説明

内燃機関

【課題】 内燃機関のクランク軸の軸方向における寸法を、より小さくして、この内燃機関をコンパクトにできるようにし、かつ、このようにした場合でも、内燃機関の組み立て作業が容易にできるようする。
【解決手段】 内燃機関11が、クランク軸28に連動連結されるフライホイールマグネト57と、クランクケース20に固定され、フライホイールマグネト57のロータ61における周方向の所定部分67と対向したときに点火信号を出力するパルサコイル68とを備える。クランク軸28の径方向外方で、このクランク軸28の軸心27と平行な軸心54上にフライホイールマグネト57のロータ61を配置する。クランクケース20に対しクランク軸28を所定のクランク角に位置決め可能とする第1位置決め手段106と、ロータ61における所定部分67をこのロータ61の周方向でパルサコイル68に対し位置決め可能とする第2位置決め手段107とを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クランク軸に連動連結されるフライホイールマグネトと、点火信号を出力するパルサコイルとを備えた内燃機関に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関には、従来、下記特許文献1に示されるものがある。この公報のものによれば、車両の車体後部に内燃機関が搭載されている。
【0003】
上記内燃機関は、上記車体の後部に支持されたクランクケースと、車両の長手方向に延びる軸心回りに回転可能となるよう上記クランクケースに支持されるクランク軸と、このクランク軸と軸方向で列設されるフライホイールマグネトとを備え、このフライホイールマグネトのロータが上記クランク軸の一端部に連結されている。
【0004】
また、上記構成において、一般に、クランクケースに固定され、上記フライホイールマグネトのロータにおける周方向の所定部分と対向したときに点火信号を出力するパルサコイルが設けられている。
【0005】
上記内燃機関を駆動させると、上記クランク軸に連動してロータが回転し、フライホイールマグネトが発電する。この発電による電力は、上記内燃機関における点火用等の電源とされる。上記ロータの回転により、このロータにおける上記所定部分が上記パルサコイルに対向したとき、このパルサコイルが点火信号を出力する。このパルサコイルの点火信号に基づき、混合気の点火のタイミングが所望のクランク角となるよう定められる。これにより、エンジン性能が良好に保たれた状態で、内燃機関の駆動が続けられる。そして、この内燃機関から出力される駆動力は、上記クランク軸の他端部を通して走行用の駆動車輪に伝達され、車両が走行可能とされる。
【0006】
【特許文献1】特開平2−109727号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記車両は余剰空間が狭いものである。このため、上記内燃機関には、上記クランク軸の軸方向における寸法を小さくすることが望まれる。しかし、上記従来の技術における内燃機関では、上記クランク軸とフライホイールマグネトとはその軸方向で列設されている。このため、上記内燃機関は、そのクランク軸の軸方向における寸法が大きくなりがちである。よって、上記内燃機関は、例えば、余剰空間が小さい車両に搭載させる上で、好ましくない。
【0008】
そこで、上記クランク軸の径方向外方で、上記クランク軸の軸心と平行な軸心上に上記フライホイールマグネトのロータを配置させることが考えられる。このようにすれば、クランク軸とフライホイールマグネトとをその軸方向で列設させていた従来の技術の内燃機関に比べて、上記内燃機関をそのクランク軸の軸方向でコンパクトにできる。
【0009】
しかし、上記のようにすると、クランク軸とロータとは互いに別体となる。このため、上記内燃機関の組み立て作業は、次のように煩雑になりがちである。即ち、上記パルサコイルを組み付けたクランクケースに対し、上記クランク軸とフライホイールマグネトのロータとを組み付けるとき、上記したように点火のタイミングが所望状態となるよう、上記クランクケースにクランク軸を組み付けると共に、このクランク軸に連動するロータの所定部分をパルサコイルに対する所定位置に位置決めする必要がある。しかし、このようにクランク軸、ロータ、およびパルサコイルを互いに関連させながら、これらクランク軸とロータとを組み付けるという作業は煩雑である。つまり、上記内燃機関の組み立て作業は煩雑になりがちである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記のような事情に注目してなされたもので、本発明の目的は、内燃機関のクランク軸の軸方向における寸法を、より小さくして、この内燃機関をコンパクトにできるようにし、かつ、このようにした場合でも、上記内燃機関の組み立て作業が容易にできるようすることである。
【0011】
請求項1の発明は、クランクケース20に支持されるクランク軸28と、このクランク軸28に連動連結されるフライホイールマグネト57と、上記クランクケース20に固定され、上記フライホイールマグネト57のロータ61における周方向の所定部分67と対向したときに点火信号を出力するパルサコイル68とを備えた内燃機関において、
上記クランク軸28の径方向外方で、このクランク軸28の軸心27と平行な軸心54上に上記フライホイールマグネト57のロータ61を配置し、
上記クランクケース20に対し上記クランク軸28を所定のクランク角に位置決め可能とする第1位置決め手段106と、上記ロータ61における上記所定部分67をこのロータ61の周方向で上記パルサコイル68に対し位置決め可能とする第2位置決め手段107とを備えたものである。
【0012】
請求項2の発明は、請求項1の発明に加えて、上記ロータ61の径方向外方に上記第1、第2位置決め手段106,107をそれぞれ配置したものである。
【0013】
なお、この項において、上記各用語に付記した符号は、本発明の技術的範囲を後述の「実施例」の項や図面の内容に限定解釈するものではない。
【発明の効果】
【0014】
本発明による効果は、次の如くである。
【0015】
請求項1の発明は、クランクケースに支持されるクランク軸と、このクランク軸に連動連結されるフライホイールマグネトと、上記クランクケースに固定され、上記フライホイールマグネトのロータにおける周方向の所定部分と対向したときに点火信号を出力するパルサコイルとを備えた内燃機関において、
上記クランク軸の径方向外方で、このクランク軸の軸心と平行な軸心上に上記フライホイールマグネトのロータを配置している。
【0016】
このため、クランク軸とフライホイールマグネトとをその軸方向で列設させていた従来の技術の内燃機関に比べて、クランク軸の軸方向における内燃機関の寸法を、より小さくでき、つまり、この内燃機関をそのクランク軸の軸方向でコンパクトにできる。よって、例えば、車体の幅方向が狭いレーシングカーなどの車両において、その車体の幅方向にクランク軸の軸方向を合致させるよう内燃機関を搭載する場合に、この搭載が容易にできて有益である。
【0017】
また、上記クランクケースに対し上記クランク軸を所定のクランク角に位置決め可能とする第1位置決め手段と、上記ロータにおける上記所定部分をこのロータの周方向で上記パルサコイルに対し位置決め可能とする第2位置決め手段とを備えている。
【0018】
ここで、上記内燃機関の組み立て作業に先立って、予め、次のように構成しておく。即ち、上記クランク軸を第1位置決め手段により所定のクランク角に位置決めすると共に、上記ロータにおける所定部分を第2位置決め手段により上記パルサコイルに対し位置決めした場合に、上記クランク軸に連動するフライホイールマグネトのロータの回転に伴い、このロータにおける所定部分が、上記パルサコイルにタイミングの良いクランク角で対向するようにしておく。
【0019】
このようにすれば、上記内燃機関の組み立て作業に際し、上記第1位置決め手段によりクランク軸を上記のように位置決めし、かつ、上記第2位置決め手段によりロータにおける所定部分を上記のように位置決めすれば、パルサコイルにタイミングの良いクランク角で点火信号を出力させることができる。
【0020】
そして、上記した各位置決めは、上記第1、第2位置決め手段によって容易にできる。つまり、上記内燃機関の組み立て作業が容易にできる。
【0021】
請求項2の発明は、上記ロータの径方向外方に上記第1、第2位置決め手段をそれぞれ配置している。
【0022】
このため、上記内燃機関の組み立て作業において、上記第1、第2位置決め手段を視認しながら上記各位置決めをするとき、この視認は、一般に面積の大きいフライホイールマグネトのロータに邪魔されずに容易にできる。よって、上記内燃機関の組み立て作業が、より容易にできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の内燃機関に関し、内燃機関のクランク軸の軸方向における寸法を、より小さくして、この内燃機関をコンパクトにできるようにし、かつ、このようにした場合でも、上記内燃機関の組み立て作業が容易にできるようする、という目的を実現するため、本発明を実施するための最良の形態は、次の如くである。
【0024】
即ち、内燃機関は、クランクケースに支持されるクランク軸と、このクランク軸に連動連結されるフライホイールマグネトと、上記クランクケースに固定され、上記フライホイールマグネトのロータにおける周方向の所定部分と対向したときに点火信号を出力するパルサコイルとを備えている。
【0025】
上記クランク軸の径方向外方で、このクランク軸の軸心と平行な軸心上に上記フライホイールマグネトのロータが配置されている。上記内燃機関は、上記クランクケースに対し上記クランク軸を所定のクランク角に位置決め可能とする第1位置決め手段と、上記ロータにおける上記所定部分をこのロータの周方向で上記パルサコイルに対し位置決め可能とする第2位置決め手段とを備えている。
【実施例】
【0026】
本発明をより詳細に説明するために、その実施例を添付の図に従って説明する。
【0027】
図2,3において、符号1は、レーシングカートとして例示される車両で、矢印Frは、この車両1の進行方向の前方を示している。また、下記する左右とは、上記前方に向かっての車両1の幅方向をいうものとする。
【0028】
上記車両1の車体2は、その骨格を構成する車体フレーム3と、この車体フレーム3の前部に操向可能に懸架される左右一対の前車輪4と、上記車体フレーム3の後部に懸架される左右一対の後車輪5と、上記車両1の長手方向で上記車体2の中途部に支持されるシート6と、上記車体フレーム3の前部に支持され、各前車輪4と連動連結されるハンドル7と、上記シート6の外側方に配置されて上記車体フレーム3に支持される左右一対のフートレスト8とを備えている。
【0029】
上記車両1は、上記シート6と右側のフートレスト8との間に配置されて、上記各後車輪5を走行駆動させる内燃機関11と、この内燃機関11に大気側の空気12と燃料13とによる混合気を供給可能とする吸気装置14と、上記内燃機関11から排出される排気15を内燃機関11の外部に導出させる排気装置16とを備えている。上記内燃機関11はリード弁式の2サイクル単気筒エンジンである。
【0030】
全図において、上記内燃機関11の静止側部材19は、上記車体フレーム3に支持されるクランクケース20と、このクランクケース20から上方に突出するシリンダ21と、上記クランクケース20の左側の側面を全体的に開閉可能に覆うケースカバー22とを備えている。上記クランクケース20の内部がクランク室24とされ、上記クランクケース20とケースカバー22との間には密閉された内部空間25が形成されている。上記クランクケース20に対しケースカバー22は締結具により着脱可能に固着されている。
【0031】
軸心27が車両1の幅方向に延びるクランク軸28が上記軸心27回りに回転可能となるよう上記クランクケース20に支持されている。上記シリンダ21にはピストン29が摺動可能に嵌入され、上記クランク軸28とピストン29とは連接棒30により互いに連動連結されている。上記クランク軸28は、上記クランクケース20に軸受32により支持される左右一対のクランク主軸33,34と、上記クランク室24に内有され、上記各クランク主軸33,34に一体的に形成される左右一対のクランクアーム35と、これら両クランクアーム35に架設されて上記連接棒30の大端部に連結されるクランクピン36とを備えている。
【0032】
上記シリンダ21の突出端部と上記ピストン29とで囲まれた空間が燃焼室38とされる。上記クランクケース20の前部には、上記クランク室24の内外を連通させる吸気通路39が形成されている。この吸気通路39は、上記車両1の長手方向、かつ、ほぼ水平方向に延びている。上記吸気通路39に嵌入されて上記クランクケース20の前部に取り付けられるリード弁40が設けられている。上記クランク室24を上記燃焼室38に連通させる掃気通路41がクランクケース20に形成されている。また、上記燃焼室38をシリンダ21の外部に連通させる排気通路42が上記シリンダ21に形成されている。
【0033】
上記吸気装置14は、上記クランクケース20の前部に連結され、上記吸気通路39と連通する気化器44と、この気化器44に連結される吸気サイレンサ45とを備えている。一方、上記排気装置16は、上記シリンダ21の後部に連結され、上記排気通路42と連通する排気管46と、この排気管46に順次連結される排気管マフラ47と排気サイレンサ48とを備えている。また、上記シリンダ21の突出端部には点火プラグ50が取り付けられている。
【0034】
上記クランク軸28と平行に延び、このクランク軸28の径方向の外方に配置される従動軸53が設けられている。この従動軸53は、その軸心54回りに回転可能となるよう軸受55により上記静止側部材19のクランクケース20とケースカバー22とに跨って支持されている。
【0035】
上記内部空間25に収容され、上記従動軸53の軸心54上に配置されるフライホイールマグネト57が設けられている。このフライホイールマグネト57は、上記ケースカバー22に支持されるステータ59と、上記従動軸53にキー60により固定されてこの従動軸53と共に回転するロータ61とを備えている。
【0036】
上記クランク軸28の一端部である一方のクランク主軸33に上記従動軸53を介しフライホイールマグネト57のロータ61を連動連結させる連動装置63が設けられている。この連動装置63は上記内部空間25に収容されている。上記連動装置63は、上記クランク主軸33にキー64により固定される駆動ギヤ65と、上記従動軸53に一体的に形成されて上記駆動ギヤ65と噛合する従動ギヤ66とを備えている。これら駆動ギヤ65と従動ギヤ66とはモジュールと歯数とが互いに同じとされている。上記クランク軸28の軸方向に沿った視線で見て(図4)、上記クランク軸28とフライホイールマグネト57とのそれぞれ少なくとも一部分が互いに重なり合うこととされている。
【0037】
上記ロータ61の外周面には、その周方向の所定部分67に突起が形成されている。また、上記軸心54回りの上記所定部分67の回転軌跡の一部に対向してパルサコイル68が設けられている。このパルサコイル68は上記ケースカバー22を介しクランクケース20に固定されている。上記軸心54回りのロータ61の回転により、上記所定部分67が上記パルサコイル68に対向したとき、このパルサコイル68は点火信号を出力する。
【0038】
上記排気通路42の燃焼室38側の開口における上縁部の高さを可変とする公知の排気制御弁69が設けられている。また、上記内部空間25に収容され、上記静止側部材19のクランクケース20とケースカバー22とに跨るように支持される補機70が設けられている。この補機70は、上記排気15が上記燃焼室38側から排気通路42を通って排出されるときのタイミングを可変とするよう上記排気制御弁69を制御するガバナー装置である。上記補機70は、上記クランク軸28の径方向の外方に配置されている。また、上記フライホイールマグネト57と補機70とは、上記クランク軸28の周方向で互いに偏位させられている。
【0039】
上記補機70は、上記クランク軸28と平行に延び、このクランク軸28の径方向の外方に配置されるガバナー軸71を備えている。このガバナー軸71は、その軸心72回りに回転可能となるよう軸受73により上記静止側部材19のクランクケース20とケースカバー22とに跨って支持されている。
【0040】
上記補機70は、上記内部空間25に収容され、上記ガバナー軸71の軸心72上に配置されてこのガバナー軸71に固着される円錐筒形状の回転体74と、この回転体74内に嵌入される球形状の重り75と、上記ガバナー軸71の軸方向に移動可能となるようこのガバナー軸71に支持される可動体76と、この可動体76を介し上記重り75を上記回転体74の内面に圧接させるばね77とを備えている。前記排気制御弁69は上記可動体76に回動アームなどの連動体により連動連結されている。
【0041】
上記クランク軸28の一端部である一方のクランク主軸33に上記ガバナー軸71を連動連結させる他の連動装置79が設けられている。この連動装置79は上記内部空間25に収容されている。上記連動装置79は、前記駆動ギヤ65と、上記ガバナー軸71に固着されて上記駆動ギヤ65と噛合する従動ギヤ80とを備えている。
【0042】
上記クランク軸28の径方向の外方で、このクランク軸28と平行に延びる軸心82上に配置される他の補機70の例である水ポンプ83が設けられている。この水ポンプ83は、上記軸心82上に配置されるポンプ軸84と、このポンプ軸84が上記軸心82回りに回転可能となるよう上記ポンプ軸84をクランクケース20に支持させる左右一対の軸受85と、これら軸受85を上記ポンプ軸84の軸方向の所定位置に位置決めする位置決め具86と、上記ポンプ軸84に固着され、上記クランクケース20に形成されたポンプ室87に嵌入されるロータ88とを備えている。
【0043】
上記フライホイールマグネト57のロータ61に上記水ポンプ83を連動連結させる更に他の連動装置91が設けられている。この連動装置91は、前記従動ギヤ66と、上記ポンプ軸84に固着されて上記従動ギヤ66と噛合する従動ギヤ92とを備えている。
【0044】
上記各連動装置63,79,91は、上記クランク軸28の軸方向で互いにほぼ同じところに配置されている。そして、上記各連動装置63,79,91の一側方に上記クランク軸28のクランクアーム35と水ポンプ83のロータ88とが配置されている。この場合、上記クランク軸28の軸方向で、上記クランク軸28のクランクアーム35と水ポンプ83のロータ88とは互いにほぼ同じところに配置されている。また、上記各連動装置63,79,91の他側方に上記フライホイールマグネト57と補機70の回転体74とが配置されている。
【0045】
上記クランク軸28の他端部である他方のクランク主軸34が、上記内燃機関11の出力部とされている。上記クランク軸28の軸心27上で、上記他方のクランク主軸34に遠心クラッチ94の駆動側部材95が固着されている。また、上記クランク軸28の軸心27上で、このクランク軸28のクランク主軸34に上記遠心クラッチ94の従動側部材96が支持されている。この従動側部材96は、上記軸心27回りで、上記クランク軸28と駆動側部材95とに対し相対回転可能とされている。上記従動側部材96に対し、上記後車輪5を連動連結させるチェーン巻掛式の連動装置97が設けられている。
【0046】
上記内部空間25の内底部に潤滑油99を溜める油溜め部100が形成されている。上記更に他の連動装置91の従動ギヤ92の少なくとも下部が上記油溜め部100内に配置され、上記潤滑油99により油浴されている。
【0047】
102は始動電動機であり、この始動電動機102に上記クランク軸28が連動可能とされている。
【0048】
図4で示すように、内燃機関11は、上記クランクケース20に対し上記クランク軸28を所定のクランク角に位置決め可能とする第1位置決め手段106と、上記ロータ61における所定部分67をこのロータ61の軸心27の周方向で上記パルサコイル68に対する所定位置に位置決め可能とする第2位置決め手段107とを備えている。上記第1、第2位置決め手段106,107により、上記各位置決めをすれば、上記クランク軸28に連動するフライホイールマグネト57のロータ61の回転に伴い、このロータ61における所定部分67が、上記パルサコイル68にタイミングの良いクランク角で対向し、このパルサコイル68がタイミングの良いクランク角で点火信号を出力する。
【0049】
上記第1位置決め手段106は、上記クランクケース20の内部空間25側の面に設けられる第1位置決め部108と、上記クランク軸28に固着された上記駆動ギヤ65におけるケースカバー22側の端面に設けられる第1被位置決め部109とを備えている。上記第1位置決め部108は、上記駆動ギヤ65の径方向外方の近傍に設けられている。上記第1被位置決め部109は、上記駆動ギヤ65の径方向外端部に設けられている。上記内燃機関11の組み立て作業において、上記第1位置決め部108に第1被位置決め部109を視認により合致させれば(図4)、上記クランク軸28が上記した所定のクランク角となるよう位置決めされる。
【0050】
一方、上記第2位置決め手段107は、上記クランクケース20の内部空間25側の面に設けられる第2位置決め部110と、上記ロータ61の外周面に設けられる第2被位置決め部111とを備えている。上記第2位置決め部110は、上記従動ギヤ66の径方向外方の近傍に設けられている。上記内燃機関11の組み立て作業において、上記第2位置決め部110に第2被位置決め部111を視認により合致させれば(図4)、上記ロータ61における所定部分67がこのロータ61の周方向で、上記パルサコイル68に対する所定位置に位置決めされる。
【0051】
上記第1、第2位置決め部108,110や第1、第2被位置決め部109,111は、それぞれ刻印、突起、切り欠き溝、着色などにより形成される。
【0052】
上記第1、第2位置決め手段106,107のそれぞれ少なくとも一部は、上記ロータ61の径方向外方にそれぞれ配置されている。上記クランクケース20からケースカバー22を取り外した状態で、上記第1、第2位置決め手段106,107は、上記クランクケース20の外側方から、それぞれ直接視認可能とされている。
【0053】
上記内燃機関11を駆動させる時には、まず、上記始動電動機102の駆動により上記クランク軸28をクランキングする。すると、内燃機関11の外部の空気12が上記吸気装置14、リード弁40、および吸気通路39を通ってクランク室24に吸入される。また、この際、上記吸気装置14の気化器44により、上記空気12に燃料13が混入されて、混合気が生成され、この混合気が上記クランク室24で予圧縮される。
【0054】
次に、上記混合気が上記掃気通路41を通り燃焼室38に吸入され、ここで、上記点火プラグ50の放電により点火させられ、燃焼させられる。上記点火プラグ50の放電は、上記パルサコイル68が出力する点火信号により達成される。上記燃焼により生じた燃焼ガスは、上記排気通路42と排気装置16とを通し排気15として内燃機関11の外部に排出される。
【0055】
上記燃焼による熱エネルギーに基づき、上記クランク軸28が一方向に回転Aさせられて、動力が出力される。上記クランク軸28に上記連動装置63を介し上記従動軸53とフライホイールマグネト57とが連動して、上記軸心54回りに回転Bさせられる。これにより、上記フライホイールマグネト57が発電し、その電力は上記点火プラグ50の放電や制御用等の電源とされる。この場合、クランク軸28とフライホイールマグネト57のロータ61とは互いに逆回転A,Bさせられる。
【0056】
また、上記クランク軸28に上記連動装置79を介し上記補機70のガバナー軸71、回転体74、および重り75が連動して、上記軸心72回りに回転Cさせられる。上記クランク軸28が高速であれば、これに連動する上記重り75の遠心力が大きくなり、上記ばね77の付勢力に対抗して上記可動体76が上記ガバナー軸71の軸方向の一方向に移動させられる。上記クランク軸28が低速であれば、これに連動する上記重り75の遠心力が小さくなり、上記ばね77の付勢力により上記可動体76は上記一方向とは反対方向に移動させられる。上記した可動体76の各移動に連動して、上記排気制御弁69が制御され、排気15についての前記タイミングが自動的に調整される。
【0057】
上記クランク軸28に上記連動装置63,91を介し上記水ポンプ83が連動して、この水ポンプ83のポンプ軸84とロータ88とが上記軸心82回りに回転Dさせられる。これにより、上記ポンプ室87から冷却水が吐出され、この冷却水は、上記内燃機関11の各部を循環して冷却し、その後、空冷されて上記水ポンプ83の吸入部に戻される。
【0058】
上記連動装置91の従動ギヤ92は、上記油溜め部100の潤滑油99を掻き上げる。すると、この潤滑油99は、上記従動ギヤ92と順次噛合する従動ギヤ66、駆動ギヤ65、および従動ギヤ80へと移送されて、これら各ギヤ65,66,80,92の各噛合部を潤滑する。
【0059】
上記クランク軸28が所定回数以上になれば、上記遠心クラッチ94が接続動作する。すると、上記クランク軸28からの駆動力は、上記遠心クラッチ94と連動装置97とを介し上記後車輪5に伝達され、車両1が走行可能とされる。
【0060】
上記構成によれば、クランク軸28の径方向の外方で、上記クランク軸28と平行な軸心54上に上記フライホイールマグネト57を配置している。
【0061】
このため、クランク軸とフライホイールマグネトとをその軸方向で列設させていた従来の技術の内燃機関に比べて、クランク軸28の軸方向における内燃機関11の寸法を、より小さくでき、つまり、この内燃機関11をそのクランク軸28の軸方向でコンパクトにできる。よって、特に、上記した車体2の幅方向が狭いレーシングカーなどの車両1において、その車体2の幅方向にクランク軸28の軸方向を合致させるよう内燃機関11を搭載する場合に、この搭載が容易にできて有益である。
【0062】
また、前記したように、クランクケース20に対し上記クランク軸28を所定のクランク角に位置決め可能とする第1位置決め手段106と、上記ロータ61における上記所定部分67をこのロータ61の周方向で上記パルサコイル68に対し位置決め可能とする第2位置決め手段107とを備えている。
【0063】
ここで、上記内燃機関11の組み立て作業に先立って、予め、次のように構成しておく。即ち、上記クランク軸28を第1位置決め手段106により所定のクランク角に位置決めすると共に、上記ロータ61における所定部分67を第2位置決め手段107により上記パルサコイル68に対し位置決めした場合に、上記クランク軸28に連動するフライホイールマグネト57のロータ61の回転に伴い、このロータ61における所定部分67が、上記パルサコイル68にタイミングの良いクランク角で対向するようにしておく。
【0064】
このようにすれば、上記内燃機関11の組み立て作業に際し、上記第1位置決め手段106によりクランク軸28を上記のように位置決めし、かつ、上記第2位置決め手段107によりロータ61における所定部分67を上記のように位置決めすれば、パルサコイル68にタイミングの良いクランク角で点火信号を出力させることができる。
【0065】
そして、上記した各位置決めは、上記第1、第2位置決め手段106,107によって容易にできる。つまり、上記内燃機関11の組み立て作業が容易にできる。
【0066】
また、前記したように、ロータ61の径方向外方に上記第1、第2位置決め手段106,107をそれぞれ配置している。
【0067】
このため、上記内燃機関11の組み立て作業において、上記第1、第2位置決め手段106,107を視認しながら上記各位置決めをするとき、この視認は、一般に面積の大きいフライホイールマグネト57のロータ61に邪魔されずに容易にできる。よって、上記内燃機関11の組み立て作業が、より容易にできる。
【0068】
なお、以上は図示の例によるが、上記内燃機関11は車両以外の乗り物に搭載されるものでもよく、産業機械などに用いられるものでもよい。また、内燃機関11は4サイクル内燃機関でもよい。また、上記駆動ギヤ65と従動ギヤ66とは、これに代えてチェーン等の無端帯巻掛装置であっても良い。また、上記従動軸53に対する従動ギヤ66の結合は、キー結合であっても良い。また、上記パルサコイル68はクランクケース20に直接固定しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】図4の1−1線矢視の一側部断面図である。
【図2】車両の全体平面図である。
【図3】図2の3−3線矢視図である。
【図4】図3の部分拡大破断図である。
【図5】図4の5−5線矢視の他側部断面図である。
【符号の説明】
【0070】
11 内燃機関
20 クランクケース
22 ケースカバー
27 軸心
28 クランク軸
54 軸心
57 フライホイールマグネト
61 ロータ
65 駆動ギヤ
66 従動ギヤ
67 所定部分
68 パルサコイル
106 第1位置決め手段
107 第2位置決め手段
108 第1位置決め部
109 第1被位置決め部
110 第2位置決め部
111 第2被位置決め部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランクケースに支持されるクランク軸と、このクランク軸に連動連結されるフライホイールマグネトと、上記クランクケースに固定され、上記フライホイールマグネトのロータにおける周方向の所定部分と対向したときに点火信号を出力するパルサコイルとを備えた内燃機関において、
上記クランク軸の径方向外方で、このクランク軸の軸心と平行な軸心上に上記フライホイールマグネトのロータを配置し、
上記クランクケースに対し上記クランク軸を所定のクランク角に位置決め可能とする第1位置決め手段と、上記ロータにおける上記所定部分をこのロータの周方向で上記パルサコイルに対し位置決め可能とする第2位置決め手段とを備えたことを特徴とする内燃機関。
【請求項2】
上記ロータの径方向外方に上記第1、第2位置決め手段をそれぞれ配置したことを特徴とする請求項1に記載の内燃機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−250097(P2006−250097A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−70151(P2005−70151)
【出願日】平成17年3月11日(2005.3.11)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【Fターム(参考)】