説明

内燃機関用ピストンのオイル供給装置

【課題】オイル供給装置の構造の簡単化を図りつつオイル油膜形成に最適な潤滑用オイル量をランド部へ供給できる内燃機関用ピストンのオイル供給装置を提供する。
【解決手段】吸気側スカート部12a側部分に上下方向に延びて下端に開口30aを有するオイル誘導路30と、一端が前記オイル誘導路30の上端に連通し、他端がランド部23に連通する給油路14,15と、ピストン10が下死点近傍位置のときに、ノズル先端が開口30aに対向するよう上方程前記ピストン10中心側へ移行する傾斜状に配置され、開口30aに対して潤滑用オイルを噴射可能な潤滑用ノズル32とを備え、オイル誘導路30の開口30aより下側部分に、ピストン10が下死点近傍位置から上昇移動したとき、ノズル先端と対向して潤滑用ノズル32から噴射された潤滑用オイルを吸気側スカート部12a側へ誘導するオイル流方向変換部31を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダボア内を往復動する内燃機関用ピストンのオイル供給装置に関し、特に潤滑用ノズルから噴射された潤滑用オイルをランド部へ誘導するオイル誘導路と一方のスカート部側へ誘導するオイル流方向変換部とを備えた内燃機関用ピストンのオイル供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関(以下、エンジンと記す)のピストンには、燃焼ガスの爆発ガス圧を受ける頂部と周囲にピストンリング溝を設けたランド部から形成されたピストンクラウン部と、ピストンピンを介してコンロッドの小端部に連結された1対のピンボス部と、ピストンの上下往復動をガイドする1対のスカート部とが形成されている。特に、ピストンクラウン部の頂部は高温の燃焼ガスに曝されるため、ピストンクラウン部の裏面に対して冷却用オイルを噴射するオイルジェットを設けてピストンの冷却が行われている。
【0003】
通常、ピストンのランド部同士の間には、トップリングとセカンドリングを夫々装着する2つのコンプレッションリング溝と、オイルリングを装着するオイルリング溝とが形成されている。このオイルリングは、ピストンが上昇移動(上死点側へ移動)するとき、潤滑用オイルを持ち上げてシリンダボアの内周面にオイル油膜を形成し、ピストンが下降移動(下死点側へ移動)するとき、シリンダボア内周面の潤滑に必要なオイル油膜を残しながら余分な潤滑用オイル、所謂余剰オイルを掻き落とす機能を備えている。それ故、オイルリングによる余剰オイルの掻き落としが不十分な場合、セカンドリング溝とオイルリング溝との間のランド部に余剰オイルが滞留し、この滞留した余剰オイルが燃焼室へ吸引された後、燃焼室内で燃焼されるため、オイル消費量が増加する原因になっていた。
【0004】
特許文献1に記載されたエンジンの潤滑装置は、ピストンのセカンドリング溝とオイルリング溝との間のランド部に径方向へ貫通してランド部外周とピストン内方を連通する複数の連通路と、ピストンクラウン部の裏面側にオイルジェットから噴射された潤滑用オイルを導入可能な開口部を有し且つ複数の連通路のピストン内方側開口に連通するオイル溜め部と、オイルジェットから噴射された潤滑用オイルをピストン上昇移動時に開口部へ誘導し、ピントン下降移動時に開口部への導入を制限するオイル誘導制限部とが設けられている。このエンジンの潤滑装置では、ピストン上昇移動時にオイルジェットから噴射された潤滑用オイルがオイル溜め部に導入され、ピストン下降移動時にオイルジェットから噴射された潤滑用オイルがオイル溜め部に入ることを制限されるため、オイルリングの上方空間に滞留するオイル量を適切に調整している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−84576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のエンジンの潤滑装置は、ピストン部の裏面にオイル誘導斜面とオイル制限斜面を備えたピストン側凸部を設け、コンロッドの小端部にコンロッド側凸部を設けることにより、ピントン上昇移動時にはコンロッド側凸部が潤滑用オイルをオイル誘導斜面側へ誘導し、ピントン下降移動時にはコンロッド側凸部が潤滑用オイルをオイル制限斜面側へ誘導している。しかし、この潤滑装置は、潤滑用オイルをランド部に供給するとき、コンロッド側凸部とオイル誘導斜面に潤滑用オイルを衝突させて潤滑用オイルの進行方向を強制的に方向変換し、一旦オイル溜め部に貯留した後、貯留されたオイルをランド部へ供給するような潤滑用オイル径路であるため、ピストンやコンロッド等の構造の複雑化を招き、製造コストが高価になる虞がある。しかも、特許文献1の潤滑用オイル径路では、潤滑用オイルをコンロッド側凸部とオイル誘導斜面とに衝突させて開口部へ供給するため、開口部に供給された時点の潤滑用オイルの油圧損失が大きく、潤滑用オイルをランド部へ供給するためには大容量のオイルポンプが必要になる虞がある。
【0007】
本発明者らが鋭意実験及び検討を重ねた結果、ピストンが下死点近傍位置のときにランド部へ給油される潤滑用オイル量で、シリンダボア内周面の潤滑に過不足のないオイル油膜を形成できることが検証された。即ち、ピントンが上昇移動中に行われた給油であっても、上昇初期以降において給油された潤滑用オイルは、シリンダボア内周面の最適なオイル油膜形成に効果が少なく、逆に、その殆どのオイルが余剰オイルとしてランド部に滞留し、オイル消費量を悪化させる虞がある。
【0008】
本発明の目的は、オイル供給装置の構造の簡単化を図りつつオイル油膜形成に最適な潤滑用オイル量をランド部へ供給できる内燃機関用ピストンのオイル供給装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の内燃機関用ピストンのオイル供給装置は、ピストンクラウン部と、このピストンクラウン部の裏面に形成され且つコネクティングロッドを介してクランク軸に連結される1対のピンボス部と、前記ピストンクラウン部から下方へ延びる1対のスカート部を備え、シリンダボア内を往復動する内燃機関用ピストンのオイル供給装置において、少なくとも一方のピンボス部の一方のスカート部側部分に上下方向に延びて下端に開口を有するオイル誘導路と、一端が前記オイル誘導路の上端に連通し、他端が前記ピストンクラウン部のオイルリング溝とコンプレッションリング溝の間の周面に連通する給油路と、前記ピストンが下死点近傍位置のときに、ノズル先端が前記オイル誘導路の開口に対向するよう上方程前記ピストン中心側へ移行する傾斜状に配置され、前記開口に対して潤滑用オイルを噴射可能な潤滑用ノズルとを備え、前記オイル誘導路の開口より下側部分に、前記ピストンが下死点近傍位置から上昇移動したとき、前記ノズル先端と対向して前記潤滑用ノズルから噴射された潤滑用オイルを前記一方のスカート部側へ誘導するオイル流方向変換部を設けたことを特徴としている。
【0010】
この内燃機関用ピストンのオイル供給装置では、ピストンが下死点近傍位置のときに、ノズル先端が前記オイル誘導路の開口に対向するよう上方程前記ピストン中心側へ移行する傾斜状に配置され、ピストンが下死点近傍位置から上昇移動したとき、オイル流方向変換部が潤滑用オイルを一方のスカート部側へ誘導している。それ故、潤滑用オイルは、ピストンが下死点近傍位置にある制限された期間のみ、潤滑用オイルがオイルリング溝とコンプレッションリング溝の間の周面に供給され、ピストンが上昇過程であっても下死点近傍位置以外の期間では潤滑用オイルが給油されない。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記オイル誘導路とオイル流方向変換部が前記1対のピンボス部に夫々形成され、各ピンボス部のオイル誘導路に複数の給油路が連通されたことを特徴としている。
請求項3の発明は、請求項1又は2の発明において、前記オイル誘導路が上方程前記ピストン中心側へ移行する傾斜状に形成され、前記オイル流方向変換部が前記オイル誘導路の軸線と交差するよう上方程前記一方のスカート部側へ移行する傾斜状に形成されたことを特徴としている。
【0012】
請求項4の発明は、請求項1〜3の何れか1項の発明において、他方のスカート部側のシリンダボア下端部に配置され、冷却用オイルが前記ピストンクラウン部の裏面を前記他方のスカート部側から一方のスカート部側へ流れるようにピストンクラウン部の裏面に対して下方から冷却用オイルを噴射する冷却用ノズルを設け、前記オイル流方向変換部は、前記方向変換された潤滑用オイルが前記ピストンクラウン部の裏面を前記冷却用オイルと同じ方向に流れるように形成されたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明によれば、ピストンが下死点近傍位置にある期間のみ、潤滑用オイルがオイルリング溝とコンプレッションリング溝の間の周面に供給され、ピストンが上昇過程であっても下死点近傍位置の期間以外では潤滑用オイルが給油されないため、シリンダボア内周面のオイル油膜形成に過不足のない最適な潤滑用オイル量をオイルリング溝とコンプレッションリング溝の間の周面に供給でき、ピストンの潤滑に不要な余剰オイルの供給を抑えながらピストンの摺動抵抗低減を図ることができる。しかも、ピストンが下死点近傍位置から上昇移動したとき、オイル流方向変換部が潤滑用オイルを一方のスカート部側へ誘導するため、潤滑用オイルを利用してピストンの冷却性能を高くすることができる。また、潤滑用ノズルとピストンとの2部品の構造改良により、潤滑用オイルをノズル先端からピンボス部に形成されたオイル誘導部へ直接的に供給することができるため、オイル供給装置の構造の簡単化を図ることができ、製造コストを安価にすることができる。
【0014】
請求項2の発明によれば、各ピンボス部のオイル誘導部に複数の給油路が連通されているため、潤滑用オイル量をオイルリング溝とコンプレッションリング溝の間の周面に能率良く供給でき、一層ピストンの摺動抵抗低減を図ることができる。
請求項3の発明によれば、ピストンの基本形状を大きく変更することなく、オイル誘導部とオイル流方向変換部とを形成することができ、製造コストを安価にできる。
【0015】
請求項4の発明によれば、潤滑用オイルがピストンクラウン部の裏面を流れる冷却用オイルの流れを阻害することなく、潤滑用オイルと冷却用オイルとの相乗効果により一層ピストンの冷却性能を高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施例1に係るピストンのオイル供給装置の全体構成図である。
【図2】ピストンを下方から視た図である。
【図3】ピストンとコネクティングロッドの組み立て図である。
【図4】ピストンの側面図である。
【図5】図4のV−V線断面図である。
【図6】図1の要部拡大図である。
【図7】ピストン位置と潤滑用オイルの供給時期との関係を示すグラフである。
【図8】下死点近傍位置のピストンと潤滑用ノズルを示す図である。
【図9】オイル流方向変換初期位置のピストンと潤滑用ノズルを示す図である。
【図10】オイル流方向変換終期位置のピストンと潤滑用ノズルを示す図である。
【図11】実施例2に係る下死点位置のピストンと潤滑用ノズルを示す図である。
【図12】オイル流方向変換期間におけるピストンと潤滑用ノズルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態について実施例に基づいて説明する。尚、以下、図における上下方向を上下方向とし、エンジンの吸気側を前方、排気側を後方として説明する。
【実施例1】
【0018】
以下、本発明の実施例1について図1〜図12に基づいて説明する。
図1に示すように、本実施例のオイル供給装置1は、車両の多気筒エンジン、例えば横置き直列4気筒ガソリンレシプロエンジンEのピストン10に対して潤滑用オイルと冷却用オイルを供給するものである。尚、図1では、ピストン10が下降過程を終え、下死点位置に到達した状態を示している。
【0019】
エンジンEは、シリンダヘッド(図示略)と、シリンダブロック2と、オイルパン(図示略)等を備えている。シリンダヘッドには、吸気側カム軸(図示略)と排気側カム軸(図示略)が回転自在に枢支されている。これら両カム軸にはクランク軸3から回転駆動力が伝達され、夫々のカム軸に連動連結された吸排気バルブ(図示略)が往復動される。エンジンEは、吸気側カム軸が車両の進行方向前方になるよう自動車のエンジンルームに搭載され、上方程後側へ傾斜する後方スラント状に配置されている。
【0020】
図1に示すように、シリンダブロック2は、クランク軸3と、4本のコンロッド(コネクティングロッド)4と、4つのシリンダボア5と、4つのピストン10と、気筒毎に1対の潤滑用オイル噴射装置7と、気筒毎に1つの冷却用オイル噴射装置8等を備えている。シリンダブロック2は、クランク軸3を収容するクランク室を形成している。
【0021】
クランク軸3は、ジャーナル部(図示略)と、ピン部3aと、アーム部(図示略)等を備え、図中、矢印Aで示す方向に回転する。クランク軸3は、シリンダブロック2に軸受部を介して回転自在に枢支されている。ピン部3aには、コンロッド4の下端に形成された大端部4aが軸受部を介して回転自在に連結されている。コンロッド4の上端に形成された小端部4bには、クランク軸3と平行に配置されたピストンピン6を介してピストン10が揺動自在に連結されている。シリンダボア5は略円筒状に形成されている。
【0022】
図1〜図6に示すように、ピストン10は、ピストンクラウン部11と、1対のスカート部12a,12bと、1対のピンボス部13と、複数の給油路14,15等を備えている。ピストン10は、下方に向かって開口する有底円筒状に形成され、例えば、アルミニウム合金により形成されている。ピストン10は、シリンダボア5内に挿入され、シリンダボア5内を上下方向に往復動可能に形成されている。
【0023】
ピストンクラウン部11は、頂面21と、裏面22と、ランド部23と、3つのリング溝24〜26等を備えている。裏面22には、吸気側リセス部22aと、排気側リセス部22bとが形成されている。吸気側リセス部22aと排気側リセス部22bは、夫々、裏面22の吸気側部分と排気側部分に頂面21側へ湾曲状に凹入形成され、平面視にて吸気側リセス部22aの面積が排気側リセス部22bの面積よりも小さく形成されている。吸気側リセス部22aと排気側リセス部22bは、裏面22の中央位置で滑らかに連なるよう構成されている。
【0024】
吸気側スカート部12aと排気側スカート部12bは、ピストン10の吸気側部分と排気側部分に夫々ピストンクラウン部11の下端から下方へ延びるよう形成されている。それ故、ピストン10が上下方向へ往復動するとき、1対のスカート部12a,12bがシリンダボア5の内周面によりガイドされるため、ピストンピン6を回転中心とするピストン10の前後揺動が抑制される。
【0025】
ピストンクラウン部11の外周には、頂面21とスカート部12a,12bとの間の位置にランド部23が形成されている。ランド部23には、トップリング溝24とセカンドリング溝25とオイルリング溝26が形成されている。トップリング溝24は、頂面21に最も近接した位置に形成され、トップリング16(第1コンプレッションリング)が装着されている。セカンドリング溝25は、トップリング溝24よりも下方位置に形成され、セカンドリング17(第2コンプレッションリング)が装着されている。オイルリング溝26は、セカンドリング溝25よりも下方位置に形成され、オイルリング18が装着されている。尚、説明の便宜上、図3を除いて、各リング16〜18の図示を省略している。
【0026】
図3に示すように、トップリング16とセカンドリング17は、略C字状に形成され、トップリング溝24とセカンドリング溝25に夫々強制的に弾性圧縮変形された状態で嵌め込まれている。これにより、両リング16,17は、一定の復元力によりシリンダボア5の内周表面に接触し、エンジンEの燃焼室からクランク室に漏出するブローバイガス量を抑制している。オイルリング18は、両リング16,17と同様に略C字状に形成され、オイルリング溝26に強制的に弾性圧縮変形された状態で嵌め込まれている。これにより、オイルリング18は、一定の復元力によりシリンダボア5の表面に接触し、ピストン10が上昇過程のとき、オイルを持ち上げてシリンダボア5の内周面にオイル油膜を形成し、ピストン10が下降過程のとき、最適なオイル油膜形成に必要な潤滑用オイル量を残しながら余剰オイルを掻き落としている。
【0027】
図1〜図6に示すように、ピストンクラウン部11には、1対のスカート部12a,12bの間の位置において裏面22から下方へ延びる1対のピンボス部13が形成されている。一方のピンボス部13は、ピストン10の中心に対してピストンピン6の軸線平行方向且つ前側寄りの位置に配置され、他方のピンボス部13はピストン10の中心に対してピストンピン6の軸線平行方向且つ後側寄りの位置に配置され、両ピンボス部13はピストン10の中心を挟むように並列状に形成されている。
【0028】
1対のピンボス部13は、夫々、裏面22から下方へ延びる基部27と、基部27の下部に形成されたピン受部28と、ピン受部28に設けられたピン孔29等を備えている。 図3に示すように、ピン孔29は、軸受部を介してコンロッド4の小端部4bに回転自在に挿通されたピストンピン6を支承している。1対のピンボス部13がピストンピン6を介してコンロッド4と連結されるため、クランク軸3の回転駆動力がコンロッド4を介してピストン10に伝達され、ピストン10がシリンダボア5内を上下方向に昇降移動する。
【0029】
図1,図2,図5,図6に示すように、夫々の基部27には、吸気側スカート部12a側部分に下端部分からピストンクラウン部11に亙って上下方向に延びるオイル誘導路30が設けられている。オイル誘導路30は、ピストンピン6の軸線直交方向に略直線状且つ上方程ピストン10の中心側へ移行する傾斜状に形成されている。
【0030】
図6に示すように、オイル誘導路30の軸線Bは、側面視にてピストン10の軸線に平行な鉛直直線Vに対して交差角度αになるよう設定されている。オイル誘導路30の下端には、吸気側スカート部12aの内周面に対向する縦長楕円状の開口30aが形成されている。開口30aの上下方向幅は、基部27の上下方向幅の半分よりも大きく設定されている。オイル誘導路30は、ピンボス部13を一体形成し、基部27に対してドリル等の加工工具を用いて機械加工により製造している。
【0031】
ピン受部28には、オイル誘導路30の開口30aの下端より下側且つ吸気側スカート部12a側部分にオイル流方向変換部31が形成されている。オイル流方向変換部31の表面は、略平坦状に形成され、側面視にて上方程吸気側スカート部12a側へ移行する傾斜状に形成されている。
【0032】
図6に示すように、オイル流方向変換部31の表面の延長面Cは、側面視にて鉛直直線Vに対して交差角度βになるよう設定されている。以上により、オイル流方向変換部31は、ピストン10が下死点(BDC)近傍位置から上昇移動したとき、潤滑用オイル噴射装置7から噴射された潤滑用オイルを吸気側スカート部12a側へ誘導し、誘導された潤滑用オイルがピストンクラウン部11の裏面22を排気側スカート部12b側から吸気側スカート部12a側へ流れるように構成されている。
【0033】
図1,図2,図5,図6に示すように、ピストンクラウン部11の内部には、夫々のオイル誘導路30に対応して複数の給油路14,15が形成されている。複数の給油路14,15は、各オイル誘導路30の頂部(上端)からピストン10の軸線直交方向へ略直線状に延び、セカンドリング溝25とオイルリング溝26の間に形成されたランド部23までを連通するよう形成されている。本実施例では、給油路14と給油路15が同一軸線になるよう形成され、ピストンクラウン部11に対してドリル等の加工工具を用いて製造されている。
【0034】
図1に示すように、1対の潤滑用オイル噴射装置7は、各シリンダボア5の吸気側下端部に隣り合うようシリンダブロック2に装着されている。1対の潤滑用オイル噴射装置7は、夫々、エンジンEのオイルポンプ(図示略)にオイルギャラリ9aを介して接続されている。1対の潤滑用オイル噴射装置7は、同一の構造であるため、以下の説明では一方の潤滑用オイル噴射装置7のみについて説明する。
【0035】
潤滑用オイル噴射装置7は、潤滑用ノズル32と、潤滑用バルブ部33と、潤滑用ケース部34等を備えている。潤滑用ノズル32は、シリンダボア5の外側位置からシリンダボア5の内側位置に向かって延びる管状部材により形成され、開口30aに対して潤滑用オイルを噴射可能に構成されている。図6に示すように、潤滑用ノズル32のノズル先端は、その軸線がオイル誘導路30の軸線Bと略同一軸線になるよう形成され、ピストン10がBDC近傍位置のときに、オイル誘導路30の開口30aに対向し、且つピストン10がBDC近傍位置から上昇移動したとき、オイル流方向変換部31と対向するように上方程ピストン10中心側へ移行する傾斜状に配置されている。
【0036】
潤滑用バルブ部33は、ボルト部材の内部にチェックバルブを備えている。潤滑用バルブ部33は、シリンダブロック2に形成されたねじ穴に螺合され、その先端に形成された開口がオイルギャラリ9aに連通されている。潤滑用バルブ部33がシリンダブロック2に取付けられた状態で、オイル供給圧が所定値のとき、潤滑用バルブ部33が開動作し、オイルは潤滑用ケース部34内の油路を介して潤滑用ノズル32へ流動する。尚、潤滑用オイル噴射装置7はチェックバルブとしての潤滑用バルブ部33を省くことが可能である。
【0037】
図1に示すように、冷却用オイル噴射装置8は、シリンダボア5毎に1つづつ配置されている。冷却用オイル噴射装置8は、エンジンEのオイルポンプにオイルギャラリ9bを介して接続され、排気側リセス部22bに対して冷却用オイルを噴射可能に構成されている。冷却用オイル噴射装置8は、各シリンダボア5の排気側下端部に配置されている。それ故、1対の潤滑用オイル噴射装置7と冷却用オイル噴射装置8は、平面視にてピストンピン6の軸線に対して千鳥状にレイアウトされている。
【0038】
冷却用オイル噴射装置8は、冷却用ノズル35と、冷却用バルブ部36と、冷却用ケース部7等を備えている。冷却用ノズル35は、シリンダボア5の外側位置からシリンダボア5の内側位置に向かって延びる管状部材により形成されている。冷却用ノズル35から噴射された冷却用オイルは、排気側リセス部22bから裏面22の中央部分を流れて吸気側リセス部22aに到達し、吸気側スカート部12aを伝ってクランク室内へ滴下する。
冷却用バルブ部36は、ボルト部材の内部にチェックバルブを備えている。冷却用バルブ部36は、シリンダブロック2に形成されたねじ穴に螺合され、先端に形成された開口がオイルギャラリ9bに連通されている。冷却用バルブ部36がシリンダブロック2に取付けられた状態で、オイル供給圧が所定値以上のとき、冷却用バルブ部36が開動作し、冷却用オイルは冷却用ケース部37内の油路を介して冷却用ノズル35へ流動する。
【0039】
次に、図1,図6〜図10に基づき、オイル供給装置1の作動について説明する。
図1,図6に示すように、ピストン10がBDC位置のとき、潤滑用ノズル32のノズル先端の軸線がオイル誘導路30の軸線Bと略同一軸線になるよう形成されているため、潤滑用オイルは潤滑用ノズル32から開口30aを通過して直接的にオイル誘導路30の内部へ導入される。この潤滑用オイルは、オイル誘導路30内へ油圧損失を殆ど生じることなく導入されるため、給油路14,15を流動してランド部23へ到達し、ピストン10の摺動抵抗を低減している。
【0040】
図8に示すように、ピストン10がBDC近傍位置、例えばピストン10がBDCから8mm上昇移動したとき、潤滑用ノズル32のノズル先端は開口30aとの対向状態を維持しているため、潤滑用オイルはオイル誘導路30から給油路14,15を経由してランド部23に供給されている。尚、本実施例では、潤滑用ノズル32のノズル先端の軸線がオイル誘導路30の軸線Bと略同一軸線になるよう形成されているため、図7に示すように、潤滑オイル供給期間XがBDCの前段階であるピストン10の下降過程終期から開始されている。
【0041】
図9に示すように、ピストン10がBDC近傍位置から所定距離上昇移動したオイル流方向変換初期位置、例えばピストン10がBDCから10mm上昇移動したとき、潤滑用ノズル32のノズル先端は、開口30aとの対向位置関係が解除され、オイル流方向変換部31の吸気側スカート部12a側端部と対向している。これにより、潤滑用ノズル32から噴射された潤滑用オイルは、オイル流方向変換部31の表面で跳ね返され、吸気側スカート部12a側へ進行方向が変更される。進行方向が変更された潤滑用オイルは、吸気側リセス部22aへ衝突し、冷却用オイルの流れに合流した後、吸気側リセス部22aを吸気側スカート部12a側へ流れる。冷却用オイルと冷却用オイルに合流した潤滑用オイルは、協働してピストン10の冷却を行っている。
【0042】
図10に示すように、ピストン10がオイル流方向変換初期位置から所定距離上昇移動したオイル流方向変換終期位置、例えばピストン10がBDCから30mm上昇移動したとき、潤滑用ノズル32のノズル先端はオイル流方向変換部31の表面との対向状態を維持しているため、潤滑用オイルは、オイル流方向変換部31により進行方向が変更され、冷却用オイルの流れに合流して吸気側リセス部22aを吸気側スカート部12a側へ流れている。
【0043】
ピストン10がオイル流方向変換終期位置から上昇移動したとき、潤滑用ノズル32のノズル先端は、オイル流方向変換部31の表面との対向位置関係が解除され、潤滑用オイルによるピストン10の冷却が終了する。図7に示すように、オイル流方向変換期間Yは、潤滑オイル供給期間Xの終了と同期して開始され、潤滑オイル供給期間Xよりも長い期間になるよう設定されているため、余剰オイルをピストン10の冷却に有効利用することができる。
【0044】
次に、オイル供給装置1の作用、効果について説明する。
このオイル供給装置1では、ピストン10がBDC近傍位置にある期間(潤滑オイル供給期間X)のみ、潤滑用オイルがオイルリング溝26とセカンドリング溝25の間のランド部23に供給され、ピストン10が上昇過程であってもBDC近傍位置の期間以外では潤滑用オイルが給油されないため、シリンダボア5内周面のオイル油膜形成に過不足のない最適な潤滑用オイル量をオイルリング溝26とセカンドリング溝25の間のランド部23に供給でき、ピストン10の潤滑に不要な余剰オイルの供給を抑えながらピストン10の摺動抵抗低減を図ることができる。
【0045】
しかも、ピストン10がBDC近傍位置から上昇移動したとき(オイル流方向変換期間Y)、オイル流方向変換部31が潤滑用オイルを吸気側スカート部12a側へ誘導するため、潤滑用オイルを利用してピストン10の冷却性能を高くすることができる。また、潤滑用ノズル32とピストン10との2部品の構造改良により、潤滑用オイルをノズル先端からピンボス部13に形成されたオイル誘導部30へ直接的に供給することができるため、オイル供給装置の構造の簡単化を図ることができ、製造コストを安価にすることができる。
【0046】
オイル誘導路30とオイル流方向変換部31とが1対のピンボス部13に夫々形成され、各ピンボス部13のオイル誘導路30に複数の給油路14,15が連通されているため、潤滑用オイル量をオイルリング溝26とセカンドリング溝25の間のランド部23に能率良く供給でき、一層ピストン10の摺動抵抗低減を図ることができる。
オイル誘導路30が上方程前記ピストン10の中心側へ移行する傾斜状に形成され、オイル流方向変換部31の表面の延長面Cがオイル誘導路30の軸線Bと交差するよう上方程吸気側スカート部12a側へ移行する傾斜状に形成されているため、ピストン10の基本形状を大きく変更することなく、オイル誘導部30とオイル流方向変換部31とを形成することができ、製造コストを安価にできる。
【0047】
排気側スカート部12b側のシリンダボア5下端部に配置され、冷却用オイルがピストンクラウン部11の裏面22を排気側スカート部12b側から吸気側スカート部12a側へ流れるように排気側リセス部22bに対して下方から冷却用オイルを噴射する冷却用ノズル35を設け、オイル流方向変換部31は、方向変換された潤滑用オイルが吸気側リセス部22aを冷却用オイルと同じ方向に流れるように形成されているため、潤滑用オイルがピストンクラウン部11の裏面22を流れる冷却用オイルの流れを阻害することなく、潤滑用オイルと冷却用オイルとの相乗効果により一層ピストン10の冷却性能を高くすることができる。
【実施例2】
【0048】
図11,図12に基づいて、実施例2に係るオイル供給装置1Aについて説明する。尚、実施例1と同様の部材については、同一の符号を附し、説明を省略する。
実施例1との相違点は、実施例1では、オイル誘導路30をピンボス部13の基部27に設け、オイル流方向変換部31をピンボス部13のピン受部28に設けていたのに対し、本実施例2では、オイル誘導路30Aとオイル流方向変換部31Aとの両方をピンボス部13Aの基部27Aに設けた点である。
【0049】
1対のピンボス部13Aは、夫々、裏面22から下方へ延びる基部27Aと、基部27Aの下部に形成されたピン受部28Aと、ピン受部28Aに設けられたピン孔29等を備えている。各基部27Aには、オイル誘導路30Aと、オイル流方向変換部31Aとが夫々形成されている。オイル誘導路30Aは、ピストン10Aの軸線と略平行に形成され、基部27Aの吸気側スカート部12a側部分に基部27Aの下端部分からピストンクラウン部11に亙って上下方向に延びるよう構成されている。オイル誘導路30Aの上端には給油路14,15が連通され、オイル誘導路30Aの下端には略円状の開口30bが直下方に向けて開口するよう形成されている。
【0050】
オイル流方向変換部31Aは、オイル誘導路30Aの開口30bの下端から吸気側スカート部12a側のピン受部28Aの下端に亙って形成されている。オイル流方向変換部31Aの表面は、略平坦状に形成され、側面視にて上方程吸気側スカート部12a側へ移行する傾斜状に形成されている。オイル流方向変換期間Yは、実施例1と同様に、潤滑オイル供給期間Xの終了と同期して開始され、潤滑オイル供給期間Xよりも長くなるよう設定されている。これにより、実施例1と同様の効果を奏しつつ、一層ピストン10Aの構造の簡単化を図ることができる。
【0051】
次に、前記実施例を部分的に変更した変形例について説明する。
1〕前記実施例においては、横置き4気筒エンジンの例を説明したが、少なくともレシプロエンジンであれば良く、単気筒エンジンや2気筒以上のエンジンやV型エンジン等種々の内燃機関用ピストンに適用することができる。また、縦置きエンジンにも適用可能である。
【0052】
2〕前記実施例においては、潤滑オイル供給期間がBDCの前段階であるピストンの下降過程終期から開始されている例を説明したが、潤滑オイル供給期間をBDCからピストンの上昇過程初期の期間のみに設定しても良い。これにより、オイル誘導路及びオイル誘導路の開口を小型化することができる。
【0053】
3〕前記実施例においては、オイル流方向変換期間が潤滑オイル供給期間の終了と同期して開始される例を説明したが、少なくともBDC近傍位置のときに潤滑用オイルをランド部へ供給できれば良く、オイル誘導路の開口とオイル流方向変換部とを所定距離離隔して形成し、潤滑オイル供給期間の終了とオイル流方向変換期間の開始とに時間差を設けても良い。また、オイル流方向変換期間を潤滑オイル供給期間よりも長した例を説明したが、同じ期間にしても良く、オイル流方向変換期間を潤滑オイル供給期間よりも短く設定することも可能である。
【0054】
4〕その他、当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱することなく、前記実施例に種々の変更を付加した形態で実施可能であり、本発明はそのような変更形態も包含するものである。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、シリンダボア内を往復動する内燃機関用ピストンのオイル供給装置において、BDC近傍位置のときに潤滑用オイルをランド部へ誘導するオイル誘導路と、BDC近傍位置から上昇移動したときに潤滑用オイルを一方のスカート部側へ誘導するオイル流方向変換部とを設けたことにより、構造の簡単化を図りつつオイル油膜形成に最適な潤滑用オイル量をランド部へ供給することができる。
【符号の説明】
【0056】
1,1A オイル供給装置
3 クランク軸
4 コンロッド
5 シリンダボア
7 潤滑用オイル噴射装置
8 冷却用オイル噴射装置
10,10A ピストン
11 ピストンクラウン部
12a 吸気側スカート部
12b 排気側スカート部
13,13A ピンボス部
14,15 給油路
22 (ピストンクラウン部)裏面
23 ランド部
25 セカンドリング溝
26 オイルリング溝
30,30A オイル誘導路
30a,30b 開口
31,31A オイル流方向変換部
32 潤滑用ノズル
35 冷却用ノズル
B (オイル誘導路)軸線
C (オイル流方向変換部)延長面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンクラウン部と、このピストンクラウン部の裏面に形成され且つコネクティングロッドを介してクランク軸に連結される1対のピンボス部と、前記ピストンクラウン部から下方へ延びる1対のスカート部を備え、シリンダボア内を往復動する内燃機関用ピストンのオイル供給装置において、
少なくとも一方のピンボス部の一方のスカート部側部分に上下方向に延びて下端に開口を有するオイル誘導路と、
一端が前記オイル誘導路の上端に連通し、他端が前記ピストンクラウン部のオイルリング溝とコンプレッションリング溝の間の周面に連通する給油路と、
前記ピストンが下死点近傍位置のときに、ノズル先端が前記オイル誘導路の開口に対向するよう上方程前記ピストン中心側へ移行する傾斜状に配置され、前記開口に対して潤滑用オイルを噴射可能な潤滑用ノズルとを備え、
前記オイル誘導路の開口より下側部分に、前記ピストンが下死点近傍位置から上昇移動したとき、前記ノズル先端と対向して前記潤滑用ノズルから噴射された潤滑用オイルを前記一方のスカート部側へ誘導するオイル流方向変換部を設けたことを特徴とする内燃機関用ピストンのオイル供給装置。
【請求項2】
前記オイル誘導路とオイル流方向変換部が前記1対のピンボス部に夫々形成され、
各ピンボス部のオイル誘導路に複数の給油路が連通されたことを特徴とする請求項1に記載の内燃機関用ピストンのオイル供給装置。
【請求項3】
前記オイル誘導路が上方程前記ピストン中心側へ移行する傾斜状に形成され、前記オイル流方向変換部が前記オイル誘導路の軸線と交差するよう上方程前記一方のスカート部側へ移行する傾斜状に形成されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関用ピストンのオイル供給装置。
【請求項4】
他方のスカート部側のシリンダボア下端部に配置され、冷却用オイルが前記ピストンクラウン部の裏面を前記他方のスカート部側から一方のスカート部側へ流れるようにピストンクラウン部の裏面に対して下方から冷却用オイルを噴射する冷却用ノズルを設け、
前記オイル流方向変換部は、前記方向変換された潤滑用オイルが前記ピストンクラウン部の裏面を前記冷却用オイルと同じ方向に流れるように形成されたことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の内燃機関用ピストンのオイル供給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−215138(P2012−215138A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−81445(P2011−81445)
【出願日】平成23年4月1日(2011.4.1)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】