説明

内視鏡の湾曲部駆動装置

【課題】挿入部の方向を制御するための機能を制限することなく、挿入部の体腔管壁への密着を解除しながら進行させるために、湾曲部を往復揺動させる操作を円滑に行えるようにする。
【解決手段】挿入部2の湾曲部2bは操作ノブ21で湾曲操作されるが、操作ワイヤ11を巻回したプーリ12は超音波モータ14で駆動され、この超音波モータ14の駆動はコントローラ30で制御されるもので、切換器31により方向制御操作モードと挿入アシスト制御モードとに切り換えることができる。挿入アシスト制御モードが選択され、操作ノブ21の操作量を適宜調整して、動作制御スイッチ32を押動すると、湾曲部2bは操作ノブ21の操作量に基づく角度にわたって、最適の速度で往復湾曲動作を行わせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、挿入部の挿入経路が複雑に曲っており、かつ挿入部に大きな抵抗が作用する大腸鏡等として好適に用いられる内視鏡の湾曲部駆動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内視鏡の一種としての大腸鏡は、挿入部が肛門から挿入されるものであるが、この挿入部は直腸からS状結腸を経て下行結腸に至り、さらに横行結腸内まで導かれ、さらにこの横行結腸を通過して上行結腸、より好ましくは盲腸の部位にまでにも進行可能とすることが要求される。挿入経路のうち、S状結腸は三次元的なループを有する複雑な経路を有する構造であり、S状結腸から下行結腸への移行部等は極端な屈曲構造となっている。しかも、腸管壁は挿入部が摺動しながら移動すると、その動きに応じて容易に伸縮するものである。以上のことから、挿入経路に対する挿入部の挿入操作は困難であり、また高い熟練を必要とする。
【0003】
S状結腸を通過させるためには、挿入部を捻ったり、ループをかけたりし、しかも前後に往復移動させる等というように、複雑な操作を行わなければならない。ただし、S状結腸は挿入部の挿入深さの浅い部位であり、操作力を挿入部の先端に及ぼすことはさほど困難ではない。大腸の深い部位を検査の対象とする場合には、S状結腸を通過させたとしても、S状結腸から下行結腸への移行部や、下行結腸から横行結腸への移行部というように、次々到達する屈曲部を通過させなければ、検査目的とする部位にまで到達しないことになる。
【0004】
挿入部の挿入深さが深くなればなるほど、狭窄な部位である肛門や曲がりくねったS状結腸の通過部位等が押し込み操作の操作力の伝達に対する妨げとなって、体外から挿入部への操作力が先端まで正確に及ばないことがあり、また挿入部と腸管壁とが密着してしまい、それ以上前進できなくなることもある。従って、被検者に多大の苦痛を強いることになり、操作性も悪くなる。さらに、挿入部の挿入方向の方向性を見誤る可能性もあり、屈曲部分を円滑に通過するのは著しい困難性が伴う。
【0005】
以上のことから、特許文献1において、挿入部の湾曲部と軟性部との連結部分の内部に振動部材を設けて、この振動部材を作動させて、挿入部の先端近傍部位の側面を叩くようにして振動を与えることによって、挿入部と腸管壁との密着、つまりスティック状態を解除するようにしたものが開示されている。また、特許文献2には、操作態様に応じて挿入部の曲げ方向の硬さを変化させる構成としたものが開示されている。この特許文献2では、軟性部における可撓管の基端部に固定した密巻き状のコイルを軟性部の先端側に向けて延在させ、このコイルの内部にワイヤを挿通させており、ワイヤを引っ張ることでコイルを密着させて、軟性部の一部が硬質化する構成とした内視鏡が開示されている。
【特許文献1】特開2004−209271号公報
【特許文献2】特開2002−355217号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述したように、挿入部の先端近傍側部を加振すれば、この挿入部の腸管壁への密着をある程度までは解消できるにしても、それだけで挿入部の挿入操作性が良好になる訳ではない。例えば、大腸において、S状結腸から下行結腸への移行部,下行結腸から横行結腸への移行部等の極端な屈曲部を通過させる操作に対しては、挿入部の先端側部に多少の振動を与えても、その通過を促進できない。また、挿入部の進行を妨げるのは、挿入部の腸管壁との密着だけが要因ではなく、経路をどう選択するかという問題もあり、挿入部の内部からの叩動による加振だけでは挿入部の腸管内を円滑に進行できないこともある。勿論、挿入部を加振することは挿入操作にとって無意味ではないが、そのために挿入部の先端部分の内部に振動を発生させるための駆動手段を設けるのは、挿入部をいたずらに太径化し、また構成的にも複雑になる等の点でも望ましいものではない。
【0007】
また、特許文献2の構成では、挿入部を体腔管内に挿入した状態で、挿入部の硬度を適宜変化させることができる。ただし、挿入部の軟性部における硬さを制御可能とするだけでは、大腸鏡の挿入経路のような複雑な構造となった経路に挿入する操作を円滑に行うことはできない。体腔管壁として、腸管壁は挿入部を摺動しながら移動させると、その動きに応じて腸管壁は容易に伸縮することになる。従って、挿入部における軟性部を硬質化させて、腸管内に押し込む操作を行うと、この押し込み力は挿入部の先端にまで伝達され、挿入部は進行するが、これと同時に腸管壁が挿入部の外面に密着した状態となり、挿入部の進行と共に腸管壁が前方側に向けて押し込まれることになる。このために、たとえ挿入部を硬質化したとしても、挿入経路が押し込まれた体腔管壁でジャミング状態となって進路の前方部位を閉塞させてしまい、挿入部のそれ以上の進行を妨げることになる。
【0008】
そこで、本発明者等は、挿入部の挿入操作性の向上を図るために、特に腸管壁等のように容易に伸縮し、かつ複雑に屈曲している体腔管内の深い部位での挿入部の挿入操作性を向上させるための研究を行った結果、挿入部の一部を構成し、本体操作部からの遠隔操作により湾曲する湾曲部に着目した。湾曲操作手段を操作すると、湾曲部は上下若しくは上下,左右に湾曲して、先端が首を振るように動作する。ただし、それだけでは挿入部を体腔管内で前進させる方向の力が得られる訳ではない。
【0009】
ところで、挿入部において、湾曲部が設けられている部位より基端側は軟性部となっている。この軟性部の本来の機能は、挿入経路が曲っている場合に、この経路に追従できるようにするためのもので、曲げ方向に可撓性を持たせている。従って、挿入部の外径より十分大きな通路となった体腔管内に押し込むように操作したときに、先端まで押し込み推力が伝達されず、この体腔管内で軟性部が蛇行することになる。しかも、湾曲部の基端部には軟性部が連結して設けられており、この軟性部は曲げ方向に可撓性を有するものである。さらに、軟性部は弾撥性を有しており、湾曲部が湾曲動作を行うと、真っ直ぐになろうとするように反力が働く。さらにまた、軟性部は外力により曲げられた状態から、この外力の作用が解除されると、真っ直ぐな状態になろうとするように弾撥力が作用する。
【0010】
即ち、挿入部の挿入経路に対する戻り方向の動き、つまり逆動を規制した状態で、先端側を湾曲操作による首振り動作を繰り返し行うと、蛇行部分が直線化する結果、先端部分を経路に沿って進行させることになる。例えば大腸鏡においては、肛門やS状結腸のループ部分が挿入部の逆動を規制する部位となり、湾曲部を往復方向に湾曲する操作をし、かつこの操作を繰り返すことにより先端部分を首振り動作させ、蛇行により蓄積された伸び代分が弾撥性により前進する。しかも、この先端部は首振り動作をしながら前進することから、体腔管内を進行する方向に向けての探り機能を発揮することになる。以上のことから、この首振り前進動作を行わせると、挿入部に対する挿入抵抗が大きく、経路が極端に曲っていても、円滑かつ確実に体腔管内を所望の位置まで進行させることができる。
【0011】
ただし、湾曲部を緩慢に動かしたのでは、挿入部と体腔管壁との間の密着性が十分解消されず、挿入部の先端部に十分な前進推力が得られない場合がある。そこで、首振り前進動作を行わせる操作に当って、十分な前進方向の推力を発生させるには、湾曲部を上下方向若しくは左右方向にある程度高速で繰り返し往復動作を行わせる必要がある。
【0012】
挿入部の湾曲部を操作するための湾曲操作手段は、挿入部に連結した本体操作部に装着され、操作ノブやレバー等から構成されて、本体操作部を把持する手の指で回動される回動操作部材を備えている。手指操作となるので、内視鏡を操作する術者の負担を軽減させなければならない。特に、操作の円滑性を確保するには、挿入部のうち、体腔外に位置する部位を安定的に保持する必要がある。通常、術者は挿入部の一部を片手で把持しながら湾曲操作手段の操作を行うが、この通常の湾曲操作を行う際には、湾曲操作手段を一方向に向けて比較的緩やかに回動させるように操作する。これに対して、挿入部を体腔管壁に対する密着性を解消しつつ前進させる操作を行う時には、湾曲操作手段を往復回動する操作をある程度の速度で複数回継続して行う必要がある。このように、通常の湾曲操作時と挿入部の体腔管への密着解除のための操作時とでは、要求される操作性が異なってくるものであり、操作の円滑性という観点から改善の余地がある。
【0013】
本発明は以上の点に鑑みてなされたものであって、挿入部の方向を制御するための機能を制限することなく、挿入部の体腔管壁への密着を解除しながら進行させるために、湾曲部を往復揺動させる操作を円滑に行えるようにすることをその目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前述した目的を達成するために、本発明は、本体操作部に挿入部を連結して設け、この挿入部を前記本体操作部への連結側から順に軟性部,湾曲部及び先端硬質部となし、前記本体操作部には、前記湾曲部の湾曲操作を行うために、回動操作部材を有する湾曲操作手段を設けた内視鏡の湾曲部駆動装置であって、前記湾曲部の先端部または前記先端硬質部に連結した少なくとも一対からなる操作ワイヤを前記挿入部から前記本体操作部内に延在させて、これら操作ワイヤを回転駆動手段により駆動されるプーリに巻回して設け、前記回動操作部材には回動角検出部材を連結して設け、前記回転駆動手段には制御手段が接続されて、この制御手段からの信号に基づいて前記プーリを駆動するものであり、前記制御手段にはモード選択手段が接続されており、このモード選択手段は前記回動操作部材の操作方向と操作量に応じた角度で前記湾曲部を湾曲させて、前記挿入部の先端硬質部の方向を制御する方向制御操作モードと、前記湾曲部を一定速度で往復動作するように湾曲させる挿入アシスト操作モードとに切り換え可能な構成としたことをその特徴とするものである。
【0015】
一般に、内視鏡の挿入部において、湾曲部を設けているのは、先端硬質部の方向を制御するため、即ち方向制御操作機能を発揮させるためである。この方向制御機能を発揮させる操作、即ち方向制御操作は、挿入部を曲った挿入経路に沿って挿入する際に、その先端を所望とする挿入経路に沿って確実に進行させるように、遠隔操作により湾曲部を適宜の方向に湾曲させるものである。また、先端硬質部には内視鏡観察手段が設けられているので、観察視野を変える場合にも、湾曲部を湾曲させる方向制御操作が行われる。本発明では、湾曲部の湾曲操作を、この方向制御操作としてだけでなく、挿入部を体腔管壁に対する密着を解除しながら前進させる機能、即ち挿入アシスト操作機能を発揮させるためにも利用している。この挿入アシスト操作は、挿入部の先端部分をある角度分だけ往復湾曲動作させることによって首振り状態となるように揺動操作するものである。これによって、挿入部の進行に対する抵抗要因や阻害要因となる体腔管壁の挿入部外面へのまとわりつきが解消される。
【0016】
湾曲部を遠隔操作するために、湾曲部の先端部分(または先端硬質部)に固定した操作ワイヤを本体操作部まで延在させて、この本体操作部内に設けたプーリに巻回させる構成とするが、プーリは湾曲操作手段を構成する回動操作部材で直接駆動するのではなく、回転駆動手段で駆動する構成としている。この回転駆動手段は電動モータや超音波モータ等により構成することができる。回動操作部材は方向制御機能を発揮させるためのものであり、回動操作部材を手動操作することによって、術者の意図する方向に湾曲操作がなされる。この操作の制御性を良好にするためには、つまり先端硬質部の方向を微細に制御するためには、回動操作部材の操作量に対する湾曲部の湾曲角の度合いをある程度小さいものとする方が有利である。一方、挿入部の先端を首振り状態にする挿入アシスト操作は、湾曲角なり揺動範囲なりも重要であるが、動作が緩慢であると、挿入部の体腔管壁に対する密着解除を確実に行えない場合がある。プーリをモータ駆動とすることによって、必要な揺動速度が得られる。
【0017】
湾曲部は、2方向、例えば上下方向に湾曲する構成としたものもあるが、好ましくは上下及び左右の4方向に湾曲可能な構成とする。4方向に湾曲可能な構成とした場合には、操作ワイヤは湾曲部の円周方向に位置を違えて、概略90度の角度毎に4箇所設け、これら各操作ワイヤが巻回されるプーリを2個設ける構成とする。また、回動操作部材は各プーリにつき個別的に設けられる。両プーリに方向制御機能と挿入アシスト機能とを発揮するように構成することもできるが、いずれか一方のプーリ、好ましくは上下方向の湾曲操作用のプーリに機能を発揮させるように設定する。従って、他方のプーリである左右方向への湾曲操作用のプーリは湾曲操作手段を構成する回動操作部材で直接回動操作する構成としても良く、またこのプーリもモータ駆動方式とすることができる。
【0018】
前述したプーリの駆動を制御するために制御手段を備えているが、この制御手段にはモード選択手段が接続されている。このモード選択手段により方向制御操作モードと挿入アシスト操作モードとのいずれかが選択される。方向制御操作モードが選択されると、通常の湾曲部の湾曲操作、つまり先端硬質部を意図する方向に向ける操作が可能になる。従って、回動操作部材を手動で操作すると、この回動操作部材の操作速度に応じた速度で、操作角度に応じた角度で湾曲部が湾曲する。これに対して、挿入アシスト操作モードが選択されると、湾曲部が一定の速度で往復動作することになる。その速度は、挿入部の先端部分が体腔管壁に密着しているときに、その密着を解除するのに有効な速度とする。往復動作の作動角については、一定であっても、可変であっても良い。
【0019】
挿入アシスト操作において、湾曲部の揺動範囲、即ち湾曲部の往復動作の作動角を一定とした場合には、動作の開始及び停止の操作は動作制御用のスイッチで行うことになる。望ましくは、スイッチが作動している間のみ挿入アシスト操作モードで作動するように設定する。そして、動作制御スイッチをモード切換手段を構成する切換スイッチとは別個に設けるのが望ましい。また、回動操作部材をいずれか一方向に操作したときだけ、プーリが往復回動するように構成しても良く、両方向に操作したときに、プーリが動作するように設定することもできる。これらモード切換用スイッチ及び動作制御スイッチは本体操作部に設けても良いが、フットスイッチ等、内視鏡以外の部位に設けることも可能である。湾曲部の往復動作の角度は可変とすることもでき、この場合には、往復動作の作動角は回動操作部材の操作量により決定される。しかも、湾曲部の角度を可変とした場合には、回動操作部材が操作されているときにのみ湾曲部が動作するようになし、この回動操作部材を中立位置に復帰させたときに、動作が停止するように制御することができる。そして、操作の安全性及び確実性を期するために、回動操作と動作制御用スイッチの操作との複合操作で、湾曲部が往復回動して首振り揺動する動作を行うようにする。
【発明の効果】
【0020】
挿入部の方向を制御するための機能を制限することなく、挿入部の体腔管壁への密着を解除しながら進行させるために、湾曲部を往復揺動させる操作を円滑に行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態について説明する。まず、図1に内視鏡の概略構成を示し、図2に湾曲部を湾曲操作する機構の概略構成を示す。図中において、1は本体操作部、2は挿入部、3はユニバーサルコードである。挿入部2は、本体操作部1への連結側から大半の長さ分は挿入経路に沿って任意の方向に曲る軟性部2aであって、この軟性部2aの先端には湾曲部2bが連結して設けられ、さらに湾曲部2bの先端には先端硬質部2cが設けられている。先端硬質部2cの先端面には、図示は省略するが、照明部と観察部とからなる内視鏡観察手段が設けられており、また処置具を挿通させ、かつ体内汚物の吸引等の操作を行うための処置具挿通路が開口している。湾曲部2bは、先端硬質部2cを所望の方向に向けるために、湾曲操作が可能な構成としている。湾曲部2bの湾曲方向は上下方向と左右方向の4方向である。なお、湾曲方向は上下方向の2方向に限定することもできる。
【0022】
挿入部2の湾曲部2bの湾曲操作は、本体操作部1からの遠隔操作により行われる。このために、本体操作部1の内部には湾曲部2bを湾曲駆動する湾曲駆動手段10が設けられている。そして、本体操作部1のケーシング1aの外部には、湾曲操作手段20が設けられている。この湾曲操作手段20は、本体操作部1を把持する手の指で操作できるようになっている。
【0023】
図2には湾曲部2bを上下方向に湾曲駆動する機構が示されている。なお、実際にはこれと直交する方向に同様の機構を設けて、湾曲部2bを左右方向にも湾曲できる構成とするが、左右方向の湾曲駆動する機構については図示及び詳細な説明を省略している。なお、以下の説明において、上下方向に湾曲駆動する部材と左右方向に湾曲駆動する部材とを区別する場合には、各部材の符号の後に、前者には「UD」,後者には「LR」の添え字を付けるものとする。
【0024】
挿入部2の湾曲部2bは、節輪4を順次枢着することにより構成されるものであって、前後の節輪4,4が左右、上下と交互に枢着されている。湾曲部2bにおける最先端に位置し、先端硬質部2cに連結される節輪4aには、上下一対の操作ワイヤ11,11が連結して設けられている。これら両操作ワイヤ11,11は、湾曲部2bから軟性部2aを経て、本体操作部1の内部にまで延在され、この本体操作部1内に設けたプーリ12に巻回して設けられている。従って、プーリ12を図2に矢印RU方向に回動させると、湾曲部2bが矢印BU方向に湾曲し、プーリ12を矢印RD方向に回動させると、湾曲部2bが矢印BD方向に湾曲する。操作ワイヤ11は、湾曲部2b内では円周方向に位置決めされた状態で前後動するものであり、軟性部2a内では密巻きコイル13内に挿通されている。
【0025】
プーリ12は回転駆動手段としての超音波モータ14に連結されている。超音波モータ14は、図3に示したように、圧電振動子14aにステータ14bを貼り付けておき、このステータ14b上にスライダ14cを圧接させる構成とした進行波型の超音波モータである。この圧電振動子14aは複数に分極が施されており、これらに交流電圧を印加すると、区域毎に伸縮運動を行い、弾性屈曲波が発生する。その結果、ステータ14bとスライダ14cとの間に発生する摩擦力によりスライダ14cが移動するものであり、電圧の印加順によりスライダ14cが図中の矢印A方向または矢印B方向に移動する。そこで、プーリ12を超音波モータ14のスライダ14cに対して相対回転しないように連結しておく。これによって、一対からなる操作ワイヤ11,11のうちの一方がプーリ12に巻き取られることにより張力が生じ、他方がプーリ12から繰り出されて、湾曲部2bは操作ワイヤ11における張力が作用する側に向けて湾曲する。
【0026】
次に、湾曲操作手段20は、図4に示したように、本体操作部1の外部に上下に配置した操作ノブ21UD,21LRを有し、これら操作ノブ21UD,21LRは、それぞれ外軸22及び内軸23に連結されており、これら外軸22及び内軸23は同軸構成となっている。従って、操作ノブ21UDが操作されると、その操作量に応じて外軸22が回動することになり、また操作ノブ21LRが操作されると、その操作量に応じて内軸23が回動することになる。
【0027】
これら外軸22及び内軸23は本体操作部1のケーシング1aの内部に設けた回動角検出部24内に延在されている。角度検出部24内には、回動角検出部材として、エンコーダ板25UD,25LRが上下に配置されており、このエンコーダ板25UD,25LRの角度は光学センサ26UD,26LRにより検出される構成としている。また、外軸22及び内軸23には中立位置に復帰するために、図5に示した付勢手段27,27が設けられている。付勢手段27は、相互に反対方向に巻回させたうずまきばね27a,27bから構成され、これら両うずまきばね27a,27bは相互に反対方向に巻回させたものである。
【0028】
従って、湾曲操作手段20を構成する操作ノブ21を操作しないときには、両うずまきばね27a,27bの付勢力がバランスした角度位置に保持され、これが中立位置、つまり湾曲部2bが真っ直ぐな状態となる位置である。この中立位置から操作ノブ21をいずれかの方向に回動させると、一方のうずまきばね27aまたは27bが巻き込まれて、この巻き込み量に応じて付勢力が蓄積されるので、操作ノブ21の操作反力が発生する。このときには他方のうずまきばねは巻き戻されるから、付勢力は蓄積されない。従って、操作ノブ21に対する操作力を解除すると、両うずまきばね27a,27bの付勢力が相殺される状態に復帰する。この状態では、湾曲部2bが真っ直ぐになるように設定されている。
【0029】
湾曲操作手段20を操作すると、湾曲駆動手段10が作動して、プーリ12が回動して、一対の操作ワイヤ11,11の巻き取り及び巻き戻しが行われて、巻き取られた側の操作ワイヤ11による牽引で湾曲部2bが湾曲する。この動作制御の構成を図6に示す。同図において、30は制御手段としてのコントローラであって、このコントローラ30には、回転角検出部24におけるエンコーダ25UD,25LRの回動角度を検出する光学センサ26UD,26LRからの信号が取り込まれるようになっており、これらの信号に基づいて超音波モータ14UD,14LRを作動させて、プーリ12UD,LRを回動させるようにしている。ここで、プーリ12UD,LRの駆動による湾曲部2bの駆動は、上下または左右方向であって、その往復ストロークは適宜設定される。また、必要に応じて、中立位置、つまり湾曲部2bが真っ直ぐになった状態からこれら上若しくは下,左若しくは右のいずれか一方に湾曲するように設定しても良い。
【0030】
コントローラ30には、モード切換手段としての切換器31が接続されており、この切換器31は切換スイッチから構成され、湾曲部2bを上下方向に湾曲させる際に、先端硬質部2cを所望の方向に向ける方向制御操作モードと、湾曲部2bを上下に揺動させることによって、挿入部2を挿入経路に沿って前進させる挿入アシスト制御モードとに切り換えるためのものである。
【0031】
ここで、方向制御操作モードでは、操作ノブ21UDの回動方向において、回動角度に応じた角度分だけプーリ12UDを回動させるように超音波モータ14UDを作動させることになる。しかも、操作ノブ21UDの操作速度に応じた速度でプーリ12UDを回動させることから、操作速度をコントロールすることによって、操作ノブ21UDの操作に正確に対応するように湾曲部2bを湾曲させることができる。
【0032】
一方、切換器31を操作することにより挿入アシスト制御モードが選択されていると、操作ノブ21UDを回動操作したときに、湾曲部2bをその操作角度に応じた角度で往復湾曲動作させるが、このときの動作速度は一定とする。ただし、挿入アシスト制御モードで湾曲部2bを作動させる際には、操作ノブ21UDを回動操作しただけで、直ちに作動するのではなく、安全確保のために、動作制御スイッチ32が設けられており、この動作制御スイッチ32がON状態となったときに、しかもON状態となっている間だけ、湾曲部2bが作動するようにしている。また、コントローラ30は操作ノブ21LRの操作時にも湾曲駆動手段10の動作制御が行われるが、この操作ノブ21LRの場合には、方向制御操作モードでしか作動せず、挿入アシスト制御モードでは作動しない。
【0033】
以上の構成を有する内視鏡は、挿入部2が大腸内に挿入されて、所謂大腸鏡として好適に用いられるものである。即ち、図7に示したように、挿入部2は、肛門40から挿入されて、直腸41からS状結腸42を経て下行結腸43に至り、さらに横行結腸44内まで導かれ、さらにこの横行結腸44を通過して上行結腸45、より好ましくは盲腸46の位置近傍まで進行可能としている。
【0034】
S状結腸42は三次元的なループ構造となっており、挿入操作には困難が伴うが、挿入位置が浅いために、挿入部2にループをかけたり、前後に往復移動させたりする等の操作は必要ではあるものの、挿入部2の先端を制御することは可能である。挿入部2を挿入経路に沿って前進させることができる。挿入部2の先端硬質部2cがS状結腸42を通過すると、下行結腸43に進入し、次いで横行結腸44に向かうことになる。
【0035】
今、図8において、下行結腸43内にまで挿入部2が進行しており、この下行結腸43から横行結腸44に進行させる操作について説明する。挿入部2は肛門40という狭窄部を通過しており、かつS状結腸42内では複雑に曲っていることから、挿入部2の基端側の部位を押し込むように操作しても、挿入経路の深い部位にまで至った先端部にまで十分に押し込み力が伝達されない状態となる。このときに、挿入部2に押し込み力を作用させたときに、それと同時に腸管壁が矢印Tで示した方向に押動される。挿入部2の軟性部2aは曲げ方向に可撓性を有しているから、挿入部2の押し込みに対して大きな抵抗が生じて、挿入部2が腸管壁に密着した状態で蛇行してしまうことがある。その結果、押し込まれた長さ分が途中で吸収されて、先端部分の挿入がロックし、それ以上進行しなくなる。これによって、可撓性を有する軟性部2aにおける蛇行分の長さが下行結腸43の内部に蓄積される。
【0036】
このような状況になると、内視鏡の吸引機構を利用して、腸管内の空気を吸引して排出することにより虚脱状態となし、これにより挿入部2のS状結腸42の部位等を腸管壁と密着させ、もって挿入方向とは逆方向への動き、つまり逆動を規制する。そして、挿入部2をさらに前進させるには、大腸のFNP(Fine Network Pattern:網目像)を指標として、このFNPの垂直方向に挿入部2の先端近傍に位置する湾曲部2bを繰り返し往復動作させ、挿入部2の先端部分を図8に矢印Sで示したように、首振り動作を行わせる。また、湾曲部2bを湾曲(首振り)動作させることによって、軟性部2aは真っ直ぐな状態になろうとする。挿入部2は逆動が規制されているので、ループ部が直線化しようとする。その結果、先端硬質部2cのロック状態が解除されると共に、湾曲部2bから軟性部2aの先端近傍部位が腸管壁から離間することになり、弾撥力の作用で先端硬質部2cが矢印F方向に前進する。
【0037】
このときには、軟性部2aの蛇行により蓄積された伸び代分が真っ直ぐな状態となることにより進行するのであるから、術者は挿入部2の基端側の部位を把持するが、それを押し込む方向に操作する必要はない。従って、挿入部2の押し込みとそれに続く湾曲部2bの首振り動作とを繰り返すことによって、大腸の深部にまで進行した挿入部2がさらに円滑かつ確実に前進する。しかも、首振り動作によって、挿入すべき経路に向けて探りを入れながら前進することから、下行結腸43から横行結腸44bへの移行部や、横行結腸44から上行結腸45への移行部である屈曲部分を円滑に通過していくことになる。
【0038】
以上のように、挿入部2の先端を首振りさせながら前進させる操作は、操作ノブ21UDまたは21LRを往復回動させることによっても行うことができるが、本体操作部1を把持する手の指で行うことから、操作に困難性が伴うことになる。しかも、往復回動の速度があまり緩慢であると、前述したロック解除を行うことができない。そこで、切換器31により、挿入アシスト制御モードを選択したうえで、動作制御スイッチ32を押動操作した状態で操作ノブ21UDを操作することによって、コントローラ30により湾曲部2bに最適の速度で往復動作させることができる。しかも、操作ノブ21UDの操作量を適宜調整することにより湾曲部2bの湾曲動作角を適正に設定できるようになる。
【0039】
従って、挿入部2を押し込んでいるときに、押し込まれた挿入部2の先端近傍の部位が腸管壁に密着して蛇行して、それ以上の進行しない挿入ロック状態になったとしても、湾曲部2bの往復湾曲動作による挿入部2の先端部分が首振り動作を行うことにより挿入部2の蛇行分が弾撥して前方に伸びるようにして進行する。しかも、湾曲部2bの往復湾曲角度は操作ノブ21UDの操作量に応じて調整可能となっているので、挿入部2の先端が位置している部位の形状や空間状態等に応じて適正に設定することができる。
【0040】
さらに、動作制御スイッチ32をONしている間だけ挿入アシスト制御モードで動作するので、挿入ロック状態が解除されたとき等、湾曲部2bを往復湾曲動作させる必要がなくなり、若しくは湾曲部2bを往復動作させるのが好ましくない状況となったときには、動作制御スイッチ32をOFFの状態とするだけで、確実に湾曲部2bの動きが停止することになるので、操作性が著しく向上し、かつ安全性も高くなる。
【0041】
また、切換器31を方向制御操作モードに切り換えると、通常の湾曲操作としての機能を発揮することになり、従って観察視野を変える等のために、先端硬質部2cの方向を制御する操作を行う際には、操作ノブ21UD,21LRを適宜操作することによって、操作量に応じて、しかも操作速度に応じて湾曲部2bが湾曲することになる。ここで、方向制御操作モードとして機能させる場合には、速度よりむしろ位置制御が重要となる。操作ノブ21UDをいずれかの方向に回動させると、付勢手段27を構成する一方のうずまきばね27aまたは27bが巻き込まれることになり、巻き込み量に応じて付勢力が蓄積される。この付勢手段27が操作ノブ21URに対する操作反力となる。この付勢手段27の付勢力によって、操作ノブ21UDの動きがある程度制限されることから、方向制御操作を微小に、高精度に行うことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】一般的な内視鏡の全体構成図である。
【図2】内視鏡の湾曲操作を行う機構の構成を示す構成説明図である。
【図3】プーリを駆動するための超音波モータの原理図である。
【図4】本発明の実施の一形態を示す湾曲操作手段の断面図である。
【図5】操作ノブを中立位置に復帰させるための付勢手段の構成説明図である。
【図6】湾曲駆動機構の構成説明図である。
【図7】本発明の内視鏡を大腸内に挿入している状態を示す構成説明図である。
【図8】内視鏡の首振り前進操作時の作用説明図である。
【符号の説明】
【0043】
1 本体操作部 2 挿入部
2a 軟性部 2b 湾曲部
2c 先端硬質部 10 湾曲駆動手段
11 操作ワイヤ 12,12UD,12LR プーリ
14,14UD,14LR 超音波モータ
20 湾曲操作手段 21UD,21LR 操作ノブ
22 外軸 23 内軸
24 回動角検出部 25UD,25LR エンコーダ板
26UD,26LR 光学センサ 27a,27b うずまきばね
30 コントローラ 31 切換器
32 フットスイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体操作部に挿入部を連結して設け、この挿入部を前記本体操作部への連結側から順に軟性部,湾曲部及び先端硬質部となし、前記本体操作部には、前記湾曲部の湾曲操作を行うために、回動操作部材を有する湾曲操作手段を設けた内視鏡の湾曲部駆動装置において、
前記湾曲部の先端部または前記先端硬質部に連結した少なくとも一対からなる操作ワイヤを前記挿入部から前記本体操作部内に延在させて、これら操作ワイヤを回転駆動手段により駆動されるプーリに巻回して設け、
前記回動操作部材には回動角検出部材を連結して設け、
前記回転駆動手段には制御手段が接続されて、この制御手段からの信号に基づいて前記プーリを駆動するものであり、
前記制御手段にはモード選択手段が接続されており、このモード選択手段は前記回動操作部材の操作方向と操作量に応じた角度で前記湾曲部を湾曲させて、前記挿入部の先端硬質部の方向を制御する方向制御操作モードと、前記湾曲部を一定速度で往復動作するように湾曲させる挿入アシスト操作モードとに切り換え可能な
構成としたことを特徴とする内視鏡の湾曲部駆動装置。
【請求項2】
前記湾曲部を上下方向と左右方向との4方向に湾曲させるために、前記操作ワイヤを前記湾曲部の円周方向に位置を違えて4箇所設け、これら各操作ワイヤが巻回されるプーリを2個設け、かつ前記回動操作部材は、前記各プーリにつき個別的に設けられ、前記湾曲部を上下方向に湾曲操作するための一方の対の操作ワイヤと、左右方向に湾曲操作するための他方の対の操作ワイヤとを別個のプーリに巻回させ、前記モード選択手段により前記挿入アシスト操作モードが選択されたときには、前記湾曲部を上下方向に湾曲させるプーリを往復回動させる構成としたことを特徴とする請求項1記載の内視鏡の湾曲部駆動装置。
【請求項3】
前記制御手段にはスイッチが接続され、前記モード選択手段で前記挿入アシスト操作モードが選択されたときには、前記スイッチを押動している間だけ前記プーリを予め設定した角度分の往復回動を行って前記湾曲部を往復動作させる構成としたことを特徴とする請求項1または請求項2記載の内視鏡の湾曲部駆動装置。
【請求項4】
前記モード選択手段により前記挿入アシスト操作モードが選択されたときには、前記湾曲部は、前記回動操作部材の操作角度に応じた角度分だけ往復動作を行うように構成したことを特徴とする請求項1または請求項2記載の内視鏡の湾曲部駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−226125(P2009−226125A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−78027(P2008−78027)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(505378666)
【出願人】(000005430)フジノン株式会社 (2,231)
【Fターム(参考)】