説明

内燃機関システム

【課題】ガソリン−エタノール混合燃料をガソリンとエタノールとに分離する際に、ガソリンの成分によらず、十分な量のエタノールを分離できる内燃機関システムを提供する。
【解決手段】内燃機関システム1は、ガソリンとエタノールとの混合燃料を収容する混合燃料収容タンク2と、該混合燃料をガソリン成分とエタノール成分とに分離する分離膜3と、分離膜3により分離されたガソリン成分とエタノール成分とを運転状況に応じて各別に内燃機関5に供給する供給手段6,7とを備える。分離膜3はエタノールと共に芳香族炭化水素を透過させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガソリンとエタノールとの混合燃料を用いる内燃機関システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化防止の一因と考えられている二酸化炭素排出量の削減が求められており、ガソリン等の液体炭化水素とエタノールとの混合燃料を自動車燃料に用いることが検討されている。前記エタノールとしては、植物性物質、例えばサトウキビ、トウモロコシ等の農作物の発酵により得られたバイオエタノールを用いることができる。
【0003】
前記植物性物質は、原料となる植物自体が既に光合成により二酸化炭素を吸収しているので、かかる植物性物質から得られたエタノールを燃焼させたとしても、排出される二酸化炭素の量は前記植物自体が吸収した二酸化炭素の量に等しい。即ち、総計としての二酸化炭素の排出量は理論的にはゼロになるという所謂カーボンニュートラル効果を得ることができる。従って、前記バイオエタノールを用いたガソリン−エタノール混合燃料を自動車等の内燃機関の燃料に用いることにより、二酸化炭素排出量を削減し、地球の温暖化防止に寄与することができる。
【0004】
前記ガソリン−エタノール混合燃料をガソリンとエタノールとに分離し、得られたガソリンとエタノールとをそれぞれ任意の割合で混合してエンジンに供給する内燃機関システムが検討されている。エタノールはガソリンに比較してオクタン価が高いので、ガソリンとエタノールとをそれぞれ任意の割合で混合することにより、エンジンの要求負荷に応じて適切なオクタン価の燃料をエンジンに供給することができる。
【0005】
前記ガソリン−エタノール混合燃料をガソリンとエタノールとに分離するために、例えば、エタノール透過膜等の分離膜を用いる内燃機関システムが知られている(例えば特許文献1参照)。前記エタノール透過膜としては、例えば、パーベーパレーション膜(浸透気化膜)を用いることができ、エタノールをガソリンよりも高い透過率で二次側に透過させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−150397号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記エタノール透過膜を用いる内燃機関システムでは、ガソリンの成分によってはエタノールの分離量が低下し、所要量のエタノールを確保することができないという不都合がある。
【0008】
そこで、本発明は、かかる不都合を解消して、ガソリン−エタノール混合燃料をガソリンとエタノールとに分離する際に、ガソリンの成分によらず、十分な量のエタノールを分離することができる内燃機関システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、ガソリンの成分によりエタノールの分離量が低下する原因について、鋭意検討した結果、ガソリンを構成する炭化水素に芳香族炭化水素が含まれる場合に、エタノールの分離量が低下することを見出した。
【0010】
通常、ある成分を他の成分から分離する分離膜では、まず、透過される成分が該分離膜の一次側に吸着し、次いで一次側から二次側に透過する。次に、透過した成分は前記分離膜の二次側で気化することにより該分離膜から脱着し、拡散する。
【0011】
ここで、ガソリンを構成する炭化水素に芳香族炭化水素が含まれる場合に、エタノールの分離量が低下するのは、前記分離膜の一次側において、芳香族炭化水素が優先的に該分離膜に吸着し、エタノールの吸着及び透過を妨げるためと考えられる。
【0012】
そこで、前記目的を達成するために、本発明は、ガソリンとエタノールとの混合燃料を収容する混合燃料収容タンクと、該混合燃料収容タンクに収容された混合燃料をガソリン成分とエタノール成分とに分離する分離膜と、該分離膜により分離されたガソリン成分とエタノール成分とを運転状況に応じて各別に内燃機関に供給する供給手段とを備える内燃機関システムにおいて、該分離膜はエタノールと共に芳香族炭化水素を透過させるように調製されていることを特徴とする。
【0013】
本発明の内燃機関システムでは、前記分離膜はエタノールと共に芳香族炭化水素を透過させるので、該分離膜の一次側に優先的に吸着した芳香族炭化水素は直ちに該分離膜を透過することとなり、エタノールの吸着及び透過を妨げることがない。従って、本発明の内燃機関システムによれば、ガソリン−エタノール混合燃料に含まれるガソリンが芳香族炭化水素を含むときにも、エタノールの分離量の低下を防止することができる。
【0014】
本発明の内燃機関システムによれば、前述のようにエタノールの分離量の低下を防止することができるが、前記ガソリン−エタノール混合燃料のエタノール含有量自体が少ないときには、所要量のエタノールを確保することができないことがある。
【0015】
そこで、本発明の内燃機関システムは、前記供給手段が、前記分離膜により分離されたエタノール成分及び芳香族炭化水素を運転状況に応じて内燃機関に供給することが好ましい。前記芳香族炭化水素は、前記エタノール成分と同様にオクタン価が高く、内燃機関におけるノッキング等の不整燃焼を防止するには非常に好適な物質である。従って、本発明の内燃機関システムは、前記供給手段が、前記エタノール成分と共に芳香族炭化水素を内燃機関に供給することにより、エタノールの不足を補うことができる。
【0016】
本発明の内燃機関システムは、機関負荷が高くなったときに前記エタノール成分及び芳香族炭化水素を内燃機関に供給することにより、前記ノッキング等の不整燃焼を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の内燃機関システムの一構成例を示す説明図。
【図2】イソオクタン−エタノール混合燃料を従来のエタノール透過膜により分離したときのエタノールの分離量の経時変化を示すグラフ。
【図3】トルエン−エタノール混合燃料を従来のエタノール透過膜により分離したときのエタノールの分離量の経時変化を示すグラフ。
【図4】トルエン−エタノール混合燃料を本発明に係るエタノール透過膜により分離したときのエタノールの分離量の経時変化を示すグラフ。
【図5】本発明の内燃機関システムの他の構成例を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。
【0019】
図1に示すように、本実施形態の第1の態様の内燃機関システム1は、ガソリンとエタノールとの混合燃料を収容する混合燃料収容タンクとしてのメインタンク2と、混合燃料をガソリン成分とエタノール成分とに分離する分離膜3を備える分離装置4と、分離膜3により分離されたガソリン成分をエンジン5に供給する第1の導管6と、分離膜3により分離されたエタノール成分をエンジン5に供給する第2の導管7とを備えている。エンジン5は、例えば、フレキシブルフューエルエンジンであり、第1の導管6は第1のインジェクター8aを介してエンジン5に接続されており、第2の導管7は第2のインジェクター8bを介してエンジン5に接続されている。また、インジェクター8a,8bは、電子制御ユニット(ECU)等の制御装置9により制御される。
【0020】
分離膜3は、エタノールと共に芳香族炭化水素を透過させる膜であればどのような膜であってもよいが、例えば国際公開第2009/001970号の実施例1に記載の炭素膜に対し、それ自体公知の酸化雰囲気熱処理を施したものを用いることができる。前記炭素膜は、該炭素膜の前駆体溶液として市販のフェノール樹脂系樹脂を有機溶媒に溶解したものを用いるものである。また、前記酸化雰囲気熱処理は、例えば、"Industrial & Engineering Chemistry Research 36巻(1997)6号2134−2140頁" に記載がある。
【0021】
本実施形態の内燃機関システム1によれば、メインタンク2に収容されているガソリン−エタノール混合燃料を分離装置4に供給することにより、ガソリン成分とエタノール成分とに分離する。分離装置4は、エタノールと共に芳香族炭化水素を透過させる分離膜3を備えており、ガソリン−エタノール混合燃料を構成するガソリンが芳香族炭化水素を含有する場合にも十分な量のエタノールを透過させることができる。
【0022】
分離装置4において、分離膜3の一次側では、供給されたガソリン−エタノール混合燃料のうち、まず、芳香族炭化水素が優先的に分離膜3に吸着されるが、該芳香族炭化水素は直ちに分離膜3を透過するので、エタノールの吸着及び透過を妨げることがない。この結果、分離膜3の二次側にエタノール及び芳香族炭化水素に富む成分が得られると共に、分離膜3の一次側にはガソリンに富む成分が得られる。尚、本明細書では、分離膜3の二次側に得られる「エタノール及び芳香族炭化水素に富む成分」を「エタノール成分」と記載し、分離膜3の一次側に得られる「ガソリンに富む成分」を「ガソリン成分」と記載する。
【0023】
前記ガソリン成分は、第1の導管6から第1のインジェクター8aを介してエンジン5に供給され、前記エタノール成分は、第2の導管7から第2のインジェクター8bを介してエンジン5に供給される。このとき、前記ガソリン成分と前記エタノール成分との供給量は、エンジン5の要求負荷に応じて制御装置9により調整され、具体的には、エンジン5の要求負荷が大きくなるほど該エタノール成分の供給量が多くなるように調整される。
【0024】
尚、前記エタノール成分は、前記芳香族炭化水素を含むが、芳香族炭化水素はエタノールと同様にガソリンよりもオクタン価が高いので、エンジン5の要求負荷に対してエタノールと同様に用いることができる。
【0025】
次に、分離膜3のエタノール透過性能について説明する。
【0026】
まず、比較のために、分離膜3に代えて、エタノールを透過させ、芳香族炭化水素を透過させない分離膜(例えば、例えば国際公開第2009/001970号の実施例1に記載の炭素膜(炭素膜の前駆体溶液として市販のフェノール樹脂系樹脂を有機溶媒に溶解したものを用いる)を用い、エタノール10重量%とイソオクタン90重量%からなるイソオクタン−エタノール混合燃料の分離を行った。前記イソオクタン−エタノール混合燃料は、実質的に芳香族炭化水素を含まないガソリン−エタノール混合燃料に擬したものである。結果を図2に示す。
【0027】
次に、図2の場合と同一の分離膜を用い、エタノール10重量%とトルエン90重量%からなるトルエン−エタノール混合燃料の分離を行った。前記トルエン−エタノール混合燃料は、芳香族炭化水素を含むガソリン−エタノール混合燃料に擬したものであり、ガソリンが全て芳香族炭化水素(ここではトルエン)である場合に相当する。結果を図3に示す。
【0028】
図2及び図3から、エタノールを透過させ、芳香族炭化水素を透過させない分離膜を用いた場合、実質的に芳香族炭化水素を含まないガソリン−エタノール混合燃料では十分にエタノールを分離することができるが、芳香族炭化水素を含むガソリン−エタノール混合燃料ではエタノールの分離量が激減することが明らかである。
【0029】
次に、本実施形態の分離膜3を用い、エタノール10重量%とトルエン90重量%からなるトルエン−エタノール混合燃料の分離を行った。結果を図4に示す。
【0030】
図4から、エタノールと共に芳香族炭化水素を透過させる分離膜3を用いた場合、図2の場合と同等のエタノールを分離することができ、さらに芳香族炭化水素の分離量も図3の場合に比較して著しく増加することが明らかである。
【0031】
次に、本実施形態の第2の態様について説明する。
【0032】
図5に示すように、本実施形態の第2の態様の内燃機関システム11は、第2の導管7の途中にエタノール成分を貯留するエタノール成分タンクとしてのサブタンク12を備えることを除いて、図1に示す内燃機関システム1と全く同一の構成を備えている。
【0033】
ガソリン−エタノール混合燃料において、例えば、ガソリン90重量%、エタノール10重量%からなる場合には、エタノールの絶対量が少ない。このため、分離膜3を用いてエタノールを十分に分離できるとしても、エンジン5の要求負荷に対応するために十分な量のエタノール成分を確保できないことがある。
【0034】
しかし、内燃機関システム11によれば、サブタンク12にエタノール成分を貯留しておくことにより、ガソリン−エタノール混合燃料に含まれるエタノールの割合が少ない場合にも、十分な量のエタノール成分を確保することができる。
【符号の説明】
【0035】
1,11…内燃機関、 2…メインタンク、 3…分離膜、 5…エンジン、 6…第1の導管、 7…第2の導管、 12…サブタンク。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガソリンとエタノールとの混合燃料を収容する混合燃料収容タンクと、該混合燃料収容タンクに収容された混合燃料をガソリン成分とエタノール成分とに分離する分離膜と、該分離膜により分離されたガソリン成分とエタノール成分とを運転状況に応じて各別に内燃機関に供給する供給手段とを備える内燃機関システムにおいて、
該分離膜はエタノールと共に芳香族炭化水素を透過させるように調製されていることを特徴とする内燃機関システム。
【請求項2】
請求項1記載の内燃機関において、前記供給手段は、前記分離膜により分離されたエタノール成分及び芳香族炭化水素を運転状況に応じて内燃機関に供給することを特徴とする内燃機関システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−174391(P2011−174391A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−37700(P2010−37700)
【出願日】平成22年2月23日(2010.2.23)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】