説明

内燃機関の潤滑装置

【課題】2気筒以上の4サイクル内燃機関の潤滑装置において、従来の滑り軸受に代えてニードル軸受を用いることによって低摩擦化を図るとともにオイル量の低減化を図り、オイルポンプを用いない方式で軸受等を潤滑することにより、内燃機関の低燃費化及び低コスト化を図ることである。
【解決手段】クランク軸支持軸受23、コンロッド大端部軸受25、コンロッド小端部軸受27及びカム軸支持軸受32に対する給油手段を備えた内燃機関の潤滑装置において、前記各軸受をニードル軸受により構成するとともに、従来のオイルポンプを省略し、前記給油手段の潤滑方式として、撥ね掛け片36の回転によって前記軸受にオイル37の飛沫を掛ける方式を採った。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車等の内燃機関の潤滑装置に関し、特に、2気筒以上の4サイクル内燃機関の内部において使用される軸受の潤滑装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図5は従来の2気筒以上の4サイクル内燃機関の潤滑装置の給油系統を示している(特許文献1、同2)。この給油系統において潤滑対象となる部分は、クランク軸1に関しては、クランク軸1を支持するクランク軸支持軸受2、クランクピン3の周りに嵌合されたコンロッド大端部軸受4、ピストンピン5の周りに嵌合されたコンロッド小端部軸受6及びピストン7とシリンダー8の摺接面9である。また、カム軸11に関しては、カム軸支持軸受12及びカム13である。
【0003】
前記の各潤滑対象に対する給油系統は、内燃機関に内蔵されたオイルポンプ14によってオイルパン内の潤滑油(以下、オイルと称する。)15を吸い上げ、図示のような給油経路16を経てオイル15が分配されるようになっている。
【0004】
前記の潤滑対象となる軸受のうち、コンロッド小端部軸受6を除く他の軸受は、いずれも2分割形のメタル滑り軸受及びエンジンヘッドを直接軌道面とする滑り軸受が使用されている。また、コンロッド小端部軸受6は、コンロッド小端部17とピストンピン5が直接摺動する形式の滑り軸受となっている。なお、コンロッド大端部軸受4としてころ軸受を使用することは従来から知られている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−27126号公報
【特許文献2】特開2000−213323号公報
【特許文献3】米国特許第1921488号明細書及び図面
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記のように、従来の2気筒以上の4サイクル内燃機関用の潤滑装置は、各軸受として滑り軸受を使用していたので、転がり軸受を使用する場合に比べて摩擦が大きく、そのため、オイルが多量に必要となり、そのオイルをオイルポンプ14によって給油する必要があった。オイルポンプ14は、それ自体摩擦損失があるため、内燃機関の低燃費化には不利であり、同時に、内燃機関のコストに及ぼす影響も大きいものであった。
【0007】
そこで、この発明は、従来の滑り軸受に代えてニードル軸受を用いることにより低摩擦化を図るとともにオイル量の低減化を図り、さらにオイルポンプを用いない方式で軸受等を潤滑することにより、内燃機関の低燃費化及び低コスト化を図ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題を解決するために、この発明は、クランク軸支持軸受、コンロッド大端部軸受、コンロッド小端部軸受及びカム軸支持軸受に対する給油手段を備えた2気筒以上の4サイクルの内燃機関の潤滑装置において、前記各軸受がニードル軸受により構成され、前記給油手段の給油方式がオイルミスト方式である構成を採ったものである。
【0009】
前記オイルミスト方式を実施する給油手段の具体例としては、オイルパンに溜めたオイルの飛沫又はミストを潤滑対象に供給する撥ね掛け装置を挙げることができる。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、この発明は、2気筒以上の4サイクル内燃機関の潤滑装置において、クランク軸支持軸受、コンロッド大端部軸受、コンロッド小端部軸受及びカム軸支持軸受をそれぞれニードル軸受により構成したことにより、オイル量の低減化を図ることができる。また潤滑方式として撥ね掛け装置等によるオイルミスト方式を採用したことにより、オイルポンプが不要になり、内燃機関の低燃費化及び低コスト化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、実施形態1の概略断面図である。
【図2】図2は、実施形態2の概略断面図である。
【図3】図3は、実施形態3の概略断面図である。
【図4】図4は、実施形態3の概略縦断側面図である。
【図5】図5は、従来例の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、この発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
[実施形態1]
【0013】
図1に示した実施形態1は、2気筒以上の4サイクル内燃機関の潤滑装置を示している。この場合の潤滑対象となる軸受は、従来の場合と同様に、クランク軸21に関しては、クランク軸21を支持するクランク軸支持軸受23、クランクピン24の周りに嵌合されたコンロッド大端部軸受25、ピストンピン26の周りに嵌合されたコンロッド小端部軸受27及びピストン28とシリンダー29の摺接面30である。また、カム軸31に関して、カム軸支持軸受32及びカム33である。
【0014】
このうち、クランク軸支持軸受23、コンロッド大端部軸受25、コンロッド小端部軸受27及びカム軸支持軸受32は、いずれもニードル軸受によって構成される。ニードル軸受を使用した場合は、従来の滑り軸受に比べ、低フリクション化されるためオイル量の削減が可能となる。
【0015】
前記のように、潤滑対象となる軸受をニードル軸受により構成し、オイル量の削減が可能となったことにより、この発明においては、前記の各軸受に対する給油方式として、従来のオイルポンプを用いた給油方式に代えて、オイルミスト方式を採用することによりオイルポンプを省略することが可能となった。ニードル軸受の場合は、前記のように、オイル量が滑り軸受の場合に比べて少なくてよいので、オイルミスト方式による給油であっても給油量に不足を来すことはない。
【0016】
この実施形態1においては、オイルミスト方式を実施する具体的な装置として、撥ね掛け装置40を設け、撥ね掛け方式によって給油するようにしている。撥ね掛け装置40は、図1に示したように、クランク軸21の軸端部(ジャーナル22とエンジンブロック34との間の軸部分)及び各クランクアーム35において、それぞれ外周面の等分位置に放射方向に突き出した撥ね掛け片36を羽根車状に設けることにより構成される。
【0017】
前記の撥ね掛け片36は、その先端の回転軌跡がオイル37の液面以下となる大きさに設定される。また、オイル37の飛散方向に角度を持たせるため、回転面に対し傾斜角θをもつように取り付けられる。
【0018】
クランク軸21の回転に伴い、これらの撥ね掛け片36によりオイル37が撥ね上げられ飛沫となって飛散し、前記の潤滑対象に付着し潤滑作用を行う。クランク軸21が高速回転した場合は、飛沫はミスト化され、潤滑対象の微細な部分に浸入できるようになる。
【0019】
[実施形態2]
図2に示した実施形態2の場合の撥ね掛け装置40は、エンジンブロック34の内側において、クランク軸21の軸端部及びカム軸31の軸端部にそれぞれクランク軸スプロケット41及びカム軸スプロケット42を取り付け、これらのスプロケット41、42にタイミングチェーン38を掛けて、クランク軸21とカム軸31のタイミングを維持する構造を採る場合に採用される。
【0020】
即ち、この場合の撥ね掛け装置40は、前記クランク軸スプロケット41のボス43の軸方向に突き出した部分の外周面に撥ね掛け片36が羽根車状に設けられる。クランクアーム35に撥ね掛け片36が設けられる点は前記の実施形態1の場合と同様である。
【0021】
前記の撥ね掛け装置40は、クランク軸21の回転に伴い、クランク軸スプロケット41が回転し、そのボス43に設けられた撥ね掛け片36によりオイル37が撥ね上げられ、飛沫となって飛散し前記の潤滑対象に付着し潤滑作用を行う点、クランク軸21が高速回転した場合は、飛沫はミスト化され、潤滑対象の微細な部分に浸入できる点も実施形態1の場合と同様である。
【0022】
この実施形態2のように、撥ね掛け片36をクランク軸スプロケット41のボス43に設けると、クランク軸21へ施す加工量が少なくなる利点がある。
【0023】
[実施形態3]
図3及び図4に示した実施形態3に係る撥ね掛け装置40は、クランク軸21に撥ね掛け片36を設ける点は、前記実施形態2の場合と同様であるが、この実施形態3においては、カム軸31に関する潤滑対象、即ち、カム軸支持軸受32及びカム33のように、オイル37の液面から比較的高く離れた位置に設けられたり、オイル37の液面との間に障害物があったりする場合の給油手段を追加している。
【0024】
即ち、カム軸31に関する撥ね掛け装置40の部分は、エンジンブロック34の内部において、クランク軸21とカム軸31の軸端にそれぞれクランク軸スプロケット41及びカム軸スプロケット42が取り付けられ、これらのスプロケット41、42にタイミングチェーン38が掛け渡される。
【0025】
前記のタイミングチェーン38の全体にわたり一定間隔をおいて撥ね掛け片36aが取り付けられる。各撥ね掛け片36aはタイミングチェーン38の回転面内において、当該チェーン38に直角外向きに固定される(図4参照)。また、各撥ね掛け片36aの先端部に椀状のオイル保持凹部44が設けられ、各撥ね掛け片36aは、オイル保持凹部44の部分がオイル37の液面以下を通過し得る長さに形成される。
【0026】
前記カム軸スプロケット42の上方において、前記のオイル保持凹部44から排出されるオイルを受けるオイル回収容器45が設けられる。このオイル回収容器45は、所定の回転速度で回転するタイミングチェーン38と一体に回転する撥ね掛け片36aがカム軸スプロケット42の部分で方向を変える際に、オイル保持凹部44から回転軌跡の接線方向に放出されるオイル(図4の矢印a参照)を受け入れる開口部46を有する。またその底部に受け入れたオイルを溜めるオイル溜まり47を有する。開口部46とオイル溜まり47の間に傾斜案内板48が設けられる。
【0027】
また、前記オイル溜まり47に樋状のオイル分配経路49(図3参照)が接続される。オイル分配経路49はカム軸31の上方に沿ってこれと平行に設置され、潤滑対象であるカム軸支持軸受32及びカム33の部分において、すべて同じレベルにノズル50が設けられ、それぞれ潤滑対象に向けられる。オイル分配経路49の先端部は閉塞される。実施形態3のその他の構成は、前従の実施形態1又は2の場合と同様である。
【0028】
この実施形態3においては、タイミングチェーン38に取り付けられた撥ね掛け片36aがオイル37の液面に出入りする際にオイルの飛沫が周囲に放散され、潤滑対象に対し撥ね掛け方式の給油作用を行う。また、カム軸31が液面から比較的高所にあったり、その液面とカム軸31との間に障害物があったりして飛沫が届かない場合には、撥ね掛け片36aのオイル保持凹部44によってすくわれたオイル37が、カム軸スプロケット42の部分を通過する際に放出され、オイル回収容器45の開口部46から入り、オイル溜まり47に集められる。
【0029】
オイル溜まり47はオイル分配経路49に通じている。オイル分配経路49の先端部は閉塞されているので、その内部のオイル37の液面が一定以上になると、各ノズル50から均等にオイル37が流出し、それぞれ潤滑対象に供給される。
【符号の説明】
【0030】
1 クランク軸
2 クランク軸支持軸受
3 クランクピン
4 コンロッド大端部軸受
5 ピストンピン
6 コンロッド小端部軸受
7 ピストン
8 シリンダー
9 摺接面
11 カム軸
12 カム軸支持軸受
13 カム
14 オイルポンプ
15 オイル
16 給油経路
17 コンロッド小端部
21 クランク軸
22 ジャーナル
23 クランク軸支持軸受
24 クランクピン
25 コンロッド大端部軸受
26 ピストンピン
27 コンロッド小端部軸受
28 ピストン
29 シリンダー
30 摺接面
31 カム軸
32 カム軸支持軸受
33 カム
34 エンジンブロック
35 クランクアーム
36、36a 撥ね掛け片
37 オイル
38 タイミングチェーン
40 撥ね掛け装置
41 クランク軸スプロケット
42 カム軸スプロケット
43 ボス
44 オイル保持凹部
45 オイル回収容器
46 開口部
47 オイル溜まり
48 傾斜案内板
49 オイル分配経路
50 ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランク軸支持軸受、コンロッド大端部軸受、コンロッド小端部軸受及びカム軸支持軸受に対する給油手段を備えた2気筒以上の4サイクル内燃機関の潤滑装置において、前記各軸受がニードル軸受により構成され、前記給油手段の潤滑方式がオイルミスト方式であることを特徴とする内燃機関の潤滑装置。
【請求項2】
前記オイルミスト方式を実施する給油手段が、オイルパンに溜めたオイルを潤滑対象に撥ね掛ける撥ね掛け装置であることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の潤滑装置。
【請求項3】
前記の撥ね掛け装置が、前記オイルパン上に配置された回転部材と、その回転部材に取り付けられた撥ね掛け片により構成され、前記撥ね掛け片は、その先端の回転軌跡が前記オイルパン内のオイルの液面下を通過し得る大きさに設定されたことを特徴とする請求項2に記載の内燃機関の潤滑装置。
【請求項4】
前記回転部材がクランク軸であり、前記撥ね掛け片が前記クランク軸の外周面に放射状に取り付けられたことを特徴とする請求項3に記載の内燃機関の潤滑装置。
【請求項5】
前記回転部材が、エンジンブロック内部において、前記クランク軸とカム軸の間に掛けられたタイミングチェーンを支持するクランク軸側のスプロケットであり、前記撥ね掛け片が前記スプロケットのボスに放射状に取り付けられたことを特徴とする請求項3に記載の内燃機関の潤滑装置。
【請求項6】
前記回転部材が、前記クランク軸側のスプロケットとカム軸側のスプロケットの間に掛けられたタイミングチェーンであり、前記撥ね掛け片にオイル保持凹部が設けられ、前記撥ね掛け片が前記タイミングチェーンの回転面内において当該チェーンに直角外向きに取り付けられ、前記オイル保持凹部がオイルの液面以下の部分を通過し得る位置に設けられたことを特徴とする請求項3に記載の内燃機関の潤滑装置。
【請求項7】
前記カム軸側のスプロケットの上方において前記撥ね掛け片のオイル保持凹部から放出されるオイルを受けるオイル回収容器が設けられ、前記オイル回収容器に所定の潤滑対象に対するオイル分配経路が接続されたことを特徴とする請求項6に記載の内燃機関の潤滑装置。
【請求項8】
前記オイル分配経路が前記カム軸の上方に沿って水平に配置され、前記カム軸の複数の潤滑対象に対する給油ノズルが設けられたことを特徴とする請求項7に記載の内燃機関の潤滑装置。
【請求項9】
前記給油ノズルが、いずれも同じレベルに設けられたことを特徴とする請求項8に記載の内燃機関の潤滑装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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