説明

内燃機関用点火装置

【課題】中心電極と接地電極との間に高電圧を印加したときに発生する放電アークに筒内に発生する気流を作用させ、放電アークを引き延ばして燃焼の安定化を図る内燃機関において、放電アークの引き延ばし効果の確率的な変動を抑制し、安定した燃焼を実現する。
【解決手段】放電アーク13が実際に引き延ばされているか否かを判断する放電アーク引き延ばし判定手段として、放電電圧VIGから所定時間(0.05ms)の間の電圧変動率ΔV(kV/ms)を算出し、所定の閾値VREFとの比較によって放電アーク13が引き伸ばされていないと判断したときには、放電アーク13に磁界を作用させて筒内気流TMBによる放電アーク13の引き延ばしを補助すべく磁場を発生させる磁場発生手段MG、MGを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は内燃機関の点火装置に関し、特に、極希薄な混合気の着火性向上に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
近年、点火プラグの中心電極と接地電極との間に高電圧を印加したときに発生する放電アークに燃焼室内の発生する混合気の流れを作用させて、放電アークを引き伸ばして希薄な混合気の着火性を向上させた点火装置について種々提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、内燃機関に装着され、中心電極と、前記中心電極との間で放電火花を形成する接地電極を有し前記中心電極の外周に配置された円環状のハウジングと、前記中心電極と前記ハウジングとの間に設けられ前記中心電極と前記ハウジングとの電気的絶縁をなす絶縁碍子と、を備えた内燃機関用スパークプラグにおいて、前記ハウジングの端面部の外径面に、前記内燃機関の燃焼室内の混合気のタンブル渦気流を前記燃焼室の内部中央部方向へ制御する整流手段を設けたことを特徴とする内燃機関用スパークプラグが開示されている。
【0004】
特許文献1にあるように、燃焼室内のタンブル渦気流等の燃焼内に発生する混合気の流れを整流して点火プラグの中心電極と接地電極との間の特定の位置に誘導することによって、中心電極と接地電極との間に高電圧を印加したときに発生する放電アークにタンブル渦気流を作用させて長く引き伸ばすことによって、高過給気エンジン、希薄燃焼機関等の難着火性の内燃機関において着火性の向上を図ることができると期待されている。
【0005】
また、特許文献2にあるように、筒内噴射式内燃機関において、点火プラグの放電ギャップの中心位置から燃料噴射弁の噴孔の中心位置までの距離と、点火プラグの放電ギャップの中心位置から燃料噴射弁から噴射された燃料噴流の中心軸までの距離とを特定の範囲に設定することにより、燃料噴射弁から噴射された燃料噴流によりその周囲の空気が持ち去られたときに発生する燃料噴流の噴射方向とは略逆向きの引込み気流を点火プラグの放電ギャップ近傍に作用せしめることによって、放電アークを混合気の可燃領域に引き伸ばして着火性の向上を図ることができると期待されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、点火プラグを内燃機関のエンジンヘッドに組み付ける際に、点火プラグ自体の個体差や、締め付けトルクのバラツキ、エンジンヘッド側に形成されたネジ山の開始位置のバラツキ等によって点火プラグのハウジング先端で略L字形に延びる接地電極の方向は必ずしも一定方向とはならない。
また、内燃機関の運転状況によって、燃焼室内に発生する混合気の気流の強さ及び流れ方向も必ずしも一定ではない。
このため、特許文献1や特許文献2にあるように点火プラグの先端部にタンブル渦流や燃料噴射の引込流等の筒内に発生する気流を作用させたときに放電アークが引き伸ばされるか否かは確率的事象となり、期待通り放電アークが引き伸ばされない虞があることが判明した。
【0007】
図11は、本図(a)に示すように、エンジンを模した燃焼試験器を用い、点火プラグ10の中心電極11に対して、接地電極12の軸部が上流側となるように筒内気流TMBが流れている状況で、エンジン回転数:2000rpm、点火プラグ10への印加エネルギ:150mJ、空燃比A/F=25.3の条件で500サイクルの燃焼試験を行い、燃焼室内の気流TMBを点火プラグ10の中心電極11と接地電極12との間に作用させたときの図示平均有効圧Pmiと放電電圧の計測又は監視モニタカメラによる放電アークの観察により調査した結果である。
本図(b)に示すように、500サイクル中約82%に当たる414サイクルで放電アークの引き延ばしが行われ、本図(c)に示すように、500サイクル中約18%に当たる86サイクルで放電アークの引き延ばしが行われなかった。また、放電アークの引き延ばしが行われなかった場合には、目標とする図示平均有効圧に到達せず、燃焼サイクルによって燃焼が悪化する虞がある。
【0008】
したがって、例えば、燃焼室内に略L字形に延びる接地電極12の軸部分が中心電極11に対して筒内気流TMBの上流側となった場合には、中心電極11と接地電極12との間に流入する気流の流速が接地電極12の軸部への衝突により減速され、中心電極11と接地電極12との間に発生した放電アークが十分引き伸ばされず、着火性向上の効果を発揮できない虞があり、タンブル渦流や、燃料噴射によって発生する引込流などの燃焼室内に発生した気流によって、放電アークが十分引き伸ばされるか否かが、確率的事象となり、着火の安定性を損なう虞がある。
【0009】
そこで、本発明は、かかる実情に鑑み、所定の放電距離を隔てて対向する中心電極と接地電極との間に高電圧を印加したときに発生する放電アークに筒内に発生する気流を作用させ、放電アークを引き延ばして燃焼の安定化を図る内燃機関において、放電アークの引き延ばし効果の確率的な変動を抑制し、常に安定した燃焼を実現する信頼性の高い内燃機関の点火装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の発明では、内燃機関に設けた点火プラグに高電圧を印加して絶縁体を介して対向する中心電極と接地電極との間に発生させた放電アークに内燃機関の燃焼室内に発生する気流を作用させて、上記放電アークを引き伸ばして燃焼室内に導入された混合気の点火を行う内燃機関用の点火装置であって、上記放電アークが実際に引き延ばされているか否かを判断する放電アーク引き延ばし判定手段と、該判定手段によって上記放電アークが引き伸ばされていないと判断したときには、上記放電アークに磁界を作用させて上記筒内気流による放電アークの引き延ばしを補助すべく磁場を発生させる磁場発生手段とを具備する。
【0011】
請求項2の発明では、上記放電アーク引き延ばし判定手段が、上記点火プラグの放電電圧を検出する放電電圧検出手段と、該放電電圧の微少時間に対する電圧増加率を算出する電圧増加率算出手段と、放電開始から所定時間における上記電圧増加率と所定の閾値との比較により上記電圧増加率が上記閾値以上のときには上記放電アークが引き伸ばされていると判断する閾値判定手段とからなる。
【0012】
請求項3の発明では、上記磁場発生手段が通電により発生する磁界の方向が違いに直交する2つの磁場発生手段からなり、上記放電アーク引き延ばし判定手段によって上記放電アークが引き伸ばされていないと判定されたときには、上記2つの磁場発生手段のいずれか一方、又は、両方への通電を行う。
【発明の効果】
【0013】
上記筒内気流を中心電極と接地電極との間に発生した放電アークに作用させ、放電アークを引き伸ばすことによって着火性の向上を図ることができることが知られているが、筒内気流による放電アーク引き延ばしは、機関の運転状況や、上記点火プラグが上記燃焼室に組み付けられた状態によって変化する確率的事象であり、必ずしも安定的に筒内気流によって放電アークが引き伸ばされるとは限らない。
しかし、請求項1の発明によれば、上記放電アーク引き伸ばし判定手段によって、放電アークが引き伸ばされていないと判断した場合には、上記磁場発生手段への通電を行い上記放電アークに磁界によるローレンツ力を作用させ、上記放電アークを湾曲させることによって、上記筒内気流によって確実に放電アークを引き伸ばすことができ、安定した着火を実現できる。
また、上記放電アーク引き延ばし判定手段によって、放電アークが引き伸ばされていると判断した場合には、上記磁場発生手段への通電は行われず、無駄なエネルギの消耗を抑制することができる。
【0014】
本願発明者等の鋭意試験により、筒内気流によって放電アークが引き伸ばされているときには、放電開始から所定時間における放電電圧が大きく変動し、筒内気流によって放電アークが引き伸ばされていないときには、放電開始から所定時間における放電電圧の変動が小さいことが判明した。
かかる知見に基づき、請求項2の発明にあるように、所定時間に対する放電電圧の電圧増加率を閾値判定することによって、容易に放電アークが引き伸ばされているか否かを判定することができるとの新たな知見を得たものである。
【0015】
また、請求項3の発明によれば、磁場の発生方向を選択に変えることによって、エネルギロスをより少なく、かつ、より確実に放電アークの引き延ばしを行い極めて安定した着火を実現可能な内燃機関用点火装置が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施形態における内燃機関用点火装置の概要を示し、(a)は、燃焼室内側からエンジンヘッド側を望む平面図、(b)は、本図(a)中A−Aに沿った矢視断面図。
【図2】図1に示した内燃機関用点火装置の第1の作用効果を(a)から(c)の順を追って示す斜視図。
【図3】本発明の第1の効果を示し、(a)は、放電電圧の経時変化を示す特性図、(b)は、電圧増加率の経時変化を示す特性図。
【図4】図1に示した内燃機関用点火装置の第2の作用効果を(a)から(c)の順を追って示す斜視図。
【図5】本発明の第2の効果を示し、(a)は、放電電圧の経時変化を示す特性図、(b)は、電圧増加率の経時変化を示す特性図。
【図6】本発明に用いられる磁場発生手段の制御方法の一例を示すフローチャート。
【図7】点火プラグが任意の方向に配設されたときの本発明の効果を示す模式図。
【図8】放電アークが筒内気流によって引き延ばされていない状態において、(a)は、放電電圧の経時変化を示す特性図、(b)は、電圧増加率の経時変化を示す特性図。
【図9】放電アークが筒内気流によって引き延ばされた状態において、(a)は、放電電圧の経時変化を示す特性図、(b)は、電圧増加率の経時変化を示す特性図。
【図10】本発明の点火装置において磁界発生手段を駆動するか否かを決定するための閾値の選定方法を示し、(a)は、放電アークの引き延ばされていない状態における電圧増加率の経時変化を示す特性図、(b)は、放電アークの引き延ばされている状態における電圧増加率の経時変化を示す特性図。
【図11】従来の筒内気流を放電アークの引き延ばしに利用した点火装置の問題点を示し、(a)は、図示平均有効圧の計測条件を示す要部断面図、(b)は、放電アークが引き伸ばされたときの特性図、(c)は、は、放電アークが引き伸ばされていないときの特性図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1を参照して、本発明の実施形態における内燃機関用点火装置1の概要について説明する。
図1(a)は、本実施形態における点火装置1の適用された内燃機関(以下、E/Gと略す。)5の燃焼室側からエンジンヘッド側を望む平面図、(b)は、本図(a)中A−Aに沿った矢視断面図である。
【0018】
本図に示すように、E/G5は、エンジンヘッド50と略筒状のシリンダ54とシリンダ52内に可動に収納されたピストン53とによって構成され、エンジンヘッド50の内壁とシリンダ54の内周壁とピストン53の頂面とによって燃焼室500が区画されている。
エンジンヘッド50には吸気バルブ511によって開閉される吸気筒510と、排気バルブ521によって開閉される排気筒520とが形成されている。
エンジンヘッド50には、燃焼室500内に高圧燃料FLを噴霧する燃料噴射弁(INJ)と、高電圧の印加により放電アークを発生され燃焼室内に導入された混合気の点火を行う点火プラグ10と、本発明の要部である放電アーク引き延ばし判定手段及び放電電圧検出手段を内蔵するエンジン制御装置(ECU)30と、磁場発生手段として第1の磁場発生手段MGと第2の磁場発生手段MGとが設けられている。
第1の磁場発生手段MGと第2の磁場発生手段MGとのいずれか一方、又は、両方への通電によって、点火プラグ10の中心電極11と接地電極12との間に発生する放電アーク13にローレンツ力FLNZ1、FLNZ2を選択的に作用させ、所望の方向へ湾曲させることができる。
【0019】
第1の磁場発生手段MGと第2の磁場発生手段MGとは、発生する磁界MGF、MGFの方向が点火プラグ10の中心軸を通り、互いに直交する方向となる位置に設けられており、点火プラグ10の中心電極11と接地電極12との間に高電圧を印加したときに発生する放電アーク13に対して互いに直交する方向のローレンツ力FLNZ1、FLNZ2を発生させることができる。
【0020】
点火制御手段(IGC)20は、少なくともIGBT、サイリスタ等の開閉素子とDC−DCコンバータや昇圧コイル等の電源電圧を高電圧に昇圧する昇圧回路とを含む公知の点火制御手段であって、E/G5の運転状況に応じてECU30から発信された点火信号IGtにしたがって、点火プラグ10の中心電極11と接地電極12との間に高電圧を印加し、放電アーク13を発生させる。IGC20は、いわゆる誘導放電型(TCI)の点火制御手段と容量放電型(CDI)の点火制御手段とのいずれでも良い。
また、IGC20は図略の電圧検出手段を具備し、点火プラグ10に印加した放電電圧VIGの経時変化をモニタし、ECU30へ伝達する。
【0021】
また、電圧増加率算出手段として、ECU30では、放電電圧VIGから、例えば0.05ms毎の微少時間における電圧増加率ΔVを算出する。
なお、電圧増加率ΔVは、(数1)に示すように、0.05ms間の放電電圧VIGの変化量(kV)を0.05msで割った値の絶対値とした。
【数1】

【0022】
磁場発生制御手段(MGC)40では、後述する磁場制御方法にしたがって、電圧増加率ΔVを閾値判定する閾値判定手段を具備し、第1の磁場発生手段MG、第2の磁場発生手段MGへの通電の要否を判定し、IGC20の検出した放電電圧VIGに応じて、第1の磁場発生手段(MG)、又は/及び、第2の磁場発生手段(MG)に通電を行い中心電極11と接地電極12との間に発生した放電アーク13に対して、第1の磁界MGF又は/及び、第2の磁界MGFを作用させ、それぞれの磁界MGF、MGFに対して直交する方向の第1のローレンツ力FLNZ1/又は/及び、第2のローレンツ力FLNZ2を発生させる。
【0023】
ここで、図2、図3を参照して、第1の磁場発生手段MGにより第1の磁界MGFを発生させたときの効果について説明する。
例えば、燃焼室内に向かって略L字形に延びる接地電極12の脚部120が、筒内に流れる気流TMBに対して上流側となる方向で点火プラグ10がシリンダヘッド50に組み付けられている場合、図2(a)に示すように、中心電極11の先端と接地電極12の放電部121との間に放電アーク13が発生したときに、接地電極12の脚部120が障壁となり、放電アーク13は、筒内気流TMBに晒されることなく引き伸ばされない。
成層燃焼機関や高過給燃焼機関等の難着火性の機関においては、このままでは失火に至る虞がある。
そこで、このように、筒内気流によって放電アーク13が引き伸ばされない場合には、第1の磁場発生手段MGを駆動し、第1の磁界MGFを放電アーク13に作用させる。すると、本図(b)に示すように、第1の磁界MGF1に直交する方向の第1のローレンツ力FLNZ1によって放電アーク13がローレンツ力FLNZ1の作用する方向に引き伸ばされることになる。
すると、放電アーク13は、接地電極12の脚部120の影からはみ出し、筒内気流TMBに晒されることになり、本図(c)に示すように筒内気流TMBによって、長く引き伸ばされることになり、難着火性機関の点火が可能となる。
【0024】
このときに電圧検出手段によって検出された放電電圧VIGの変化、及び、電圧増加率ΔVの経時変化を図3に示す。
図3(a)に示すように、放電開始から、一定期間tの間放電アーク13が引き伸ばされず、本図(b)に示すように、電圧増加率ΔVが所定の閾値VREF(例えば、2kV/ms)より低い場合には、第1の磁場発生手段MGへの通電を行う。
このとき、第1のローレンツ力FLNZ1が放電アーク13作用し、筒内気流TMBによって放電アーク13が引き伸ばされると、本図(a)に示すように、放電電圧VIGが大きく変化する。
なお、点火プラグ10において、中心電極11と接地電極12との間に放電アーク13が発生し、筒内気流TMBによって放電アーク13が引き伸ばされ放電電圧VIGに変化を生じはじめるのは、放電開始から、0.2ms程度の時間が経過したときであり、また、放電アーク13が維持されるのは、2ms程度の期間である。
【0025】
さらに、本実施形態において、点火プラグ10は、図略の絶縁体を介して対向する中心電極11と接地電極12との間に高電圧を印加したときに放電アーク13を発生する、いわゆるスパークプラグを示したが、中心電極11、及び、接地電極12の材質、形状等を特に限定するものではなく、公知の点火プラグを適宜採用し得るものである。
また、本実施形態においては、中心電極11側が正極とし、接地電極12側を負極として、放電アーク13は、中心電極11から接地電極12に向かう電流とみなして第1、第2のローレンツ力FLNZ1、FLNZ2の方向を図示しているが、中心電極11及び接地電極12の極性を逆にすれば、作用するローレンツ力FLNZ1、FLMNZ2の方向も逆向きになる。
【0026】
次いで、図4、図5を参照して、第2の磁場発生手段MGにより第2の磁界MGFを発生させたときの効果について説明する。
例えば、本図(a)に示すように、接地電極1の脚部120が、筒内気流TMBの下流側となるように点火プラグ10が組み付けられた場合、接地電極12の脚部120によって放電アーク13の引き延ばしが遮られ、さらに、本図(b)に示すように、上述のように第1の磁場発生手段MGへの通電により、磁界MGFが放電アーク13に作用しても、なお、放電アーク13の引き延ばしに至らない場合に、本図(c)に示すように、第2の磁場発生手段MGへの通電が行われ、第1のローレンツ力FLNZ1に加え第2のローレンツ力FLNZ2が放電アーク13に作用し、放電アーク13の湾曲方向を変化させ、筒内気流TMBによって放電アーク13が大きく引き伸ばされるようになる。
このときの放電電圧VIG(kV)及び電圧変化率ΔV(kV/ms)を図5に示す。
【0027】
図5(a)に示すように、本実施例においては、第1の磁場発生手段MGへの通電により、第1の磁界MGFを放電アーク13に作用させてもなお、本図(b)に示すように、所定の時間tにおいて、電圧増加率ΔVが所定の閾値VREF(例えば、2kV/ms)より低いため、第2の磁場発生手段MGへの通電を行い、第2の磁界MGFを放電アーク13に作用させる。
すると筒内気流TMBによって放電アーク13が引き伸ばされるようになり、本図(a)に示すように、放電電圧VIGが大きく変化する。
なお、 一旦、筒内気流TMBにより放電アークが引き伸ばされれば、第1の磁場発生手段MG、及び/又は、第2の磁場発生手段MGへの通電を終了しても良い。
【0028】
図6を参照して、本発明における磁場発生手段の制御方法の一例を説明する。
ECU30から点火信号IGtの発振がなされると、それをトリガとして、磁場発生手段の制御フローが開始される。
ステップS100の第1の判定要否判定行程では、放電開始から第1の磁場発生手段MG1への通電の要否を判定する第1の判定時期か否かが判定される。
放電開始から一定時間tとなるまでは放電電圧VIGの変化が少なく、ステップS100のループを繰り返しtの経過まで待機される。
所定の時間tとなるとステップS100の判定がYesとなり、ステップS110の第1の磁場発生要否判定行程に進む。S110の第1の磁場発生要否判定行程では、電圧増加率ΔVと所定の閾値VREFとの比較による第1の閾値判定が行われる。このとき、ΔV<VREFなら判定Yesとなり、ステップS120の第1の磁場発生行程へ進む。
ステップS120の第1の磁場発生行程では、放電アーク13に第1のローレンツ力FLNZ1を作用させるべく第1の磁場発生手段への通電が開始される(MG ON)。
ステップS110において、電圧増加率が所定の閾値以上、即ち、ΔV≧VREFなら判定Noとなり、磁場発生手段への通電は不要と判断され、ステップS160の終了行程に進み、第1の磁場発生手段MG1、第2の磁場発生手段MG共に通電は行われない。
即ち、磁場による補助がなくても筒内気流TMBにより、放電アーク13が引き延ばされる場合には、磁場発生手段MG、MGへの通電を行わず、エネルギを制限することができる。
次いで、ステップS130の第2の判定要否判定行程では、第2の磁場発生手段MGへの通電の要否を判定する第1の判定時期か否かが判定される。
ステップS130において、所定の時間t2を経過するまでは、判定Noとなり、第2の判定が行われることがなく、ステップS100〜S130のループが繰り返される。ステップS130において所定時間t2が経過すると判定Yesとなり、ステップS140の第2の磁場発生要否判定行程に進む。
ステップS140の第2の磁場発生要否判定行程では、電圧増加率ΔVと所定の閾値VREFとの比較による第2の閾値判定が行われる。このとき、ΔV<VREFなら判定Yesとなり、ステップS150の第2の磁場発生行程へ進む。
即ち、第1の磁場発生手段MGへの通電により、電圧増加率が所定の閾値VREF以上となったら第2の磁場発生手段MG2への通電が不要であるので、判定Noとなり、ステップS160の終了行程に進む。
ステップS150の第2の磁場発生行程では、第2の磁場発生手段MGへの通電がなされ、ステップ140で判定Noとなるまで、ステップS140、S150のループが繰り返される。
第2の磁場発生手段MGへの通電により、放電アーク13が筒内気流TMBによって引き伸ばされ、放電電圧VINが所定の閾値VREF以上となると、ステップS140の第2の磁場発生要否判定行程において、判定Yesとなり、ステップ160の終了行程に進む。
【0029】
図7を参照して、任意の方向に点火プラグ10の組み付けられた場合であっても本願発明が効果を発揮するものであることを説明する。なお、点火プラグ10の構成は、上述の実施形態と同様であり、点火プラグ10をシリンダヘッド50に組み付けた際の接地電極12の方向のみが異なる場合の影響と本発明の効果を明確にするために、本図において、中心電極11、接地電極12の脚部120を示す引き出し線および符号は省略してある。
本図(a−1)、(a−2)、(a−3)は、接地電極12の脚部120の位置が筒内気流TMBによる放電アーク13の引き延ばしに影響を与えない位置を示し、このような場合には、筒内気流TMBが直接放電アーク13を引き伸ばして、難着火性の機関においても安定した着火が実現できるので、第1の磁場発生手段MG、第2の磁場発生手段MGのいずれも作動させる必要がなく、磁界発生のためのエネルギを消耗しない。
【0030】
さらに、接地電極12が筒内気流TMBの上流側に位置し、放電アーク13が接地電極12の脚部120の影に隠れる場合には、上述の如く第1の磁場発生手段MGへの通電が行われ、第1のローレンツ力FLNZ1が放電アーク13に作用すると、本図(b−1)に示すように、接地電極12の影に隠れない方向、即ち、筒内気流TMBの流れ方向に対して斜め下流方向へ放電アーク13が引き伸ばされ、筒内気流TMBが第1のローレンツ力FLNZ1によって引き伸ばされた放電アーク13に作用するようになり、本図(b−2)、(b−3)に示すように第2の磁場発生手段MGへの通電を行わずとも、筒内気流TMBによって放電アーク13が引き延ばされ、難着火性の機関においても安定した着火が実現できる。
【0031】
さらに、接地電極12の脚部120が、中心電極11に対して、筒内気流TMBの斜め下流側の位置となっている場合、放電アーク13がと婦内気流TMBによって引き伸ばされないので、第1の磁場発生手段MGへの通電が行われるが、本図(c−1)に示すように、第1のローレンツ力FLNZ1が、接地電極12の脚部120に向かう方向に作用するため、第1の磁場発生手段MG1への通電後も、放電アーク13が引き伸ばされず、第2の磁場発生手段MG2への通電が行われ、本図(c−2)に示すように、放電アーク13には、第1のローレンツ力FLNZ1と第2のローレンツ力FLNZ2の合力が作用するため、筒内気流TMBに直交する方向に放電アーク13が大きく湾曲され、これに筒内気流TMBが作用して、本図(c−3)に示すように、接地電極12を迂回して放電アーク13が引き伸ばされることになる。
【0032】
さらに、接地電極12の脚部120が、筒内気流TMBの下流側に位置するときには、第1の磁場発生手段MGへの通電が行われ、本図(d−1)に示すように、放電アーク13が斜め下流方向に湾曲するが、筒内気流TMBの下流側に接地電極12の脚部120が存在するために、接地電極12の消炎作用の影響を受け安すいため、本図(d−2)に示すように、第1の磁界発生手段MGへの通電を行い、第2のローレンツ力FLNZ2も作用させることにより、接地電極放電が得放電アーク13が大きく湾曲されて、筒内気流TMBが作用するようになり、本図(d−3)に示すように、接地電極12を迂回するように放電アーク13が引き伸ばされることになる。
即ち、本図に示すように、本発明によれば、点火プラグ10の任意の方向に対して、効果的に磁界を作用させて、筒内気流TMBによる放電アーク13の引き延ばしを可能にし、内燃機関において安定した着火を実現できる。
【0033】
ここで、本発明に至った経緯を図8、図9、図10を参照して説明する。
図8(a)は、放電アーク13に筒内気流が作用していない状態における放電電圧VIGであり、図8(b)は、そのときの電圧増加率ΔVの変化を示す特性図である。
図8(a)に示すように、筒内気流TMBが放電アーク13に作用せず、放電アーク13の引き延ばしが行われていない状態では、放電電圧VIGにほとんど変化がなく、電圧増加率ΔVの変化も小さい。
一方、図9(a)は、放電アーク13に筒内気流が作用している状態における放電電圧VIGであり、図9(b)は、そのときの電圧増加率ΔVの変化を示す特性図である。
図9(a)に示すように、筒内気流TMBが放電アーク13に作用し、放電アーク13の引き延ばしが行われている状態では、放電電圧VIGが大きく変化し、電圧増加率ΔVの変化も大きい。
したがって、電圧増加率ΔVを閾値判定することにより、放電アーク13が筒内気流TMBによって引き伸ばされているか否かを判定できるとの知見を得たものである。
また、図10に示すように、点火制御装置IGCによって点火プラグ10に例えば20kV以上の高電圧が印加され絶縁破壊に至り、一気に放電空間の抵抗が下がるので、放電開始直後は電圧増加率の変化が極めて大きいため判定時期から除外してある。また、放電が終了する2ms以上の期間も燃焼に伴い燃焼室内に発生するイオン電流の影響により電圧増加率の変化が大きいため判定時期から除外してある。
図10(a)に示すように、放電アーク13が引き伸ばされていない状態では、判定期間内における、電圧増加率ΔVの最大値をVREFとし、電圧増加率ΔVを絶対値化することにより、図10(b)に示すように、放電アーク13が引き伸ばされている状態を閾値VREFとの比較により認識することができる点に着目したものである。
本図において、実際に計測された電圧増加率の相対値の変化を一点鎖線で示し、負の値を反転させた絶対値の変化を実線でしめしてある。
【0034】
なお、本発明において、第1の磁場発生手段MGと第2の磁場発生手段MGとのいずれを先にするかは、実際に適用される内燃機関の燃焼室内に発生する気流の方向や、点火プラグの取付位置等によって適宜変更可能である。
また、上記実施形態においては、第1の磁場発生手段によって放電アークの引き延ばしが行われなかった場合に、第1の磁場発生手段への通電を維持したまま、第2の磁場発生手段への通電を行う制御方法の例を示したが、いずれか一方への通電を選択的に行うようにしても良い。
さらに、磁場発生手段の数は第1、第2の2つに限定するものではなく、2以上の磁場発生手段を設けることにより、ローレンツ力を利用して、放電アークが引き伸ばされない状態を回避する本発明の趣旨に反しない限り、磁場発生手段の数は適宜変更可能である。
また、磁場発生手段に印加する電流の方向を変更することにより、発生する磁場の方向を変え、放電アークに作用するローレンツ力の方向を変え、もっとも効果的に放電アークの引き延ばしができる組み合わせを実際の燃焼行程を繰り返す間に学習し、最適な条件を選択するようにしても良い。
その際にも、電圧増加率ΔVを閾値判定することにより、効果的な磁場の発生条件か否かを判断することができる。
【符号の説明】
【0035】
1 内燃機関用点火装置
10 点火プラグ
11 中心電極
12 接地電極
13 放電アーク
20 点火制御装置(IGC)
30 エンジン制御装置(ECU)
40 磁界制御装置(MGC)
5 内燃機関
50 シリンダヘッド
500 燃焼質
510 吸気筒
511 吸気バルブ
520 排気筒
521 排気バルブ
53 シリンダブロック
54 ピストン
INJ 燃料噴射弁
MG 第1の磁界発生手段
MG 第2の磁界発生手段
LNZ1 第1のローレンツ力
LNZ2 第2のローレンツ力
TMB 燃焼室内気流
FL 燃料噴霧
【先行技術文献】
【特許文献】
【0036】
【特許文献1】特開2006−28820号公報
【特許文献2】特開2011−106377号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関に設けた点火プラグに高電圧を印加して絶縁体を介して対向する中心電極と接地電極との間に発生させた放電アークに内燃機関の燃焼室内に発生する気流を作用させて、上記放電アークを引き伸ばして燃焼室内に導入された混合気の点火を行う内燃機関用の点火装置であって、
上記放電アークが実際に引き延ばされているか否かを判断する放電アーク引き延ばし判定手段と、
該判定手段によって上記放電アークが引き伸ばされていないと判断したときには、上記放電アークに磁界を作用させて上記筒内気流による放電アークの引き延ばしを補助すべく磁場を発生させる磁場発生手段とを具備することを特徴とする内燃機関用点火装置。
【請求項2】
上記放電アーク引き延ばし判定手段が、上記点火プラグの放電電圧を検出する放電電圧検出手段と、該放電電圧の微少時間に対する電圧増加率を算出する電圧増加率算出手段と、放電開始から所定時間における上記電圧増加率と所定の閾値との比較により上記電圧増加率が上記閾値以上のときには上記放電アークが引き伸ばされていると判断する閾値判定手段とからなる請求項1に記載の内燃機関用点火装置。
【請求項3】
上記磁場発生手段が通電により発生する磁界の方向が違いに直交する2つの磁場発生手段からなり、上記放電アーク引き延ばし判定手段によって上記放電アークが引き伸ばされていないと判定されたときには、上記2つの磁場発生手段のいずれか一方、又は、両方への通電を行う請求項1又は2に記載の内燃機関用点火装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−7351(P2013−7351A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−141419(P2011−141419)
【出願日】平成23年6月27日(2011.6.27)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】