説明

内臓前駆脂肪細胞から内臓脂肪細胞への分化を誘導する方法

本発明は,ヘパリン吸着成分を除去した血清を含む培地中で細胞を培養することを含む,内臓脂肪前駆細胞の分化を誘導する方法および内臓脂肪細胞を培養する方法を提供する。本発明はまた,例えば,血清をヘパリンアフィニティーカラムに適用し,このことによりヘパリン吸着成分をヘパリンに吸着させることによりヘパリン吸着成分を除去する方法を提供する。本発明の方法により培養された内臓脂肪細胞は,脂肪細胞の分化,成長および代謝の研究に,糖尿病,高脂血症,高血圧症および動脈硬化等の疾病の発症および進行のメカニズムの解明に,およびそのような疾病を予防および治療するための薬剤の開発に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連する出願
本出願は,日本特許出願2005−171219(2005年6月10日出願)に基づく優先権を主張しており,この内容を本明細書の一部としてここに引用する。
【0002】
発明の分野
本発明は,内臓脂肪細胞を培養する方法,内臓脂肪前駆細胞の分化を誘導する方法およびこれらの方法に用いる培地に関する。
【背景技術】
【0003】
哺乳動物の脂肪細胞には,大きく分けて以下の4つのタイプがある:生体系の熱産生機能を有する褐色脂肪細胞,エネルギーを貯蔵する機能を有する白色脂肪細胞,骨髄に存在するがその役割はまだよく解明されていない骨髄脂肪細胞,および腹腔に存在する内臓脂肪細胞。これらの脂肪細胞のうち,皮下に存在する白色脂肪細胞については,脂肪細胞分化誘導方法や分化抑制物質についての研究が広く行われている(特開2000−157260および特開2002−138045(その全体を本明細書の一部としてここに引用する)。
【0004】
内臓脂肪細胞は,いわゆる生活習慣病である糖尿病,高脂血症,高血圧および動脈硬化との関連性が示唆されている(Anat Rec Part A 272A:398-402,2003,およびJ.Vet.Med.Sci.63(1):17−23,2001(すべてその全体を本明細書の一部としてここに引用する)。しかし,内臓脂肪細胞の分化や代謝に関する研究はほとんど行われていない。
【0005】
【特許文献1】特開2000−157260
【特許文献2】特開2002−138045
【非特許文献1】Anat Rec Part A 272A:398-402,2003,
【非特許文献2】J.Vet.Med.Sci.63(1):17−23,2001
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の概要
本発明は,内臓脂肪前駆細胞の内臓脂肪細胞への分化を誘導する方法を提供する。この方法は,内臓脂肪前駆細胞を取得し,内臓脂肪前駆細胞をヘパリン吸着成分を除去した血清を含有する培地で培養することを特徴とする。血清は,任意の慣用の血清のいずれでもよく,例えば,ウシ新生児血清またはウシ胎児血清等のウシ血清が挙げられる。
【0007】
本発明は,血清をヘパリンを固定化した担体と接触させ,ヘパリン吸着成分をヘパリンに吸着させることにより得られる,ヘパリン吸着成分を除去した血清を提供する。1つの態様においては,ヘパリンを固定化した担体はヘパリンアフィニティーカラムである。
【0008】
本発明はまた,内臓脂肪前駆細胞から内臓脂肪細胞への分化を誘導するための培地,および内臓脂肪細胞を培養するための培地を提供し,この培地はヘパリン吸着成分を除去した血清を含む。
【0009】
さらに,本発明は,内臓脂肪前駆細胞から内臓脂肪細胞への分化を誘導するための培地,および内臓脂肪細胞を培養するための培地を調製する方法を提供する。この方法は,ヘパリンを固定化した担体を用意し,血清をヘパリンを固定化した担体と接触させ,ヘパリン吸着成分を除去した血清を取得し,そしてこの血清を細胞培養用基本培地と混合することを含む。
【0010】
本発明はまた,内臓脂肪細胞を培養する方法を提供する。別の観点においては,本発明は,本発明の方法により培養した内臓脂肪細胞を提供する。
【0011】
本発明により提供される培地を用いることにより,内臓脂肪前駆細胞を分化させることができる。さらに,本発明の方法により分化させたおよび/または培養した内臓脂肪細胞を用いて,脂肪細胞の分化,成長,および/または代謝に影響を与える薬剤を開発することができ,このことにより内臓脂肪細胞に関連する疾病,例えば,糖尿病,高脂血症,高血圧症および動脈硬化を予防または治療するための薬剤を開発することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
発明の詳細な説明
内臓脂肪細胞,および内臓脂肪細胞といわゆる生活習慣病である糖尿病,高脂血症,高血圧および動脈硬化との関連性に対して興味が持たれているにもかかわらず,これまで内臓脂肪細胞に関する研究はほとんど行われていない。多くの研究が行われてこなかった理由の1つは,内臓脂肪細胞を安定して維持する初代細胞培養系が存在せず,分化誘導系が確立されていなかったためであると考えられる。
【0013】
本発明者らは先に,ラット腸間膜から内臓脂肪前駆細胞を採取して,ミセル化した油脂を加えた培地で培養することにより,内臓脂肪細胞を効率よく分化誘導しうることを見出した。しかし,内臓脂肪の採取の条件や培養液に加える血清のロットなどによって,分化の程度や増殖速度にばらつきが見られた。このため,本発明者らは,安定して内臓脂肪細胞を増殖させ,分化誘導させる方法を探究した。
【0014】
本発明者らは,血清中に含まれる1またはそれ以上の成分が内臓脂肪前駆細胞から内臓脂肪細胞への分化を阻害することを発見し,この成分を除去した血清を含む培地を用いることにより内臓脂肪細胞への分化を誘導しうることを見出した。すなわち,本発明は,内臓脂肪前駆細胞を取得し,内臓脂肪前駆細胞をヘパリン吸着成分を除去した血清を含む培地中で培養することにより,内臓脂肪前駆細胞の内臓脂肪細胞への分化を誘導する方法を提供する。ヘパリン吸着成分を除去した血清を含む培地はまた,そのような内臓脂肪細胞も培養にも用いることができる。
【0015】
本明細書において用いる場合,"ヘパリン吸着成分を除去した血清"との用語は,ヘパリンに吸着しうる成分を除去するプロセスにより得られる血清を意味する。好ましくは50%,より好ましくは60%,70%,80%または90%,最も好ましくは100%のヘパリン吸着成分が除去されている。本明細書において用いる場合,“ヘパリン吸着成分”との用語は,血清とヘパリンとを0〜0.15MのNaClを含む緩衝液(例えば0.02Mリン酸緩衝液,pH7.4)中で接触させたときにヘパリンに結合しうる,血清中の1またはそれ以上の物質を意味する。ヘパリンとは,当該技術分野において知られるように,1,4−位で結合したD−グルコサミン残基とL−イズロン酸残基からなる二糖単位の反復構造を骨格構造とするムコ多糖類の総称である。ヘパリンは多数の硫酸基をもつ不均一な構造を有する。ヘパリンは血液凝固阻害剤として広く利用されている。また,種々の蛋白質と結合しうる性質を利用して,蛋白質の分離や相互作用の解析の研究に用いられている。
【0016】
下記の実施例において示されるように,本発明においては,このヘパリン吸着成分中に内臓脂肪細胞の分化を阻害しうる物質が含まれていることが見出された。したがって,本発明は,内臓脂肪前駆細胞を分化させる方法,および分化した内臓脂肪細胞をヘパリン吸着成分を除去した培地中で培養する方法を提供する。
【0017】
本発明において用いる血清は,細胞培養用に市販されているいずれの血清でもよい。例えば,ウシ血清(CS),ウシ胎児血清(FCS)またはウシ新生児血清(NCS)を用いることができる。1つの態様においては新生児血清を用いる。新生児血清とは,供給元によっても異なるが,一般には生後1週間〜1年のウシから得た血清である。
【0018】
血清からヘパリン吸着成分を除去するためには,当該技術分野において知られる任意の手段により血清をヘパリンと接触させる。1つの態様においては,ヘパリンを固定化した水不溶性の担体を用いる。ヘパリンを固定化する担体としては,例えば,ポリスチレン,ポリアクリルアミド,セルロースおよびその誘導体など,当該技術分野において慣用的に用いられている任意の担体を用いることができる。1つの態様においては,本発明では,ヘパリンを固定化担体をカラムに充填したヘパリンアフィニティーカラムを用いる。蛋白質の分離または分析用に,種々の容量の各種のヘパリンアフィニティーカラムが市販されており,本発明の方法においては,これらのカラムのいずれをも用いることができる。
【0019】
1つの態様においては,固定化したヘパリンに血清を導入する。固定化ヘパリンから血清を分離することにより,ヘパリン吸着成分が除去されて,ヘパリン吸着成分を除去した血清が得られる。1つの態様においては,ヘパリン吸着成分は約0.15MNaClの慣用の塩濃度でヘパリンに吸着され,約0.5MNaClの塩濃度で溶出される。
【0020】
このような態様においては,例えば,ヘパリンカラムを予め血清と同じ塩濃度(一般に約0.15MNaCl)の慣用のバッファ(例えばPBS)で平衡化する。血清をカラムに負荷し,同じ塩濃度のバッファを適用して,素通り画分,すなわちヘパリン吸着成分を除去した血清を回収する。次に,例えば吸着された成分を研究するためには,約0.5MNaClの塩濃度を有するバッファを適用することにより,ヘパリン吸着成分をカラムから溶出することができる。
【0021】
上述のようにしてヘパリン吸着成分を除去した血清が得られると,これは例えば限外濾過により濃縮してもよく,これを任意の慣用の細胞培養用基本培地と混合する。そのような細胞培養用基本培地としては,例えば,αMEM,F−12,SF02,PRMI1640,opti−MEMなどの任意の培地を用いることができる。ヘパリンで処理した血清は,約1%〜約30%,好ましくは5%,10%,15%または20%の濃度で基本培地に加えることができる。
【0022】
別の態様においては,本発明の培地にさらに油脂を添加する。油脂としては,大豆油,ヤシ油などの植物油脂,豚脂,牛脂などの動物油脂,およびパラフィンなどの鉱物油のいずれを用いてもよい。1つの態様においては,植物由来の油脂,例えば,構成脂肪酸として,パルミチン酸,ステアリン酸,オレイン酸,リノール酸およびリノレイン酸を豊富に含む油脂を用いる。油脂はミセル化して培地に添加することができる。ミセル化油脂は,油脂と卵黄レシチンなどの慣用の乳化剤とを水性溶液中で激しく撹拌するか超音波処理することにより調製することができる。
【0023】
さらに別の態様においては,本発明の培地は,脂肪細胞分化促進剤として知られているインドメタシン,デキサメタゾン,PPAR−γアゴニストを含まないか含むとしてもわずかしか含まない。これらの物質が培地中に存在すると,脂肪細胞の分化の過程,ならびに分化阻害剤または分化誘導剤の効果の妨げとなりうるからである。
【0024】
内臓脂肪細胞の前駆細胞は,腸間膜脂肪組織,大網膜脂肪組織,精巣上体周囲脂肪組織,腎周囲脂肪組織,子宮周囲脂肪組織などの組織から取得することができる。一例としては,ラットから腹腔内の腸間膜脂肪を摘出し,洗浄し,鋏で細断して緩衝液中に分散させた後,コラゲナーゼまたは他の蛋白質分解酵素,例えばディスパーゼまたはトリプシンで処理する。得られた混合物を遠心分離して浮遊細胞を除去すると,沈殿物には内臓脂肪前駆細胞が含まれる。この内臓脂肪前駆細胞を,細胞培養用の容器中で,上述のヘパリン吸着成分を除去した血清を含む本発明の培地に約0.1〜5.0x10細胞/mlで播種する。本発明の培地を含む細胞培養容器中で内臓脂肪前駆細胞を培養すると,4〜10日間で内臓脂肪細胞への分化が誘導される。
【0025】
内臓脂肪前駆細胞を培養するためには,細胞培養用に慣用的に使用される任意の容器,例えば,ディッシュ,フラスコ,ローラーボトルなどを用いることができる。培養は,通常の哺乳動物細胞の培養条件下で,例えば,37℃,5%COで行うことができる。培地は毎日または数日に1回交換する。このようにして,内臓脂肪細胞の初代培養物を得ることができ,分化した状態で維持することができる。
【0026】
内臓脂肪細胞への分化は,細胞を肉眼または顕微鏡下で観察して,例えば細胞中の脂肪球の存在を調べることにより適宜モニターすることができる。また,細胞質のトリグリセリドの定量,脂肪合成活性(GPDH)の測定,PPAR−γのmRNA量の測定などによりモニターすることもできる。これらの測定方法は当該技術分野において確立されている(例えば,Kozak,L.P.,and Jensen,J.T.(1974) J.Biol.Chem.249,7775−7781(その全体を本明細書の一部としてここに引用する)を参照)。
【0027】
上述の説明は,当業者に本発明をどのようにして製造しどのようにして使用するかの完全な開示を適用することを意図しており,かかる記載は本発明者らが発明であると考える範囲を制限するものではない。さらに,特定の態様を参照して本発明を説明したが,当業者は,種々の変更をなすことができること,および本発明の真の精神および範囲から逸脱することなく均等物で置き換えられることを理解するであろう。さらに,特定の状況,物質,組成物,方法,工程に適合させるために本発明の目的,精神および範囲内で多くの改変をなすことができる。そのようなすべての改変は,特許請求の範囲の範囲内であることが意図される。さらに,明細書には本発明のある種の利点が記述されるが,これらの利点が特許請求の範囲に含まれない場合には,これらはそれ自体本発明の限定であると考えられる。
【0028】
範囲が記載される場合には,そうではないことが文脈から明確でない限り,本発明はその範囲の上限と下限の間の途中の各値を包含する。さらに,特に標準的な範囲から除かれない限り,本発明はまた,範囲の上限および下限のいずれかまたは両方を含まない範囲をも包含する。また,特許における“a”および“the”の通常の意味にしたがって,例えば,“a”細胞または“the”細胞と称される場合には,1またはそれ以上の細胞が包含される。さらに,特に明記しない限り,明細書および特許請求の範囲において用いられる成分の量,反応条件等を表現するすべての数値は,すべての場合“約”との用語により修飾されていると理解すべきである。すなわち,異なるように示されない限り,明細書および特許請求の範囲に記載される数値パラメータは,それぞれの試験および測定において見いだされる標準偏差にしたがって変わりうるおよその値である。少なくとも,特許請求の範囲に記載される各数値パラメータは,記載される有効桁の数値に鑑みて,かつ通常の丸め技術を適用することにより解釈されるべきである。
【0029】
本明細書は,引用される参考文献に鑑みて最も完全に理解され,これらはすべてその全体を本明細書の一部としてここに引用する。また,異なるように定義されない限り,本明細書において用いられるすべての技術用語および科学用語の意味は,本発明の属する技術分野の当業者により一般に理解されている意味である。
【0030】
以下に実施例を参照して本発明をより詳細に説明するが,本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。これらの実施例の記載は,以下の実験が実施されたすべてのまたは唯一の実験であることを意味するものではない。用いられる数値(例えば,量,温度など)に関しては正確であることを確実にするために努力しているが,ある程度の実験誤差および偏差が含まれるはずである。
【実施例】
【0031】
実施例1
3−5週齢の雄スプラグドーリーラット(平均体重100g)から腹腔内腸間膜脂肪組織を摘出し,ハンクス平衡塩溶液で3回洗浄した。脂肪組織を鋏で細断し,0.2%コラゲナーゼおよび1.0%ウシアルブミンを含むDMEM/F−12培地中で,37℃で40分間インキュベートした。次に,このコラゲナーゼ処理組織懸濁液を600μmのメッシュを通して濾過し,ハンクス平衡塩溶液を加えた。この混合物を800xgで10分間遠心分離し,沈殿物をハンクス平衡塩溶液で3回,DMEM/F−12培地で1回洗浄し,次に100μmのメッシュを通して濾過した。
【0032】
PBS(0.15MNaCl)で予め平衡化した320mlのヘパリンカラム(ヘパリンアガロース,ファルマシア社製)に250mlのNCSをチャージし,PBSを流して,素通り画分を回収した。これをヘパリン吸着成分を除去したNCSとした。次に,0.5MNaClを含むPBSをカラムに流して,ヘパリン吸着画分を溶出させた(図1)。
【0033】
ヘパリン吸着成分を除去したNCS150mlを分子量10000カットの限外ろ過器により100mlに濃縮し,濃縮物を孔径0.2μmのフィルターを通して滅菌した。滅菌濃縮物のうち20mlをDMEM/F−12培地180mlに加えて,培地を調製した。対照として,ヘパリンカラムで処理していないNCS20mlをDMEM/F−12培地180mlに加えた培地を調製した。
【0034】
上述のようにして腹腔内腸間膜脂肪から調製した細胞懸濁液を,0.5x10細胞/cmでディッシュに播種し,ヘパリン吸着成分を除去した血清を含む培地または対照培地中で,37℃,5%COで培養した。培地は毎日または2日に1回交換した。
【0035】
4日間培養した後,顕微鏡下で細胞を観察し,細胞質中の脂肪空胞の存在を調べることにより,脂肪細胞の分化の形態学的評価を行った。細胞が生成した脂質の定量はoil−redO染色により行った。一定数の培養細胞を20%ホルムアルデヒドにより固定し,oil−redOで染色した。細胞をPBSで洗浄した後,イソプロパノールを加えて染料を溶出し,540nmの吸収により染料の濃度を測定した。
【0036】
ヘパリン吸着成分を除去した血清を含む培地を用いた場合には,内臓脂肪前駆細胞から内臓脂肪細胞への分化が認められた。一方,対照培地中ではわずかの細胞しか分化せず,ほとんどの細胞は内臓脂肪前駆細胞のままであった。すなわち,血清のヘパリン吸着画分中に内臓脂肪細胞への分化を阻害する因子が含まれることが示唆された。
【0037】
実施例2
ウシ新生児血清(NCS)のかわりにウシ胎児血清(FCS)を用いて,実施例1と同様にヘパリン吸着成分を除去した血清を調製した。この画分を,DMEM/F−12培地に加えて,この培地で内臓脂肪前駆細胞を培養した。その結果,実施例1と同様に,内臓脂肪前駆細胞から内臓脂肪細胞への分化が認められた。
【0038】
実施例3
実施例1で得られた,0.5MNaClで溶出されたヘパリン吸着画分を回収し,0.02M第二燐酸ナトリウム(pH7.4)を含む緩衝液で平衡化した。この溶液10mlを0.02Mリン酸緩衝液(pH7.4)で平衡化した容量50mlのヘパリンカラムに通した。カラム流速は15ml/minに設定し,検出は280nmの吸収により行った。素通り画分を回収した後,カラムを0.02Mリン酸緩衝液(pH7.4)で洗浄し,次に,0−0.5MNaCl/0.02Mリン酸緩衝液(pH7.4)の直線濃度勾配により溶出させた。図2にクロマトグラムを示す。
【0039】
130分から170分に溶出された画分(図中,←→で示される画分)を回収し,脱塩した。20mlをDMEM/F−12培地180mlに加えて,実施例1と同様にして内臓脂肪細胞の分化に与える影響を調べた。その結果,この画分は内臓脂肪細胞の分化に対して強い阻害活性を有することが見出された。
【0040】
以上の結果から,血清のヘパリン吸着成分中に内臓脂肪細胞の分化を阻害する因子が存在すること,および,ヘパリン吸着成分を除去した血清を用いて内臓脂肪前駆細胞を培養することにより,内臓脂肪細胞の分化を誘導しうることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明により提供される培地は,内臓脂肪前駆細胞の分化を可能とする。さらに,本発明の方法により分化させたおよび/または培養した内臓脂肪細胞を用いて,脂肪細胞の分化,成長および/または代謝に影響を与える薬剤の開発が可能であり,このことにより,内臓脂肪細胞に関連する疾病,例えば,糖尿病,高脂血症,高血圧症および動脈硬化を予防または治療する薬剤の開発が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】図1は,NCSをヘパリンアフィニティーカラムで分画したときのクロマトグラムを示す。
【図2】図2は,NCSのヘパリン吸着画分をヘパリンアフィニティーカラムで塩濃度勾配を用いて分画したときのクロマトグラムを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内臓脂肪前駆細胞の内臓脂肪細胞への分化を誘導する方法であって,ヘパリン吸着成分を除去した血清を含有する培地で内臓脂肪前駆細胞を培養することを特徴とする方法。
【請求項2】
内臓脂肪細胞を培養する方法であって,ヘパリン吸着成分を除去した血清を含有する培地で内臓脂肪細胞を培養することを特徴とする方法。
【請求項3】
血清がウシ新生児血清である,請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
血清がウシ胎児血清である,請求項1または2記載の方法。
【請求項5】
ヘパリン吸着成分の除去が,ヘパリンを固定化した担体に血清を接触させ,このことによりヘパリン吸着成分をヘパリンに吸着させることにより行われる,請求項1−4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
ヘパリンを固定化した担体がヘパリンアフィニティーカラムである,請求項5記載の方法。
【請求項7】
ヘパリン吸着成分が,約0.15MNaClの塩濃度でヘパリンに吸着され,約0.5MNaClの塩濃度で溶出される物質である,請求項5記載の方法。
【請求項8】
請求項1−7のいずれかに記載の方法により得られる内臓脂肪細胞。
【請求項9】
ヘパリン吸着成分を除去した血清を含む,内臓脂肪前駆細胞から内臓脂肪細胞への分化を誘導するための培地。
【請求項10】
ヘパリン吸着成分を除去した血清を含む,内臓脂肪細胞を培養するための培地。
【請求項11】
血清がウシ新生児血清である,請求項9または10記載の培地。
【請求項12】
血清がウシ胎児血清である,請求項9または10記載の培地。
【請求項13】
ヘパリン吸着成分の除去が,ヘパリンを固定化した担体に血清を接触させ,このことによりヘパリン吸着成分をヘパリンに吸着させることにより行われる,請求項9−12のいずれかに記載の培地。
【請求項14】
ヘパリンを固定化した担体がヘパリンアフィニティーカラムである,請求項13記載の培地。
【請求項15】
ヘパリン吸着成分が,約0.15MNaClの塩濃度でヘパリンに吸着され,約0.5MNaClの塩濃度で溶出される物質である,請求項13記載の培地。
【請求項16】
内臓脂肪前駆細胞から内臓脂肪細胞への分化を誘導するための培地を製造する方法であって,ヘパリンを固定化した担体に血清を接触させ,ヘパリン吸着成分を除去した血清を回収し,そして該血清を細胞培養用基本培地と混合することを特徴とする方法。
【請求項17】
内臓脂肪細胞を培養するための培地を製造する方法であって,ヘパリンを固定化した担体に血清を接触させ,ヘパリン吸着成分を除去した血清を回収し,そして該血清を細胞培養用基本培地と混合することを特徴とする方法。
【請求項18】
血清がウシ新生児血清である,請求項16または17記載の方法。
【請求項19】
血清がウシ胎児血清である,請求項16または17記載の方法。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公表番号】特表2008−545373(P2008−545373A)
【公表日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−556443(P2007−556443)
【出願日】平成18年6月12日(2006.6.12)
【国際出願番号】PCT/JP2006/312197
【国際公開番号】WO2006/132447
【国際公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【出願人】(505219093)株式会社プライマリーセル (1)
【Fターム(参考)】