説明

内燃機関の点火制御装置

【課題】この発明は、内燃機関の点火制御装置に関し、電極消耗の抑制及び着火性の確保を両立することのできる内燃機関の点火制御装置を提供することを目的とする。
【解決手段】内燃機関の点火制御装置であって、放電により内燃機関の混合気に点火する点火手段と、前記点火手段に供給される放電エネルギーを検出する放電エネルギー検出手段と、放電開始時の容量放電後において、前記点火手段に供給される放電エネルギーが閾値を下回った場合に、再放電が発生することを判定する再放電判定手段と、前記再放電が発生する場合に、前記点火手段に供給される放電エネルギーを遮断する放電遮断手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関の点火制御装置に係り、特に、放電により火花点火させる点火プラグを備えた内燃機関の点火制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、特許文献1に開示されるように、火花放電により混合気に点火する点火プラグを備えた内燃機関が知られている。また、本公報には、エンジン回転数やエンジン負荷をパラメータとするマップを用いて火花点火継続時間を算出し、火花放電継続時間の経過後、強制的に火花放電を遮断する点火制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−202040号公報
【特許文献2】特開2008−88947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この度、本願発明者は、鋭意研究を進めた結果、点火プラグの電極消耗の主要因の一つが、放電後半の着火性に寄与しない再放電(放電開始時の最初の容量放電後、誘導放電に移行し、その後、再び発生する容量放電)の繰り返しにあることを見出した。上記従来の点火制御装置では、この再放電について何ら考慮されていないため、再放電の繰り返しによる電極消耗が懸念される。また、上記従来の点火制御装置では、エンジン回転数やエンジン負荷に応じた火花放電継続時間をマップから選択しているに過ぎない。火花放電継続時間は、点火プラグの個体差や経年変化などによっても異なり、着火性が十分でない場合も考えられる。そのため、火花放電継続時間に従って放電を制御するだけでは、電極消耗及び着火性の観点から最適とは言えない。
【0005】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、電極消耗の抑制及び着火性の確保を両立することのできる内燃機関の点火制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、内燃機関の点火制御装置であって、
放電により内燃機関の混合気に点火する点火手段と、
前記点火手段に供給される放電エネルギーを検出する放電エネルギー検出手段と、
放電開始時の容量放電後において、前記点火手段に供給される放電エネルギーが閾値を下回った場合に、再放電が発生することを判定する再放電判定手段と、
前記再放電が発生する場合に、前記点火手段に供給される放電エネルギーを遮断する放電遮断手段と、を備えることを特徴とする。
【0007】
また、第2の発明は、第1の発明において、
着火に必要な必要放電期間を複数の運転状態について記憶した記憶手段、を更に備え、
前記放電遮断手段は、運転状態に応じた前記必要放電期間の経過後であって、前記再放電が発生する場合に、前記点火手段に供給される放電エネルギーを遮断すること、を特徴とする。
【0008】
また、第3の発明は、第1又は第2の発明において、
前記放電遮断手段は、
前記点火手段に供給される放電エネルギーを発生させる点火エネルギーを充電する充電手段を備え、前記充電手段により前記点火エネルギーを充電することで、前記点火手段に供給される放電エネルギーを遮断すること、を特徴とする。
【0009】
また、第4の発明は、第1乃至第3の発明のいずれかにおいて、
前記放電遮断手段は、前記必要放電期間の経過前に前記再放電が発生する場合には、前記必要放電期間の経過時に、前記点火手段に供給される放電エネルギーを遮断すること、を特徴とする。
【0010】
また、第5の発明は、第3の発明において、
前記放電遮断手段は、
クランク角が膨張行程後半の所定角を超えているか否かを判定する充電終了判定手段と、前記クランク角が膨張行程後半の所定角を超えている場合に、前記充電手段による前記点火エネルギーの充電を終了する充電終了手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
第1の発明によれば、放電開始時の容量放電後において、点火手段に供給される放電エネルギーが閾値を下回った場合に、再放電が発生すると判定し、点火手段に供給される放電エネルギーを遮断する。そのため、放電後半の着火性に寄与しない再放電の繰り返しを抑制することができ、再放電の繰り返しによる電極消耗を抑制することができる。特に過給域は、充填効率が高く再放電エネルギーが大きく、電極消耗が激しい領域であるため、このような領域における電極消耗を効果的に抑制することができる。また、再放電が発生しない場合には、放電期間を長く確保することができる。このため、本発明によれば、電極消耗の抑制及び着火性の確保を両立することができる。
【0012】
第2の発明によれば、運転状態に応じた必要放電期間の経過後であって、再放電が発生する場合に、点火手段に供給される放電エネルギーを遮断する。そのため、運転状態に応じた必要放電期間を確保できる。さらに、運転状態に応じた必要放電期間の経過後であっても、再放電が発生するまで放電期間を長く確保することができる。その結果、高着火性が求められるリーン燃焼時においても、放電期間を十分に確保することが可能となり、運転限界が狭まることを防止することができる。このため、本発明によれば、電極消耗の抑制及び着火性の確保を両立することができる。
【0013】
第3の発明によれば、放電エネルギーを発生させる点火エネルギーを充電することで、点火手段に供給される放電エネルギーを遮断する。このため、本発明によれば、放電エネルギーを好適に遮断できるとともに、次の放電に備えて充電することができる。
【0014】
第4の発明によれば、必要放電期間の経過前に再放電が発生する場合には、必要放電期間の経過時に、点火手段に供給される放電エネルギーを遮断する。このため、本発明によれば、必要放電期間を確保できると共に、その期間経過後に発生する再放電の繰り返しを未然に防止することができる。
【0015】
第5の発明によれば、クランク角が膨張行程後半の所定角を超えている場合に、充電手段による点火エネルギーの充電を終了する。膨張行程後半は、筒内圧力が低下し、放電切れ及び再放電が起きにくい時期である。また、再充電期間として十分な時期である。このため、本発明によれば、再放電を防止しつつ充電を終了させて、次の放電に備えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態のシステム構成を説明するための概略構成図である。
【図2】点火プラグ12に生じる再放電について説明するための図である。
【図3】再放電エネルギーが高い電極消耗が激しい領域であるかを判定するために、ECU50が実行する制御ルーチンのフローチャートである。
【図4】再放電を検出して放電遮断を開始するために、ECU50や装置34〜40が実行する制御ルーチンのフローチャートである。
【図5】エンジン回転数NE及び充填効率KLに対応する必要放電期間τminを定めたマップである。
【図6】放電を遮断するために、ECU50や装置34〜40が実行する制御ルーチンのフローチャートである。
【図7】本実施形態の制御例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明する。尚、各図において共通する要素には、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0018】
実施の形態.
[システム構成]
図1は、本発明の実施の形態のシステム構成を説明するための概略構成図である。図1に示すシステムは、内燃機関(以下、単にエンジンという。)10を備えている。エンジン10は、各気筒に点火プラグ12を備えた火花点火式の4ストロークエンジンである。図1には1つの気筒のみが描かれているが、車両用のエンジン10は、一般的に複数の気筒を有している。また、各気筒には、燃料を筒内に直接噴射する燃料噴射弁(図示省略)が取り付けられている。なお、本発明は、筒内噴射式の内燃機関に限らず、吸気ポート内に燃料を噴射するポート噴射式の内燃機関にも同様に適用可能である。
【0019】
また、各気筒には、吸気通路16および排気通路18が接続されている。吸気通路16の入口付近には、エアクリーナ20が設けられている。エアクリーナ20の下流には、吸気通路16に吸入される新気の流量に応じた吸入空気量GAを出力するエアフローメータ22が取り付けられている。
【0020】
エアフローメータ22の下流には、過給機24が設けられている。過給機24は、コンプレッサ24aとタービン24bを備えている。コンプレッサ24aとタービン24bとは、連結軸によって一体に連結されている。コンプレッサ24aは、タービン24bに入力される排気ガスの排気エネルギーによって回転駆動される。
【0021】
コンプレッサ24aの下流には、コンプレッサ24aで圧縮された新気を冷却するためのインタークーラ(図示省略)が設けられている。インタークーラの下流には、スロットルバルブ26が設けられている。スロットルバルブ26下流の吸気通路16は、分岐して各気筒に接続されている。
【0022】
また、排気通路18には、過給機24のタービン24bが設けられている。また、タービン24bの下流には、排気ガスを浄化するための触媒(図示省略)が配置されている。触媒には、例えば三元触媒が用いられる。
【0023】
本実施形態のシステムは、ECU(Electronic Control Unit)50を更に備えている。ECU50の入力部には、上述したエアフローメータ22の他、クランク角CAを検出するためのクランク角センサ28等の各種センサが接続されている。また、ECU50の出力部には、上述した点火プラグ12、燃料噴射弁、スロットルバルブ26等の各種アクチュエータが接続されている。ECU50は、各種センサの出力に基づき、所定のプログラムに従って各種アクチュエータを作動させることにより、エンジン10の運転状態を制御する。なお、ECU50は、クランク角CAと吸入空気量GAに基づいてエンジン回転数NEと充填効率KLを算出することができる。
【0024】
[点火プラグにおける放電]
図1に示すとおり、点火プラグ12は、エンジン10のシリンダヘッド等に取り付けられ、電極部が燃焼室30内に露出した状態で配置されている。点火プラグ12には、高電圧の放電エネルギーを発生させる点火コイル32が接続されている。点火コイル32には、点火プラグ12の放電電圧を計測するためのプラグ放電電圧計測器34が接続されている。プラグ放電電圧計測器34には、再放電判定装置36が接続されており、プラグ放電電圧計測器34により計測された放電電圧は、再放電判定装置36に入力される。再放電判定装置36には、放電遮断実行装置38が接続されており、再放電判定装置36により判定された判定結果は、放電遮断実行装置38に入力される。放電遮断実行装置38の出力部には、充電終了判定装置40の入力部が接続されている。充電終了判定装置40の出力部には、点火コイル32の入力部が接続されている。また、ECU50の出力部には、再放電判定装置36、放電遮断実行装置38および充電終了判定装置40が接続されている。
【0025】
本実施形態のシステムにおいて、点火プラグ12には、プラグの中心を貫く絶縁碍子に包まれた中心電極と接地電極とが、隙間(プラグギャップ)を空けて設けられている。点火プラグ12は、放電により電極間に火花を発生させて混合気に点火する。具体的には、高圧縮された混合気内で、点火コイル32により昇圧された高電圧が、プラグギャップ間の絶縁を破壊することにより火花放電が発生する。火花放電は、圧縮上死点近傍における放電開始後、最初に生じる容量放電と、その後生じる誘導放電との2つの成分を含んでいる。容量放電は、コンデンサに蓄えられた静電エネルギーの放出によるものであり、大電流が短時間に流れる。誘導放電は、コイルに蓄えられた電磁エネルギーの放出によるものであり、容量放電に比して小電流が長時間継続して流れる。
【0026】
なお、火花放電を発生させる点火回路(点火コイル、コンデンサ、バッテリ、トランジスタ等を含む構成)は、例えば、特開2002−202040号公報などに記載されている公知のものであるため、その詳細な説明は省略する。このような点火回路は、点火エネルギーの充電(コンデンサへの電荷の蓄積やバッテリへの蓄電等)により放電を遮断することができる。
【0027】
ところで、点火プラグ12には、放電による電極消耗が生じるため、その抑制が望まれる。本願発明者は、鋭意研究を進めた結果、電極消耗の主要因の一つが、放電後半の着火性に寄与しない再放電の繰り返しにあることを見出した。再放電とは、放電開始の際の最初の容量放電後、誘導放電に移行し、その後、再び容量放電が発生する現象をいう。
【0028】
図2は、点火プラグ12に生じる再放電について説明するための図である。圧縮上死点近傍の時刻t0において火花放電が開始される。最初の容量放電後は、誘導放電に移行し放電が継続する。しかし、その後、電圧が閾値Vthrを下回る時刻t1において、再び容量放電が発生する(図2(A))。この容量放電が再放電である。図2に示す通り、再放電は、その後も繰り返し発生する。繰り返し発生する再放電を放置すれば、電極消耗の悪化が懸念される。
【0029】
[実施の形態における特徴的制御]
そこで、本実施形態のシステムでは、放電開始時の容量放電後において、点火プラグ12に供給される放電エネルギー(放電電圧)を随時検出し、放電エネルギーが閾値Vthrを下回る場合に再放電が発生すると判定し、点火プラグ12に供給される放電エネルギーを遮断することで、電極消耗を抑制することとした。
【0030】
加えて、過給域は、充填効率KLが高く再放電エネルギーが大きく、再放電の繰り返しによる電極消耗が激しい領域である。よって、このような領域における電極消耗の抑制が特に求められる。一方で、電極消耗を低減するために放電エネルギーを下げれば、高着火性が求められるリーン燃焼運転時の着火性悪化が懸念される。そこで、本実施形態のシステムでは、過給域における電極消耗の抑制、リーン燃焼における着火性の確保をも考慮した。以下、本実施形態のシステムにおけるECU50及び装置34〜40が実行する制御ルーチンについて、図3〜図6を用いて説明する。
【0031】
図3は、再放電エネルギーが高く電極消耗が激しい領域であるか否かを判定するために、ECU50が実行する制御ルーチンのフローチャートである。図2に示すルーチンでは、充填効率KLが所定値よりも高いか否かを判定する(ステップS100)。発明者の知見によれば、充填効率と再放電エネルギーの大きさに相関があることが分かっている。そのため、所定値としては、充填効率の高い領域を示す値(一例として80%程度)が用いられる。判定条件が成立する場合は、過給域などの充填効率が高い領域であり、電極消耗が激しい領域であると判断される。なお、充填効率KLが所定値よりも低い場合は、再放電の発生率又はその影響が少ないと判断される。この場合、ステップS110以降の処理をキャンセルし処理量を軽減できる。
【0032】
図4は、再放電を検出して放電遮断を開始するために、ECU50や装置34〜40が実行する制御ルーチンのフローチャートである。図4に示すルーチンは、ステップS100の判定条件が成立した場合に実行される。まず、再放電の検出に際して、放電電圧Vが読み込まれる(ステップS110)。放電電圧Vは、プラグ放電電圧計測器34により計測された計測値である。プラグ放電電圧計測器34は、図2に示す放電開始前後の計測区間Tにおいて、点火コイル32の放電電圧を随時計測している。
【0033】
次に、放電開始の際の最初の容量放電後、誘導放電に移行した放電電圧Vが閾値Vthrを下回るか否かが判定される(ステップS120)。具体的には、プラグ放電電圧計測器34により計測された放電電圧Vが、再放電判定装置36に入力され、再放電判定装置36において閾値Vthrと大小比較される。再放電判定装置36は、再放電が発生するおそれの高い電圧値を閾値Vthrとして予め記憶している。判定条件が不成立の場合には、ステップS110の処理に戻される。一方、判定条件が成立する場合には、再放電が発生すると判断される。
【0034】
続いて、放電期間が着火に十分であるか否かの判定が開始される。まず、再放電検出時期Tdisが読み込まれる(ステップS130)。再放電検出時期Tdisは、放電開始時から再放電が検出されるまでの時間であり、ステップS120において、閾値Vthrを下回る放電電圧Vが計測された時間である。再放電判定装置36は、プラグ放電電圧計測器34から放電電圧Vが計測された時間を再放電検出時期Tdisとして読み込む。
【0035】
さらに、必要放電期間τminが読み込まれる(ステップS140)。具体的には、再放電判定装置36には、図5に示すエンジン回転数NE及び充填効率KLに対応する必要放電期間τminを定めたマップが記憶されている。必要放電期間τminは、点火プラグ12の電極形状に応じて実験等により予め設定される。このマップから、エンジン回転数NE及び充填効率KLに応じた必要放電期間τminが読み込まれる。なお、必要放電期間τminは、さらに燃料噴射量に応じて決定されることとしてもよい。
【0036】
再放電判定装置36は、再放電検出時期Tdisが必要放電期間τminの経過後であるか否かを判定する(ステップS150)。必要放電期間τmin経過後に再放電が発生する場合には、判定結果として、それ以降の放電を遮断する信号が放電遮断実行装置38に入力される(ステップS160)。一方、必要放電期間τmin経過前に再放電が発生する場合には、必要放電期間τminの経過を待って、その経過時に判定結果として、放電を遮断する信号が放電遮断実行装置38に入力される(ステップS170)。
【0037】
図6は、放電を遮断するために、ECU50や装置34〜40が実行する制御ルーチンのフローチャートである。図6に示すルーチンは、ステップS160又はS170の処理後に実行される。まず、放電を遮断するために、充電を開始する信号が出される(ステップS180)。具体的には、放電遮断実行装置38から充電終了判定装置40を介して点火コイル32を含む点火回路に充電を開始する信号が出力される。上述したとおり、本実施形態の点火回路は、点火エネルギーの充電により放電が遮断される。
【0038】
充電開始後、充電終了判定装置40は、クランク角CAを逐次読み込む(ステップS190)。クランク角CAは、ECU50により逐次検出されている。そして、充電終了判定装置40は、クランク角CAが圧縮上死点後の所定角度を超えたか否かを判定する(ステップS200)。所定角度として、充電終了判定装置40は、充電開始後、筒内圧力が低下し放電切れ及び再放電が起きにくい時期であって再充電期間として十分な時期を記憶している。例えば、膨張行程後半の圧縮上死点後120°CA前後である。ステップS200の判定条件が不成立の場合には、ステップS190の処理から再開される。
【0039】
一方、ステップS200の判定条件が成立する場合には、充電終了判定装置40から点火コイル32を含む点火回路に充電を終了させる信号が出力される(ステップS210)。その後、本ルーチンの処理が終了される。
【0040】
以上説明したように、本実施形態の制御ルーチンによれば、放電開始時の容量放電後において、点火プラグ12に供給される放電電圧Vが閾値Vthrを下回った場合に、再放電が発生すると判定し、点火プラグ12に供給される放電電圧Vを遮断することができる。そのため、放電後半の着火性に寄与しない再放電の繰り返しを抑制することができ、再放電の繰り返しによる電極消耗を抑制することができる。特に、充填効率が高く再放電による電極消耗が激しい過給域において、効果的に電極消耗を抑制することができる。
【0041】
また、本実施形態の制御ルーチンによれば、必要放電期間τminの経過後であっても、再放電が発生するまで、放電期間を長く確保することができる。また、必要放電期間τminの経過前に再放電が発生する場合であっても、その経過時まで放電期間を確保することができる。その結果、放電期間を十分に確保することが可能となり、高着火性を要するリーン燃焼時においても運転限界が狭まることを防止することができる。
【0042】
また、本実施形態の制御ルーチンによれば、充電により点火プラグ12に供給される放電電圧Vを遮断し、その後、クランク角CAが膨張行程後半の所定角度を超えた場合に充電を終了させることができる。図7は、本実施形態の制御例を示す図である。図7に示すとおり、充電を開始することで電圧が高まり、時刻t1以降の再放電を防ぐことができる。また、膨張行程後半は、筒内圧力が低下し、放電切れ及び再放電が起きにくい時期であると共に、再充電期間として十分な時期である。このため、再放電を抑制しつつ充電を終了させて、次の放電に備えることができる。
【0043】
このように、本実施形態のシステムによれば、過給域における電極消耗の抑制と、リーン燃焼における着火性の確保との両立を実現することができる。
【0044】
ところで、上述した実施の形態のシステムにおいては、点火プラグ12を、中心電極と接地電極との間にプラグギャップを有するものとしているが、点火プラグ12の構造はこれに限定されるものではない。火花放電により混合気に点火させるものであれば良い。
【0045】
また、上述した実施の形態のシステムにおいては、エンジン10を、過給機24を備える過給エンジンとしているが、エンジン10は、これに限定されるものではない。過給機24を有さないエンジンであってもよい。
【0046】
また、上述した実施の形態のシステムにおいては、放電エネルギーを放電電圧としているが、放電エネルギーは、これに限定されるものではない。例えば、図6(B)に示すように放電電流を放電エネルギーとして、再放電を検出することとしてもよい。
【0047】
また、上述した実施の形態のシステムにおいては、必要放電期間τminを運転状態に応じたマップ(図5)に記憶することとしているが、これに限定されるものではない。例えば、必要放電期間を学習値として記憶し、再放電の検出に応じて学習することとしてもよい。
【0048】
尚、上述した実施の形態1においては、点火プラグ12が前記第1の発明における「点火手段」に、プラグ放電電圧計測器34が前記第1の発明における「放電エネルギー検出手段」に、再放電判定装置36が前記第1の発明における「再放電判定手段」及び第2の発明における「記憶手段」に、放電遮断実行装置38が前記第1の発明における「放電遮断手段」に、充電終了判定装置40が前記第5の発明における「充電終了判定手段」に、それぞれ相当している。
【0049】
また、ここでは、ECU50が、上記ステップS110の処理を実行することにより前記第1の発明における「放電エネルギー検出手段」が、上記ステップS120の処理を実行することにより前記第1の発明における「再放電判定手段」が、上記ステップS160及びS180の処理を実行することにより前記第1及び第2の発明における「放電遮断手段」が、上記ステップS170及びS180の処理を実行することにより前記第1及び第4の発明における「放電遮断手段」が、上記ステップS180の処理を実行することにより前記第3の発明における「充電手段」が、上記ステップS190〜S210の処理を実行することにより前記第5の発明における「充電終了手段」がそれぞれ実現されている。
【符号の説明】
【0050】
KL 充填効率
NE エンジン回転数
T 計測区間
dis 再放電検出時期
V 放電電圧
thr 閾値
τmin 必要放電期間
10 エンジン
12 点火プラグ
16 吸気通路
18 排気通路
22 エアフローメータ
24、24a、24b 過給機、コンプレッサ、タービン
28 クランク角センサ
30 燃焼室
32 点火コイル
34 プラグ放電電圧計測器
36 再放電判定装置
38 放電遮断実行装置
40 充電終了判定装置
50 ECU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電により内燃機関の混合気に点火する点火手段と、
前記点火手段に供給される放電エネルギーを検出する放電エネルギー検出手段と、
放電開始時の容量放電後において、前記点火手段に供給される放電エネルギーが閾値を下回った場合に、再放電が発生することを判定する再放電判定手段と、
前記再放電が発生する場合に、前記点火手段に供給される放電エネルギーを遮断する放電遮断手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の点火制御装置。
【請求項2】
着火に必要な必要放電期間を複数の運転状態について記憶した記憶手段、を更に備え、
前記放電遮断手段は、運転状態に応じた前記必要放電期間の経過後であって、前記再放電が発生する場合に、前記点火手段に供給される放電エネルギーを遮断すること、
を特徴とする請求項1記載の内燃機関の点火制御装置。
【請求項3】
前記放電遮断手段は、
前記点火手段に供給される放電エネルギーを発生させる点火エネルギーを充電する充電手段、を備え、
前記充電手段により前記点火エネルギーを充電することで、前記点火手段に供給される放電エネルギーを遮断すること、
を特徴とする請求項1又は2記載の内燃機関の点火制御装置。
【請求項4】
前記放電遮断手段は、前記必要放電期間の経過前に前記再放電が発生する場合には、前記必要放電期間の経過時に、前記点火手段に供給される放電エネルギーを遮断すること、
を特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の内燃機関の点火制御装置。
【請求項5】
前記放電遮断手段は、
クランク角が膨張行程後半の所定角を超えているか否かを判定する充電終了判定手段と、
前記クランク角が膨張行程後半の所定角を超えている場合に、前記充電手段による前記点火エネルギーの充電を終了する充電終了手段と、
を備えることを特徴とする請求項3記載の内燃機関の点火制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−36763(P2012−36763A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−175418(P2010−175418)
【出願日】平成22年8月4日(2010.8.4)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】