説明

内燃機関用ピストン

【課題】運転領域に応じた剛性を有することでメカロスを有効に低減させた内燃機関用ピストンを提供する。
【解決手段】本発明に係るピストン1は、ピストンスカート7の少なくともスラスト側に、ピストン1の温度が高くなるほど剛性が低くなる可変剛性手段3を設けることにより、ピストン1の温度が高くなるほど中心部7aの剛性が低くなるようにした。これにより、ピストン1の温度が低い低温時(L)ではピストンスカート7の剛性並びに面圧は高温時(H)よりも高くなり、シリンダボアとの接触面積が小さくなる。その結果、ピストン1フリクションすなわちメカロスを有効に低減させ、メカロスの低減による燃費の向上を有効に達成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピストンスカート部における摩擦を低減させ得る内燃機関用ピストンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関用のピストンでは、ピストンフリクションすなわちピストンとシリンダボアとの間のメカロスが少ない方が、燃費の面において有利であることは勿論である。このピストンフリクションの影響要因の一つとして大きく関与しているものの一つとして、ピストンスカートの剛性が挙げられる。解析技術が発展している現在では、運転後のスカート表面の摩耗状態を詳細に解析することができる。その結果、ピストンフリクションすなわちメカロスを低減させるには、ピストンスカートのシリンダボアに対する接触面積は小さいほど有利であることが判明している。そして斯かる接触面積はピストンスカートの剛性を上げることにより、小さくすることができる。
【0003】
一方、ピストンスカートに掛かる面圧は接触面積が小さい程大きくなる。そのため現在では、最大筒内圧が発生する高負荷領域時に前記面圧が大きくなりすぎないような剛性に設定し、ピストンが破損に至らないようにしている。換言すれば、ピストンスカートの剛性を上げすぎると高負荷領域時の面圧が大きくなり過ぎることにより、ピストンが破損する可能性を招来してしまうのである。また、ピストンスカートの剛性を適宜なものとする技術としては、ピストンスカートに補強用のリブを設けたもの等が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
ところが、上述のような最大筒内圧発生時を基に設定されたピストンの剛性であると、燃費に有利とされる高負荷領域以外の、例えばモード運転域に限ってみれば不必要にスカートの剛性が下げられたということであり、この運転域にとっては最適な接触面積よりも過度に接触面積が大きくなっているということができる。つまり、現在のピストンスカートにおいては、高負荷領域以外の運転領域において潜在的なメカロスが発生しているということができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実公平2−149853号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような不具合に着目したものであり、運転領域に応じた剛性を有することでメカロスを有効に低減させた内燃機関用ピストンを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、このような目的を達成するために、次のような手段を講じたものである。
【0008】
すなわち本発明に係る内燃機関用ピストンは、ピストンピンを支持するピストンピンボスと、ピストンスカートとを備えた内燃機関用ピストンであって、ピストンスカートの少なくともスラスト側に、ピストンの温度が高くなるほど剛性が低くなる可変剛性手段を設けることにより、ピストンの温度が高くなるほど前記可変剛性手段を設けたピストンスカートの部位の剛性が低くなるようにしたことを特徴とする。
【0009】
このようなものであれば、ピストンの温度が高くなる高負荷領域では、ピストンスカートの剛性は低くなり、シリンダボアとの接触面積が大きくなる結果、面圧を低く設定することができ、ピストンが破損してしまう可能性を排除することができる。そして、ピストンの温度が低い、モード運転領域とされる低負荷領域ではピストンスカートの剛性が高くなり、シリンダボアとの接触面積が小さくなる結果、ピストンフリクションすなわちメカロスを有効に低減させることができる。これにより、メカロスの低減による内燃機関の燃費の向上に寄与することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、運転領域に応じた剛性を有することでメカロスを有効に低減させた内燃機関用ピストンを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係る右側面図。
【図2】同実施形態に係る正面図。
【図3】図2に係るx−x線断面図。
【図4】図3に係る作用説明図。
【図5】同実施形態の変形例を図3に対応させて示す図。
【図6】同変形例に係る作用説明図。
【図7】同実施形態の他の変形例を図3に対応させて示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施の形態について図面を参照して説明する。
【0013】
本実施形態に係る内燃機関用ピストン(以下、ピストンと称する)1は、例えば自動車のエンジンに好適に適用されているものである。また本実施形態に係るピストン1は、図示のピストン本体1aの他、一例として2つのコンプレッションリングと、オイルリング等とを併せて有しているものであるが、説明の便宜上、これらの図示並びに詳細な説明を省略するものとする。また図1においては、図示右側とスラスト側、左側を反スラスト側とするとともに、図3及び図4においては図示上側をスラスト側、下側を反スラスト側とする。
【0014】
当該ピストン1の主体を成すピストン本体1aは、図1乃至図3に示すように、ピストン1頂面側から順に2つのコンプレッションリング溝2a、2bとオイルリング溝2cとが形成されるとともに、内部空間5においてピストンピンを支持するためのピストンピンボス10と、ピストン1の上下方向中央から下部に亘って図示しないシリンダボアに接し得るピストンスカート7とを有している。また本実施形態ではこのピストンスカート7自体の剛性は、高負荷領域においてピストン1が破損しないよう、運転時には一定以上の面積で図示しないシリンダボアに接し得るように設定されている。
【0015】
しかして本実施形態に係るピストン1は、ピストンスカート7の少なくともスラスト側に、ピストン1の温度が高くなるほど剛性が低くなる可変剛性手段3を設けることにより、ピストン1の温度が高くなるほど、可変剛性手段3を設けたピストンスカート7の部位である中心部7aの剛性が低くなるようにしたことを特徴とする。
【0016】
以下、本実施形態に係る可変剛性手段3の構成について説明する。
【0017】
可変剛性手段3は、温度により変化する形状記憶合金からなるものであり、ピストン1の内部空間5から取り付けられたものである。この可変剛性手段3は、ピストンスカート7におけるピストンスカート7のスラスト側の中心部7aと、この中心部7aから上下両側にそれぞれ離間した縁部7bとを内部空間5側から梁状に連結することにより、正面視概略X字状をなすものである。斯かる形状により、ピストンスカート7は中心部7aの剛性が主に補強され、この補強された中心部7aが主にシリンダボアに当接し得るものとなっている。
【0018】
そしてこの可変剛性手段3を構成する形状記憶合金は、ピストン1の温度が低温である低温時(L)には所要の剛性を有するとともに、高温である高温時(H)には剛性が低下するようにしている。それに併せて、可変剛性手段3を設けたスラスト側のピストンスカート7の剛性もピストン1の温度が低温である時には所要の剛性を有するとともに、ピストン1の温度が低温であるときには同様に剛性が低下するようになっている。
【0019】
しかして本実施形態に係るピストン1は、上記のようにピストン1の温度によってピストンスカート7の剛性を異ならせることにより、以下の作用をそうする物となっている。
【0020】
図3は低温時(L)、すなわちモード運転領域といった低負荷領域でのピストンスカート7及び可変剛性手段3を示している。このように低温時(L)では可変剛性手段3を構成する形状記憶合金の剛性が高い、詳細にはピストンスカート7の剛性よりも高い為にピストンスカート7の剛性、特に中心部7aの剛性が当該形状記憶合金によって内部空間5側から補強されている。これにより、ピストンスカート7におけるシリンダボアとの接触部位は、中心部7a近傍のみとなっている。
【0021】
他方図4は高温時(H)、すなわち高負荷領域でのピストンスカート7及び可変剛性手段3を示している。このように高温時(H)では形状記憶合金の剛性が低下、詳細にはピストンスカート7を補強する度合いが弱まる程度にまで低下するか、ピストンスカート7の剛性よりも低下し、ピストンスカート7自体の剛性となる。これによりピストンスカート7におけるシリンダボアとの接触部位は、中心部7aから縁部7bに向けて大きい面積を有し、ピストンスカート7の面圧は低温時(L)に比べて低下させてピストンスカート7の損傷を有効に回避せしめている。
【0022】
以上のような構成とすることにより、本実施形態に係るピストン1は可変剛性手段3を設けることにより、ピストン1の温度が高くなる高温時(H)である高負荷領域ではピストンスカート7の剛性は低くなり、シリンダボアとの接触面積が大きく面圧は低くなる。その結果、面圧を低く設定することができ、ピストン1が破損してしまう可能性を排除することができる。そして、ピストン1の温度が低い低温時(L)、モード運転領域とされる低負荷領域ではピストンスカート7の剛性並びに面圧が高くなり、シリンダボアとの接触面積が小さくなる。その結果、ピストンフリクションすなわちメカロスを有効に低減させることができる。これにより、メカロスの低減による燃費の向上を有効に達成し得たものとなっている。
【0023】
<変形例>
以下、本実施形態の変形例について説明する。以下の変形例において、上記実施形態の構成要素に相当するものについては同じ符号を付すとともに、その詳細な説明を省略するものとする。
【0024】
本変形例に係る可変剛性手段4は、上記実施形態に対して取り付けた位置、形状は略同じであるが、筒状に形成した上記実施形態同様の形状記憶合金からなる筒状部4aの内部に、高温時(H)には体積を減縮させ得るサーモワックス4bを充填しているものである。
【0025】
当該変形例でも図5に示すような低温時(L)では筒状部4aが剛性を高く維持するとともにサーモワックス4bが密に充填されているため、図3同様にピストンスカート7の中心部7aの剛性が補強され、シリンダボアとの接触面積を小さく抑え得るものとなっている。
【0026】
そして図6に示す高温時(H)では、上記実施形態同様に形状記憶合金すなわち筒状部4aの剛性が低下するとともにサーモワックス4bの体積が減縮する。そうなると、サーモワックス4bは筒状部4aを補強し得なくなり、可変剛性手段4の剛性は低下する。
【0027】
このようなものであっても、上記実施形態同様に、低温時(L)ではピストンスカート7の剛性を高く維持することでシリンダボアとの接触面積を小さく抑えることにより、低負荷領域での燃費を上記実施形態同様に有効にせしめたものとなっている。
【0028】
続いて図7に示す可変剛性手段6は、ピストンスカート7におけるスラスト側の中心部7aに設けられた空洞部6aと、この空洞部6aに充填された上記変形例同様のサーモワックス6bとを有するものである。
【0029】
斯かる構成でも、低温時(L)にはサーモワックス6bが空洞部6a内に密に充填されることで、ピストンスカート7における中心部7aの剛性が有効に高く保たれる。そして高温時(H)には上記変形例同様にサーモワックス6bの体積が減縮することによって中心部7aの剛性が低下し、大きな面積でシリンダボアとピストンスカート7が接触し得るものとなる。
【0030】
このようなものであっても、上記実施形態同様に、低温時(L)ではピストンスカート7の剛性を高く維持することでシリンダボアとの接触面積を小さく抑えることにより、低負荷領域での燃費を向上させ得たものとなっている。
【0031】
以上、本発明の実施形態について説明したが、各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【0032】
例えば、上記実施形態ではスラスト側にのみ可変剛性手段を設けた態様を開示したが、勿論反スラスト側にも、スラスト側同様の形状をなすか、若しくはピストンスカートの中心部のみに別の可変剛性手段を設けたものであってもよい。また上記実施形態ではピストンスカートの中心部と周縁とに亘って梁状に可変剛性手段を設けたが勿論中心部よりも上にある内部空間に面した下向面を足場として中心部を補強する形状としても良い。さらにピストンを構成するオイルリングやコンプレッションリング等の具体的な態様は上記実施形態のものに限定されることはなく、既存のものを含め、種々の態様のものを適用することができる。
【0033】
その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明はピストンスカート部における摩擦を低減させ得る内燃機関用ピストンとして利用することができる。
【符号の説明】
【0035】
1…ピストン
3…可変剛性手段
7…ピストンスカート
10…ピストンピンボス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンピンを支持するピストンピンボスと、ピストンスカートとを備えた内燃機関用ピストンであって、
ピストンスカートの少なくともスラスト側に、ピストンの温度が高くなるほど剛性が低くなる可変剛性手段を設けることにより、ピストンの温度が高くなるほど前記可変剛性手段を設けたピストンスカートの部位の剛性が低くなるようにしたことを特徴とする内燃機関用ピストン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−11190(P2013−11190A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−142988(P2011−142988)
【出願日】平成23年6月28日(2011.6.28)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】