説明

内装素材の塗装方法

【課題】簡素かつ迅速な施工手法でもって低コストで、内装素材の本来の視覚的特徴を喪失させることなく、内装素材の美観を有効に高めることができ、とくに天井用内装素材についてはその支持構造に過大な負荷がかかるのを防止することができる手段を提供する。
【解決手段】本発明に係る内装素材の塗装方法においては、まず棒状の柄部2と、該柄部2の先端部にユニバーサルジョイント3を介して連結された平板状ないしは蒲鉾状の基部4と、該基部4の表面部に取り付けられ密集して立毛する立毛糸を有するモケットからなる塗布部5とを備えた塗布具を準備する。次に、塗布具1の塗布部5表面に、フレックスエマルジョンペイントを含む水性塗料を供給する。さらに、塗布具1を、建物の壁用内装素材及び/又は天井用内装素材の表面に押し付けて摺動させ、水性塗料を壁用内装素材及び/又は天井用内装素材の表面に塗布し、均一で非常に薄い塗膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の内壁に張り付けられた壁用内装素材及び/又は建物の天井に張り付けられた天井用内装素材に塗装を施してその美観を回復させるようにした内装素材の塗装方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、建物の内壁には、内装クロス(例えば、ビニルクロス)や壁紙などの壁用内装素材を用いて内装が施されるが、このような壁用内装素材は、煙草の煙、油煙、スス、ほこり、かび等により汚れて、その美観が次第に損なわれてゆく。そして、壁用内装素材の美観がある限度を超えて損なわれたときには、通常、壁用内装素材を壁面から剥がして新しい壁用内装素材を張るといった対応がなされる。しかしながら、このように壁用内装素材を張り換える場合、張り換え工事に長時間を要するとともに、そのコストが非常に高くつく。また、剥がした壁用内装素材を焼却等により処理しなければならないので、環境に負荷をかける。
【0003】
そこで、本願出願人らは、すでに、壁用内装素材等の表面に、アルカリ性無機洗浄剤と汚れ分解酵素と第1漂白剤とを含む洗浄処理液を散布した上で物理的洗浄処理を施し、壁用内装素材等の表面に水濯ぎ処理を施した上で水溶性溶剤と第2漂白剤とを散布し、さらに壁用内装素材等に物理的染み抜き処理を施した上で洗浄することにより壁用内装素材等の美観を回復させるようにした内装素材の再生方法を提案している(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−176390号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された内装素材の再生方法では、壁用内装素材の特定の汚れ、例えば煙草のヤニによる汚れについては、最終的にはほぼ元の状態に復元することはできるものの、その状態にまで戻すには、漂白にかなりの時間を要するといった問題がある。また、極めて強い汚れの場合、作業員の熟練度(スキル)が低いときには、壁用内装素材の表面に斑模様が残るなどして、再生された壁用内装素材の仕上がりにばらつきが生じることがある。このため、未熟練の作業員の再教育ないしは再訓練にかなりの時間を要するといった問題がある。さらに、壁用内装素材が、煙草のヤニ等の汚れに起因するのではなく、壁用内装素材自体の変質等の自然劣化に起因して美観が損なわれた場合、特許文献1に開示された壁用内装素材の再生方法では、元の美観を復元することはできないといった問題がある。
【0006】
また、建物内の壁用内装素材が煙草の煙、油煙、スス、ほこり、かび等により汚れる場合は、通常、天井に張り付けられた石膏ボートやジプトーン(登録商標)などの天井用内装素材もほぼ同様に汚れてその美観が次第に損なわれてゆく。したがって、壁用内装素材の美観を回復させただけでは、建物の室内全体の美観を十分に回復させることができない。しかしながら、石膏ボートあるいはジプトーン(登録商標)等の天井用内装素材は、少なくとも特許文献1に開示された壁用内装素材の再生方法では、その汚れを除去して美観を回復させることは困難である。また、このような天井用内装素材の洗浄自体は可能であるが、洗浄を行う場合、洗浄液の飛散に対する養生にかなりの手間がかかる。
【0007】
そこで、壁用内装素材又は天井用内装素材に塗料を塗布して、その美観を高めるといった対応が考えられる。しかしながら、当該技術分野で用いられている従来の塗料の塗装手法、例えば、塗装ローラ、塗装用刷毛、コテ刷毛あるいは塗装スプレーを用いる普通の塗装手法では、壁用内装素材又は天井用内装素材の表面に形成される塗膜が比較的厚くかつ不均一なものとなるので、壁用内装素材又は天井用内装素材の美観を十分に高めることができず、また内装素材の本来の視覚的特徴を喪失させるといった問題がある。また、塗装にかなりの時間を要し、また施工時に養生ないしはマスキングを必要とするので、その費用が高くつくといった問題がある。
【0008】
なお、天井用内装素材の場合、その表面に厚い塗膜が形成されると、天井用内装素材の吸音効果が損なわれるといった問題がある。また、このような塗装は、通常、多年にわたって適当な周期で複数回繰り返されるが、1回の塗り換え塗装で形成される塗膜が厚いと、塗り換えが可能な回数が少なくなるといった問題もある。
【0009】
本発明は、上記従来の問題を解決するためになされたものであって、建物の内壁に張り付けられた壁用内装用素材あるいは天井に張り付けられた天井用内装素材の美観が損なわれたときに、簡便かつ迅速な施工手法でもって低コストで、内装素材の本来の視覚的特徴を喪失させることなく、壁用内装素材及び/又は天井用内装素材の美観を有効に高めることができ、とくに天井用内装素材についてはその吸音効果の低下を防止することができる手段を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するためになされた本発明に係る内装素材の塗装方法は、建物の内壁に張り付けられた壁用内装素材又は建物の天井に張り付けられた天井用内装素材に塗装を施してその美観を回復させるものである。この内装素材の塗装方法においては、まず、棒状の柄部と、該柄部の先端部に連結具(例えばユニバーサルジョイント)を介して連結された平坦な表面部を有する基部と、該基部の表面部に取り付けられ密集して立毛する多数の立毛糸(パイル)を有するモケットを用いた塗布部とを備えた塗布具を準備するとともに、エマルジョンペイント好ましくはフレックスエマルジョンペイントを含む水性塗料を準備ないしは調製する。次に、塗布具の塗布部の表面に、この水性塗料を供給する。この後、塗布部を建物の壁用内装素材又は天井用内装素材の表面に押し付けて塗布具を摺動させ、水性塗料を壁用内装素材又は天井用内装素材の表面に塗布する。なお、フレックスエマルジョンペイントとしては、例えば合成樹脂エマルジョンペイント(例えばアクリル系)を用いることができる。
【0011】
本発明に係る内装素材の塗装方法においては、壁用内装素材に水性塗料を塗布する前に、壁用内装素材を洗浄するのが好ましい。壁用内装素材又は天井用内装素材に水性塗料を塗布しているときに、該塗布を一時的に中断して上記塗布部の表面に水を供給するのが好ましい。
【0012】
本発明に係る内装素材の塗装方法においては、塗布部として、単一又は複数の溝部が形成されている塗布部を用い、溝部に水性塗料を供給するのが好ましい。この場合、複数の溝部が形成されている塗布部を用い、各溝部に異なる色の水性塗料を供給し、各水性塗料を壁用内装素材又は天井用内装素材の表面に塗布する際に内装素材上で混合させることにより塗装の色を調整してもよい。また、長方形を成すように伸びる単一の溝部が形成されている塗布部を用い、溝部の長方形の少なくとも2つ(2つ、3つ又は4つ)の辺にそれぞれ異なる色の水性塗料を供給し、各水性塗料を壁用内装素材又は天井用内装素材の表面に塗布する際に内装素材上で混合させることにより塗装の色を調整してもよい。
【0013】
本発明に係る内装素材の塗装方法においては、筒状の塗料供給口(ノズル)を備えた密封式の塗料容器(ボトル)を用いて、溝部に水性塗料を供給するのが好ましい。また、塗布部の表面に水性塗料を供給した後、水性塗料を壁用内装素材又は天井用内装素材の表面に塗布する前に、塗布部を、塗装を施すべき壁用内装素材又は天井用内装素材以外の平面状の物体の表面に押し付けて塗布具を摺動させ、水性塗料を塗布部の全体に分散させ又は引き延ばすのが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る内装素材の塗装方法によれば、簡素な構造の塗布具を用いて、壁用内装素材及び/又は天井用内装素材の表面に、均一で非常に薄い水性塗料の塗膜を形成することができる。このため、建物の内壁に張り付けられた壁用内装用素材あるいは天井に張り付けられた天井用内装素材の美観が損なわれたときに、簡便かつ迅速な施工手法でもって低コストで、内装素材の本来の視覚的特徴を喪失させることなく、壁用内装素材及び/又は天井用内装素材の美観を有効に高めることができ、とくに天井用内装素材については、塗装に起因する吸音効果の低下を防止することができ、また塗り換えが可能な回数を多くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る内装素材の塗装方法の概要を示すフローチャートである。
【図2】本発明に係る内装素材の塗装方法に用いられる塗布具の斜視図である。
【図3】塗布具を構成する塗布部の一例を示す斜視図である。
【図4】塗布具を構成する塗布部のもう1つの例を示す斜視図である。
【図5】塗布具に水性塗料を供給する塗料容器の立面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付の図面を参照しつつ、本発明の典型的な実施形態に係る内装素材の塗装方法を具体的に説明する。本発明に係る内装素材の塗装方法は、建物の内壁に張り付けられた壁用内装素材及び/又は建物の天井に張り付けられた天井用内装素材に塗装を施してその美観を回復させるものである。なお、この実施形態は、本発明の具体例であり、本発明がこの実施形態に限定されるものでないことはもちろんである。
【0017】
図1に示すように、本発明に係る内装素材の塗装方法においては、まず、壁用内装素材及び/又は天井用内装素材に塗装を施すための塗布具1(図2参照)を準備するととともに、エマルジョンペイント好ましくはフレックスエマルジョンペイントを含む水性塗料を準備ないしは調製する(ステップS1)。
【0018】
なお、本明細書において「フレックスエマルジョンペイント」とは、とくに内装クロス(例えば、ビニルクロス)、壁紙、石膏ボード、ジプトーン(登録商標)等の内装素材への付着性を高めた合成樹脂エマルジョンペイント(例えば、アクリル系)であり、内装素材の表面に非常に薄く塗布した場合でも、内装素材の表面に塗膜が途切れた部分を形成しないものである。このようなフレックスエマルジョンペイントとしては、例えば大日本塗料株式会社によって販売されている「ダイニットFEP(登録商標)」及び「ダイニットFEP−II(登録商標)」、あるいはエスケー化研株式会社によって販売されている「エコフレッシュ(登録商標)」などが挙げられる。
【0019】
図2に示すように、塗布具1は、細長い棒状の柄部2(ロッド部材)と、ユニバーサルジョイント3(連結具)を介して柄部2に連結された基部4と、基部4に取り付けられた塗布部5とを備えている。基部5はおおむね板状ないしは蒲鉾状のものであり、柄部2と連結される側とは反対側の広がり面(以下「表面部」という。)は平坦な長方形の平面である。そして、基部5の表面部に、該表面部のほぼ全面を覆うように塗布部5が取り付けられている。
【0020】
図3に示すように、塗布部5は広がり面が長方形のやや厚手(例えば、2〜5mm)の下地シート6と、この下地シート6の広がり面に取り付けられたモケット7とで構成されている。下地シート6は、例えばポリエステルあるいはナイロンのシートで形成することができる。モケット7は、パイル織物であり、例えば長さが5〜10mmのポリエステル繊維やナイロン繊維などの化学繊維からなる多数のパイル(切毛又は輪奈)ないしは立毛糸を、密集させて下地シート6の上に立毛させて取り付けたものである。
【0021】
なお、このような塗布部5としては、例えば土井謙産業株式会社によって販売されている「アプソンモケットモップ」などを用いることができる。また、塗布部5で用いることができるモケットとしては、例えば特開2009−240541号公報に開示されたモップ用基布、あるいは特開2009−256813号公報に開示されたモケット織物を用いてもよい。
【0022】
そして、広がり面が長方形のモケット7には、この長方形の長手方向に互いに平行に伸びる2つの直線状の溝部8、9が設けられている。後で説明するように、壁用内装素材及び/又は天井用内装素材に塗装を施す際には、これらの溝部8、9に水性塗料が供給される。なお、溝部の数は2つに限定される訳ではなく、1つであってもよく、また3つ以上であってもよい。
【0023】
また図4に示すように、広がり面が長方形のモケット7に、長方形を成すように伸びる単一の溝部10が形成された塗布具1を用いてもよい。なお、前記のように溝部8、9、10を設けることは好ましいことであるが、溝部を省いてもよい。このように溝部を有しないものも本発明の範囲内である。
【0024】
塗布具1においては、基部4は、ユニバーサルジョイント3を介して柄部2に連結されているので、柄部2に対する連結姿勢ないし連結角度を3次元的に自在に変化させることができる。すなわち、前後左右に自在に首振り動作をすることができる。したがって、柄部2を把持している作業者は、塗布具1を、壁に張り付けられた壁用内装素材(図示せず)又は天井に張り付けられた壁用内装素材に沿って所望の方向(例えば、天井では前後左右、壁では上下左右)に移動させる際に、内装素材の表面の任意の部位に塗布部5を容易に当接させることができる。なお、ユニバーサルジョイント3に代えて、一方向のみに首振り動作をすることができる連結具を用いてもよい。また、柄部2はその長さを自在に調節することができる(伸縮自在な)二重管式のものであるのが好ましい。
【0025】
塗布具1及び水性塗料を準備した後、塗布具1の塗布部5に、適量(例えば、10〜50cc)の水性塗料を供給する(ステップS2)。具体的には、図3に示すようなモケット7の2つの直線状の溝部8、9に水性塗料を供給し、あるいは図4に示すような長方形の溝部10に水性塗料を供給する。なお、水性塗料は、モケット7の溝部8、9、10以外の部分に供給してもよい。水性塗料は、例えば図5に示すような細長い筒状の塗料供給口12(ノズル)を備えた密封式の塗料容器11(ボトル)を用いて供給するのが好ましい。塗料供給口12の口径は、溝部8、9、10の幅とほぼ同一又はこれよりやや小さいのが好ましい。ただし、水性塗料の供給方法が、このような塗料容器11を用いるものに限定されるものでないのはもちろんである。
【0026】
なお、このような場合、従来は例えばバケット(バケツ)等の開放式の容器に貯留された水性塗料を、柄杓、スプーン等を用いて塗布具1の塗布部5に供給する(垂らす)のが主流であったが、このようにすると作業者の手や衣服等を汚すおそれがある。これに対して、図5に示すような密封式の塗料容器11(ボトル)を用いれば、塗布部5への水性塗料の供給は容易化・迅速化され、また作業者の手や衣服等を汚すおそれはない。
【0027】
次に、塗布具1の柄部2を把持し、壁用内装素材及び/又は天井用内装素材の表面に塗布部5のモケット7を押し付けて摺動させ、水性塗料を壁用内装素材及び/又は天井用内装素材の表面に塗布する(ステップS3)。なお、水性塗料の塗布量は、例えば15〜25cc/mである。このように、内装素材の表面に、例えばポリエステル繊維やナイロン繊維などのパイル織物であるモケット7で水性塗料を塗布すると、均一で非常に薄い塗膜をムラなく、また塗り筋を生じさせることなく、容易に形成することができる。
【0028】
なお、塗布具1の塗布部5(モケット7)に水性塗料を供給した後、実際に壁用内装素材及び/又は天井用内装素材の表面に塗装を施す前に、塗装を施すべき内装素材以外の任意の平面状の物体、例えば床又は壁の上に配置された紙又はプラスチックの薄板、床の上に配置された浅いトレー等にモケット7を押し付けて摺動させ、水性塗料を塗布部5(モケット7)の全体に分散させ、ないしは全体に引き延ばすのが好ましい。このようにすれば、塗装時に壁用内装素材及び/又は天井用内装素材の表面に、水性塗料が局所的に過剰に塗布されるのを防止することができる。また、例えば、ジプトーン(登録商標)等の天井用内装素材に塗装を施す場合は、多数の微細な穴を水性塗料で閉塞させるなどといった不具合の発生を防止することができる。ただし、この場合、若干の水性塗料を逸失することになるが(捨て塗料)、その損失額は事実上無視しうるものである。
【0029】
ところで、壁用内装素材及び/又は天井用内装素材の表面に塗装を施す場合、互いに色が異なる複数の水性塗料を混合(すなわち調色)して用いることがある。この場合、塗布部5ないしはモケット7に例えば図3に示すような複数の溝部8、9が形成されている塗布具1を用い、複数の塗料容器11に貯留されている互いに色が異なる水性塗料をそれぞれ各溝部8、9に供給し、各水性塗料を壁用内装素材及び/又は天井用内装素材の表面に塗布する際に内装素材上で混合させることにより塗装の色を調整することができる。この場合、塗装に先立って複数の水性塗料を混合ないしは調色する必要がなくなるので、塗装作業を容易かつ迅速に行うことができる。
【0030】
なお、溝部8、9が保持する水性塗料の量はおおむね溝部8、9の長さに比例するので、各溝部8、9の長さを好ましく設定することにより、複数の水性塗料の混合比を調節することができる。例えば、塗料Aと塗料Bとを、それぞれ、長さが1:2の2つの溝部に供給すれば、塗料Aと塗料Bの混合比が1:2の水性塗料が内装素材上に塗布される。
【0031】
また、塗布部5ないしはモケット7に例えば図4に示すような長方形の1つの溝部10が形成されている塗布具1を用い、複数の塗料容器11に貯留されている互いに色が異なる水性塗料をそれぞれ長方形の2つ、3つ又は4つの辺に供給し、各水性塗料を上記壁用内装素材又は天井用内装素材の表面に塗布する際に内装素材上で混合させることにより塗装の色を調整してもよい。この場合、溝部10の長方形の縦辺と横辺の長さの比率を好ましく設定することにより、複数の水性塗料の混合比を調節することができる。
【0032】
この実施形態に係る塗装手法によれば、塗膜が非常に薄いので、塗膜は、印刷のような仕上がり感を呈し、非常に美観に優れたものとなる。このため、塗装時に養生あるいはマスキングを何ら必要とせず、塗装作業を簡素化しかつ迅速化することができる。なお、例えば塗料の塗布に用いられる薄塗りコテ刷毛(例えば、和信鉱業株式会社によって販売されている「アレックスムーサー(登録商標)」等)を、このような壁用内装素材及び/又は天井用内装素材の塗装に用いた場合、形成される塗膜は、本発明の場合の約2倍となり、斑模様が生じたり、にじみが生じたりすることがある。
【0033】
この塗装方法によれば、塗布具1の柄部2を十分に長くすれば(例えば、全長2〜3m)、作業者は、踏み台、脚立あるいは梯子等を用いることなく、床面に立った状態で、天井用内装素材の表面、あるいは内壁の高い部分に容易に塗装を施すことができるので、塗装作業は非常に容易である。
【0034】
そして、水性塗料を壁用内装素材又は天井用内装素材の表面に塗布しているときに、適宜に塗装を中断して、モケット7の表面に適量、例えば4〜8ccの水を供給する(ステップS4)。この水は、モケット7の表面に適当に散布すればよい。このようにモケット7の表面に適宜に水を供給することにより、塗装のむらをなくすことができ、より均一でより薄い塗膜を形成することができる。そして、再び壁用内装素材及び/又は天井用内装素材の表面にモケット7を押し付けて摺動させ、塗装を続行する(ステップS5)。なお、モケット7の水性塗料がなくなったときには、モケット7に水性塗料を供給し、壁用内装素材及び/又は天井用内装素材の塗装が終了するまで塗装作業を続行する。このように形成される水性塗料の塗膜は非常に薄いので、迅速に自然乾燥し、例えば15分で触手可能な状態となる。なお、乾燥時に水性塗料からは水が気化するだけであるので、塗装により環境が汚染されることはない。
【0035】
前記のように壁用内装素材に塗装を施す場合は、事前に壁用内装素材に洗浄処理を施してもよい。このような事前の洗浄処理は、例えば本願出願人らが特許文献1において提案しているように、壁用内装素材の表面に、アルカリ性無機洗浄剤と汚れ分解酵素と第1漂白剤とを含む洗浄処理液を散布した上で物理的洗浄処理を施し、壁用内装素材の表面に水濯ぎ処理を施した上で水溶性溶剤と第2漂白剤とを散布し、さらに壁用内装素材に物理的染み抜き処理を施した上で洗浄することにより行うことができる。なお、天井用内装素材に塗装を施す場合も、一般に用いられている普通の洗浄手法で予め天井用内装素材を洗浄してもよい。
【0036】
本発明に係る前記のとおりの塗装方法によれば、例えば図2及び図3に示すような簡素な構造の塗布具1と、フレックスエマルジョンペイント等の容易に入手することができる水性塗料とを用いて、壁用内装素材及び/又は天井用内装素材の表面に、均一で非常に薄い水性塗料の塗膜を形成することができる。このため、建物の内壁に張り付けられた壁用内装用素材あるいは天井に張り付けられた天井用内装素材の美観が損なわれたときに、簡便かつ迅速な施工手法でもって低コストで、内装素材の本来の視覚的特徴を喪失させることなく、壁用内装素材及び/又は天井用内装素材の美観を有効に高めることができる。
【0037】
本発明に係る塗装方法によれば、内装素材の表面に形成される塗膜が非常に薄いので、天井用内装素材に塗装を施す場合は、塗装に起因する天井用内装素材の吸音効果の低下を有効に防止することができる。また、多年にわたって適当な周期で繰り返し塗装を行う場合、塗り換えが可能な回数を多くすることができる。
【0038】
本発明に係る塗装方法は、例えば普通の家庭やコンビニエンスストアなどの天井用内装素材として広く用いられている石膏ボートやジプトーン(登録商標)などについても、その表面に、支障なく、均一で薄い塗膜を形成することができ、その美観を効果的に高めることができる。
【0039】
さらに、本発明に係る塗装方法によれば、塗装作業時における、塗装を行うべき部位以外の箇所あるいはその周辺への塗料の飛散防止のための養生が不要であるので、塗装作業を、容易にかつ迅速に行うことができ、塗装のコストを低減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
以上のように、本発明に係る内装素材の塗装方法は、建物の内壁に張り付けられた壁用内装素材及び/又は建物の天井に張り付けられた天井用内装素材に塗装を施して、均一で薄い塗膜を形成することができるものであり、とくに内装素材の再生の技術分野において、建物の内壁又は天井の美観を回復させるのに適している。
【符号の説明】
【0041】
1 塗布具、2 塗布具の柄部、3 塗布具のユニバーサルジョイント、4 塗布具の基部、5 塗布具の塗布部、6 下地シート、7 モケット、8 溝部、9 溝部、10溝部、11 塗料容器、12 塗料供給口。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の内壁に張り付けられた壁用内装素材又は建物の天井に張り付けられた天井用内装素材に塗装を施してその美観を回復させるようにした内装素材の塗装方法であって、
棒状の柄部と、該柄部の先端部に連結具を介して連結された平坦な表面部を有する基部と、該基部の表面部に取り付けられ密集して立毛する立毛糸を有するモケットを用いた塗布部とを備えた塗布具を準備するとともに、エマルジョンペイントを含む水性塗料を準備し、
上記塗布具の塗布部の表面に上記水性塗料を供給し、
上記塗布部を建物の壁用内装素材又は天井用内装素材の表面に押し付けて上記塗布具を摺動させ、上記水性塗料を上記壁用内装素材又は天井用内装素材の表面に塗布することを特徴とする内装素材の塗装方法。
【請求項2】
上記壁用内装素材に上記水性塗料を塗布する前に、上記壁用内装素材を洗浄することを特徴とする、請求項1に記載の内装素材の塗装方法。
【請求項3】
上記壁用内装素材又は天井用内装素材に上記水性塗料を塗布しているときに、該塗布を一時的に中断して上記塗布部の表面に水を供給することを特徴とする、請求項1又は2に記載の内装素材の塗装方法。
【請求項4】
上記塗布部として、単一又は複数の溝部が形成されている塗布部を用い、上記溝部に上記水性塗料を供給することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1つに記載の内装素材の塗装方法。
【請求項5】
上記塗布部として、複数の溝部が形成されている塗布部を用い、各溝部に異なる色の水性塗料を供給し、上記各水性塗料を上記壁用内装素材又は天井用内装素材の表面に塗布する際に内装素材上で混合させることにより塗装の色を調整することを特徴とする、請求項4に記載の内装素材の塗装方法。
【請求項6】
上記塗布部として、長方形を成すように伸びる単一の溝部が形成されている塗布部を用い、上記溝部の長方形の少なくとも2つの辺にそれぞれ異なる色の水性塗料を供給し、上記各水性塗料を上記壁用内装素材又は天井用内装素材の表面に塗布する際に内装素材上で混合させることにより塗装の色を調整することを特徴とする、請求項4に記載の内装素材の塗装方法。
【請求項7】
筒状の塗料供給口を備えた密封式の塗料容器を用いて、上記溝部に上記水性塗料を供給することを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1つに記載の内装素材の塗装方法。
【請求項8】
上記塗布部の表面に上記水性塗料を供給した後、上記水性塗料を上記壁用内装素材又は天井用内装素材の表面に塗布する前に、上記塗布部を、塗装を施すべき上記壁用内装素材又は天井用内装素材以外の平面状の物体の表面に押し付けて上記塗布具を摺動させ、上記水性塗料を上記塗布部の全体に分散させ又は引き延ばすことを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1つに記載の内装素材の塗装方法。
【請求項9】
上記エマルジョンペイントとしてフレックスエマルジョンペイントを用いることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1つに記載の内装素材の塗装方法。
【請求項10】
上記フレックスエマルジョンペイントとして合成樹脂エマルジョンペイントを用いることを特徴とする、請求項9に記載の内装素材の塗装方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−200711(P2012−200711A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−70350(P2011−70350)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(504368848)株式会社サンリミックス (2)
【Fターム(参考)】