剤の量を算出するための、前記推定吸着量算出部で算出された前記推定吸着量と所定量とに基づいて、還元剤の規定量に掛け合わされる増減量率を算出する増減量率算出部を更に備えたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項7】
前記添加制御部は、前記推定吸着量が所定量以下であると、規定量の還元剤を前記還元剤添加部から添加することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項8】
前記添加制御部は、前記推定吸着量が所定量以下であると、前記推定吸着量が少ない程規定量を増量した還元剤を前記還元剤添加部から添加することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項9】
内燃機関の排気通路に配置された選択還元型NOx触媒と、
前記選択還元型NOx触媒よりも上流の前記排気通路に配置され、前記選択還元型NOx触媒へNHを供給するための還元剤を添加する還元剤添加部と、
を備えた内燃機関の排気浄化装置の還元剤添加方法であって、
前記選択還元型NOx触媒のNOx浄化率を算出し、
算出されたNOx浄化率に基づいて、前記選択還元型NOx触媒に吸着したNHの推定吸着量を算出し、
算出された推定吸着量が、前記内燃機関のあらゆる運転状態で、一定以上のNOx浄化率を実現でき且つ前記選択還元型NOx触媒からのNHのスリップを抑制できるか否かの閾値である所定量以下であると、規定量以上の還元剤を前記還元剤添加部から添加し、前記推定吸着量が所定量を超えると、前記推定吸着量が多い程規定量を減量した還元剤を前記還元剤添加部から添加することを特徴とする内燃機関の排気浄化装置の還元剤添加方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−241686(P2011−241686A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−111921(P2010−111921)
【出願日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】