説明

内燃機関用のピストン

本発明は、内燃機関用のピストン(10,110)であって、ピストン頂部(12,112)と、環状の火炎ウェブ(13,113)と、リング溝(15a,15b,15c;115a,115b,115c)を備えた環状のリング部分(14,114)とを有するピストンヘッド(11,111)が設けられており、少なくとも1つのリング溝(15a,115a)がリング保持体(21,121)を備えている形式のものにおいて、リング部分(14,114)の上において火炎ウェブ(13,113)に環状の凹設部(23,123)が設けられていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関用のピストンであって、ピストン頂部と、環状の火炎ウェブと、リング溝を備えた環状のリング部分とを有するピストンヘッドが設けられており、少なくとも1つのリング溝がリング保持体を備えている形式のものに関する。
【0002】
内燃機関用のピストンは、運転中に大きな負荷にさらされる。特に、ピストン頂部、火炎ウェブ、及び火炎ウェブに直に隣接したピストンリング並びにピストンリングを受容するリング溝は、特別の機械的及び熱的な負荷にさらされる。
【0003】
このような理由から有利には、火炎ウェブに隣接したリング溝にはしばしばリング保持体が設けられる。リング保持体は通常、オーステナイト系のねずみ鋳鉄から成っている。これらの材料は、ニレジスト材料という名前でも知られている。このようなリング保持体は、内燃機関用のピストンの鋳造前に、鋳型に挿入され、鋳造材料によって取り囲まれる。アルミニウム合金製のピストンの製造時には、リング保持体材料とピストン材料との間における結合層を生ぜしめるために、リング保持体は前もって処理が施されねばならない。そのためにリング保持体は通常アルフィン化(alfiniert)され、例えばアルミニウム-ケイ素溶融体内に浸漬され、この際に鉄アルミナイドから成るいわゆるアルフィン層が形成される。このアルフィン層は、ピストン材料とリング保持体層との間における所望の結合層を形成する。
【0004】
この結合層は比較的剛性である。従って、ガス状の燃料・空気混合体の点火時に生じる燃焼ガスに起因する特別な機械的及び熱的な負荷によって、ピストンヘッド内部における機械的な運動に基づいてピストン材料とリング保持体材料との間における前記結合層が高負荷を受けることがあり、それによる結合層内部における引張り応力によって、亀裂もしくは裂断の生じるおそれがある。このような亀裂や断裂により、リング保持体はリング溝内において弛んでしまい、ひいては機関損傷を引き起こす。
【0005】
ドイツ連邦共和国特許出願公開DE3908810A1に記載された、内燃機関用のピストンでは、そのピストンヘッドがリング部分の下に、ピストンスカートの周壁から内方に向かってピストン軸線方向に対して平行に延びる2つの盲孔を備えている。これによって、両盲孔の左右の領域へ力の流れが導かれるようになっている。
【0006】
この公知の構成には、盲孔を形成することによってピストンヘッドが機械的に弱化してしまうという事実に問題がある。
【0007】
本発明の課題は、冒頭に述べた形式の内燃機関用のピストンを改良して、リング保持体とピストン材料との間における結合層の亀裂もしくは断裂のおそれを減じることができ、しかもピストンヘッドを機械的に弱化させるおそれのない、ピストンを提供することである。
【0008】
この課題を解決するために本発明では、請求項1の特徴部記載のようにした。すなわち本発明による内燃機関用のピストンでは、リング部分の上において火炎ウェブに環状の凹設部が設けられている。
【0009】
本発明のように構成されたピストンでは、凹設部が燃焼ガスによる負荷を受けて圧縮される。これによって、点火過程時に生じる力はほぼピストンヘッドによって吸収され、もはやまったく又は弱められた形でしかリング保持体に達せず、これにより結合層に対する負荷は著しく減じられる。つまり本発明のように設けられた凹設部は、応力もしくは緊張を減じるための一種の負荷軽減溝として働く。この負荷軽減溝は、ピストンヘッドの内部における運動を減少させ、その結果、リング保持体とピストン材料との間における結合層において生じる引張り応力は、著しく小さくなる。本発明のように設けられた凹設部は、さらに簡単かつ安価に製造することができ、ピストンヘッドの仕上げ旋削時に問題なく加工することができる。
【0010】
本発明の別の有利な構成は、請求項2以下に記載されている。
【0011】
本発明による凹設部の深さは、望まれている応力減少とピストンヘッドのある程度の弱化との間における妥協策である。従ってその深さは、使用されるピストン材料、その都度のピストンの寸法及び使用条件に応じて変化可能である。有利な妥協策の一例としては、環状の凹設部の平均的な深さが、1mmまでである。
【0012】
同じ理由から、本発明による凹設部の形状もピストンの使用条件、寸法及び個々の負荷に応じて変化可能である。横断面で見てV字形(場合によっては丸く成形された底部を備えて)又は放物線形状又は双曲線形状に形成された凹設部が、本発明の目的にとって特に有利に適している。
【0013】
凹設部が横断面で見てV字形又は放物線形状又は双曲線形状に形成されている場合、この凹設部の開放角(α)も同様に上に述べた条件によって規定される。この開放角(α)が20°までであると、有利なことが分かっている。
【0014】
火炎ウェブに直に隣接したリング溝が、リング保持体を備えていると、本発明による凹設部をリング保持体に対して可能な限り小さな間隔をおいて、しかもリング保持体に接触することなく、設けることができ、有利である。凹設部とリング保持体との間の間隔(d)が、少なくとも1mmであると、有利である。
【0015】
また有利には、少なくともピストンヘッドが、軽金属合金から、有利には通常のアルミニウム合金から製造されている。少なくともピストンヘッドが、MAHLE M172又はMAHLE M174の型式のアルミニウム合金から製造されていると、特に有利である。
【0016】
リング保持体がニレジスト材料から製造されていると、有利である。
【0017】
リング保持体が、リング保持体部分と冷却通路部分とを有しているような構成も有利である。
【0018】
次に図面を参照しながら本発明の実施例を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明によるピストンの第1実施例を示す断面図である。
【図2】本発明によるピストンの別の実施例を示す断面図である。
【0020】
図1にはピストン10の第1実施例が示されている。ピストン10は、任意の構造形式を有することができ、一体的に構成されていても、二部分から成っていても、例えば組み立てられたピストン又は揺動スカートピストン(Pendelschaftkolben)であってもよい。ピストン10は自体公知の形式で、燃焼凹部12aを備えたピストン頂部12と、環状の火炎ウェブ(Feuersteg)13と、リング溝15a,15b,15cを備えた環状のリング部分14とを有するピストンヘッド11を有している。ピストンヘッド11はさらに自体公知の形式でボス取付け部16を介してボス(図示せず)と結合されており、これらのボスは、図示されていないピストンピンを受容するためのボス孔17を有している。ピストン10はさらに自体公知の形式で、接触面を備えたピストンスカート(図示せず)を有している。少なくともピストンヘッド11は、実施例では、汎用のアルミニウム合金、例えばMAHLE M172又はMAHLE M174の型式のアルミニウム-ケイ素合金から製造されている。
【0021】
実施例では、火炎ウェブ13の直ぐ下にリング保持体21が設けられており、このリング保持体21は実施例ではニレジスト材料から、つまりオーステナイト系のねずみ銑鉄から成っている。リング保持体21はアルフィン化されており、つまりピストンヘッド11に向けられた表面に沿って、いわゆる鉄アルミナイドから成るアルフィン層(Alfinschicht)を備えている。このアルフィン層は、リング保持体21とピストンヘッド11との間において結合層22として働く。
【0022】
比較的剛性の結合層22は内燃機関の運転中に、主として結合層22自体において生じる強い引張り応力に起因する高負荷にさらされている。結合層22の負荷を軽減するために火炎ウェブ13には、環状の凹設部23が加工されている。この環状の凹設部23は横断面で見てほぼV字形に形成されていて、丸く成形された底部を有している。環状の凹設部23はしかしながらまた放物線形状又は双曲線形状に形成されていてもよい。環状の凹設部23は実施例では、約1mmの深さ(t)と約20°の開放角(α)を有している。環状の凹設部23とリング保持体21との間の間隔(d)は、実施例では約1mmである。
【0023】
内燃機関の各点火過程時に、環状の凹設部23は、ピストン頂部12と火炎ウェブ13との作用する負荷を受けて圧縮される。これによって、点火過程時に生じる力はほぼピストンヘッド11によって吸収され、リング保持体21にはもはやまったく又は弱められてしか到達せず、これにより結合層22は著しく負荷軽減される。つまり環状の凹設部23は、リング保持体21の領域における緊張もしくは応力を排除するための負荷軽減溝として働く。環状の凹設部23はピストンヘッド11の内部における運動を減じるので、リング保持体21とピストン材料との間における結合層22において生じる引張り応力は、著しく減じられる。環状の凹設部23は、ピストンヘッド11の自体公知の仕上げ旋削時に、ピストンヘッド11と一緒に簡単に加工される。
【0024】
図2には、ピストン110の別の実施例が示されている。このピストンヘッド110は、図1に示されたピストン10にほぼ相当している。ピストン110は同様に、燃料凹部112aを備えたピストン頂部112と、環状の火炎ウェブ113と、リング溝115a,115b,115cを備えた環状のリング部分114とを有するピストンヘッド111を有している。ピストンヘッド111はさらに自体公知の形式でボス取付け部116を介してボス(図示せず)と結合されており、これらのボスは、図示されていないピストンピンを受容するためのボス孔17を有している。ピストン110はさらに自体公知の形式で、接触面を備えたピストンスカート(図示せず)を有している。この実施例においてもピストンヘッド111は、汎用のアルミニウム合金、例えばMAHLE M172又はMAHLE M174の型式のアルミニウム-ケイ素合金から製造されている。
【0025】
実施例では、火炎ウェブ113の直ぐ下にリング保持体121が設けられている。このリング保持体121は、この実施例ではリング保持体部分124と冷却通路部分125とから成っている。リング保持体部分124は、火炎ウェブ113に直に隣接したリング溝115aが加工されている。リング保持体部分124と冷却通路部分125とは自体公知の型式で互いに溶接されている(DE19750012A1参照)。リング保持体部分124の、半径方向で冷却通路部分125に向いた面126と、冷却通路部分125とは、冷却通路127を取り囲んでいる。
【0026】
冷却通路部分125は通常、薄鋼板、例えばV2A-薄鋼板から成っている。リング保持体部分124は通常、ニレジスト材料から、つまりオーステナイト系のねずみ銑鉄から成っている。リング保持体部分124はアルフィン化されており、つまりピストンヘッド111に向けられた表面に沿って、鉄アルミナイドから成るいわゆるアルフィン層(Alfinschicht)を備えている。このアルフィン層は、リング保持体部分124とピストンヘッド111との間において結合層122として働く。
【0027】
結合層122の負荷を軽減するために火炎ウェブ113には、環状の凹設部123が加工されている。この環状の凹設部123は横断面で見てほぼV字形に形成されていて、丸く成形された底部を有している。環状の凹設部123はしかしながらまた放物線形状又は双曲線形状に形成されていてもよい。
【0028】
環状の凹設部123はこの実施例では、約1mmの深さ(t)と約20°の開放角(α)を有している。環状の凹設部123とリング保持体121のリング保持体部分124との間の間隔(d)は、実施例では約1mmである。
【0029】
本発明によって、簡単に製造することができ、ゆえに大量生産に適しているピストン10,110が提案され、このピストン10,110では、リング保持体21,121とピストンヘッド11,111との間における結合層22,222が引張り応力から負荷を減じられており、その結果結合層22,122の剥離もしくは断裂のおそれが著しく減じられている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関用のピストン(10,110)であって、ピストン頂部(12,112)と、環状の火炎ウェブ(13,113)と、リング溝(15a,15b,15c;115a,115b,115c)を備えた環状のリング部分(14,114)とを有するピストンヘッド(11,111)が設けられており、少なくとも1つのリング溝(15a,115a)がリング保持体(21,121)を備えている形式のものにおいて、リング部分(14,114)の上において火炎ウェブ(13,113)に環状の凹設部(23,123)が設けられていることを特徴とする、内燃機関用のピストン。
【請求項2】
環状の凹設部(23,123)が、1mmまでの深さ(t)を有している、請求項1記載のピストン。
【請求項3】
環状の凹設部(23,123)が横断面で見てV字形又は放物線形状又は双曲線形状に形成されている、請求項1又は2記載のピストン。
【請求項4】
横断面で見てV字形又は放物線形状又は双曲線形状に形成された凹設部(23,123)の開放角(α)が20°までである、請求項3記載のピストン。
【請求項5】
環状の凹設部(23,123)が横断面で見てV字形であり、丸く成形された底部を有している、請求項3又は4記載のピストン。
【請求項6】
火炎ウェブ(13,113)に直に隣接したリング溝(15a,115a)が、リング保持体(21,121)を備えている、請求項1から5までのいずれか1項記載のピストン。
【請求項7】
環状の凹設部(23,123)とリング保持体(21,121)との間の間隔(d)が、少なくとも1mmである、請求項6記載のピストン。
【請求項8】
少なくともピストンヘッド(11,11)が、軽金属合金から、有利にはアルミニウム合金から製造されている、請求項1から7までのいずれか1項記載のピストン。
【請求項9】
少なくともピストンヘッド(11,11)が、MAHLE M172又はMAHLE M174の型式のアルミニウム合金から製造されている、請求項8記載のピストン。
【請求項10】
リング保持体(21)がニレジスト材料から製造されている、請求項1から9までのいずれか1項記載のピストン。
【請求項11】
リング保持体(121)が、リング保持体部分(124)と冷却通路部分(125)とを有している、請求項1から10までのいずれか1項記載のピストン。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−523869(P2010−523869A)
【公表日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−501363(P2010−501363)
【出願日】平成20年3月20日(2008.3.20)
【国際出願番号】PCT/DE2008/000493
【国際公開番号】WO2008/122259
【国際公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【出願人】(506292974)マーレ インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (186)
【氏名又は名称原語表記】MAHLE International GmbH
【住所又は居所原語表記】Pragstrasse 26−46, D−70376 Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】