説明

内燃機関

【課題】吸気バルブの開弁初期における有効開口面積の減少を抑えつつ、吸気ポートにおいて排気ポートに近接する部位とは反対側の部位から燃焼室内に向かう気流を強化する。
【解決手段】吸気ポート18aと排気ポートを近接して設ける。吸気ポート18aの排気側の開口部には、排気側の位置に、傘部34aの側面を覆うようにして開弁方向に延びる突出壁部52が形成されている。突出壁部52は吸気バルブ34の最大リフト量よりも低く設定されている。突出壁部52の内周面には、閉弁状態にある時の傘部34aの側面と対向する位置に、当該内周面に沿って吸気バルブ34の中心軸線と直交する方向に延びる気流案内溝54が形成されている。気流案内溝54の幅は、傘部34aの側面において気流案内溝54に対向する部分の幅よりも狭く形成されている。気流案内溝54の両端は、吸気側に向けて開放されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関に係り、特に、吸排気バルブのオーバーラップ期間中の吸気ポートから排気ポートへの新気の吹き抜けを利用して残留排気ガスの掃気を行う場合に好適な内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の出力向上や異常燃焼の発生抑制を図るうえでは、燃焼室内に残留する排気ガス量を低減することが有効である。燃焼室内の残留排気ガス量を低減するために、過給機付き内燃機関において、吸気圧力が排気圧力よりも高くなる高負荷運転時に吸排気バルブのオーバーラップ期間を拡大することにより、吸気ポートから排気ポートに新気を吹き抜けさせるという手法がある。しかしながら、吹き抜けさせる新気の量が多すぎると、燃費の悪化や、目標値に対する空燃比のずれの悪化といった問題が生ずる。
【0003】
上記の問題を解決するための1つの対策としてのエンジンの燃焼室構造が、例えば、特許文献1に開示されている。この従来の燃焼室構造では、互いに近接して配置された吸気ポートと排気ポートとの間に、隔壁を設けるようにしている。より具体的には、吸気ポートのバルブシートの排気ポート側の周縁部に沿って、当該バルブシートより燃焼室側の部位に吸気バルブのリフト方向へ延びる突出壁(上記隔壁)を形成するようにしている。そのうえで、次のような詳細な設定がなされている。すなわち、上記突出壁の突出しろは、上死点における吸気バルブのリフト量と上死点から上死点後に排気バルブが実質的に閉じるまでの間のクランク角度に0.15を乗じた値とのうちどちらか大きい値以下に設定されており、上記突出壁と吸気バルブ傘部の大径部周縁との隙間は、上記突出しろよりも小さく設定され、かつ、上記吸気バルブ傘部の大径部周縁とボア周縁側の燃焼室壁との隙間は、上記吸気バルブ傘部の大径部周縁と上記突出壁との隙間よりも大きく設定されている。
【0004】
上記のような構成を採用することで、上記特許文献1では、上記突出壁を設けたことによる吸気抵抗の増大を最小限に抑制しつつ、新気の吹き抜けを効果的に防止できるとしている。更に、上記特許文献1では、ボア周縁側から燃焼室へ流入した新気は、筒内で吸気側のシリンダ壁からピストン頂面に沿って排気側へ流れる縦旋回流(逆タンブル流)を形成し、これによって、オーバーラップ時の筒内の残留排気ガスを排気ポートへ押し出す掃気作用が得られ、掃気効率が向上できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−1554号公報
【特許文献2】特開平5−98972号公報
【特許文献3】特開2010−112227号公報
【特許文献4】実開昭61−91045号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載のエンジンの燃焼室構造では、突出壁の突出しろに対する上記配慮がなされてはいる。しかしながら、吸気バルブの開弁初期には、上記突出壁の存在によって吸気バルブの有効開口面積が小さくなってなるので、このことに起因する充填効率の低下が生じてしまう。この点において、上記特許文献1の技術は、未だ改善の余地を残すものであった。
【0007】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、突出壁部を備えたことによって吸気バルブの開弁初期における有効開口面積が減少するのを抑えつつ、当該吸気バルブにより開閉される吸気ポートにおいて排気ポートに近接する部位とは反対側の部位から燃焼室内に向かう気流を強化することのできる内燃機関を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、内燃機関であって、
シリンダヘッドに形成され、燃焼室に開口する吸気ポートと、
前記吸気ポートに近接する位置において前記シリンダヘッドに形成され、前記燃焼室に開口する排気ポートと、
前記吸気ポートにおける前記燃焼室側の開口部を開閉する吸気バルブと、
前記排気ポートにおける前記燃焼室側の開口部を開閉する排気バルブと、を備え、
前記シリンダヘッドにおける前記吸気ポートの前記開口部は、前記吸気バルブの傘部と接した際に前記吸気ポートの当該開口部を閉状態とするバルブシート部を有し、
前記シリンダヘッドにおける前記吸気ポートの前記開口部には、前記バルブシート部よりも前記燃焼室側であって前記排気ポート側の位置に、前記吸気バルブの前記傘部の側面を覆うようにして前記吸気バルブの開弁方向に延びる突出壁部が形成されており、
前記突出壁部の高さは、閉弁時に前記吸気バルブの前記傘部が前記バルブシート部と接する位置を基準として、前記吸気バルブの最大リフト量よりも低く設定されており、
前記突出壁部の内周面には、閉弁状態にある時の前記吸気バルブの前記傘部の前記側面と対向する位置に、当該内周面に沿って前記吸気バルブの中心軸線と直交する方向に延びる気流案内溝が形成されており、
前記気流案内溝の幅は、前記吸気バルブの前記傘部の前記側面において前記気流案内溝に対向する部分の幅よりも狭く形成されており、
前記気流案内溝の両端は、前記吸気ポートの前記開口部における前記排気ポートに近接する部位と反対側の部位に向けて開放されていることを特徴とする。
【0009】
また、第2の発明は、第1の発明において、
前記吸気バルブと前記バルブシート部との接触長さは、前記吸気バルブの前記中心軸線を含む任意の縦断面において、前記排気ポートに近い側の部位の方が、当該排気ポートから遠い側の部位よりも長くなるように設定されていることを特徴とする。
【0010】
また、第3の発明は、第1または第2の発明において、
前記内燃機関は、過給機付きの内燃機関であって、
前記排気バルブの開弁期間と前記吸気バルブの開弁期間とが重なるバルブオーバーラップ期間を変更可能とする可変動弁機構と、
吸気圧力が排気圧力よりも高くなる高負荷運転時に、前記バルブオーバーラップ期間が設定されるように前記可変動弁機構を制御するオーバーラップ期間設定手段と、
を更に備えることを特徴とする。
【0011】
また、第4の発明は、第3の発明において、
前記突出壁部の高さは、前記オーバーラップ期間設定手段によって設定される前記バルブオーバーラップ期間の終了時点における前記吸気バルブのリフト量と略同等に設定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
第1の発明によれば、上記気流案内溝が形成された上記突出壁部を、シリンダヘッドにおける吸気ポートの開口部において排気ポートに近接する位置に備えたことにより、次のような効果を奏することができる。すなわち、吸気ポートの開口部における排気ポートに近接する部位から燃焼室に向かう吸気の流れを突出壁部を利用して堰き止めつつ、気流案内溝を利用して排気ポートに近接する上記部位から当該部位と反対側の部位に向けて吸気の流れを導くことができる。このため、本発明によれば、突出壁部を備えたことによって吸気バルブの開弁初期における有効開口面積が減少するのを抑えつつ、排気ポートに近接する上記部位とは反対側の部位から燃焼室内に向かう気流を強化することが可能となる。
【0013】
第2の発明によれば、上記排気ポートに近い側の部位の方が当該排気ポートから遠い側の部位よりも、吸気バルブとバルブシート部との接触長さが長くなるように設定したことにより、吸気バルブの開弁初期においては、上記排気ポートに近い部位における流入抵抗の方が、上記排気ポートから遠い側の部位における流入抵抗よりも大きくなる。その結果、上記設定による作用によって、燃焼室内への吸気の流れは、上記排気ポートから遠い側の部位が主体となる。このため、前記第1の発明の設定による作用に加え、上記設定による作用によって、排気ポートに近接する上記部位とは反対側の部位から燃焼室内に向かう気流をより効果的に強化することが可能となる。
【0014】
第3の発明によれば、上記高負荷運転時にバルブオーバーラップ期間を設けるようにすることで、掃気作用を利用して筒内の残留排気ガス量を低減することができる。そして、前記第1または第2の発明における気流案内溝を有する突出壁部を備えていることで、上記高負荷運転時に掃気作用を利用する際に、気流案内溝の内部を通過させた吸気の流れを利用する上述した方向の気流の強化によって、筒内の逆タンブル流を強化することができる。これにより、効果的に残留排気ガス量を低減させることが可能となる。その結果、内燃機関の出力向上や異常燃焼の抑制などを図ることができる。
【0015】
第4の発明によれば、上記突出壁部の高さは、上記高負荷運転時に設定されるバルブオーバーラップ期間の終了時点における吸気バルブのリフト量と略同等に設定したことにより、突出壁部による上記排気ポートに近接する上記部位側の吸気流れの堰き止めと気流案内溝を利用した上記の気流の強化とによる逆タンブル流の強化は、吸気バルブの開弁初期のバルブオーバーラップ期間中に限って行われることとなる。このため、吸気行程中に常に逆タンブル流が生成される構成を用いる場合と比べ、シリンダライナーへの燃料付着を抑制しつつ、有効な逆タンブル流を生成させられるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態1における内燃機関の全体構成を説明するための図である。
【図2】図1に示す吸気ポートにおける燃焼室側の開口部周りの構成を説明するための図である。
【図3】吸気ポートの周縁に形成される気流案内溝の排気ポート(排気バルブ)に対する位置関係を説明するための図である。
【図4】吸気バルブが開弁初期状態にある時の吸気ポートから燃焼室に向かう吸気の流れを表した図である。
【図5】本発明の実施の形態1における吸気ポート周りの構成を採用したことによる効果を説明するための図である。
【図6】本発明の実施の形態1における吸気ポート周りの構成を採用したことによる効果を説明するための図である。
【図7】従来における逆タンブル流の生成によって生ずる弊害を説明するための図である。
【図8】本発明の実施の形態1の変形例における内燃機関が備える吸気ポートにおける燃焼室側の開口部周りの構成を説明するための図である。
【図9】図8に示す構成を備えた場合における吸気バルブの開弁時の吸気の流れを表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
実施の形態1.
[内燃機関の全体構成の説明]
図1は、本発明の実施の形態1における内燃機関10の全体構成を説明するための図である。図1に示すシステムは、内燃機関10を備えている。ここでは、内燃機関10は、一例として、図示省略する過給機(ターボ過給機など)を備える過給機付きのガソリンエンジンであるものとする。
【0018】
内燃機関10のシリンダブロック12の各気筒内には、ピストン14が設けられている。各気筒内には、ピストン14の頂部側に燃焼室16が形成されている。燃焼室16には、吸気通路18および排気通路20が連通している。また、吸気通路18の吸気ポート18aは、図1中に「タンブル方向」と示す方向の縦旋回流である吸気のタンブル流の生成を促せるような形状で形成されているものとする。尚、図1には示していないが、吸気通路18内に、タンブル流を効果的に生成するための気流制御弁を設けるようにしてもよい。
【0019】
吸気通路18の入口近傍には、吸気通路18に吸入される空気の流量に応じた信号を出力するエアフローメータ22が設けられている。また、吸気通路18の途中には、吸入空気量を制御するための電子制御式のスロットルバルブ24が設けられている。また、シリンダブロック12の上方に配置されたシリンダヘッド26には、各気筒に対し、燃焼室16内(筒内)に燃料を直接噴射するための燃料噴射弁28が設けられている。また、シリンダヘッド26には、各気筒に対し、燃焼室16内の混合気に点火するための点火プラグ(点火栓)30が設けられている。点火プラグ30は、点火コイル32に接続されている。
【0020】
更に、各気筒には、吸気通路18の吸気ポート18aおよび排気通路20の排気ポート20aを開閉するための吸気バルブ34および排気バルブ36がそれぞれ設置されている。本実施形態の内燃機関10は、一例として、同一気筒内に2つの吸気バルブ34と2つの排気バルブ36が備えられた4バルブ式の内燃機関であるものとする。
【0021】
吸気バルブ34および排気バルブ36は、それぞれ吸気可変動弁機構38および排気可変動弁機構40により駆動される。これらの可変動弁機構38、40は、クランク軸(図示省略)の回転位相に対する各カム軸(図示省略)の回転位相を変化させることにより吸気バルブ34または排気バルブ36の開閉時期を所定範囲内で変更可能とする可変バルブタイミング機構を含むものである。このような可変動弁機構38、40によれば、排気バルブ36の開弁期間と吸気バルブ34の開弁期間とが重なるバルブオーバーラップ期間を調整することができる。また、吸気可変動弁機構38および排気可変動弁機構40には、それぞれのカム軸の回転角度、すなわち、吸気カム角および排気カム角を検出するための吸気カム角センサ42および排気カム角センサ44がそれぞれ取り付けられている。更に、上記クランク軸の近傍には、クランク角度を検出するためのクランク角センサ46が配置されている。
【0022】
図1に示すシステムは、ECU(Electronic Control Unit)48を備えている。ECU48の入力部には、上述したエアフローメータ22、カム角センサ42、44、およびクランク角センサ46等の内燃機関10の運転状態を検知するための各種センサが接続されている。また、ECU48の出力部には、上述したスロットルバルブ24、燃料噴射弁28、点火コイル32および可変動弁機構38、40等の内燃機関10の運転を制御するための各種のアクチュエータが接続されている。ECU48は、上述した各種センサの出力に基づき、所定のプログラムに従って各種アクチュエータを作動させることにより、内燃機関10の運転状態を制御するものである。また、ECU48は、クランク角センサ46により検出されるクランク角度の変化率に基づいてエンジン回転数Neを算出し、エアフローメータ22により検出される吸入空気量および上記エンジン回転数Neに基づいて、内燃機関10の充填効率(負荷率)KLを算出する。更に、ECU48は、クランク角センサおよびカム角センサ42、44の出力に基づいて、吸気バルブ34、排気バルブ36の開閉時期の進角量を算出する。
【0023】
[吸気ポート周りの構成の説明]
図2は、図1に示す吸気ポート18aにおける燃焼室16側の開口部周りの構成を説明するための図である。より具体的には、図2(A)は、吸気バルブ34の中心軸線を通る平面で吸気ポート18a周りの構成を切断して示す断面図(図3(A)または図3(B)中に示すA−A線での断面図と対応)であり、図2(B)は、燃焼室16側から吸気ポート18aの開口部周りの構成を見た図であり、図2(C)は、図2(A)から吸気バルブ34の図示を省略した図である。また、図3は、吸気ポート18aの周縁に形成される気流案内溝54の排気ポート20a(排気バルブ36)に対する位置関係を説明するための図である。より具体的には、図3(A)は、同一気筒内に2つの吸気バルブ34と2つの排気バルブ36が備えられた4バルブ式の内燃機関10における燃焼室16の一例であり、図3(B)は、参考として示す図であり、同一気筒内に1つの吸気バルブと1つの排気バルブが備えられた2バルブ式の内燃機関における燃焼室の一例である。
【0024】
図3(A)に示すように、本実施形態の内燃機関10は、燃焼室16の中心に点火プラグ30が配置されている。そして、隣り合うように配置された2つの吸気バルブ34に近接する位置に、隣り合うように配置された2つの排気バルブ36が配置されている。これに伴い、図3(A)には表されていないが、並んで配置された2つの吸気ポート18aのそれぞれは、点火プラグ30を介して燃焼室16の反対側に並んで配置された2つの排気ポート20aのうちの1つと隣り合っている。尚、図3(B)に示す2バルブ式の内燃機関の場合にも、1つの吸気バルブと1つの排気バルブとは近接して配置されており、その結果、対応する1つの吸気ポートと1つの排気ポートとは近接して配置されている。
【0025】
図2に示すように、シリンダヘッド26における吸気ポート18aの開口部には、吸気バルブ34の傘部34aと接した際に吸気ポート18aの当該開口部を閉状態とするバルブシート50が固定されている。尚、後述する図8に示す構成とは異なり、図2に示す構成では、吸気バルブ34の円盤状の傘部34aの中心とリング状のバルブシート50の開口部の中心は一致している。
【0026】
また、図2(A)、(C)に示すように、シリンダヘッド26における吸気ポート18aの上記開口部には、突出壁部52が形成されている。突出壁部52は、吸気ポート18aの上記開口部の周縁において、バルブシート50よりも燃焼室16側であって当該吸気ポート18aに近接する排気ポート20a側の位置に、吸気バルブ34の傘部34aの側面を覆い、かつ吸気バルブ34の開弁方向に延びるように形成されている。
【0027】
より具体的には、図2に示す例では、突出壁部52は、主に図2(A)における吸気バルブ34の中心位置付近から排気側の部位において、吸気バルブ34の傘部34aの側面を覆うようにして形成されている。また、図2(A)、(C)に示すように、突出壁部52は、吸気側から排気側に向かうに従って、徐々に高くなるように形成されている。すなわち、図2と図3とを照らし合わせると分かるように、突出壁部52の高さは、吸気ポート18aの開口部の周縁において、当該吸気ポート18aと隣り合う排気ポート20aに最も近くなる部位の高さが最も高くなるように形成されている。尚、突出壁部52の形状は、隣り合う排気ポート20aに近い部位の高さが当該排気ポート20aから遠い部位の高さよりも高くなっているものであれば、必ずしも上記のように徐々に高さが変化するものに限らず、例えば、図2(A)に示す方向から見て、段付き状になったものであってもよい。
【0028】
更に、開弁時に吸気バルブ34のリフト量が所定量を越えた際に吸気バルブ34の傘部34aの側面が排気側において突出壁部52によって覆われない(隠れない)ようにするために、突出壁部52の高さは、閉弁時に吸気バルブ34の傘部34aがバルブシート50と接する位置を基準として、吸気バルブ34の最大リフト量よりも低く設定されている。
【0029】
突出壁部52の内周面には、図2(A)、(C)に示すように、部分リング状(図2に示す例では、略半リング状)の溝として形成された気流案内溝54が備えられている。気流案内溝54は、閉弁状態にある時の吸気バルブ34の傘部34aの側面と対向する位置に、突出壁部52の内周面に沿って略半リング状に形成されている。より具体的には、気流案内溝54は、吸気バルブ34の開弁方向と直交する方向に延びる溝として形成されている。上記のように、突出壁部52は吸気バルブ34の中心位置付近から排気側に向かうに従って徐々に高くなるように形成されているため、気流案内溝54の両端は、図2(C)に示すように、吸気側(シリンダボア側)に向けて開放されている。
【0030】
また、気流案内溝54は、バルブシート50における傘部34aとの接触位置の直下に形成されている。また、図2(A)に示すように、気流案内溝54の幅は、傘部34aの側面における気流案内溝54に対向する部分の幅よりも小さく設定されている。また、突出壁部52における気流案内溝54よりも燃焼室16側の先端部52aの径は、吸気バルブ34の傘部34aにおいて径が最大となる部位の径(吸気バルブ径)よりも若干大きいものとされている。
【0031】
更に付け加えると、上記のように定義した突出壁部52の高さは、後述する掃気作用を得るための高負荷運転時に設定されるバルブオーバーラップ期間の終了時点における吸気バルブ34のリフト量と略同等に設定されている。これは、吸排気バルブ34、36のバルブオーバーラップ期間の終了時点に達したタイミングもしくはその直後のタイミングにおいて、吸気バルブ34と突出壁部52の先端部52aとの間に有効開口面積が確保され始めるようにするためである。
【0032】
[実施の形態1の吸気ポート周りの構成の動作および効果の説明]
図4は、吸気バルブ34が開弁初期状態にある時の吸気ポート18aから燃焼室16に向かう吸気の流れを表した図である。尚、図4(A)および図4(B)は、それぞれ図2(A)および図2(B)と同方向から見た図である。
【0033】
本実施形態の内燃機関10は、上述した気流案内溝54が形成された突出壁部52を、シリンダヘッド26における、排気側の吸気ポート18aの開口部に備えている。このような構成によれば、吸気ポート18aから燃焼室16に向かう吸気の流れのうち、バルブシート50における吸気側の部位(突出壁部52が設けられていない方の部位)を通過して吹き出る流れについては、吸気バルブ34のリフト開始後には吸気の流れを阻害するものはないため、図4(A)に示すように、シリンダヘッド26の壁面に沿った流れとなる。
【0034】
一方、バルブシート50における排気側に向かう吸気の流れについては、突出壁部52の先端部52aと吸気バルブ34の傘部34aとの間で流れが堰き止められるため、この部位を直接的に介して燃焼室16に流入することはない。そして、この排気側に向かう吸気の流れは、図4(A)に示すように、突出壁部52に形成された気流案内溝54の中に一旦流入することになる。気流案内溝54の中に流入した流れは、図4(B)に示すように、気流案内溝54によって案内されて吸気側に導かれたうえで、吸気側に向けて吹き出ることになる。
【0035】
本実施形態の構成とは異なり、突出壁部52に気流案内溝54が設けられていない場合には、吸気ポート18aの排気側から燃焼室16に向かう吸気の流れが堰き止められるのみである。これに対し、本実施形態の構成によれば、気流案内溝54を設置していることにより、吸気ポート18aの排気側から燃焼室16に向かう吸気の流れを堰き止めつつ、吸気バルブ34の開弁初期における有効開口面積を増加できたことになる。より具体的には、既述したように、気流案内溝54の幅をこれに対向する傘部34aの幅よりも小さく設定しているので、吸気バルブ34が小リフト状態にある時に図4(A)に示す状態が得られ、排気側から燃焼室16内への吸気の流れを阻害させつつ、当該吸気の流れを吸気側に導くことができる。
【0036】
また、気流案内溝54を通って吸気側に導かれる吸気の流れが加わることによって、吸気ポート18aの吸気側から燃焼室16内に向かう気流を強化することができる。その結果、筒内で吸気側のシリンダ壁側からピストン14の頂面に沿って排気側へ流れる縦旋回流である逆タンブル流(図1中に示すタンブル流とは逆向きの流れ)を効果的に生成できるようになる。
【0037】
本実施形態の内燃機関10は、過給機付き内燃機関であるため、高負荷領域の使用時には、吸気圧力が排気圧力よりも高い状態が得られる。このような高負荷領域の使用時に、バルブオーバーラップ期間を設けておくことで、当該バルブオーバーラップ期間中に吸気ポート18a側から燃焼室16を介して排気ポート20a側に新気を吹き抜けさせることにより、筒内の残留排気ガスを掃気する掃気作用を得ることができる。
【0038】
本実施形態の吸気ポート18a周りの構成によれば、気流案内溝54が形成された突出壁部52を備えているため、上記高負荷領域の使用時にバルブオーバーラップ期間を設けることによって掃気効果を利用する際に、次のような効果を奏することができる。すなわち、吸気バルブ34の開弁初期段階において、吸気バルブ34の有効開口面積を確保しつつ、吸気ポート18aの開口部における排気側から燃焼室16に吸気が流入するのを抑制することができる。これにより、吸気ポート18aの排気側の開口部から燃焼室16内を最短距離で通過してうえで隣接する排気ポート20aに向けて新気が流れるのを防止することができる。そのうえで、上述したように、吸気バルブ34の開弁初期段階において強化された新気の逆タンブル流によって、燃焼室16に残留する排気ガスを効果的に排気ポート20aに向けて導くことができる。このため、掃気作用を効果的に高めることができる。
【0039】
また、本実施形態における突出壁部52の高さの設定によれば、バルブオーバーラップ期間が終了した後には、吸気バルブ34のリフト量が突出壁部52の高さよりも高くなる。その結果、吸気ポート18aから燃焼室16内に流入する吸気の流れは、吸気ポート18a内の流れ方向(吸気ポート18aの特性)の影響を大きく受けるようになる。このため、この場合の吸気の流れは、通常のタンブル流主体の流れに切り替わることとなる。以上のように、本実施形態の吸気ポート18aの開口部の構成によれば、吸気バルブ34の開弁初期には、逆タンブル流を生成でき、その後に吸気バルブ34のリフト量が高くなった後には、通常のタンブル流が生成されるようにすることができる。
【0040】
図5および図6は、本発明の実施の形態1における吸気ポート18a周りの構成を採用したことによる効果を説明するための図である。より具体的には、図5は、次サイクルに向けて筒内に残留する残留排気ガス量とバルブオーバーラップ期間との関係を、突出壁部52を備えていない場合、突出壁部52のみ備えた場合、および、突出壁部52と気流案内溝54とを備えた場合との間で比較した図である。図6は、上記3つの場合において充填効率を比較した図である。
【0041】
上記の高負荷領域の使用時には、図5に示すように、バルブオーバーラップ期間を拡大することにより、掃気作用を利用して筒内の残留排気ガス量を低減することができる。そのうえで、気流案内溝54が形成された突出壁部52を備える本実施形態の構成によれば、気流案内溝54の内部を通過させた吸気の流れを利用して、吸気側から燃焼室16内に流入する気流を強化し、逆タンブル流を強化することができる。このため、図5に示すように、突出壁部52を備えていない構成はもとより、突出壁部52のみを備えた構成を有する場合と比べ、更に効果的に残留排気ガス量を低減させることが可能となる。その結果、内燃機関10の出力向上や異常燃焼の抑制などを図ることができる。
【0042】
また、気流案内溝54が形成された突出壁部52を備える本実施形態の構成によれば、突出壁部52を備えたことに起因する吸気バルブ34の開弁初期における有効開口面積の減少を抑えることができる。このため、図6に示すように、単に突出壁部52のみを備える場合と比べ、充填効率を高めることができる。更に、本実施形態の構成によれば、気流案内溝54を利用できるので、突出壁部52自体の存在に頼りすぎることなく、吸気バルブ34の開弁初期における逆タンブル流を強化できる。その結果、突出壁部52のみを備える場合と比べ、突出壁部52の高さを小さくすることも可能となる。
【0043】
図7は、従来における逆タンブル流の生成によって生ずる弊害を説明するための図である。
図7に示す内燃機関は、逆タンブル流の生成を促進できるように吸気ポートの形状が設定されたものである。このような構成を有する内燃機関では、吸気バルブの開弁期間中に吸気ポートから燃焼室内に向かう気流方向は、逆タンブル流が生成され易くするために、常に図7中に示すような方向となる。その結果、ポート燃料噴射弁および直噴燃料噴射弁の何れを用いている場合であっても、燃料がシリンダライナーに付着し易くなってしまう。このようなシリンダライナーへの燃料の付着は、オイル切れやオイルの燃料希釈等の不具合を生じさせ易くする。
【0044】
これに対し、気流案内溝54が形成された突出壁部52を備える本実施形態の構成によれば、突出壁部52による排気側の吸気流れの堰き止めと気流案内溝54を利用した吸気側への気流の強化とによる逆タンブル流の強化は、吸気バルブ34の開弁初期のバルブオーバーラップ期間中にのみ行われることとなる。このため、図7に示すように吸気行程中に常に逆タンブル流が生成される構成を用いる場合と比べ、シリンダライナーへの燃料付着を抑制しつつ、有効な逆タンブル流を生成させられるようになる。
【0045】
ところで、上述した実施の形態1においては、シリンダヘッド26における吸気ポート18aの排気側の開口部に、気流案内溝54が形成された突出壁部52を備える吸気ポート18a周りの構成について説明を行った。しかしながら、本発明の内燃機関に適用される吸気ポート周りの構成は、上記のものに限定されるものではなく、例えば、以下の図8および図9を参照して説明するものであってもよい。
【0046】
図8は、本発明の実施の形態1の変形例における内燃機関60が備える吸気ポート18aにおける燃焼室16側の開口部周りの構成を説明するための図である。尚、図8において、上記図2に示す構成要素と同一の要素については、同一の符号を付してその説明を省略または簡略する。また、図8および後述の図9を参照して説明する点を除き、内燃機関60は、図1に示す内燃機関10と同様に構成されているものとする。
【0047】
図8(A)に示す構成は、シリンダヘッド62における吸気ポート18aの開口部に、リング状のバルブシート64を備えている。図8(B)は、当該バルブシート64を燃焼室16側から見た図である。図8(A)、(B)に示すように、バルブシート64の開口部(バルブシート穴)は、吸気バルブ34の軸中心に対し、吸気側にオフセットしている。
【0048】
そして、図8(A)に示すように、バルブシート64は、吸気バルブ34の傘部34aが被さる部分を有している。より具体的には、バルブシート64における傘部34aの被さる部分の長さ(閉弁時における吸気バルブ34の傘部34aとバルブシート64との接触長さ)は、図8(A)に示す断面において、吸気側の当該部分の長さL1よりも、排気側の当該部分の長さL2の方が大きくなるように構成されている。このようにして、吸気バルブ34とバルブシート64との接触長さは、吸気バルブ34の中心軸線を含む任意の縦断面において、近接する排気ポート20aに近い側の部位の方が、当該排気ポート20aから遠い側の部位よりも長くなるように設定されている。
【0049】
また、図8においては図示を省略しているが、図8に示す構成においても、シリンダヘッド62における吸気ポート18aの排気側の開口部には、上記突出壁部52と同様の役割を果たす突出壁部66が形成されている。また、ここでは図示を省略しているが、突出壁部66の内周面には、上記気流案内溝54と同様の気流案内溝が形成されているものとする。
【0050】
図9は、図8に示す構成を備えた場合における吸気バルブ34の開弁時の吸気の流れを表した図である。より具体的には、図9(A)は、吸気バルブ34が開弁初期状態にある時の吸気の流れを示し、図9(B)は、吸気バルブ34が高リフト状態にある時の吸気の流れを示している。
【0051】
図8に示す構成では、上述したように、吸気側における吸気バルブ34の傘部34aとバルブシート64との接触長さL1よりも、排気側の吸気バルブ34の傘部34aとバルブシート64との接触長さL2の方が大きくなるように設定されている。このような設定によれば、吸気バルブ34の開弁初期においては、排気側の流入抵抗の方が吸気側の流入抵抗よりも大きくなる。その結果、上記設定による作用によって、燃焼室16内への吸気の流れは、吸気側が主体となる。このため、実施の形態1と同様に突出壁部66を設けたことによる作用および突出壁部66に気流案内溝(図8、9では図示省略)を設けたことによる作用に加え、上記設定による作用によって、吸気バルブ34の開弁初期に逆タンブル流をより効果的に生成できるようになる。
【0052】
また、吸気バルブ34のリフト量が高くなるにつれ、吸気ポート18aから燃焼室16内に向かう吸気の流れに対して、傘部34aとバルブシート64との間の絞り部分の影響は小さくなり、吸気ポート18a内の流れ方向(吸気ポート18aの特性)の影響が大きくなる。このため、この場合の吸気の流れは、図9(B)に示すように、排気側を通過する吸気の流れが強くなり、通常のタンブル流主体の流れに切り替わることとなる。以上のように、図8に示す構成によっても、吸気バルブ34の開弁初期には、逆タンブル流を生成でき、その後に吸気バルブ34のリフト量が高くなった後には、通常のタンブル流が生成されるようにすることができる。
【0053】
また、図8に示す構成によれば、上記接触長さL1、L2の設定によって、すでに筒内に向かう気流に偏りを生じさせることができるため、突出壁部66自体の存在に頼りすぎることなく、吸気バルブ34の開弁初期における逆タンブル流を強化することができる。その結果、上記のような接触流れL1、L2への配慮がなされていない場合と比べ、突出壁部66の高さを小さくすることも可能となる。また、このことは、吸気バルブ34の有効開口面積の確保に繋がるので、充填効率をより高く確保できるようになる。
【0054】
また、上述した実施の形態1においては、バルブシート部として、シリンダヘッド26とは別体のバルブシート50を備える例について説明したが、本発明におけるバルブシート部は、上記のように別体のバルブシート50を備えるものに限らず、シリンダヘッドに一体的に形成されたものであってもよい。
【0055】
尚、上述した実施の形態1およびその変形例においては、バルブシート50または64が前記第1の発明における「バルブシート部」に相当している。
また、上述した実施の形態1およびその変形例においては、吸気可変動弁機構38および排気可変動弁機構40が前記第3の発明における「可変動弁機構」に相当している。また、ECU48が可変動弁機構38、40を適宜制御してバルブオーバーラップ期間を調整することにより前記第3の発明における「オーバーラップ期間設定手段」が実現されている。
【符号の説明】
【0056】
10、60 内燃機関
12 シリンダブロック
14 ピストン
16 燃焼室
18 吸気通路
18a 吸気ポート
20 排気通路
20a 排気ポート
22 エアフローメータ
24 スロットルバルブ
26、62 シリンダヘッド
28 燃料噴射弁
30 点火プラグ
32 点火コイル
34 吸気バルブ
34a 吸気バルブの傘部
36 排気バルブ
38 吸気可変動弁機構
40 排気可変動弁機構
42 吸気カム角センサ
44 排気カム角センサ
46 クランク角センサ
48 ECU(Electronic Control Unit)
50、64 バルブシート
52、66 突出壁部
52a 突出壁部の先端部
54 気流案内溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダヘッドに形成され、燃焼室に開口する吸気ポートと、
前記吸気ポートに近接する位置において前記シリンダヘッドに形成され、前記燃焼室に開口する排気ポートと、
前記吸気ポートにおける前記燃焼室側の開口部を開閉する吸気バルブと、
前記排気ポートにおける前記燃焼室側の開口部を開閉する排気バルブと、を備え、
前記シリンダヘッドにおける前記吸気ポートの前記開口部は、前記吸気バルブの傘部と接した際に前記吸気ポートの当該開口部を閉状態とするバルブシート部を有し、
前記シリンダヘッドにおける前記吸気ポートの前記開口部には、前記バルブシート部よりも前記燃焼室側であって前記排気ポート側の位置に、前記吸気バルブの前記傘部の側面を覆うようにして前記吸気バルブの開弁方向に延びる突出壁部が形成されており、
前記突出壁部の高さは、閉弁時に前記吸気バルブの前記傘部が前記バルブシート部と接する位置を基準として、前記吸気バルブの最大リフト量よりも低く設定されており、
前記突出壁部の内周面には、閉弁状態にある時の前記吸気バルブの前記傘部の前記側面と対向する位置に、当該内周面に沿って前記吸気バルブの中心軸線と直交する方向に延びる気流案内溝が形成されており、
前記気流案内溝の幅は、前記吸気バルブの前記傘部の前記側面において前記気流案内溝に対向する部分の幅よりも狭く形成されており、
前記気流案内溝の両端は、前記吸気ポートの前記開口部における前記排気ポートに近接する部位と反対側の部位に向けて開放されていることを特徴とする内燃機関。
【請求項2】
前記吸気バルブと前記バルブシート部との接触長さは、前記吸気バルブの前記中心軸線を含む任意の縦断面において、前記排気ポートに近い側の部位の方が、当該排気ポートから遠い側の部位よりも長くなるように設定されていることを特徴とする請求項1記載の内燃機関。
【請求項3】
前記内燃機関は、過給機付きの内燃機関であって、
前記排気バルブの開弁期間と前記吸気バルブの開弁期間とが重なるバルブオーバーラップ期間を変更可能とする可変動弁機構と、
吸気圧力が排気圧力よりも高くなる高負荷運転時に、前記バルブオーバーラップ期間が設定されるように前記可変動弁機構を制御するオーバーラップ期間設定手段と、
を更に備えることを特徴とする請求項1または2記載の内燃機関。
【請求項4】
前記突出壁部の高さは、前記オーバーラップ期間設定手段によって設定される前記バルブオーバーラップ期間の終了時点における前記吸気バルブのリフト量と略同等に設定されていることを特徴とする請求項3記載の内燃機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−72390(P2013−72390A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−212941(P2011−212941)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】