説明

内皮細胞傷害保護作用物質とその利用法

【課題】血管の内壁を覆う内皮細胞は、血管内壁を保護し、様々な情報伝達、免疫応答に関与している。この内皮細胞が傷害を受けると諸器官に重大な傷害を与えるため、これまでに内皮細胞増殖促進剤、内皮保護剤により血管内皮細胞の傷害の修復が試みられてきた。しかしながら、これらの薬剤は持続的な摂取が難しく、内皮細胞の傷害を予防する目的での利用は困難である。従って、現状において、内皮細胞傷害
の予防・治療には、副作用が少なく、持続的に摂取可能で、且つ明確な効果の得られる素材がなく、その創出が求められている。
【解決手段】コンニャクの抽出物を摂取することにより、血管内皮細胞のAktリン酸化、マイトージェン活性化タンパク質リン酸化が促進され、アポトーシスを抑制することができる。また、内皮細胞の遊走を促進することができる。すなわち、本発明は、コンニャク抽出物を含むことを特徴とする、内皮細胞傷害保護作用物質とその利用法を提供することを目的とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管内皮細胞のAktリン酸化作用、マイトージェン活性化タンパク質リン酸化作用、遊走促進作用を特徴とする血管内皮細胞傷害保護作用物質とその利用法に関する。
【背景技術】
【0002】
血管の内壁は内皮と呼ばれる細胞層によって覆われている。内皮は直接血液に接触しており、血液中の有害物質が血管中に進入するのを防ぎ、また、様々な細胞・組織・器官の情報伝達や免疫応答に関与している。内皮細胞が分泌する一酸化炭素(NO)やプロスタサイクリンは血栓の形成の防止、血管壁の炎症の抑制に働き、また、血管平滑筋の増殖を抑えて動脈硬化を防いでいる。生体内の組織に傷害が生じると、血液中のTNF-αなどの因子が内皮細胞に作用し、ICAM-I、VCAM-I、Eセレクチン等の細胞接着因子が発現して白血球の内皮への接着を促進する。血管壁内に進入した白血球は血管壁を横断して傷害を受けた組織に遊走する。また、器官形成などの際には、VEGF(血管内皮細胞増殖因子)などにより血管内皮細胞が活性化され、増殖・遊走して新たな血管が形成される。
炎症反応などにより内皮細胞のアポトーシスが誘導される、または創傷などにより内皮細胞が物理的・化学的傷害を受けることにより内皮に傷害が生じると、内皮によって保護されていた血管内壁が直接血液に接触し、血漿タンパク質の血管外への漏出、血管原性浮腫などが引き起こされ、諸器官に重大な傷害をもたらす。従って、内皮細胞のアポトーシスを防ぎ、遊走活性を高めて血管の修復を促進することが、こうした傷害を予防するために有効であると考えられる。これまでにグルクロン酸・グルコサミン誘導体による内皮細胞増殖促進剤(特許文献1 特開2000−103738)、胆汁アルコール並びにその包含体(特許文献2 特開2000−26303)、ジヒドロピリジン誘導体またはその酸付加物(特許文献3 特開平8—208477)、アデノシン誘導体(特許文献4 特開平6−227610)による内皮保護剤が発明されている。しかしながら、現状において、血管内皮の傷害 の予防・治療には、副作用が少なく、持続的に摂取可能で、且つ明確な効果の得られる素材がなく、その創出が求められている。
【特許文献1】特開2000−103738
【特許文献2】特開2000−26303
【特許文献3】特開平8—208477
【特許文献4】特開平6−227610
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、コンニャク抽出物を含むことを特徴とする、内皮細胞傷害保護作用物質とその利用法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者等は上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、コンニャク芋抽出物が内皮細胞傷害保護作用作用を有し、コンニャク芋抽出物を利用することにより課題解決が可能であることを見出し、本発明を完成した。
本発明は、コンニャク抽出物を含むことを特徴とする、内皮細胞傷害保護作用物質とその利用法を提供することを目的とする。
かくして、本発明は〔1〕コンニャク芋抽出物を含有することを特徴とする内皮細胞傷害保護作用物質。
〔2〕コンニャク芋抽出物の原料が里芋科のAmorphophallus rivieri var. konjac
である〔1〕記載の内皮細胞傷害保護作用物質。
〔3〕コンニャク芋抽出物の原料が飛粉である〔1〕記載の内皮細胞傷害保護作用物質。
〔4〕コンニャク芋抽出物が抽出溶剤として、エタノール、アセトン、ヘキサン、水を用いて調製したものである、〔1〕〜〔3〕記載の内皮細胞傷害保護作用物質。
〔5〕コンニャク芋抽出物が抽出溶剤として、含水でpHを酸性またはアルカリ性に調整したエタノールを用いて調製したものである、〔1〕〜〔3〕記載の内皮細胞傷害保護作用物質。
〔6〕ヒト血管内皮細胞のAktリン酸化作用、マイトージェン活性化タンパク質リン酸化作用、内皮細胞遊走促進作用を特徴とする〔1〕〜〔5〕に記載の内皮細胞傷害保護作用物質。
〔7〕〔1〕〜〔6〕に記載の内皮細胞傷害保護作用物質を有効成分として配合してなる医薬用組成物。
〔8〕〔1〕〜〔6〕に記載の内皮細胞傷害保護作用物質を有効成分として配合してなる食用組成物。
【発明の効果】
【0005】
コンニャク抽出物により、内皮細胞傷害予防物質を得ることができる。またコンニャク抽出物を利用した内皮細胞傷害予防作用を有する医薬品組成物、食品組成物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明の内皮細胞傷害保護作用物質の原料として用いられるコンニャク芋とはおでん等に用いられるコンニャクの原料となる里芋科のAmorphophallus rivieri var. konjacである。コンニャク芋の品種として在来種 (赤茎、白ヅル、平玉、和玉、大玉種など)、支那種
、備中種 (青茎、黒ヅル、長玉、石玉など)があり、育成品種として、はるなくろ(こんにゃく農林1号) 、あかぎおおだま(こんにゃく農林2号) 、みょうぎゆたか(こんにゃく農林3号)
、みやままさり(こんにゃく農林4号)が知られているが、本発明にはいずれの品種のコンニャク芋も使用できる。また、上記の品種のうちの1種類または複数を組み合わせて使用する。使用できる部位は、球茎と生子である。また、栽培または天然のコンニャクを適宜組み合わせて用いることができる。
コンニャク芋からコンニャクの原料となる精粉と副産物となる飛粉が生まれるが、本研究では、両者を単独または組み合わせて使用することができる。本研究のコンニャク芋抽出物の原料として、飛粉が望ましい。
本発明において、内皮細胞傷害保護作用物質を調製するために、原料に溶剤を加えて、有効成分を抽出する。このとき使用する有機溶媒としては、アルコール類、クロロフォルム、アセトン、アセトニトリル、ヘキサン、酢酸エチルなどが挙げられる。なかでも食品製造に使用できるグレードのエタノール、ヘキサン、アセトンが好ましく、より好ましくはエタノールを抽出溶媒として用いる。エタノールやアセトンは水分を含んでいても使用することができ、またこれらは互いに溶け合う組成の範囲内であれば、2種類以上を混合して使用することもできる。エタノールやアセトンは水を加えるとともに、pHを酸性またはアルカリ性に調整して抽出効率を上げることができる。本発明において、抽出原料と溶媒の比率は原料100重量部に対して溶媒を100から2000重量部、好ましくは200から700重量部である。抽出原料と溶媒の比率が原料100重量部に対して溶媒が100重量部未満では、原料全体に溶媒が行きわたらないため、効果的な抽出が行えない。また、抽出原料と溶媒の比率が原料100重量部に対して溶媒が2000重量部を越えても抽出物の収量が増えず、溶媒の消費が増える分コストアップ要因となる。
本発明では、コンニャク芋抽出物中の不純物を除去する目的で、弱アルカリ処理、クロマト処理を行うことができる。また、得られた抽出物は、そのまま、あるいは凍結乾燥法、スプレードライなどの方法を用いて、固体化、粉末化して用いることが出来る。
本発明の内皮細胞傷害保護作用物質は、上記のコンニャク芋抽出物を0.01から50%、好ましくは0.1から30%、より好ましくは1から10%含有する。コンニャク芋抽出物の含有量が0.01%未満では内皮細胞傷害保護作用効果が認められない。また、コンニャク芋抽出物含有量が50%より多くしても、効果の顕著な増加は認められない。
次に、本発明の内皮細胞傷害保護作用物質を配合してなる医薬用組成物および食用組成物について説明する。本発明の内皮細胞傷害保護作用物質を配合してなる製剤は、これをそのまま、あるいは慣用の医薬製剤担体とともに医薬用組成物となし、動物およびヒトに投与することができる。医薬用組成物の剤形としては特に制限されるものではなく、必要に応じて適宜に選択すればよいが、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤等の経口剤、注射剤、坐剤等の非経口剤があげられる。
本発明において錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤としての経口剤は、例えば、デンプン、乳糖、白糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を用いて常法に従って製造される。これらの製剤中の本発明の内皮細胞傷害保護作用物質の配合量は0.01から50%、好ましくは0.1から30%、より好ましくは1から10%含有する。内皮細胞傷害保護作用物質の含有量が0.01%未満では内皮細胞傷害保護作用効果が認められない。また。内皮細胞傷害保護作用物質の含有量が50%より多くしても、効果の顕著な増加は認められない。この種の製剤には本発明の内皮細胞傷害保護作用物質の他に、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤、着色剤、香料等を適宜に使用することができる。
上記の内皮細胞傷害保護作用物質を含有する医薬用組成物は懸濁液、エマルジョン剤、シロップ剤、エリキシル剤としても投与することができ、これらの各種剤形には、矯味矯臭剤、着色剤を含有させてもよい。
本発明の内皮細胞傷害保護作用物質は食用組成物としても利用可能である。すなわち、前述のようにして得られるコンニャク芋抽出物を有効成分としてなる内皮細胞傷害予防食品は、これをそのまま液状、ゲル状あるいは固形状の食品、例えばジュース、清涼飲料、茶、スープ、豆乳、サラダ油、ドレッシング、ヨーグルト、ゼリー、プリン、ふりかけ、育児用粉乳、ケーキミックス、粉末状または液状の乳製品、パン、クッキー等に添加したり、必要に応じてデキストリン、乳糖、澱粉等の賦形剤や香料、色素等とともにペレット、錠剤、顆粒等に加工したり、またゼラチン等で被覆してカプセルに成形加工して健康食品や栄養補助食品等として利用できる。
これらの食品類あるいは食用組成物における本発明の内皮細胞傷害保護作用予防物質の配合量は、当該食品や組成物の種類や状態等により一律に規定しがたいが、約0.01〜50重量%、より好ましくは0.1〜30重量%である。配合量が0.01重量%未満では経口摂取による所望の効果が小さく、50重量%を超えると食品の種類によっては風味を損なったり、当該食品を調製できなくなる場合がある。なお、本発明の内皮細胞傷害保護作用物質は、原料が食品であり、これをそのまま食用に供してもさしつかえない。
本発明の医薬用組成物および食用組成物は、内皮細胞傷害を予防あるいは治癒をねらいとして利用するものであれば、それを使用する上で何ら制限を受けることなく適用される。
次に、本発明を実施例、比較例にてさらに詳しく説明する。
<実験例1>コンニャク芋粗抽出物の調製例:飛粉(荻野商店製)を、温風乾燥機で60℃で48時間乾燥して乾燥飛粉とした。乾燥飛粉1kgを攪拌槽に仕込み、そこにエタノール2Lと水0.4Lを加え、水酸化ナトリウムでpHを11に調整し、常温で5時間撹拌した。その後、濾過により抽出液と残渣を分離した。抽出液をエバポレーターにより濃縮し、茶褐色の粗抽出物250gを得た。
<実験例2>内皮細胞傷害保護作用物質の調製例:上記の粗抽出物10gを、分取用高速液体クロマトグラフィー(ギルソン社製、モデル303)で分画した。カラムとしてデベロシル60−10 φ50mm×500mm(野村化学製)を用い、検出波長は210nm、溶媒はクロロホルム、溶媒流量を50mL/分とした。分画に際し、5分ごとに溶離液を分取し、分取物に含まれる溶媒をロータリーエバポレーターで乾燥して、乾固した分画物を得た。画分各物の内皮細胞傷害保護作用効果を測定し、最も活性が高かった分画物を内皮細胞傷害保護作用物質とした。
【実施例1】
【0007】
ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVECs)のAkt、マイトージェン活性化タンパク質リン酸効果の測定:0.1%ウシ血清アルブミンを含むRPMI1640で4時間処理後のHUVECsを用いた。実験例2の内皮細胞傷害保護作用物質を50μg/mlの濃度で添加し、細胞とともに5分間インキュベートした後、0.5mlのライシスバッファー(50mM
HEPES, pH 7.0, 250 mM NaCl, 0.1% Nonidet P-40, 100 mM NAF, 0.2 mM sodium
orthovanadate, 0.5 mM phenylmethylsufonyl fluoride, 10 mg/ml aprotinin, 10 mg/ml leupeptin,
and 10 mg/ml pepstatin)で酵素を抽出した。この抽出物を通常のSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(10%ゲル)で蛋白を分離し、polyvinyldene
difluoride membraneにトランスファーした後、Akt特異的また、リン酸化Akt特異的抗体、あるいはマイトージェン活性化タンパク質特異的また、リン酸化マイトージェン活性化タンパク質特異的抗体で検出した。結果を表1に示した。
<比較例1>
実施例1と同様の方法で、無添加のAkt、マイトージェン活性化タンパク質リン酸化効果を測定した。結果を表1に示した。
【実施例2】
【0008】
ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVECs)の遊走に対する効果:0.1%ウシ血清アルブミンを含むRPMI1640で4時間処理後のHUVECsを用いた。ブラインドボイデンチャンバー装置を用いて細胞遊走を測定した。8mmの穴のあいたpolyvinylpyrrolidone-free膜で仕切った上層に細胞を入れ、下層に実験例2の内皮細胞傷害保護作用物質を50μg/mlの濃度で添加した。4時間後に下層側に移動した(polyvinylpyrrolidone-free膜の下層側に接着している)細胞数をメタノール、Diff-Quick溶液で染色後、顕微鏡下で測定した。結果を表2に示した。
<比較例2>
実施例2と同様の方法で、無添加のAkt、マイトージェン活性化タンパク質リン酸化効果を測定した。結果を表2に示した。
表1および2の結果から、本発明の内皮細胞傷害保護作用物質がAktあるいはマイトージェン活性化タンパク質のリン酸化、細胞遊走を促進する、優れた作用を有することが明らかである。
【0009】
【表1】

【0010】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンニャク芋抽出物を含有することを特徴とする内皮細胞傷害保護作用物質。
【請求項2】
コンニャク芋抽出物の原料が里芋科のAmorphophallus rivieri var. konjac
である請求項1記載の内皮細胞傷害保護作用物質。
【請求項3】
コンニャク芋抽出物の原料が飛粉である請求項1記載の内皮細胞傷害保護作用物質。
【請求項4】
コンニャク芋抽出物が抽出溶剤として、エタノール、アセトン、ヘキサン、水を用いて調製したものである、請求項1〜3記載の内皮細胞傷害保護作用物質。
【請求項5】
コンニャク芋抽出物が抽出溶剤として、含水でpHを酸性またはアルカリ性に調整したエタノールを用いて調製したものである、請求項1〜3記載の内皮細胞傷害保護作用物質。
【請求項6】
ヒト血管内皮細胞のAktリン酸化作用、マイトージェン活性化タンパク質リン酸化作用、内皮細胞遊走促進作用を特徴とする請求項1〜5に記載の内皮細胞傷害保護作用物質。
【請求項7】
請求項1〜6に記載の内皮細胞傷害保護作用物質を有効成分として配合してなる医薬用組成物。
【請求項8】
請求項1〜6に記載の内皮細胞傷害保護作用物質を有効成分として配合してなる食用組成物。

【公開番号】特開2006−89441(P2006−89441A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−280022(P2004−280022)
【出願日】平成16年9月27日(2004.9.27)
【出願人】(591032703)群馬県 (144)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【Fターム(参考)】